惑星ナベリウス。
緑生い茂る森林エリアや眩しいほど銀世界の凍土などの豊かな自然と多種多様な原生成物が暮らす星。
マトイにとって全ての始まりの地であり、同時に全てが終わった地でもある。
そんな広大なナベリウスの森林エリアにある、大樹もとにマトイはやってきていた。
「ここに来たらあなたに会えるかも…って思ったけどそんなわけないよね、あはは…」
ここは約束の場所。かつてクラリスクレイスとして戦っていた時、そしてマトイとして歩き始めた時。ここでまた会おうと約束した、そんな小さな小さな約束の地。
もちろん待ち人はここには居ない。いや、この世界どこを探しても見つからないだろう。
当たり前だ。他の誰でもないマトイの目の前でその生を終えたのだから。
「はぁー、辛いなぁ。私、あなたに会いたいよ」
誰も居ない静かな場所でマトイはポツリポツリと誰にも言わなかった心の内を吐き出す。
「あなたが居なくなってから、みんな凄いやる気出してね」
誰にも言えなかった、ではなく言わなかった本音。心配させまいと気丈に振舞ってきた。
「あ、みんなと仲良くしてるよ?たまに一緒に出撃したりもするもん。もう一人ぼっちじゃないよ」
「リサちゃんとか凄いよ?でもどうせならリサの手で逝ってほしかったって言った時はびっくりしたなぁ〜」
「イオちゃんはね、クールに振舞ってたけど人の居ないところで大泣きしてたよ」
「カトリさんとサガさんは静かに黙祷を捧げてたよ」
「アフィン君は凄く寂しそうに笑ってた。ユクリータさんは興味無さげにしてたけど目が潤んでた」
「みんなあなたの事を惜しんでた。でもただの1人も私を責めないの“お前のせいであいつは死んだんだ”って」
「優しいよね。その優しさが私にとっては苦しいよ…」
こうして吐き出さないと、潰れてしまいそうだった。誰もマトイを責めない。むしろマトイは悪くないと言ってくれる。それがマトイにとっては毒のようであった。
責めてくれた方が遥かに楽だった。 これではまるであの人を犠牲にした無力な私は一切悪くないみたいで
心底自分に吐き気をおぼえる。
それは口に出せない。約束だから。
大事な人との大事な約束。
マトイは自分で自分を無価値してはいけないのだ。
だから戦い続ける。ダーカー倒してみんなを護るチカラと自らを定義し続ける。
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一通り吐き出し心なし楽になったマトイはあの日と変わらぬ青空を眺めていた。
そんな時、何かが近づいてくる音を聞いた。それは確実にこちらへむかっている。近くを通っているというわけでは無さそうだ。
ここは原生生物もほとんど来ない隠れた場所とはいえ、たまに紛れ込んでくることもある。その類いかと思いクラリッサを手に取り音の方へ向ける。
だが音が近づくにつれ、それが人の足音だと理解すると同時に警戒度を上げる。しかし、その足音にはいやに聞き覚えがあった。顔しかめつつ気を張っていると、現れたのは…
『今の私に敵意はない。いや元々君に敵意など持っていないが…』
「【仮面】…」
黒のコートを身に纏い、仮面を被ったダークファルス【仮面】その人であった。
タイトルの意訳は『会いたくて会いたくない人』です。