人事班に認識票を提出した彼は自隊の宿営地区に戻った。腕時計を見れば11時半をさしていた。ちょっと早いが天幕に戻ったら食事をとろう。集落で食事風景をみてから空腹が襲って来てたのだ。天幕の前に来ると大分賑やかになっている。恐らく誰か酒でも呑んでるのだろう。溜め息を吐いて銃のコッキングレバーを引いて薬室に弾が無いのを確認してた天幕に入る。中は案の定の有り様だった。
「お帰り、スネーク。」
銃架に狙撃銃を立て掛けてると煙草吸ってた軍曹の女性が彼の帰還を労う。スネーク。彼の名前だ。日本人である自分の勿論本名ではなく暗号名だ。
「本当に日本人かどうか怪しいけど…。」
「何か言った?。」
「なんでもないよ。ただいま。ペニサス。」
これも彼女の暗号名だ。彼女だけでなく、この部隊に所属する兵は全員が暗号名を名乗り、本名を口にする事、過去を詮索するのはタブーになっている。だから元特殊部隊から犯罪者、銃を撃ったことのない一般人、レズやゲイもいる。
迷彩服の左腕には銃を持った女性シルエットが描かれたワッペン。英語でノーホロス・マーセナリーズとあった。
「今日の昼は豪華だから。早くお食べ。」
ペニサスに促されて席を探す。するとスネーク!とどすの聞いた声で呼ばれた。ペニサスあ~あと呟く。
「小僧!!。早く来い。」
小僧、最年少である自分に違いなかった。諦めてその人の近くに座る。見た目ゴリラの上級曹長が肩をバシバシ叩く。痛い。
「よぉよぉ、任務あとに一杯は旨いよな?。」
「旨いもなにも、スネークは飲んでないだろ?。」
「車長、ペース速いですよ。」
「元々少ない奴なんですから大事に呑んで下さいよ。」
今喋ったのは元アメリカ軍の戦車兵達だ。最初のゴリラから車長のタンク上級曹長、砲手のガンナー軍曹、操縦手のドライ軍曹、装填手のリロード曹長だ。
「少ないもなにも、俺の日本酒じゃないですか!。」
テーブルに転がる一升瓶。間違いなく休暇中に日本に旅行したときに持ち込んだ物だった。
「まあまあ。滅多にない豪華な食事。だから支給される不味い小便ワインなんさ飲めないさ。大目にみてくれよ。」
そう言ってグラスを傾けて旨いと呟く通信兵のスパーク上級曹長。
「…確かにすごいですね。何かの記念日ですか?。」
日本酒は諦めて食卓の料理に目を向ける。ハムの塊やローストチキンが並んでいる。傭兵の食事にしては随分羽振りが良すぎる。
「なぁに、飯をぶら下げてウロウロしてる糧食班に道案内をしてやったのさ。」
暗殺用に黒い刀身のナイフで分厚く切り取ったハムを突き刺し、口に運んでかぶり付く元空挺部隊のエッジ伍長。この人、絶対将校用の糧食と解ってこっちに運ばせたな…。
「あちらは確認を怠った。だから今回はエッジの処分は無し。」
小さな口に料理を詰め込む衛生兵のキュア軍曹。銃創で暴れる兵士を殴り付けて気絶させてから治療するからデビルメディックとも呼ばれてる。
空きっ腹のスネークの腹が鳴いた。久々のご馳走に手を伸ばす。だかタンクにその手を捕まれた。これには思わず非難の目を向けるスネーク。
「小僧の分はボスの幕舎にある。…そんな目ぇするなよ。ほら、これやるから。」
渡されたのは白米の缶詰。特別主食にこだわりのないスネークだが素直に受けとる。席を立つとキュアにポケットを叩かれ、エッジには
「良いね良いね。お盛んだ!。」
ひとしきり笑うと小宴会に戻る。
まだ暖かい缶詰を手で遊ばせながらスネークは隊長の幕舎に向かった。
「スネーク伍長。入ります。」
幕舎からは返事は無い。元よりこういった戦闘が小康状態の時は返事が帰ってくる事が少ない。気にせず中に入ると女性が簡易ベッドの上でパソコンを睨みながらコントローラを操作していた。エージェントがジャングルを秘匿しながら進んで行く。あっ、見付かった。
「あぁーー、もう!。」
悪態をついてパソコンの電源をきった。額にはダークグリーンのバンダナ。左側にアシンメトリーにした女性がこちらを振り向く。ノーホロス・マーセナリーズの部隊長。ハインリッヒ・スネーク大尉。
「なぁんであの距離で眼鏡無しで見えんのよ。本物のジャングルと斥候兵舐めんな。んで、どうだった現実の斥候は?。」
スネークは同様の報告をした。
「ハイン大尉。飯が此方にあると聞きましたが?。」
報告を終えて空かさず言った。もうお預けは良いだろう。
ハインは飯盒を差し出す。受け取って蓋を開けると先ほどのご馳走が詰まってた。白米の缶詰を開け、半分ハインの器に盛る。
いただきます。と二人の声が重なる。部下と上司の他愛もない会話は、やがて大佐とのやり取りの話題になった。
「あのスケベ。まだ諦めてないのね。もうちょっと演習の時にボコってた方が良かったかしら?。」
(あれ以上は死人が出たかな?。)
「スネークはどうするの?。」
「…俺は大尉、いえ、皆大尉に着いてきますよ。」
別の事を考えてたせいで返事は遅れたが淀みなく答えた。ハインは、へぇーと流す。
食事が終わり、スネークはハインの淹れる紅茶を待っていた。普通は部下の彼がやるのだがイギリス人の母をもつ(父は日本人)彼女の拘りで二人で食事をする時は茶器に触らしてくれない。出来上がった紅茶を啜る。味も彼好みに仕上がっている。いつ飲んでも旨い。
不思議とお互い無言だった。何話すか考えるうちに紅茶を飲み終えてしまう。
「この後は?。」
ハインが茶器を片付けながら訪ねた。この後は任務も何も無い。昼寝か読書をしながら過ごすつもりだ。そう言おうとするが応える前に床に突き倒された。その体に跨がりハイン。迷彩服越しに彼女の下腹部の暖かさが伝わる。
「何も無いでしょ?。だったら私を抱きなさい。」
スネークは馬乗りの状態から脱しようと上半身を起こして抵抗を試みる。だが起き上がったとたん腕を取られ押し倒され、まるで万歳する様な形で組敷かれ口付けをされた。
「ぷはぁ…。貴方に格闘技術を教えたのは私。そんなに嫌?。」
嫌ではなかった。
「貴方があんな話しをするから正直我慢ならないの。スネークは?。」
同じ思いだ。
「どうしても嫌なら他の男に頼むわ。そうね、大佐なんて…んっ!?。」
今度はスネークから口付けをした。他の男。よりによってあの大佐になんて我慢ならない。ハインが彼の手を離した。同時にスネークは彼女の頭を押さえた。濃厚な接吻を交わす。彼女がスネークのポケットに手を入れる。中から避妊具(キュアがハインの命令で忍ばせた物)取り出した。
「ハァハァ…。」
どちらの息継ぎかも解らない。ハインがスネークのズボンから屹立したそれに避妊具を被せ、自分もズボンを脱ぎ捨て自らの秘所に押し入れ、激しく動く。
「あっ…!。」
暫くすると彼女の身体が小刻みに震える。するとスネークが体勢を入れ替えハインを責め立てた。
「ハイン…ハイン…!。」
「スネーク…うぅ…前でも後ろでもいいから、好きにしなさい!。」
二人はその日の夜まで肌を重ねあった。
21時を回ったとこでハインは一旦目が覚めた。背中から穏やかな寝息が聞こえる。肩から抱きつく様な形でスネークが眠っていた。その温もりを惜しみながら彼の腕から抜け出し、洗面器の手水でタオルを濡らし、情事の後始末をする。彼がするときがあれば今回の様に彼女がすることもある。
髪に着いた物に四苦八苦しながらふと顔の傷に触れる。左目を跨ぐ様に縦に伸びる切傷。スネークと初めて出会った時に彼から受けた傷だ。昔、ある戦場で敵の幼いゲリラだったスネーク。情けか、半分日本の血が流れる為か、彼女は彼を拾い、ここまで育て上げた。
そしてこれが最初で最後だった。スネークの目の前で同じ歳の少年兵を殺したことも、殺させたこともあった。それでも彼は自分に着いてきた。日本人の彼が何故少年兵であったかは知らない。話した事は無いが飛行機を異様に恐がる時期があったがそれが原因だと推測していた。
眠るスネークの髪をなでる。年相応の寝顔…これだけでは我がノーホロスの看板、味方からも畏怖を受けるS級スナイパーとは思わないだろう。
(私のスネーク…。)
ハインは一回りは歳が下であろうスネークに…スネークはハインに惚れていた。
「マスター。起きてますか?。」
その声はペニサスだ。短く返事をし、彼の頬にキスをして天幕を出た。
「すみません。眠れなくて…少し相手して下さい。どうぞ。」
ペニサスはガムを差し出す。ハインはそれを口に放り込む。
「中に入る?。煙草吸うでしょ。」
集結地、特に夜間は外での喫煙は厳しく取り締まられていた。
「お気遣いなく。来る前に吸って来ました。それに、私も女です。情事の残り香に誘われてつまみ食いしちゃいますよ?。声、たまに聞こえてましたよ。」
男どもがゲラゲラ笑ってました。とカラカラと笑う。
「…若いから激しいのよ。お尻も少し痛いし…好きにしなさいとは言ったけど。」
ハインは特に恥じらう事もなく答えた。声を聞かれたのも初めてでは無い。
「好きにしなさいってのは、上官としてのプライドですかね?。あの子がシスコンになったら完璧にマスターの責任だって、前に街で歳上のウェイターを見た時にぼやいてましたよ。」
ハインは少し不満げな顔をした。それを見てかペニサスは最後にマスターに似てる人でしたよと付け足した。
「年下好きになったらあの子の責任よ。わざわざそんな事言いに来たんじゃないでしょう?。」
「お見通しですか。どうします?。」
ペニサスが言うのは大佐の勧誘の事だろう。
「スネークがハッキリ拒絶を代弁しといてくれたわ。それに、この癖のある傭兵達をあのスケベ大佐が使いこなせない。」
「おやおや、噂をすればですね。」
彼女達の元に近付く一つの人影。件のスケベ大佐だ。
二人は姿勢を正し敬礼をした。どんなに噂は良くなくても上官というのは違いはない。
「おお、ハイン大尉。今回の作戦の方針を話そうかと。兵はともかく、部隊長同士の意思の疎通は重要ではないのか?。」
横柄な態度で答礼すると彼はハインの前に立つ。舐める様な視線が彼女にまとわり付く。
「ふむ、方針を話す前に一戦交えないか?。」
大佐はそう言ってハインの肩に手を伸ばすが、
「はい大佐。申し訳ございません。既に済ませました。」
やんわりと袖に振る。
「…ちぃ。では方針を話す。本日の偵察で敵の集落の規模が判明した。我が部隊は3日後、そこを襲撃。事後はそこを拠点に部隊を展開する。」
あからさまに不機嫌さを示す大佐。
「我が隊は再び先行隊ですか?。」
「いや、今回は私達から先行隊をだす。」
「あらら、随分"楽な"仕事ですね?。」
後ろのペニサスが嘲るように言った。
「口が過ぎるぞ、軍曹!。」
「後の指導致します。集落については大佐殿にお任せ致します。では私達は後方より援護します。」
「うむ、大尉達には予備隊となって貰う。今回は後方で休んでていいぞ。」
詳しい作戦は明日話すと言い残し、大佐は帰途についた。
「マスター。」
ペニサスが非難を込めた眼差しをハインに向けた。
「いつもの事でしょう。傭兵の運用なんてそんな物よ。」
「あいつ、そればっかじゃないですか。美味しいとこだけ。」
ペニサスの言う通り、今回の戦争で危険な任務を請け負ってるのは主に自分達だ。
「それは納得ね。これが終わったら手を切りましょう。ただし、それまではあのスケベはお客様よ。」
それから少し話し混んでから解散した。