懲罰艦隊これくしょん -罰これ-   作:蒼樹物書

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最終話『抜錨』

 どうしてこうなった。

 

 「提督さん提督さん、あのタンカーやっちゃいましょう!」

 「……推して参ります」

 「待って下さイ、ヤマトさん。艦載機で護衛を先に潰しまス」

 「ちょっと大淀! アンタも来るのよ!」

 「明石……」

 「あっ、ダメですよ大淀……」

 「は、はわわ、こんな時に破廉恥なのですっ!?」

 「……ごーや、潜行してスクリュー潰してくるでち」

 「お兄ちゃん、頑張ってね!(×12)」

 

 「……乗組員に可能な限り被害を出さないよう、宜しく」

 

 僕は碧眼で哀れな獲物となるタンカーを見据え、艦隊に命じた。

 

 

 鹿島は僕の頼みごとを、くすり、と笑った後快諾してくれた。彼女に僕はよく笑われるが、何時もの嘲笑ではなくどこか優しい笑みだった。あんな笑顔ができるなら、軍のお偉いさん達が夢中になるのも良く分かる。あれは、魔性のものだ。

 

 「では、しばらく空けますがよろしいですね、提督さん」

 「うん。少しでも無理だと思ったら止めてくれて構わないから」

 

 そんな彼女に頼むのは難題だ。いくら上にコネがある彼女であっても容易く出来ることではなく、露見すれば彼女自身の身まで危うくなる。しかし、他に頼れる相手がいないのも事実だった。

 出撃まで後一週間もない。その間、準備を完了せねばならない以上僕はここから離れることが出来ない。というより現実的な移動手段がない。

 あの鹿島を信用できるか、とも考えたがどちらにせよ他に手段はない。

 

 「うふふ、シスコン気持ち悪い」

 「ああ、全くだよ」

 

 信用、したい。鹿島は何時も通りだ。バカでビッチだが、やってくれる奴だ。

 

 「頼んだ」

 「頼まれました」

 

 

 「さて」

 

 それから、数日。いよいよ作戦決行日。

 鹿島はまだ戻っていない。間に合ってくれるだろうか。

 

 港、僕の正面に居並ぶ、僕の艦隊。

 大和、翔鶴、電、曙、大淀、ごーや。明石も僕の隣にいる。

 有りっ丈の弾薬と燃料を持ってもらっている。今ここにある全ての資材を使用して、漸くこの一艦隊、一出撃分だ。この時点で既に命令違反なのだが、構うものか。片道燃料の出撃をするつもりはない。

 

 「今回の出撃、作戦目的は敵集結地点への強襲、その殲滅だ」

 

 大和はうっとりと僕の顔……右目に視線を向けている。聞けよ。

 翔鶴はしっかりと直立不動で白い顔を赤い瞳をこちらに向けている。一番マシな態度なのが一番変な奴だからおかしな話だ。

 電は不安げに目を伏せている。せっかく配置転換をした直後に出撃だ、不安も理解できる。ごめん。

 曙はじ、とこちらを睨んでいる。この戦力での強襲、その意味を理解しているからだろう。

 大淀も同様だ。明石に向けて泣きそうな顔。それを受けて明石もとても辛そうな顔をしている。

 ごーやは……どう考えても脱走することしか考えてないね、うんわかってるよ僕。

 

 「君達も察していると思うけれど、これは特攻作戦だ」

 

 一同の表情が固まる。大和は聞いてない。いやだから聞けって。

 

 「艦娘達の活躍により戦局が安定しつつある中、このような作戦が実行されるのは、この艦隊が懲罰艦隊だからだ」

 

 本来死ぬはずであった者。死んでいることになっている者。使えないモノ。

 それらを寄せ集めた艦隊。適当な所で処分すればいい、使い捨ての艦隊。

 

 「僕は今日、君達にもう死んでこいと命じなければならないらしい」

 

 その適当な所が、今日、この作戦だ。存外に働いたこの艦隊、あまりに長く活躍されては困るということだろう。当然だ、彼女達の存在自体軍にとって都合が悪い。

 かつて、軍は総動員体制を盾にして艦娘適正がある女性を片っ端から徴兵、艦娘化して戦力に組み込んだ。確かに窮地にあった。だが、その非道が産んだ歪みが彼女達だ。

 

 「僕は元々軍人ではなかった。軍属の事務屋だったんだ」

 

 そして、僕も。

 彼女達に比べれば何てこともない、不幸ではあるかもしれないが普通の人間だ。

 軍で飯を食ってはいても、元をただせばただの事務屋。軍人の誇りも、軍の体面も知らない。知ったこっちゃない。

 

 「だから僕は、軍の都合とか、そういった物はあまり興味がない」

 

 艦娘達の顔が困惑する。

 

 「君達に死んで来いと言う勇気がない。何せ、僕は軍人になりたくてなったわけじゃない」

 

 笑ってしまうくらい情けない理由。けど。

 

 「だから僕は上の命令に従えない。けど、死にたくない」

 

 じゃあ、どうする?

 

 「逃げちゃおう。僕達にはその権利がある」

 

 それは罪だ、そんな権利があるものか。僕の常識が叫ぶ。けどな、そんなお前はもう壊れている。常識外れの彼女達と共に過ごし、戦って。お前はもう壊れている。

 

 『――提督さーん!!』

 

 遠く、拡声器を通して鹿島の声が響く。ベストタイミングだ、鹿島。

 遠く、豆粒のような船が高速で白波を掻き分けてこちらに向かってくる。

 

 『たぁぁぁすけぇぇぇぇてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……!!!』

 

 追っ手の艦娘を引き連れて。おいぃぃぃ!! 

 

 

 あーあ。

 そして、今。

 護衛は全て無力化、タンカーの船員達は襲撃者に砲で睨まれて為す術もなく略奪を受けている。

 もう慣れたものだ。

 

 あれから。

 本国へこっそりと一時帰国を果たした鹿島は、僕の頼みを見事果たしてくれた。

 僕の家族、十二人の妹達を連れて船を調達、再度出国。ぎりぎりまでその意図を隠せていたらしいが、こちらに向かう途中で露見、追っ手を放たれた。

 

 追撃部隊は金剛型を含む精鋭艦隊。正直、脱出前に事が露見した場合僕の目論見は破綻すると考えていた。

 翔鶴を除き貧弱な武装、少ない戦力。まともな正規軍とやりあえば勝てる見込みはない。

 だが、もう一人の規格外がいた。

 

 大和型一番艦、大和。

 死刑囚の大和。軍が死刑囚であっても艦娘化したがった理由がよく分かった。結論から言うと、大和一人で充分だったのだ。追撃部隊は六人。金剛型四人に正規空母が二人だ。これを一人で殲滅した。

 死んではいない……と思うけれど、一方的な戦い。最強の艦娘というのは伊達ではなかった。

 

 そして悠々と鹿島と合流、僕は妹達との再会を果たした。

 僕も船に乗り込み、鎮守府を脱出。指揮下の艦娘達には自由にしてくれていい、と言ったのだが。

 

 「提督さーん、このイケメンも持っていっていいですか!」

 「ダメ。この間そうやって飽きたのを海に捨てただろお前」

 

 「明石、これで最後」

 「ありがと、大淀。燃料積み込み完了しましたぁ!」

 「お疲れ大淀、明石、他の資材は足りてるよね」

 

 「食料品も頂きましたのです。牛缶があったので夕飯はお肉が出せるのですっ」

 「あー、肉じゃができるかな肉じゃが」

 

 「クソ提督、運ぶの手伝いなさいな!」

 「もう提督じゃないってば」

 

 「親分、もう救難信号が出されてるでち」

 「流石にこの規模の船相手だと手が回らないな……さっさととんずらしよう。後親分はちょっと」

 

 「テイトク……オヤブン……センチョウ?」

 「……髭でも生やしてみようか」

 

 船長。それがいいところかな。黒の眼帯をしている僕。髭を生やして海賊帽を被ればそれっぽいかもしれない。

 

 「うふふふふふふふふふ」

 

 護衛を潰し終わった後、略奪には興味がないとばかりに船室で瓶を眺めている大和。液体が満たされたそこに浮かんでいるのは、僕の眼帯の下にあった物だ……しばらく観賞してから組み込むらしい。飽きたらこの船を去って使うらしいが、妹達の教育に悪いから観賞は他所でやってくれないかな。

 

 僕達は今、こんな感じで船旅中。

 目的地はない。未だ僕らの海賊島を探しながら、船を襲って物資を奪い生活している。

 艦娘達は結局皆、僕に付いてきた。理由は様々だが行く当てがないのと、それなりにこの掃き溜め仲間達が気に入っているようだ。

 

 本当に、どうしてこうなった。

 

 ただの軍属の事務屋が懲罰艦隊の司令官、そして今は海賊船の船長だ。

 軍が喧伝するような、海を奪還する救世主の艦娘はここにはいない。ただの人間、それも外れた連中ばかり。

 クソを固めたクソ艦隊。

 その末路としては、妥当な所だろうか。

 

 悪くない。そう、悪くないさ。

 

 クソだからって、クソな理不尽に従う必要はない。

 海は広い。ちっぽけなこの海賊船が進むくらいは、出来るくらいに。

 さあ、追っ手が来る前にとんずらするとしよう。

 

 「――抜錨!」

 

 

 

                     【了】

 

 




これにて、懲罰艦隊これくしょん -罰これ- 完結となります。
あとがきについては例によって活動報告にて。
多数のUA、お気に入り、ご評価、ご感想ありがとうございました。
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