Fragmental Memoir ~魔法剣士と神官戦士~   作:藤城陸月

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 本当にお久しぶりです。
 リアルが忙しくてメインの方も全然書けませんでした。
 リハビリがてらですが、お楽しみください。

 今回は戦闘回です。
 リベクスが単独行動ですので、色々と暴走気味です。

 独自解釈がある事と、若干の訂正があります。ご注意ください。


 それではどうぞ──────



 四話 閉じた世界からでも、明日を見たい

 ~十七日目~

 

 

 酒場。

 

 RPGなどの多くのファンタジー世界において、情報収集の起点となる場所。

 其れは『この世界』の元になった〈エルダー・テイル〉でも同じで、〈大地人(NPC)〉から話を聞くことが出来た。

 そして今、『この世界』での酒場とは────。

 

 ────高圧的な一部の〈冒険者〉と怯える〈大地人〉。

 

 『この世界』に我々〈冒険者〉が現れてから、この光景は変わっていない。

 

 

 酒場を経営しているのは〈大地人〉であることは変わらない。

 我々〈冒険者〉も、『この世界』に直接的に干渉出来るようになったという違いはあるが、本質は変わっていない。

 

 変わったのは、〈大地人〉の思考が偽物(NPC)から本物(人間)になったことである。

 

 

 

 ──────非情になれ。

 ──────今から入る酒場は戦場である。

 ──────目の前にある酒場の扉は地獄への門であると思え。

 

 

 ───この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ───

 

 

 

「───〈クローズバースト〉」

 

 入った酒場の入り口で、〈特技〉の一つを唱える。

 僕の足元に、この呪文の特徴である、複雑な文様の刻まれた白い魔法陣が現れたことを確認する。

 当然ながら非常識な行為であり、酒場の中に居た店員(大地人)(冒険者)から視線が集まる。

 その事に対する反応ははっきりと分かれる。

 おびえる人と興味を失う人、そして────。

 

 ────ガタッと椅子が乱暴に倒される音が響く。

 そのまま立ち上がったその男は「───おいッ!昨日はよくも……っ!!」と僕に対して怒鳴り建てる。

 

 無視して、カウンター席に座る。

 

「───シカトしてんじゃねぇッ!!」

 

 ロングコートについているフードを乱暴に引っ張られ、体制を崩したところを殴り飛ばされる。

 HPが僅かに減少していることを確認する。

 

 ────騒然とする店内。

 

 怯え、慌てる店員。自分には関係ない、と興味を持たない大部分の客。

 そして、その男と同じテーブルに座っていた二人───盗賊風の身軽な装備をした男と回復呪文用の錫杖と大型の盾を持った男───が駆け寄ってくる。

 

「───昨日のことを忘れたとは言わせねぇぞ!!」

 

 その一言で、二人も事情を察したらしい。

 その二人とは若干の距離があり、こちらを警戒するような素振りをする。

 

「さて、何かあったかな?僕は、君に見覚えは無いよ」

 

 惚ける。わざとらしく。

 

「神殿送りにしといて何言ってんだテメェ!!」

 

 蹴られ踏まれる。微減するHP。

 

「ああ、君たちか。相変わらずだねぇ。

 別にいいじゃないか。〈大地人〉ならともかく、〈冒険者〉を殺したところで生き返るんだから。

 それに、君たちも沢山殺したじゃないか。因果応報だとは思わないのかな?」

「うっせぇんだよ!!」

「やれやれ、この程度なら別に痛くは無いんだが……癪に障るなぁ。

 ところで──この店は〈特技〉の使用が可能で、〈冒険者〉にダメージを与えても〈衛兵〉は来ないらしいぞ」

「あぁ!?だから何だ────」

 

「〈デスクラウド〉」

 

 暗い紫の毒霧が発生する。

 広い範囲に毒の霧を発生させる〈特技〉である〈デスクラウド〉。

 この霧は味方以外にダメージを与えるので、不特定多数の人がいる場所では無関係の人を巻き込む危険がある。

 しかし、予め使っておいた〈クローズバースト〉がその欠点を解決する。

 この〈特技〉は、技の効果範囲を縮める代わりに威力を増大させる、というON・OFFが可能なトグル型の特技である。

 

「なっ何だ────」

「ある意味、因果応報だね」

 

 発生した毒霧は、継続的にダメージを与え、使用者よりも著しくレベルの低い相手を即死させる。

 また、使用者以外の視界を遮り、命中率を大幅に下げる。

 

 先ほど使用した〈クローズバースト〉に加えて、この〈特技〉の熟練度が奧伝に達していることも有り、非常に濃い毒霧はその男のHPを目に見えて削っていく。

 その事に驚き、慌て──霧の外に出ようとする男。

 

「───〈インフェルノストライク〉」

 

 姿を変えて隠し持っていた漆黒の魔杖をルーンの刻まれた白銀の大剣に変化。武器に火炎を纏わせる〈特技〉である〈インフェルノストライク〉によって、大剣に業火を纏わせて────。

 

 ────男の首が飛ぶ。

 

 

 

 幸か不幸か、暗紫の濃霧の中の行われた事。

 切断面が完全に炭化している為、出血がない事。

 そして、────被害者が〈冒険者〉である事。

 

 全て、計算通りである。

 

 

 更に、個人経営の店舗では暴力行為によって〈衛兵〉が来ない事を確認できた。

 正確には、〈大地人〉が経営する店舗では〈特技〉及び〈武器〉の使用が自由に出来る、という事も。

 

 個人が購入した〈ゾーン〉は、購入者が様々な制限を掛ける事が出来る。

 例えば、〈特技〉と〈武器〉を使用できるか否か。それ以外にも、立ち入りの制限なども設定できる。

 

 ここで、今回の場合。

 この店舗の経営者は〈大地人〉である。

 彼らの立場なら、〈冒険者〉からの被害を少しでも減らすために、〈特技〉や〈武器〉の使用制限を掛けるだろう。

 それ以前に、〈冒険者〉の立ち入りを禁止すればいいと思った。

 しかし、立ち入りの制限をするには〈フレンドリスト〉に登録している必要があり、〈大地人〉が〈冒険者〉を登録できるかは不明である。

 また、指定された人物の立ち入りの禁止ではなく、指定された人物のみ立ち入りを許可する、という方法もあるが、こちらも〈大地人〉に出来るかは不明。

 

 

 結論として、〈大地人〉はゾーンを購入しても設定が出来ないのではないか、という推測が出来る。

 

 今回の行為はその検証を兼ねた物であり、先の推測は概ね正しいと言えるだろう。

 

 

 泣き別れた頭部と胴体が無数の光泡と幾筋の虹霓に分解する。

 ───死亡した〈冒険者〉は神殿で蘇る。

 蘇生の前段階として、肉体は粒子化。〈冒険者〉の痕跡はドロップした数十枚の金貨を数個のアイテムのみである。

 

 粒子の一部が杖に吸い込まれる。

 吸い込まれた泡と虹は僕自身に回収され、HPとMPを回復。同時に、経験値を得る。

 本来は───少なくとも『この世界』が〈エルダーテイル〉だった頃は───〈冒険者〉を倒しても経験値は手に入らないが、杖の効果で例外的に経験値が手に入る。

 

 

 ────割のいい実験だった、と言ってもいいだろう。

 

 

 

 ────考察終了。

 徐々に散りつつあった濃紫の霧が、一気に霧散する。

 

 深く考え込んでいた事による知覚時間の停滞が解除され、世界が動き出す。

 

 

 何が起こったのか分かっていない〈大地人(店員)〉と一部の〈冒険者()〉。

 何が起こったのかを悟り、様子を窺う少数の〈冒険者()〉。

 そして────。

 

「何を、したんだ……」

 

 唖然としている、先ほどの男の仲間の二人。

 

「何って……見たら分かるだろう」

 

 内心では何が起こったか分かっているであろう彼らへ返答。

 流石に短すぎると思ったので、少しだけ付け加えることにした。

 

 ────君たちが良くやっている事だよ。

 ぼそりと付け加えた一言に、彼ら二人の顔色が変わる。

 盗賊風の男は怒りで赤黒く、回復役の男は対照的に青ざめる。

 

「ところで。君たちに、質問したいことが在るんだけど…………素直に話してくれる気はないかな?」

 

 ────大当たり。

 この二人には、少々聞きたいことが出来た。

 

 

     ✝✝✝✝✝✝✝✝✝✝✝✝✝✝

 

 

 目線が合う。

 蒼銀のコートを羽織る青年は、炎を纏った大剣を漆黒の魔杖に変形。

 相対する二人──盗賊風の前衛、回復役の後衛──も得物を構える。

 

 一発触発の空気。

 妖術師は杖を右手に持ち、左手を床に着ける。クラウチングスタート──正確には、それに似た構え。

 盗賊然の男は両の手に短剣を持った二刀流。回復職の男は一歩後退、彼の杖の持ち方に迷いが見える。

 

「お────」

 店員の男性が言おうとしたのは『おやめください、お客様』だろうか。

 皮肉な事に、その初めの一文字が火ぶたを切る──────。

 

 

「〈ライト──────」

 

 始まりは、妖術師による呪文の詠唱。

 そして、同時に響く足を蹴る音。

 

 踏み込むタイミングは、ほぼ同時。

 踏み込みの速度は───妖術師の方が数段高い。

 そして───()()()()()()()()()()

 

「──────ニング──────」

 

 魔術師は、極端な前屈の体勢から意表を突くように、バックステップで大きく距離を取る。

 対して、相手の行動が予想の正反対である事と呪文への警戒から、攻撃の体勢に移っていた盗賊風の男は着地の際に体制を僅かに崩してしまう。

 

「──────ネビュラ〉ッ!!」

 

 妖術師は右手に握る炎を纏ったままの黒杖を流麗な細剣(レイピア)に変化させる。同時に、空いている左手を突き出す。

 

「───ッ!!〈クイッ───」

 

 妖術師の左手に眩い青紫の雷光が宿っている事を視認した男は、想定していたよりも〈ライトニングネビュラ〉の発動が速い事に慌て、盗剣士(スワッシュバックラー)用の特技である移動技、〈クイックステップ〉を発動しようとするが──────。

 

 

 妖術師の放った〈ライトニングネビュラ〉が盗剣士が技名を唱えるよりも一拍早く発動。

 

 本来〈ライトニングネビュラ〉は銀河を思わせる青紫の雷光が広い範囲に大ダメージと短期間の麻痺状態と与える広範囲殲滅魔法である。

 それに加えて、効果範囲を犠牲にする代わりに威力を跳ね上げさせる〈クローズバースト〉の効果と合わさり、盗剣士の周囲のみを即死級のダメージと長期の麻痺状態を与える雷光が駆け巡り、視界を一色に染め上げる。

 

 

「──────〈サンダーボルトクラッシュ〉」

 

 目の前の盗剣士だけではなく、自分以外の視界を一時的に奪った妖術師。彼は細剣(レイピア)が纏う炎を武器に雷光を纏わせる特技で上書きしながら、瞬足の踏み込みからの刺突を行う。

 

 雷光を纏った白銀の細剣が心臓を貫通。その体力を奪いつくす──────。

 

 

 視界が回復した従業員(大地人)(冒険者)が見たのは、突きを放った状態で制止する蒼のロングコートに身を包む青年だけだった。

 

 

     ✝✝✝✝✝✝✝✝✝✝✝✝✝✝

 

 

 紫電を纏った細剣(レイピア)の切っ先を真下に向ける。

 残っている回復役の男が完全に腰を抜かしているのを見て残心を僅かに解く。

 

 ………失敗。気を抜きすぎた。

 先ほどまで自分には───否、僕には相当な精神的負荷が掛かっていたらしい。

 

 ゆっくりと周りを見渡す。

 返ってくるのは、怯えた視線。

 

 目の前の男を見下ろす。

 瞳に移る感情は恐怖───そして、諦め。

 

 天井の木目を眺める。

 瞼を閉じ、暗闇の中に自身を置く。

 ほんの僅かに、息を吐く。

 そして、周りには聞こえないが確かに息を吸い込む。

 

 ──────再び、意識を入れ替える。

 

 一歩。空気の焼けた匂いがする。

 二歩。木製の床が軋む音が届く。

 ──────三歩。足を止める。腰を抜かした男を睥睨する。

 

「お前は、良いのか」

 

 硬い声。自分が哀れになる。

 

「───ああ」

 

 男の乾いた、溜め息に似た返事。

 

「俺じゃ、お前には、勝てないだろう」

 

 一言一言を区切って───まるで、自分に言い聞かせるように───男は言葉を続ける。

 

「だろうな。

 単純な装備と練度の差が大きい事に加えて、実戦経験に差があり過ぎる。

 僕───自分たちが、『この世界』に来てから今日で十七日目。その日数を短いと思うか、長いと思うかは分からないが……それだけの日数が在れば、この世界での戦闘に慣れるだけの時間はとれたはずだ」

 

 付け加えると、魔法攻撃系職業(魔法職)回復系職業(回復役)の呪文は詠唱が必須だから仕方ないが、戦士系職業(壁役)武器攻撃系職業(剣士)、特に、盗剣士(スワッシュバックラー)武闘家(モンク)の移動系の特技は技名なしで発動できるようにしていなければ実戦では使い物にならないだろう。

 

「そう、か……。そうだよな」

 

 男は、自分にそう言い聞かせ、納得し、何処か悟ったような表情を見せる。

 

「そうか、俺は……死ぬのか」

「──────そうだ、自分が───僕が、お前を、殺す」

 

 交わる視線は穏やか。静かに、凪いでいた。

 男が視線を閉ざす。

 

 

「『この世界』に来てからずっと考えていたが、〈冒険者〉が〈冒険者〉を殺す時、命のやり取りをしているって自覚している〈冒険者〉はどれぐらいいるんだろうな」

 

 

 思わず、そんな一言が零れ落ちた。

 その一言を聞いた男は目を見開き「さあな」と、独り言ちる。そして、何処か疲れたような───憑き物の落ちたような顔をして、再び目を閉じた。

 

 

「確かに〈冒険者〉は死んだら神殿で復活するけど、死んだことが無かったことにはならないと思うんだ」

 

「そうだよなぁ……。直接殺してないとはいえ、周りに流されて……結局、あいつらを止めなかった……。

 ホント、俺、何してるんだろうな……」

 

 

 

 〈サンダーボルトクラッシュ〉の効果が切れ、細剣(レイピア)が纏っていた稲妻が消える。

 

 魔術師の少年は白銀の剣を見つめる。

 そして、数拍の間瞳を閉じ、天井に遮られた空を眺める。

 ──────まるで、何かを思い起こそうとしているかのように。

 

 白銀が漆黒に変わる。

 少年は踵を返し、歩き出す。黒杖を突く音が重く響く。

 

 ──────殺さないのか?

 ──────気が変わった。

 

 少年の姿が光に紛れる───その二歩手前で。

 

 ──────〈ブリガンティア〉のメンバーは少なくとも20人。多ければ50人にもなる。

       デミクァスという武闘家(モンク)がリーダーだ。ソイツ以外には、サブリーダーのロンダークという腕のいい妖術師(ソーサラー)がいる。

       人数は多いが、結局は烏合の衆。リーダー格の二人を失えば収拾が取れなくなるだろう。

 

 少年が足を止める。

 

 ──────良いのか?

 ──────構わないよ。『この世界』に来てから落ちぶれたが、『向こう』では医学生だったんだ。

       これからどうなるかは分からないが、せめてもの罪滅ぼしだ。

 

 少年は、回復役の青年が浮かべているのと同じ、肩の荷が下りたような笑みを浮かべる。

 

 ──────そうか。まぁ、目的のついでに弱体化させる。

       暫く待てば、アキバからの救援も来るだろう。

 ──────…………。

 ──────そうだ、後一つだけ。

 ──────なんだい?

 

 ──────()()()()()、じゃなくて、()()()()()だろ。

 ──────ああ、その通り、だな。

 

 

 少年は光に溶けていく。

 その姿が完全に見えなくなった後、青年は気が抜けたのか崩れ落ち、そのまま気を失う。

 

 

 今後、少年と青年の道筋がどうかを知る者はいない。

 

 

 

 

 ──────以上が、〈ブリガンティア〉の情報である。

 また、〈大地人〉の経営する店舗は特殊なゾーンとして扱われており、店舗内での暴力行為には〈衛兵〉は反応しない。

 

「──────そっちは、変わったことはあった?」

『こちらの暮らしには特に変わったことは(にゃ)いですが、アキバの街から救援が来るそうですにゃ』

「マジか班長。何日ぐらいで着く?あと、規模は?」

『規模は少数精鋭らしいですにゃ。何時到着するか、についてですが、このままのペースだと一週間もすればススキノにたどり着けるかも知れない、と聞きましたにゃ』

「そうか、一週間か。待ち遠しいなぁ……」

『リベクスち』

「何?班長」

『帰っては来ないのですかにゃ?』

 

 ──────。

 

「うん。ごめん、班長」

『にゃあ。リベクスちが何をしようとしているか、それは何となく分かりますにゃ。

 ですが、リベクスち──────』

「ごめん」

『リベクスち……』

「ごめん。ホントにゴメン、班長」

『判っていましたが、リベクスちは頑固ですにゃあ』

「……よく言われるよ」

 

 念話の向こう側とこちら側で乾いたような、何処か寂しい笑い声が雑ざる。

 

「僕のことは、突き抜けだと思って欲しい。一緒に行動するのは危険だ」

『知ってますにゃ。その上で、帰ってきませんか?リベクスち』

「班長は優しいね」

『リベクスち……。無茶だけは、してはいけないですにゃ』

「分かった。じゃぁ、また会おう、にゃん太班長」

 

 念話を切る。

 

 

 

 ススキノの街の城壁の上。

 そのまま寝ころぶと、満天の夜空。

 周囲の警戒として、ルーンの刻まれた石などを要所に設置したので取り敢えずの安全は確保できている。

 普段から着ているロングコートには、特殊な防寒・耐熱機能があるので、寒さに凍える心配は全くない。寝袋などは使っていないが、石畳の痛さは感じない。

 

 フードを目深に被り、溜め息の出るような星空の下で目を閉じる。

 

 

     ✝✝✝✝✝✝✝✝✝✝✝✝✝✝

 

 

「──────あの、大丈夫ですか?」

 

 肩を揺さぶられる。

 どうやら、あのまま気を失ってしまったらしい。

 目を開けると、地味目な服装をした少女。この店の店員。

 ──────〈大地人(NPC)〉。

 

「ああ、大丈夫。です」

 

 差し伸べてくれた手を取り、バランスを取って立ち上がる。

 今まで気を失っていたせいか、少しぼんやりする。目を覚まさなければ。

 

「ありがとう。起こしてくれて」

「どういたしまして。でもゴメンなさい、店じまいの時間を過ぎちゃったから……」

「ああ、なるほどね。通りで暗いと思ったら」

 

 立ち上がり、大きく伸びをする。

 小気味のいい音がした。

 

「さて、お暇させてもらおうかな」

「そうですか。またのお越しをお待ちしています」

「いや、またのって……」

 

 ……何と言うか。

 

「俺たち〈冒険者〉が怖くないの?」

 

 つい、そんな疑問が零れ落ちた。

 目の前の少女だけではなく、向こうで忙しそうに後片付けをしている三十代ぐらいの女性、もう少し年上に見える男性に対しても聞かなくてはならない事だ。

 

「怖いですよ」

「ならなんで──────」

「でも私は、貴方なら信じてもいいかなって思ったんです」

 

 そう言い放った瞳はまっすぐで、でも目を逸らせなくて──────。

 

「──────俺を、自分の事を雇ってくれませんか?」

 

 気が付いたら、そんな世迷言を言い放っていた。

 

 

 その一言を放った時は、快く受け入れてくれるとは思ってもみなかった。

 

 

 

 その青年はその店を拠点にして、ススキノの街で暮らしていくことになる。

 

 

     ✝✝✝✝✝✝✝✝✝✝✝✝✝✝

 

 

 ~十八日目~

 

 昇ってくる朝日で目が覚める。

 朝日の方向で、今、自分がいる場所が街の西側だ、という事を寝ころんだままで気付く。

 

 立ち上がり伸びをする。

 不自然なほど、体に負担は無い。

 いや、うちのロングコート凄すぎだろ。

 

 因みに、このロングコート───〈蒼狼の銀雪外套〉は『この世界』がゲームだった頃から愛用している超高性能のアイテムで、十数種類の秘宝級アイテム(アーティファクト)と幾人ものレベル90の職人の協力で作成した幻想級アイテム(ファンタズマル)である。

 

 手に入れるまでに掛かる手間及び費用と釣り合うように、ステータスの大幅アップや特殊な防御判定などの効果があるが、寝心地まで良いとは思わなかった。

 ──────いや、今までは思う必要が───真剣に思う必要が───なかった。

 

 何となく、朝日を眺める。

 その後、視線を下ろすとススキノの街が目に入る。

 早朝のススキノの街は静まり返っていた。

 それが寒さに起因するのかどうかははっきりとは分からない。

 

 

 

 軽い運動で体をほぐす。

 昨夜設置しておいたルーンを刻んだ石を回収。

 メニューから〈ダザネッグの魔法の鞄〉を具現し、いくつかのアイテムをコートの中のポケットに移す。

 

 自分が何をしたらいいのかは分かっている。

 自分が戦うべき相手の正体ははっきりとしている。

 ──────さて、孤独な戦いを始めよう。

 

 

 

 アキバの街からの救援が来るまで──────あと、五日。

 




 閉じた世界(地獄の底)からでも、明日(希望)見たい(見出したい)



 さて──────今回も、読んでいただきありがとうございます。

 日数を訂正しました。
 単純に原作との擦り合わせのミスが原因です。申し訳ありませんでした。


 リベクスのサブ職業は次回。
 ──────と言った(書いた)な。……あれは嘘だ。

 本当にごめんなさい。次回辺りに公開します。
 …………辺り、と書いたのは『次回書けなかった時』保険ではありません。多分。



 そんなわけで、次回もよろしくお願いします。

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