対峙するはショタVersionの俺とロリVersionの俺。
改めて考えると、なんてカオスだ……。
ここで間に入ったナナリーが「お二人とも私のために争わないで下さい!」なんて告げる展開になるはずもない。というか争う以前の問題だろう。
性格最悪なリリーシャこと今の俺と、ナナリーの懐いている姿から当時の俺と同等に接していると推測できるこの世界の俺。その時点で既に勝敗は確定している。くっ、相手が平行世界の自分だからといって、心穏やかでいられるはずがない。
あ、話は変わるがVersionってヴェルシオンと読めなくないか? なんかロボの名前みたいだな。格好いいぞ、ヴェルシオン! ヴェルシオン・クラブ、ヴェルシオン先行試作型、五神合体ヴェルシオン、絶対無敵ヴェルシオン! 広がる夢のバリエーション。これでランスロットに勝つる! アハハハハ、アハハ、はぁ……。
と、現実逃避はこの辺にしておこう。
問題はこの世界の俺にとって、リリーシャはあの男以上に隔意を抱く相手。いや、一つ屋根の下で生活を共にしているが故に、もはや隔意などではなく明確な敵意へと昇華していること。
そして当然ナナリーが慕い、信頼を置いていること。それはリリーシャという名の悪魔が存在している事から、当時の俺とナナリーの関係よりも強固な絆と考えられる。
つまり俺は二人の仲の良さを、ちょっと兄妹のレベルを越えているような気がしないでもない愛を、指をくわえて見ているしかないと言うことだ。この世界の俺じゃなかったら確実に殺ってる。
やばい、想像しただけで泣きそうだ。きっと流れ落ちるのは嫉妬のあまり血涙に違いない。泣くな、俺。男だろ? あ、今は幼女か……。
でも涙が出ちゃう、だって女の子だもん、てへっ♪
…………すごく後悔している。何となくやってはみたが、自己嫌悪が半端じゃない。
よし、忘れよう。
今は気を取り直して今後の事を考えなければならないのだから。
果たして彼等との関係改善は可能だろうか?
リリーシャの性格と態度から考えて、関係改善など微塵も考えた事はないに違いない。
理想としてはナナリーに姉と慕われ、この世界の俺と和解し、協力関係を結びたいが難しいだろう。残念ながら共にナナリーを守ることすら不可能と思われる。というか近付くだけで噛まれそうだ。それほどまで深い亀裂を肌で感じることが出来た。
もし今から態度を改めたとしても、今度は何を企んでいるのかと新たな疑念を抱かせ、警戒心を煽り、さらに態度を硬化させる結果に繋がる。
この世界の俺の立場で考えれば断言しても良い。マイナスから信頼を築き上げることは一朝一夕で出来る事ではない。
最も単純な策としては共通の敵を作る事だ。ゼロレクイエムにおける世界の敵、悪逆皇帝のように分かりやすい敵を。
仮に暗殺阻止に失敗した場合、あの男や暗殺犯という憎悪を向けるべき対象が生まれるが、出来ればそれは考えたくない。
しかし現状、何の不自由もなく、身の危険を感じることのない皇族生活を続けていては敵は生まれない。
いや、一つだけ例外があるか。ラグナレクの接続という問題を抜きにして考えた時、この生活の延長に存在するのは皇位継承権争いだ。
実質的には第一皇子=オデュッセウス、第二皇子=シュナイゼル、第一皇女=ギネヴィア、第二皇女=コーネリアの4名に絞られていると考えてもいいだろう。
当人達は皇帝の座に明確な固執を見せてはいないが、彼等の母親である后妃や出身家。またそれを支持する後援貴族達は意欲的に後押し、早い段階から牽制し合っていた。
その結果、弱肉強食を国是としている以上、それこそ多くの臣民をも巻き込み、権力闘争は拡大。また過激化する可能性が高い。
実際過去には皇帝の座を巡り、血の紋章事件というブリタニア史上最大の闘争も起きている。その当時と比較して格段に国力を増した現在のブリタニアで同じ事が起これば、混乱は国内だけに留まらず、最悪世界規模に発展する可能性だって考えられる。
その場合、自ら皇帝の座を求め名乗りを上げるべきなのか。それともシュナイゼルを皇帝として擁立し、民が望んだ理想の皇帝を演じて貰うのが得策なのだろうか?
駄目だな、どうも話が逸れてしまった。
不確かな未来ではなく、今と向き合うべきだ。
今日ではなく明日ばかりを追い求めていたのにね、そんなリリーシャの皮肉が聞こえてきそうだが……。
このまま睨み合いを続ける訳にもいかない。
さて、どうする?
現状で関係を修復する効果的な手段はない。そもそもリリーシャはこんな一触即発の空気を、一体どうやってやり過ごしていたんだ?
彼女のことだから特に気にも留めていなかったとも考えられるが、どうせ小難しい理論展開や皮肉で煙に巻いていたのだろう。もしかしなくても、これからは毎回それを俺がやらなくてはならないのか?
……ああ、最悪だ。
最低系主人公の立場を甘く見ていた。
宿主の精神と性格。それが及ぼす周囲の評価。そして存在していたもう一人の自分。
まさかこんなにも地雷だらけのReスタートだとは考えてもいなかった。強くてニューゲームだと、心のどこかで浮かれていた数時間前の自分を殴ってやりたい衝動に駆られる。
しかし本当にどうしよう?
俺が内心頭を抱えていると────
「あら、どうしたの? 三人ともこんな所に突っ立って」
停滞する場の空気を打ち破る第三者の声が聞こえてきた。
それと同時に俺の両脇に背後から手が差し込まれ、そのまま後ろへと引っ張られる。思わず「うひゃ!?」という何とも情けない声を上げてしまったのは不可抗力だ。
為す術もなく抱きかかえられ、後頭部に押し付けられた──自らの存在を存分に主張する──柔らかな双丘。
この時点で背後の人物が誰なのかは薄々理解していた。それでも拘束から逃れようと抵抗してみるが無駄だった。流石にこの体格差では諦めるしかない。前の世界の身体でも逃れられなかったんじゃないか、なんて考えたら負けだ。
そもそも相手はブリタニア最高の騎士に名を連ね、なおかつその頂点に君臨していた騎士との斬り合いに勝利した存在だぞ? 普通の人間が敵うわけがない。断じて俺がひ弱だったとか、猫にも劣る戦闘能力だったとかじゃないんだからな!
「う~ん、まだまだね」
どさくさに紛れて胸を揉まれ、剰えそんな事を宣う。
明らかなセクハラだ。
見ろ、今まで敵意を向けてきていたこの世界の俺まで唖然としているじゃないか。というか、今さらだが一々この世界の俺と言い表すのは面倒だな。やはりこの世界の正統なルルーシュである以上、今後彼の事をルルーシュと呼ぶべきなのかも知れない。かなり抵抗はあるが……。
「ほら、早く朝ご飯にしましょう。折角のお料理が冷めてしまうわよ」
そう言って声の主は俺を抱きかかえたまま、ダイニングルームの中へと歩みを進める。降ろして欲しいと頼んだところで、俺の言葉を聞き入れることはないんだろうな、この人は。
自分達の都合によって世界の常識、その根底さえ覆そうとしているのだ。例え我が子であろうと子供一人の意見など気にも留めず、自分のしたい通りに振る舞うに違いない。
俺は楽しげに笑みを浮かべる母親=マリアンヌ・ヴィ・ブリタニアの腕の中で、本日何度目かの溜息を吐いた。
◇
マリアンヌ・ヴィ・ブリタニア。
神聖ブリタニア帝国唯一皇帝の第五后妃にして、元帝国最高の騎士=ナイトオブラウンズの一人、ナイトオブシックスの称号を得ていた女傑。
アッシュフォード財団が開発した第三世代ナイトメアフレーム、ガニメデ試作型のテストパイロットを務め、後のKMF開発にも大きく貢献している。
国内では閃光のマリアンヌ、また守護女神と謳われ、国外ではブリタニアの魔女と呼ばれ死神の如く恐れられる存在となり、後世ではブリタニアによる侵略戦争の立役者と目される事となる。
平民階級出身でありながら、実力でラウンズまで上り詰めた経歴は、その類い希なる美貌と相まって、軍内部において多くの信奉者を生み出し、大いに士気向上に役立ったことだろう。
だが俺にとって重要なのはそんな経歴ではない。彼女が俺とナナリー、さらにこの世界ではリリーシャの実母であるという事実。
かつての俺は母親をナナリーと同じぐらい愛していた。強く、優しく、美しい理想の母親だと誇りにさえ思っていた。
彼女から与えられる愛情に何ら疑問を抱くことはない。いや、子供に疑えという方が難しいだろう。ただ悲しいことに俺は知ってしまった。その愛情が偽りであり、歪んだ独善的思想の上に被った仮面であることを。
暗殺によって彼女の存在は過去となり、皮肉にも美しい想い出の中でさらに美化されていたのだろう。
その幻想が打ち砕かれた以上、今の俺にとって彼女が真に母親と呼べる存在だと思えるはずもない。血縁関係にありこの身を構築する遺伝情報を持つ女性、つまり遺伝子提供者というだけだ。
そして十中八九、今も微笑むその母親の仮面の下に、理解しがたい狂気を隠し、あの男等と共にラグナレクの接続による神殺しの為に動いているに違いない。
現実を見ることなく過去だけを追い求め、自ら他者を理解しようとすることなく、既存の世界の破壊を夢見る。その瞳にはそれ以外の何も映ることはないのだろう。
ならば再び阻止するまでだ。例え世界が変わっても、何度でも立ちはだかり、その野望を打ち砕いてやる。
集合無意識へと呑み込まれた実の両親へ向け、俺は決意と共に宣戦布告する。
これは呪いであり復讐だ。
なあ、二人とも見ているか?
見ているならCの世界で後悔するといい、俺達二人を捨てた事を。
◇
四人で食卓を囲む。
眼前に並べられた朝食は──母マリアンヌの影響か──皇族にしてはどこか庶民的であった。食べきれず無駄に処分してしまうよりはずっと良いことだ。もちろん皇室お抱えの一流料理人の手によって、厳選された食材で作られたものである以上、一般家庭と比較することが出来ないほど、手の込んだ料理であることは間違いないのだが。
ただ家族団欒の食事が始まることはない。前の世界では考えられ無いほどに空気が重く、居心地が悪かった。
理由は単純。敵視する相手──俺にとっての母マリアンヌ&ルルーシュにとってのリリーシャ──が目の前に座っている以上、和やかな気分になるはずがない。
間接的に被害を受け、窮屈な思いをしているナナリーには本当に申し訳なく思うが、家族揃っての穏やかな食事は諦めてもらうしかない。
一方で場の空気を気にする素振りも見せず、笑みを浮かべている母マリアンヌはさすがと言うべきだろう。果たして気付いていないのか、それともやはり本質的に子供に対して関心を抱いていない事の表れなのだろうか。多分に後者の気がしてならないが……。
「それでね、お母さん、今日は軍の開発局へ視察に行くことになったのよ。だから三人とも良い子でお留守番していてね」
思考している間にどうやら話は進んでいたらしい。
軍の開発局か、この時代今まさにナイトメア開発は最初の黎明期を迎えている。戦略兵器としての試作実験段階に入った第三世代KMFの開発。アッシュフォード財団が健在の今、KMF開発は福祉利用という側面を併せ持っている。
しかし時代の流れには逆らえず、軍事兵器としての側面が強調されて行くのだろう。第三世代を代表するガニメデのテストパイロットを務める彼女が、未だ軍と深い関係を持っていることに驚きはしない。前線を離れた今でも閃光のマリアンヌのネームバリューは健在だ。
「……そうなんですか」
寂しそうに呟くナナリーの姿に、思わず胸が痛んだ。
母マリアンヌの本性をナナリーは知らない。だからといって今後教えることはないだろう。真実を隠すことが正しいかは分からない。だけどこの世界には辛い現実を覆い隠す優しい嘘も必要だ。せめてナナリーの中にある理想の母親像だけは守りたかった。
「もうナナリー、そんな顔しないで。ちゃんとお土産買ってくるから。ルルーシュ、ちゃんとナナリーの面倒みてあげるのよ?」
「うん、ナナリーは僕が守るよ、絶対に。だから母さんは何も心配しないで、お仕事がんばってね」
「偉いわよ、ルルーシュ」
「もう、母さん、止めてよ! 恥ずかしいから」
「ふふっ、照れちゃって。ほらナナリーも」
慈しみの表情を浮かべ、我が子の頭を優しく撫でる母親の姿に、思わず打ち砕かれた幻想を再び抱きそうになる。この世界の彼女は母親の仮面を身に着けているのではなく、真に母親なのではないのかと。
それが都合の良い希望である事を理解していながら、それでも望まずにはいられなかった。出来る事ならこの光景が偽りでないことを……。
だが俺はすぐにその考えを追い出して思考を続けた。
KMF開発におけるキーパーソンは三人だ。
一人目は特派主任、世界初の第七世代KMF=ランスロットの生みの親とも呼べるロイド・アスプルンド。
伯爵家の出身でありながら権力に固執することなく、自らの欲望=研究欲を満たすためにKMF開発の初期段階から参加していた男。こと技術開発に関しては飛び抜けているが、性格に難があり、研究に打ち込む姿勢はある種の狂者の域に達している。
二人目は彼と対等に接する事が出来る才女、同じく特派メンバーであるセシル・クルーミー。
料理の腕は壊滅的だが、彼女も紛れもなく超一流技術者であり、フロートシステムやエナジーウイングなどの分野において、その腕はロイドをも上回るだろう。
そして三人目は彼等のライバルとなるラクシャータ・チャウラー。
医療サイバネティックス技術に精通し、その技術が生かされているのか、独自の観点から輻射波動機構やゲフィオンディスターバ、ステルス技術などを世に生み出した。
奇しくもこの時代、三人はブリタニアの帝都で共に学んでいたはずだ。今後の事を考える上で接触を持ちたいところだが、どうすればいい?
アスプルンド家は既にエル家の後援貴族に名乗りを上げている以上、ヴィ家の俺が直接会いに行っては余計な波風を立てることになる。そもそも今は幼女であるこの姿で会いに行ったところで、果たして相手にしてもらえるだろうか? ロイドなら興味を引きそうな論文とプリンを手土産にすれば食い付いてきそうだが……。
となると問題はやはり接触方法だ。母親に付いてきた幼子を装うか、それともアッシュフォードの伝手を使うか。直接論文を送り付け、向こうから接触させる手もあるが、これに関してはもう少し熟慮する必要があるな。
「リリーシャ、貴女も頼んだわよ。ルルーシュと喧嘩しちゃだめよ」
「うん、分かったよ」
話を振られたので適当に相づちを打つ。ところでリリーシャは自分の母親をどう呼んでいたのだろうか? お母さん、母上、お母様? ママだけは勘弁して欲しい。
「あら、意外。今日は随分と素直なのね」
対する母はどこか驚いたような表情を浮かべていた。それはルルーシュも同じ、というよりこちらは心底驚いている様子だ。
ああ、またこの展開か。
「いつもなら『私が争う価値なんてないよ。それに閃光のマリアンヌ様ともあろう方が心配性だね』なんて皮肉の一つでも返してくるのに。大丈夫? 熱でもあるんじゃない?」
「悪いものでも食べたのか、リリーシャ?」
「リリーねえさま、かわいそう」
さすがリリーシャだ。母親に対しても態度が変わらないとは……。いや、既に母親の仮面に気付いているからこそ距離を置いているとも考えられる。
ただ、ごく普通に答えただけなのに、敵対しているルルーシュにまで心配され、畏れられているナナリーには同情されるなんてどうなんだ? ナナリーの気遣いは嬉しいというより、もはや悲しく居たたまれない気持ちになる。
「大丈夫だよ、そう単なるイメージチェンジ。私も少し大人になろうと、ちょっとした心境の変化があっただけだよ。何も心配いらないから……」
「そ、そうなの」
怪訝そうだったが、それ以上追求しなかった母親の優しさ──もしくは無関心さ──が今だけはありがたい。
ただこの世界にルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが存在していると知った以上、思わずには居られなかった。
もし現状に神=集合無意識が関わっているなら、どうして腹黒性格最悪幼女ではなく、この世界のルルーシュに憑依させてはくれなかったのかと。
その場合、リリーシャという最大の懸念は残るが自分らしく振る舞え、もう少しだけ心に余裕が持てたはずだ。
何よりナナリーの癒し効果も受けられたことだろう。
だがそれは詮無きこと。今は耐えるしかない。
リリーシャとして歩む先に、かつて手に出来なかった未来があると信じて。
◇
残念だけど、今のキミのままでは未来なんて遙か遠くの夢物語。
現実を見ることなく未来だけを追い求め、既存の世界の延長を望む。その呪われた瞳に、それ以外の何も映しはしなかったんだから。
一度立ち止まり、今を──現実を見るといい。
キミが私、リリーシャとして生きる現実を。
それでもまだ理想を吐けるなら応援するよ、全力で。