微かな戦闘音をたどり俺がたどり着いたのは、古びた工場だった。
目の前の大きな建物の裏に近づくと、次第に音が大きくなってゆく。
建物の裏は駐車場だった。
止まっているのはコンテナを積んだ大型トラックが一台に、バンが二台。
壁に身を隠しながら、辺りを探ると雨の中で戦う大小の人影が見えた。
鈴鹿と昨日見た呪捜官達だ。
昨日と戦力は同じだが、戦況は昨日とは真逆だった。
鈴鹿は完全に包囲されていた。
しかも、目に見える範囲にいる式神は3mはありそうな巨大な二体のみ、おそらく術者は呪捜官だろう。
昨日の夜、猛威を振るった鈴鹿の式神が一体も見当たらない。
いや、よく見ると雨で濡れたアスファルトの上に鈴鹿の式神だったらしき紙切れが散らばっている。
「倒したのか?いったいどうやって?」
頭に浮かんだ疑問は、すぐに解決された。
鈴鹿を包囲している呪捜官は十人いる。
しかし、直接鈴鹿と戦闘を行っているのは二人と式神二体だけだった。
残りの八人は、鈴鹿を包囲したまま何やら呪文を唱えている。
そして呪文を唱えている呪捜官を繋ぐように光のラインが地を走っている。
「…あれは、結界か?」
おそらく、あの結界のせいで式神を封じられているんだろう。
しかし劣勢とはいえ、さすが十二神将と言うべきか、八人がかりの結界をかけられてなお呪捜官二人相手に戦っている。
(後で冬児に聞いたところあの結界は『
だが、劣勢なのは素人の俺から見ても明らかで決着は時間の問題だった。
「ここまでだな。いかに『神童』と言えど『八陣結界』を内から破る事はできまい。大人しく投降しろ」
鈴鹿と戦っている呪捜官の一人が厳しい声で告げた。
投降勧告と共に二体の巨大な式神が威圧するように前へ出る。
「終わった、のか?」
壁に体を隠しながら事態が終わりを迎えることにホッとした。
これで夏目は危険な目に遭わ――
危険な目に遭わない、そう思った時だった。
「チョーシこいてんじゃねーよ」
結界に囚われたままの鈴鹿が低く唸った。
鈴鹿はすでに満身創痍だ。
息を切らし肩を大きく上下させている。
全身は雨で濡れプラチナブロンドの長髪は結び目がほどけ重々しく垂れ下がっている。
しかし鈴鹿の眼だけはギラギラと鋭い光を放っている。
その眼を見ていると背筋に悪寒が走った。
マズイ!!
ただの直感としか言いようが無いがそう思った。
呪捜官達もそれを感じ取ったのか警戒の色を強めている。
「人を霊災扱いしやがって……だけど相手が弱ったならすぐにとどめを刺すなりすればいいのに、あんた達こそ実戦経験少ないんじゃない?」
鈴鹿はそう言い放つと凄惨な嘲笑を浮かべた。
「あたしの専門分野知ってるでしょ?見せてあげるわ。あたしなんかじゃなく土御門
そう言って鈴鹿は後ろを振り返った。その視線の先にあるのは駐車場の一角に止めてあるコンテナを積んだ大型トラックだ。
鈴鹿はそのコンテナに向かって、
「術式解放!来い、
大声で怒鳴った。
するとコンテナが、ガゴンッ、と大きな鈍い音を立て内側から破れる。
続けて、ガゴンッ、バキッ、とコンテナの分厚い鉄の壁を簡単に切り裂き、砕きながら現れたのは異形の怪物だった。
しかし、ただの蜘蛛ではなく、鋼で作られた巨大な蜘蛛だ。
折りたたまれていた脚を伸ばした今、その大きさはトラックのコンテナを上回る。
胴体の両脇からのぞく機関砲の砲口。
そして、蜘蛛の頭胸部にあたる場所からは鎧武者の上半身が生えていた。
「そ、
呪捜官達は喘ぎ声を漏らした。呪文の詠唱が途切れ、結界の光が消える。
鈴鹿はケラケラと笑い、冷酷に命令を下す。
「やれ」
主の命令を受けた土蜘蛛は、呪捜官に向かって動き出す。
その動きは重機のような見た目に反し、まるで生物のように素早く動く。
「…くそっ!?」
呪捜官の一人が土蜘蛛に向かって発砲するが銃弾はあっさりと跳ね返される。
確か人造式は、物理的な衝撃に弱いはず…それが弾丸をはじきやがった。なんて強度だよっ。
「おのれ!」
さっき投降勧告を告げた呪捜官が、巨大な式神二体で土蜘蛛の動きを抑えにかかる。
だが、二体同時に挑んでも土蜘蛛には歯が立たなかった。
一体は弾き飛ばされ、もう一体は鋼の脚で串刺しにされた。
串刺しにされた式神の姿がブレる。
ラグだ。そこへ鎧武者の上半身が腰に差した
鈍色に光る刃が一閃。
わずか一撃で巨大な式神は両断された。
土蜘蛛は流れるような動作でもう一体の式神にも止めを刺した。
「…ヤツの式神は化物かっ」(池〇秀一ボイス風)
「…………」
突っ込んでくれる人がいないと結構厳しいな…。
因みに『式神』と書いて『モビ〇スーツ』と読んでもらいたい。
俺が下らないことをしている内に戦況は大きく変わっていた。
いや、昨日のように戻っていた。と言うべきか。
土蜘蛛の出現により、呪捜官の連携が乱れ、結界も効力を失った。
そこからは鈴鹿の独壇場だった。
幾つもの銃声が響き、呪符が宙を舞うが土蜘蛛には、どれも通用しない。
どんな攻撃も土蜘蛛の堅い鋼鉄の装甲を貫けず、逆に土蜘蛛の攻撃は一撃で呪捜官のくり出す呪符や式神を消
し飛ばす。
わずか十分もしない間に、呪捜官は全員倒れた。
最悪の展開だ!呪捜官の増援はもう期待できない。
頼りにしていた呪捜官達ももうダメだ。…もう鈴鹿を止める手立てがないっ!
何か策を考えようするが何も思いつかず雨の中立ち尽くす。
とりあえずこの場を離れようと一歩下がったとき、
『ピリリリリ、ピリリリリ』
場違いな携帯の着信音が辺りに響いた。
俺の携帯から。
うおおおおい!!誰っ!?こんな時に!っていうかなんでマナーにして無いんだよ!俺のバカ野郎!
俺がこのタイミングで電話をかけてきた相手と自分自身の間抜けさを呪っていると、
「誰っ!?」
鈴鹿が音に反応して振り返った。
呪捜官を倒し停止していた土蜘蛛も動き始める。
この状況では、逃げることはできない。俺は、半ば自棄になりつつ鈴鹿の前に姿を現す。
「…よう」