もしもの世界を生きる彼女と   作:マーマレードタルト

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私ではない私の話し

アークスにとってダーカーは絶対的なる敵。あらゆる生命を侵し宇宙を滅ぼす存在だ。

だが、それらは眷属に過ぎない。ダーカーたちを総括する真の敵、それがダークファルス。

アークスが現在までに確認したダークファルスは【巨躯】【若人】【敗者】【双子】【仮面】の五体。様々な激戦を経て、今では【仮面】を除くダークファルスはすでに消滅あるいは封印されている。

それでも消滅した【巨躯】【敗者】【双子】の眷属は健在であるし、封印した【若人】も地中深くから抜け出そうと大きな抵抗をし、その度にアークスによる再封印作戦が行われるなど一筋縄に終わってくれない。

 

そんな圧倒的な力を持ちアークスの敵であるダークファルスだが唯一【仮面】だけは他のダークファルスとは大きく事情が異なっている。それゆえにシャオは積極的に捜索したり討伐を言い出すことはしなかった。加えてマトイが闇から救い出されたあの日を境にアークスに姿を見せなくなったこともあり、誰一人として【仮面】の行方を知る者は居なかった。今日この時までは。

 

『それが新しいクラリッサか』

「この子は明錫クラリッサ、シャオと協力してジグさんが作ってくれたんだ」

『やはりジグか…衰えないな、あの老人は』

 

その呟きに様々な意思が篭っていることにマトイは気付く。

きっと【仮面】になる前のまだ普通のアークスとして過ごしてきた日々。その中にはジグとの交流もあったのだろう。

その穏やかな様子を見て、クラリッサを構えている自分が酷く場違いな気がして急に気恥ずかしくなってくる。

クラリッサを待機状態に戻し【仮面】と向き合う。

 

「貴方に聞きたい事がたくさんあるの」

『フッ、そうだろうな。今日、私はその問いに答えるためにやってきた』

 

そう懐かしいものを見るように男のような女のような、老人のような若者のようなノイズ混じりの声で答えた。

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

『何が聞きたい?』

 

【仮面】はマトイから少し離れた壁に腕を組んで背を預けていた。

 

「あなたは本当に“あの人”なの?」

『ほぼ間違いない。正確には別時間軸の同一人物だが』

 

訝しむマトイに対し、つまりと一呼吸置き続ける。

 

『“あの時”身代わりになることを選ばずに君を殺すと言う選択肢を取り、その後悔によりダークファルスに成り果てたのが私だ』

「後悔でダークファルスに……?」

『深遠なる闇の成り立ちを聞いた事はないか?アレは人の負の感情を受けてフォトンが変異したもの。それと同じで私は君を失った後悔と絶望によりダークファルスになったのだ』

 

そう自嘲気味に【仮面】は話した。

マトイは驚く。今自分の立場は【仮面】とほぼ同じと言っていい。だが、それでも自分の纏うフォトンは変わらず煌めいている。どれほどの絶望を抱けばこうも変わるのか…

同時にいかに自分が大切に思われていたのかを思い知る。

 

「それをあの人は知ってたんだよね?」

『無論。打ち明けて私の知る未来を語った上で救うには殺すしかないと誘いをかけたが、絶対に君を救うと一蹴されてしまった』

「ふふっ、なんだかとっても“らしい”な」

 

様子が容易に想像できてしまうマトイであった。語りはしないけど、恐らくは己の意思を通す為に戦ったんだろう。マトイを救う、ただその為に。

 

「あの人がああするって貴方は知ってたの?」

『いや、聞いていない。だが策があるとは言った事からそうするつもりではあったのだろう』

 

深遠なる闇を身に宿したまま死ぬ事で封じる。マトイがやろうとした事と同じだが、違うのはマトイが殺してもらうのを待っていたのに対して、マトイから闇を奪い即座に自害した事。

マトイを救う事は諦めなかったが、マトイとも共にある未来を諦めたのが今だ。

 

そう言えばと【仮面】が何かを思い出す。

 

『これを渡しておく。君が持つのがいいだろう』

 

そう言い懐から取り出したキラリと輝く物をマトイに渡す。何かの破片のようだがマトイはそれに見覚えがあった。

 

「もしかしてこれ……白錫クラリッサのコアの破片…?」

『その通り。今となっては何の力も持たないただの破片だが…』

「ううん、ありがとう。大切にする」

 

破片をギュッと胸に抱く。今はもう物言わぬ冷たい亡骸。しかし確かにあった意思を感じる。

 

「ねぇ、貴方はこの先どうするの?」

『分からない。だが君が笑えと言われたように、私も君を守ると約束したのだ。癪だが約束は守るつもりだ』

「よかったら…」

 

一緒に来てくれないかな、と続けようとしたところでピピッとシャオから通信が入る。チラリと【仮面】を見るが特に何も言ってこない。応答してもいいみたいだ。

 

「あ、ようやく出たねマトイ。どこにいるんだい?」

「えっと…今はナベリウスに居るよ」

「申し訳ないんだけどピクニックはお終いだ。至急ハルコタンに向かって欲しいんだ。要件は道中で話すよ」

 

そう言って通信が切れる。何かは分からないがシャオが至急と言うくらいだ。急いだ方がいいとマトイは判断した。【仮面】の方を見ると腕を組んだまま軽く頷きかけてくる。

 

『私の事は気にしないでいい』

「また会えるかな?」

『私はダークファルスだ。あまり私と居ると要らぬ手間が増える事になる。では達者でな』

 

そう言い残し【仮面】は何処かへ去っていった。それを見送ったマトイは一抹の寂しさを覚えつつもキャンプシップへ戻るのであった。

 

 

 

 

 

 




このルートへ行く為には
・【双子】戦後に気を失わずに自力でクラリッサを回収し帰還する。
・誰にも頼らない。
・『マトイと共にある未来を諦める』の三つが必要です。

マトイは救えてますが、幸せかと言われたらうーんと首をかしげるのでバッドエンドに近いノーマルかなーと言うイメージ。
さて、次回からは貴方の居ない世界で何かが起こります。もう居ない貴方に頼れません。

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