今日の天気は雲一つなく、天気すらも『五芒祭』の成功を願ってくれているような気持ちのいい快晴だ。
『五芒祭』は主に陰陽師全体の社会に対するイメージアップとPRと言う目的だが、塾生の俺たちにしてみれば数少ない『学生らしい』思い出を作れる場だ。
クラスのみんなや学園全体が口には出さないが、この『五芒祭』の成功を願っている。
もちろん俺もその一人だ。
成り行きでだが、一学年の代表を任されているんだ。
必ず、成功させてみせる!
「じゃあ、そのためにも
「……成功させてみせる!」
「現実逃避するな」
更衣室代わりに連れてこられた近くの空き教室。
ズイッと紙袋(in執事服)を押し付けてくる冬児。
…これが現実かっ。
「…マジで着るのかよ」
「諦めろ。着る以外の選択肢はお前に無い」
確かにここで逃げたら、後で夏目と京子からどんな目に合うか想像するだけで恐ろしい。
「…はぁ、一体何の罰ゲームだよ」
俺は抵抗を諦め、受け取った紙袋の中身に袖を通した。
「てか、うちの学年は『式神喫茶』だろ?別にコスプレ喫茶じゃないんだから、こんな恰好する必要あるのか?」
「……チッ」
「おい!なんだ今の露骨な舌打ちと、気付きやがったか、みたいな表情は!?」
―――数分後―――
「へぇ、結構似合うじゃねーか。馬子にも衣装ってやつだな」
「うるせぇ」
俺は今、白いシャツ、燕尾ジャケット、ウエストコート、スラックス、革靴、黒いネクタイ、白手袋と言う完璧な執事服を身に着けていた。
さらに言うと、普段は全くいじらない髪型も冬児に
執事と言うくらいだからだろうか、服自体は意外と機能性が高く、思ったほど堅苦しさは無い。
『ただいま、九時五分前です。後、五分で『五芒祭』が開催されます。繰り返します。ただいま―――――』
肩を回したり、屈伸したりと服の具合を確かめていた時、スピーカーから声が響いた。
「じゃあ、俺たちも行くか」
「はぁ、この格好であいつ等の前に出るのかよ」
「いい加減、腹括れ」
そんな会話をしている内に視聴覚室の前に着いた。
しょうがない。ここまで来たら開き直るか。
ガラッ
「お早うございます。皆様方」
「そこまで開き直ったか」
扉を開けて、右手を胸に当てながら礼をする。
冬児からすぐさまツッコミが入ったが、やるなら徹底的にやるのが俺の信条だ。
「……?」
礼の格好を保ったままいるが、一向に冬児以外の反応が感じられない。
すべったか?
恐る恐る顔を上げて教室内を見ると、中にいる全員がこちらを向いて唖然とした表情を浮かべていた。
「……な、なんだよ。さすがに何かしらのリアクションは取ってくれよ」
「ま、まさか……春虎?」
「はぁ?俺以外の誰に見えるんだよ?」
夏目の問いに俺が答えた瞬間
『えええええええええええ!!』
俺と冬児以外の全員が驚きの声を上げた。
「ほ、本当に春虎君ですか!?」
「う、嘘でしょ!?」
「ははは春虎様!?なな、なぜそのようなお召し物を!?」
「兄貴!凄く似合ってます!」
若干、素が出てる夏目に冷や汗が出たが、周りの奴らも騒いでいて幸い誰にも気付かれてはいないようだった。
「本当に土御門かよ」
「か、カッコいい」
「英国貴族に仕えてる本物の執事かと思ったぜ」
「頭良さそうに見えるわ」
「品も良くて冷静そうにも見えるな」
おいおい、何て言い草だ。
それじゃまるで普段の俺が、
「まあ、確かに普段の春虎はバカで品も悪い、冷静なんて言葉とは無縁の男だな」
「そこまで言うか!?」
「日ごろの行いだな」
ま、まあ、頭も品も良いとは言えないし、直ぐに熱くなる性格だが、そこまで言われる程じゃ…言われる程じゃ…言われ……。
「――――――ッ」
「無言で涙を流すな」
「これは涙じゃない!心の汗だ!」
「はいはい。お前らも物珍しい物を見たい気持ちは分かるが、そろそろ『五芒祭』が始まる時間だ。各自の持ち場に着いてくれ」
「…俺は珍獣扱いなのか?」
冬児がいまだにざわついているクラスメイト達に向かって言い放つ。
その言葉を聞いて他のクラスメイト達も、チラチラとこちらは見ているが、各自の持ち場に移動し始める。
そして、時計が九時ちょうどを示したと同時にスピーカーから
『ただいまより、『五芒祭』を開催します!』
学園祭の開幕を告げる言葉が陰陽塾全体に響いた。
「ものすごい繁盛っぷりだな」
「ああ、予想以上だぜ」
結果から言うと、式神喫茶、いや『五芒祭』は大盛況していた。
陰陽界初の試みと言う事で話題性もあり、学園祭と言うことで一般の人も入りやすいのだろう。
『五芒祭』が始まって一時間もしないうちに塾内は一般客でいっぱいになっていた。
「特にコンの集客力は凄まじいな」
この式神喫茶が繁盛しているのは、コンがウェイターをしていると言うのも大きな理由の一つだろう。
一般人は式神と聞くと、京子の使役している『白桜』・『黒楓』のような無骨な鎧武者などをイメージするが、そんなイメージとは百八十度違ったかわいらしいメイド服を着た幼い少女の姿をしたコンは、男女問わずお客さんたちに絶大な人気を誇っていた。
「まったくだ。それと早くお前も仕事に行ってくれ。お前だってウェイターなんだからな」
「はいはい。やりゃ良いんだろ」
「しっかり頼むぜ」
冬児に言われ、俺もホールに向かった。
すると俺がホールに出た途端、店内にいる客が
『え?あれも式神か?』
『人間じゃないの?』
『でも、ここは式神喫茶だろ?』
『なんで執事がこんな所に?』
等とざわつき始めた。
俺はそんなざわつきを無視し、テーブルに着いたばかりな二人組の二十代くらいの女性客に注文を聞きに行く。
「お嬢様方。ご注文はお決まりでしょうか?」
「は!?え、えっと、じゃあアイスコーヒーとサンドイッチを…」
「わ、私も同じやつで…」
「畏まりました。アイスコーヒーとサンドイッチが二つですね。では、少々お待ちください」
注文を確認して、それを調理班に伝えるため一度裏に下がる。
「ブハァッ!」
裏の客から見えないところに下がると、俺は胸に詰まっていた息を一気に吐き出した。
「何やってんだ?」
「…身内でやるノリなら良いが、接客みたいに真面目な雰囲気の中でやると緊張が半端ないんだよ」
「お前でも緊張するんだな」
冬児が意地の悪い笑みを含んだ顔でそう言った。
「普通の接客程度ならしないと思うが、何せこんな服装であんなキャラを演じてるからな」
「服装はともかく、キャラは自分でやってるじゃねぇか」
中途半端は嫌いなんだよな。
その後、完成したアイスコーヒーとサンドイッチをトレイに載せ、さっきの女性客のところへ戻る。
「お待たせしました。アイスコーヒーとサンドイッチになります」
「あ、ありがとうございます」
「なにかございましたら、またお申し付けください」
そう言ってテーブルから離れ、今の内は特にすることも無いのでそのまま壁際で待機する。
「ね、ねえ、さっきの子もここの生徒かな?」
「そうみたいよ。結構かっこよかったよね」
待機していると、さっきの女性二人組の会話が聞こえてきた。
耳を澄ますと言葉は違うが、似たような会話がちらほらと聞こえる。
ふむ。学園祭の雰囲気と、この執事服の補正があるとは言え、他人から好評されるのは気分が良いな。
そんな事を顔には出さずに考えていると、
「………」
「コン?」
俺の足元でコンが不機嫌そうにこちらを睨んでいた。
俺が周りに聞こえないように小声で話しかけても、なにも言わずにただジト目で睨んでくる。
「どうしたんだ――ッ!?」
コンの行動に困惑していると、右わき腹に突然痛みが走った。
突然の痛みの驚きながら振り返ると、そこにはコンと同じく不機嫌そうな顔をした夏目が立っていた。
どうやら、さっきの痛みは夏目が俺の右わき腹をつねったのが原因のようだ。
「な、何だよ突然」
「……バカ」
なんでいきなりわき腹をつねられて、バカ呼ばわりまでされなきゃいけないんだ!?
夏目とコンのいきなりの奇行で、俺が本格的に混乱し始めると、
「ッ!?」
今度は左わき腹に痛みが走った。
振り返ると、今度は京子がこれまた不機嫌そうな顔をして左わき腹をつねっていた。
「きょ、京子までなんだよ?」
「……ふん」
何なんだ一体!?
そんなやり取りをしていると客にも異変が伝わったのか、こちらを見てまたざわつき始めた。
「あの隣にいる可愛い子、彼女かな?」
「そうじゃないの?あんだけカッコよかったら彼女くらいいるでしょ」
彼女?
夏目は男装しているし、コンはさすがに違うだろうから、京子のことを言ってるのか?
そんな客の声が聞こえると、何故かコンの視線と夏目のつねりがさらに激しくなる。
しかし、激しさを増すコンと夏目に反比例するように京子の視線とつねりは弱まった。
な、…なんで?
そんな俺たちのやり取りを見て、さらに客がざわつき始める。
「あの男、まさかあんな小さな女の子、しかも式神に手を出してるのか!?」
「執事服の春虎君とその姿にドキドキの夏目君。これは薄い本が売れるわ!!」
待ってくれえええええ!!
なんか可笑しな誤解されてるし、後半の奴に至ってはクラスメイトだろ!!
客の誤解とクラスメイトの悪行を正すべく、詰め寄ろうとした時、
『間もなく、陰陽術タッグバトルトーナメントが開催されます。出場する生徒は速やかに呪練場アリーナに集合してください。繰り返します―――――』
スピーカーからタッグバトルトーナメントの開催を知らせる放送が聞こえた。
「もうそんな時間!?春虎、急ぐわよ!」
「ちょ、ちょっと待った!せめて誤解だけでも解かせてくれ!」
「そんな
「俺の社会的地位がかかってんだよ!?」
俺の必死な叫びもむなしく、京子に襟首を掴まれその場を強制退場させられる。
「冬児、ぼくたちも行くよ」
「……本当にやるのかよ」
「もちろん!」
「……はぁ…」
アリーナに着くと、大友先生は参加者があまり集まっていないなどと言っていたが、ざっと見ても三十組、六十人近くの塾生がアリーナに集まっていた。
そしてその六十人近い全ての塾生の視線が俺たち、正確には俺を見ている。
その理由は実に単純だ。
「……なぁ、せめて着替えていいか?」
「駄目よ。そっちの方がカッコい、―――――宣伝になるじゃない。春虎は代表なんだから、自ら率先して宣伝しないと」
確かに京子の言う通りなんだが…なんか途中に変な間が無かったか?
「そ、そんな間なんて無かったわよ!そ、それより、もう始まるみたいよ!」
「……ナチュラルに心読むなって」
『えー、みなさん。お静かに』
即席で作られた仮設の檀上に講師の藤原先生が上がり、マイクからその声がアリーナに響く。
『これより、トーナメント表の発表を行います。今回は三十二組と参加者が多かったので、AからDブロックに分けての対戦と言う形式になります』
…どういう事だ?
参加者が少ないって言うから俺たちが駆り出されたのに、参加者は十分にいるじゃないか。
参加受付の閉め切り間際に皆参加したって言うのか?
『それでは、壇上をご覧ください』
俺の考えに割り込む様に先生の声が入る。
顔を上げると、壇上の上でツバメを模した式神が数羽旋回していた。
その旋回しているツバメに向かって藤原先生が呪符を投じる。
『
呪符は呪文と共に発光し、一枚の大きな紙に変わった。
ツバメたちは呪符が大きな紙に変わると、素早く両端をついばみ、観客にも見える様に広げていく。
その様子に、観客席にいる一般のお客さんからも『おおおお!』と驚きの声が上がった。
広げられた紙には、AからDブロックまでのトーナメント表が書かれている。
「…あたし達はAブロックね。しかも第一試合よ」
「みたいだな。望むところさ」
『それでは、まずAブロックの第一試合から第四試合までを同時並行で行うので、該当生徒は控室へ、それ以外の生徒は一次解散し、予定の時間になったらアリーナに戻ってください。最初の試合は十分後からです。みなさん、優勝を目指して頑張ってください』
先生のその言葉をきっかけにアリーナに居た生徒たちがぞろぞろと移動を始める。
「あたし達も控室に移動しましょ」
「ああ、そうだ………ん?」
「どうしたの?」
「いや、…なんか視線を感じて」
「さっきから皆が春虎のこと見てるの気づいてないの?」
「そう言う奇異の視線じゃなくて、なんか悪意とか敵意の含まれた視線みたいな」
気配を辿ろうにも俺を見ている視線が多すぎていまいち判別がつかん。
「敵意?そんなの当り前じゃない」
「はぁ?」
「隣にこんな美少女が歩いているのよ?そりゃ、嫉妬の視線もむけられるでしょ」
「…………」
「ちょっと!?無言て立ち去らないでよ!!」
「自分を美少女とか言っちゃうような痛い子と友達だって思われたくないんだよ」
「さっきのは春虎の緊張を和らげてあげようとした冗談よ!!」
自分でも少し恥ずかしかったのか、顔を微かに赤くさせて京子が叫ぶ。
「緊張?俺がか?」
「そうよ。周りの視線に敏感になったり、少し緊張してるんでしょ?」
自分でも知らないうちに緊張でもしてたか?
「ほら、さっさと行くわよ。最後にコンビネーションの確認をしときましょ」
「……そうだな」
分からない先の事よりも、目の前に迫った試合に集中するか。
俺は気持ちを切り替え、前を歩く京子の後を追った。
「……ふぅ。危うく見つかるとこでしたね。春虎君の気配察知能力は獣並みですから、気を付けないと」
「それで
「まったく、主を差し置いて他の女性と遊ぶなんて。不埒な式神には、お仕置――もとい調きょ――もとい
「言い直せてねぇよ」
「フフフ、どんな罰を与えてあげましょうか。なるべく苦しいのが良いですよね?」
「……許せ春虎。俺には止められん」
「フフフフフフ」
前回の更新から一か月以上経ってしまいました。
更新が遅れてしまい申し訳ございません。
トーナメントの一回戦までまとめて書こうと思ったのですが、それだとさらに更新が遅くなってしまいそうでしたので、ここで切って投稿することにしました。
次回はトーナメントの第一回戦から始まります。
今回春虎の使う武器はまたしても大友先生力作のネタ武器になります。お楽しみに。
パソコンの調子が回復してから急ピッチで書き上げた物なので、文中に誤字脱字があるかも知れませんが、発見の際にはご一報ください。
ネタ案・ダメだし・誤字脱字修正・常時募集中です。