東京レイヴンズIF~大鴉の羽ばたき~   作:ag260

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第九幕 真実は何処に

祭りの夜を騒がせたあの事件は、その夜のうちにニュースになった。

事件発生から二時間後、陰陽庁は県警と共にマスコミに対し会見を開いた。

 

そこで軽傷者は出たものの、死者・重傷者は出なかったこと、現在呪捜官二チームによる捜索が続いていて増援部隊も向かわせていることを発表した。

 

しかし、その会見で『十二神将』や『大連寺鈴鹿』などの言葉は一度も出なかった。

 

「……ふぅ」

 

俺は、ファーストフードの店内に設置されたテレビを見ながらため息をつき、背もたれに体重をかけた。

テーブルを挟んだ向かい側には冬児が座っていて、難しい顔をしている。

 

「…で、あれから北斗とは?」

 

冬児からの質問に俺は首を横に振る。

 

「いや。電話は繋がらないし、メールも返信無しだ」

「無事だってのが分かってるだけが救いだな」

「…俺と別れた時はな」

「「……」」

 

場を沈黙が支配する。

 

「…まったく、嵐の様な一日だったな」

「台風はこれからだってのにな」

 

俺の人生の中でも間違いなく最悪の一日と言ってもいいだろう。

 

北斗との喧嘩を皮切りに、人違いで『十二神将』に呼び出されるは、呪術戦に巻き込まれるは、俺の…ファーストキスまで奪われるは、終いにゃ泣きじゃくる北斗からの告白。

俺が一体何をしたって言うんだ!と叫びたい気分だぜ。

 

北斗の奴…。

 

北斗の泣き声は一日たった今でも耳に残っている。

俺は、自分は恋愛などには縁遠いものだと思っていた。

 

実際に今までの人生で俺は『恋』をしたことが無い。

中学時代の事もあるので女子が俺に近づいてくることも無かった。

ただ一人北斗を除いて。

 

北斗との出会いは、中学二年の春だった。

偶然公園で見かけたアイツは、そのころ俺が好きだったアイドルにどことなく似ていた。

思わずガン見してしまったら視線に気づいたのか、アイツと目があった。

 

その次の瞬間、アイツがとった行動は、全力疾走だった。

そしてその日を境に、アイツは俺の周りに出没し始めた。

 

俺がアイツに気づき、アイツと視線が合う度に全力疾走で逃げていく。

初めのころは変なやつだと思い無視していたが、それが二週間も続けば俺の中では『変なやつ』から『面白そうなやつ』に変わっていた。

 

アイツの印象が俺の中で変わってからは、今までの関係が少し変わった。

いつもは、逃げてくアイツを無視していたのに追いかけるようになった。

 

しかし、アイツの足の速さは異常だった。

俺も身体能力なら自信があったのに、まさか同年代の女子に追いつけないとは思いもしなかった。

 

そこで俺は思った。単純な速さで負けるのなら策を弄すれば良いと。

翌日、俺は自分からアイツを探した。自転車に乗ってだ。

 

これならば負けはしないと思っていた。

そしてアイツを見つけた。いつも通りアイツは走って逃げる。

 

しかしこちらは自転車だ。いくらなんでも、走りで自転車を抜くなんてマンガみたいなことができるはずがない。

だんだんと縮まる距離。もう少しで捕まえられる!

 

というところで体が浮遊感を覚えた。次の瞬間俺は、衝撃と共に穴に落ちていた。

何が起きたか分からず混乱していると、俺の頭上からアイツが顔を覗かせた。

 

そして気づいた。落とし穴に誘導され落とされたと。

アイツはニヤリと笑って去って行った。

 

その日を境に俺たちの鬼ごっこ?は苛烈を極めた。

お互いに相手の策を読みあい対策を練る。

 

最後の方には大掛かりなブービートラップまで使っていた。

そして初めて会ってから一か月後。激しい死闘の末、遂に俺はアイツを捕まえた。

 

しかし、捕まえたはいいがこれからどうするのかを全く考えていなかった。

そこで俺が考えたのがお互いをよく知るために

 

『俺、土御門春虎。お前は?』

 

自己紹介だった。今思い出すと何ともバカらしい質問だ。

アイツも「もっと他に聞くことがあるんじゃない?」的な顔をしていたがしばらくして

 

『僕は北斗だよ。よろしく春虎』

 

満面の笑顔と共に名前を教えてくれた。

その日を境にまた俺たちの関係は変わった。

そう、友達に変わった。

 

「青春の回想中悪いんだが、これからの事も考えようぜ」

「だからなんで俺の心を読めるんだよ!」

 

しかもよりにもよって北斗との出会いの場面を……は、恥ずかしすぎる!

 

「…でお前は北斗の事どうすんだよ」

「どうするって何が?」

「告白されたんだろ?その返事だよ」

 

そう。俺は冬児に昨日の夜の事を全て話した。

さすがにキスの事は話してないがな。

 

最初は話すかどうか迷ったが、お互いに面倒事に巻き込まれてんだから、できる限りの情報は共有しておこうと思ったので話すことにしたのだ。

 

「……正直分からないんだよ」

「何が?」

「北斗の事は好きだよ。ただその「好き」が恋愛感情なのか、友達として、なのかが分からないんだよ」

 

それにこの関係を壊すのも怖かった。北斗が笑って、俺が便乗して、冬児が呆れる。

そんな今の関係が俺は大好きなのだ。その関係が壊れるかと思うと心がモヤモヤする。

 

「…はぁ」

 

冬児がため息をついて一つ吐いて、

 

「バカがうだうだ考えんなよ」

「なっ…はぁ!?」

「バカが考えるから余計難しくなるんだよ。バカはバカらしく正面から自分と向き合えよ」

「と、冬児」

「それにお前の事だから今の関係が壊れるのが怖い。とか思ってんだろ?」

「……」

「舐めんなよ。ちょっとやそっとじゃ、俺らの仲は壊れねーよ」

 

冬児の言葉を聞いて心のモヤモヤが少し晴れた気がした。

そうだな。まだ北斗への気持ちに答えは出てないけどこの気持ちには正面から向き合おうと思う。

バカらしくな。

 

「サンキュー、冬児」

「手間かけさせんなよ」

 

お互いに視線を合わせ笑う。

確かにこの関係は簡単には壊れそうにないな。

 

「…とりあえず北斗の事は置いといてお前の幼馴染の方はどうだ?」

「こっちもメールは、送ってるけど返信は無いし、電話も繋がらない」

「あの大連寺鈴鹿(ナマイキなガキ)が、簡単にあきらめるとも思えないしな」

「簡単に捕まるとも思えねーよ」

 

 

アイツの執着心は会話だけでもすごいものと判断できるほどだ。簡単にはいかないだろう。

 

「まあ、電話もメールも無理なら直接会うしかないよな」

「俺もそう思ってたところだ。この後本家の屋敷に行ってくるよ」

「その方がいいだろう。あのガキ手段は選ばない感じだったからな」

「手段を選ばない、ねぇ」

 

俺のつぶやきに疑問を思ったのか冬児が聞いてきた。

 

「なんだ?どうかしたのか?」

「アイツさ、呪捜官と戦ってる最中に勝ってたのに逃げたろ?あれは戦いに巻き込まれてた子供の兄妹を助けるためだったんだよ」

 

お兄ちゃんを生き返らせるのよ。とアイツは言っていた。たぶんあの兄妹が自分と重なったんだろう。

 

「アイツは兄貴を生き返らせるって言ってた。そんな魔法みたいな事が出来るなんて思えねーけど、アイツはそれをしようとしてる。俺の幼馴染を利用してだ」

「まあ、状況から考えるとそうだろうな」

「でも、それって駄目なのか?」

 

もちろん夏目を巻き込むつもりなら、なんとしてでも阻止しなければならないが、俺は傍若無人(ぼうじゃくぶじん)な鈴鹿だけではなく、子供を助けるために戦場を離脱した鈴鹿や、不安を垣間見せつつ兄を生き返らせたい、と打ち明けた鈴鹿の姿もこの目で見ている。

 

アイツがなぜ呪捜官に追われているかは知らないがアイツの目的『兄を生き返らせる』という思いは責められる物では無いと思う。

 

「…俺も、あの後色々調べてみた」

 

冬児が淡々とした口調で話す。

 

「まず、あのガキの言っていた『帝国式陰陽術』。まあ『汎式』と同じで『帝式』と略されるんだが。その『帝式』ってのは今じゃ公式には教授されてない古いタイプの陰陽術らしい。しかし、あのガキが言ってた通り、元は軍用に造られたものだけに強力で実戦的なものが多い。そのせいか今じゃ、ほとんどが禁呪指定だ。だが一部ではまだ使われてるのもあるみたいだがな」

「例の『魂の呪術』ってやつもか?」

「いや、それは『別格』だ」

「別格?幽霊とやり取りするなんていかにも陰陽術らしいけど」

 

「まあ、理由はいろいろあるんだが詳しいことはお前の幼馴染にでも聞いてくれ」

「それでアイツはそんな呪術を――?」

「ああ、『汎式』には無いが『帝式』には在ったってことだな。…ただ、その辺は特に詳しく調べたんだが、どうにも業界内でもハッキリしないみたいだぜ?」

「何がだよ?」

「『帝式』には魂の呪術が存在した。って考える研究者は多いみたいだが、それを証明する記録も物も無いんだよ。さらに言えば魂の呪術どころかそれに関する研究も陰陽法で禁止されてる」

「禁止されてる?」

「そうだ。しかも倫理的な意味でじゃなく、もっと切実な理由でだ」

 

冬児はそう言うと楽しげな冷笑を浮かべた。

コイツがこういう笑い方をするときは決まって面倒事を引き連れてくる。

 

「……聞きたかないけど聞いてやるよ。切実な理由って?」

「春虎。土御門夜光が最後に行った儀式は知ってるな?」

「そりゃ、その儀式が失敗したせいで霊災が起きて、今俺の家は日陰者あつか―――」

 

……まさか。

 

俺は冬児の言葉の意味を察した。

冬児は俺の顔を見ると冷笑を浮かべたままうなずいて見せる。

 

「そうだ。あれ(・・)そう(・・)だったと考えられてるらしい」

 

確かに夜光が行った例の儀式が『魂の呪術』なのだとしたら、研究すら陰陽法で禁止されてるのも納得がいくし鈴鹿が呪捜官に追われてるのも分かる。

 

「しかも現在だと夜光は、その呪術に成功してた。と考える陰陽師がかなりいるらしい」

「はぁ?儀式が失敗したから夜光は死んだんだろ?それが成功してたって言うのかよ?」

「ところが夜光が成功したって言う陰陽師達は『天才陰陽師土御門夜光は、その生涯最後の大呪術によって自らの魂を転生させた』って言ってるんだよ」

「っ!?」

 

俺は息をのんだ。

夜光が転生した。そんな話は土御門家である両親からさえも聞かされたことが無い。

俄かには信じがたい話だった。

 

…待てよ。

夜光が転生――魂の呪術――土御門家――天才

俺の頭の中で言葉が組み立てられてゆく。

思い出せ!あの時鈴鹿は何て言った。

 

『あたしがあんたを選ぶ理由なんて、決まってるでしょ。あんたが、この呪術の生きた『実例』だからよ』

『土御門家次期当主、土御門夏目。噂通り前世の記憶はないみたいね。それともあの噂はデマだったのかしら?でも試してみる価値はある。何しろあんたはこの呪術――『泰山府(たいざんふ)君祭(くんさい)』の成功者であり経験者なんだから…』

 

「…冬児。まさか――」

「気づいたか。お前には親父さんがあえて伏せていたんだと思うが、業界じゃ結構有名な話らしいぜ?『土御門夜光は転生した。戦争の敗戦色が濃厚な当時じゃなく、自分の作った陰陽術が花咲く未来。つまり、現代の己の血筋である土御門の子孫に転生した』ってな。あくまで噂だがな」

 

鈴鹿の話を聞いた時からもしかしてと疑問は頭の隅にあった。

しかし無意識の内に考えないようにしていた。

しかしもしそうだと仮定して考えると色々なつじつまが合ってゆく。

 

夏目が天才的な呪術の才能を持ってること。

十六歳にして次期土御門家当主の座が決まっていること。

 

そして何より鈴鹿は、自分の事を『夜光専門の研究者』と言っていた。

十二神将であり夜光専門の研究者である鈴鹿もその噂を信じたのだ。

これはもう、決定的ではないか。

 

俺は言葉が出なかった。

冬児も無言のままコーヒーを飲んでいる。

重い沈黙が二人の間に落ちてゆく。

その時

 

『ピリリリ、ピリリリリ』

 

俺の携帯に着信が入った。

メールだった。反射的に差出人を確認する。

 

「…北斗か?」

「…いや」

 

差出人の名前には『夏目』と表示されていた。

 

『会って話したいことがあります。今日の夕方、時間を作れますか?』

 

メールにはそう書かれていた。

 

俺の心を映したように外の雲行きは暗くなっており、二階の窓ガラスには、ポツっと最初の雨粒が張り付いた。

 

 




今回は北斗との出会いを書きました。
時期など色々捏造されてます。

とりあえず、書きあがってる分はどんどん投稿していこうかと思います。
早くオリジナル回の続きも書きたいので。

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