俺が召喚された場所は案の定アインツベルンの城だった。
やはりあの時、令呪を宿した切嗣はアヴァロンを触媒にして騎士王を呼び出そうとしていた。けれど、蓋を開けてみれば、どこぞの英霊とも知れない俺が呼び出され、おまけに近くにいたアイリスフィールに令呪が宿るという予想外の展開となった。
まぁ、俺の現界自体がイレギュラーだから当然のことのように思える。
そりゃあね、通常は呼び出される側のサーヴァントがこっちから突っ込んでいったからね。おそらく、聖杯が急遽、エクストラクラスのマスターとしてアイリスフィールを選んだとも考えられる。
所詮は俺の浅はかな考察に過ぎないが。
あの召喚の後、俺は切継とアイリスフィールに連れられて、ユーブスタクハイト・フォン・アインツベルンの元へと連れて行かれた。
いやぁ、やっぱり本物は違うわ、うん。
アインツベルンの中枢制御用人工知能ゴーレム・ユーブスタクハイト。生きた石板。
ぱっと見た感じは厳ついサンタクロースだが、さすが200年近く生きてる (この場合、稼働といった方がしっくり来るが)だけにオーラが凄かったです、はい。
アハト翁曰く、
「別に構わん。令呪がアイリスフィール宿ったところで、それの機能と使命に全く影響はない。さらに衛宮切嗣にもまだ令呪が残されておる。アヴァロンを触媒に今度こそ騎士王を召喚すれば、何も問題ない」
と、アインツベルン側のマスターが二人になったことにご満悦であった。
俺がどこの誰だろうがサーヴァントである限り、そんなことは、どうでもいいらしい。
こちらとしても、聖剣によって世界を救うために転移した一般人などと口が裂けても言えないので、イレギュラーとしか言えず。それ以外のことはすっとぼけた。つまり、イレギュラーな召喚だったため、記憶に障害が起こっていると二番煎じな理由を作っておいた。しかし、さすがに霊体化もできないと言った時は切嗣に舌打ちをされた。
しかし、アイリスフィールは相変わらず無表情で淡々としており、曰く、
「大お祖父様の言われた通りです。貴方のマスターになったところで、私の使命に変わりはありません」
と、機械的に言われた。どうして、こんなにも人間性がないのか?簡単な話だ。おそらく人間性よりも聖杯を守るための道具としての能力に特化させて調整がなされているのだろう。
「そいつは、まったく人間的な感情がない。むしろ、聖杯の担い手としては機械的に自分の身を守れる方が色々と都合がいいだろう」
切嗣は淡々とそう言ったが、そこにはアイリスフィールに対しての複雑な感情が渦巻いているように感じた。
この時点でアイリスフィールと切嗣の関係がこんな感じなら、イリヤスフィールはこの世界には存在していないのか?
頭が痛くなっていた俺は、何やらアハト翁に言われたが聞き流し、とりあえず一人なりたいとその場を後にした。
そして、それから一夜明け、城の一室を与えられた俺は未だ頭を悩ませていた。
「いやいや、ちょっと待って。俺の知ってるFate/Zeroじゃない」
調子に乗ってサーヴァント風にかっこつけたはいいが、あまりにも原作知識とかけ離れていたことに一人絶望していた。
しかも––
『当たり前です。今、貴方が存在しているこの世界は大きな誤差が生じているからこそ、危機的状態にあるのです。馬鹿ですか?』
この偽エクスカリバーは何故か、ここ数時間でやけに腹が立つくらいに口悪く饒舌になっていた。へし折ってやろうか?
『貴方程度にへし折れるほど、やわに作られていません』
「そもそも、お前は何なんだよ?それだけ喋れるなら教えろよ、偽エクスカリバー!」
『私ですか?聖剣です』
簡単に教えてくれた!?いやいや!ちょっと待て!!
「聖剣がッ!何でッ!アニ◯イトにッ!放置されてんだよッ!?」
『そう言われましても、ゼ……いえ、私は資格ある者の側に現れるようになっているのです。そして、貴方はそれに応えた。それだけのことではないですか?』
「……チッ。何か誤魔化されてる気がする。じゃあ、お前、本物のエクスカリバーなん?」
『いいえ。私は特定の形を持ちません。簡単に言い換えると聖剣という概念が私です。故に、所持するものがイメージする形状にその都度変形します』
え、聖剣の概念?こいつ何気にすごいんじゃね?
『褒めても何も出ませんよ?』
「心を読むな。わかった、お前が聖剣だってことはもう納得した、ツッコミません!」
「聞きたいことは一つだけ。世界救えって言ってたけど、どうやって救えばいいんだよ?しかも、まだ普通に人類息してるけど」
『いえ、このままではこの世界は消滅します、間違いなく。いずれ訪れる災厄は、この世界は勿論、他の世界にも影響を及ぼすほどのモノになるでしょう。貴方は、それを防いでくれればいいのです』
「答えになってねぇし、簡単に言うなや……」
やっぱりこいつ、なんか隠してるな?というよりも情報を出し惜しみしている?
しかし、俺がサーヴァントとしてこっちに来たということは聖杯戦争が世界滅亡の原因となるのだろう。第四次が冬木で起こるということはアインツベルンは第三次でアヴェンジャー、アンリマユを召喚したはずだ。つまり、汚染された聖杯が原因となる?
「結局は、他のマスターに負けないよう生き残るしかなのか?」
俺の貧弱な頭では渋いお声のド外道神父と金ピカ英雄王が聖杯片手に愉悦に浸っている場面くらいしか思いつかない。
俺はパリッと糊付けされたシーツが敷かれたベッドにダイブする。俺が質問を切り上げたからだろう、聖剣が悪い口を開く気配はない。
視界が暗くなって、夢に引きずり込まれるように意識が遠くなる。
紅く、赤く、朱く。
始まりの場所。穏やかな胎内。
そこには裸の女がいた。
汚れを知らない白い肢体は酷く妖艶であり、この女を犯したいと見る者の肉欲を掻き立てた。
女は金の杯を片手に淫らかに舞った。
金の杯杯の中身が激しく溢れ出た。
それは女の体を貪るように陵辱し始めた。
女は恍惚とした表情でそれを受け入れ、愛おしそうに抱き締めた。
目を背けたくなるほど光景なのに、それはとても美しい。
女の体を犯し尽くしたそれは獣の姿をしていた。
7つの頭と10本の角をもつそれは女を背に乗せ、世界を人類の原罪で燃やし尽くす。
今や汚され、神々を冒涜するあらゆる文字が刻まれた白い肢体をもつ娼婦の朱い瞳は何処か見覚えがあるものだったーー。
コンコン。
「ーー。ッ!?」
ドアをノックする音で俺は飛び起きた。何だ?随分とおかしな夢を見ていた気がする。吐き気が治らない。
コンコン。
二度目のノック。
寝ぼけた意識を完全に覚醒させるため、頰を強く叩いてから、ドアの向こうの人間に声をかけた。
「はい、どうぞ」
開いたドアの向こうには白い女がいた。
その赤い瞳が一瞬何かとダブる。
「?……どうかしましたか、イレギュラー?」
何だ?まだ寝ぼけているのか。
俺はかなり寝起きは良い方だと思っていたけど、やはり相当疲れていたらしい。まぁ、世界を飛び越えたのだから当然か。
「いや、アイr……マスター、何でもないよ。ちょっと考え事をしていただけ」
「そうですか。あと、私のことは別にアイリスフィールと呼んでも構いませんよ、イレギュラー」
「それじゃ、お言葉に甘えるとして……何か用でも、アイリスフィール?」
「はい。今から切嗣がサーヴァントの再召喚を行うので、貴方もその立ち会いに参加して欲しいのです」
あー、なるほど。一応、大事な儀式だもんね。俺も生アルトリアを拝んでみたいし、やっべ、興奮してきた。
「はいよ。んじゃ、行くとしましょうかね」
俺は聖剣を携え、アイリスフィールと部屋を出た。
この城は無駄に広すぎる。部屋なんてほとんど使ってないんじゃないか?
長い廊下を永遠と歩き続ける。
「………………」
「………………………………」
無言の沈黙が重い。
こう、マスターとサーヴァントはコミュニケーションが大切なのでは?
「ところでアイリスフィール、衛宮切嗣とは出会ってどれくらい?」
「8年と3か月です」
「へぇ。結構、長い付き合いなのか」
「………………」
「………………………………」
『貴方も相当コミュ障ですね(呆)』
うるせぇよ。
んじゃ、ちょっとこれまでの聖杯戦争に関する情報でも聞き出してみようかね。
「聖杯戦争は今回で4回目なんだよな。第三次聖杯戦争のアインツベルンの結果はどうなったんだ?」
頼むぞ、原作通りであってくれよ。
「前回、アインツベルンは裁定者のサーヴァントを召喚し、再々戦争に参加しました。終盤までは勝ち残ることができたのですが、参加したマスターの一人であるダーニック・プレストーン・ユグドレミアとナチスによって大聖杯が強奪されたことにより、聖杯戦争が終結してしまいました」
最悪だよ。じゃあ、どうして第四次聖杯戦争が始まるんだ?
「しかし、アインツベルンの悲願はこの程度で潰えるもではありません。遠坂、間桐との140年ぶりの協力により、大聖杯に代わるセイントグラフを用意し、改良を重ねることで冬木の聖杯戦争を再開することが可能となりました」
「じゃあ、第四次とは言っているが、実質は新第一次聖杯戦争というわけか」
「はい。こうして貴方が召喚されたということは聖杯戦争のシステムが稼働していることの証明にもなります」
いやいや、もうめちゃくちゃだよ。俺みたいな一般人が、パチもんのサーヴァントとして召喚が許された時点で、重大なエラーが起こってるとしか思えない。
「俺みたいなイレギュラーが召喚されているわけだが……」
「イレギュラーであろうとサーヴァントが召喚された時点で聖杯戦争は始まるのですから、小聖杯も必ず機能します。例えそれがどれほどの厄災を引き起こそうとも、我々の一千年の悲願である第三魔法の再現に繋がれば問題などありません」
「さいですか……」
『良かったですね』
何がだよ。
『ここまで、貴方が持つ知識とズレが生じていれば、それに振り回されることなく。貴方は貴方の選択によって行動ができるわけです』
「吐き気がするよ、まったく」
「何か、言いましたか?」
「いや、何も……」
さっきから思っていたのだが、やはりアイリスフィールには聖剣の声は聞こえていないらしい。
これは人前で気をつけなければ、独り言をブツブツと言っている不審者になってしまう。
「着きました。切嗣はすでに中で待機しています」
そこはやはり、俺が召喚された場所と同じであった。
中は薄暗く、月の光で満ちている。床には水銀で描かれた魔法陣。
切嗣はその側でタバコを吹かしていた。
「来たか。お前を呼んだのは再召喚の立ち会いだ。昨日、アインツベルンはお前というイレギュラーを召喚したことで僕としてはすでにこの聖杯戦争に違和感を感じているんだ」
「で、俺は再召喚でイレギュラーが再び生じた際の対策か?」
「ご名答、話が早くて助かる」
切嗣はそう言うと、タバコを床に投げ捨て、靴の裏で火を消した。
「切嗣、そろそろ時間です」
「わかった、アイリスフィール。では、再召喚を始めよう」
「――素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。
降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。
閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する。
――――告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。
誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者。
汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
サーヴァントとなったことで俺でも感じることができる。
目を開けていられないほどのマナの本流がこの空間を蹂躙する。
「――来た」
切嗣がそう呟くのが聞こえた。
よっしゃ、俺も生アルトリア拝んでやるぜ!
しかし、目を開けた俺の視界に飛び込んできたのは思いもよらない人物であった。
ありがとうございました。
感想、評価の方をいただけると嬉しいです。
では、また。