「……」
「何見てるんですかセクハラですか覗きですか死ぬんですか」
「て、提督……その、すすすみません……」
うん、愛の形は人それぞれだと思うよ。
別に部隊内恋愛禁止とか言うつもりもないんだ。
「余所でやれ」
「すみませんでしたぁぁぁぁあ!!」
執務室で乳繰り合うなよ。大淀の腕を掴んで、叫びながら退室する明石。
ふーん、明石が攻めなんだー、へー。知りたくなかった。
「ちょっと提督さんっ、馬に蹴られたいんですか! いい所だったのに!!」
当然のようにロッカーから出てくる鹿島の抗議。覗いてたのか。お前が蹴られて来い。
「老若男女何でもいいってちょっと業が深すぎない?」
「愛が多いと言ってください、うふふ」
そうですか。ちなみに僕は? と聞くとシスコン気持ち悪いと返された。そうですか。
◇
「提督さん提督さん。休暇申請です」
「通らないよ?」
申請書を丸っこい字で埋めて差し出す鹿島。
お前何の任務でここに来てるのか言ってみろ。すっかり忘れているようだが、僕の補佐と護衛だ。前者はともかく、後者が問題だ。
現状、ごーや以外の艦娘は抵抗や脱走の気配はないが何時反旗を翻すか分かったものではない。特に最近配属された大淀は比較的反抗心がある。
明石に宥めてはもらっているし、例の首輪もつけているが……ボタンを押すまでに殺されれば意味がない。改めて考えると薄皮一枚だな、僕の首。
「今日はいたくないんですー!」
「何かあるの?」
駄々をこね始める鹿島。努めて冷静に、とりあえず理由を聞く。
「また新人さんが来るんですけどね?」
「ほうほう」
そ、と人目を憚るように辺りを見渡してから、僕の耳元で理由を囁く。
「――っざっけんなー!」
「嫌ったら嫌ですー! 私も死にたくないんですー!!」
「僕もだーッ!!」
いよいよ以ってヤバイのが来ることになってしまったそうだ。
明日の連絡船で連れられる、一人の艦娘。
大和型一番艦、大和。
世界最大の超弩級戦艦、その名を頂く艦娘。その適性者は極めて希少であり、片手に収まる程しか存在しないとされている。
艦娘の戦闘能力は元となる艦に大きく依存しており、彼の戦艦の力を借り受ける大和の艦娘は文字通りの最強と呼ばれる力を持つ。
当然軍は特に戦艦級、それも大和の適正を持つ女性を血眼になり探した。そして、その適正を持つ女性は全て艦娘化したのだが……一人、とびきりの問題児がいた。
当時艦娘化するべきかどうか、かなり議論がなされたそうだが。
してしまったそうだ。大和に。
死刑囚を。
罪状は大量殺人。それも猟奇的な。
彼女は高度な知能を持ち、巧みに捜査の目を掻い潜り十人以上を殺し続けた。殺害方法は刺殺絞殺などなど多岐に渡った。状況も被害者毎に様々だったが。
一つだけ、共通点があった。
遺体の一部が損失しているのだ。
腕であったり、耳であったり、内臓であったり。
逮捕後彼女は、その猟奇的な犯罪の理由をこう話したそうだ。自身は最高の人間だと考えており、その伴侶にはそれに見合う最高の人間でなくてはならない。しかし、どこにも見当たらない。
頭の良い者は口元の形が気に入らない。指の形が美しい者は耳の形が気に入らない。誰も彼も、完全でない。最高でない。
ならば、造ってしまえばいい。
自身の見初めた最高の『部品』を集めて、選りすぐりで組み立てればいい。それならば自分に見合う最高の人間が生まれる。
……あまりにもイカレている。そんな彼女を大和にしてしまった軍も。
で、普通の部隊では運用が難しいからこっちに送るわー、とのことだ。ふざけんなよ。
上官殺しの曙もかなりアレだが、サイコではない。たまに僕を見る目が危ない気もするけど。
気が重い。しかし命令は絶対、断れば抗命で銃殺刑だ。嫌がる鹿島を引き摺って、港へ向かう。
◇
「提督……眼球を一つだけ、頂けませんでしょうか」
爆破だ、爆破! すぐボンってしないと!!
拘束着を着せられ目隠し口枷、そして車椅子という厚待遇でやってきた大和、目隠しと口枷を外した第一声はそれだった。
やべー! 見初められてしまいましたか、そうですかー!
女の子に惚れられる、それも外見は綺麗な大和。それはすごく嬉しいはずなのに、すごく嬉しくない。
「その右目、素敵です……これで、最後のパーツが」
「とりあえず黙ろうか」
大和に口枷を嵌めなおす。おいどうするんだこれ。
なおも僕を、いや僕の右目をうっとりと見つめる大和。目隠しも付け直すと妙に艶っぽく呻く。何か僕が危ない趣味の人みたいだけど危ないのはこいつだ。
ちなみに彼女に奪われた遺体の一部は、全て見つかっていないままらしい。ホラーだ。
「……どうしましょう、提督さーん!」
「……」
しかし、好都合かもしれない。港に着いた途端即逃げて、遠くから僕と大和の様子を見ていた鹿島を無視して思考する。
「大和、僕の右目が欲しいんだね」
目隠し、口枷のままでこくこくと頷く大和。その仕草は幼げで可愛らしいのだが、欲しがる物が酷過ぎる。
「じゃあ、こうしよう。僕の指揮下について、今度の作戦に参加してもらう」
彼女の着任と共に本部から命じられた作戦。作戦、と呼べるものではないのだが。
「その作戦が成功したら、あげよう」
◇
「……良かったんですか、あんな約束して?」
「はいこれ」
執務室。
大和を車椅子のまま牢に入れ、鹿島と二人きり。一枚の命令書を差し出す。
「これ……」
普段ふざけた態度の鹿島も、流石に表情が強張る。まぁ、僕はその内来るだろうとは思っていた。
命令の内容は、簡単に言うと『死んで来い』という物だ。
これまでも充分でない補給、運用しずらく不足な戦力。それに比べ危険であったり困難であったりする任務。本部の意図は明白だ、不要品の処分。そしてそのついでに何かの間違いで役に立てば、という所だ。
しかし部隊創設から一ヶ月以上が経つが、未だ処分……艦娘の轟沈は起こっていない。あくまでこの部隊の本来の目的は不要な艦娘を沈めることにあるというのに、間違いが続いている。
軍自体は沈めろ、との直接的な命令はできない。そんな記録は残せない。精々僕にそのことを匂わせるくらいだ。だからこそ、これまで誤魔化し続けてこれたのだが。
いよいよ、業を煮やしたらしい。
深海棲艦、その大規模な集結地点への強襲任務。
確認されているだけで姫級三体、鬼級五体。戦艦、空母級や重巡級もフラッグシップ級が多数。軽巡と駆逐級の数は目を逸らしたくなる数だ。
挑めば、必ず圧殺される。
断れば、必ず銃殺される。
「……編成は」
「大和、翔鶴、曙、電、大淀、ごーや。明石と君を除いた全員だ」
編成も指定されている。
鹿島は上層部とコネがある。怨みも買っているが上手く立ち回っている。明石の方は希少な工作艦ということで、保留という意図だろう。こちらに送られている以上時間の問題だとは思うが。
「寂しくなりますねぇ……」
何もかも諦めたような、鹿島の言葉。
僕はそれに、応える言葉を持たない。
懲罰艦隊。掃き溜めの艦隊。過ちを犯した者、そうでなくても都合が悪いからと送られた者。
軍隊とは、死と隣合わせにある。命を賭して戦う存在だ。
だが。
僕の艦隊は死を目的とさせられている。それは、大きな違いだと僕は思う。
「鹿島。頼みがある」