裏切りの隣に愛の手を 作:冷目
早く書こう書こうと思いつつも……先日発売された『V3』にすっかりのめり込んでしまい、書く時間が取れず……
今回のダンガンロンパも、今までとは違う予想外な展開や悲惨な展開があって素晴らしいですね!
だからこそのめり込んでしまったわけですが……
さて、今回は絶望編もとい過去編の第一話
彼らの過去に何があったのか……ぜひご覧ください
では、どうぞ!
僕にとってのあなた
「あら~! お宅の息子さん、賢そうな顔をしてて将来が楽しみですわね~!」
(生意気そうな顔……。でも、ウチの子のいい引き立て役になりそうね)
「皆さんの笑顔のために職務に励んでますから!」
(んなわけあるかよ。給料高くなけりゃ辞めてるっての)
「す、すみません……。グスッ、感動しちゃって……」
(クッセ~! 今どきこんな話する!? ウソ泣きも疲れるんだから勘弁してよね~!)
(みんな……なんて子どもっぽいんだろうな)
それが、
この価値観が確立した時……彼はまだ片手の指で足りるほどの年齢だった。
「は、初め……まして。忌村静子……です」
「秋雨彷徨です。よろしくね、静子ちゃん」
そんな価値観を抱えたまま、彼らは出会った。
超高校級の薬剤師の才能を持つ少女と超高校級の保育士の才能を持つ少年。
(わ、私……私は────!)
(……ああ、この子も他の人と同じなんだ)
その出会いは、決して特別ではなかった。
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父親の仕事の都合で転校が決まり、まったく知らない土地で生活をすることになった秋雨。バタバタと行っていた引っ越しも、新たな学校に通う準備も着々と進んだ。今のところ、特に問題は感じられない。
──ピンポーン
「静子ちゃん、あーそーぼ」
「薬?」
「そ、そう。私……色んな薬を作るのが好きなの。う、上手く言えないんだけど……こう作ればこんな効果がある、っていうのがなんとなくわかるっていうか……」
忌村を誘い、近くの公園へとやってきた秋雨は、ベンチに座って何気ない話を始めた。今は「好きなこと」について聞き、忌村が一生懸命に話している最中だった。この年齢にそぐわない薬への知識などは、彼女が持つ超高校級の薬剤師の才能の片鱗なのだろう。
「あ……ゴ、ゴメンね? 急に薬の話なんかしても、つまんないよね……?」
「ううん、そんなことないよ」
自分だけが必死に喋っていることに気付き、忌村は頭を下げる。だが、秋雨はニッコリと笑って首を振る。
「僕もよく知らないけど……そういうのって、才能って言うんだって。きっと静子ちゃんには、すごい薬を作れる才能があるんだね。羨ましいな」
「う、羨ましい!?」
突然の褒め言葉に、忌村は全身を大きく跳ね上がらせる。その大袈裟とも言える反応に思わず秋雨も驚いたが、その表情を見て本心を知るまでもなく首を傾げる。
「……なんで照れてるの?」
「え!? あ、その……男の子からそんなこと言われたの、初めてだったから……」
「……そうなんだ」
それで照れるものなのか、と秋雨は冷めた反応をする。特に深い意味も無く発した言葉に対して、そこまで過剰に反応されたことで驚いていたが、よく考えれば似たような経験は彼にもある。
(ま、結局感じ方は人それぞれってことだからね……)
子どもらしからぬ結論を付けてから、秋雨は忌村と再び話し始める。何気ない話を、時々本心を知ることでトラブルとならないように気を付けながら。
だが、トラブルとは言葉によって起こるものだけではない。
「あ──!」
──ズザッ!
「痛ッ──!」
「か、彷徨君!」
少し体を動かそうと忌村を誘い、追いかけっこをしていた二人。その途中、秋雨は身体のバランスを崩して転んでしまった。いくら精神が子ども離れしていても、まだ子どもであることに変わりはない。まだ身体も出来上がっていないため、走っている途中で転んでしまうなど普通のことなのだ。
「大丈夫!?」
「……うん、大丈夫。いっ──!」
心配そうに覗き込む忌村に笑顔を向け、そのまま立ち上がろうと足に力を込める。しかし、その瞬間に激痛が走る。見ると、右足の膝に擦り傷ができていた。かなり勢いよく転んだからか、血も出ていてより痛々しさを感じさせた。
「け、怪我したの……!?」
「そうみたい……。ちょっと、そこの水道で洗わないと……」
幸いにも、二人が遊んでいたのは公園。公共の水道が近くにあり、傷口を洗うことができそうだった。
秋雨は無傷な方の足に力を込めながら水道まで自力で移動を始める。さすがに女子である忌村の力を借りるのは難しいと思ったのだろう。一方の忌村も、秋雨の怪我を見て少し震えていた。
そして、なんとか水道まで辿り着き、砂を洗い流し始めた秋雨。すると、今まで震えていた忌村が何かを決心したかのようにギュッと拳を握った。
「ちょっと待ってて!」
「え?」
それだけ言って、忌村はその場から離れた。彼女が向かった方向は、公園の中でも遊びに使われるエリアから少し外れた方向……草木が生い茂った方だった。
「こ、これ……! 使え、ば大丈夫……!」
数分後、忌村はひどく息を切らした状態で戻ってきた。その手に、同じ種類の野草を何本も持って。
何事かと思っていた秋雨に対し、忌村は息を整えることもせずに野草から葉の部分を取り外し、念入りに洗っていく。そして、一枚一枚を丁寧に傷口に貼っていった。
「……これは?」
「き、傷口の治りを、早くする野草……! 貼っていれば、痛みもすぐ治まると思う……! 前に傷薬を作った時、使ったから……!」
汗を流しながら、秋雨に野草の説明をする忌村。薬に詳しいからこそ、薬の材料でもある野草にも詳しくなれたのだろう。その視線は野草を貼る傷口へと向けられたままで、その懸命さが伝わってくるようだった。
秋雨は、ただ静かにその一生懸命な姿を見て、密かな疑問を浮かべていた。
(……なんで、そんなに一生懸命なんだろう)
「……友達?」
「そ、そう……。彷徨君より先に知り合った二人がいて、私の初めての友達なの……」
それから数日後、再び遊ぶことになった忌村と秋雨だったが、その日は秋雨にとって新たな者たちとの顔合わせの日となった。ちょうどその友達からも遊びに誘われたため、せっかくだからと忌村が秋雨も誘ったのだ。
そして、いつもの公園で話ながら待っていると、一風変わった子どもの男女がやってきた。
「あ! 静子ちゃーん!」
「る、流流歌ちゃん!」
やってきた子どもの内、女の子の方が手を振りながら忌村の名前を呼ぶ。それに気付くと、忌村も大きく手を振ってから彼女のところへと走り出す。秋雨もそれを追って二人のところへ向かった。
「久しぶりだね! それで、その子が言ってた子?」
「う、うん! 秋雨彷徨君!」
「秋雨彷徨です。静子ちゃんとはお隣さんなんだ。よろし──」
と、女の子に握手を求めようとした瞬間。
「──流流歌に何をする気だ?」
一緒に来た男の子が細い針金を秋雨に容赦なく向けてきた。子どもでもわかる。その子が秋雨に向けていたのは……間違いなく敵意だった。
「……初めて会ったから握手をしようとしただけだよ。驚かせたならゴメンね」
「もー! ヨイちゃん!? ビックリさせちゃうから、そういうことしちゃ駄目って言ったでしょ!?」
「……すまない。勝手に動いてしまった」
少し動揺はしたが、秋雨は一歩下がってから頭を下げた。同じ年齢の普通の子どもなら、恐怖を感じるか怒りを覚えるだろうが、子ども離れした精神を持つ秋雨は驚くだけで済んだ。
すると、女の子の方が大声を張り上げて男の子を叱り出した。その言葉にハッとして、男の子はすぐに針金をしまって申し訳なさそうに目を伏せていた。それだけで、なんとなくこの二人の力関係が見えてくる。
「えーっと……秋雨君だよね? ゴメンね? 私、安藤流流歌! お菓子作りが得意なんだ! これからよろしくね!」
「十六夜惣之助だ。流流歌に何かしたら許さないぞ」
「ヨ~イ~ちゃん? 今日はもうお菓子あげないよ?」
「ごめんなさい」
「……うん、よろしくね。安藤さん、十六夜君」
安藤と十六夜……新たに出会った二人に、笑顔を向ける秋雨。その様子に、忌村も笑顔を浮かべる。以降、彼らはよく四人で過ごすようになっていった。
「静子ちゃんって本当にすごいよね~! 色んなお薬を作れて、流流歌のこともたくさん助けてくれたんだ!」
「そ、そんなこと……」
「流流歌がこう言っているから、誇っていい」
「そっか。やっぱりすごいんだね、静子ちゃんは」
「ねぇ、静子ちゃん。実は昨日の夜から目が痒くて……」
「だ、大丈夫!? ちょっと待ってて。確か、少し前に作った眼薬があるから……」
「用意がいいな。助かる」
「ホントだね」
忌村の最初の友達ということもあり、秋雨も彼らと馴染んでいこうとしていき、安藤と十六夜もそれを認め始めていった。
特に、十六夜とは男同士ということもあり、彼に認められてからはその仲も急速に縮まっていった。気付けば、いつも安藤から離れない十六夜が秋雨と並んで話すことも珍しくなくなっていた。
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──
「惣之助君ってさ、流流歌ちゃんのことが好きなの?」
「……いきなりどうした?」
「ちょっと気になって」
この日、最初は四人で集まっていたのだが、安藤が忌村と二人きりで花を摘みに行くと言い出し、それに従って男女で分かれていた。最初は何気ない雑談をしていた秋雨と十六夜だが、突如として秋雨がその疑問を投げかけてきたというところだった。
──ジャキン!
「彷徨……まさか、流流歌に気があるのか?」
「流流歌ちゃんは友達だよ。今のところ、それ以上の感情はないかな」
「本当だな?」
「うん。確かに流流歌ちゃんは可愛くて人気者だけど、僕には高嶺の花だよ」
「高嶺の花……ふむ、良いことを言う」
秋雨の問いに危機感を感じたのか、首元に自家製のクナイを向ける十六夜。しかし秋雨は慣れているのか、特に慌てることなく十六夜が感じた危機感を払拭した。そうして安心した十六夜は懐にクナイをしまうと、先ほどの問いに対して腕を組んで考え始めた。
すぐに答えが返ってくると思っていた秋雨は意外そうな表情を浮かべたが、何も言わずに十六夜の言葉がまとまるのを待つ。そして……
「好きというよりは……大切だな」
「……大切?」
首を傾げる秋雨に、十六夜は「ああ」と答えると、少し空を見上げながら言葉を続けた。
「流流歌はオレを必要としてくれるし、いつも傍に居てくれる。一緒にいるだけで幸せになれる。オレはそんな流流歌を護りたいし、ずっと一緒にいてほしいと思う。だから、オレは流流歌が何よりも大切なんだ」
「…………」
(本当に……大切に思ってるんだなぁ)
無意識に十六夜の本心を感じ、秋雨は静かに感心する。とてもじゃないが、小学生が語る言葉とは思えない。
「それに、流流歌のお菓子はおいちいからな」
「……やっぱりそこは外さないんだね」
「当然だ」
しかし、直後に小学生らしいシンプルな理由も出てくる。だが、それは言ってみれば彼女の才能を素直に認めているということだ。おそらく、十六夜が感じていることは安藤が感じていることでもあるのだろう。
すると、今度は十六夜が思いもよらぬ問いを投げかける。
「お前はどうなんだ? 忌村のこと……どう思ってるんだ?」
「……え?」
お返しとばかりの内容の質問に、秋雨は思わず固まってしまう。なんとか頭を整理して、「ちょっと待って」とだけ言うと、秋雨は一人で考え始める。
(静子ちゃんのこと……どう思ってるか?)
正直に言うと、考えたことなど無かった。いや、正確に言えば考える必要がないくらい一緒にいることが自然だった。隣の家というすぐ会いに行ける安心感に、“友達”という繋がり。自然と隣には彼女がいた。
そこに特別な感情を感じたことは無く、それはすでに日常と化していた。だからこそ、いざ考えてみるとわからなくなる。自分の本心は……彼女をどう思っているのか。
(僕……僕は…………)
「ただいまー!」
と、そこで思考は停止した。底なしの明るい声が鼓膜を震わせ、まさに話題の中心となっていた彼女たちが戻ってきたことに気付く。
「帰ったか、流流歌」
「うん! ただいま、ヨイちゃん!」
「ただいま……彷徨君」
「……うん。おかえり、静子ちゃん」
突然帰ってきたことに驚きもせず、安藤が帰ってきたことに対して表情を和らげる十六夜。そんな十六夜を見て、安藤も満面の笑みを見せていた。
そんな安藤の陰からひょこりと顔を出した忌村も、笑顔で秋雨に声をかける。先ほどまで十六夜としていた話題が話題なだけに少し反応が遅れたが、特に違和感を感じさせないよう言葉を返す。無意識に綻んだ表情と共に。
友人として、何気ない日常を共に過ごす四人。その間にある絆は時が経つたびに強くなっていき、いつの間にか彼らは一緒にいるのが当然になっていた。
しかし、いつからだろうか。
「流流歌ちゃん! コレ、この前言ってた集中力が続くようになる薬!」
「え? そんなの頼んでたっけ? ……まぁ、いいや。くれるならもらっておくね」
「流流歌、早く行こう」
「…………」
「あのさ……最近腕の疲れが半端ないんだよね」
「じゃ、じゃあ……疲労が取れる薬、あるよ?」
「ふーん。ま、もらっとく」
「あ……」
「…………」
彼女たちの関係が歪んでいったと感じたのは。
「……流流歌ちゃんの頼みを聞くのを、やめろ?」
「ああ」
「ど、どうして……」
「それがお前のためだろう」
彼らが出会った時代である小学校時代は終わり、新たに中学生としての生活が始まって1年が経とうとしていた。出会った頃と比べると大きく成長した4人だが、その分、新たな問題が発生していた。
秋雨の忌村に対するその言葉は、まさにその問題への警告だった。
「わ、私のためって……私はなんともないし……」
「嘘をつくな」
「嘘なんかじゃ──!」
「オレの才能……忘れたわけじゃないだろ」
「──ッ!」
昔と比べると、冷たい印象を受ける秋雨の言葉。しかし、確信を得ているその言葉に、忌村は何も言えなくなった。
この頃には、すでに彼らは互いの超高校級の才能についてある程度は理解していた。人の本心がわかる秋雨に、嘘は通用しないということも。
「……けど、流流歌ちゃんは友達、だから。少しでも、役に立ちたくて……」
「お前はそうだとしても、向こうはそうじゃない。それはアイツの態度を見ていればわかるはずだ」
「…………」
出会った頃から、忌村は
そして、当たり前になればなるほど安藤の忌村に対する扱いは雑なものへとなっていった。それは他人に言われるまでもなく、当人である忌村自身が誰よりもわかっている。
「で、でも私は……」
それでも、彼女は安藤との関係を切り離そうとはしなかった。それは、純粋に安藤から責められることへの恐怖もあるが、何よりも大きかったのは……
「
「…………」
忌村にとって安藤は初めてで来た友達であり、何よりも大切な存在だった。そんな彼女の役に立てるのなら、彼女との
そう語る忌村のことを、秋雨は黙って見つめる。だが、それは意外すぎる言葉で打ち切られた。
「じゃあ、オレが
「……え?」
「──オレは、静子が好きだ。だから、お前が傷つくのを見たくない」
かつて言えなかった、彼自身の
以上、絶望編第一話でした
二人の出会いから彷徨の告白まで、といった流れでした
本当は所々もっと掘り下げようかと思いましたが、ダラダラと長くなりそうだったのでここで区切りました
絶望編での人間関係が未来編ではどのようになっているか、彼らが未来機関に至るまで何があったのか……楽しんでいただけたら幸いです
それでは、程々に『V3』を楽しみつつ、磁界をかけるようにして行きたいと思います(今にも誘惑に負けそうですが)
また次回、よろしくお願いします!