懲罰艦隊これくしょん -罰これ-   作:蒼樹物書

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第五話『五十オーバー』

 ああ。

 

 「会いたい」

 

 妹に会いたい。

 

 「またご家族にお手紙ですか?」

 

 ここに着任し早一ヶ月。

 もう何通目になるかも分からない家族への手紙を認める僕の口は、勝手に思いを吐き出してしまったらしい。

 少し照れ臭くなりながらもペンを置き、指摘した鹿島に答える。今日も美味しそうな珈琲片手に執務をしている。相変わらず僕の分はない。

 

 「うん。皆女の子だから心配で心配で……」

 「シスコンきもちわ……うふふ、そうでしょうねぇ」

 「今何言いかけた? そういう鹿島はどうなんだい、本国にご家族は?」

 

 鹿島の所はご両親、お姉さんが一人だそうだ。お姉さんも艦娘適正があり、教導艦として本国で訓練部隊を預かっているらしい。教導艦といえばエリートのイメージ。ここにいる妹さんと交換して欲しい。

 

 「鹿島は家族が恋しくなったりはしないのかい?」

 「うーん、解体しないと軍属以外には会えませんしねぇ、私達」

 

 おっと薮蛇だったか。

 少し重い話に繋がりそうだった。艦娘はその性質上、艤装適合の為の手術……改造というべきものを受ける際に様々な制約が課される。軍属となる際に課されるものに加え、移動や集会の自由などなど。人間としてのスペックを超過するようになるのだ、当然と言えるのかもしれない。

 

 「……鹿島はさ、解体を受けて家族の下に帰りたいとか」

 「あはは、ないですねー。艦娘最高ですっ」

 

 化粧なしで超美人、老けたり劣化一切なし。怪我やその、月の物とかも入渠ですぐ体調万全で辞める理由がないらしい。当然超絶モテるからパトロンに囲われ放題ヤり放題、らしい。僕の気遣いを返せ。

 

 「艦隊が帰投しましタ!」

 「お疲れ様、翔鶴」

 

 そうこうしている内に艦隊が帰ってきた様だ。任務完了の報告は既に聞いている。

 

 翔鶴が着任してからというもの、艦隊の運用は軌道に乗っていた。駆逐二人、潜水艦一人という戦力に軸となる航空母艦が加入したことで極めて小規模ながらも空母打撃艦隊として運用できるようになったのだ。

 任務も手頃な所を鹿島が用意してくれる。何だかんだで彼女も優秀ではあるらしい。何か悔しいが。

 優秀といえばこの翔鶴もだ。

 

 「重巡二、軽巡一撃破か。うん、文句なしの最大戦果だね、よくやった」

 「艦載機の子達モ、随伴艦の皆さんモ、本当に頑張ってくれましタ! 感謝でス!」

 

 見えない尻尾を振るように、胸を張り敬礼して嬉しそうな翔鶴。こういうところは何というか無垢、幼い印象を受けてしまい、妹を思い出し可愛い。妹可愛い。

 

 そして、無茶苦茶強い。

 

 前に所属していた鎮守府……本当かどうかは知らないが、そこがこうも簡単に手放したことから錬度は決して高くないはず。その上、空母として重要な装備である艦載機は自前のものだ。そもそもここに艦載機なんてものは補給されてこない。

 ただ、あの艦載機何ていう飛行機なんだろうか、元々事務屋の僕、飛行機は名前くらいしか知らない。以前見せてもらったが白いたこ焼きみたいなのだった。妖精さん乗ってないみたいだけど、中に乗ってるのかなぁ。

 

 さて、随伴艦の皆さん……その内、電は大破の為入渠へ直行させている。様子を見に行ってこよう。確認しておきたいこともある。

 

 

 入渠施設。元々人間用の救護室に入渠設備を押し込んだそこで、電と二人きり、相対する。

 修復液が満たされた浴槽のようなドッグに浸かっている電は傷だらけ、セーラーのような衣服はあちこちが裂け、破れてしまっている。出来るだけ視線を向けないようにしないと。

 

 「ごめんなさい、なのです……」

 「いいよ。それよりバケツがあれば良かったんだけど」

 

 バケツ、正しくは高速修復材と呼ばれる艦娘用の治療薬のことだ。その容器がバケツのような形をしていることからその通称で呼ばれている。このバケツ、入渠用の修復液に混ぜることで艦娘の怪我を即座に回復させると言うとんでもない薬品なのだが、結構高価らしい。

 当然、補給物資すらままならないここには一つもない。できれば、早く治してやりたいのだが。

 

 痛々しい生傷を浴槽のような形の入渠設備に浸けている電。大破してしまったことを詫びる彼女がやせ我慢していることは明白だった。

 こんな状態の彼女に、今、ここで話すべきか。いや、今だからこそ、かな。

 

 「……敵を、撃つのは嫌?」

 「っ……」

 

 沈んだ表情だった電、その顔が絶望に染まる。

 

 「ここに来てからずっと、狙って外しているよね」

 「う、あ……そ、その……」

 

 そう、電はこれまで出撃はするが敵にその砲を、魚雷を命中させたことがない。初めは、練度不足や艤装の調整不足を疑ったが、いずれも違った。わざと、外している。それ以外に考えられないというのが僕の結論だった。

 電は可哀そうなくらいに言い訳を必死で探している。ずっと、考え、悩んでいたこと。その答えを出す前に、時間切れを突き付けられ、混乱している。出来る限り穏やかな声で伝える。

 

 「大丈夫。ゆっくりでいいから、話してくれないか、電」

 「……はい、なのです」

 

 それから。

 所々、詰まりながらや話が前後したり回り道したり訂正が入ったりといった、幼い子供特有の説明下手を感じさせる話しぶりだったが、幼い子の相手は妹達で慣れており得意だ。

 根気強く、丁寧に。一部確認をさせてもらったりしながら電の話を噛み砕く。

 要約するとこう、らしい。合っていて欲しくない。

 

 「えーと、つまり……間違ってたら遠慮なく言ってね。深海棲艦が昔飼ってた鯉に似てて撃てない、と」

 「なのですっ」

 

 すべてを吐き出し切ったからだろうか、沈んでいた表情から一転、電は天使のような澄み切った笑顔。うん、よかったね電。僕は最悪の気分だよ。

 

 「前の鎮守府ではこのこと言ってたの?」

 「なのです。そうしたら、すぐここに転属になって……」

 

 うんうん、僕わかってたよ。ここにまともな奴なんかいないってこと。僕も今すぐこの天使という名の役立たずをどこかに転属させたいが、ここは最後の掃き溜めだ。それに役立たずは彼女だけじゃない、もう一人いる。

 

 「あ、提督こちらにいらしたのですか! 電さんのお見舞いですか?」

 

 やぁ、役立たず一号。違った明石。

 

 「うん。掃除してくれたんだね、綺麗にしてくれててありがたいよ」

 「あはは、これくらいしか出来ませんからねー!」

 

 本当にな。明石は結局、雑用として働いてもらうことにした。彼女自身は真面目だし、実際そういう雑用を兵が行うのはおかしなことではない。炊事もそうだ、糧食は軍に置いても重要とされるので専任がいるくらいだ。よって炊事も一時任せたのだが……。

 

 ただ、明石はその、下手なのだ。食べられないこともないが良く言えば豪快、悪く言えば雑。

 勿論物資不足という側面も大きいのだろうがそれ以前の問題だ。味噌汁の隠し味に醤油を入れたとドヤ顔で出したあれ、塩分過多で僕を殺すつもりだったという方が納得できる。

 

 あー、そうだ。

 

 「電、頑張って戦って欲しい、と言いたいのだけれど」

 

 僕の言葉にびくり、と電の肩が跳ねる。そんなに嫌か。人それぞれだけど、鯉ってそんな愛着沸くのかな。というか深海棲艦に似てるか、あれ?

 

 「以前、食事用意してもらったことあるよね。美味しかったし、今後は台所を預かって貰えないかな」

 

 明石が不適任と結論して現状、僕たちの食事は持ち回り制で担当していた。手持ち戦力、というより人員不足から一人に疲労が集中しない為の措置だ。

 そして明石のように不得意な者や鹿島のように手を抜く者がいる為、非常に不安定な食環境だったのだ。ちなみに鹿島は叱っても効果がなかった。クソが。

 そんな中、電は僕たちの中で一番料理が上手い。少ない材料、調味料にも関わらず舌を巻くような工夫でレパートリーも豊か、どこか懐かしい味付けも嬉しい。

 

 「はわわ……その、あ、ありがとう、なのです……」

 

 うん。何も戦うことだけが必要とされるわけではない。戦力が一人減るのは痛いが、敵をまともに撃てない艦を出撃させても仕方がない。

 

 「良かったですね、電さん!」

 

 電が適所に配されることを自分のことのように喜ぶ明石。それにしても所属する艦娘が六人いて、まともに出撃出来るのが曙、ごーや、翔鶴の三人だけになるのか。厳しいなぁ……。

 

 「が、頑張るのですっ」

 「主婦歴四十年の実力、期待しています!」

 

 え?

 

 「あ、明石さぁん、恥ずかしいから秘密って言ったじゃないですかぁっ」

 「わわ、す、すみません電さん!」

 

 改めて電の姿を見る。どう見ても天使みたいな幼女。え、主婦歴? 四十年?

 

 艦娘は艤装に適合する際、容姿は一定の物となる。元の女性がいくつであろうとも、だ。

 うん、可能性を考えなかったわけじゃないよ、うん。でも先ほど鯉の話説明するのが下手だったのは高齢が理由とは思いもしなかったよ。

 目の前で恥ずかしそうに両掌を頬に当てて身振りする姿そのものは愛らしいはずなのだが、妙に年寄り臭い仕草に思えるから不思議だ。

 あー、そういえば煮物とか超美味しかった、なるほどー。マジかよ電さん(推定50以上)。

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