白髪剣士の気ままなぶらり旅   作:Takari

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6話 イカれた正義

 

 

キースくん達には悪いけど、センゴクさんとは二人きりで話がしたかったため俺は自室に入った。

 

手近にある椅子に座り、口元に受話器を近づけて言葉を発する。

 

「お久しぶりです、センゴクさん」

 

恩師との会話だ。変に緊張してしまうのは仕方ないと思う。でも、楽しみにしている自分がいるのも事実。

 

『久しぶりだな、シェード。掛けてくれると信じていたよ』

 

「センゴクさん相手に無視なんて出来るわけないですよ。そこまで恩知らずに育ったつもりもありませんし」

 

厳格そうな声が受話器越しに聞こえてくる。

どうやら変わらずお元気そうだ。

 

『それもそうか!どうだ、おまえの部下達は元気でやっているか?』

 

「ええ、それはもう元気過ぎるくらいに。━━━━━ところでセンゴクさん」

 

早速だが本題に入らせてもらう。

 

「単刀直入に聞きますけど、態々手紙と電伝虫を寄越したのは何故ですか?まさか、声を聞くためだけ・・・・・・って、訳でもないんですよね?」

 

少しは声を聞きたいと思ってくれてる筈だけど、態々海軍のトップが話をしてくるんだから本質は違うところにあるだろう。

 

智将とも呼ばれるセンゴクさんが珍しく歯切れを悪くする。

 

『・・・・・うむ・・・その、なんだ・・・。シェード、海軍に戻ってくる気は━━━━━ある筈がないよな』

 

「はい、ありませんよ。“幻影”がいる所になんか戻りたくありません。・・・・・・どうせ、俺が抜けたときに出来た中将の枠に入ったんですよね?容易に想像できます」

 

“幻影”は本名ではなく異名。

元同僚で、一度だけで部下として俺の下に置かれたことがあった。

 

掴み所の無い性格で、人を騙し愉悦に浸るような彼には大分手を焼いた。

 

・・・・・・・それに、俺が部下を失ったあの作戦での怨みがある。

 

仇をとっても皆が戻ってくる訳じゃないのは分かってる。けど、それでも、幻影が何も罰せられないのは我慢できない。

 

『ああ、主に赤犬からの推薦もあって直ぐに昇格になってしまった。何でも、敵を殲滅する為には手段を選ばない所がお気に召したらしい』

 

「大将赤犬らしい考えですね・・・・・。だからこそ、幻影を推したのも納得できますけど、俺はイカれてるとしか思えませんよ。他の皆は了承したんですか?」

 

『中には反対する者もいたが、殆どが賛成に回った。そんな状況では如何に私が反対を出そうと厳しかったのだ・・・・・・・・・・すまん』

 

最高位であるセンゴクさんの発言も厳しくなるほど賛成派が多かったのか。幻影の実力は俺から見ても確かに申し分ないけど・・・・・。

 

だからって、あの正義も糞もない狂者を中将に?

 

他にも候補はいるでしょ・・・・・。

 

センゴクさんに非はないけど、どうしようもなく腹の底から黒い感情が涌き出てくる。俺は奥歯を噛み締めてそれをなんとか抑え込んだ。

 

『それと、伝えなければならないことが1つだけある』

 

「・・・・・それは?」

 

真剣そうな声音で言うセンゴクさんに、俺は疑問に思い首をかしげる。

 

『お前は海軍に入隊してから異例の早さで昇格していき、億越えの賞金首も捕らえ、海軍史上最速で中将の地位まで登り詰めた。・・・・・・それ故、お前を危険視する者も浮き上がってきている』

 

「俺が世界政府に楯突く・・・・・・・そう考えてるんですか。此方は平和に旅をしてるだけなのに、頭が痛くなってくる思考回路ですね」

 

自分で言うのも何だけど、確かに俺は結構強い方だと思う。そんな俺が、海軍に復讐心を持ち喧嘩を吹っ掛けるとでも?

 

海軍を敵に回すほど愚かになったつもりもないし、何より自殺行為だ。確かに海軍は大嫌いになったけど、復讐心を抱くのは極僅かの人物。

 

けど、万が一にも、俺を勝手に危険視する者が攻めてくるのなら、容赦はしないよ。

 

あー、でもそんな事したら指名手配とかされそうだなぁ・・・・・。幻影辺りが手を回してきそう。

 

『だから目をつけられるような事はしないでくれよ?私やガープも愛弟子とは違えたくはないからな』

 

「そんな事しませんって・・・・・・たぶん」

 

保証は出来ません。何せ、自由な旅人だからね。

 

俺の曖昧な返事にセンゴクさんは苦笑を浮かべる。

 

『まあ、シェードなら心配なかろう。━━━━と、すまんがここまでになるな。そろそろ会議の時間だ』

 

「会議ですか、元帥は多忙ですね。くれぐれも体調にはお気をつけて、過労で倒れるなんてシャレになりませんからね?」

 

俺は冗談混じりにそう言うと、センゴクさんは豪快な笑いが部屋に木霊する。

 

『わっはっはっ!ひよっこが言うようになったな!安心しろ、私はまだまだ元気だ!』

 

ムキっとマッスルポーズをとっているイメージが頭に浮かび、ついつい吹き出しそうになるが堪える。

 

 

その後、俺からも一言挨拶をして、この師弟の会話は終了となった。

 

 

 

 

 

 

結局のところ、センゴクさんが俺に言いたかったのは、問題を引き起こすなということ。

俺を信用してない訳じゃないと思うけど、一応警告してくれたんだよね。

 

俺は椅子から立ち上がり、自室から出て三人にこの事を伝えようと甲板に向かう。

 

内装は特に豪華な装飾があるわけではなくシンプルな作りになってるけど、アットホームで過ごしやすい。

 

木製の扉を開けて外に出ると、新鮮な空気と潮の香りが鼻腔を刺激する。

 

 

偉大なる航路は気候が滅茶苦茶で、大雨かと思えば快晴、雪かと思えばポカポカで陽気な春模様。

 

だからこそ、今のような晴れ晴れとした気持ちの良い天気の日には、外に出なきゃ勿体ないと思う。

 

 

━━━━━と言いつつ、そんな日でも外に出たくない時が無いわけじゃない。現に、今この瞬間も外へ出たことを少し後悔した。

 

 

俺は歩みを止めずに、腰に差してある白夜を鞘から引き抜きながらそんな事を考える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ。君もさ、今日は最高で最悪な日だと思わない?」

 

 

 

 

 

俺の声がそよ風に乗って運ばれる。

 

行き先は自分専用━━━━━だった筈のハンモックが設置されている場所。

 

そこで静かに揺られているのは、白黒チェック柄の趣味の悪いシルクハットを頭に乗せている男。

 

俺の問いかけに少し間を空けて答える。

 

 

 

「ええ、僕も同感ですよ。シェード()中将殿」

 

 

 

なんの変哲もない言葉のキャッチボール。

 

しかし、互いに軽くない殺気を込めて。

 

そして、ムカつくほどに何も変わっていない風貌、口調、胡散臭さ、何より他人を見下すようなその腐った紫目。

 

見間違える筈がない。

 

殺してやりたいが、それでもまだぬるい。死よりも辛いと言われるインペルダウンに投獄してやりたいと、何度思ったことか。

 

何故、どうやって、いつの間にこの男が侵入してきたのか・・・・・。考えるのも馬鹿らしくなってくる。

 

 

前兆もなく、気が付けばそこにいる━━━━━そんな現象を可能にしてしまうのがこの狂者なのだから。

 

 

「━━━━━奇遇だね“幻影”くん。ついさっきまで君の事を話していたところだよ。それで、俺の部下はどこにいるのかな。見当たらないんだけど・・・・・?」

 

返答次第ではその首を切り落とす、その意志が伝わったのか幻影はハンモックから降りて両手をヒラヒラと上げる。

 

「彼らなら自室で眠ってもらっただけですよ。危害は加えてないので、殺気を納めてもらえませんか?怖くて体が震えちゃいます」

 

怖がっている様子など微塵も感じられず、むしろ薄ら笑いを浮かべている。

 

本当にキースくん達は無事なのだろうか。急いで確かめに行きたいけど、こいつから目を離すのも恐ろしい。

 

・・・・・・・仕方ない、遺憾だけど今だけは幻影の事を信じよう。もし何かされてたら細切れにしてやればいい。

 

自分でも物騒な事を頭に浮かべていると思うけど、相手が相手だからね。これくらいでもまだ足りない。

 

幻影は何処から取り出したのかわからないが、一本の黒いステッキを取り出してくるくると回し始める。

 

「それで、偉大なる航路の端までやって来て何の用?まあ、どうせ今の君はオリジナル(・・・・・)じゃないんでしょうけどね」

 

「あれ、バレちゃいました?」

 

「そうとしか考えられないでしょ」

 

幻影はケタケタと笑って緊張感の欠片も見えないが、俺は警戒心を一切緩めない。

 

オリジナルじゃなくてもこいつの前では隙を作る訳にはいかない。何せ、イカれてるからね。

 

「僕が此処に来た理由は、シェード殿にお知らせを届けるためですよ」

 

「いらない、帰れ」

 

「冷たいお言葉ですねぇ。・・・・・なら、無理矢理にでも聞いてもらいましょう」

 

幻影はそう言うと、指をパチンと鳴らす。

 

すると、忽ち俺を取り囲むように靄の様なものが出現する。

 

次第に靄が晴れ、視界一杯に広がるのは鋭利な剣、剣、剣・・・・・・・兎に角、数えるのが億劫になるほどの剣。

 

後ろを確認しても同様の光景。

 

これ、初見で体験した人は目が飛び出るくらいに仰天するだろうね。

 

一瞬で剣の包囲網が出来上がるなんて手品としか思えないけど、彼の能力はぶっちゃけそう呼んでも頷ける。

 

もし、全ての剣が飛んできても斬り落とすのは簡単だけど、どうせこけおどしなんだろうし。

 

うーん、どうしたもんか・・・・・。

 

聞くだけ聞いてみようか。きっと碌でもない事だと思うけど。

 

「はぁ、わかったよ。聞くからこれ消して?」

 

「あはははっ、流石はシェード殿。話が分かるお人です」

 

幻影は下手くそな作り笑いをして再び指をパチンと鳴らす。すると、俺を包囲していた剣は元々存在しなかったかのように霧散していった。

 

「お知らせと言ってもそんな大したことでは無くてですね。報告、と言った方が正しいのかもしれません」

 

俺はそれを黙って聞いている。

 

だが、幻影の次の言葉で思わず口をあんぐり開けてしまう。

 

 

「僕、そう遠くない内に海軍辞めますから」

 

 

・・・・・・。

 

 

・・・・・・・・・・・。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・は?

 

 

「よかったですねぇ。これで思う存分僕を殺せますよ」

 

「いやいや、はあ?確かに殺したい、というかインペルダウンにぶちこみたいけど・・・・・」

 

待って待って!怨み云々よりも驚きの方が上回っちゃったよ!

 

辞める理由がまったく理解できないんだけど!?

 

俺の表情に出ていたのか、幻影はクスリと笑んで説明する。

 

「僕が海軍に入った理由は、海賊を苦しめながら虐め尽くして牢屋に入れてあげるのが楽しかったからで、別に正義とか昇格とかに興味は無いし関係も無いんですよ」

 

「相変わらず嫌な趣味してるのは再確認出来たけどさ。大将赤犬から直々に推薦されたんでしょ?勿体無くは思わないの?」

 

「推薦のことよく知ってますね。シェード殿の言うとおり推薦はされたんですが、僕としては少将の地位で十分と言うか。そこまで期待されても困るというか」

 

幻影はほとほと困り果てたように肩を竦めてそう言った。

 

って、ちょっと待てよ・・・・・?

 

「なら、一つ聞かせてほしい。あの作戦の日に赤犬が幻影に糞みたいな指示を出したのはなんで?指揮権を持った俺ではなく、君に。赤犬に媚び売って俺を陥れ、昇格するためとしか思えないんだけど」

 

「ああ、懸賞金4億6000万ベリー“惨殺卿キラ”の討伐任務のですか。あのときは楽しかったですねぇ、敵味方関係なく悲鳴が飛び交って最高でしたよ」

 

醜く歪んだ笑みを隠すかのようにハットのツバを指で下げる。

 

 

━━━━あの時の悪夢が脳裏を過る。

 

 

幻影の言葉に視界が黒く塗り潰されるような感覚になり、頭で憎悪を認識する前に体が先に動いていた。

 

 

「黙れ・・・・・っ!」

 

 

ズバアァァンッ!!

 

 

幻影の胴体に白夜の黒い刃が一閃され、上半身と下半身は綺麗に分離される。

 

が、軽い。手応えがまるでない。空気を斬ったような虚しさだけが残る。

 

そして、原型を留められなくなったのか、幻影は先ほどの剣のように霧散して消えた。

 

『きひひっ!酷いじゃないですかぁ、僕じゃなくて(オリジナル)だったら死んじゃってますよ?』

 

幻影の姿は見えないが、奴の声だけが全方位から響いてくる。

 

くそっ!俺の部下を・・・・・!

 

本体だったら今にでも殺してやりたい・・・・・!

 

『いいですねぇ、その殺意!ゾクゾクしてきますよ!━━━━がしかし、殺り合いたい所ですが、生憎と実体が保てなくなったのでここで退却させてもらいます』

 

「早く消えろ。次会ったら問答無用で斬るよ。幻だろうが本物だろうがね」

 

俺の殺気などご褒美でしかないと言いたいのか、神経を逆撫でするような笑いを止めない。

 

 

 

『きひっ!それではまた、近い内に!』

 

 

 

その言葉を最後に幻影の胸くそ悪い気配が完全に消失した。

 

 

やり場のない怒りだけを残して・・・・・。


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