東方戦記録   作:戦車狙撃兵

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妖精狩りの終息

大妖精=ティターニアが人里に現れた時、スネークは人里の住人に紛れていた。

あたりを見回すティターニアと目が合う。スネークは軽く頷く。今日の彼の役割は妖精達の離脱の援護。

 

「妖精ってこんなに強かったのか?。」

 

「目の前で起こってるんだ。疑いようが…。」

 

「もしかして、俺達はこれから皆殺しに…。」

 

誰かが洩らした疑問と恐怖は人里の住人に素早く蔓延する。

 

「原色の舞踏…フォッグブレス。」

 

ティターニアが自分の名前を高らかに宣言したとき、スネークを中心に色彩が揺れ、彼から発せられた霧はティターニア達妖精と人里の住人を包んだ。霧が晴れたころにらティターニア達は離脱。パニックに陥った住人達は全て妖精達が行ったものと勘違いしていた。

 

(住人の恐怖心を煽るに調度良いタイミングだ。)

 

スネークが人里の住人に紛れている二つ目の理由。扇動活動だ。妖精が人に対して安全な存在では無いこと十分認識している。あとは今後小遣い稼ぎでは割りに合わない程に煽ってやるだけだ。

ビラが降ってきたのはこの時だった。宙を舞うビラを掴み、微笑む。

 

「なんだよ…これ…。」

 

住人達はビラを見て驚愕。中には顔を青くし、その場から駆け出すものもいたが捕らえられ、10人ほどの人里の人間が兵隊達の所に投げ出される。着ている物は上等なのを見るとそれなりの資産家みたいだ。

 

「お前らこれは本当か!。」

 

ビラを突き付けられる。ビラの内容は妖精狩りで捕まえた妖精達や妖怪がどのような扱いを受けた生々しい内容、拷問の果てに死んだ死体の写真と顧客名簿の一部が載っていた。

 

(あの妖怪の仕業だな。いい仕事してる。)

 

あの夜、携帯電話で懸命に写真を撮っていた妖怪を思い出す。

 

「殺してしまおう…。どこかで妖精が見ているかもしれない。じゃないと儂らも…。」

 

住人の誰かが呟く。その言葉に各々得物を持ち、包囲している輪を縮める。中心にいる兵隊と人里の住人が命乞いや弁解。人間至上主義を喚くがパニック状態が収まらない住人達にそれは届かない。

扇動する必要が無くなったスネークは人込みの中を静かに抜ける。入れ違いに基地から来た兵隊によって場は沈静化することになる。

 

(さぁて…ここの奴等はどうとるかな?。)

 

沈静化したとはいえ住人達からは妖精狩りに関わった者への厳罰を訴える声は収まらない。どのみち助かる見込みは少なさそうだ。

 

 

 

人里を抜けたスネークはそのままティターニアの住処に向かった。霧に紛れて離脱した妖精達はそこでスネークの帰りを待っていた。

 

「スネークさん。お金なんですが…。」

 

ティターニアが言い切る前にスネークはバケツを置いた。人里に転がっていた大きめのバケツだ。

 

「外界で妖精のお礼はバケツ一杯に金を入れると言い伝えられている。それが本当か確かめたい。」

 

「はい!。みんな!。」

 

ティターニアの号令でサニー、ルナ、スターを始めとする妖精達が一斉に散る。少し経つと両手に抱えた金塊でごろごろとバケツに入れる。さらに小さな金塊や砂金で隙間を埋める。瞬く間にバケツは金で一杯になった。

 

「はは、もう充分だ。」

 

まだ詰めようとする妖精達に言う。正直、お釣りがでる。

 

「ですが…。また戻すのも…。」

 

折角なら貰ってくれと言うティターニア。

 

「それなら今ある分を3等分にして紅魔館に渡せ。これだけあれば暫くは君達の治療と面倒を見てくれる。永琳先生には治療代と迷惑料だ。必ず君から手渡せ。残りの金塊は君が管理するんだ。」

 

スネークはティターニアを残して他の妖精達は治療の続きの為に紅魔館に向かわせる。

 

「ティターニア。今後妖精達には報復行動をしないようにきつく言い聞かせろ。」

 

「報復?。」

 

「仕返しの事だ。妖精達からは人間に手を出すな。」

 

スネークの言うことにティターニアは困惑する。

 

「報復行動をすれば兵隊がそれ以上の力で妖精を滅ぼす。それに人里で君の力は充分に見せつけた。少なくても何も力を持たない人里の人間。兵隊はもう妖精を襲う事はなくなる。」

 

しかし直ぐにとはいかないのが現実だ。危害を加えられた時は容赦なく反撃するよう教える。

 

「それと一人で行動することを禁止させろ。食事、就寝、外出、それこそトイレに行くときだって二人以上で行動するんだ。」

 

スネークは外界で学んだ軍隊の部隊行動について分かりやすく説明した。魔力が高まったティターニアの除けば他の妖精達ははっきり言って弱い。いや、ティターニアでさえ一人では安全とは言えない。

 

「…いいか。取り合えずサニー、ルナ、スターを中心に元気な妖精達で十人一組の部隊を作り、ティターニアは三人に指揮、命令。サニー達には自分の受け持つ十人の妖精を統率させる。」

 

一人でどうにかならなければ二人で…。小さな力でも数が揃えば大きな力になる。

解るかな?と案じたスネークだったが魔力の向上と共に知恵も付いた為かティターニアは納得したように頷いた。

 

「君も紅魔館に向かえ。金を渡した後は永琳先生のもとに行け。話しは通してある。」

 

「スネークさんは?。」

 

「俺は行かない。ちょっと疲れてな。暫く休んで気が向いたら行くさ。」

 

「はい。…あの次会ったら部隊行動?の事をもっと詳しく教えてくれませんか?。」

 

「ああ。考えておくよ。さぁ、早く行け。回れ右。前へ進め。」

 

ティターニアは何度か振り返りつつ紅魔館に飛び立った。それを見送るとスネークは彼女の住処である大樹に入る。ウロを潜った先には人里と同じ扉があり、中は拠点にしていた住処より快適な空間が広がっていた。

その中のベットに横になるスネーク。調度良く射し込んでくる木漏れ日が心地好く、眠気を誘うには充分であった。

今日までの事を頭の中でまとめてスネークは眠りに付いた。

 

 

 

 

 

衛生兎…鈴仙・優曇華院・イナバは溜め息混じりに待機室の椅子に座り込んだ。たった今、師匠で人使いの荒い永琳に重たい金塊の換金、更に換金した紙幣を迷いの竹林にいる狼女に届け、紅魔館にとんぼ返りしたところだ。

今は待機室には誰もいない。妖精達が紅魔館に運ばれてきて一時は慌ただしくなったが現在は大分落ち着いて来ている。他の衛生兎は食事や仮眠を取っているのだろう。

 

「たぶん…このあとも何かしらあるのかなぁ…。」

 

大妖精の手術をしてからまともに休んでる気がしない…落ち着いた状況なので休暇がてらに竹林に住む友人の所に寄ろうとしたが生真面目な性格と永琳にバレた時の恐怖で実行出来なかった。

人里で時間を潰そうとは思わなかった。兵隊、特に基地内にいる高級将校達が自分を大層お気に召しているらしい。拐われたくない。先日、兵隊の慰みものになりかけた仲間から話を聞いて尚更だ。

 

「勘違い…だったのかな?。」

 

広間ですれ違った若い兵士…最初はなんで紅魔館にと思ったがすれ違い様に見た面影に見覚えがあった。呼び止める間もなく部屋から出てしまう。再度確認しようと改めて紅魔館中を探したが大妖精と十人程の妖精をつれて紅魔館を出た為に確認出来なかった。

美鈴なら門で会っている筈だ。暇なうちに聞いてみよう。

 

「教えてくれるかなぁ…。美鈴さんも含めてあの子ことで喧嘩した事もあるし…。」

 

思案していると待機室の扉が開いた。入ってくるのは永琳と大妖精だ。

 

「あら、戻ってたのね優曇華。休暇中だろうけど仕事よ。この子のカウンセリングを頼むわ。」

 

永琳に促されて大妖精が目の前の椅子に座る。どうして三八式を大事そうに持っているんだろう?。

 

「その、カウンセリングって…。」

 

「ああ…別に難しい事じゃないわ。ただ私とお話するだけよ。ちょっとお茶を用意するから待ってて。」

 

「私も手伝うわ。優曇華。」

 

お茶を入れる二人。

 

「お師匠様。あの娘、大妖精ですよね?。」

 

「…ええ。その筈よ。」

 

曖昧に返事をする永琳。彼女も今帰ってきた大妖精が昨日とは違うのを感じ取っていた。

 

「理由は解らないけど、妖精達の始祖と同じ力を感じるわ。他の妖精と同様に見ないことね。暴れだしたら貴女でも無傷で倒すのは難しいわね。」

 

「そんな状態の子をなんで私が…。」

 

「経験よ。」

 

「お師匠様~…。」

 

鈴仙は今にも泣きそうだ。

 

「私もフォローはするわ。」

 

言っても無駄だと悟った鈴仙は諦めてお茶の入ったカップを持ち、大妖精の向かいに座るとそれを差し出した。大妖精は僅かに口に茶を含ます。

 

「美味しいです。」

 

気持ちを落ち着かせる為の薬効成分入りのお茶だ。

 

「さて、まず自己紹介から始めましょうか。私は衛生曹長の鈴仙・優曇華院・イナバ。直接会うのは初めてね?。大妖精さん?。」

 

「ティターニアです。」

 

睨む様に鈴仙をみる大妖精。

 

「昨日スネークさんにこの名前を頂きました。もう名無しじゃありません。」

 

(イタっ…!。)

 

握っていたペンから静電が走る。気付けば部屋全体が帯電している。大妖精から発せられている様だ。

永琳に目配せをする。壁に背を預けこちらを見ていた。

鈴仙は少し安心する。カウンセリング中に大妖精が激情を起こしても助けて貰えそうだ。そのあとの折檻も怖いが…。

 

「了解よ。ティターニアさん。」

 

動揺を隠しながらペンを置いた鈴仙。彼女は大妖精改めティターニアを再び監察する。手配書の写真や紅魔館に勤める妖精より大人びている。羽も聞いた話では一対の筈だった気がする。

 

(駄目ね…ティターニアが喋るのを待っていたら…。)

 

本来カウンセリングは当人から話させるもの。だがティターニアは三八式を大事そうに抱いて話そうとしない。この状態が続いていた。慣れないカウンセリングと先程のティターニアの力。更に永琳の視線のお蔭で焦っていた。

 

 

「大事な物なのね?。ちょっと見せてくれない?。」

 

切っ掛けを作ろうとティターニアの持っていた三八式に手を伸ばした鈴仙。

 

「触らないで!。」

 

ティターニアが鈴仙を突き飛ばす。椅子から倒れた鈴仙にティターニアは収容所の兵隊と同じようにのし掛かる。

 

(殺られる…!。)

 

叩き付けられると想像した鈴仙は歯を食い縛る。だがその衝撃はいつまでも来ない。目を開けるとティターニアは血と毛髪がこびりついた銃床を振り上げ、静止していた。

鈴仙は不思議そうにティターニアを見た。見開かれ、ギラギラとした目が鈴仙を捉える。

この目を自分は知っている。まだ月に住んでいた時の鈴仙も同じ目をしていた。

 

「ティターニア?。もしかして人を殺した?。」

 

「仕方なかったんです…仕方なかったんです!。」

 

脱力するティターニア。

 

「あの時やらなきゃ…やるしかなかったんです…。仲間がまた死ぬと思って。」

 

三八式の感触を確かめる様に何度も握り直す。

 

「まだ残ってるんです…兵隊の顔を潰した時の感触が…耳に残ってるんです…骨を砕く音が…おかしいですよね?。人を殺すって前もって言われてたのに…戦うって決めたのにこんなに後悔するなんて…!。」

 

鈴仙はティターニアの言葉を聞きながら何故自分にカウンセリングを回されたか理解していた。今のティターニアの姿は月から逃げてきたばかりの自分。何かに怯え、片時も武器を手放す事が出来ず、長い間熟睡出来なかった。

ティターニア、妖精達の協力者であるスネークという人物はこうなるとわかって彼女をここに送ったのだろう。

 

「ティターニアさん。貴女は何もおかしく無いわ。」

 

「え?。」

 

「人を殺してショックを受けないのは異常者と言うのよ。けど、貴女は罪悪感を感じ、泣いている。正常じゃ無ければ起こり得ない。」

 

ティターニアを刺激しないように体を起こす。鈴仙の動作をみて彼女はのし掛かっているのを思い出す。

 

「今は泣いて良いのよ?。」

 

鈴仙は体を起こすと同時にティターニアを抱きしめる。

 

「そう言えば兵隊に捕まっていた兎が世話になったわね。あの時、貴女に抱き締められたことをとても感謝していたわ。」

 

戸惑っていたティターニアだったが、少し経つと堰を切った様に泣き叫んだ。鈴仙は黙ってそれを受け入れた。視線の先には及第点といった表情で永琳が微笑んでいた。

 

(思い出すなぁ…。)

 

月から逃亡し、幻想郷に流れ、潜伏していた山で人を狂わす兎として永琳に捕らえられてそのまま患者として迎えられた事を思い出していた。鈴仙もその時は永琳の胸の中で泣いた。

 

 

 

カウンセリングの様子を見ていた永琳。結果は患者、医者とも取り合えず及第点。アラは今後是正。

 

『貴女達都市部の奴等のせいだ!。私は戦争なんてしたくなかった!。』

 

初対面での鈴仙。彼女は震える銃口を永琳に向けていた。自分が同じ月の出身、さらに都市部の姫に仕えていた事を話した時に言われたのが今思い出した言葉だ。

 

「それにしても…。」

 

永琳は神出鬼没の友人を思う。彼女もこの事は既に耳に入っているだろう。同時に彼女が霊夢と同様…もしくはそれ以上に特別視する彼の事を思案する。

ポケットにあるマガタマを取る。彼は惚けていたが妖精の傷が見た目より少ないのは何かのマガタマの力を引き出し、それを行使したのだ。

 

「これが貴女の望みなのかしら?。ねぇ、紫?。」

 

この先も面倒ごとに巻き込まれるであろうスネークを思う永琳だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ティターニアの家で仮眠を取っていたスネークは人の気配を感じて目が覚めた。隠す気のない足音が二つ聞こえる。それは家の前で止まる。

スネークは扉を開け、ウロから外を確認。この1ヶ月ですっかり見知った顔の少女が二人立っていた。霊夢と魔理沙だ。

 

(乗り込むつもりは無さそうだな…無視するか。)

 

「居るんでしょ?。スネーク。」

 

居留守を決め込もうとしたが核心を持った声色で霊夢が言い放つ。

スネークはウロから出て二人に歩み寄る。霊夢が睨むようにスネークを見ており、魔理沙が二人の視線を行ったり来たりしていた。

 

「今まで何をしてたの?。」

 

しばらくすると霊夢が口火を切った。よく見れば少し目の下に隈を作っていた。

 

「人里が騒いでたわ。妖精達が仕返しに来るって…あとあのビラは何?。スネーク。あんたは何か知ってるんでしょ?。」

 

まくし立てる霊夢。

 

「妖精達の解放を手伝った。ビラの事は知らない。」

 

スネークは簡単にこの数日間の事を大まかに説明した。ただ、マガタマの事は伏せた。自分でもよくわかってない事を説明出来ないからだ。

 

「ティターニア、その…大妖精に名前を与えたのね?。」

 

「ああ。満足そうだった。」

 

霊夢が頭痛を押さえる様に目の間をもんだ。

 

「どうやって…あの鉱山跡地に入って、あいつらを助けたんだ?。対空砲があったはずなんだぜ?。」

 

魔理沙が不思議そうに聞いた。詮索はしないが過去に行った事があるのだろう。

 

「普通に…陸路から侵入して陸路で離脱した。」

 

驚く二人。霊夢が苦渋な表情を浮かべる横で魔理沙は額にてをあて笑い声を挙げる。

 

「アハハ…!。普通に陸路からって…しかも歩き…ぷくく…!。」

 

「うるさいわよ、魔理沙。スネーク。名前を授けるって意味…はぁ、どうでもいいわ…帰るわよ。」

 

霊夢と魔理沙がスネークを見つめる。

 

「俺もか?。」

 

「妖精に関わりながら仕事と住居を探す暇あったの?。無いでしょ?。両方が見付かるまでは厄介になるっていったじゃない。」

 

ティターニアが神社に訪ねてきた晩の出来事は不問にしてくれるそうだ。

 

「それに、あんたがいないと掃除から何から全部一人でやんなきゃいけないのよ。」

 

「素直じゃないなぁ…。」

 

魔理沙の呟きに霊夢が余計なことを言うなと振り向く。

置いてきた荷物を回収したいとスネークが言う。そんな事をいって何処かへ行くつもりと疑われたが二人が同行する形で納得して貰った。

 

「口ではああ言ってるけど…。」

 

「魔理沙!。いい加減にしないと弾幕射つわよ!。」

 

「くわばら、くわばら…。」

 

喧しい二人。間に挟まれて歩くスネークは止めてくれないかなぁと心中で思う。

スネークも鈍感では無い。先程の霊夢の言葉を額面通り受け取りはしなかった。彼女なりに心配していたのだろう。

服の裾が軽く引っ張られる。視線だけを向けると魔理沙が口パクで何か言っていた。

すぐに帽子の日差しで顔を隠した。照れ隠しだ。なんだかんだで魔理沙は好感が持てる。

 

「ん?。」

 

「探し物?。」

 

「いや、これで全部だ。」

 

人形が無くなっている。ルーミアが回収したのか?

荷物を回収したところで魔理沙は自宅に戻り、そこからはスネークと霊夢の二人になる。特に会話は弾まない。

博霊神社が近くなると霊夢が駆け出し、玄関の前に立った。

 

「おかえり。スネーク。」

 

「…ただいま。」

 

訂正しよう。霊夢も可愛いとこがある。

しかし…スネークはこのあと無断で外出、家主に迷惑をかけたという理不尽な理由で暫く濃き使われ、この考えを改めようと思った。

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