東方戦記録   作:戦車狙撃兵

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傭兵と博麗の巫女(プロローグ3)

3日後…スネークが偵察した集落が正規軍の攻撃により制圧。部隊は新たに拠点を設けて部隊を展開していた。

そんな中、元集落の片隅では15、6人の僅かなゲリラの残党が反撃の機会を伺っていた。

 

「!!!!!?。」

 

「!???!。」

 

ゲリラはああでも無い。こうでも無いと激しく言い争っていた。軍隊の経験があるものが作戦を建てるが、そうで無い物にそれで集落を執られたと批判する。話し合いはいつまでも平行線であった。やがて、嫌気が差したのか?。リーダーの一人が立ち上がって部屋を出ようとした。そのとき、ガラスの割れる音と一緒に何か投げ込まれた。

 

「…!???!」

 

投げ込まれた物が手榴弾と気付いたときにはその破片によって身体を引き裂かれていた。

同時に扉が蹴破られると数人の兵士が流れ込み、運良く飛び散る破片から生き残った者を掃射していく。

スネークは床で呻く男の傍らに立った。

 

「何か知ってる事はあるか?。」

 

有益な情報があれば捕虜にすると条件を付けたが…。

 

「犬ど…。げは!。」

 

男が反抗の姿勢を見せた瞬間スネークは首にナイフを突き入れた。

 

『アルファ殲滅。』

 

インカムから別の建物を攻めていたスパークの無線が入る。スネークは索敵から戻っンナーに視線を送る。彼が頷いたのを確認すると…。

 

「ブラボー殲滅。」

 

了解と返信が来ると無線を閉じる。ナイフの血を敵の衣服で拭い。鞘にしまう。

ガンナーが鮮やかだなと死体の懐から煙草を分取りながら呟く。

 

「最近、狙撃ばかりだから腕が鈍ってるかと思ったが…ちっ、メンソールか。」

 

好みが合わなかったのか?。ガンナーは煙草をスネークに投げ渡した。

 

「エッジ伍長に嫌と言うくらい鍛えられましたから。」

 

スネークは煙草を吸わないが投げ渡された物を受けとる。こういう嗜好品は良い取り引き材料(殊更ペニサスとタンクには)なるのだ。

 

「一歩違えばあいつは狂人。それよりチャーリーから無線が入ってる。」

 

キュアがバックを揺らしながら言う。彼女のバックは医療キットが入ってるため他の人よりバックが大きい。

 

『ドライだ。間抜けを一名捕縛。エッジとリロード曹長が《お話し中》だ。後始末が済んだら此方に来てくれ。アウト。』

 

スネーク達は無線で示された建物に向かう。近付く度に人の悲鳴がハッキリとしてくる。中に入ると仲間達が好き勝手に休憩を取っていた。ハイン、スパーク、タンク、ペニサスはまだ来てない。

 

「やめてくれ…!。」

 

殴打音と共に悲鳴。発生源は隣の部屋みたいだ。エッジとリロードが捕虜から情報収集(と言う名の拷問)を行っているのだ。本来禁止されている行為に対し誰も気に止めない。これが戦争の風景の一つと認識してるからだ。ましてや自分達は個人に雇用されたとされる非合法戦闘員。大半が身分不詳か戦闘狂の傭兵。彼は条約で捕虜として保障されなし、なっても雇い主から援助はまず無い。そうなれば犯罪者か同じように拷問のはてに死ぬのが最後なのだ。

 

(汚れ仕事は私達の仕事。元使い捨て少年ゲリラの貴方なら理解出来るでしょう?。全く、素敵で最悪な戦争の裏側。)

 

「なんとも、たまらないもんだ。」

 

かつてハインが口にした言葉を反芻したスネークは自身のバックパックから先日、狙撃した敵から分捕ったチョコレートバーを取り出し包み破いて食べる。一口だけ口にするとあとはバックパックに戻す。久々に当たりの戦闘糧食だった。窓の外を監視してるとデルタチームのハイン達が合流。長であるガンナー軍曹が状況報告。幾つか話したところでエッジとリロードの二人が隣の部屋から出てきた。エッジのナイフ、リロードの拳には血が付いていた。男の声は聞こえない。

 

「ボス。」

 

エッジがナイフの血を拭いながら、真剣な口調で言う。

 

「捕縛した間抜けは相手方の正規軍の兵だ。」

 

「他に分かった事は?。」

 

「あれとは別に、多数の正規軍が潜伏してたそうです。恐らく自分たちが関わった以外はとっくに本隊に合流して、こちらが部隊を展開してるのも伝わってるでしょう。」

 

リロードがあとを紡いだ。

 

「それと、敵の集結地には凡そ三個中隊が控えてるそうだ。」

 

「三個中隊ね…あの大佐には少し荷が重そうね。ところで上級曹長?。片付けの準備は?。」

 

左に垂れる前髪を指先で弄くりながらタンクに問う。

 

「おう、とっくに出来てる。」

 

タンクは手の中にある焼夷手榴弾をみせる。

 

「よろしい。タンクは5分後、この建物を焼却。他は撤収。」

 

「小僧。」

 

あからさまに面倒臭いと言った感じでスネークに焼却を任せようとするが…

 

「そんな顔しない。上級曹長の好きなオモチャ。程好く壊しておいたから。正規軍は見向きもしてないわ。」

 

「ガンナー、リロード、ドライ!。手伝え、汚物の消毒だ!。」

 

態度が一辺した。呼ばれた三人も笑ってた。

 

その後、スネーク達が建物から離脱した。きっちり5分後、建物から火が上がった。

 

「別に四人で乗る必要無かったんじゃないか?。」

 

軽装甲車の機関銃座でエッジがぼやいた。

 

「でも、そのおかげで広々。」

 

後部座席ではキュアが目を閉じながら言うとそれっきり喋る事はなかった。する事が無い以上、寝るのが彼女の心情だ。

 

「変わってますよね。普通なら暑苦しくて嫌になりますよ。」

 

ハンドルを握るペニサスが車長席に座るスパークに話しを振り、口に煙草を加えた。スパークはそれに火を付け、自分もまた煙草をふかした。

 

「ノーホロスにまともな奴はいないさ。俺も隊長もな。」

 

『早くいけ!。轢き殺すぞ!。』

 

無線から怒号が響く。バックミラーに視線を移すと1両の戦車が後方を走ってた。M1エイブラムス、アメリカの戦車だ。

 

 

 

「タンク、私的通話は厳。作戦規定の通話法に従え。」

 

先頭を走る別の軽装甲車からハインが注意の無線を流す。

 

「全く、オモチャを与えた途端これなんだから。」

 

「自分も戦車の運転がいいです。」

 

「以前一人で戦車を破壊した。縁起悪い。断る。」

 

スネークの愚痴を一蹴してハインは読んでいた本に目を落とした。

 

「日本の東方シリーズですか?。」

 

日本に旅行に行った際、彼女が必ず買い求める書籍の一つだ。彼女の影響でスネークも愛読するようになった。ハインは軽く返事をするとページを捲る。横目で見ると挿絵部分だった。

 

(神社に巫女、不釣り合いな吸血鬼姉妹。メイド。中華人。物語ならアリかな。人間が生身で空飛べるし。)

 

「ここ、良いところよ。そこで一緒に暮らせたら最高じゃない?。」

 

「…夢があって良いと思います。イテテ…。」

 

信じて無いわねと頬をつねられた。

 

(幻想は楽しむ、現実は活用する。そう言ったのはハインじゃないか。)

 

「スネークに出会う前かしら。陣地防御戦中に撤退命令が来て、我先に逃げ出す中で、私を含め数名、小隊長に撤退援護を命令されて…。」

 

何度も聞いた話しだ。だが止めはしなかった。

 

「そんなに時間が経たない内に次々と仲間が死んだ。狙撃に専念していた私はスポッターが撃たれてからそれに気付いた。弾も尽きてた。交戦出来ないと判断して一目散に逃げた。その時かな?。突然風景が歪んだと思ったら全く見覚えの無い場所。とりあえず人目を避けて歩いた先がここの神社。」

 

喋り過ぎたと息をつくハイン。

 

集結地に入った傭兵分隊は事後の方針を下された後、テントに集まっていた。

 

「予備隊ですか?。」

 

喋るハインの方を見ずに機関銃の手入れを勤しむペニサス。

 

「ずいぶん楽させてくれるんだな。ボス。」

 

砥石でメスを研ぐエッジ。隣ではそれを滅菌して各人の簡易メディカルキットに次々と納めていくキュア。

 

「私達が活躍しすぎると、面子が立たない。」

 

「予備隊といっても仕事はきっちりやるわよ。」

 

地図を広げたハイン。青い点で二名一組で配置場所を示されていた。

 

「私達は撤退する主力の援護を実施する。」

 

「敵の航空攻撃はありますか?。」

 

それまで沈黙していたスパークが発言した。

 

「ヘリ等の航空支援は無い。と聞いてるわ。」

 

「聞いてるぅ?。はっきりしないじゃないですか。主力の斥候は何やってんだ」

 

ドライが身を乗り出す。

 

「戻ってないみたいね。別経路の斥候情報ではこちらに航空攻撃が向けられる公算は低いと判断されてるわ。勿論、こちらから斥候を出すのを具申したけど…。」

 

「よくそれで攻めようと思いますね。大佐はきっと豪胆だ。スネーク、お前が斥候出たら出たらどうだ?。」

 

ガンナーが言う。

 

「自分と大尉で斥候に出ようとしましたが、主力の情報が信じられんのかと傭兵風情のたかが大尉ごとぎがでしゃばるなと。」

 

ドライはこれについてなにかを反論を示す事は無かった。

 

(カリスマでも大尉か…。)

 

横目で彼女をみるスネーク。もし、もっと階級が上なら…いや、それでも自分のやる事は変わらない。自分を拾ってくれた愛しい彼女…ハインを守る。

 

「意見は無いわね?。行動開始は4時間後。全員、銃と擬装服の点検を徹底しなさい。40分前になったらまたここに集合。以上、解散。」

 

 

 

 

 

 

夕暮れ時期…だだっ広い崖の上、草が生い茂るそんな場所に二つの人影。援護配置に就いてるハインとスネークだ。

 

「2時の風、約三メートル。ふぅん…。」

 

 

 

顔にフェイスペイント、擬装服(ギリースーツ)を着込んで生い茂る草と溶け込んで同化しているハインが草をちぎって風に流しながら呟く。

 

「どうしていつも横行目標なんですか?。」

 

「バイクの運転。上手くなったわね。」

 

意図的に無視された。よくある事なのでスネークも気に止めない。そのバイクは後方に擬装して残地している。

 

(信頼されてるんだろうな。)

 

事実、全員狙撃の技術に精通するこの傭兵分隊でハインに継ぐ狙撃の腕前をもつのは彼なのだ。

監視方向に動きがあった。任務を終えた主力が撤退していく。このまま敵の逆襲がなければ楽で良いのだが…。

 

「優先は機関銃搭載車。楽したければ敵が直線上にいるうちに仕留めろ。」

 

双眼鏡を覗くハインが指示を出す。スネークは目標を捉えると次々と引き金を絞る。中には応射してくる敵兵もいたが二人を撃ち抜く事は無かった。やがてスコープの中で車両が横転、爆発が続出した。別の配置にいる仲間が狙撃しているのだ。

一気に走り抜ける算段か?。敵車両が速度を増した。

 

「リード2。」

 

「もう録ってる。」

 

静かに反論してレチクルを目標の進行方向におき、撃発。弾丸は吸い込まれるように運転手に命中すると車内に頭の中身をぶちまける。

「撃つな…!。」

 

異変を感じ取ったハインが射撃の中止をかける。スネークも安全装置を掛けて周囲を伺う。空気を打ち付ける様な風切り音…ヘリだ!。

 

『警告!。航空攻撃!。』

 

無線から対空警報が放送される。数は三機。ゆっくりと周辺を索敵している。敵が狙撃兵による被害が甚大とみて投入したのだろう。それにしても…。

 

『航空支援は無いんじゃないのか!?。』

 

『大したもんだな!。主力の斥候さんは!。』

 

後方に配置された狙撃組が文句を言う。その間にも地上の敵は味方主力を追撃している。

 

『バレットは?。』

 

多目的車や攻撃ヘリなどの装甲も撃ち抜く対物狙撃銃(アンチマテリアルライフル)だ。自分とペニサス、ガンナーのバディに配備したのだが…。

 

『こちらペニサス。遠すぎて確実に当てられない。』

 

『こちらガンナー。敵ヘリがこちらを指向中。バレてはいないが射撃は不能。そちらで出来ないか?。』

 

「タイミングをみて射撃する。ペニサスは可能な限り弾幕を張れ。ガンナーはそのまま待機。…スネーク。」

 

彼女と自分の間にはバレットが擬装されてセットしてある。

 

「私は奥、あなたは出前のヘリのパイロットを。」

 

スネークは頷く。

 

「ペニサスが弾幕を張るわ。機首がこちらの指向を外したら撃つ。」

 

話すうちに目の前のヘリが動揺した。ペニサスが曳光弾で狙撃してるのだ。回避行動を取るヘリ。機首がこちらから外れた。

合図は無かった。二人はすぐに据銃した。スネークはスコープを覗いた時、パイロットと目があった。自分は一発、隣からは数発の銃声がした。

パイロットを失った、またテールロータを狙撃された二機のヘリは地上に落下して爆発した。二人はもう一機のヘリを警戒したが、こちらからの狙撃は不可能の距離にいた。

 

「離脱する。主力に合流よ。文句言ってやる。」

 

 

 

他の隊員と合流しながら主力との合流を目指す。途中、墜落したヘリと残骸と化した主力の車両。骸になった兵達。

防御線を張ってる主力陣地の司令部に向かう。普段なら誰何を受けるべきなのだが司令部入り口の歩肖は茫然と銃を持って適当にハインをあしらう。

 

「…チッ。大佐。敵の航空支援は無いはずでしたが?。」

 

一番最初に舌打ちを漏らす。そこでは個人副官と恥態を繰り広げる大佐の姿。

 

「おお、名無しの傭兵大尉か。それについて私も言うことが…。」

 

(目がいってるわ。)

 

 

 

陣地の一角に陣取ったスネーク達は銃の手入れや車両の整備を行っていた。辺りの主力の兵達は半数は同様に整備。残りは空を仰いだり、無意味に十字架を握って祈りを捧げてた。陣地の一角に陣取ったスネーク達は銃の手入れや車両の整備を行っていた。辺りの主力の兵達は半数は同様に整備。残りは空を仰いだり、無意味に十字架を握って祈りを捧げてた。将校や先任下士官が叱咤するが効果はさほど見られない。よほど苛烈な戦闘だったらしい。キュアとの雑談で時間を潰していると、肩を怒らせた正規軍の少尉が分隊と近づいて来た。

 

「ああいうのは面倒を背負ってくる。」

 

任せたと言って、キュアはそそくさと去ってしまった。仕方なく誰何をすると、将校にも誰何するのかと聞かれたが、我部隊は当たり前と言うと納得した表情した。

 

「先程戦闘で、撤退の殿を任されたのは誰だ?。」

 

「はい少尉殿。私と…。」

 

最後まで言わないうちに少尉が殴りかかる。後ろに下がって回避。腰の拳銃に手が伸びたが堪える。

 

(変に反抗すると面倒だ。)

 

「何故避けた?。」

 

「自分は殴られる理由が分かりません。」

 

一応不動の姿勢をとる。周りでは油断無く武器を抜ける体勢でいた。この少尉が自分を殺そうとしても、それ以前に助けて貰えそうだ。

 

「理由だと?。貴様ら殿がヘリの対処に遅れたせいで、私の部下が大勢死んだ。」

 

思い出した。この少尉は最近任官したての新米将校だ。この部隊に雇われた時に律儀に挨拶周りしていた。

 

「それに、貴様。私の部下に見殺し、いや、直接手に掛けたな!。」

 

(何言ってんだ。こいつ?。)

 

「…ここに来る途中、お前は負傷した軍曹がいただろ。」

 

(確かにいたな。)

 

「何故、見捨てた?。彼には将来を約束した…。」

 

「御言葉ですが、少尉殿。」

 

途中でスネークは言葉を遮る。

 

「彼は右腕の切断、それによる大量出血。さらに、胸に銃貫創等。生きてるのが不思議な状態でした。私達分隊の衛生兵が処置をしましたが、絶望したのでしょう。本人の懇願も考慮し、私が慈悲を与えました。それと、最初の質問にもお答えします。」

 

意識的に冷たい視線を向けた。

 

「ヘリが到来した当初、私が潜伏していた地域一帯を策敵。大佐殿の部隊を援護するため狙撃兵として秘匿を重視したまでです。命令下達時は敵の航空支援は情報無いと言われていた為、万が一に備えてのバレットを三丁。この事はハイン大尉が何度も具申しています。」

 

言い返せない少尉。スネークは反撃に出た。

 

 

「斥候は…少尉殿の小隊から出ていましたよね?。我分隊がもう一度斥候を出すと言ったら、傭兵風情は引っ込め!。ですから。それで十分な成果を挙げない。全く、立派な物です。」

 

「この…!。」

 

少尉が腰のホルスターから拳銃を抜きスネークに指向した。その瞬間、スネークは 少尉の手首を返し、地面に捩じ伏せて無力化し、拳銃を奪い分解して少尉の身体に放り棄てた。囲む様に見ていたノー・ホルスの分隊が笑って見ていた。

 

「貴様…!。」

 

激昂した少尉は次はナイフを取りだした。だがひとつの銃声と共にナイフが手の中から弾けた。

スネークは銃声の方向に向き直り…。

 

「異常ありません。大尉。」

 

ハインのリボルバー拳銃の銃口から硝煙が上がっていた。

 

 

 

 

 

「大佐…意味が分かりません。」

 

ハインは個人副官と交じり合う大佐に言う。

 

「なんだ…貴官も…疲れてるのか?。」

 

「疲れて無くとも、私達に全ての責任が発生する理由が分かりません。それは別の経路の斥候の到着を待たず、安易な予想だけで作戦を立案し、命令下した大佐。貴方に…。」

 

痛烈な批判だ。これに関しては作戦立案時に問題になった議論だ。少し遅れてきた参謀と各中隊長、小隊長は自らの上官の異常行動とあいまって尚更渋い顔をする。

 

「責任があります。よって私達ノー・ホルスが責任にを負い、遅滞戦闘を行う理由がありません。契約違反です。事に次第によっては分隊は直ちにここを離脱させて貰います。」

 

この言葉に周りの将校は一部を除いて大隊長である大佐から目を反らした。もしハインの部隊が撤退したら貧乏クジを引かされるのは自分とその部下なのだ。死ぬ為の遅滞戦闘…誰も関わりたくなかった。

副官を弄びながら大佐は信じられないことをいい始めた。

 

「大尉ぃ…私は敵の航空支援がある可能性があると言ったと思うのだが?。」

 

「それは私が具申…。」

 

「そうだ…言ってたな。確かに…。」

 

将校達の中から大佐に合わせる様な声が…それを合図に正規軍の将校達が同調していく。

 

「ほらな?。君が命令を勝手に解釈し、部下に徹底しなかった為に起きた事態だ。分隊が責任を取るのが当然じゃないか?。」

 

なんて奴等だ…。内心ハインは絶句した。

 

「大隊長…あんまりです。軍法会議…ぎゃ!。」

 

伝令兵だろうか?。余りに常識的な言葉だが、途中から呻きに変わり、その場に倒れてしまった。首筋にはナイフが突き刺さっていた。

 

「まだ何かあるのか?。ここには味方はいないぞ?。たかが傭兵大尉なんぞどうにでも出来るのだがな?。」

 

ハインに視線が集まる。この場に漂う淫らな空気と彼女の魅力に自分の下半身の違和感を感じ、彼女を押し倒そうと考えた者もいたのだ。

 

「殺しますか?。犯しますか?。」

 

動じないハイン。次の言葉で将校達の動きが止まった。

 

「私に手をだしたら、うちのS級スナイパーが黙っていません。そして、我分隊には私が死んだ場合、即時撤退するよう命令してあります。それがどういう事になるか理解しているうえで、どうぞ。」

 

この中の、運の悪い中隊長以下の人間が遅滞戦闘を行う事になる。

 

「お、脅しか?。し、知ってるぞ。若い燕の伍長がいるそうじゃ…。」

 

「さすがに分隊だけでは抑えきれません。最低でも一個中隊は遅滞戦闘に廻して下さい。」

 

無視した。ハインはすでに生き残る術を考えていた。事実、分隊規模ではどうにもならない。

 

「一個分隊でどうにかなるとお考えなら、士官学校からやり直して下さい。生き残りたいなら、不幸な中隊を選出して下さい。…あと、私の燕伍長は腑抜けどもが束になった所で不要な死体を生むだけです。」

 

敬礼も適当にハインはこの場を出た。

 

「彼に手を出したら、全員殺す。」

 

大佐は痛みを感じた手を見た。いつの間にか副官の首を掴み、気道を妨げており、もがき苦しむ副官が必死に抵抗して爪を立てたのだ。首から手を離すと咳き込む。

 

「さて、不幸な中隊を決めるか。」

 

1人の将校が手を上げた。

 

 

 

ハインは自分達の陣地に向かう。近付くにつれ、言い争う声が聞こえる。少尉がスネークに捩じ伏せられる。分隊は周りはそれを楽しそうに見てる。中には紙幣出して賭け事をしている奴もいる。少尉がナイフを取りだした。素早くリボルバーを抜いて発砲した。

 

「異常ありません。大尉。」

 

「ご苦労様。」

 

彼女は経緯を聞いた。その上でそれは、死に際の兵の細やかな願いを聞けとだと命令してあると言った。服装を正しながら少尉は納得出来ないから二人で話し合いを設けたいと言ってきた。

 

「私はお子様少尉なんかに構ってる暇は無いの。恋人は彼で間に合ってるわ。さっさと帰って私以外の女を口説く勉強でもなさい。」

 

スネークを後ろから腕を回し、犬猫を追い払うように手を振る。溜まらずエッジ、ガンナー、リロード、ドライが声を挙げて笑い出す。

 

「自分はそいつより、階級も歳も上ですが。」

 

赤っ恥をかかされ、お子様扱い。しかも伍長より格下と言われ彼の自尊心が傷付けられた。

 

「話しなら自分が相手になりますか?。」

 

タンクが少尉の前に立ち、上から見下ろす様に睨んだ。少尉にとって悪魔より恐ろしいのはタンクの様な経験、実績を併せ持つ下士官だ。かつて成り立ての少尉だった頃は上級曹長や古株の軍曹に学びもしたし、大いに泣かされもした。

 

「いや、失礼する。」

 

最後にスネークに一瞥すると少尉は分隊の陣地を離れた。

ハインは少し強めにスネークを抱きしめたあと、分隊に10分後の集合を命じた。集合時、食事と喫煙の許可が与えられ、スネークはその際に必要になる茶器を用意する。

 

「ペニサスと大尉以外はブラック、エッジ伍長とスパーク軍曹は緑茶…。」

 

傭兵達の好みごとにコップに湯を注ぐ。

ハインはペニサス軍曹と共に地図に作戦図を書き込んでいた。スネークは二人の傍らに甘めに仕上げたコーヒーを置き、作戦図が見える適当な場所に座り、戦闘糧食を開けた。ふと、味噌汁や白米を食べたいと思うのはやはり日本人だからか?。

予定通りに集合すると、ハインは今後の方針を指示した。

 

「自分達は死ねと命令されたんですね。」

 

リロードがカップ麺(スネークの日本のお土産)を啜りながら言った。

 

「ふぅ…マスター。まさか私達だけでやれとは言いませんよね?。まぁ、それでも良いですけど。」

 

ペニサスは煙草を吹かしながら言う。確かに士気の低い正規軍と一緒では邪魔の上、余計なチャチャを入れられる。(その正規軍は撤退準備に勤しんでいた。)

 

「ここに来るとき、稜線を利用した敵の防御陣地があったわね。そこには上級曹長の戦車と正規軍の一個中隊が布陣する。私も直接陣地を見るけど、戦車の細かい配置は上級曹長に任せるわ。ある程度嫌がらせをしたら、内乱のせいで廃墟になった市街地に入り、追撃してきた敵を排除。主力の撤退を援護。気になる敵の航空支援は、先程三機も破壊したばかりだから、投入は考え難いわ。了解したなら戦車乗員は早速中隊長と合流して行動を開始。」

 

タンク、ガンナー、リロード、ドライは行動を開始した。

 

「残りは、同じく敵の陣地を利用して戦車を狙撃支援。まぁ、いつも通りね。スパーク。敵の無線機は持ってるわね?。」

 

「抜かり無し。」

 

「よろしい。いつも通りいくわよ。」

 

 

 

 

防御陣地ではタンクは割り当てられた配置で地図を広げていた。無線機から呼び出しがあった。

 

「オーバー。」

 

『元気そうで。上級曹長。』

 

中隊長からの私信だ。

 

「進んで遅滞戦闘に名乗り出る物好きが…誰かと思えば…。」

 

『皆さんもお元気そうで。』

 

中隊長は過去、タンク達と面識があるみたいだ。

 

「ハナタレの幹部候補が、偉くなったもんだ。だけど、何でこの大隊に?。」

 

『色々ありましてね。前任が謎の失踪になりまして。正直、あの大尉には肝を冷やしましたよ。』

 

「随分ご立腹だったな。ところで中隊長殿。中隊規模にしては数が足りないな?。俺らを含めたって二個小隊しかいないな?。」

 

『命知らずの馬鹿を集めた結果です。他は先行。途中で逃亡されるよりマシ。貴方と同じ考えです。出来れば階級が同じなのですから、お宅の大尉に指揮を…。』

 

『コラァ、私信するな。』

 

無線でハインに注意される。中隊長は謝るとそれっきり黙った。

 

「確かに小娘が仕切った方が上手くいくかもしれんな。」

 

車内で笑い声が響く。中隊長となったかつての幹部候補より確かにハインの方が優れている。

 

『上級曹長。敵発見。』

 

4人に緊張がはしる。砲塔から双眼鏡で前方を確認する。重機関銃、RPGを搭載したピックアップトラック、人員を乗せたトラックが押し寄せて来る。それらが停車、人がぞろぞろと下車し、AK一丁を装備した兵が前進してきた。

 

「少年兵か。」

 

敵側の反乱正規軍が無理矢理徴兵した子達だ。恐らく威力偵察の為、裸当然で前に出されたんだろ。

 

「こちらタンク。戦車を秘匿したい。」

 

『了解。援護する。』

 

別陣地にいるハイン達による狙撃が始まった。次々と狙撃される少年兵達。恐れを抱いた少年兵は後方に逃げる。すると待機してるからテクニカルから重機関銃で射撃される。

 

「邪魔なテクニカルですな。撃ちますか?。」

 

「構うな。奴さんがワザワザ敵を減らしてんだ。装甲車が前進するか、戦車が姿が現すまで待て。」

 

 

 

 

後方の反乱軍の戦車中隊長は焦れていた。先程から大隊長からまだ防御陣地を突破出来ないのかと急かされていた。先頭の捨てゴマの少年兵は敵の狙撃でバタバタ倒れ、威力偵察になりやしない。かと言って戦車で援護しようなら潜入させた諜報員の報告で挙がっている戦車で撃破される。

 

『こちらマウス。』

 

戦車中隊長に無線が入る。諜報員からだ。

 

『敵の戦車は先行班にまわっている。正面には一個狙撃分隊しかいない。』

 

待ち兼ねた様に戦車中隊が突撃準備を始めた。

 

「…突撃!!。」

 

一個中隊の戦車が突撃していく。少年兵の遺体を時折踏みながら巨大な鉄の塊が速度を発揮する。

中隊長は機嫌が良かった。敵陣に一番乗り。そうだ。このまま鎮圧に来たと言う敵の大隊を追撃して殲滅してやろう。元の終結地に装備をそのまま残地して撤退する様な部隊だ。対戦車火器もろくに配置してないだろ。見えてきた。敵陣だ…!。

 

『大隊長。敵の陣地を制圧。現在逆襲に備え警戒中。援護体制完了まで所要時間5分。』

 

「誰だ!。勝手な通信を…。」

 

中隊長の声は砲塔に直撃した徹甲弾に引き裂かれて最後まで言い終える事は無かった。

 

『目標、指揮官車。徹甲、α小隊集中、撃て!!。』

 

一個小隊分の戦車火力が指揮官車に直撃。爆発、炎上した。他の戦車にも砲が指向され同じように撃破された。

 

『砲迫要求。効力射、速やか!。』

 

敵方から迫撃砲弾が飛来。しかし、それは少年兵と突撃している戦車の上に降り注いだ。

 

 

「毎度のこと…見事なものね。」

 

戦況を確認するハインが呟く。スパークの流した誤情報で敵の戦車部隊はすっかり混乱していた。

戦車が陣地を移動する。それをハイン達と正規軍の携帯対戦車火器、対物ライフルで援護。移動を終えれば再び戦車射撃で狙い撃ちだ。

 

「大尉。また出てきましたよ。」

 

目を転じれば大隊規模の戦車と装甲車部隊が姿を現した。

 

「駄目ですね。佐官クラスが指揮がとるなら、これ以上の擬騙通信は時間の無駄です。変わります?。」

 

「それこそ意味無し。妨害なさい。」

 

スパークが妨害電波を発信すると持ち直しかけた敵が再度崩れ始めた。

 

『遠目標、徹甲、撃て!。』

 

『目標、装甲車、溜弾、撃て!。』

 

次々敵の数が減っていく。分が悪いと判断したのか?。敵は後退をしていった。

 

『ハイン大尉。一息つきたいが残念なお知らせです。』

 

戦車中隊長からだ。

 

『大隊長達が市街地でゲリラと遭遇。直ちに救援部隊を編成して前進しろとのことです。』

 

頭の痛いネタがまた…。

 

「中隊長殿。ここは私達が守ります…。」

 

『いや、ハイン大尉。私達が残ります。』

 

「良いのかしら?。ここより後方は陣地が無い以上、同じ場所で守るしかない。生存の可能性はハッキリ言って0ですよ?。」

 

『貴女達が救援に向かった方が大隊の為になる気がしてならんのです。それに、市街地は動きが制限されて携帯対戦車火器のかっこうの餌食。歩兵に殺られるのは我慢ならない。対戦車戦闘で死ぬなら本望。』

 

「…了解。上級曹長は?。」

 

『聞くな。4人も同じ考えだ。』

 

「…勝手になさい。頑固爺。…この戦争が終わったら中隊長殿以下をノー・ホルスに招待するわ。アウト。」

 

『ブラボー小隊は小隊長と各車二名ずつハイン大尉の掌握下に入れ。アウト。』

 

ハイン達は救援に向かうべく車両に乗り込んだ。

スネークが振り向くと残地する戦車兵達が笑顔で手を振ってた。タンク達も車内から出て見送りしていた。

 

「小僧!!。」

 

タンクが吠えた。

 

「小娘のこと、しっかり守れよ!。」

 

「煙草は覚えるな!。」

 

「たまには年下もいいぞ!。」

 

「浮気はバレるなよ!。」

 

ガンナー、リロード、ドライが次々に言う。スネークはそれに敬礼で答えた。

 

「死んだら、なにもならないじゃない…。馬鹿。」

 

運転するスネークの横でハインがぼやいた。

敵が攻撃を再開したのは、そこから1時間の事であった。

 

市街地に入ったハイン達はそのまま前線の投入された。

 

「スネーク。窓の影に敵だ。」

 

その方向に狙撃銃を指向する。うっすらと人影が見えた。適当な瓦礫に銃を委託して狙いを定める。引き金を落とすと血煙が見えた。

引き続き前進する。

 

「分隊、装軌音!。戦車注意!。」

 

ノー・ホルスは直ぐに迎撃体勢に移る。しばらくして歩兵を随伴した中戦車が出現した。

 

『やり過ごせ。』

 

押し殺した声で無線が流れる。言われた通り、戦車が後方を見せるまでやり過ごす。

キュアが対戦車火器を発射した。戦車は車体一部を破壊、その破片と爆風が随伴兵を巻き込んだ。

ペニサス、スパークが軽機関銃で残った随伴兵を一掃。動かない鉄の塊となった戦車にスネークとエッジが張り付く。砲塔の上に登ると短機関銃を構えた装填手と車長と目が合った。

 

「遅せぇ!。」

 

照準するより早くエッジの大型ナイフが装填手の首筋を切り裂き、スネークは車長の口に手榴弾を突っ込み、頭を叩きわる勢いでハッチを閉めた。飛び降りると中で手榴弾が爆発。戦車が完全に沈黙した。

 

『了解。主力は分隊を超越する。次はまた殿軍を勤めろ。』

 

戦車を撃破した事により、先の進路を安全と判断した主力が分隊の脇を走り去る。

 

「タンク…こちらスネーク…こちらスネーク…。オーバー。」

 

戦闘が終わってから三回目の連絡無線。一向にタンク達、防御部隊から応答は無かった。マイクをハインに返す。

気分が高揚しているのと、こうなると分かっていた為か、たいして何か思う事は無かった。事実…追撃部隊は防御陣地を抜け、後には四肢が千切れた死体、貫通した戦車、戦車の中で焼夷弾を浴びて炭化した物が散らばっていた。

ノー・ホルスの部隊章。アシンメトリーの女兵士が描かれた戦車は敵の中に突貫したのか?。防御陣地の先に残骸と化していた。

 

「…さぁ、暗くなる前に準備をしましょう。有難い事に資材は置いてってくれたみたいだし。」

 

感傷に浸ってる暇はなかった。スネークは敵の進路上に罠を仕掛けに向かった。

 

 

日が沈みきった頃、反乱軍が市街地に進行した。

この時、防御陣地で死亡した大隊長に変わり、中佐に特別昇任した中隊長が指揮を取っていた。彼は殊更慎重な性格であった。

最後の1両の戦車に苦戦し、集中砲火を行い、やっと撃破した。時間をかけて検索をしたところ、かの有名な傭兵部隊。ノーホルス・マーセナリーズがこの戦争に関わってるのが分かった。敵の大隊長な相当なボンクラとこちらの一兵卒でも知っている。楽な戦争だと思っていた。だが実際はこれだ。ヘリも落としたのも奴等だろう。戦車、装甲車の数も大分減らされた。ほとんど傭兵達より受けた被害と言って良いだろ。

 

「あのボンクラ大隊だけなら、楽でいいんだが。おっと…止まれ。」

 

前衛小隊から伝令兵だ。無線ジャックを恐れて無線の発信は戦闘が始まるまで禁止していた。

 

「前衛小隊長より伝有。現在まで異常なし。」

 

「本当か貴様?。ノーホルス達の擬装は神憑りと聞くぞ。瓦礫の下、廃屋の壁の穴さらには其処らの街路樹の上や転がってる死体の1つ1つまで調べたか?。」

 

自分でも無茶苦茶な事を言ってる。そんな事をしていたら、奴等に撤退する時間を与える事になる。爆撃出来れば更に楽だ。しかし、分隊規模、しかも傭兵相手に過剰だと上層部に却下されてしまった。

 

(前線の気もしれないで。)

 

「今は良い。これから…」

 

ドゴォン!!と爆発音がした。伝令は咄嗟に近くの建物に、中佐の乗る車両は遮蔽物に隠れた。1つ目を合図に次々と爆発が連鎖、建物が倒れ来た経路と前進経路が瓦礫で塞がれた。

 

「状況を報告しろ!。」

 

『こちら前衛小隊!。奇襲です!。アシンメトリーの女兵士の部隊章…。』

 

無線が中途半端に途切れた。原因を探る前に今度は空が反乱軍の上空で照明弾が打ち上げられ、眩しく照らされた。

 

「ガキ共!。これじゃ丸見えだ!。」

 

『少年兵を使うならちゃんと勉強させるんだな。まぁ、その機会はないがな。お返しする。』

 

「また無線ジャック…クソが!。」

 

『小隊長死亡!。車両は大破。こちらが圧されております!。至急救援を!。』

 

「道が分断されてそちらに向かえない。敵の目的は遅滞行動だ。最大火力を発揚し一旦後方に下がれ。命令だ。」

 

 

 

 

 

 

爆発と同時期、ノー・ホルスは照明弾で照らされた敵を夜陰の中から狙撃した。

 

「大尉。指揮官車だ。」

 

スコープの倍率を下げ、簡易的な観測手を担っているスネークが指示を出す。助手席に座る将校を見事撃ち抜くハイン。

さらに別の方向から対物狙撃銃が火を吹いた。

 

 

「敵が後退した。」

 

重機関銃での射撃をしつつ、敵は下がり始める。

 

「ちっ、今度の反乱軍指揮官は頭が良いのね。」

 

機関銃手を狙撃すると二人は次な狙撃陣地に移動する。後退した前衛小隊と合流しようとする反乱軍はエッジとキュアが仕掛けた地雷、指向性散弾の餌食になっており、中々合流出来ないでいた。

 

『横っ腹に食らわせた。道も防げた。前衛との合流は遅くなる。』

 

キュアの無線報告を聞いたとき、上手く遅滞を行えてる。このまま嫌がらせを続ければ大隊は無事撤退。分隊も生きて離脱出来るかもしれない。

 

「了解。全部塞いで強行突破されても面倒。戻って合流よ。」

 

『了解。』

 

『スパーク、傍受。』

 

無線を閉じると射撃姿勢を取っていたスネークの肩を叩き、分隊と合流すべく、建物を離れた。

示し合わせていた地点に着いた二人。他の四人はまだ来ていない様だ。

潜伏している家屋。スネークは窓から外を見張っていた。耳を澄ませれば時折、分隊の狙撃音が聞こえる。まだ、合流まで時間が掛かりそうだ。

 

「掛かりそうね。」

 

背中からハインが寄りかかってくる。勿論警戒の目を絶やさず、敵を意識していた。

 

「そうですね。」

 

汗と硝煙に混じる彼女の微かな匂いを楽しみながら監視を続行する。

 

「何か来ます。」

 

「あれは、大隊の装甲車?。」

 

止まった車両から歩兵が展開する。最後にあの時の少尉が指揮官席から姿を現した。

 

『ノー・ホルス。応答せよ。今何処か?。オーバー。』

 

 

「今、そちらを確認出来る位置にいる。オーバー。」

 

『大隊長が死亡した。今後の方針を話し合いたい。』

 

了解と無線きり、二人は少尉の元に向かう。

 

「君はどういう方針だ?。」

 

ハインは直ぐに話しを切り出した。敵がいないとはいえ、戦場で突っ立ってお喋り等正気では無い。この点、新品少尉も平常心では無いのかもしれない。

 

「単刀直入に言います。大尉。私の元に来い。上層部は今回の失態、貴女達ノー・ホルスに押し付けようとしている。貴女の考え次第で傭兵達の命が救えます。自分にはそれが出来ます。」

 

少尉は数枚の命令書を部下に用意させた。

 

「それは君の女になれと?。」

 

命令書には一瞥もくれず、少尉を睨むハイン。

 

「はい。その際は過去の付き合い、ハインリッヒ・スネークとしての人生は捨てて貰う。だが約束する。傭兵達の今後の人生の宛はつける。」

 

馬鹿馬鹿しい。隣で聞いていたスネークは内心思った。そんな戦場の口約束等、確実な文章に成らなければ信用出来る筈が無い。しかも、身元不詳で少年兵として大半の過去を過ごした自分を含め、何かと脛に傷を持つ人達ばかりだ。そんなのが他の人生を与えられても自ら受け入れる事も、周囲からも煙たがれるだけだ。

 

「お断りね。どの道、都合良く呼び出されて暗殺されるのが落ちよ。過去を捨てさせるのは、今後私にこの子や分隊に手出しが出来ない様にするためね。」

 

凍る様な視線を少尉にぶつける。

 

「最も誰もそんな案を飲みません。私達は私達で生き残ります。」

 

「そうか。ならここで死んで貰う。」

 

そう言うのと同時に歩兵達が銃を構えた。二人は腰元のスタングレネードを投げる。

閃光と鋭い音響が響く。視界と耳を麻痺してしまった歩兵達は構えていた銃を出鱈目に撃った。

 

「撃つな!。味方を殺すぞ!。視界が回復したら奴等を追え!。大尉以外の女はお前らにやる。他の傭兵、特にあの餓鬼は必ず殺せ!。」

 

正気とは思えない行動だ。大隊長に限らず、彼の所属部隊は幕僚らが強襲されたのを皮切りに、次々と瓦解。組織的な行動は困難な物になっていた。その中、なんとか統制のとれていた少尉の小隊が上層部の責任逃れのために引き返して来たのだ。

 

(傭兵達はとっくに全滅。)

 

そうであれば自分達には遂行すべき任務が存在せず、撤退部隊に合流出来ていた…ハインという傭兵には惜しい人材。あの狙撃兵の餓鬼には不釣り合いな女を失うのは大変勿体ないと思っていたが…傭兵達は生きて、しかも任務を遂行していた。大尉だけでも救おうとした。しかし、大尉は断った。自分の命より名無し伍長と分隊の命を優先…手助けは要らないときた。

少尉の中で何かが壊れた気がした。

 

(自分の女に成らないなら、殺してしまおう。)

 

そう思った時は殺害の命令を出していた。

 

 

「マスター!。」

 

反対方向からペニサス達が走ってきた。銃声は聞き及んでるみたいだ。

 

「主力の大隊長が死亡。正規軍はこの失態を私達に押し付ける事にした。」

 

分隊はハァ?と首をかしげた。

 

「説明は…あと。今は走りなさい。」

 

分隊に指示を出し、夜陰に乗じて駆け出す。先頭ではスネーク、エッジ、キュアが安全化を図りながら前進していた。

この行動に満足していた時、ハインの顔が一瞬苦痛に歪み、身体がふらついた。それに気付いたペニサスが支える。

 

「スパーク…手頃な隠れ場所が見付けたら、キュアを呼んで頂戴。」

 

ペニサスとスパークが遮蔽物を見付けるとそこに隠れる。キュアを呼び戻すと壁にだらしなく背を預けるハイン。

 

「ボス。まさか…。」

 

「まさかよ…数発貰っちゃった…。」

 

ペニサスが彼女の身体をチェックする。市街地用のギリースーツから数ヵ所、血が染み出してる。

キュアが到着し、彼女を横にして治療の為に戦闘服をはだける。

 

「右足に二発、腹部に三発…。右腕に一発。」

 

「大丈夫なのか?。」

 

銃声がする後方を警戒するスパークが言う。主力の小隊と反乱軍が交戦したようだ。

 

「腹部に被弾した部分からの出血が著しい。内臓を傷付けてる可能性が高い。良くこんなので平気な顔して走れた。」

 

手伝って。とペニサスに言う。キュア程ではないがノー・ホルスの兵は並みの衛生兵より高い治癒技術を習得しているのだ。ペニサスはまず右腕の処置。重傷である腹部にはキュアが手当てを施す。

 

「敵散兵。近付いてくる。」

 

押し殺した声で警告するスパーク。キュアがその敵方を恨めしげに睨む。まだハインの止血が充分に出来ていない。

 

「もう少し…良し。」

 

止血を完了し、直ちに離脱した。二人が待つポイントに向かう。そこではスネークが傷の応急処置、エッジがあたりを警戒していた。彼女より軽傷だが彼も被弾していた様だ。

 

「掠めただけです。銃は撃てます。」

 

頷くハイン。気丈に振る舞っているが顔色が時間が経つにつれ悪くなっていた。

 

「方針を話す。」

 

警戒員を示し、これからの指示をした。

 

「大佐は死亡。さらに幕僚達も襲撃を受け大隊は組織的な行動は不可。事実上壊滅。私達の任務である遅滞戦闘は無意味となった。」

 

淡々と状況を話すハイン。

 

「よって分隊はこの戦況を離脱するべく行動を開始する。敵は当初の反乱軍と失態隠蔽を画策する大隊の残存小隊。現在この小隊が最も近い位置にいるわ。」

 

簡単な見取り図で三角で書かれた場所を示す。敵となった小隊だ。

 

「この丸が私達。建物の縁沿いに前進。互いの死角をカバーしながら市街地を抜ける。この先は林が続くわ。擬装服の準備を怠るな。あとは状況に合わせて動け。警戒しつつも速度を重視。」

 

離脱を始める分隊。最初は順調に歩みを進められたが…。

 

「照明弾…!。」

 

エッジが警告し、分隊は物影に隠れる。その後も間断無く照明弾が打ち上げられ、一瞬射撃が止まる。

 

「標定されたぞ!。走れ!。」

 

全員が走り出す。しかし、弾着は分隊の後方に落ちた。

 

(標定されたのは小隊の方ね。)

 

少尉の率いる小隊が反乱軍の観測兵に捉えられ、迫撃砲を浴びたのだろう。

 

(油断は出来ない。小隊の近くにいる私達も危険ね。早く…。)

 

ハインの視界が揺れ、体が傾く、態勢を立て直そうにも力が入らない。

 

(あちゃぁ…。案外、重傷ね。)

 

「大尉!。」

 

スネークが抱き起こす。呼び掛けても返事が無い。戦闘服から血が染み出していた。

 

「最悪な状況は重なる。」

 

キュアが他人事の様に言う。少尉の小隊が迫って来ている。…銃が指向された!。

同時にペニサスが機関銃を掃射した。先頭の数名を射殺すると敵は遮蔽物に隠れる。スネークはハインを肩に抱え、分隊は前進する。

 

 

「怪我人を抱えてる餓鬼を狙え!。」

 

射撃がハインを抱えてるスネークに集中する。

 

「がぁっ!。」

 

脚に命中してしまった。何とか踏みとどまるが先程より前進の速度が落ちてしまう。

 

「スネーク!。ここは俺が抑える!。」

 

スパークが振り返り、後方に射撃を開始した。

 

「私もお付きあいしますよ。スパーク軍曹。」

 

ペニサスも機関銃を掃射する。

 

「俺が残る。二人が大尉を…。」

 

「うるさい!。早く行け!。」

 

「大丈夫よ。生きてまた会いましょう、坊や。」

 

「ペニサス!。スパーク軍曹!。」

 

渋るスネークからエッジがハインを奪い、キュアが蹴りを食らわせた、態勢を崩した所を首根っこを掴み引きずる。

 

「甘いんじゃ無いですか?。」

 

 

 

彼の声を背中に苦笑するペニサス。

 

「ノー・ホルスの…大尉の意思を受け継ぐべき兵士。それがあいつと判断したまでだ。」

 

「死なすのは惜しいですね。確かに。マスターと坊やがいれば、ノー・ホルスは安泰です。来ました。」

 

「なるだけ、数を減らす。」

 

 

二人は閃光手榴弾を手に取った。

三秒後の合図に同時に放つ。目映い閃光が弾け、目を潰す。機関銃を撃つ二人。適度に下がりながら足止めを開始した。

離脱を続行した四人。簡単に止血の処置をしたスネークは足を引きずりながらも陣形を保ちながら戦闘態勢を維持していた。

 

「血が止まらない。これ以上は危険。至急傷の縫合が必要。」

 

小柄な身体に彼女を担ぐキュアが急を要するむねを伝えた。

 

「そうも言ってられないぜ。」

 

耳を澄ませるエッジ。先程からスネークも確認していた。

 

「現地語…クソがぁ、反乱軍だ…!。」

 

喧騒の中に現地の言語が聞こえた。この時、迂回した反乱軍の歩兵小隊が迫って来ていたのだ。

 

「スネーク。傷の縫合は出来るな?。」

 

頷くスネーク。

 

「近くの建物に入れ。キュアは必要な衛生道具は置いてけ。」

 

「そんな…エッジ伍長とキュア伍長まで…残るなら俺が…。」

 

「怪我人を抱えては行動が阻害される。大尉は勿論、貴方も治療は必要。」

 

メディカルバックから必要な道具を素早く選出していたキュアが言う。

 

「まず、自分の治療を。貴方が倒れたら、ボスの治療をする人がいない。私達の目的が破綻。」

 

道具をスネークに押し付け、M4を構え直す。

 

「ボスとお前が居れば、ノー・ホルスはいつでも再編可能だ。さぁ、行くぜ。キュア。」

 

闇夜に消えるエッジとキュア。不甲斐なさを感じながら、彼は今、取れる行動をした。

 

「お前迄付き合う必要無いんだが。」

 

敢えて反乱軍に見つかり、付かず離れずの距離を保ちながらスネーク達から引きなはす。

 

「個人的には、ボスよりお前が生き延びた方が嬉しい。」

 

「ありがとう。けど、私はエッジと一緒が良い。」

 

 

引き金を引く二人。弾丸は反乱軍の少年兵に命中する。

 

「彼は、特別だった。ゲリラとして闘った私達を翻弄した。」

 

「あいつが率いていた部隊はまともだったな。確かに。元々兵士の素質があったんだよ。」

 

引く、撃つを繰り返して時間稼ぎを続ける。

狂った様に少年兵が突撃してくる。後ろでマシンガンを少年兵の背中撃ちながら煽る指揮官を狙撃。恐怖の対象がいないと気付いた者から次々逃げ出す。

この時、この戦場いる兵士達は知らなかった。事態を重くみた反乱軍、味方の軍双方が爆撃機を発信させていた事を。

 

 

『こちらイーグル。投下位置まで残り10分。』

 

「了解。計画に変更は無い。予定通り投下しろ。」

 

何処かの作戦室。何人かの制服に身を包んだ高級将校が集っていた。一人が爆撃機のパイロットと無線のやり取りをしていた。

 

「本当によろしいのですね?。」

 

一人の将校が迷彩服の軍人に聞いた。

 

「この責任はとれるか?。我が軍の為に必要なことだ。」

 

以後なにも言われることは無かった。

 

(確かに惜しい。だが反乱軍相手に一個大隊全滅は恥じた。)

 

『投下地点到着。』

 

「命令する。焼き尽くせ。塵1つ残すな。」

 

『了解。』

 

爆撃機から弾頭が投下される。同時に反乱軍も爆撃を始めていた。

 

 

 

 

 

何とか林の中に離脱したスネーク。ハインを横に寝かした所で爆撃機の飛行音を確認。市街地の方向に飛んでいく。そして…。

 

「あ、ああ…。」

 

次々と榴弾を投下。市街地は瞬く間に火の海に化していく。

 

「す、スネーク…?。」

 

呆然と見ていたスネークは目を覚ましたハインによって現実に引き戻された。

 

 

「状況は?。」

 

「大尉が倒れた後、離脱を続行。スパーク軍曹、ペニサス軍曹。エッジ伍長とキュア伍長が敵の足止め。状況を確認出来るのは、自分と大尉だけです。どちらの部隊かは知れませんが、市街地が爆撃されてます…。恐らく…。」

 

皆まで言わず、ハインは状況を理解した。

 

「ごめんなさい…。」

 

 

「歩けますか?。」

 

ハインの懺悔をスネークは無視した。彼女は立てはするが、一人で歩くには辛そうだ。

自身も負傷しているスネークは互いに肩を支えながら前進した。早く、安全な場所を確保して手当てと体力の回復を…。

 

「スネーク…!。」

 

後方から人の気配…少尉の小隊残余の人員だ。

 

「しつこい野郎だ…。大尉。急ぎましょう。」

 

二人は林の奥に足を進める。少尉達は段々と距離を積めていく。

 

「追い付かれるわね。スネーク。」

 

あと数分もしないうちに夜間の視認距離に到達するだろう。そうしたら…。

 

「私を置いて行きなさい。」

 

耳を疑うスネーク。

 

「ここで、あの少尉達を引き付けるわ。」

 

「嫌です。自分も残る。大尉を…ハインを置いて行けるわけ無いじゃないか…。」

 

語尾が弱々しくなっていく。泣き出しそうだ。

 

「まだ…兵士の心得…全部教えて貰って…。」

 

「教えられる事は、教えたわ。これが証よ。」

 

ハインは額に巻いていたダークグリーンのバンダナ、リボルバー、ナイフをスネークに託した。

 

「嫌だ、ハイン…。」

 

「命令よ。スネーク。」

 

狙撃銃を突き付けるハイン。

 

「最後の命令。私を置いて、東に真っ直ぐ進め…。前に言った幻想卿にたどり着くわ。その地で博霊神社か紅魔館に向かいなさい。神社にはお賽銭を入れる。貴方は生きることを最優先。良いわね。復唱。」

 

 

「こんな時になに言って…。錯乱してんじゃ…。」

 

「復唱しろ!。」

 

厳しい声で叱責するハイン。

 

「ハ、ハインを置いて…東に前進…博霊神社か紅魔館に向かい、神社には賽銭…生きることを最優先…了解…。」

 

力なく立ち上がるスネーク。

 

「さよなら。ハイン。」

 

林の闇に消えていくスネーク。満足げに微笑んだハインは木に背を預け、狙撃銃を抱き込むように座りこんだ。暫くしないうちに少尉達がやって来た。

 

「大尉。あいつはどこだ?。言えば丁重に扱う。」

 

隊員がハインを取り囲む様に銃を構える。

 

「見切りを付けられたわ…。もう、心残りは無いわ…。」

 

懐から何かを取り出す。隊員が制止を掛ける。

 

「安心しなさい。ただの笛よ。少し、自由にさせて。」

 

笛を吹くハイン。場違いで単調だが澄んだ音色が流れた。

 

(出血によるショックで錯乱したか?。こうなるとカリスマもただの女だな。)

 

笛の音色が終わった。

 

「拘束しろ。」

 

ようやく、この女を自分の物に…。部下に支えられながら立つハイン。この時、彼の足元に幾つもの手榴弾が転がり、一斉に弾けた。

 

(何度も修羅場を潜って来たけど…案外、つまらない事で死ぬもんね。)

 

手榴弾が弾ける僅かな時…ハインは走馬灯を見た気がした。幼い時…撤退中に迷いこんだ幻想卿…スネークと出会った時から今日までの事を。

 

(あの子の事を頼んだわよ。紫…みんな…出来れば…新しい、彼に新しい生き方を…。)

 

頬に涙が流れた。

 

「地獄で直接殺してやるわ。少尉…!。」

 

 

 

 

 

手榴弾の爆音はスネークの耳にも聞こえていた。同時に彼女の死も確信した。

呆然と東に向かって歩くスネーク。やがて崖にぶつかる。周り道を探すため、崖沿いを偵察する。

 

「…!?。」

 

足元が崩れると同時に視界が反転した。滑落してしまったのだ。

 

(あの時と同じか…。)

 

幼いとき、少年兵、傭兵に身を投じる原因となった事故を思い出していた。

どぼぉん…!。と着水。崖下は急な流れになっている川になっていた。スネークは受け身を取れず着水したため、その衝撃で身動きが取れず流され、沈む身体…息が切れる直前、腕を川面に伸ばした時に気を失った…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

報告書

主力部隊及び隷下部隊(以下傭兵分隊と略)の壊滅について

 

主力…大隊長以下反乱軍により壊滅。僅かに生きた人員については身体、精神に異状をきたし戦線復帰は不可能と見積もられる。

 

傭兵分隊…全滅。例の作戦に抵触するため分隊の状況を補足する。

 

暗号名(本名・細部不明)

上級曹長 タンク・エイブラム

軍曹 ガンナー・エイブラム

伍長 ドライ・エイブラム

軍曹 リロード・エイブラム

 

市街地後方の防御陣地にて大破した戦車内にて遺体を確認。

 

軍曹 スパーク・シグナル

軍曹 ペニサス・アイシス

 

残余小隊との交戦間に射殺。無線にて遺体の確認を通報済み。

 

伍長 エッジ・ソーディアン

伍長 キュア・リザレクション

 

爆撃後の捜索にて損傷した遺体二名を確認。ノー・ホルスの部隊章を確認。生き残った兵士に検分した結果本人と確認済み。

 

大尉 ハインリッヒ・スネーク。

 

ノー・ホルス指揮官。市街地の奥、林内、遺体にて発見。周囲に負傷した残余小隊。この時点の小隊は潰滅。小隊長は行方不明。

 

伍長 オーガ・スネーク

 

ハインリッヒと行動していたと報告を受けていたが発見出来ず。東に向かった崖に滑落の形跡あり。そこから落下したと思われる。捜索隊を派遣。生け贄は生かしてはならない。見つけ次第処分せよ。

 

ノー・ホルスの装備品については良好な状態にある物は滷獲。

なお、分隊の行動については箝口令をしく。今後一切口にする事は禁止とする。これは我が軍の為である。

 

 

 

 

 

とある地方のとある神社。縁側でお茶を飲んで一服している紅白の衣装の巫女がいた。その巫女が横に目をやる。空間に隙間が空いたと思うと一人の女性が出現した。

 

「あら紫。先日は急に何処に行ったのよ?。」

 

まるで慣れた様子で話しかける。

 

「友人に呼ばれた気がしてね。迎えに行ったのよ。」

 

「その人は?。」

 

巫女が僅かに期待する様な眼差しを向ける。

 

「残念。あの娘じゃないわ。」

 

「そう。いつまで隙間に入ったままなの?。せっかくなら、中国と魔理沙を呼んで麻雀でもしない?。」

 

立ち上がる巫女。

 

「すまないわ。これから紅魔館にも寄らなきゃいけないから。今日は失礼するわ。」

 

隙間と共に消える紫。何も無い空間を見つめ、傍らに置いてた携帯ゲーム機を弄る。

 

「お茶の一杯くらい、飲んでたって良いじゃない…。」

 

 

 

紫が次に向かったのは湖に囲まれた、赤を基調とした窓の少ない館だった。

入口に近付くと、中華の武道服をきた赤髪の女性が門番に立っていた。…居眠りしたまま。

 

「おはよう。」

 

「んぁ、寝てますん…。」

 

 

どっちよ…と紫が突っ込む。

 

「あ、いや…紫さんの気配は分かりましたよ?。いつも直接隙間で中に入るから…。」

 

「そんな時もあるわよ。貴女に言うことがあるからね。」

 

「なんですか?。面白い話しですか?。」

 

門を開けながら聞く。

 

「それは人?妖怪?にもよるわ。ただ、懐かしさは感じるかもね。皆館にいる?。」

 

 

「はい。まぁ、最近咲夜さんくらいしか外出しませんから。帰りも門から御願いしますね。」

 

開かれた門をくぐり、門番が手入れしている花達を眺めながら館に入る。

館の中ではメイドである妖精達が働いていた。

 

(随分数が減ったわ。)

 

昔はもっと多くの妖精達がメイド長の指揮の元、この館で働いていた。だが今は…。考えてるうちに客間に到達。部屋に入れば既にメイド長が茶を起てていた。

 

「お久しぶりです。紫さま。」

 

銀髪のメイド長が頭を垂れる。

 

「ブラックで宜しいですね?。」

 

薫りが発つ珈琲を一口含む。久々に飲んだメイド長の珈琲はやはり旨かった。お茶請けのクッキーも摘まむ。この館の主好みにとても甘かった。

メイド長と談笑しながら館主の登場を待つ。一杯目を飲み終えた頃に館主が現れた。

 

「待たせたわね。寝るところだったから準備に手間取ってね。」

 

紫の向かいに十にも満たない容姿の少女が座る。背中には折り畳まれた蝙蝠の翼、赤い瞳。欠伸する口内からは尖った八重歯が除く。

 

 

「てか、咲夜。主人が起きたんだから着替えの手伝いなさい。おかげで寝間着のままじゃない。」

 

「すみません。レミリア様。」

 

着替えくらい自分でしなさいと思う紫。この幼い容姿の我が儘な彼女こそ紅魔館の主人。吸血鬼のレミリア・スカーレットだ。

 

「私が引き止めてお喋りしてたのよ。悪く言わないで。」

 

「…まぁ、いいわ。アタシにも珈琲。甘くしてね。」

 

「もう一杯頂戴。ブラックね。」

 

レミリアと紫に配られる珈琲。

 

「虫歯になるわよ。」

 

珈琲に更に砂糖を加えようとするレミリアに言う。

 

「五月蝿いわね。咲夜。もっと甘くしてって言ってるでしょ。」

 

「紫様がおっしゃる通り、虫歯になりますよ。痛かったですよね?。」

 

「ぐっ…で、紫。話しって?。」

 

「そうね。あぁ、咲夜。あなたも聞いてて頂戴。…大方、予想は付くでしょう?。」

 

しかめっ面のレミリアが答えた。

 

「外来人でしょ?。何となく分かるわ。」

 

「そっ。それも、私達の友人でもあり、恩人でもある娘に関係ある人。」

 

「つまりは他人じゃないの?。」

 

「私も彼女本人だと思って飛んで行ったのに、川で溺れかけていたのは違う子だったわ。」

 

「それでどうしたの?。まさか、保護したとか言わないわね?。」

 

頭を振る紫。

 

「それはしないわ。いつも通り、突然迷いこんだ体にするのに、無縁塚辺りにほっぽって来たわ。生きていれば再思の道を抜けた頃かしら。」

 

「大丈夫なんですか?。その人?。スペルカードも無しで達の悪い奴等に…。」

 

今まで黙っていた咲夜が聞いた。

 

「その結果、鬼が出るか蛇がでるか…何にせよ。今、アタシ達にはどうも出来ないわ。その外来人から接触を図って貰わないと。何も知らないうちに、アタシ達側に付いて欲しいけどね。じ自警団が黙って無いでしょうけど。」

 

喋るうちにレミリアの額に青筋がたつ。

 

「ここか、博霊神社にたどり着く前に死ぬような子なら、それまでって事よ。妖怪、妖精共々。人間達自警団にも有益にならない。」

 

「それなら、寺子屋の…。」

 

「確かに、慧音は限りなくこちら側ね。ただ、彼女の寺子屋の生徒次第。生徒の安全が少しでも脅かされたら、どちらにも付かないわ。」

 

咲夜はそれきし喋らない。

 

(接触については向こうから来るわね。)

 

「妹ちゃんとモヤシ魔女は?。」

 

「…地下牢と図書牢よ。二人にはアタシから話しとくわ。」

 

(本当は…そんな事したく無いわよね。)

 

レミリアの苦痛の表情を見逃さなかった。仕方ない。二人を守る為に。そう割りきってはいるはずだ。

 

「…言いたい事は言ったし、そろそろ帰るわ。」

 

席を立つ紫。

 

「余ったクッキー、持ち帰ってくれませんか?。片付けが楽になって助かります。」

 

「あらぁ、それじゃ遠慮なく。橙が喜ぶわ。最近では外に出るのも少なくなってね…。」

 

誓った通り、門を通る。門番も何やらソワソワしていた。何か感じたんだろう。

 

(さて、帰る前に一仕事ね。)

 

紅魔館を囲む湖の岸に降りた紫は人間の里に歩き出す。強制的に制限された能力は有限なのだから。

 

「報告は義務。こうなったら深夜に着くようにしましょう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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