もしもの世界を生きる彼女と   作:マーマレードタルト

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戦う前に始めること

マトイと自分の名前を呼ぶ声を聞いた。

 

同時にこれは夢なんだな、とふわふわした頭で理解する。

でなければ、もう居ないはずの人が私の名を呼ぶことは無いはずなのだから。

俯いた視界にあの人が歩み寄ってくるのが映る。

 

こんな夢を見る私は後悔しているのだろう。あの時救いを求めてしまった事を。寂しいと泣いた事を。

 

あぁ、ならばきっとこの夢は私を罰する夢なのだろう。

だから私は謝る事しか出来ない。ごめんなさい、と。

 

あの人の顔を真っ直ぐ見る事が出来ない。見る事が怖い。一番大切で大好きな人に嫌われるのがこの上なく怖い。

 

伸ばされた手を振り払い私は走る。

 

どこへ続くでもない薄暗い闇の中を。この道は途切れない。逃げ続ける限り。

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

薄っすらと目を開ける。

ボヤけた視界に見慣れた天井が映る。何て事のないいつも通りのマイルームだ。

 

「ふぁ〜」

 

起き上がって軽く伸びをする。すると目からホロリと涙が溢れた。

 

「…??」

 

私、どんな夢を見てたんだっけ?そんな疑問が浮かぶ。

 

首を傾げているとメールが届いた。端末を操作してみると、差出人はシャオ。

 

「いつもなら通信だけど…朝だから気を使ってくれたのかな?」

 

開いて見れば武器と服の事で報告があるから後で来てくれとの事。

 

ベットから抜け出したマトイが向かうのは洗面所。

クラリスクレイスとして戦いに明け暮れてた時は最低限の身なりさえ整えておけば支障は無かった。でも今は1人の女の子として化粧をしたり髪を綺麗に整えたりしてるのだ。

最初こそ慣れなかったけど、フィリアやイオ、他にも色々な人に教えて貰ったおかけで何とか1人で出来るようになっていた。

 

そんな訳で手早く身なりを整えたマトイはクローゼットを覗く。

 

基本的にはいつでも出撃出来るように戦闘用の服がメインだ。

だがハルコタンで活動している時の戦闘用の服は予備含めてどこかしら痛んだりで使い物にならなくなってしまった。

連戦で補修が追いつかなくなってしまったのだ。

ならばいっその事新しいのを支給するよという話しだ。

そんな訳で現在服装は自由なのだ。

 

「ふんふ〜ん〜」

 

いつか着ようと思って買っていた服の中から、いいなと思ったものをベットに並べてみる。

 

「うーん…武器と服の件って言ってたよね……もしかしたら武器持つかもしれないし、動きやすい方がいいのかな……うん、これにしよう」

 

その中から気にいった物を身に纏う。それから必要な道具をナノトランサーに収納し準備完了。

 

「それじゃ行ってきます」

 

マイルームをロックされているのを確認して、シャオがいるであろう広場へ向かった。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

「おはよう、マトイ」

「久方ぶりじゃの」

「シャオにジグさん、おはよう」

 

広場に向かったマトイを待っていたのはシャオと男性型キャストのジグだ。

 

「来てもらって早々で申し訳ないんだけど、新しい武器の原型が出来上がったってことでテストに付き合って欲しいんだ」

「うん、大丈夫だよ。私頑張っちゃうよ」

 

グッと気合を入れるポーズでアピールをするマトイ。

 

「あはは…そんなに気合い入れなくても大丈夫だよ?」

「まだ完成しておらんからな、あまり力を入れすぎるとお釈迦になってしまうかもしれんのじゃ」

「あ、そうなんだ…」

 

普通であれば専用の武器なんて作られないのだが、マトイの持つフォトンが強すぎるため普通の武器では五分と持たない。

そんな理由もあって白杖クラリッサという彼女の為に作られた武器があったのだが、それも先の騒動で失われている。

 

「白錫クラリッサ程では無いがかなり良いものになったと自負しておる」

 

ジグから手渡された杖を受け取ると同時にマトイは驚いた。

持った感じ、フォトンの伝わる感じ…手によく馴染んだ。それはかつて扱っていた白錫クラリッサを思い出させた。

 

「わぁ……ジグさん!これ凄くいい!」

「白杖クラリッサは修理したこともあってデータがあったのが幸いじゃった」

「それじゃマトイ、カリンに言って練習用のVRを用意してもらってあるからそっちにお願い。僕達はカリンのところでステータスをチェックするから」

「はーい」

 

武器のテストと言っても久しぶりの戦闘。その姿はやる気に満ちていた。

 

マトイが去った後、シャオがジグに話しかけた。

 

「アレは白錫クラリッサと比べてどうなの?」

「持てる全てを注ぎ込んだ。恐らくは彼女の全力にも耐えられる……はずじゃ」

「はずって……いやそうだね。彼女は、いやアークスは皆思いの強さで容易に限界を超えていく」

 

 

まったく頼もしいもんだよ、とシャオは朗らかに笑うのであった。


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