やっっっと次の話を投稿することが出来ました。
何とかこの話は完結させたいので、これから頑張っていきたいと思います……。
「君は……?」
思わずスバルは尋ねる。
目の前に現れた少女は、今にも折れてしまいそうなほどの繊細さを感じさせる。長い髪は風に流されて静かに揺れている。一目見て、スバルは彼女のことを美しいと感じていた。
そんな少女は、スバルの顔をじっと見つめたまま、それ以上言葉を発することはない。
「……キズナはとても、大切。だけど、人の心がその力を左右する」
「え……?」
答えの代わりに返ってきたのは、その言葉。しかし、不思議とスバルの心の中に強く残る言葉だった。
「人の心は善意だけじゃない……悪意だって存在する……キズナは、その人の心によって、その価値が大きく左右される」
「ひとの、こころ……」
「……負けないで。あなたはとてもやさしい人。あなたのやさしさは、心の闇を払ってくれる。だけど、あなたもまた、心の闇に負けないで」
「心の闇って……あっ」
その時、空に流れる彗星から、青白い光が発せられる。夜の闇をかき消す程の強い光は、スバルの目を容赦なく突き刺した。
あまりの眩しさに目を閉じたスバルは、光が消えたことを確認して、そっと目を開いた。
「いない……」
そこに、先ほどまでいた少女はいなかった。
「キズナ……人の心……心の闇……」
「妙な奴だったな……スバル」
「うん……でも、あの子が言ってることは、大切なことなんだっていうことは伝わったよ」
少女に言われた言葉を思い出し、スバルは拳を握り締める。
キズナを左右するのは人の心。その心が闇に囚われてしまった時、強固だったキズナは脆く崩れ去ってしまう可能性がある。
だが、それでもスバルは信じている。
「だからこそ、僕はこれからも信じるよ。父さんの言葉を、母さんのことを、ブラザーバンドのことを……そして、ウォーロックのことを」
「へっ! 当たり前だ! オレもお前のこと信じてるぜ、相棒」
かつて地球を三度救った彼らのキズナは、そう簡単に突き崩せるものではないのだろう。人と宇宙人という差はあれど、その二人に結ばれたキズナは、誰よりも強いのかもしれない。
※
「かつて私の先祖は、闇の力によって世界を支配しようとした。しかし、それらの計画は全て失敗に終わっている……何故だか分かるかね?」
某所。
何かの研究室のような部屋。部屋中に設置されている機械の中には、黒色に統一されたバトルカードのようなものが液体の中に浮かんでいる。部屋の最奥には巨大なスクリーンが広がっていて、世界中のあらゆる場所が映し出されていた。
そんな空間にて、白衣を身にまとい、左目に髑髏の眼帯をつけている男性――Dr.リーガルは、目の前にいる男に尋ねる。
男は乱雑に切られた黒い髪に、鋭い目つき、冷酷な表情をリーガルに向け、答える。
「邪魔者がいたのだろう。それくらい容易に想像がつく」
「その通り。その邪魔者によって、本来混乱に陥るはずだった世界は救われてしまっている。それ故に、私は考えた」
革靴独特の足音を部屋中に響かせて、リーガルは歩く。男--バレルは、ただじっと眺めていた。
「邪魔者は先に消してしまえばよい。だが、かつての我らには、そうする為の力がなかった……そして今も尚、十分であるとは言い切れない。そこで編み出したのが、シャドウカードだ」
「……ただのバトルカードと何が違うというのだ」
バレルは興味なさげに尋ねる。
リーガルは、自らが纏っている白衣のポケットより、この部屋にあるのと同様のカードを取り出す。絵柄はなく、ただ漆黒に染められたカードだった。
「このカードは莫大なる力をもたらす。その力とは、人とウィザードの融合……電波変換だ」
「電波変換?」
「そう。このカードはそれを可能にする。サテラポリスとディーラーの力を利用したものだ」
ハンターVGには、ウィザードと人間を電波変換させる機能が元々組み込まれている。しかし、一般には公開されておらず、また、身体にかかる負荷も相当なものであるため、実質不可能とされていた。
しかし、リーガルは自信満々に語る。
「君は既に電波変換が可能となっているからあまり興味はないかもしれない。しかし、このカードで電波変換する条件こそ、私が目的としていることの一部でもあるのだ」
「……その方法はなんだ?」
「人、ウィザードのココロを利用する。闇に支配されたココロを利用することにより、その力を増幅させる。そして、身体への負荷を無視した電波変換……カオス変換が可能となる」
かつてリーガルの祖先は、ダークチップを利用した。それもまた、闇の力――ココロの闇が関係していたものであった。彼もまた、それを利用する。祖先が用いた力を昇華させて、自身の計画を確実に遂行する為に。
「ココロの闇、か」
「絆というものもまたココロの力によるもの。私は絆が憎いわけではない。むしろ、人のココロが持つ可能性を信じてさえいる。それ故に、このカードを開発した。すべては、人のココロがどれ程醜いものなのかを証明する為に……そして、人間が如何に闇に染まりやすいかを示すことが出来てば、流れる彗星も目が覚める筈だ」
「『HUMAN PERISH.』。確か彗星から流れてきたメッセージだったな」
「そうだ。恐らく今頃サテラポリスやWAXAが血眼になって探しているが、私にはその正体が簡単に分かった」
リーガルは口元を歪ませる。己の有能さを誇っているのではなく、公的機関の無能さを嘲笑っていた。人員の数も絶対的な差があるにも関わらず、人為的なものであることを疑わない。シグナルが発せられた段階で、宇宙からの襲撃者を疑うべきであると言うのに、それを行わない。ある意味、先んじて発生したメテオGに関係する事件が、彼らの思考を惑わせているのかもしれない。
その点、リーガルは余計な思考を省いている。あれは紛れもない宣戦布告。彗星が、地球を目がけて落ちてきていることの証明であると感じ取っていた。
――かつて地球を滅ぼそうと襲撃した彗星、デューオ。
祖先が残した研究記録に書き記されたものを、リーガルは持っていたのだ。
それ故に、彗星にも電波空間が広がっていることを即座に察知した。
正確に言えば、彗星や惑星などの星に電波空間が広がっている可能性があることは既に証明されている。FM星人とコンタクトを取ろうとした「きずな」――即ち、星河大吾がそれを証明している。ただし、彗星そのものに意思が込められている可能性は限りなく少ないと考えているのも事実。
「私は為さねばならない。生温くなってしまった地球を、リセットするのだ」
「……」
スクリーンを見つめながら笑い続けるリーガルを、バレルはただじっと眺めていた。