懲罰艦隊これくしょん -罰これ-   作:蒼樹物書

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第三話『補充戦力が到着しました』

「ふう……」

 

 報告書を漸く纏め終える。書類仕事は元の職業柄慣れているが、内容が敵新兵器――例の機雷のことだ――についての報告書となると手こずってしまう。期限ぎりぎりだった。

 

 「提督さん、連絡船が来ました」

 「ああ。こちらも丁度出来上がった所だよ」

 

 そう、この孤島には大本営により手配される連絡船が訪れる。それは報告書や命令書のやり取り、物資の搬入、そして監視の為だ。出迎えの為、鹿島さんと共に港へ。曙と電は既に向かったそうだ。

 

 「補充物資は以上で……それから、補充戦力が二名着任となるそうです」

 「おお!」

 

 港へ向かう道すがら、ファイルを読み上げながら今回到着する補充物資の確認をする鹿島さんから嬉しい知らせ。何をするにしても手持ち戦力は多いに越したことはない……はずだ。うちは、懲罰艦隊である以上問題児しか来ない。よって戦力が増えることは問題児が増えることとイコール。それほど、問題ない娘だといいなぁ……。

 

 事務棟を出て港へ。曙と電は貨物の運び出しをしてくれていた。ご苦労様、と伝えると電は荷物を落としそうにしながらも元気に返事、曙は鼻をふん、と吹かすとあからさまに僕を無視した。胃が痛い。

 連絡船の方へ目をやると海兵に腰縄を引かれた二人の少女が下船する所だった。

 自然、目と目が合う。僕は白の軍服だ、目立つし彼女たちにとってどういう人間かすぐに理解できるのだろう。

 どこか和風な印象を受けるセーラー服の少女は手錠の為、敬礼の代わりにぺこり、と頭を下げ。

 紺の水着……水着? の少女は不機嫌そうに会釈する程度に頭を下げた。

 

 「……ごーやでち。元脱走兵」

 「あ、あああ明石です……同じく元脱走兵です……」

 

 ダメそうです。

 

 

 二人を鍵付、勿論外から施錠できる私室……牢屋と言った方がわかりやすいか、そちらに入ってもらった後、執務室にて彼女たちの資料へ目を通す。揃って桃色髪、揃って脱走兵だが事情は違うらしい。

 

 まず、伊58、ごーやと呼べとのことだが、元は犯罪者だったようだ。

 とはいってもただの泥棒、海産養殖品を専門にやっていたらしい。近海で生産される海産養殖品は深海棲艦によって食料の自給率が大幅に低下したこの国にとっては重要物資だ。特に鮑、栄螺などは高級嗜好品に分類され闇市ではかなりの値が付く。僕も食べたことがない。

 それらを荒しに荒し、ついにお縄。艦娘適性があったことから艦娘化、鎮守府に着任させられ出撃。

 

 即、逃げた。

 

 もちろんすぐに捕まり、その後教導など様々な手段を講じてはみたものの……隙あらば即座に逃亡。特に注意せよとのことだ。犯罪者を戦わそうだなんてのが土台無理があるというのに。

 

 そして、明石。こちらは前者に比べればよっぽど同情できる。というより、ただ運がないだけだったという他ない。

 

 彼女は艦娘適性があったことから志願した一般女性だ。そこまではいい、立派だ。しかし、着任した場所が悪かった。そこの司令官は、その、色々と問題があったのだ。一言で言うとアホだった。

 海軍重鎮の息子で、本人は正義感に燃え真っ直ぐで向上心に満ちていた。しかし、無能だったのだ。一番タチが悪いタイプだ。その二文字曰く、気合があれば勝てる。例えどんな相手でも。どんな艦種でも。

 だから、工作艦である彼女を前線に突っ込んだらしい。素人の僕でも工作艦を前に出せばどうなるかは想像できる。前線は崩壊、ロクな装備もない明石は迷走、気づけば戦列から離れてしまっていた。それで、脱走兵扱い。そんな無茶な。だが、その二文字の名誉を守る為の生贄になってしまったというのが実の所だろう。運がない。

しかし、流石にこちらではそんな目に遭わせるつもりはない。傍らの鹿島に声をかける。

 

 「明石を呼んでくれないか?」

 

 

 「お、お呼びでしょうか! ま、まさかもう出撃……」

 「いや、しないから。させないから」

 

 いくら戦力不足とはいえ彼女の前の上官、二文字のように出撃させる気はない。彼女は工作艦、明石の艤装適合者。なら、やって欲しいことがある。

 

 「工廠の開設と管理をお願いしたいんだ」

 

 工廠。どの鎮守府にもある艤装の建造、装備の開発を行う場所のことだ。入渠設備と同様、鎮守府の重要施設とされる。むしろ、これらがあるからこそ艦娘の運用基地足り得る。特に他の鎮守府から遠く離れ、そして懲罰艦隊という性質上装備は最低限度の物、それすらも怪しいといったレベルだ。だからこそこの間の魚雷自爆のような無茶も通ったが、まともな戦闘任務がこれから先、命令されることを考えれば少しでもマシな装備が欲しい。

 より高い火力、より長い射程は艦娘を守る盾足り得るのだ。

 

 「む、無理です」

 「……なんで?」

 「ひ、ひと、一通りの訓練は、受けているのですが……そもそも、ここ、妖精さん、いません」

 

 マジですか。

 妖精さん。艦娘誕生のきっかけとなった小人達。彼女達は神出鬼没であり、どこにでもいるというものではない。国内でも数か所でしか確認されていないとのことだ。例えば、最初の横須賀、そして呉や舞鶴、佐世保など。

 それらは古くから海軍縁の地であることが理由であるとされているそうだが、詳しくは知らない。しかし、工廠の機能に彼女達は必須となる。彼女達がいるからこそ、そこに鎮守府が設立されるのだ。

 

 「あっ、それなら、艦娘の修理とかできると聞いたことが! う、うち、入渠設備一つしかなくて」

 「……すみません、修理装備は貴重な装備でして……持ってません」

 

 えーとえーと後は……古びた教本をめくる。後は装備改修……専用の改修資材が必要、と。あるわけない。回されるわけがない。え、あれ? どうしよう。何出来るんだ。

 

 「出撃、ですかね……」

 

 僕は頭を抱えた。

 

 

 「……何の用でちか」

 「話を、聞かせて欲しいと思ってね」

 

 続いて面接その2。明石はその運用について……とりあえず先送りとはなったが。そしてごーやについてはまずは話を、事情を聴こうと思ったのだ。一応、ではあるが指揮下に入ってくれている曙や電、そして明石はともかく明らかにごーやはその気がない。このまま出撃させれば即座に逃亡を図ることは目に見えていた。

 

 「話すことなんてないでち」

 「その、盗みを働いた理由とか。どうしても逃げなくちゃいけない理由とか事情があるんじゃないか、と思ってね」

 

 この世界は戦争の真っただ中にある。食い詰めて艦娘への、兵隊への道を選ぶだなんて悲劇どころか日常だ。僕だって両親を亡くし妹達を食べさせる大黒柱だ。だが、だからといって蔑ろにすべきではないと僕は思う。事情を聴いて、その心を知って分かり合えれば――。

 

 「あ? あるわけねーだろ」

 「鹿島ー」

 

 うん、無理。事前に打ち合わせていた通り後ろから鹿島さんが、座っているごーやの後ろに忍び寄るとその首にかちり、と何かをかけてロックした。

 

 「な、何をするでち!?」

 「うふふふ」

 

 それは、首輪。趣味の悪いハート型の小さな錠付だ。

 

 「うん、素行不良の艦娘を運用するにあたって開発された物なんだけど……こんな形だっけ」

 「私の趣味で改造したものです。えへへ」

 

 えへへじゃねーよ。鎖もつけれるんですよとか聞いてない。ええい。

 

 「逃亡の兆しありとか反抗したりすると、ぼんってなるから」

 「電撃とかの方が素敵なんですけどねぇ」

 「なんてもんつけやがるんでちか!? 鬼! 悪魔! 童貞!!」

 

 誰が童貞か。いや童貞だけど。

 喚き散らすごーやの抗議に耳を塞ぐ。とりあえず、これで運用はでき……できるかなぁ。 

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