懲罰艦隊これくしょん -罰これ-   作:蒼樹物書

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第二話『初任務は掃海任務』

 おはようございます。

 粗末なベッドから身を起こす。僕の新たな居室は元漁港の事務棟、その一室。二階建ての古びたこの建物は剥き出しの鉄骨は赤錆て、コンクリートには磯の匂いが染み付いている。室内も、同様だ。

 一応、士官なんだけどな、僕。掛け布団も少し黴臭い。到着前に準備はしておいてくれたらしい、ハンガーにかけられた新品の軍服に着替える。まずは形からだ。白い軍服、白い軍帽に身を包み姿見で確認すると一端の軍人のように思えるからやはり制服とは意味あるものだと思う。

 

 今日は早速出撃を指揮せねばならないらしい。道中、与えられた教練書に目を通したり護衛の為同道した佐世保鎮守府の艦娘達、その休憩中に色々教えを請うたりはしたものの、不安しかない。

 ……懲罰艦隊の指揮と、腐ることは出来る。が、昨日顔合わせした駆逐艦二人、曙と電。幼い容姿の彼女達が国に残してきた妹達と重なる。

 誰も僕には、僕の艦隊には期待などしていない。それは今の待遇を考えれば瞭然だ。だが、だからといって手を抜き彼女達を沈めることを僕は出来ない。否、したくない。

 

 そう決意を新たにすると、ノックもなしにドアが錆付いた軋みを響かせながらゆっくりと開かれた。驚きそちらに目をやる。ドアの隙間から顔を覗かせたのは鹿島さんだった。

 

 「あら……おはようございます。朝駆け、げふん、起こしに参ったのですが……うふふ、お早いのですね、提督さん」

 「おはよう、ございます」

 

 彼女に早いと言われると別の意味に取れそうで嫌だ。初見の印象は柔らかで優しい鹿島さんだが、昨日の彼女の話により僕の中ですっかりそういうキャラクターとして固定されてしまった。クソビッチめ。

 やはり女性は純潔の大和撫子に限る、尻軽はごめんだ。間違っても僕の妹達はこんなのになって欲しくない。とはいえ彼女も左遷されたとは言え懲罰対象の艦娘ではない。監視役、護衛役、そして秘書艦も勤めてくれるのだから貞操に気をつけながらも彼女の助けは必要だ。

 

 「では執務室にて本日の出撃についてご説明します」

 「はい、よろしくお願いします」

 

 早速だ。鹿島さんに促され、自室の隣、執務室に移る。こちらも元の設備を利用した簡易な物だ。アルミ製の安っぽい事務机に古びた応接セット、前の横須賀の事務所の方が上等な程だ。

 

 「初の任務は掃海任務となります」

 

 掃海任務、それは所定の海域にばら撒かれた機雷の除去だ。軍人として素人とはいえ、ある程度の知識はある。先の人類同士による大戦末期、母国には敵対していた彼の国により通商破壊を目的とした機雷が大量に投入された。

 深海棲艦に対応すべく出撃した数少なくなってしまったなけなしの艦が多く沈められた原因でもある。

 しかし機雷は大きな鋼鉄製の船に対応すべく開発された兵器だ、こんな海域に掃海を必要とされる程存在するのだろうか。今海域を航行すべき艦娘は当然ながら艦船に対応している旧来の機雷に引っ掛かりなどしないのだ。

 

 「掃海とは称していますが、排除目標は深海棲艦の新種であるとされています」

 

 仮呼称、磁気反応忌雷。つい最近確認された新種の深海棲艦。その特徴は人類の発明した機雷に近いという。これまで戦艦種や空母種など運用、性能面で艦娘と同じく艦船に近い深海棲艦だが、連中は機雷まで真似始めたらしい。

 

 曰く、不幸にも接触した場合触手が絡みつき艦娘を拘束、自爆するらしい。サイズは小型ではあるのだが艦娘を一撃で轟沈させるに足るのだとか。

 確認されたのはここの近海、その新型の確認と可能な限りの排除が今回の任務となる。

 広大な海でそんな小型の機雷を捕捉できるのか、とも思うがとりあえず指定され巡航ルートを進み索敵せよとのことだ。いきなり敵艦隊へ特攻させろとかでなかっただけマシだと思いたい。

 

 「では、作戦室へ。出撃は電さんと曙さんです」

 

 練習艦であり、唯一懲罰艦でない鹿島さんは出撃を許されていない。駆逐艦二人が最大戦力だ、他に選択肢はない。了すると一階に降りてその一室へ。

 作戦室と称されてはいるが事務棟の一室に通信機やら海図やらを置いた簡単なものだ。通常の作戦室は敵からの攻撃の可能性を考え地下に設置されるのが通例だというのに。

 電と曙は既に港で出撃準備を済ませているそうだ。さて、僕の初めての実戦。

 通信機は鹿島さんが操作、艦隊……といっても二人だけだが、予定の巡航ルートを進むだけ。僕のやることは待つことだけだ。

 どうか、何事もありませんように。

 

 

 「いやッ……離せっ、ぶっ殺されたいの!?」

 「やめ、やめて……くださ、ひぁあぁぁぁあ!!」

 

 ダメでした。作戦室、出撃している二人と繋がっている通信機は妙に艶やかな二人の悲鳴を響かせていた。

 

 「ひっ、ぃや、触る、な――きゃぁッ」

 「おねが、そんなところ、ダメ、なので、すぅ……」

 

 ドキドキしてきた。僕はロリコンじゃない。鹿島さんがこちらを見てにやにやしている。僕はロリコンじゃない。

 ともかく、冗談のような状況だが危機的状況だ、今の段階はともかく報告ではこの後自爆する仕様のはずだ。何か、手はないのか。

 

 「曙、電! 振り解けないのか!?」

 「呼び捨てにすんなクソ提督!」

 「き、きついのです……! うねうね、粘ついて、絡まって……」

 

 くそ、一体どうしたら……。鹿島さん、電の言葉にサムズアップするんじゃない。幼女もイけるのかアンタ。こいつを無理矢理出撃させればよかった。

 機雷は、外面や動作は事前にあった報告の通り。しかしソナーにかからないよう海底に潜んだ状態から急激に上昇、この様だ。いくら艦娘の砲が強力とはいえこの状況では仇になる、何より誘爆も怖い。それくらいは、素人の僕でも分かる。

 が、打開策が思いつかない。やはり、僕では、ダメなのか。

 

 「本ッ当に役に立たないわね、クソ提督ッ!」

 「――すまない」

 「……チッ、見てなさい! あたしが、何とかするわよ!」

 

 直後。

 

 通信機の音が割れる。爆発音。

 二人の位置を示すマーカー、その一つが消滅する。そちらは、曙の健在を示すマーカーだった。

 

 

 「た、たかが主砲と魚雷管と機関部がやられただけなんだから……」

 「たかがっていうのか、それ」

 「は、早く入渠しないとなのですっ」

 

 盛大に『魚雷を』自爆させて自身諸共、絡み付く機雷を吹っ飛ばした曙は電を拘束していた機雷を排除するとそれきり気を失ったそうだ。曙が意識を戻したのは、電によって港まで何とか運ばれ担架の上に乗せられたつい先ほど。

 曙につけられた発信機は魚雷自爆の衝撃で吹っ飛んでしまったらしい。

 無茶をする。誘爆のダメージも受けていれば。魚雷がこんな艦隊に配備されるはずのないもっと高性能の物であれば。

 何というか、向こう見ずにも程がある……僕の頼りなさに問題があることは否定しないが。

 電と共に前後、曙の横たわる担架を上げる。入居施設は鹿島さんが先導し案内してくれるそうだ。大破し衣服の大きく破れた彼女を見る目、心配する表面の奥底に情欲の光があったことを僕は見逃していない。

 しかし今は僕の上着をかけ布団のようにかけてガードしている。年頃の女の子だ、僕にも見られたくないだろう。ただでさえ、クソとか言われて嫌われているし。

 後、鹿島さんは聞かないだろうがお説教だ。

 

 とにかく今は曙の修復だ。

 入渠施設に到着すると曙の世話を電に任せ、鹿島さんの首根っこを掴んで席を外す。

 あれは冗談のような代物ではあるが危険なのは確かだ、早く報告書を纏めねば。

 

 

 ――あぁ、生きてる。

 

 あたしが目を覚ました時、そこは入渠施設のベッドの上だった。

 入渠施設……とはいっても元漁港の救護室に無理矢理に艦娘修復用のドッグを置いた簡易的な物だ。ドッグの修復液に浸かる間にまた気を失っていたらしい。

 修復は既に完了しており、着替えもさせてくれたようだった。サイドテーブルにお大事に、との書置き。電の文字だ、世話になったようだから、お礼、言わないと。

 

 それと。

 

 「クソ提督。こんなことしか、できないんだから」

 

 シーツの上から、あいつの上着がかけられていた。

 あぁ、せっかくの新品の白が汚れてしまっている。

 

 まるで、彼のようだ。

 もう会えない、遠くに行ってしまった彼のことを思い出す。彼も、こうしてあたしに上着をかけてくれたっけ。うふふふふふ。

 『今回の』提督も、私を、こんな私を愛してくれるだろうか。うふふふふふふ。

 シーツを脇にやり、白の上着、男の匂いに包まれて再び眠りに沈む。

 そう、これだ、これ。うふふふふふふふ。

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