コードギアス 黒百合の姫   作:電源式

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第32話

 

 カランカランと扉に取り付けられたベルが鳴り、一人の男が店内へと入ってくる。

 首都ネオウェルズ郊外に存在する個人経営の喫茶店。趣のある落ち着いた内装の店内からは、一人切り盛りする店主(マスター)の店に対する愛情のようなものが伝わってくる。

 

「……いらっしゃい」

 

 カウンターの奥でグラスを磨く少々強面のマスター。愛想はないが、こだわりの一杯を提供してくれる、そんな雰囲気を醸し出していた。

 事実この店の看板メニューであるブレンドコーヒーは、マスター自らが各地の豆農園に赴き、直接契約した物のみを厳選して使用している。

 

「すまないが、人と待ち合わせをしている」

 

 そう言って男=ジェレミア・ゴットバルトはクラシック音楽が流れる店内を見回す。あまり広いとは言えない店内、すぐに目的の人物は見つかった。お昼時を過ぎているとは言え、他に客が居ないのだから当然か。硬派な常連客は居るものの、お世辞にも儲かっているとは言い難い経営状態だろう。利益目的ではなく貴族の道楽なのかも知れない。

 

 ジェレミアは最奥の席へと歩み寄り、幼女と言っても差し支えないであろう少女の対面に腰を下ろす。

 端から見ると関係を疑い、怪しまれる可能性のある年齢差ではあったが、幸いなことにマスター以外の人目を気にする必要はなく、余計な勘繰りを受けることはなかった。

 

「遅くなってすまない。待たせたか」

 

「ううん、わたしが早く来ただけ」

 

 携帯電話を弄っていた彼女は、感情の乏しい表情を浮かべたまま答えた。

 幸い両者共に時間にルーズな人間ではない為、待ち合わせ時刻は正確に守られている。

 

「わたしこそ呼び出してごめんなさい。でも他に頼れる人がいなかったから……」

 

「いや、構わない。こんな私でも、まだ君に頼って貰えて光栄だ。

 だがどうした……と、聞くまでもないのやも知れぬな。リリーシャ様のこと。そうなのだろ、アーニャ?」

 

 ジェレミアの問い掛けに彼女=アーニャ・アールストレイムは小さく、だが確実に首肯する。

 

「……良かった、あなたはちゃんと憶えてる」

 

 そして彼女は目の前のジェレミアにも届かない声で呟き、どこか安堵の表情を浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

     ◇

 

 

 

 

 

 いつもの起床時間よりも早く目が覚めた。もう一度時刻を確認してみるが、やはりかなりの余裕がある。普段ならアールストレイム家の使える執事=ヴェリコフスキーの声、または愛猫達の襲撃によって目覚めるはずだった。二度寝を決め込もうにも、ハッキリと意識が覚醒している為、微睡みの誘惑を感じない。

 だからといって爽やかな朝というわけでもなかった。何かやるべき事があった気がするのだが、まるで思い出すことが出来ず、モヤモヤと心が落ち着かない。しばらく考え込んでみたものの、やはり答えは出てこなかった。

 

 仕方なくベッドから降りると、愛猫達の眠りを妨げないよう注意を払いながら、着替えを求めてクローゼットへと向かう。

 クローゼットを開け、いつも通りドレスへと手を伸ばした時、視線がある一点で止まった。

 クローゼットの一番端、他のドレスに隠れるように収められていた侍女服。その大きさから考えて、屋敷に仕える侍女達の物が手違いで紛れ込んだとは考えられない。

 吸い寄せられるように、自然と私は手を伸ばした。

 

 侍女服を身に纏い姿見の前に立つ。

 わたしの為に用意されたと言われても納得してしまうほど、サイズはぴったりで違和感を感じない。いや、それどころか普段から身に纏っていたかのように馴染んでいた。

 だけどわたしが侍女服を着ていた記憶はない。

 結局、起こしに来たヴェリコフスキーに怒られ、いつも通りドレスに着替える事となったが、不思議なことに着慣れたドレスの方が違和感を感じてしまう。

 

 そして、いつもの変わらないはずの日常にもまた同様の想いを抱く。

 何がどう違うのか、具体的に言い表すことは難しい。

 それでも何かが足りないように思えてならない。

 心に大きな穴が空いてしまったかのように満たされない。

 わたしはいつも虚無感を抱いていたとでも言うのだろうか?

 

 また今日も迎えた一日の終わり、ベッドの上で常に持ち歩いていた携帯電話に触れる。

 何か大切な思い出が入っていた気もするが、何度確認しても日記のデータや画像フォルダには、違和感を感じてしまう日常の記録が収められているだけ。求めた何かを手にする事は出来なかった。

 

「ん、これ……」

 

 ネットの利用履歴の中に、記憶にないURLを見つけた。

 不審なURLにアクセスしてはいけない事は十分に理解している。携帯電話を買い与えられた時に強く言われもした。当然フィルタリングサービスも利用している。

 けれどこの胸に巣くう違和感について、何か手掛かりになるのではと思い至り、意識を逸らすことは出来なかった。

 意を決してクリックする。

 でも期待に反し、表示されたのはパスワードの認証画面。当然、パスワードなんて分かるはずもなかった。

 これでは先に進めず、断念せざるを得ない。

 しかし思いとは裏腹に指は自然と動いていた。

 

 刹那、パスワードが解除され、画面が切り替わる。

 

「……ブログ?」

 

 そう、何の変哲もないただのブログ。正直拍子抜け感がある。間違ってアクセスした為、気に留めていなかった。憶えていない理由はそれだけの事だったのかも知れない。

 一体わたしは何を期待していたのか、と思わず苦笑する。

 ただ、どうしてパスワードを解くことが出来たのだろうか?

 当然その問いに対する答えは出なかった。

 

 偶然にしろせっかく開いたのだから、取り敢えずそのブログを閲覧することにした。

 この時わたしは、手掛かりを得ることは出来なくても、暇を潰すぐらいは出来るだろうぐらいの気持ちでいた。

 だが結果的にその行為が偶然ではなく必然であったと思い知る。

 

 そのブログには一人の少女の写真が多く掲載されていた。

 艶やかな長い黒髪を白いシーツに広げ、身体を丸めて眠る姿から、寝ぼけ眼を擦る愛らしい姿、真剣な顔つきで剣を構えた凛々しい姿。果ては猫耳スク水セーラーニーソでニャーと鳴く猫のポーズ姿に至るまで多岐に渡る。

 

「綺麗」

 

 思わず抱いた感想が口から零れ落ちる。

 同時に胸の高鳴りを感じた。

 

 わたしは彼女の事を知っている。

 漠然と確証もなく、だけど何故だかそう思えた。

 記憶にはない。

 その顔は今初めて見たはずだ。

 それでも────

 

 ズキンッ。

 

「ッ!?」

 

 突然激しい頭痛に襲われる。まるで頭が割れそうだった。

 脳裏に走るノイズ。

 

 ────こうして出会ったのも何かの縁、折角だから私と友達になってくれないかな?

 

 誰かがわたしを抱きしめる。

 

 ────おはよう、アーニャ。今日もありがとう。

 

 誰かがわたしの髪を優しく撫でる。

 

 ────私のベッドの中で一体何をしているのかな、アーニャ?

 

 触れ合う誰かの温もりが伝わってくる。

 人の繋がり、得られる充足感。

 そう、大切な誰かとの思い出が浮かび上がり、また闇の中へと沈んでいく。

 朧気な記憶に差し込んだ光が消えていく。

 居心地の悪さを感じるこの日常を打開する為の鍵が、きっとそこにあるはずだと手を伸ばす。

 

「……だめ」

 

 抵抗しようとすればするほど痛みは増していった。

 堪らず頭を抱え、倒れ伏す。

 込み上げた涙で視界が霞む。

 同様に意識にも靄が掛かり、次第に自分が何故苦しんでいるのか分からなくなっていく。

 欠落する記憶、わたしがわたしではなくなっていく気がして恐怖を覚える。

 

「助けて」

 

 開いたままの携帯電話の画面、霞む視界に何故だかハッキリと、わたしを包み込んでくれる優しい微笑みを向ける彼女の姿は映り込んだ。

 

「────リリーシャ」

 

 

 

 記憶の扉を縛めていた紅の鎖が弾け飛ぶ。

 

 

 

 わたしは思い出した。

 どうして忘れていたのかは分からない。

 だけどわたしは思い出した。わたしの日常を構成していた彼女の、リリーシャのことを。

 そしてわたしは彼女の置かれている境遇を知る。

 

 

 

 

 

     ◇

 

 

 

 

 

「おねがい、力を貸して」

 

 まるで縋り懇願するようにアーニャは告げる。

 本当なら自分の手で彼女を救いたかった。でも同時に子供一人の力では不可能だと理解もしていた。

 だから自分が知る中で、最も彼女と関係の深い大人である彼に助力を請う。皇族だからという理由だけで媚びへつらう人間ではなく、実の妹に対して接するように本心から彼女の事を考えていた彼ならば、きっと自分に力を貸してくれると信じて。

 だが────

 

「悪いが、私には応えられない」

 

 ジェレミアは躊躇うことなく、アーニャの申し出を断った。

 

「……なぜ」

 

 想像していなかった言葉にアーニャは戸惑い、自分勝手だと分かっていても裏切られたと思ってしまう。

 いや、彼は悪くない。厄介事に関わりたくないと思うのは人間の当然の心理である。

 それでも二人の間に存在していた信頼関係を知るからこそ、彼女はその言葉を信じたくはなかった。

 

「私は一兵士として軍に戻る」

 

 告げるジェレミアの瞳に迷いはなく、確かな決意がそこには込められている。

 

 第五后妃マリアンヌの死により、当時アリエス離宮の警備に当たっていた全ての人間が、降格や前線への配置転換の処分を受けた。中には失意のまま軍を去る者も居たことだろう。

 もちろんリリーシャの専属警護担当だったとは言え、ジェレミアもまた処分を免れることはなかった。

 彼にはEU方面軍への配属辞令が下されていた。現状の社会情勢やEUが持つ戦力を考えれば、最も激戦が予想されていると言っても過言ではない。当然死のリスクは本国の部隊と比べるまでもなかった。

 皇族及び貴族至上主義が罷り通るブリタニアにおいて、本来なら次期辺境伯である彼にそのような辞令が下ることは殆ど無いだろう。

 今回の辞令は彼自らの強い希望を実現したものだった。

 

「私は功績を立てねばならぬのだ」

 

 高邁なる野望?

 俗なる野心?

 いや、違う。全ては己が忠義を貫かんがため。

 

「リリーシャ様より大切なこと?」

 

 それが地位や名誉、保身の為だとでも思い至ったのか、アーニャの眼光は鋭さを増し、語気が強くなる。

 

「そうだ、と自信を持って言えればいいのだが、正直なところ答えに困るな。

 これはリリーシャ様も望まれた事ではあるが、所詮は私のエゴに過ぎず、果たして私の理想を押し付ける事が、本当にあの方の為になるのかは分からない」

 

 本当に今さらだとジェレミアは内心苦笑を浮かべる。

 けれど胸に抱いたこの想いは、その程度で揺らぐような安いものではない。

 

「だが君も知っての通り私は馬鹿な男だ。直情的なこの性格が長所であり短所でもあると、リリーシャ様も仰っていた。故に例え道を間違っていようとも、立ち止まることは難しいだろう。

 そこでだ。もし私があの方の害となるようなら、君に私を止めてもらいたい。そう、例え如何なる手段を用いたとしても」

 

「……わたしが?」

 

「ああ、そうだ。君だから頼んでいる。

 私には私の夢があるように、君には君の夢がある。そうだろ、アーニャ・アールストレイム?」

 

「ッ」

 

「自分が今何が成せるかではなく、何を成し遂げたいか。それこそが最も重要なのだ。

 年端も行かぬ君に告げるべき言葉ではないだろう。だが敢えて言おう。己が想いを貫き通す覚悟がないなら、叶わぬ夢は捨てた方が君のためだ」

 

 ジェレミアの言葉にアーニャは息を呑んだ。

 

 かつて語った自らの夢、それは彼女の騎士となること。友であり主君である彼女に変わり剣を振り、この身を盾として守り抜く。

 それがどうだろう。今の自分は力がないと打ち拉がれ、誰かに縋り付くことしか考えない子供も同じ。覆らない現実を諦め、行動する前から誰かに想いを預け、その対価を支払うことなく──いや支払えるだけの対価を持ち合わせていないのかもしれないが──逃げようとしていたのだと気付かされる。

 

 テーブルの下、アーニャは幼さという免罪符に甘えた自らを恥じ、小さな拳を固く握りしめた。掌に爪が食い込み、血が滲むほどに強く強く。

 

「剣の師事の真似事をしていて気付いたが、幸い君には素質がある。いや、むしろ私などより、よほど優れていると言って良いだろう。本音を言えば羨ましいがな。

 それを生かすも殺すも君次第だ」

 

 その言葉は社交辞令や慰めの類の言葉ではない。

 稽古を通して彼女が恵まれた潜在能力を秘め、磨けば光る原石だという事実に気付いていた。

 出来ることなら想い変わることなく、気を許せる友として、有能な臣下として、そして頼れる騎士として、あの方を支えて欲しいとジェレミアは切に願う。

 

 尤も同じく剣を師事していた当の彼女の方が、皇女であるにも関わらず高いポテンシャルを有しているのも事実。彼女の場合、既に誰もがその存在に気付き、目を奪われるほどの輝きを放っていた。彼女の中には間違いなく、最強の騎士の一人として名高い閃光のマリアンヌの血が流れているだと思い知らされる。

 もし仮に戦場に立つことになれば、自ら先陣を切り、獅子奮迅の活躍を見せるだろう。そんな彼女の姿を夢想し、待望する反面、ジェレミアは一抹の不安を抱く。

 

 一方、アーニャはジェレミアの気遣いに対して感謝を抱く。

 心のどこかで閉ざされたと考え、諦めかけていた夢の存在を今一度思い出させてくれた。

 さらにこんな自分を認め、期待し、前に進む為の役割を与え、後押しまでしてくれた。

 まるでリリーシャの傍に居るみたいに満たされ、胸の奥が温かくなる。

 心の奥に灯る火種、それに彼女は気付かない。例え気付いたとしても、その意味を幼い彼女は理解出来なかっただろう。

 

「分かった、私があなたを止める。でもその時は容赦しない」

 

 すでに抱いた困惑は嘘のように消え、ハッキリとした口調で告げる。

 

「ふっ、それでいい」

 

 アーニャの応えにジェレミアは満足げな笑みを浮かべ、妹もしくは娘に対して行うように彼女の頭を撫でる。

 それを彼女は黙って受け入れた。

 

「いつか肩を並べられる日が来ることを願っている」

 

「はい……だから、死なないで」

 

「ああ、もちろんだ。死ぬなら君の手で、と約束しよう」

 

「……馬鹿」

 

だが冗談めかして告げるジェレミアの耳に、俯くアーニャの呟きは届かなかった。

 

 

 

 

 

     ◇

 

 

 

 

 

 521:黒百合を愛でる学生

 

  最近ブログ更新されませんね

  連絡もつかないみたいだし、考えたくないですけど何かあったんでしょうか?

 

 522:黒百合を愛でる名無し

 

  私も気になります

  何か知っている節のある蛇姫さんも騎士さんも

  今回は黙りですし……

 

 523:黒百合を愛でる名無し

 

  は?

  どうせ知らないだけじゃねーの?

 

 524:黒百合を愛でる令嬢

 

  ああ、姫様成分が足りませんわ!

  ハァハァ、ハグハグしたいクンカクンカしたいペロペロしたいニャンニャンしたい

 

 525:黒百合を愛でる名無し

 

  ちょっwww

 

 526:黒百合を愛でる学生

 

  令嬢さん、自重して(笑)

 

 527:黒百合を愛でる名無し

 

  通報しました

 

 528:黒百合を愛でる名無し

 

  つブラックリリー抱き枕(初回限定誘惑ボイス付き)

 

 529:黒百合を愛でる名無し

 

  え、何それ……欲しい!

 

 530:黒百合を愛でる名無し

 

  誘惑ボイスってw

 

 531:黒百合を愛でる名無し

 

  非公認商品あげてんじゃねぇよ、カス!

 

 532:黒百合を愛でる名無し

 

  通報しました

 

 533:黒百合を愛でる学生

 

  ゴクリ、ちょっと聞いてみたいかも……

 

 534:黒百合を愛でる令嬢

 

  誘惑……

  ど、どこで買えますの!?

 

 535:黒百合を愛でる名無し

 

  令嬢さんが食い付いたw

  複数買い余裕だなwwwwww

 

 536:黒百合を愛でる名無し

 

  やっぱ秋葉原とか?

 

 537:黒百合を愛でる名無し

 

  使用用、保存用、(自主規制)用ですね

  わかります

 

 538:黒百合を愛でる騎士

 

  下衆が!

  姫様をそのような対象として見るなど言語道断!

  我が剣の錆にしてくれる!

 

 539:黒百合を愛でる名無し

 

  おおっ、ここでまさかの騎士さん登場か

  537終わったなw

 

 540:黒百合を愛でる学生

 

  あ、騎士さんお久しぶりです

 

 541:537

 

  マジ?

 

 542:黒百合を愛でる名無し

 

  かっこつけてんじゃねぇよ、おっさん

  どうせあんたも同じ穴の狢だろ?

 

 543:黒百合を愛でる名無し

 

  もしかして騎士さんてロリコンな人?

 

 544:黒百合を愛でる騎士

 

  貴様等ッ!!

 

 545:黒百合を愛でるメガネ

 

  あはぁ♪

  まあまあ、ちょっと落ち着いて下さいよぉ

 

 546:黒百合を愛でる名無し

 

  今度はメガネさんか!

  これはkskするな

 

 547:黒百合を愛でる騎士

 

  だが、メガネ

 

 548:黒百合を愛でるメガネ

 

  何なら僕がIPから住所押さえますから、ね?

 

 549:黒百合を愛でる学生

 

  いや、メガネさんらしいですけど

  それ犯罪ですから

 

 550:黒百合を愛でる名無し

 

  さすがのメガネ

 

 551:黒百合を愛でる名無し

 

  メガネクオリティ

 

 552:黒百合を愛でる騎士

 

  メガネ、お前が言うならここは退こう

  だが貴様等、次は無いぞ

 

 553:黒百合を愛でる名無し

 

  ハッ、なに言ってんだか

 

 554:黒百合を愛でる名無し

 

  お前も煽るなよ

 

 555:黒百合を愛でる令嬢

 

  はぁ……外泊許可が下りませんでした

  これでは秋葉原へは行けませんわ

 

 556:黒百合を愛でる名無し

 

  令嬢さんがまさかの本気だったw

 

 557:黒百合を愛でる名無し

 

  しかし、令嬢さんに騎士さんにメガネさんか

  今日はビックネームが多いな

 

 558:黒百合を愛でる名無し

 

  学生も入れてやれよ

 

 559:黒百合を愛でる学生

 

  いや、俺のことはいいよ、畏れ多いし

 

 560:黒百合を愛でる名無し

 

  でも学生さん、第三次黒百合会戦では紅蓮の如き闘志を見せ付けましたよね?

 

 561:黒百合を愛でる名無し

 

  何それkwsk!

 

 562:黒百合を愛でる学生

 

  ちょっ、止めて下さいよ!

 

 563:黒百合を愛でる名無し

 

  認めたくないものだな、自分自身の……若さ故の過ちというものを(キリッ

 

 564:黒百合を愛でる名無し

 

  なあ、もしかしてこの流れだと蛇姫様も来るんじゃないか?

 

 565:黒百合を愛でる蛇姫

 

  呼んだからしら?

 

 566:黒百合を愛でる名無し

 

  え、ホントに!?

 

 567:黒百合を愛でる名無し

 

  いやいや、さすがに出来すぎだろ

 

 568:黒百合を愛でる蛇姫

 

  愚かにもこの蛇姫の名を騙る者が居るとでも?

 

 569:黒百合を愛でる名無し

 

  居ないな、そんな命知らず

  あの蛇姫だぞ? 冷徹非道で唯我独尊、そこに痺れる憧れるぅ

 

 570:黒百合を愛でる名無し

 

  お前……いやもう何も言うまい

 

 571:黒百合を愛でる蛇姫

 

  メガネ、569も押さえておきなさい

 

 572:黒百合を愛でるメガネ

 

  は~い、分かりました~

 

 573:黒百合を愛でる名無し

 

  569、お前の事は忘れるまで忘れない

 

 574:黒百合を愛でる名無し

 

  酷い奴だな、俺もだけど

 

 575:569

 

  \(^o^)/

 

 576:黒百合を愛でる学生

 

  何だか話が逸れていっているんで戻しても良いですか?

 

 577:黒百合を愛でる名無し

 

  そうだな、騎士さんや蛇姫様も居ることだし

 

 578:黒百合を愛でる蛇姫

 

  ん、何かしら?

 

 579:黒百合を愛でる学生

 

  いえ、ここのところ管理人さんが活動してないようなので

  どうしたのか気になって

 

 580:黒百合を愛でる令嬢

 

  あれだけ熱心に情熱を傾けていた方なので、飽きたとは理由は考え難くいですし

  私達も不安なのです

  そして私にとって生きる為に必要な最大の栄養素である

  姫様成分が欠乏しているのですわ!

 

 581:黒百合を愛でる蛇姫

 

  その件は私の口から語るべき事ではないわね

 

 582:黒百合を愛でる名無し

 

  やっぱり何か知ってるんだ

 

 583:黒百合を愛でる名無し

 

  kwsk

 

 584:黒百合を愛でる学生

 

  騎士さんも?

 

 585:黒百合を愛でる騎士

 

  ああ、そうだ。今回ばかりは難しい

 

 586:黒百合を愛でる名無し

 

  ( ̄3 ̄)ブーブー

 

 587:黒百合を愛でる令嬢

 

  仕方ありませんわ

  今は管理人さんが戻って来てくれることを信じて待ちましょう

 

 588:黒百合を愛でる名無し

 

  え、誰? 本当に令嬢さん?

 

 589:黒百合を愛でる名無し

 

  気持ちは分かるwww

 

 590:桃猫◆88b636c5

 

  みんな、聞いて欲しいことがある

 

 591:黒百合を愛でる名無し

 

  お?

 

 592:黒百合を愛でるメガネ

 

  噂をすればというやつみたいだね

 

 593:黒百合を愛でる名無し

 

  お帰りなさい!

  あなたの帰りを全裸でお待ちしておりました!

 

 594:黒百合を愛でる名無し

 

  キタ────(゚∀゚)──── !!!!!

 

 595:黒百合を愛でる学生

 

  管理人さん!

 

 596:桃猫◆88b636c5

 

  心配かけてごめんなさい

 

 597:黒百合を愛でる令嬢

 

  もう、本当に心配していたんですから

  でも無事で何よりです

 

 598:黒百合を愛でる名無し

 

  で、聞いてほしいことって何なの?

 

 599:桃猫◆88b636c5

 

  とても大切な話

  わたしは守りたい

  だから────

 

 

 

 

     ◇

 

 

 

 

 

 ペンドラゴン皇宮の一角を占める皇族専用エリア。自分の庭とも呼べるその場所に存在しているサロン。

 私はソファに腰を下ろし、膝の上に置いたノートPCの画面を眺める。

 

「リリーねえたま大丈夫なの?」

 

 ふと横から声が掛けられ、私は視線を声の主へと向けた。

 私にすり寄ってくる一人の少女。いつも満面の笑みを浮かべていたその顔は不安げで、悲しみに満ちた瞳からは今にも涙が零れ落ちそうだ。

 

「心配ないわよ、カリーヌ」

 

 生家の権力とそこで身に付けた高圧的な態度により、周囲の者から恐れられる私に、何故だか恐れることなく好意的に慕ってくる物好きな妹(二人目)。彼女の頭をあやすように撫でてやる。

 カリーヌが心配しているのは彼女の姉であり、私にとっては物好きな妹(一人目)──ただしこちらは打算的な腹黒──リリーシャのことだ。

 あの娘が何を考えているのか正直なところ理解できない。それこそ弟シュナイゼル以上に本心を隠すのが上手い。

 まさかあの場面で、父上に宣戦布告を行うなど一体誰が予期し得ただろうか。

 母親を失い、精神が不安定だったとする見方も出来るが、そんな可愛いげのある存在ではない。あの娘は私を蛇と呼ぶが、自分から蛇の巣穴に飛び込んできたアレもまた蛇だ。見た目に騙されれば痛い目を見る事になる。

 故にあの娘が肉親の死で錯乱するとは到底思えない。少なくとも己に何らかの利があるからこその行動だ。

 

「ほんとう?」

 

「ええ、きっとまた会えるわ」

 

 しかし一体何者があの娘の母親、第五后妃マリアンヌを殺害したのか?

 

 単なるテロリストの犯行とは考えづらく、暗殺説が声高に囁かれているが、未だ犯行を主導した人物を特定することが出来ない。

 確かに平民上がり、そして次期主力兵器=KMFの開発を主導するアッシュフォードと関係の深い彼女の事を、疎ましく思う人間は数少なくない。

 だが私の影響下にある者が動いたという事実はない。もちろんその全てを管理できているとは言えるはずもないが、傭兵を雇うにしろ、テロリストを扇動するにしろ、私兵を動かすにしろ、何らかの痕跡が残るはず。

 仮に行動を起こすとしても、リスクの高い襲撃という強引な手段を選びはしないだろう。それこそ事故や病死に見せかける方法などいくらでもある。

 だからこそ一つの疑問に辿り着く。

 

 果たして本当に襲撃は行われたのか?

 

 最初から襲撃などなかったとすれば、いくら調べても痕跡が残らないのも頷ける。

 真実はもっと単純なのかも知れない。

 全盛期ではないと言え、あの閃光のマリアンヌを討てる存在は限られる。彼女よりも強く頭の切れる相手、もしくは彼女が心を許す相手。

 そう、例えば実の娘とか……。

 

「ふふっ」

 

「ギィねえたま、どうしたの?」

 

 カリーヌが愛らしく首を傾げて問い掛けてくる。

 確かあの娘はカリーヌのこうした無邪気な仕草が好きだったか。

 

「いえ、何でもないわ」

 

 私は苦笑しながら、カリーヌを撫でる手とは逆の手で小型情報記録端末を弄ぶ。

 

 あの娘なら自分の事は自分でどうにかするだろう。

 私が考えるべきはこれからのこと。

 まったく、面倒な事を押し付けてくれる。既に前払いで報酬をもらってるとはいえ、愚痴も言いたくなる。何が「信用しているよ、ギィ姉たま」だ。思い出しただけでも鳥肌が立つ。次に会った時、お仕置きしてやろうと心に誓う。

 さて、もうすぐやって来るだろう物好きな妹(三人目)を出迎える用意をするとしよう。

 

「カリーヌ、良い子はもう寝る時間です」

 

「や、もう少しギィねえたまとおしゃべりしたい」

 

 いやいやと首を振るカリーヌ。

 

「我が儘言ってると母上に言いつけますわよ」

 

「だいじょうぶ! ギィねえたまの傍に居たら、だれにも怒れないってリリーねえたまが教えてくれたの!」

 

 いい笑顔を浮かべるカリーヌに対して、私はこめかみを押さえながら大きく溜息を吐く。

 本当にあの娘は……。

 

 

 

 

 

     ◇

 

 

 

 

 

「良かったんですか、これで?」

 

 低く呻るような機器の駆動音と小気味良い軽快なタイプ音が支配する室内に、彼女の不安げな声が響く。

 

「ん、何が?」

 

 僕はPCのモニターから視線を外すことなく、逆に彼女に問いを返した。

 ふ~ん、桃猫さんも本気になったみたいだねぇ。

 

「何がじゃありませんよ。はぁ、やっぱり聞いてなかったんですね」

 

「殿下のことでしょ? ちゃんと聞いてたよ。でも良いも悪いも無いんじゃない? 皇帝陛下がお決めになったことだしさ」

 

 セシル君が心配するのは、もちろんリリーシャ殿下のこと。殿下達の海外留学の件が公になってから、毎日のように話題に上がるんだから嫌でも気付くよね?

 僕にもその気持ちが分からないわけではない。ただセシル君は殿下のことを、まるで妹のように可愛がっていたからね。手料理は食べてもらえず、逆に料理を教えられていたようだけど。おかげでセシル君の料理技能というか味覚は改善された……と言えたらどれほど良かったことか。

 

「それは…そうですけど……ロイドさんは心配じゃないですか? お見送りぐらいは行っても良かったんじゃ」

 

「そんなことしても殿下は喜ばないよ」

 

 むしろ殿下のことだから「こんな場所で会うなんて奇遇だね。なに、見送り? 暇なんだね、仕事したら?」なんて皮肉が返ってくるに違いない。

 

「でも……もしかしたら」

 

「もしかしたら、何?」

 

 顔を上げ、セシル君へと視線を向ける。無意識のうちに眼光が鋭くなっていたかもしれない。

 

「セシル君は殿下が死んでしまうんじゃないかって考えているのかな?」

 

「……はい」

 

 躊躇いながらも肯定するセシル君。

 現状の社会情勢や殿下が置かれている立場を思えば、その考えに至ってしまうのも仕方がない事だ。

 けれど何故だろう、僕にはその未来が全くと言って良いほど想像できない。

 

「考えすぎだよ、セシル君。僕達の想像を軽く飛び越えちゃう殿下だよ? きっと今回の事だって、ちょっとした海外旅行みたいなものなんじゃないかな。

 きっとお土産を買って帰ってきてくれるさ」

 

「ふふ、そうですね」

 

 もちろん確証なんて何もない。希望的観測と言われてしまえばそれまでだ。

 だけど信じている。

 何年だって待とう。

 きっと彼女は帰ってくる。

 

 その時、彼女に失望されないように、僕もやれるだけの事はやっておかなくちゃね。

 だから殿下、お早い帰還をお持ちしていますよ、あはぁ。

 

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