コードギアス 黒百合の姫   作:電源式

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第21話

 

 

 目の前に蛇が居る。

 

 何を言ってるのか分からないかも知れないが────以下略。

 もちろんアナコンダやニシキヘビといった大蛇が居るわけではない。

 ましてや八岐大蛇やアナンタ、ヨルムンガンドやウロボロスなどの神話級の存在であるはずもなく、もし実際にそんなモノが目の前にいたとしても対処できる気がしない。

 ただ個人的な脅威という意味では、齎される結果は同等だろう。世界を滅ぼすことは出来ないが、俺一人ぐらいなら簡単に消すことの出来る力を持った相手だ。

 

 この帝都に聳えるペンドラゴン皇宮に巣くう蛇。

 神聖ブリタニア帝国第一皇女、その名はギネヴィア・ド・ブリタニア。

 

 彼女はこれぞ弱肉強食国家=神聖ブリタニア帝国の第一皇女という風格を放ちながら、自分以外は下等種とでも言いたげな瞳で俺を睥睨し、年代物のワインの注がれたグラスを傾けている。

 

 ……なんでさ?

 

 

 

「リリーシャ、帝都へ行くわよ」

 

 事の発端は嗚呼やはりというべきか、いやはや必然というべきか、母マリアンヌの一言だった。俺にとってあの人は、もはや鬼門と化しているのかも知れない。

 話を聞けば、母マリアンヌは皇族会議に軍のアドバイザーとして参加するため、帝都へ赴くようだ。

 皇族会議。それはペンドラゴン皇宮で定期的に開催されている皇族の集まりであり、ただの親族会議とはワケが違う。皇族至上主義の根強いこの国では、その場での決定が元老院や評議会よりも強い影響力を持つことになる。もっとも最終的な決断を下せる人間はブリタニア唯一皇帝ただ一人なのだが。

 どうやらそれに同行しないかというお誘いらしい。

 

「貴女も行くでしょ? ほら、用意して」

 

 ……というか既に決定事項となっているようだ。

 確かに幼少期、母マリアンヌと共に何度も帝都を訪れ、皇族専用(ロイヤルプライベート)エリアでシュナイゼルとチェスを興じ、クロヴィスの絵のモデルになり、またナナリーやユフィ、コーネリアを交えて茶会を楽しんだ記憶がある。

 当時は年齢的にもまだ皇位継承権争いの相手などという自覚はなく、兄達に会えることを素直に喜んで付いて行った。彼等が庶民出の母マリアンヌや俺達兄妹に忌避感を抱くことなく接してくれる数少ない皇族であった事が、その要因だったのだろう。

 そう、母マリアンヌと共に帝都へ赴けば彼等に出会う可能性が高い。

 

 第三皇子=クロヴィス・ラ・ブリタニア。

 俺が初めて殺めた人間。ギアスという超常の力ではなく、自らのこの手で生命を奪った相手。

 ギアスを得た直後の昂揚感に突き動かされた、八つ当たりにも似た衝動的な行為であったことは否定できない事実。

 それを俺は覚悟であり、儀式であり、復讐劇の幕開けには皇族の血が必要だったと。奴は官僚の傀儡となり、責務を疎かにしただけなく、最後は保身のために軍に虐殺命令を下した咎人。だから仕方のない結果だと自分を正当化した。

 後にして思えば俺の復讐は無意味であり、殺す必要のなかった相手だというのに。

 

 第二皇子=シュナイゼル・エル・ブリタニア。

 俺の前に立ち塞がった最後の敵。

 望まれれば神にでも成らんとする、無欲にして傲慢な男。

 それが自惚れなどではないから余計に質が悪い。

 望まれるモノ、求められるモノに応えられるだけの力を保持している。

 家柄、権力、財力、容姿、人望、カリスマ。

 明確な『自分』というモノを持たず、幾重にも姿を変え、何色にも染まる仮面。

 そしてそれを有効に活かすことの出来る頭脳。

 

 ロイドとの間に起こった現象を思えば、彼等に未来知識が渡ってしまう可能性がある以上、不用意な接触は避けた方が賢明だ。

 不確定要素が高い問題故に慎重すぎると言うことはない。石橋を叩き割り、オリハルコン製の新たな橋を建設するぐらいの気概で構えておく必要がある。

 もし現状でシュナイゼルが──いやクロヴィスでもだ──敵に回れば、万に一つ勝利できる可能性はないだろう。

 圧倒的勢力差=戦力差によって押し潰されることは目に見えている。

 よって同行は遠慮すべきだ。

 

 だがそんな俺の思いとは裏腹に、無視のできない情報が母マリアンヌから齎される。

 何でもリリーシャは定期的に帝都へ足を運んでいたらしい。普段はアリエス離宮の奥に引き籠もり──ロイドと接触する為に自らの意志で出向いた研究施設を除けば──必要最低限の外出しかせず、他者を避けていたあのリリーシャがだ。

 この時点で嫌な予感はしていた。

 リリーシャの人間性から考えて、当時の俺と同じような感情を抱き、兄姉たちに会い、親睦を深める為に出向いていたとは到底思えない。むしろ暗殺の機会を窺っていた可能性の方が高くても驚かない。

 やはりその行動には何か裏があるのだろう。

 

 一体何のためだ?

 誰かと接触を持っていたのか?

 

 確証となるモノが手元に残されていないため、彼女の交友関係は謎に包まれている。ロイドと既に共犯関係を結んでいたという前例もある以上、気にならないはずがない。今後のために少しでも把握しておきたいところだ。

 虎穴に入らずんば虎子を得ず、か。

 高いリスクを伴うがリリーシャの目的を知る為には直接帝都へ赴くしかない。

 そもそもここで帝都への同行を断り、急にリリーシャの習慣を変えれば、周囲の目には不自然に映ることだろう。それがどんな影響を齎し、どこから余計な詮索を受けるか分からない。

 果たして鬼が出る蛇が出るか……。

 

 

 結果、蛇が出ました♪

 

 

 

 ペンドラゴン皇宮の一角に存在する皇族専用エリア。その名の通り皇族の為だけに造られ、皇族にのみ使用が許された豪華絢爛な区画。

 まったく、税金の無駄だとしか言いようがない。

 

 人気のない通路を進む。その先に存在している書庫なら、普段から読書家であるリリーシャが兄姉たちの集まる庭園を離れ、一人で居ても怪しまれないだろう。

 もし仮にリリーシャが誰かと会うために訪れていたのだとしても、相手が分からない以上、取り敢えず自分からは動かず相手側から接触してくる可能性に賭ける事にした。相手が不審に思うかも知れないが、そればかりはどうすることも出来ない。

 

「そこの貴女」

 

 すると予想よりも早く、書庫に着く前に呼び止められ、俺は足を止める。

 目的の人物であってくれれば良いが……。

 高圧的な声の主を視界に捉えるために背後を振り返り、予期せぬ人物の登場に息を呑んだ。

 視界に捉えたのは一人の女。

 特徴的な髪飾り、扇情的な紫のドレスからこぼれ落ちそうな胸元に刻まれたタトゥー、何より彼女の性格を象徴している冷酷な瞳。

 

 ギネヴィア・ド・ブリタニア。

 第一后妃である母親が大公爵家──数多くの歴代ブリタニア皇帝の后妃を輩出し、その度に皇族との繋がりを強め、地位を確固たるものにしてきたブリタニア有数の大貴族。その影響力は元老院や評議会主要メンバー、また大企業の代表に家名を連ねている事からも見て取れる──の出身であり、それを背景に宮廷を支配する第一皇女。

 生まれ持った境遇故か皇位継承争いに対する興味は薄く、現状の支配力と影響力を維持できるなら皇帝の地位を手にする必要はないと考えている節がある。

 その為、自発的に動くことがない一方で、一度彼女のテリトリーに土足で踏み込めば、その報復は苛烈を極める。噂では彼女の尾を踏んだ貴族が何者かの襲撃を受け、一家郎党皆殺しにされ、それを指示したのが彼女だと囁かれていた。

 その冷酷な性格と切れ長の瞳から宮廷の蛇と揶揄される事もある。もっとも表だって口にする者は皆無であり、もし彼女の耳に届けば発言者の末路は自ずと見えてくる。

 

 何れにしろ過去の俺とは父親が同じという以外に接点のなかった相手であり、敵に回す以前に関わりたくない相手でもあった。

 そんな彼女が何故声を掛けくる?

 俺の知るギネヴィアなら、後ろ盾の弱いヴィ家の子供など歯牙にも掛けないはず。

 何か彼女の気に障ることでもしてしまったのだろうか?

 まさか目の前を歩いたのが目障りだなどという理不尽な理由ではないとはないよな?

 さすがにそれでは回避のしようがない。

 

「……姉上」

 

「姉上?」

 

 俺の呟きにギネヴィアの瞳が細まり、眼光が鋭さを増す。

 あれか、ヴィ家の子供風情が私の事を姉と呼ぶとは忌々しい、とでも言うつもりか?

 

「申し訳ありません、ギネヴィア様。本日もご機嫌麗しく─────」

 

「下らぬ口上など必要ないわ」

 

 取り繕い、恭しく頭を下げようとしたが、続く言葉はギネヴィアによって遮られる。

 

「しかし貴女の口からそんな言葉を聞ける日がくるとは、今度は何を企んでいるのかしらね?」

 

 しかも半眼で睨まれた。

 待て。その言い方だと、まさかリリーシャはギネヴィア相手にも普段通りの態度を取っていたのか? 恐いもの知らずというか、リリーシャらしいというか……。

 

「企む? そんなつもりは毛頭ないよ、ギネヴィア姉様」

 

「ふん、まあ良いわ。けれど私の手を煩わせないで、次は無いわよ。付いて来なさい」

 

 そう言ってギネヴィアは俺の応えを待たずに歩き出す。

 

 え゛……? 

 何…だと……。

 

 いや、理解はしている。彼女がリリーシャと関わりを持った存在である可能性を。しかもリリーシャの不相応な態度が許されている事実から考えて、俺が想像している以上に深い関係だったと想像できる。

 だったら彼女が俺に接触してくることは何もおかしな事ではない。

 ただ何故よりにもよってギネヴィアなんだ? 同じS同士では反発し合うはずだろ?

 

 歩幅の差などまるで考慮していない歩調で歩みを進めるギネヴィアの後に付いていく。

 ここで付いていかないという選択肢はない。

 従わなければ面倒な事態に陥ることは火を見るよりも明らかであり、ギネヴィアとリリーシャの関係を確かめるにはまたとない機会でもあった。決してギネヴィアに恐れを抱いて従っているワケじゃない。

 

 目的地と思われる部屋に入っていくギネヴィアを追い、俺も躊躇いながら後に続く。罠の可能性も脳裏を過ぎる。その可能性は低いだろうと思いながらも、それでも注意深く室内に視線を巡らせる。が、特に気になる物はなく、他の空き部屋──最低限の調度品は備え付けられているが──と変わらない。

 

「安心なさい、目と耳は潰してあるから」

 

 周囲を警戒する俺とは対照的に、ギネヴィアはここが己が自室であるかのようにソファで寛いでいた。その前には彼女用のワインやグラスも用意されている。宮廷を支配する彼女にとっては、ある意味間違いではないだろう。

 しかし目と耳か。つまりは監視カメラや盗聴器の類の事なのだが、それを無効化しているということは、他者に聞かれては拙い話をするつもりがあるということだ。

 あの──兄妹の中で唯一彼女に意見できるのは第一皇子であるオデュッセウスだけだった──ギネヴィアが、家柄が低く齢十にも満たない妹を特別視するなんて俄には信じられない。

 

「さっそく本題に入ろうかしら。すぐに私の下に訪れないどこかの小娘のせいで時間を無駄にしたのだから」

 

「言い訳はしないよ。ただ私にも止むに止まれぬ事情があってね、そこを考慮して貰えると助かるんだけど」

 

 皮肉が飛んでくるが、出来ればそれは俺じゃなくリリーシャに言って欲しい。俺だって一方的に情報が制限されていて迷惑している。現に今だって貴女を前にして胃が痛いんだから。

 

「ふん、私の知ったことではないわ」

 

 何も知らない、そもそも知る術がないのだから当然の反応だな。

 むしろ現状──未来知識を持つ俺がリリーシャに宿っている──に気付かれた方が拙いことになる。被害が最小限、主に俺の胃に止まっていると喜ぶべきか。素直に喜べるはずもないが……。

 

「貴女から預かった情報の真偽が明らかとなった。

 単刀直入に言ってシックザール家はクロ、その処分が決定したわ。

 今回も貴女のお手柄というわけね。

 しかしゲオルグも馬鹿な男、こんな小娘にさえ不正の証拠を握られるのだから」

 

「っ!?」

 

 ギネヴィアの言葉に俺は内心動揺を隠せなかった。

 だがそれを表に出すわけにはいかず、押し殺すように必死で平静を装う。

 

 話の中に出てきたゲオルグ・シックザールは中堅クラスの貴族であり、俺の記憶にある不正情報のリストにも名を連ねている。つまり何らかの違法行為に手を出している男だ。

 故に奸臣としてギネヴィアが粛清を下すのは間違った行為ではない。宮廷を支配する事は貴族たちを統率するも同義。ただそれは自身の立場を守り、地位を確固たる物にすることだけが目的ではない。貴族たちの統率=管理や奸臣の粛清は、延いてはこの国の国益に通じている。

 オデュッセウスが内政によって、シュナイゼルが外交によって、コーネリアが軍事によって国のために動いているように、ギネヴィアは宮廷を支配する事によって国益を守っている。

 それこそが彼等を次期皇帝最有力候補とする所以だ。

 

 だが問題はリリーシャが提供した情報によってギネヴィアが粛清を下すという点だ。

 さらに『今回も』という言葉が情報の提供は今回が初めてではないと物語っている。

 

「社交界との繋がりを断ち、独自のパイプも待たない貴女が、どこで掴んでくるのかは知らないけど本当に大したものね」

 

 他者を褒めることが珍しいギネヴィアが感嘆するリリーシャの手腕。

 社交界との繋がりもなく、交友関係を広げる気もなく、独自の諜報機関を組織する力もない引き籠もりのリリーシャが、不正の証拠を掴むことは本来ならあり得ないはずだった。

 しかしリリーシャが、リリーシャだけが苦もなく情報を入手する方法が存在する。

 そう、俺が持つ未来知識や不正情報を利用する方法が。

 そして最大の問題は俺の与り知らないところで、許可無く無断で使用されていたことだ。

 

 だがそれが事実なら別の問題が発生する。

 リリーシャは一体いつギネヴィアに情報を提供した?

 母マリアンヌの虐待もとい訓練によって俺が意識を失っていた間?

 いや、それはない。扱っている情報が情報なだけに監視や盗聴を懸念し、電話やメールで伝えたとは思えない。やはり直接会って伝えたと考えるのが妥当だ。

 例えリリーシャが強制的に肉体の支配権を奪回する事が出来たとしても、俺がリリーシャとして目覚めて以降、母マリアンヌが帝都に赴いた記憶はなく、ましてやリリーシャが赴いた記録も残されていない。

 また情報提供後、その裏付けを取り、真偽が判明するまでの調査期間を考えれば、複数回の情報提供は時間的に不可能だ。

 

 いや、待て。そもそも俺は根底から大きな思い違いをしていたのかも知れない。

 確かに俺がこの世界で目覚め、リリーシャ・ヴィ・ブリタニアとしての行動を強制される事になったのは最近のことだ。

 だがもしその目覚めが、俺=別の世界のルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの精神が、この身体に宿った瞬間と同時ではなかったとしたらどうだ?

 宿ったのは俺が認識しているよりも過去のことであり、俺の意識が覚醒する以前からリリーシャが俺の記憶を覗くことが可能だったとしたら?

 

 それが事実ならロイドに提案した内容=未来を予測した対KMF兵器開発や、過剰技術に対する関与の疑念も解消される。

 

 最近大人しくしていると思えば、既に舞台は整いつつあったのだろう。ただ意外と俺が目覚めたのは、リリーシャにとっても想定外のことだったのかも知れない。

 しかし本当にやってくれる。

 確かにリリーシャからは高い身体能力、異常とも思えるKMF技能や適性という恩恵を受けているが、それでも未来知識や情報や技術は絶対のアドバンテージを持つ俺の武器=切り札であった。それをこうも易々と使用するとは……。

 一体どこまで歴史改変、もしくは介入が進んでいるのか予測できない。

 いや、今考えるのはよそう。目の前の問題を丸く収める方が先だ。

 

「でも私以外は気付いていなかったんじゃないかな?」

 

「ふふっ、そうね。褒めてあげてもいいわ。

 ただ今はまだ聞かないけれど、何れ情報源は吐いてもらおうかしらね」

 

「ふふっ、お手柔らかにお願いするよ」

 

 未来で情報を得ましたなんて話せるわけがない。

 しかし執念深さは蛇の代名詞でもある。最悪拷問や投薬という手段を使ってでも吐かせようとするんじゃないのか?

 …………。

 いやほんとマジで真剣に全力で頼みます。

 これ以上は本当に無理だ。

 

「報酬についてだけど、後で飴でも買ってあげるわ」

 

「わーい、気持ちだけは受け取っておくよ」

 

 リリーシャがそれで喜ぶような子供ならこの場に居るはずがない。

 

「冗談よ」

 

 つまり冗談を言うぐらい上機嫌なのだろう。

 ただこれ以上深入りするのは危険だ。出来れば今の内に退散したいところだが。

 

「約束通り私兵の都合はつけるわ。何人必要かしら?」

 

 ギネヴィアの問い掛けの意味を、俺はすぐに理解できなかった。

 何人という単位から考えて紙幣=資金提供の申し出というわけではない。

 私兵、公の機関=軍に属さない彼女個人が保有する子飼いの兵士を意味しているのだろう。つまりは噂の真相ということか。

 

 何だろう、もう嫌だ。

 胃だけでなく頭も痛くなってきた。

 ここまでの展開も予想外だったが、その中でもこれは群を抜いている。

 果たしてリリーシャは何のためにそんな約束を結び、情報提供の対価として戦力を求めていたのか?

 本気でクーデターを企んでいたとしても、それこそギアス級の戦力がなければ数人程度では到底不可能だ。だったら暗殺か? いや逆にV.V.による暗殺対策という線も考えられるが……。

 理由が何であれ目的が分からない以上、下手に動かすべきではない。

 

「どうした? 遠慮なんて貴女らしくもないわね。気が変わった。いえ、それとも怖じ気づいたの?

 普段は大人ぶっているけど、所詮は貴女も年相応の子供だったみたいね。くくっ、これは傑作だわ」

 

 ギネヴィア、それは誤解だ。こいつは貴女が考えているほど可愛い存在なんかじゃないぞ。

 

「私が怖じ気づく? あり得ないよ、そんなこと。

 少し事情が変わってね、予定変更だよ。だから現状私兵を借り受ける必要はなくなってしまったよ」

 

「そう……。だけど貴女の事だから別の手を考えているのよね? その時はまた私も一枚噛ませてもらうわ。良いわね?」

 

 ギネヴィアは本当に楽しそうに、まるで獲物を前にした蛇の如き笑みを浮かべる。

 それは俺が初めて見る表情だった。

 ただ蛇に睨まれた蛙ってこんな気分なのだろうか?

 疑問系だが重圧が半端じゃなかった。

 どうやら拒否は出来そうにない。

 

 

 

 ギネヴィアの重圧から解放された俺は力ない足取りで通路を歩む。

 何だろう、すごく疲れた。

 早く帰って寝たい。

 頭も痛いし胃も痛い。もうバフ○リンは全部が優しさで出来ていたらいいと思う。

 確かに収穫はあったが、やっぱり来るんじゃなかったと後悔する。

 

「あ、リリーシャ!」

 

 っ、この声は……。

 振り返るとそこには絶賛一方的に婚約中のユフィの姿があった。

 

「こんな所にいたんですか。マリアンヌ様からリリーシャも来ているって聞いて、ずっと探していたんですよ。もう、今までどこに居たんですか」

 

 まさかユフィの性格の変化も、リリーシャのシナリオに描かれていたことなのだろうか?

 うん、今はもうどうでもいいや。

 お願いですユーフェミアさん、今はそっとしておいて下さい。

 

「さあ行きましょう♪」

 

 声を弾ませたユフィが俺の手を引いていく。

 嗚呼、願いは通じなかったようだ。

 今だけはそのテンションが憎い。

 というかどこへ連れて行く気だ?

 この状況で今度はシュナイゼル達の下へとか言わないよな?

 さすがに泣くぞ、割と本気で。

 

 手を引かれるままに辿り着いたそこはベッドルームでした。

 おお、実は願いが通じていたんですね。

 では早速横になろう。

 

「ん?」

 

 どうして着ている服を脱ごうとしているんだい、ユーフェミアさん。

 いや、頬を染めて恥じらいを見せているが、恥じらうべきポイントが間違っているだろ。

 

「ここへはあの娘も入ってこれません!」

 

 あの娘とはやっぱりアーニャの事なんだろうな。

 

「さあ、わたしと絆を深め合いましょう。…でも……あの……優しくてして下さい」

 

 瞳を潤ませながら、上目遣いしながら告げるユフィ。

 

「…………」

 

 聞こえない。

 きーこーえーなーいー。

 

「あの……リリーシャ?」

 

「正座」

 

「でも」

 

「正座」

 

「……はい」

    

 しゅんと項垂れ、肩を落としてもダメだ。……可愛いけど。

 

 はぁ……、何でも結婚には既成事実が大切なのだとアドバイスを受けたそうだ。

 コーネリアに見つかれば俺が粛清されかねないというのに、本当に意味を理解していますか、ユーフェミアさん。

 というかアドバイスしたヤツ俺の前に出てこい。そして土下座しろ。今ならもれなく頭を踏み潰してやるから。

 

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