白髪剣士の気ままなぶらり旅   作:Takari

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3話 とある襲撃者

 

 

どこの通りを歩いても人口密度がまるで変わらないローグタウン。

流石は偉大なる航路(グランドライン)の玄関口と呼ばれる町だ。活気で溢れかえっている。

 

この町は大海賊時代を引き起こした男━━━海賊王『ゴール・D・ロジャー』の生まれた地であり、処刑された地でもある。

 

海賊王は世間では『ゴールド・ロジャー』と認知されているが、正確には『ゴール・D・ロジャー』だそうだ。

 

俺自身もセンゴクさんに訂正されるまでわからなかったんだけどね・・・・。

 

「さてと、聞き込みをはじめますか」

 

まだまだ観光したい所だけど、何時までもあの三人を探すのを後回しにするわけにもいかない。

 

 

それから俺は手当たり次第に通行人を引き留めて、写真を見せて尋ねまくる。

 

子供からお年寄りまで色んな人に訊いてみたけど、皆が首を横に振る度に俺のやる気はどんどん低下していく。

 

「はぁ・・・・。一体何処にいるのさ。もう百人くらいに訊いた気がするよ・・・・・。まさかとは思うけど、偉大なる航路(グランドライン)に入っちゃったり?」

 

いや、それは本当にシャレにならない。

 

だって俺、航海術なんて嗜んでないし記録指針(ログポース)も持ってないよ。

 

最悪の事態を想像した俺は冷や汗が止まらない。

 

視線を下に落としてトボトボと歩いていると、不意に向こうから来る通行人にぶつかってしまった。

 

俺は直ぐに頭をあげて謝ろうとする。

 

「す、すみません。よそ見をして━━━━」

 

「あ〜あ!!腕の骨折れちゃったよ!どうしてくれんの?すごい痛いんですけどぉ!」

 

俺の言葉を遮って、ぶつかって来た体格のいい男が片腕を擦りながら俺にいちゃもんをつけてくる。

 

うわぁ、面倒なのにぶつかっちゃったな・・・・。

 

さっさと謝ってここから離れよう。

 

「こっちの不注意で迷惑をかけてすみませんでした。それじゃあ、これで」

 

俺がそそくさとこの男から別れようと、肩をガシッと掴まれる。

 

「待てよ、怪我させといてお礼の一つも無いのか?普通は慰謝料寄越すだろうが!百万ベリーは貰わねェとダメだなこりゃ!」

 

いやいや、百万ベリーは取りすぎでしょう。

 

これってもしかしなくても、わざとぶつかって慰謝料を巻き上げるあれ?

 

勘弁してよ・・・・・。ただでさえストレスが溜まってるのにこれ以上疲れさせないで・・・・。

 

 

俺はグチグチといちゃもんを続けてくる男に、少しずつ苛立ちが募ってくる。

 

他の通行人も初めは横目で見る程度だったが、何事かと周囲に集まりだしている。

 

「ほら、野次馬がどんどん集まってきてるし、さっさと渡した方が身のためだぜ?」

 

男はニヤニヤと笑みながら言う。

 

その言葉とムカつく表情で、俺の中にある引き金が一気に引かれる。

 

 

 

「・・・・・君、そろそろいい加減にしなよ?」

 

 

 

俺は目の前の男に向かって“軽く”殺気を放つ。

 

『白夜』を抜く訳でもなく、攻撃する動作すらも見せていない。

 

ただ一言、その言葉に“軽く”殺気を込めるだけで、男は身動きどころか呼吸すらままならなくなる。

 

「・・・・・・ぁ・・・・・ぁあ・・・・」

 

男は魚のように口をパクパク動かしながら大量の汗を流し、体が痙攣したかのように小刻みに震えている。

 

此方を先程から見学している野次馬たちは頭に疑問符しか浮かべていない。

俺は着物を着ている為か体の線が細く見られ、目の前の男と比べると体格差が歴然としている。

 

それなのになぜ怯えている?と思っているだろう。

 

 

答えは至って単純明快。

 

 

 

━━━━俺の方が強いから、ただそれだけ。

 

 

 

俺は金縛り状態の男の隣まで移動して、ボソッと耳元で囁く。

 

『もし、また同じようなことをしてたら、今度は殺気じゃ済まないからね?』

 

それだけ言うと、俺はそのまま人混みをすり抜けてこの場から離れる。

 

そのすぐ後に、後方で男が地面に倒れ込む音がした。

 

 

金縛り状態が解けてそのまま倒れたのかな。

 

・・・・・・我ながら大人気ないことをしてしまった。賞金首でもないただのチンピラに、軽くでも殺気を向けたらああなるのはわかりきってたことなのに。

 

まあ、スカッとしたのも事実だけど・・・・。

 

 

少々の罪悪感を感じつつも、ちょっとしたストレス解消を済ませた俺は、いくらか晴れやかな表情になっていた。

 

 

 

 

 

 

海賊でも海軍でも、刀を使う者は多いだろう。鉄砲や大砲などの飛び道具が開発されている中でも好んで使い続ける人も少なくはない。

 

刀を極めれば斬撃を飛ばすことも出来る。つまり、遠距離攻撃にも活用でき、飛び道具としても使える。

 

剣士は基本的に、一刀流。時には二刀流もいる。

しかし、最近では三刀流を扱う者もいればそれ以上の使い手もいるそうだ。

 

元海軍中将、『白夜』ことクロロ・シェードも刀を好んで使っている者の一人だ。

 

シェードは一本しか刀を持たないため、ありふれた剣士なのかと思ってしまうが、何故か周囲から視線を集めてしまう。

 

例え刀が一本だろうと、純白の髪に黒い着物と目立つ格好をしていて、何より美男なのだ。特に異性からの視線が半端ではない。

 

だが残念なことに、本人はその熱い眼差しにまったく気付かない。わざとなのか鈍感なのかわからないが、その度に女性たちは静かに落ち込んでいく。

 

 

そんな彼が、今はその熱い視線に気付いている。

 

向けられている視線は複数で、遠くから観察されているようだ。

しかし、正確な場所と人数までは特定できていない。

 

「(・・・・・・まいったな。こんなことなら“見聞色の覇気”をもっと鍛えておけばよかった)」

 

シェードは苦虫を噛み潰したような表情をする。

 

【覇気】とは、全ての人が生まれながらに秘めている力のことだ。その内のほとんどの人が【覇気】に気付かずに一生を終えてしまう。

 

シェードが言う【見聞色の覇気】とは、相手の気配をより強く感じ取れる力のことだ。この力を高めると、離れた相手の人数や位置を把握することができ、更には相手の次の行動を読むことができるのだ。

 

他にも二つの色の覇気があるのだが、それはまた次の機会に紹介しよう。

 

 

因みに海軍中将以上の階級の持ち主のほぼ全員が覇気を扱える。シェードはそのメンバーの中でも、見聞色の覇気が下から数えた方が早い程に不得手だ。

 

それ故に、離れた相手の人数も場所も大雑把にしかわからない。

 

「はぁ・・・・・面倒くさい」

 

シェードは短く溜め息をついて、人混みの多いところから少しずつ人気の無い場所へと移動をしていく。

 

シェードの行動に釣られるように、観察していた者達もついていく。

 

「(・・・・・・いち、に・・・・三人かな?)」

 

流石に距離が近くなってくればシェードの覇気でも人数が特定することができる。

 

一人は建物の屋根に、他の二人は地上から。

 

絶妙な距離の取り方、それに足運びもかなり鍛えられているのが伝わってくる。シェードはいつでも『白夜』を鞘から出せるようにする。

 

周囲に人が誰もいない場所に到着すると、シェードの後ろを歩いている二人が動き出す。

 

「ふっ・・・・!」

 

一人が先にシェードに飛び出していき、獲物である棍棒を勢いよく突き出してくる。

 

シェードは白夜を鞘に入れたまま棍棒を受け止め、相手の顔を拝もうとするがフード付のローブでよく見えない。

 

だが、それ以前に棍棒に目がいったシェードは一瞬目を丸くするが、すぐに不敵な笑みを浮かべる。

 

「面白いじゃん、相手してあげるよ」

 

そう言って、シェードは力任せに棍棒使いを吹き飛ばし白夜をゆっくりと引き抜いていく。

静寂な場に鞘と刀身が擦れる音だけが響き、棍棒使いに緊張が走る。

 

「すきありー!」

 

棍棒使いが気を引いている間に、もう1人がシェードの上空を取る。武器は持っておらず、右拳を握りしめて腕を振りかぶっている。

 

「━━━っ」

 

シェードは突然のことで動揺してしまい、目の前にいる棍棒使いから目を離してしまう。

 

が、それは相手の思う壺だ。

 

「はっ!」

 

棍棒使いが再び風を切って突きを放ち、上空からは拳が迫る。

 

二人の作戦は完璧だ。棍棒使いは囮としての役割をしっかり努め、もう1人の方はタイミングを見計らっている間は気配を絶っていた。

そして、シェードの不意を突くことができた。

 

「ま、こんなところかな」

 

それでも、シェードを討ち取るにはまだまだ足りない。

 

シェードは目視できない速度で抜刀し、白夜で棍棒を弾く。空いている方の手で鞘を逆手に持ち、脳天を貫こうとする拳を受け止める。

 

「なっ!?」

 

「うそー!?」

 

ローブ越しからでも二人の驚きの色が濃く感じられる。

しかし、シェードは二人がその中に微かな笑みを浮かべていることに気付かない

 

受け止められたとわかった二人は、直ぐ様シェードから大袈裟と思う程に距離をとる。

 

 

 

━━━━━刹那

 

 

 

「チェックメイト」

 

建物の屋根から、今まさに弓の弦から指を離そうとしながら言う勝利の宣言に、シェードは自分の失態に小さく舌打ちをした。

 

「(そっちが本命か。まんまと引っ掛かっちゃったなぁ・・・・)」

 

弓使いは、二人の避難を確認すると、シェードに向かって容赦なく射る。

 

シェードは瞬時に冷静になって矢を切り落とそうとするが、ただの矢ではないと気付きピタッと動きを止めて避けることに変更する。

 

 

ドガァァァン!!

 

 

シェードが避けて矢が地面に触れた瞬間、爆発が引き起こる。

先程の矢には爆薬が仕込まれており、着弾した場所は小さなクレーターが出来ていた。

 

その威力を目の当たりにしたシェードは、額に冷や汗を流す。

 

「こらこら、もし人がいたらどうするんだ?」

 

「ちゃんと周囲は確認したわ。そうじゃなきゃこんなことしないわよ。それにしても、普通の矢じゃないってよく気がついたわね。さすがだわ」

 

屋根から飛び降りて静かに着地した弓使いは、感心するように拍手を送る。

それに続いて残りの二人も武器と拳を下ろしてシェードに近づく。

 

「まったくですよ。結構本気でいったのに軽くあしらわれましたし・・・・」

 

「だねー。タイミングばっちりだと思ったのに〜」

 

「残念だったね、俺はまだまだ越されるわけにはいかないよ。というか、もうローブ脱いでもいいんじゃない?」

 

シェードは、ローブを身に纏って正体を隠している三人に笑んで言う。

 

その笑顔には若干の怒りが籠められており、三人はビクッと体を震わせて急いでローブを脱ぎ捨てる。

 

棍棒を持っているのは、凛とした顔つきの真面目そうな金髪の少年。整った顔立ちをしていて、背丈は170後半でシェードよりも少し小さいくらい。

 

弓を持っているのは、どこかのお嬢様を連想させるような清楚な黒髪少女。少し幼さが残る顔立ちだが、体の発育はそれとは正反対の色気を出している。

 

そして、徒手空拳を使っていたのは明るく活発そうな青髪の少女。先程の少女と比べて些か成長不足な部分もあるが、スレンダーで可愛らしい顔をしている。

 

この少年少女たちがシェードの探し求めていた三人の部下だったのだ。

 

「君たち、一体どこにいってたの?俺ずっと探してたんだからね?東の海(イーストブルー)中の村や町をしらみ潰しに回って人に尋ねて、その度に首を横に振られて・・・・・・・。挙げ句の果てにチンピラに絡まれたんだよ?この気持ちわかる?」

 

シェードの溜まりに溜まった不満が部下三人に降り注ぎ、マシンガンの如く途切れない文句に、次第に三人の顔が死んでくる。

 

 

━━━━それから三十分程経過

 

 

「キースくん、何度も言ってるでしょ?馬鹿正直に前から突っ込むのは止めてって。それに、棒術の技術はなかなか良いのに攻撃が途中から単調になるのはダメだよ。さっきの突きなんて動きがバレバレだし」

 

「は、はい・・・・・気をつけます・・・・」

 

シェードは、三人がはぐれたことに対する不満から、先程の戦闘の問題点へとお説教のターゲットを変えていた。

 

棍棒使いの金髪少年━━━━キースは、シェードに指摘されて落ち込むよりも話が長すぎて気が滅入っている。

 

キースは八割方巻き込まれているため、尚更損をしている気分になる。残りの二割は、シェードを襲うことに以外にもノリノリだったこと。

 

「フィーちゃんは攻撃するときに腕の振りが大きい。俺の上から攻めてきたとき、もう少し無駄な動きを無くしていれば俺も危なかったのに。確かこれ何回も言ってたよね、無駄を無くそうって」

 

「・・・・・・う〜ん?」

 

可愛らしく小首を傾げる青髪少女━━━━フィーは、シェードの話が長すぎてほとんど内容を聞いていなかった。

因みに、先程からずっと今日の夕飯のことしか頭に入っていない。

 

「次にアイリスちゃんだけど・・・・・・・今回は特に言うことないかな」

 

弓使いの黒髪少女━━━━アイリスには何のお咎めも無いことにキースが抗議する。

 

「えっ!? 何でアイリスさんだけ何も無いんですか!?」

 

「何でと言われても、この作戦を考えたのってアイリスちゃんでしょ? いやぁ、まんまと引っ掛かっちゃったよ」

 

「ふふっ。諦めなさい、キース。何せ私の作戦なのだからこうなるのも当たり前よ」

 

アイリスは腰に手を当てて、少女の割にかなり大きめな胸を張って自慢げに言う。

 

「はいそこ、あんまり調子に乗らなーい」

 

「あうっ」

 

ほとほと呆れた様子のシェードが、アイリスの脳天に軽めのチョップをお見舞いする。

 

若干涙目になりながら頭をさするアイリスを尻目に、フィーが興味深々になってシェードの白夜に付いているお守りを眺める。

 

「ねーねー、たいちょー。前までお守りなんてつけてなかったよねー?」

 

「ああ、これは前に行った町でもらったんだよ。“助けてくれたお礼に”って」

 

「・・・・ふ〜ん。もしかして、おんなのこから?」

 

「お、よくわかったね。これ、小さい女の子が作ってくれたんだよ。折角貰ったのに無くすわけにもいかないから鞘に結んでおいたんだ」

 

シェードは嬉しそうに白夜を腰から抜き出してフィーの目の前に差し出す。

 

それを見たフィーはジト目で『へー』と、流すように返事をしてそっぽを向いてしまう。

 

「え、なに、どうしたの? 」

 

「・・・・べつに━」

 

フィーの突然の塩対応に、シェードは気になって何度も質問をするが、返ってくるのは先程と同じ返事。

 

キースとアイリスはその光景をみて肩をすくめて嘆息する。

 

 

「・・・・鈍感ですね」

 

 

「・・・・鈍感ね」

 

 

結局二人のやりとりは、フィーの空腹アラームが響き渡るまで延々と続いた。

 

 

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