コードギアス 黒百合の姫   作:電源式

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第3話

 

 

 

 腰の辺りまで伸ばされた艶やかな黒髪、アメジスト色の澄んだ瞳、鋭さを感じさせる目元が特徴的な整った面立ち。闇色のネグリジェに包まれた肌は透き通るほどに白い。

 体格から考えて、年齢は十にも満たないと推測するが、愛らしいというよりも麗しいと形容できる年不相応な魅力を有している。

 ある一部の性癖を持つ者の目に留まれば、速効でお持ち帰りぃ~されてしまうことが確実な容姿と言っても良いだろう。

 

 さて、最大の問題は後回しにするとして、まず何から考えるべきか?

 

 髪や瞳の色、顔立ちといった外見的特徴は俺=ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアと符合する点が多い。幼少時を思い返せば、よりそれは顕著だろう。

 素直に受け入れたくはないが、この肉体が限りなく身近な血縁関係者もしくは類似遺伝子保持者であると考えて間違いない。

 しかし、当然俺に双子の兄妹は存在しない。同腹の兄妹はナナリーだけだという事実は、ブリタニア皇族の公式記録でも明らかだ。

 

 いや、論点がずれている。

 例えこの肉体が何者であろうとも、俺の精神及び意識がこの肉体を支配している現状に変わりはない。

 俺のギアスは絶対遵守の力であり、決して人の心を渡るギアスではない。

 あの男の──記憶改変──ギアスを用いたとしても、ここまで事細かに詳細な記憶、そ

れこそ本人しか知り得ないであろう記憶まで植え付けるのは不可能だろう。

 

 この時点で──荒唐無稽ではあるが──可能性はいくつか思い浮かんでいた。

 ループ現象による時間逆行。

 平行世界への次元転移による憑依。

 新たな生として転生。

 これから体験するであろう記憶は全て予知夢によって齎されたモノだった。

 どれも確証はなく、呆れてしまうほどに馬鹿馬鹿しい。自分の考えながら、まるで三流のSF小説の如きチープさに思わず笑ってしまう。

 

 一方でその愚かしい考えを否定できない自分が居る。

 現状はそれらの可能性でしか説明が付かないからだ。

 常識的に考えればあり得ない事だろう。例え誰かに話したところで誰も信じることはなく、それどころか正気を疑う程に。もし俺が打ち明けられた立場なら、間違いなく精神科への通院を勧めている。

 けれど俺は常識の外側にあるモノを知り、触れ、その力を行使していた。

 ファンタジーにしてオカルト。

 

 かつてリヴァルに勧められて、いくつか二次創作のネット小説に目を通した事がある。原作知識または未来知識とチート能力を持ち、転生や逆行を行い、その世界に介入する主人公を取り扱った作品を最低系と言うんだったか。

 彼等は予期せぬ死によって命を落とした後、神もしくは神の代行者を自称するモノと接触し、第二の人生を歩む事となる。

 今の俺の立場と似ていると思わないか?

 

 しかし死後、神やそれに連なる存在に出会った記憶は俺には存在しない。

 ああ……、もしかしてアレか?

 ラグナレクの接続を阻止するために、俺は『神』と呼ばれていた集合無意識にギアスを使用し、願いを叫んだ。

 それでも俺は明日が欲しい、と。

 それを集合無意識は受け入れたのだが、その時のギアスが伏線だったとでも言うのか?

 

 今となっては……いや、今でなくとも真相は解らない。人の根源たる集合無意識と対話が可能であったのか不明なのだから。

 ただ、これでますます最低系主人公の条件は揃いつつある。

 

 神と定義された存在との接触。

 ゼロレクイエムまでの未来知識を保持。

 逆行もしくは転生の結果と思われる肉体の外見年齢。

 残るはチート能力か。

 

 やはり最初に思い浮かぶのはギアスだ。

 世界の理から逸脱した超常の力。

 条件はあるが紛れもなくチート能力に当てはまる。

 

 物は試しだとギアスの行使を意識する。

 僅かな痛みを伴い、眼球の奥が熱を放つ。

 姿見に映る紫紺の双眸の中に浮かび上がったギアスの紋章。

 だが、それだけだ。

 禍々しい気配を放つことなく、まるで力を感じない。

 紋章が浮かび上がる以上、ギアスそのモノが失われたわけではないのだろう。何らかの理由で休眠中か、もしくは封印されている恐れもある。解除条件は不明だが、現時点では失っていないだけマシと考えるしかない。

 

 結果、チート能力としても最低系主人公としても中途半端だと理解する。

 考えたくもないが、それを補うように銀髪オッドアイへの外見変化ではなく、TS要素が加わっているのか?

 もしそうなら、誰にともなく余計な事をするなと声を大にして言いたい。

 

「……はぁ」

 

 大きく溜息を吐き、近くあったソファに腰を落として身を預ける。

 

 今が皇歴何年なのかは未確認だが、明らかに幼くなった肉体年齢と、今居るこの場所がアリエス離宮である可能性を踏まえ、取り敢えず過去と仮定した上で話を進めよう。

 過去への逆行だけならある程度は問題なかった。未来知識を持っている以上、例えギアスが使えなくても、どうにか上手く立ち回り、最低限ラグナロクの接続だけは阻止する自信はある。それこそ発動の鍵であるコードを保持するC.C.さえ確保できれば良いのだから。

 もちろん悲劇を繰り返すつもりはない。

 もしここがアリエス離宮の自室だと仮定するなら、まだV.V.による第五后妃暗殺は起きていないと考えられる。それこそ今夜が暗殺当日でなければの話だが。

 暗殺を未然に防ぐことが出来たなら、それだけで歴史を大きく変える事が出来る。けれどギアスが使用できない以上、容易なことではないだろう。

 あの男にギアスを掛け、支配下に置いた上でV.V.を高圧力カプセルやコールドスリープ装置に封印するのが最も簡単な対処方法だったが、その方法は使えない。

 いや、仮に暗殺を防げなくとも、最悪ナナリーさえ巻き込まなければ問題ないか。

 残念ながら今の俺は母=マリアンヌを含めて親を愛してはいない。

 自分達の都合で俺達兄妹を捨て、その生命にさえ執着の無かった相手だ。今度はこちらから見限ればいいだけのこと。

 我ながら歪んでいると理解しているが、あんな人生を歩めば歪むなと言う方が無理だ。

 

 さて、目下の問題は──俺の精神に多大なダメージを与え続けている──TS化してしまったこの肉体について。

 敢えてTS化の理由をこじつけるとすれば、やはりこの世界が平行世界の一つだからという結論に辿り着く。その場合、現状は単純な逆行ではなく次元転移及び憑依など複数の事象が合わさった結果だと考えられる。

 無限に存在すると言われている平行世界だ。その中には俺が男ではなく、女として産まれ落ちた世界があっても何ら不思議ではない。

 

 この肉体=俺に酷似した幼女はきっと美少女、そして美女へと成長していくのだろう。これはナルシストとしての妄言ではなく、アッシュフォード学園時代に受けた客観的評価が基になっている。ミレイ会長の思い付きで行われた男女逆転祭り。思い出したくもないが、女装させられた俺の姿は多くの者が認める美少女であり、男女問わず告白を受け、またラブレターを貰う惨劇を引き起こす。何が嬉しくて男から愛を囁かれなければならないんだ。と、酷く頭を痛めたものだ。

 ただ、ここだけの話。それ以前からも同性からラブレターを貰っていたのは誰にも言えない秘密だが……。

 

 閑話休題。

 

 この身体が異性であると実感すればするほど、何というか違和感が込み上げる。主に何処がとは聞かないでくれ。考えれば考えるほど今後が不安になるが、その不安が程なくして現実となる事には目を背けておく。生きている限り、誰も人間の生理現象から逃れられないのだから。

 

 しかし、18年間男として生きた俺の感情と固定概念を無視すれば、それほど大きな問題では無いのかも知れない。

 これから未来知識を利用して行動する上で、性別の違いなど本当に些細なモノだ。

 

 そう、理解はしている。と、思い込みたい。

 だが感情が伴わない。

 もう一度大きく溜息を吐き、天を仰ぐ。

 

「嗚呼、憂鬱だ……」

 

 

     ◇

 

 

 受け入れがたき現実に困惑する少女の姿を、夜空に浮かぶ月だけが静かに見下ろしていた。

 

 

     ◇

 

 

「────殿下、皇女殿下」

 

 そんな声が聞こえ、今後に対する深い思考の海から抜け出す。すると目の前にはメイド服を身に纏った侍女の姿があった。

 既に部屋の中は明るく、射し込む光が月明かりから太陽光へと変わっている。

 どうやらあのままソファで朝を迎えたようだ。

 

「お声を掛けても反応がなかったようですが、如何なさいましたか? どこかお身体の調子でも」

 

 不安げな表情を浮かべた侍女が、心配そうに問い掛けてくる。

 ただ気になるのは、彼女の瞳に僅かながら恐怖の色が見えることだろう。

 部屋の主の了承を得ずに室内へ入ったことを咎められるとでも思っているのか?

 生憎と俺はそんな器の小さな人間ではないし、何より思考に集中して周りが見えていなかったのは自分の責任だ。いくら状況が状況だからといって少し軽率すぎた感がある。今後は気をつけよう。

 

 だが困った。

 どう返事をすればいい?

 残念ながらこの肉体の持ち主が、どんな性格で、どんな趣味嗜好を持ち、どんな態度を周囲に取っていたのか、まるで分からない。

 残念ながら都合良く記憶の共有は行われていないらしい。

 人として褒められた行動ではないが、情報源となる日記やメモを漁っておくべきだったと後悔する。もちろん最悪書いていないという可能性もあるが……。

 さてどうする?

 

 いや、あまり深く考えるべきではないのかも知れない。

 所詮は子供だ。ある程度のパターンは考えられる。それに例え間違ったとしても、その場の気分で態度が変わる事などよくあることだ。

 

「ううん、大丈夫。ありがとう」

 

 取り敢えず言葉少なく無難に答え、笑みを浮かべて誤魔化してみる。この肉体の外見スペックを考えれば、その笑みにはそこそこの威力があるはずだ。多くの者に好意的な印象を与えることが可能だろう。そもそも人間は総じて幼子や動物の赤子に弱い傾向があると聞いたことがある。

 だが刹那、俺の考えは見事に裏切られた。

 対面する侍女は僅かに頬を染めたかと思うと、その直後、まるで信じられないモノを見たかのような驚愕の表情を浮かべて言葉を失ってしまう。

 

 あっれぇ~?

 何でそんな想定を斜めに上回る反応なんだ? ここは「安心しました」とか「それは良かったです」と言って微笑み返す場面じゃないのか?

 おかしい、俺は間違っていないはずだ。子供という利点を最大に生かしたはずだぞ。

 どういう事だ?

 この身体の持ち主は普段は笑わない感情の乏しい子供だったのか? 無口系か? 無口系無表情キャラか? 私が死んでも代わりは居るもの、とか言っちゃう系なのか? 馬鹿ばっか……なのか?

 くっ、落ち着け、まだ一言だけ。ワンアクションだけだ。これから幾らでも挽回できる……はず。まずは彼女からこの身体の持ち主の情報を可能な限り得る事が先決だ。

 

「……そ、そうですか」

 

 再起動した侍女は訝しがりながらも、流石はプロと言った慣れた手つきで朝の支度に取りかかる。

 具体的には俺の顔を拭き、ネグリジェを脱がせて身体を拭き、ドレスに着替えさせ、髪を梳く。

 自分でするからいいと口を挟む暇もなく、俺はただ着せ替え人形のように身を任せるしかなかった。

 そう言えば皇族時代──主観時間では10年ほど前か──は何から何まで使用人に任せ

る事が当たり前の生活を送っていたんだったな。ひどく遠い過去のように思える。あの頃は自分も無知で無力な子供に過ぎなかった。

 

 などと俺が過去の回想に思いを馳せていた間に朝支度は整い、姿見にはより洗練された美幼女のドレス姿が映し出された。映し出されたのだが、一つ気になるのは身に纏うドレスについてだ。

 俺は当初──これは偏見かも知れないが──幼少時にナナリーやユフィ達が着ていたような、フリフリでフワフワでキュアキュア(?)な愛らしいデザインのドレスを着させられるとばかり思っていた。

 しかし現在、俺が身に纏っているのは華美な装飾がまるでない、シックなデザインのドレス。しかも闇色だ。それが恐ろしく似合っている。ネグリジェの時から、もしかしたらと思ったが、クローゼットの中身もほぼ黒一色であった事から間違いない。

 試しに侍女にそれとなく遠回しに聞いてみたが、この肉体の持ち主の趣味だという旨の答えが返ってきた。

 やはり普通の子供というか女児とは趣味嗜好が違うようだ。別にピンクのフリルいっぱいリボンいっぱいのドレスを着たいわけではないから、助かったと言えば助かったのだが……。

 女児の方が男児よりも肉体だけでなく精神的発達も早いと言われているが、それだけが理由だとは到底思えない。

 ただの着替えが、この身体の持ち主に対する不安を増大させる結果となったこともまた想定外だ。

 

 別の質問も侍女に問い掛けてみたが、明確な答えは避けている様子。これ以上不審がられるのも流石に拙いと思い切り上げたが、あまり好感を持たれてはいないようだ。

 隠そうとはしているが、関わりたくはないといった感情が伝わってくる。

 本当にこの身体の持ち主は一体どんな人間だったのか?

 高飛車に他者を見下した我が儘皇女?

 もしそうなら演じる自信がない。

 だからといって急激に変化すれば明らかに不自然だ。

 この身体の持ち主には悪いが、憑依するなら強く頭を打った直後か、高熱を出して生死を彷徨った直後にして欲しかった。

 いや、今さら言っても仕方のないことだが……。

 

 

 

 自室を後にした俺は朝食を摂るためにダイニングルームへと向かっている。

 まあその前にトイレに行ってセルフ羞恥プレイを受けたのだが、それは語るべき事でもないだろう。というか、人間として当たり前の排尿行為について熱く語る趣味はない。言っておくが、俺は幼い自分自身に欲情するような小児性愛者でも性的倒錯者でもないからな!

 

 さて歩きながら、ここまでに得た情報を整理しておこう。

 まず、リリーシャ・ヴィ・ブリタニア。

 それがこの身体の持ち主というか今現在の俺の名前らしい。ルルーシュとリリーシャ、語感も字面も似ているので特に問題はないか。そもそも今の状況に比べたら名前なんて問題にすらならないレベルだろう。

 神聖ブリタニア帝国第98代皇帝=シャルル・ジ・ブリタニアを父に、第五后妃=マリアンヌ・ヴィ・ブリタニアを母に持ち、立場的にユフィに代わり第三皇女となっているようだ。

 そして同母妹の名がナナリー・ヴィ・ブリタニア。

 家族構成から考えて、この身体の持ち主=リリーシャ・ヴィ・ブリタニアが、この世界におけるルルーシュ・ヴィ・ブリタニアに当たる存在であることは間違いない。

 またこの場所がアリエス離宮であり、今が皇歴2008年──つまりV.V.による第五后妃暗殺のおよそ1年前である事も確認できた。

 

 暗殺の阻止についての具体的な案は、結局一晩では考えが纏まらなかった。だが幸いなことに猶予が残されていると判明した以上、状況がもう少し落ち着いてからでも遅くはないだろう。もちろん実際に動くとなれば相応の準備時間が必要となるが、現状で俺が出来る事など高が知れている。少なくとも個人で動いたところで結果を変えることは難しい。まずは足場を固めることが必要だ。

 ただこの世界を平行世界の一つと仮定して上で、果たして前の世界と同じ道を辿るのかという疑問もあった。これは単に希望的観測でしかないが、俺が女として産まれた世界があるように、暗殺が起こらない世界があっても何も不思議な事ではない。

 言葉にすると笑ってしまうが、無限の可能性という奴だろう。

 ならそれとは逆に、あの日の夜ではなく、今この瞬間に暗殺が行われる可能性を同時に孕んでいる事も忘れてはいけない。

 

 もし後者の場合、一体俺に何が出来る?

 否、何も出来ない。

 運が悪いと、運命だと諦めるしかない。

 

 だがもし巻き込まれたナナリーが、この世界では命を落としたとしたらどうする?

 後悔するしかない?

 諦めるしかない?

 ふざけるな。

 

 偶然か必然か、奇跡か運命か。理由も原因も推測の域を出ないが、こうして実感できる現実として手に入れた二度目の生。

 本来なら希望を抱くべきなのだろう。

 けれど残念ながら──過去の経験や記憶がそうさせているのか──今は未だ明るい未来

を想像することができない。

 俺が辿るべき道は、血と嘆きに彩られた復讐と反逆の修羅の道しかないのか……?

 

 そんなことは認めない。

 俺は首を数度横に振り、負の感情に染まりつつあった悲観的な思考を振り払う。

 意図せず得たチャンスだ。それをみすみす潰したりはしない。

 今度こそ、今度こそ実現してみせる。

 ナナリーが、いや多くの人々が望んだ優しい世界の創造を。

 

 決意を新たにした後、肩の力を抜き、眉間に寄る皺を消す。

 ダイニングルームにはナナリーも居るはずだ。

 こんな険しい顔では怖がられてしまうかも知れない。

 この世界で再び巡り合える知ったナナリーの、最初に見る表情はやはり笑顔であって欲しいと思う。

 

 

 

 歩みを進めた廊下の先、ダイニングルームの扉が視界に映る。

 それとほぼ同時に視界に飛び込んだ一人の幼女の姿に視線が釘付けになった。

 アッシュブロンドの髪、アメジスト色の愛らしい大きな瞳、大きなリボンが胸元にあしらわれたドレス。

 この俺が見間違うはずがない。

 視線の先、幼き日のナナリーの姿がそこにはあった。

 

 引き離され、擦れ違い、相容れぬまま、死によって別離した最愛の妹。

 込み上げてくる愛おしさ、切なさ、歓喜。そして憎悪に胸が押し潰されそうになる。

 …………ん? 

 憎悪?

 何を馬鹿なことを、俺がナナリーに対してそんな感情を抱くはずがないだろ。きっと二度と会うことは不可能と思われたナナリーとの再会に興奮し、感情を上手く制御できていないに違いない。

 

 俺はそう自分を納得させながら、ゆっくりとした歩調でナナリーへと近付いていく。本当なら駆け寄って抱き付きたいところだが、リリーシャの性格を未だ掴めていない現状、そんな事をしてナナリーにまで奇異な目で見られたら正直立ち直れない。

 

「おはよう、ナナリー。よく眠れた?」

 

 無難に、そう今度こそ無難に親愛の情を込めて声を掛ける。日本に送られてからブラックリベリオン直前まで、ほぼ毎朝のように交わしていた会話だ。多分にルルーシュ成分が顔を覗かせていると自覚しているが、その流出の止め方を俺は知らない。

 

「っ、リリーねえさま……、お、おはようございました」

 

 この当時、活発でお転婆で純心といったイメージしかないナナリーが、俺が声を掛けた瞬間、僅かに肩を震わせ、どこか緊張した面持ちで、ぎこちない笑みを返してくる。その影響なのか、調整前のジェレミアの如く言葉も変だ。

 俺が見つめる瞳は潤み、恐怖を抱いている事が伝わってくる。

 

 ぐあっ……心が折れそうだ。

 期待は裏切られ、絶望が包み込む。

 鬱だ、死のう。

 確か中庭に首を吊るにはちょうど良い大きさの木があったはず。ロープと脚立はどこにあったかな……。

 

 って待て、早まるな。

 もしかしてこの世界では兄妹、いや姉妹の仲は相当悪いのか?

 アレか、凄まじく性格が悪かったのか、リリーシャ!?

 ナナリーを怖がらせるほど?

 この馬鹿がッ!!

 

 ひどい、こんなのあんまりだ!

 この世界でもう一度やり直せると思ったのに!

 コーネリアに負けない姉バカになってやると、暗殺阻止そっちのけで決意したのに!

 何故なんだ、リリーシャ!?

 

 

 

“ふふっ、だって嫌いだもの、この子のこと。でもそれはキミも同じだろ、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアくん?”

 

 

 

 まるで俺の心の叫びに応えるかのように、俺の内側から発せられた声は幼くも蠱惑的な少女のものだった。

 まさかこの声は────

 

“この子が居なければ、キミはもう少し幸せな結末を迎えられたはず。残念だけど、それが事実”

 

 違う、間違っているぞ。

 ナナリーの幸せが俺の幸せだ。

 俺はナナリーを愛している!

 

“クスクス、愛と憎しみは表裏一体とはよく言ったものだね。実に的を射ているよ。ああ、それに可愛さ余って憎さ百倍とも言うよね?

 優秀なキミのことだ、自分の感情に気付いていないわけがない。気付かない振りをしていた、それとも理想の兄という仮面で覆い隠していたのかな?”

 

 黙れ、消えろ!!

 

“ふふっ、嫌だよ”

 

 少女の声が悪戯っぽく否定の言葉を告げた瞬間、視界が歪み、世界が暗転する。

 

 

 

 広がるのは闇の世界。

 そして目の前に生まれる人の気配。

 

「初めましてで良いのかな?」

 

 そう言って微笑むこの世界の俺──やたら露出度の高いフリフリな戦闘ドレスに身を包み、手には身の丈を超える巨大な錫杖を手にし、頭に黒い猫耳を生やした──リリーシャ・ヴィ・ブリタニアと対峙する。

 

 …………。

 そうですか、魔法少女ですか。

 わかりません。

 

 

 

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