白髪剣士の気ままなぶらり旅   作:Takari

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第2章 気になる所をぶらり旅
5話 魚群地帯


 

 

荒波を立てない穏やかな海。

 

天からは己の存在を主張するかのように、煌々と陽の光が照りつける。

 

これ程までに心地の良い天気は無いというのに、周囲には何も漂わず、俺達の船だけがゆるりと進んでいる。

 

この船は軍艦よりも一回り二回り程小さい船だが、四人で使うには十分すぎる広さだ。各自に部屋が用意されて生活に必要な設備はほとんど完備されている。

 

そんな船上で特にすることもなく、俺は静かな海をじっと眺めているばかり。

 

キースくんはお気に入りのビーチチェアで寛ぎながら、コーヒー片手に読書と洒落こんでいるし。

 

アイリスちゃんは、ローグタウンで購入した春夏物の服を自室に籠ってファッションショー。

 

フィーちゃんに限っては俺の背中にぴったり張り付いてる。両手足でガッチリ固定されてるから身動きがとれないんだよ。

 

しかも、フィーちゃんの格好がノースリーブにショートパンツのため露出が多く、女の子特有の柔らかさがダイレクトに伝わってくる。

 

まあ、だからって少女相手に欲情なんてしないんだけどね。そんな感情を抱いたらフィーちゃんに失礼ってものだよ。

 

というか、これいつまで続くの?

 

「ねえ、フィーちゃん」

 

「ん〜、なに〜?」

 

彼女の吐息が俺のうなじを擽ってきてどうもむず痒い。

 

「そろそろ離して貰ってもいいかなー・・・・・なんて、思ったりしちゃって・・・・・」

 

「ダメだよー。たいちょー言ったじゃん、“何でも言うこと聞く”ってー」

 

「確かに言ったけどさ、まさかこれ程までに密着するなんて思ってなかったよ」

 

うん、本当にこうなるとは思っても見なかった。

 

フィーちゃんのお怒りを沈めるために“何でも”言うことを聞いてあげる、と我ながら浅はかなことをしたと思うよ。

 

まさか、『今日一日抱きつくー』と言ってくるなんて予想できる?

 

答えはノーさ。

 

 

懐いてくれるのは嬉しいんだけど、隊長として━━━━否、最年長者のお兄さんとしては快く頷けないよ!

 

 

・・・・・・とか何とか思ってた癖に、結局は断りきれなかった俺って甘いのかな・・・・・?

 

「たいちょー、ハンモックー!」

 

「はいはい、行けってことね」

 

まるで娘の我が儘に付き合わされてる父親のようだ。

 

俺はフィーちゃんの注文通り、甲板の一角に設置されているハンモックへ移動する。これは元々、俺専用の物だったんだけど、今では皆が使いたいときに使うようになっている。

 

「じゃあ、寝よー」

 

「はい、お休みなさい」

 

俺はフィーちゃんが背中から降りやすいようにハンモックに背を向けるが、一向に抱きつきを解除する気配がない。

 

「たいちょーも一緒に寝るんだよー。抱き枕にするんだ〜」

 

「因みに拒否権は?」

 

「なーい」

 

フィーちゃんの即答に、俺はガクッと項垂れる。

 

このハンモックは俺一人だと少し余裕がある位だが、フィーちゃんと一緒に使ったら、それこそ抱き締め合う形になってしまう。

 

流石に如何なものかと悩んだが、背中からの威圧で渋々了承しようとした

 

 

━━━━━その時

 

 

ザパァァァアアァァァッ!!!

 

 

船の前方の海面から激しい水飛沫を撒き散らしながら、巨大な一つの影が浮上してくる。

 

俺達のいる甲板上まで飛来してくる水滴を、鬱陶しく思いながら眼前にいる(海王類)を見る。

 

「・・・・・はあ、これで何匹目(・・・)?この船、本当に軍艦と同じ作りなんだよね?」

 

「その筈ですけどね。こんな時も有るんじゃないですか?何せここ凪の帯(カームベルト)ですから、海王類がうじゃうじゃいますよ」

 

俺の一人文句に、キースくんは本に栞を挟んでパタンと閉じ、立ち上がって答えてくれる。

 

そう、ここは凪の帯と言われる海域だ。

偉大なる航路を挟むように存在するこの凪の帯は、海王類が大量に生息する巣になっている。しかも大型多め。

 

俺達の目指している偉大なる航路へ行くには、本来ならリヴァース・マウンテンを通るのが一般的なのだが、海軍の使う軍艦だけは凪の帯を素通りすることができる。

 

その理由として、軍艦の船底に海楼石と呼ばれる海と同じエネルギーを発する不思議な鉱石を敷き詰めことで、海王類に気付かれずに済むからだそうだ。

 

余談だが、悪魔の実の能力者は海がアウトだ。つまり、同じエネルギーの海楼石もアウト。

 

とまあ、そんな感じで俺達の船にも同じ細工が施されてるんだけど、軍艦と比べるとどうも効果が薄い。

 

この船は、俺達が海軍を辞める時にセンゴクさんから頂いた物なんだけど、まさか不良品なんかじゃないよね?

 

仏と呼ばれるあの人が・・・・・まさか・・・・・ね?

 

俺は恩師に対しての疑問を頭から振り払い、未だに背中にへばりついているフィーちゃんにある意味感心する。

 

この状況でも離れようとしないのか、この我が儘プリンセスは。

 

「取り敢えず、この程度なら俺が()っておきますから。もし大型が出たらお願いしますね」

 

キースくんはそう言って、上着を脱いで椅子の背もたれに掛けてインナーの袖を捲り上げる。

 

「うん、任せるね。━━━━分かってるとは思うけど、全力は無しだよ。万が一(・・・)があるからね。出しても二割であの魚を倒そうか」

 

俺は口調を柔らかく、それでいて強調させるように言う。

 

キースくんはその意図を理解したのか、より一層真剣な面持ちになる。

 

「了解です!」

 

その言葉を合図に、海王類へ駆け出す。

 

大型の海王類ではないにしろ、巨体には変わりない。

俺達が乗っている船など丸飲みに出来る、と云わんばかりに口を開口させ、何物も噛み砕こうとする牙がキースくんに向けられる。

 

しかし、そんなものに怖じ気づくキースくんじゃない。

 

 

「━━━━部分鬼化(デモンパーツ)

 

 

その言葉と共に、彼の右腕が赤黒く禍々しいオーラに包み込まれる。

 

 

オーラが霧散されると彼の右腕の筋肉は大きく膨れ上がり、爪は獣よりも鋭く、皮膚は見るだけでも鋼のような頑丈さが伝わる。

 

 

そして何より、その腕は赤々としている。

 

 

まるで血を被ったかのように。

 

 

キースくんは海王類の顎下まで肉薄し、右拳に万力のような力を込める。

 

 

「はあぁぁっ!!」

 

 

ドゴォォッ!!!

 

 

強烈なアッパーカットが炸裂し、鈍い音が辺りに響き渡る。そして、海王類はあまりの威力に海面から尾ひれが見える高さまで吹き飛ばされる。

 

 

「グギャァ・・・・・」

 

 

ドボォォォオオォォンッ!!

 

 

キースくんに打ち上げられた巨体は海面に叩き付けられ、意識を失ったのかプカプカと海に浮かんでいる。

 

 

俺は彼の一連の動きを見て、うんうんと小さく頷く。

 

「いいね、かなり鬼の力がコントロール出来てるよ。君の食べた『オニオニの実』は普通の動物(ゾオン)系悪魔の実と違って少し異質だから、力の使いすぎには注意だよ?」

 

「はい、自分でも嫌というほど知らされていますから・・・・・。もっとコントロール出来るようにしなきゃ・・・・・また・・・・・」

 

キースくんは唇を強く噛み、血が出るほどに拳を握り締めて身体を小さく震わせる。

 

 

彼の口にした悪魔の実『オニオニの実』は、動物系の中でも希少な幻獣種と呼ばれるものだ。

 

他にも亜種として『オニオニの実』が存在するらしいけど、現時点ではキースくん一人しか俺は知らない。

 

そして、彼のモデルは“狂鬼”

 

その名の通り、狂気が色濃く反映される鬼。

 

その狂気に飲み込まれれば忽ち破壊衝動に駈られ、見境なしに暴れ、壊し、そして殺す。

 

しかし、代償が大きい分得る力も強大なのは事実。

 

 

動物系は基本的に人型、獣人型、獣型の三つに変身することが出来る。けど、キースくんがもし獣人型や獣型になろうものなら、一瞬でとは言わずとも狂気に飲み込まれてしまう。

 

 

このオニオニの実を手に入れたキースくんが、部隊の皆の前でお楽しみ感覚で食べてそのまま暴走。

 

直ぐに俺が気付いて何とか気絶させることができたけど、下手をすれば死人が出ていた。

 

目を覚ましたキースくんは当時の記憶が残っておらず、暴走したことを説明したら一日中俺達に頭を下げてきて、あの時は本当に大変だった。

 

 

それからキースくんは、暴走しないように試行錯誤して辿り着いたのが、さっきの『部分鬼化』。

 

体の一部分だけを鬼化させることで、狂気に飲まれるリスクを大幅に減らすことが出来るんだ。けど━━━━

 

・・・・・・何時かは狂気を克服して貰わなきゃね。

 

どれだけ暴れても問題ない無人島とかがあれば、キースくんに修行をつけさせてあげたいんだけど。

 

後、三人には覇気の習得もあるな。

 

アイリスちゃんは、すでに見聞色の覇気の片鱗が見え始めていて、多分おれよりも適正がありそう。

 

接近戦が主体のキースくんとフィーちゃんには武装色の覇気を扱えるようになって貰わないとなぁ。

 

攻撃と防御アップもあるけど、偉大なる航路は自然(ロギア)系の能力者が意外といるから、その対策としても武装色は重要だよね。

 

 

━━━━って、あれこれ考え出したら切りがなくなっちゃうな。

 

まだ偉大なる航路に入ってすら無いのに、一気に多くのことを望むのは良くない。

 

時間はたっぷりあるんだから、ゆっくりと行こうじゃないか。

 

 

そんな気楽な思考回路に切り替えて、俺はキースくんの頭にポンと手を置く。

 

「無責任な言い方になるけど、そんなに気負わなくてもいいんじゃないかな。

確かに、狂気と面と向かうのは怖いかもしれない。でもさ、マイナスな事ばかり考えてたら狂気の思う壺になるかもだよ?」

 

「狂気の思う壺・・・・・・・ですか?」

 

首をかしげるキースくんに、俺は小さく頷く。

 

「まあ、実際のところはわからないけど、精神的に弱ったところを鬼の狂気が飲み込もうと狙ってるんじゃないかと思うんだよ。ほら、キースくん真面目だし。深く考え過ぎちゃうから」

 

「そ、そうなんですか?自分ではよくわからないんですが・・・・・」

 

うーんと、顎に手を当てて考え込むキースくん。

 

ほら、それだよそれ。

 

まったく、本当に素直だなぁ。

 

「結局のところ、明るく楽しく前向きに頑張ろうってことだよ。フィーちゃんやアイリスちゃん、勿論俺だって相談に乗るし協力もする!」

 

俺は腰に手を当て、ドンと胸を張ってそう言うと、キースくんはクスッと笑みを溢す。

 

「隊長、結論が適当すぎますよ。

・・・・・・でも、ありがとうございます。お陰で大分スッキリしました。それに、狂気に飲み込まれました、なんて事になったら亡くなった皆に笑われちゃいますしね」

 

彼の表情は明るいが、瞳の奥には哀しさが感じられる。

 

「というか、さっきから気になってたんですけど・・・・・」

 

「どうかしたの?」

 

キースくんは俺の背中を指差す。

 

「フィーさん、もしかして寝てます?」

 

「いやいや、流石にそれはないよ。だって俺が支えてなくても落ちないくらいに力を入れて━━━━」

 

俺はそう言いながら、肩に頭を乗せているフィーちゃんを確認しようと首を捻る。

 

そこには、幸せそうな寝顔を無防備に晒している少女の顔があった。

 

 

「・・・・・えへへ、お肉・・・・・いっぱい・・・・・」

 

 

彼女は肉に埋もれている夢でも見ているのだろうか。

流石はフィーちゃん、食費で俺を悩ませるだけあって夢の中でも食べ物なのね。

 

俺が彼女の食への執着によるこれからの出費を不安に思っていると、キースくんは何かに気づく。

 

「あ、隊長。フィーさん涎を垂らしてますよ」

 

ご飯粒付いてますよ、みたいな感覚で報告してくれるキースくんとは裏腹に、俺は顔面を蒼白にさせる。

 

「え、うそ、ヨダレ!?これ俺のお気に入り中のお気に入りなのにヨダレの跡がつくなんて嫌だよ!?」

 

フィーちゃん止めてぇぇぇ!!

 

高いお金払って作ってもらった特注品で、結構新しいんですけど!?

 

「ぐっ・・・・・!なんて力を込めてるんだ!?まるでびくともしないじゃないか!?」

 

緊急事態のため、やむを得ず力ずくでフィーちゃんから抜け出そうと力を込めるが、面白いほどに頑丈だ。

 

しかも、それに比例して締め上げる力が強くなってくる。

 

 

 

何とか悪戦苦闘しながらも無事に解放することができた俺だが・・・・・・・・・肩回りの被害が甚大だ。

 

フィーちゃんはハンモックで寝かせて静かに寝息をたてている。

 

「うぅ・・・・。手洗いで落ちてくれればいいんだけど・・・・・」

 

ごめんね、俺の着物・・・・・。

 

ちゃんと綺麗にしてあげるから少しのあいだ我慢しててくれ。

 

俺はその後、紺色の着物に着替えて、せっせとヨダレの付着した部分を洗い続けた。

 

なかなか落ちないシミに苦戦を強いられたけど、途中からキースくんとアイリスちゃんが故郷の知恵を伝授してくれて無事に落ちました!

 

 

 

 

 

 

「もう少しで凪の帯を抜けるはずよ」

 

アイリスちゃんの言葉で、やっとか、と思いつつ丁度良く手入れを終えた白夜を鞘に入れる。刃こぼれ一つない美しい黒刀を見て、ついつい頬が緩んでしまう。

 

そこそこ広い甲板上で組手をしていたフィーちゃんとキースくんは、一時中断してタオルで汗を拭き取り水分補給をする。

 

俺が剥ぎ取るまで抱き付いていたフィーちゃんだけど、目を覚ました時点でもう満足していたらしく、ニコニコ笑顔で「おはよー」と挨拶してきた。

 

そんな満面の笑みを見せられたら怒るに怒れず、俺はひきつった笑顔で挨拶を返した。

 

 

 

それから少し船を進め、凪の帯を抜けた。ここからが偉大なる航路のスタートだ。

 

これからどうしようかな。やっぱりルフィくんに会いに行くのが一番だよね。

 

彼の実力も知っておきたいし、仲間の緑髪の剣士くんと金髪黒スーツくんもローグタウンで見た感じだとそこそこ強い。

 

キースくんとフィーちゃんの相手としては手頃だと思うんだよね。

 

あー、でも。緑髪剣士くんとは同じ剣士同士、刀を交えてみたいなぁ。

 

金髪黒スーツくんもいい蹴りしてたよね、俺も久しぶりに格闘戦をしてみたいって気も無いでもないな。

 

どんどん楽しみが増えていき自然と笑みが零れてくる。

 

そんな時、遠くの前方に飛んでいる黒い“何か”が此方に近付いてくるのに気付き、俺は目を凝らす。

 

次第にその姿は鮮明になっていき、正体が明らかになる。

 

「・・・・・あれは、伝書バットか?」

 

真っ黒なコウモリが一匹俺達の船の元に来る。

 

このコウモリは世界政府━━━━まあ、平たく言えば海軍からの贈り物を届けに来たのだろう。

 

普通は手紙等の書類が専門だけど、この伝書バットの足には一匹の電伝虫がくくりつけられている。

 

キースくんたちも伝書バットの存在に気付き、俺の近くに移動してくる。

 

「何故、今さら伝書バット何かが?」

 

「さあね。中身を見てみればそれが分かるよ。けどまあ、大体の予想はついちゃうんだけど・・・・・」

 

キースくんの尤もな疑問に俺は顔をしかめながら答える。

 

俺の手元に一通の手紙と電伝虫を渡した伝書バットは、礼儀正しく頭、というか身体を下げて何処かに飛んでいった。

 

「はぁ、読んでみないことには何も始まらないか・・・・・」

 

俺は封筒から手紙を取りだし内容を確認してみる。

 

差出人は予想通り、海軍本部元帥『仏のセンゴク』さんだ。

 

 

『久しぶりだな、シェード。今更になって何故私が手紙を出したのか、優秀な弟子なら薄々理解しているだろう。お前という逸材を失ってからというもの、少なからず海軍には影響が出てしまった。だからと言って、シェードを責めている訳じゃない、本来なら私たちこそ責められるべきなんだ━━━━』

 

達筆で上手な字で書かれている文章を、俺たちは言葉を出さずに黙々と読み進める。

 

『一度だけでいい。嫌になったら直ぐに切っても構わない。だから、また声を聞かせてはくれないか?その時に積もる話でもしよう。

 

━━━━━━━━━━━シェードの師、センゴクより』

 

 

俺は左手で持っている電伝虫に視線を移し、受話器を持ち上げる。特に悩みはしなかった。

 

センゴクさんには罪はないのに、それでも俺に謝罪してくるなんて・・・・・。

 

どこまでも尊敬してしまいますよ。ガープさんも見習って欲しいものです。

 

 

「プルプルプルプルプル・・・・・」

 

 

センゴクさんの方の電伝虫に繋がるまでの間、独特な呼び出し音が辺りに響き渡る。

 

 

『・・・・・ガチャ』

 

 

そして、繋がった。

 

センゴクさんから先に挨拶をさせるのは礼儀としてどうかと思い、俺から言葉を掛けさせてもらう。

 

 

 

「お久しぶりです、センゴクさん」

 

 




ルフィたちとの絡みはまだ少し後です。もう少々お待ちください!
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