東京レイヴンズIF~大鴉の羽ばたき~   作:ag260

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第二十九幕 罠〈トラップ〉

 

 

 

先頭を俺と冬児、少し遅れてコン、京子、天馬と続いた四人と一匹は応接室を目指し、廊下を駆けてた。

 

幸い、道中には講師も生徒も居らず、俺たちの事を気にする奴も、呼び止める奴もいない。

 

「そ、そこの廊下を右に曲がって、目の前の部屋が応接室よ!」

「了解!」

 

俺は京子の指示した部屋のドアを蹴破り、

 

「夏目っ!」

 

勢いよく中に飛び込んだ。

 

しかし、

 

「…居ない?」

 

応接室中を見渡すが誰の姿も見当たらない。

同時に応接室に入った冬児も不可解な顔をしている。

 

 

「ちょ、ちょっとあんた達早過ぎよ」

 

少し遅れて後続の京子たちも教室に入ってくる。

そして俺たち同様、応接室に誰も居ないことに気づいた。

 

「兄貴、夏目君は?」

「俺たちが入った時には誰も居なかった。…京子、本当にここで取り調べをしてたのか?」

「お祖母さまがそう言ってたのを聞いたから、間違いないはずだけど…」

「…冬児、夏目の携帯は?」

「……駄目だ。繋がらない」

 

冬児は携帯を耳に当てながら、首を横に振る。

 

「夏目。一体どこに…」

 

俺は悔しげに顔を歪ませる。

 

すると、

 

「春虎様」

 

コンが何かを警戒した面持ちで愛刀の『搗割(かちわり)』を構えながら、主を守るため俺の前に立った。

コンの緊張感を俺も感じとり、真面目な口調で聞く。

 

「何があった」

「なにやら禍々しい気配がこの部屋に向かってきてます」

「禍々しい気配?なんだ、―――――っ!」

 

言葉の全てを言い切る前に、コンの言う禍々しい気配に気づいた。

 

「どうした春虎?」

 

俺の異変に気づいた冬児が問いかけてきたが、俺はその質問に答えることができなかった。

 

 

なぜなら、応接室の奥に設置された窓の向こうから漂ってくる、禍々しい気配から目を離すことができなかったからだ。

冬児もただならぬ雰囲気に気づいたのか、窓を睨みつける。

 

「天馬、京子。窓から離れろ。それと京子は護法式を出しとけ」

「う、うん」

「分かったわ」

 

天馬と京子も俺たちの様子から何か感づいたのか、冬児の言葉に素直に従った。

 

 

「…来るぞっ」

 

俺の言葉に全員が気を窓に集中させた。

 

そして

 

ガシャァァン

 

派手な音を立てて窓を突き破ってきたものは、異形な塊だった。

 

宙に浮くそれの見た目は黒い(もや)の塊みたいだが、蠢き、確かに動物的な存在感を感じる。

 

「な、なんだ!?」

「ま、まさか…蠱毒?」

 

京子が信じられないと言った風に呟いた。

 

「蠱毒?蠱毒ってあの、壺に大量の毒虫を入れて、生き残った一匹を使う式神の事か?」

「…良く知ってたな」

 

冬児がこんな状況にもかかわらず、目を丸くさせ驚いている。

 

「失礼な。俺だって勉強してるんだ」

「本当は?」

「ぬらり〇ょんの孫に載ってた」

「マンガからの知識かよ」

 

冬児は呆れた様にため息を吐いた。

 

「マンガからの知識だって知識には変わりないだろ」

 

冬児の言動に少しムッとしたので言い返すが、

 

「夏目が知ったらどう思うやら」

「うっ…」

 

その冬児の一言に、俺は呻くことしかできなかった。

 

なんて、冬児とバカな会話をしていると

 

「あんた達、随分と余裕じゃない!?」

 

京子が『白桜』と『黒楓』を前に出しながら怒鳴った。

 

「で、でもなんで『蠱毒』が塾舎内に!?このビル全体には結界が張ってあるのに!」

 

天馬がそれこそ信じられないと言った風に叫んだ。

 

「まさか結界が破られたって言うの!?」

「それは無いな。外部から呪術で破られているなら講師たちや警備システムが気づいてるはずだ」

 

京子の疑問に冬児が冷静な口調で応答する。

 

「じゃあ、この『蠱毒』は内部から放たれたものって事!?」

「ああ。おそらくな」

「そんな詮索は後だ!とりあえずここから逃げるぞ!天馬、後ろのドアから外に出ろ!」

「は、はい!」

 

扉の一番近くにいた天馬に指示を出す。が

 

「だ、ダメです兄貴!結界が張られていて、扉が開きません!」

「なに!?」

 

確かに天馬の言うとおり、部屋全体に呪力が流れているのが視える。

 

とその時、今まで蠢いていただけの『蠱毒』に異変が起きた。

靄の中心がプクリと膨れ上がり、そこに眼が浮き出たのだ。

 

その眼はギョロギョロと部屋全体を見渡した後、俺たちに焦点を合わせる。

 

その視線は見るものに生理的嫌悪感を抱かせるようなもので、冬児は顔を険しくし、天馬と京子に至ってはか細い悲鳴を上げた。

 

「来るぞ!気を付けろ!」

 

俺が叫ぶと同時に『蠱毒』はその靄の様な体の一部を俺たちに向かって飛ばしてきた。

 

「『白桜』!『黒楓』!」

「春虎様!お下がりください!」

 

向かってくる『蠱毒』の一部をコンと『白桜』・『黒楓』のコンビが迎撃する。

飛んできた『蠱毒』の一部はコンの小刀や、『白桜』と『黒楓』の刃に切り裂かれ霧散していった。

 

しかし『蠱毒』本体にダメージは無いようで、飛ばした一部もすでに再生し、新たな一部を次々と飛ばしてくる。

 

「チッ。全員、一か所に固まれ!」

 

俺の指示に全員が素早く動く。

コン達は俺たちを庇うように前に出て、次々と来る『蠱毒』の一部を仕留めて行く。

 

「再生するのか。これじゃキリがねぇな」

 

冬児がうんざりした様にぼやく。

 

 

「あ、あの。なんだかこの『蠱毒』兄貴を狙ってるような気がするんだけど」

「…確かに言われてみるとそんな感じね」

 

天馬の言葉に京子が賛同した。

 

「俺を?」

 

確かに良く見ると『蠱毒』は俺を狙っているような動きだった。

 

「でもなんで俺を?」

「お前が夏目の式神だからだろ」

 

俺の疑問に冬児が答える。

 

「消えた夏目と呪捜官。俺たちを逃がさないための結界。そこに現れた『蠱毒』。これらの事から考えられるのは、あの呪捜官がやっぱり夜光信者だったって事だ」

「じゃあ、この『蠱毒』を放ったのもその呪捜官か?」

「状況から考えて、まず間違いないな」

「でも、それで俺が襲われる理由にはならないだろ」

「信者たちからしてみれば、夜光の生まれ変わりである夏目の側に陰陽師として半人前の春虎がいるのが気に食わないんだろうよ」

「マジかよ…」

「ね、ねえ。あたしたちが今、ここで襲撃されてるってことは夏目君の方は…」

 

 

京子が恐る恐ると言った風に聞いてくる。

 

 

「おそらく、あの呪捜官に捕まってるんだろうな。今は無事みたいだが早く助けてやらなけりゃ」

「なんで無事ってわかるのよ?」

式神(オレ)(アイツ)は繋がってるからな」

 

俺は左目の下にある五芒星(セーマン)を指しながら答える。

 

しかし、繋がってると言っても夏目の状態が全て分かるというものでも無く、夏目の体に物理的な傷害が及ぶと俺にも伝わる仕組みなので、眠らされたりしても俺は分からないのである。

 

「夏目をさらったのは夜光信者だ。簡単に夏目に危害は加えるはずが無い。それより今は、ここを切り抜けるのが先決だろ」

 

と冬児が言う。

 

「そうだな。京子、この結界破れるか?」

「やってみなきゃ分からないけど、そんな余裕は無いわよ!」

 

良く見ると京子は額に汗を滲ませていた。

 

『白桜』と『黒楓』の二体の式神を操り、次々と飛んでくる『蠱毒』を打ち落とすのには相当な集中力が必要みたいだった。

 

「クソッ!攻めて俺にも何か武器が有れば…」

 

俺は忌々しげに舌打ちをする。

 

 

「…武器。……あ、そうだ!」

 

天馬が何かを思い出したのか急に大声を上げ、自分のポケットをまさぐり始めた。

 

「あった!兄貴これを!」

 

目的のものを見つけたのか、それを俺に渡してくる。

 

「これは……グローブ?」

 

グローブと言っても野球で使うような物ではなく、格闘技などで使う指の出ているオープンフィンガーグローブだ。

 

「放課後、兄貴に言われて聞き込みをしてたら大友先生が『春虎クンに渡しといてくれへん?』って」

 

ああ、そう言えば以前『まだ色々、作った武具が有るから使ってみて』みたいな事言われてたような。

 

「一応、呪術強化はしてるみたいね」

 

京子が横からグローブを眺めて呟く。

 

確かに良く視るとグローブは呪力を纏っていて甲の部分には真言(マントラ)が刻まれている。

 

「しかし、またなんでグローブだよ。これ武器って呼べるのか?」

 

冬児の愚痴の様なぼやきに、俺は熱く反論した。

 

「いやいや。先生は良く分かってる。古来より(おとこ)の武器と言ったら拳だろ!」

 

いや~。本当に先生は漢の浪漫(ロマン)を理解してるな。

 

 

「いや、そんなに熱く語られても…」

 

冬児が若干、引きながら言う。

天馬なんか目を輝かせながら頷いていると言うのに。

 

 

「何はともあれ、これで良し!俺が『蠱毒』を引き付ける!京子たちはその間に結界を何とかしてくれ!」

「分かったわ。気を付けてね」

「応!」

 

俺はそう言って、グローブをはめながら前に飛び出した。

 

 

「はは、春虎様!?こ、ここは危険です!どど、どうか下がってくだ――――あっ!春虎様!」

 

いきなり前に来た俺に気を取られたのか、慌てたコンの脇を数片の『蠱毒』がすり抜け、俺に向かってくる。

 

俺は向かってきた『蠱毒』を迎撃するために構え、

 

「衝撃のファーストブリットォォォォ!!」

 

強烈な右ストレートを繰り出した。

 

 

俺の右ストレートを食らった『蠱毒』は消し飛び、直撃していない『蠱毒』さえも衝撃波で吹き飛んだ。

 

「こっちは主がピンチなんだ。お前みたいなのに構ってる暇はねぇんだよ。悪いが速攻で決着(ケリ)をつけさせてもらうぜ!」

 

俺は右拳を突き出しながらそう宣言した。

 

「コン!」

「はは、はい!」

 

今まで呆然としてたコンが急に話しかけられ驚きながらも返事をする。

 

 

「俺が囮になる。その隙にお前は本体を狙え」

「きき、危険です!囮ならばこのコンが!」

「狙われてるのは俺だ。それにコンの隠形の術なら背後を取りやすいはずだ」

「………分かりました。お気をつけて」

 

そう言ってコンは隠形の術を使い、姿を消した。

 

コンが姿を消した事に『蠱毒』は一瞬、警戒したような様子を見せたが、標的の俺が目の前に残っているせいか攻撃を全て俺に集中させてきた。

 

 

一気に襲いくる十数片の『蠱毒』の一部。

 

「ハァァァァ!」

 

俺はそれを、天馬星座の十三の星の軌跡を描く構えで待ち受けた。

 

 

そして次の瞬間、

 

「喰らえ!ペガサス流星拳!!」

 

高速の拳の連打が、襲いくる『蠱毒』を全て打ち落とした。

 

「俺の小宇宙(コスモ)じゃ、さすがに音速は超えられないか」

「お前は聖闘士(セイント)か」

 

後ろにいる冬児がツッコミを入れるが気にしない。

 

 

「どんどん行くぜ!」

 

次々と飛んでくる『蠱毒』の一部を叩き落としていく。

 

がしかし、次々と止まることの無い『蠱毒』の猛攻に体力を削られ、次第に押され始める。

 

「クッ。撃滅のセカンドブリットォォォ!」

 

なんとか襲い掛かってくる『蠱毒』を強烈な右ストレートで吹き飛ばすも『蠱毒』本体は次の攻撃に移ろうとしていた。

 

 

このままではいずれ押し切られてしまうだろう。

 

だが俺は焦っていなかった。

なぜなら、

 

「今だコン!」

「はいっ!」

 

既にコンが『蠱毒』の背後に回り込んでいたからだ。

 

 

「ハァァッ!」

 

コンの気合の入った声と共に小刀が振り下ろされる。

 

 

ズバァッ!

 

 

コンの一閃は見事に『蠱毒』を縦に両断した。

両断された『蠱毒』は力無く地面に落ちた。

 

「良し!良くやったコン!」

 

いいタイミングでやってくれたコンを褒める。

 

しかし、いつもなら俺が褒めると『あああ、ありがとうございます!』と千切れんばかりに尻尾を左右に振りながら喜ぶのだが、なぜか今回はそうならず厳しい面持ちで両断した『蠱毒』を睨んでいる。

 

「どうした、コン?」

「春虎様。お気を付けください。彼奴(あやつ)切った手応えがまるでありませんでした。おそらくはまだ…」

「なに?」

 

 

コンの言葉に驚き『蠱毒』を見ると、確かに両断したはずなのに消えておらず、まだもぞもぞと蠢いている。

 

「冗談、だろ…」

 

だが両断されたはずの『蠱毒』は俺の言葉を否定するかのように宙に浮き、再び一つに戻った。

 

 

一つに戻った『蠱毒』は俺たちに決定打が無いと判断したのか、攻撃方法を体の一部を飛ばす遠距離攻撃から体の一部を鞭のように変形させ、それによる近接打撃に切り替えた。

 

 

「っ!退くぞコン!」

 

俺とコンは何とか攻撃を捌きながら下がる。

が、完全には捌き切れずに俺の体には細かな傷が増えていく。

 

 

「あんな奴一体どうしろってんだ!」

 

一瞬、チラリと背後を覗けば、すぐ後ろには結界を破ろうとしてる京子たちがいる。

これ以上下がったら、京子たちにも攻撃の手が回るかもしれない。

 

 

「どわっ!?」

「春虎様!」

 

そんな事を考えた隙を突かれ、『蠱毒』の足元への攻撃によって体勢を崩されてしまった。

それを好機(チャンス)と見たのか『蠱毒』は俺に対し、体当たりを仕掛けてきた。

 

 

「クソッ!」

防御をするには間に合わず、俺は咄嗟(とっさ)に左拳を突き出した。

拳を出した後に攻撃が効かない事を思い出したが、出した拳を引っ込めることも出来ない。

 

ドンッ

 

しかし、効かないと思っていた拳には何かを殴った鈍い感触が残った。

 

 

「え?」

 

拳の感触に驚き『蠱毒』の方を振り返ると、『蠱毒』は後方に弾かれ、激しくラグを引き起こしていた。

 

「効いた?…なんで?」

「は、春虎様。そそ、その手甲。な、なにやら光っていますが」

 

 

コンに言われて大友先生作のグローブを見ると、甲の部分に刻まれている真言が淡い光を

放っていた。

 

「こ、このグローブの効力なのか?」

「お、おそらくは」

 

 

確かに、他の要因も考えられない。

だとするとやはり、俺の攻撃が効いたのはこのグローブのおかげなのか。

 

「さすが大友先生!良い仕事するなぁ!」

 

しかしこのタイミングでこんな武器を渡されるのも都合が良過ぎる気もするが…。

まるでこうなる事を知っていたような。

 

……まあ、俺の考えすぎか。

 

「これなら『蠱毒』にダメージを与えられる!コン、俺が前に出る。援護頼んだぜ!」

「へ?は、春虎様!?」

 

俺はコンの返事を聞く前に『蠱毒』に向かって駆けだした。

 

 

『蠱毒』は接近戦を危険と判断したらしく攻撃方法を体の一部を飛ばす遠距離攻撃に戻し、俺を近づけさせまいと次々と一部を飛ばしてくる。

 

 

正面から飛んでくる『蠱毒』の攻撃は拳で打ち落としつつ、左右からの攻撃は無視して最短距離で『蠱毒』に突っ込んだ。

 

無視した左右からの攻撃が俺を襲おうとするが、攻撃が当たる直前に俺の背後から飛んできた火の玉がそれを迎撃する。

 

「(ナイスフォローだ、コン!)」

 

胸中でコンに賛辞を送りながら強引に前に進み、『蠱毒』の懐に入った。

 

 

「『蠱毒(おまえ)』をブッ飛ばした後はお前の主をブッ飛ばす!夏目に手を出した事を後悔させてやる!抹殺のラストブリットォォォ!!」

 

俺の渾身の右拳が『蠱毒』を吹き飛ばす。

『蠱毒』は消滅しなかったものの激しくラグを起こし、もう動く力すら無いようだ。

 

 

「解けたぁ!春虎、結界が解けたわよ!」

 

俺が勝ちを確信したと同時に京子たちの方も仕事が終わった。

 

「あっちも終わったみたいだし、こっちも終わらせるか」

 

俺は止めを刺すために動けない『蠱毒』の前に立った。

 

止めを刺そうと拳を振り上げたその時、

 

「待て、春虎」

 

冬児が俺の拳を掴んで止めた。

 

「なにすんだ?さっさと止めを刺さないとまた襲ってくるぞ?」

「いや、コイツにはまだ使い道があるんでな」

 

 

そう言って『蠱毒』を見下ろしながら冬児はニヤリと笑った。

 

 

 

 

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