東京レイヴンズIF~大鴉の羽ばたき~   作:ag260

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第二十一幕 転入初日は前途多難

 

 

塾長室は陰陽塾の最上階にある。

 

最上階でエレベーターを下りて、長い廊下を俺たちは歩いている。

 

「しかし、ここはえらい広いな」

「まあ、大事な陰陽師の育成機関だからな。金はいくらでも出るんだろ」

 

周りを見渡すと、観葉植物や調度品の代わりに呪具が飾られている。

あちらこちらに置かれたそれらは、手入れが完璧に行き届いていた。

 

「式神が掃除してたりして」

「無いとは言い切れないな」

 

確かに。ビルの警備が狛犬だったしな。

 

 

「でも俺、式神って戦闘に使うもんだと思ってたぜ。案外、家事専門の式神とかもいるのか?」

「用途を限定しない汎用式(はんようしき)ってのなら市販されてるな。もっとも、式神みたいな甲種(こうしゅ)呪術を使うには資格がいるからな。そんなもん造っても需要がねーよ」

「…こうしゅ呪術ってなんだ?」

「ググれ」

 

冷たくない!?

 

~~甲種呪術…現在の陰陽庁は呪術を法的に二つの種類に分けている。

       その一つが甲種呪術である。

       甲種呪術とは、公的に有効性を認められた呪術である。

       なお、甲種呪術以外の呪術を乙種(おつしゅ)呪術と言う~~

って事らしいぞ。

 

「携帯開いて何やってんだ」

「ググってた」

「アホか」

 

お前がググれって言ったくせに。

 

 

話している内に塾長室の前に着いた。

ドアをノックしようとしたとき、視界の端に動くものを見た。

反射的にそれを追うと、動いたものは一匹の三毛猫だった。

三毛猫は俺たちの足元まで寄ってくる。

 

「…春虎。まさか――」

「…たぶんこいつも式神だと思う」

 

陰陽術に関わる施設ってのは何処もこうなっているのか?

 

「鍵は開いていますよ。お入りなさいな」

 

老女のしかし柔らかい声が猫から発せられた。

 

「――失礼します」

 

若干、緊張しながらドアを開き室内に入る。

 

 

室内は外の廊下とは雰囲気が違った。

壁は色あせたクリーム色で、床には柔らかそうな臙脂色の絨毯が敷かれていた。

 

何より目を引くのが部屋を囲むように配置してある本棚だ。

大量の本棚の中には一部の無駄も無く書物が並べられている。

 

そして部屋の奥。

曇りガラスを背に、大きなしかし品のある机が置かれている。

 

机の向こう側に、着物を着た小柄な老婆が椅子に腰かけている。

さっき喋った三毛猫は老婆の膝の上に丸まっている。

 

「ようこそ、陰陽塾へ。お待ちしていましたよ」

 

三毛猫と同じ声。

塾長が女性とは思って無かったので少し驚いた。

 

 

「土御門春虎さんに阿刀冬児さんですね。初めまして、塾長の倉橋 美代(みよ)です」

「は、初めまして」

「………」

 

俺も挨拶を返し、冬児も無言で会釈する。

俺たちは、塾長のいる机に近づく。

 

 

すると塾長は俺たちの事を、じっくり観察するかのような眼差しで見る。

 

「……なるほど。あなたたちが夏目さんの『飛車丸(ひしゃまる)』と『角行鬼(かくぎょうき)』というわけね」

「は?」

飛車丸と角行鬼?何のことだ?

 

一体何のことか聞こうと思ったら、塾長は直ぐに他の話題に切り替えた。

 

「そういえば、お二人は日ごろから陰陽術に触れていたというわけではないのでしたね」

「は、はあ」

「しかし、春虎さん。この子たちが式神と気付くなんてすごいですね。霊視はあまり得意じゃないと伺っていたのですが」

「いや、霊気を視たわけでは無く、普通の猫や石像と気配が違ったので…」

「気配?これはまた興味深い事ですね」

 

 

前にも同じことを鈴鹿に言われた気がするな。

 

塾長は冬児に視線を合わせた。

 

「冬児さん。あなたの境遇は、春虎さんのお父さんから聞いています。あなたの決意は立派なものです。後遺症に負けないように頑張ってくださいね」

 

次に俺と視線を合わせる。

 

「春虎さん。あなたの事もご両親と夏目さんから聞いてますよ」

「夏目から?なんか言ってましたか?」

「土御門家のしきたりによって夏目さんの式神になったと聞きました。それに大連寺鈴鹿の巻き起こした事件に巻き込まれたのも知っています。…もっとも、こちらは陰陽庁にいる知り合いに聞いた話ですけど」

 

 

塾長の言葉を聞いて俺と冬児は顔色を変えた。

 

「あなたたちは、なぜ自分たちの様な素人同然の輩が陰陽塾に合格したのか不思議に思ってるかもしれません。だから特別に教えて差し上げましょう。あなたたちが合格したのは、例の事件への貢献度が認められたことも一因なんですよ」

「やっぱりな」

「まあ、当然だろう」

 

俺たちはなんとなく予想はしていたので驚きはしなかった。

むしろあの筆記テストの成績で合格出来る方が驚くわ。

 

 

「けど、あなたたちに陰陽師としての素質がまったく無いって訳でも無いんですよ」

「そうなんですか?」

「ええ、特に春虎さん。あなた実技の試験は、あの夏目さんに迫る成績だったんですよ」

「そう言えば、そんなこと言われたような気も…」

 

実技が出来てなぜ筆記が出来ないんだ!?と試験官が驚いていたのを覚えている。

なんとなく感覚でできちゃうんだよな…。

 

 

「ああ、後もう一つ。老婆心からのアドバイスですが――」

 

塾長は最後に意味ありげな口ぶりで前置きをしてから、俺たちを測る様な――同時に面白がるような表情をしてから言った。

 

「夏目さんの噂はご存知ですよね?」

「ええ」

「まあ」

「あの噂のせいで夏目さんは塾内でも特別な立場にいます。それ故に、いろいろなトラブルに巻き込まれるでしょう。それは、旧知のあなたたちにも襲い掛かるかもしれません。困ったことがあれば、担任の講師――後で紹介する大友(おおとも)先生と言う方に相談してください。できる限り力になりましょう」

「大丈夫ですよ。最初に最大級のトラブルに巻き込まれたんで、大抵の事には対処して見せますよ」

 

ニッと笑って見せる。

 

すると塾長は最初、驚きに目を見開いたが次第に笑顔になり、

 

「それは頼もしいですね。よろしくお願いしますよ」

「任せてください」

 

 

 

「それとこれは好奇心で聞くんですが、あなたたちは土御門夜光についてどういった印象をお持ちですか?」

 

話も終わりかと思っていたら、塾長が唐突にそんな質問をしてきた。

 

「業績が大きすぎて個人としての印象は薄いですね。正直、天才としか印象にないですかね」

 

冬児は淡々と答える。

 

「そうですか…春虎さんはどう思いますか」

「そうですね……可哀そうな人、ですかね」

「……なぜそう思うのですか?」

「夜光だけじゃなくて、ほとんどの偉人に言えることですけど、偉ければ偉いほど行動や発言に責任が付きます。ましてや夜光は当時バラバラだった陰陽師達をまとめ上げ、陰陽庁の前身である陰陽寮を作り上げるほどの圧倒的カリスマと才能が有った。そんな夜光の言動の影響力は大きかったでしょう。たぶん、自分のやりたいことも自由にできなかったんじゃないですかね。だから可哀そうな人だと」

 

 

 

「――そんな事はありませんでしたよ」

 

俺の話を聞き終わって黙っていた塾長が唐突にしゃべりだした。

 

「へ?」

「彼はね、将棋が好きだったんですよ。でもへたくそでね、それなのに何度も何度も勝負を挑んで、負けたら拗ねるんですよ。困った人でしたよ」

 

彼?一体誰の事を―――まさか。

隣に立っている冬児も、同じ考えに至ったのか目を見開いて驚いている。

 

「まさか……生前の土御門夜光に会ったことがあるんですか!?」

「ええ。まだ私が子供の頃ですけどね。今の若者からしたら大昔の事かもしれませんけど、この国が戦争をしてから、まだ半世紀とちょっとしか経ってないんですよ」

 

 

何の特別なことは無いと言う風に微笑みながら塾長は言う。

 

 

 

一呼吸おいてから塾長は続ける。

 

「春虎さん。あなたは夜光の事を可哀そうな人と言いましたが、そんな事はありませんでしたよ。確かに尋常な人生では無かったですけど、いつだって彼は自分の意思でやりたいことを自由にやる人でしたよ。彼だって普通の人間なのですから」

「普通の…」

 

塾長の言葉には、その時代を生きて見た人の特有の重さがあった。

 

「ええ、でもそれが分からない人たちもいる。あなたにとって土御門夜光は厄介事のイメージでしょうけど、その逆と考える人たちもいる事を知っていますか?」

「逆に考える?」

「夜光を英雄視し、神格化して考える人たち……いわゆる、夜光信者と呼ばれる人たちよ」

 

 

夜光信者…初めて聞く名称だな。

隣の冬児に目で問いかけるが、冬児は無言で首を横に振る。

 

どうやら冬児も初耳らしい。

 

 

 

「彼らは夜光に人格があったのを無視し、盲目的に祀り上げる。……残念ながら夏目さんの事も彼らには知れ渡っています。事実、接触を試みた人もいました」

「なっ!?…夏目は無事だったんですよね?」

「ええ、幸いにも近くにいた講師が取り押さえました。……しかし、いつまたこのような事が起こるか分かりません。夏目さんの近くにいるあなたたちも巻き込まれる可能性があるでしょう。どうか気を付けてください。あなたたちには塾長としても私個人としても期待しているのですから」

 

 

そう言って塾長はまた微笑む。

 

 

 

その直後、タイミングを見計らったようにドアをノックする音が室内に響いた。

そして一人の男が顔を覗かせる。

 

「塾長、まだ終わりませんか?そろそろ時間押してますけど」

「あら、お待たせして申し訳ない。今ちょうど終わりましたよ」

「そら良かった」

 

 

そう言って入ってきたのは、ひょろりとした背の高い男だった。

年齢は若いのかもしれないが、枯れた雰囲気のせいで良く分からない。

 

服装もよれよれのスーツといまいちパッとしない感じだ。

そして言葉も変な関西訛り。

 

「……なんか、頼りない感じだな」

「いや、違うぞ冬児。あの手のキャラはマンガやアニメだとやり手のベテランって相場が決まってる」

「…二次元と現実を一緒にすんな」

「こらこら、人の悪口は本人に聞こえないところでせなあかんで」

 

 

そう言ってこちらに近づいてくる男。冬児の発言にも気を悪くはしていないみたいだ。

 

 

第一印象は『頼りない』だが、そんな中男の容姿で目を引くものがあった。

 

右手に杖を持っている。

そう言えば、部屋に入る動きも右足を若干引きずるように歩いていた。

 

気になってその男の右足を見ると、ズボンの裾からは足ではなく、木製の棒が伸びていた。

義足だ。しかも今の時代じゃ考えられないような古い義足だ。

 

冬児も気になったのか、男の義足に視線が行っている。

 

 

俺たちの視線に気づいたのか、男は笑いながら義足を掲げ見せてくる。

 

「どや、かっちょええやろ。僕も陰陽師の端くれやさかい、これぐらいはハッタリ利かせんとな」

 

そう言う男に俺は、口角を上げながら言った。

 

「いや、俺には分かりますよ。その義足にしている本当の理由が」

 

ハッタリを利かすという目的だけであんな義足をつけてもデメリットの方がでかい。

俺には分かる。本当の目的が。

 

「なん……やと…。せやったら、言ってみい。この義足の本当の意味を」

「良いでしょう。あなたがそんな義足をつけている本当の意味は…」

 

 

もったいぶって、間を開ける。

 

 

塾長は楽しそうに笑顔で見守っている。

俺との付き合いの長い冬児は俺の考えを理解したのか、多少呆れ顔だ。

 

男は冷や汗を流しながら俺の答えを待っている。案外ノリのいい人なのかもしれない。

 

「それは――あなたが烈海王(れつかいおう)に憧れているからだ!」

「………」

 

あれすべった?

塾長の頭には?マークが飛んでいる。ネタが理解できなかったみたいだ。

 

冬児は変わらず呆れ顔。

そして肝心の男は、俯きながら

 

「フッフッフ。惜しかったな、僕が憧れたんは、赫足(あかあし)のゼフや!」

「な、なに!?そっちだったか!」

 

俺この人と歳を超えた親友になれる気がしてきた。

 

「フッ、なかなかやるやないか」

「そっちこそ」

 

ガシッ

俺たちは固い握手を交わした。

 

 

 

「もう終わりましたか」

 

塾長が笑顔で聞いてくる。

しかし、その笑顔はさっきまでの優しい笑顔では無く、威圧感のある笑顔だった。

 

「す、すいません。もう終わりましたから」

 

男が頭を下げながら言う。

 

「それは良かった。時間が押してると言ってたのに、寸劇なんて始めるから」

「「す、すんません」」

 

俺にも非があるので一緒に謝る。

 

「そう言えば紹介がまだでしたね。こちらがあなたたちのクラスを担当する大友 (じん)先生。こう見えても優秀な方なんですよ」

「こ、こう見えてもって酷いなあ。…まあ、そういう事やから二人ともよろしゅう」

 

そう言ってまた笑う大友先生。

 

冬児は無関心だが、俺としてはこういう先生の方がありがたい。

堅苦しいのは苦手だからだ。

 

「ほな、行こか。教室でみんな待っとるし。――じゃ、塾長失礼します」

 

大友先生に続いて俺たちも塾長室を後にした。

 

 

「おっかなかったやろ~」

 

廊下に出るなり大友先生がいきなり言ってきた。

 

「塾長がですか?まあ、逆らえない様な雰囲気をまとってますよね」

「そやろ~。あんな(なり)でこの業界の裏の元締めなんやから質悪いで」

「え?塾長がですか?」

「そやで――って、君知らんの?土御門なんやろ?」

 

俺んちとなんか関係でもあるのか?

俺は意味が分からず困惑してると隣で冬児が、

 

「そうか、倉橋…」

 

冬児が呟くと、大友先生も「そうそう」と相槌を打つ。

冬児に『どういう事だ』と目で訴えると、『あとで教えてやる』と目で返された。

 

 

 

「気ぃつけや、塾内には塾長の式神がわんさかおるからな。サボったりしたら一発やで?どうしても言うときは、僕を頼ればええよ。うまくサボるコツ教えたるわ」

 

転入初日の生徒に、サボるコツを教えようとするなんて…。

冬児は、苦い顔をしている。

 

冬児みたいなやつは、大友先生みたいなタイプが苦手だからな。

 

「まあ、冗談は置いといて。…君らの事情は僕も塾長から聞いとる。相談したいことがあったら遠慮なく言ってええよ」

「じゃあ、さっそく一つ良いですか?」

「お!なんや、さっそく悩み相談か」

「いや、悩みじゃないんですけど。…さっき塾長が言ってたんですけど、飛車丸と角行鬼ってなんですか?」

 

俺の問いを聞いて大友先生の足が止まる。

そして、何言ってんの?みたいな眼差しをこちらに向けてくる。

 

そして、冬児に問いかけるような視線を移す。

 

 

 

冬児は軽くため息を吐きながら、

 

「聞いてないんですか。こいつ、土御門って言ってもほとんど素人ですよ」

「え、冬児は知ってんの?」

「まあ、知らんものは今から覚えたらええよ。『飛車丸』と『角行鬼』いうんは夜光の式神の名や」

「…夜光の式神」

「そや、一説には夜光の式神は千を超える程いたらしいけど、その中でも常に夜光の傍らにいて主を守り続けた二体の護法。それが『飛車丸』と『角行鬼』や」

 

ん?…塾長は俺たちの事を、夏目の噂を知ったうえで『飛車丸』と『角行鬼』に例えたんだよな。

ってことは塾長も夏目の事を――。

 

俺の考えを遮るように大友先生の説明が続く。

 

「しかもその二体は汎式で言う使役式でな。旧日本軍では陰陽将校やった。式神に軍の階級なんて破格の扱いやで。もっとも今でも語り草になるほど強かったって話や」

 

そう説明を締めくくると「少し話し過ぎたな。はよ行こか」とまた歩き始めた。

 

 

 

それ以降はあまり話も無く歩いた。

しばらく歩くと、大友先生が一つのドアの前で止まった。

 

「ここが、君らの教室や」

 

ドアの向こうからは生徒たちの雑談らしき賑わいが感じられる。

「じゃあ、行くで」と大友先生が杖で器用にドアを開けた。

 

「はい、みんなお待たせ~。転入生連れて来たで~」

 

大友先生が軽い調子で教室に入る。

俺たちもそれに続いて教室に入った。

 

 

教室に入ると、さっきまでの雑談とは違うざわめきが起こる。

 

「あれが例の」「どっちが土御門だ」「こんな時期に転入なんて」「美青年二人が同時期に転入…ktkr!」「どっちが受けかな」「ヘアバンの方が攻めでしょ」

 

おい、後半の三人出てこい。

 

 

教室を見渡すと窓際の席に夏目を見つけた。

夏目はそわそわと心配そうにこちらを見ている。

 

そんな夏目に向かって「任せとけ」と、アイコンタクトを送るとパァァァと言う効果音が聞こえそうなほどの笑顔に変わる。

あいつよくあんなので男装がばれないな…。

 

隣にいる冬児も苦笑している。

 

 

「はいはい、静かに~。……じゃあ二人とも自己紹介して」

「土御門春虎。ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、俺のところに来い。以上。」

「阿刀冬児です」

『…………』

 

教室中が静まり返った。

あれ?定番のネタだろ?

 

後ろで大友先生はサムズアップしてくれている。

 

「アホ、陰陽塾に通うようなエリートみたいのがそんなアニメの類を見るか」

「なに!?そんな人生の何が楽しいんだ!」

 

 

マジで人生損してると思うんだが。

こうなったら俺がこの陰陽塾に広めて行くしかないな。

 

 

 

「え~、二人は皆より半年遅れやから、講義について来れへんと思うから、みんなで教えてやってな」

 

白けきった教室内を仕切りなおすように大友先生が言う。

「じゃあ、二人の席は」と大友先生が言いかけた時、スッと生徒の一人が挙手した。

 

 

「なんや、京子クン。質問か?彼女いるんですか~とか何でも聞いてええで」

 

なぜおまえが許可を出す。

俺は心でそう愚痴るが、肝心の京子と呼ばれた女生徒は全く違う質問をしてきた。

 

「こんな時期に転入なんておかしくありませんか。陰陽塾の規定に反してます。普通なら来期の募集を待つべきでしょう」

 

おおう、結構ズバッと言うやつだな。そう思いその女生徒――京子をチラリと見る。

…ん?あいつどっかで見たことあるか?見覚えがあるような、無いような。

 

思い出そうと、京子の顔をまじまじと見てると目があった。

すると視線が合った瞬間、ものすごく敵意のこもった視線で睨まれた。

 

なんでさ。

 

 

 

隣の冬児も似たような視線を送られてるが、どこ吹く風と飄々としてる。

 

「そうやねん。ちょっと事情があってな~。こんな時期に入塾という形になってしまったんや」

 

大友先生が困った顔一つせず答える。

 

「事情ってなんですか」

「物事がある状態に至るまでの理由や状態。また、その結果。事の次第。や」

「先生、意味そのものを言うボケは前に俺が使いました」

「な、なんやて!?」

 

詳しくは『第十七幕』を見てくれ。

 

「くだらないやり取りをしないで下さい!そんな風に逸らかして!他人には言えない事情なんですか!」

「実はその通りやねん」

 

そこまで言うと京子は我慢できないとばかりに立ち上がり、こちらに指を指して言った。

 

 

「あたし達は年に一度の試験を必死の思いで合格したのに、その二人は他人に言えない事情であっさり合格したって言うんですかっ!」

「こらこら、人聞きの悪い。こいつらもちゃんと試験には合格しとるで?」

「二人のためだけに用意した試験が公平とは思えません!」

「まあ、運も実力の内ってことで」

「ふざけないで下さい!」

 

 

 

あ~あ、完璧に大友先生のペースに嵌ってやがる。

京子自身もそれに気づいたのか、一度呼吸を整えて自信を落ち着かせた。

 

「彼が土御門家の人間だからですか」

 

教室の空気が変わった。

 

「土御門の人間は特別待遇ですか?それって贔屓じゃないんですか?」

 

う~ん。冬児が言った通りの展開になったな。

冬児を横目で見ると厄介事好きな親友は、実に嬉しそうな笑顔をしている。

 

大友先生は「参ったな~」と頭を掻いている。

いや、贔屓は否定しろよ。講師だろあんた。

 

 

 

俺もどうしようか悩んでいる時だった。

 

「言いがかりも甚だしいな」

 

静寂な教室の中に凛とした声が響いた。

 

夏目だ。

 

夏目は机に手を置き立ち上がって京子の方を真っ直ぐ見てる。

なぜか教室中の――大友先生までもが、その光景に驚いている。

 

 

「君は、土御門が陰陽塾に対し特別な便宜を図るように手を加えたと言いたいのか?」

 

京子も周りの塾生同様驚いていたが、すぐに立ち直って反論を開始した。

 

「そ、そうよ。この不自然な時期に転入生。しかもそれが土御門の人間なら誰だってそう思うわよ」

「土御門と言っても、春虎はただの分家の人間だ。そんな人物にこの陰陽塾が、規定を曲げてまで融通を利かすと思ってるのかい」

「『ただの分家』?違うでしょ、彼はあなたの式神だって話じゃない。あなたが自分の式神を側に置いておくために、わざわざ彼を陰陽塾に入塾させた。そう考えるのが自然でしょ?」

 

もうそんなことまで知られてんのか?まあ、隠すことでも無いから良いんだが。

 

 

「訂正しよう。『ただの土御門家の』しかもその分家にどうして、陰陽塾がそこまでするんだい?知っての通り、土御門家はもう没落した旧家に過ぎない。それにそんな疑惑をかけるのなら第一候補は君の一族だろ?」

「じゃ、じゃあこの不自然な時期の転入には、他にどんな裏があるのよ!」

「先生の話を聞いてなかったのか。事情があると言っていたじゃないか」

「だからそれじゃ納得できないのよ!」

「君が納得しようがしまいが君には関係の無い話だ。第一、陰陽塾に入るのに君の許可が必要なのか?ここは陰陽術を学ぶ場であって、君の感情を満たす場ではない。気に入らないのなら君が出て行けばいい」

「――くっ!」

 

 

あいつ今絶対『勝った』とか思ってんだろうな~。と他人事のように考えて現実逃避していたが、そろそろ止めた方が良いんじゃないかと思い隣に立つ講師に話しかける。

 

「…止めなくていいんですか」

「おお!そやったな。うっかりしてたわ」

 

あんたそれでも講師か!

隣の親友はと言うと、相も変わらずうれしそうな表情のままだ。

 

夏目は俺をフォローしているつもりかもしれないが、あんな風に正論で言い負かすと後々敵を作ることになるって事を知らないらしい。

 

俺は今後の学園生活を憂いて、ため息しか出なかった。

 

 

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