懲罰艦隊これくしょん -罰これ-   作:蒼樹物書

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第四話『遠征。回収任務です』

 着任から一週間が過ぎた。

 仮にベテランであっても苦労しそうな一癖も二癖もある指揮下の艦娘達、その運用に一応の目途は立ててみたものの。訂正、一部については未だ模索中だが。

 

 「鹿島。弾薬と燃料の補給くらい何とかならないのかな」

 「難しいですねー」

 

 午後の執務室。生温い井戸水、一応煮沸消毒済みのそれが入ったコップを片手に秘書艦の鹿島に尋ねる。

 ちなみに僕のいるこの鎮守府。どこの国の何という所か僕も知らない。何それ。

 ある程度の範囲の海図は渡されているので、調べられないこともないのだが知った所で何かが変わるとも思えないので早々に諦めた。とりあえず本国では冬のはずだがここは蒸し暑いくらい。たぶん東南の方だろう。

 

 「本部は懲罰艦を適当に処分するのが本命、何かの奇跡で成果上げてくれれば、なんて所に補給まともにしてくれると思います? あはは」

 

 あははじゃねーよ。

 鹿島は優雅に珈琲の入ったカップを傾けながら適当に答えてくれる。高級そうな瓶に入った豆で淹れられたそれは、男からの貢物でいくらでも回ってくるそうだ。僕の分は?

 

 しかし彼女の言うことは誠に遺憾ながら正しい。油の一滴は血の一滴。艦娘達の活躍でいくらか状況が持ちこたえたとはいえ、捨てるような使い方が出来る現在ではない。

 何とか数回出撃する分は確保しているが、これでは訓練に回す分がない。ただでさえ癖のあるうちの艦隊、訓練で少しでもそれをカバー出来れば、と思うのだが……。

 

 「そんな提督さんに朗報ですっ」

 

 嫌な予感しかしない。

 

 「敵兵器の回収任務が命じられました、これは遠征扱いですので成功すれば資源が得られますっ」

 

 おや。

 案外悪くない話だった。

 遠征と呼ばれる各種任務。訓練や警備、海上護衛といった各鎮守府へ命じられる任務で、提督はそれを任意で受諾するかどうか選べる。任務と言いながら拒否権がある為、依頼と言うべきだがその辺もあって遠征と渾名されているのかもしれない。無論遠征以外の任務が命じられることはあり、こちらは拒否できないのだが……話が逸れた。

 

 この遠征だが、成功すれば本部から各種資材が供出される。通常補給される分とは別に、だ。

 僕の鎮守府も例外ではない。慢性的な資材不足な今、願ってもない話だ。

 

 「よし、出撃しよう」

 

 

 「あああぁあぁぁぁまた、ぜぜぜ前線ぅぅうぅぅ……」

 「落ち着いて、明石」

 

 例によって鹿島と共に作戦室。通信機から響く明石の動揺した声を落ち着かせるように、努めて穏やかな声で伝える。やっぱダメそう。

 今回の出撃メンバーは電に曙、ごーやに明石。前回のメンバーにこの間補充された二人が追加された形だ。

 

 機能停止した敵兵器の回収、というのが今回の任務。

 内容としてはこの間行われた大規模作戦で呉の艦隊が撃破した鬼級空母、それが機能停止した状態で漂流しているのが発見された為、それを回収・本国に移送することだ。

 目標の本国への移送は別部隊が行ってくれるそうなので、こちらは回収し鎮守府まで持ち帰るまでが任務。

 

 機能停止した深海棲艦の回収自体は珍しい任務ではない、らしい。今までも何体も鹵獲し研究所送り……たぶん解剖やら何やら思い尽く限りはされているだろうが、詳しい情報は下までは回ってこない。

 

 貴重なデータ、特に鬼級ともなればレア物と言っていいのか、重要な研究対象のはずだがどうもこの回収任務、余所の鎮守府はやりたがらないらしい。

 深海棲艦の姿は深海魚を思わせるようなグロテスクな物が多く、上位の個体であれば人型に近い物が多い。それらの死体回収。まともな感性であれば触れたいとは思わないだろう。

 特に女性ばかりの艦娘達にとって進んでしたい任務ではないはずだ。そういった部分を考慮して提督達は忌避しているのだろう。女性ばかりの職場、嫌われれば致命傷になりかねない。

 だが、そういった贅沢な選択が取れる状況にある余所の鎮守府とは違いうちは余裕がない。選んでいられない。

 

 「明石は戦わなくていいから! 回収だけなんだ、頼むよ」

 「ふえぇぇぇえぇ……で、でも、わ、わたし、砲積んで、積んでるぅ」

 

 ダメだこいつ、本当に志願で艦娘になったのか。前の鎮守府でのことが余程トラウマになっているのだろうか。

 

 彼女の艤装には珍しくクレーンが装備されており、それで吊り上げて直接触れるのを最低限にできれば、という考えで出て貰ったのだが。

 というかそんな回収用としてくらいしか彼女の使い道が思いつかない。あるなら誰か教えてくれ。

 うーん、とはいえ目標は成人女性くらいのサイズはあるらしい。小柄な駆逐艦、そしてそもそも海上を航行できず泳ぐように進むごーやには曳航は不可能ではないが難しいだろう。道中の警戒のこともある。

 

 「うるせぇでち。さっさと終わらせるぞ」

 

 わーお。前も思ったが口悪いなごーや。艦の記憶が書き加えられたことで特徴的な言葉使いに変わったそうだが、元は相当お淑やかから遠い所にあったらしい。怖いからやめてほしい。

 

 「……司令官さんっ、目標です!」

 

 よし。電が回収目標を発見したようだ。幸いここまで接敵はない。ごーやの言う通りさっさと終わらせよう。

 

 

 そして。

 

 「回収任務、完了ですね提督さんっ。うふふっ」

 「……」

 「ココ、ドコ……ズイカク……?」

 

 回収は成功した。港にて回収した目標とご対面。周囲を艦娘達に囲まれながら、その『目標』は女の子座りできょとん、とこちらを見上げている。言葉は話せるようだが片言だ。

 

 「……君は、その」

 

 何だ、否、『どっち』だ。

 

 未だ海水に濡れている彼女。白銀の美しい長髪が、彼女の肌に張り付いている。身に纏っているのは、白い着物に朱の袴。胸元には黒い胸当て。ブーツのような黒い艤装。

 僅かな手持ちの資料に記されているある艦娘の艤装と一致する。翔鶴型航空母艦一番艦、翔鶴。

 だが。

 白い。その肌は、アルビノのように。

 赤い。その瞳は、アルビノのように。

 同じく手持ちの資料に記されている奴らの、上位個体の特徴と一致する。深海棲艦、鬼級または姫級。

 

 えっ、どうすんのこれ。

 

 

 それから。

 まずは念の為、翔鶴カッコカリを拘束。本部に即連絡し指示を仰ぐと、すぐさま調査要員が送られて来て何やら色々尋問やら検査などが行われた。一週間近くに及ぶ調査、対象を本国に送って詳しい調査が行われるのでは、と思っていたのだが。

 

 「翔鶴型航空母艦一番艦、翔鶴デス」

 「うん?」

 「一航戦、二航戦ノ先輩方ニ、少しデモ近づけるようニ瑞鶴ト一緒ニ頑張りまス!」

 「うん?」

 

 執務室。椅子に座る僕に敬礼し、挨拶する翔鶴カッコカリ。本部から説明されたはずだが、ちょっとわからない。とりあえず瑞鶴はいないからね?

 

 曰く、彼女は別の鎮守府で撃沈しかけた艦娘らしい。肌が白く目が赤いのは正にアルビノだからで、片言なのも元々海外の人なので日本語が苦手だからである。決して、決して深海棲艦などとは関係ない、詮索するべからず。何それ怪しい。

 元の鎮守府では撃沈扱いとしており員数外となっている為、そのままそちらで運用されたし。何言ってんだおめー。

 そういう訳で僕の下に着任となるらしい。どういう訳なんだろう、わからない。

 

 「提督さんっ、空母さんですよ空母さん! この鎮守府にもついに航空戦力ですっ」

 

 脇で嬉しそうにはしゃぐ鹿島。正気か?

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