スネークは目を覚ました時、彼は周囲の光景に戸惑いを覚えた。そこは名前の無い墓石が幾多もならぶ場所だったからだ。しかも、墓石は日本においてよく使用される立方形の物が多かった。最後の記憶は崖から川に落ちて流されていたはずだ。それに、あの戦場の一帯は墓地はなかった。自分は死んで死後の世界にいる。最初はそう思っていた。だが被弾した箇所、着水時におったと思われる体全体に広がる傷みがそれを払拭した。
「痛覚を感じるって事は…生きてる証、だよな?。」
四肢を動かす。動く、痺れや無感覚等は無い。被弾箇所と体全体の傷み以外は異状はなさそうだ。
彼は荷物を確認するためバックパックを逆さにして中身を出した。ライト、コンパス、地図等防水していた物は余り濡れずに済んでいた。
携帯電話を操作する。画面を表示したところで閉じた。圏外だ。他に森林用擬装網等、その他の荷物を点検した後、武器の点検をする。
(一度、撃ってみないと分からないな。)
外観、部品の欠損は無い。しかし、落ちた衝撃でスコープの取り付け状態や目に見えないズレは撃たないと確認しようがなかった。精密射撃をする上では不安が残ってしまった。
次いでハインから授かったリボルバー、ナイフを所定の位置に取り付けた。(今まで使っていたのはバックパックにしまった。)
「……………。」
目を覚ますまでいつの間にか握りしめていたバンダナをじっと見つめた。涙腺が緩むと同時にそれを額に巻く。
「香水?。」
濡れた自分の戦闘服から僅かに香水の匂いを嗅ぎとった。
疑問に思ったが、花の匂いがついたと無理矢理結論を着けた。正直、そこまで頭が回らなかった。
「復唱…東に前進…目標…博霊神社…紅魔館…了解。」
うわ言の様に呟き、傷だらけの体を引きずり歩き出す。兵士、オーガ・スネーク。幻想郷での第一歩を踏み出した。
(何も無いな。)
暫く歩いたスネークはやがて森の入口に差し掛かった。
(着替えておくか。)
市街地の擬装服から森林用の擬装服に着替え、ズボンから大半が水に溶けたフェイスペイントを顔に塗り、拳銃とナイフを構えて慎重に森に侵入する。
(焚き火と人?。)
一時間程度歩くと樹々の間から焚き火を囲む人達が見えた。
狙撃銃のスコープで確認、焚き火の周りには四人の男。全員が腰に鉈、短刀の獲物。一人が拳銃を片手に酒瓶を煽りながら会話を楽しんでいた。
「いやぁ、やっと取っ捕まえたな。」
「また報酬が増えますね。」
声が聞こえる位置まで近くに移動する。
「見ろ。今日は沢山の妖精を餌にしたらお目当ての親玉がつれたぞ。」
「だな。しかし、もう少し早く出てくれば最初の三匹は無事にすんだのにな。」
「安心しろ。死体になっても物好きには金になるからな。」
がはははと下品な笑い声が響く。
男たちの周囲を探ると猿轡を噛ませ、手足を拘束された少女が木に繋がれていた。
(あれは?。羽か?。)
スコープ越しに少女の背中にある羽の様な物に注目した。そういや、さっき妖精がどうとか…。
「反抗的な目だ。」
拳銃をもった男が少女を足蹴した。
「また仲間が死ぬぞ?。」
反対側にある数個の麻袋を指す。少女が数度頷くと男は元の場所に戻り会話を再開。種が尽きると再び少女に目を向け…。
「引き渡す前に、やっちまうか。」
親分、やっぱりロリコンと誰かが言う。
「馬鹿野郎。この前捕まえた氷の妖精よか体つきはいいだろ?。」
「あれよりはでしょ?。もしかして、あの氷妖精にも…。」
楽しく笑う男たちとは逆に、少女は表情は今から起こるであろう事に恐怖に染まる。
(ここで見捨てるのも気分が悪い。)
スネークは拳銃を膝撃ちで構え、少女の近くにいる男に二度撃った。45口径の弾丸は男の胸に被弾した。
予期しない襲撃に慌てる三人。一人が死んだ仲間の手から拳銃を取ろうする男に一発撃つと首に命中。急接近して呆然としてる男の首筋を左手のナイフで切り裂いた。
「ひ、ひぃ…!。」
残りの男がスネークをみて悲鳴を挙げた。仕事が上手くいき、揚々としていたところに、突如草地を羽織った様な奴に襲撃され瞬く間に三人が殺られた。
スネークが銃を指向すると男は逃げ出す。
(試射には調度いい……。)
スネークはスコープのレチクルを男の背中に照準した。
(設定した距離より当然近い。ここだな。)
頭に叩き込んだ狙撃銃の諸元に照準をずらす。男が速度を落とした。拳銃の有効範囲から逃げ切ったつもりだろう。
息を止め、引き金を引くと弾丸は彼の予想した場所…心臓を貫いた。
スネークは少女の拘束を解こうと近づくが…。
「むぐぅ…!。んん…!。」
少女は彼から距離を取ろうと体を引きずる。木の根元まで来てしまうと小さな体を更に小さく丸める。目はまだ怯えていた。
お構いなしに猿轡を取り、直ぐ口を塞ぎ…。
「騒ぐな…今から縄を解く。」
少女の了解を得ると足、手首の順に(途中、背中の羽が気になった。)縄を切った。
「あ、ありがとう…ございます。あ!。」
(今、飛んだよな…?。)
お礼をそこそこにスネークの脇を飛び、放置されていた麻袋を開いた。
「ぐす…うわぁぁぁ…。」
中身を見た少女が泣き出した。麻袋の中身は三匹の妖精…。どれも首を裂かれ、胸を一突きにされていた。
「ごめんなさい…ごめんなさい…。」
事切れた三匹に懺悔する少女。
「埋葬してやろう。手伝ってくれ。」
スネークは泣き続ける少女と共に三匹の妖精を埋葬するために穴を堀始める。円ピ(スコップ)が無く、手や太い枝等を使用した作業だったが、小さな体だった為、さほど時間は録られなかった。
「すみません…ありがとうございます…。」
三枚の比翼を胸に抱く少女。スネークが然るべく場所に埋葬出来るようにと土を被せる前に切り取った物だ。
「外来人の方ですか?。」
「さぁな…?。博霊神社か紅魔館って所に行きたい。」
「紅魔館なら私達の住んでる場所の近くです!。なんなら一緒に…。」
突然明るくなる少女。
「いや、大まかな位置が分かればいい。」
スネークは断る。少女の気持ちは分かる。道案内では無く、一時的にも依存出来る相手が欲しいのだろう。外来人という単語が気になったが、訳ありでありそうこの少女と行動して目立つのは避けられない。さっきの戦闘で傷口が開いてしまい、襲われた時に対処出来るか分からない。それに…あと始末もある。
「そう、ですか…。」
思惑が外れたのか、残念そうな顔をする少女。スネークに2つの目的地を教えると羽を羽ばたかせて飛び去る。
少女が去ってから、作業を開始するスネーク。男たちの死体を一ヶ所に集め、焚き火の火をそれに放つ。
(誰か分からなくすれば良しかな…。)
意外な時間を食ってしまったスネークは引き続き東を目指す。ここからだと直線距離では紅魔館の方が近いみたいだ。
(人間の里か…まだ人と関わるのは避けたいな。)
そうすると森を迂回する必要がありそうだ。遠回りになる。
(博霊神社だ…さっきの女の子に会うのもな。)
夜は遅いが、さっきの様な奴等もいないとは限らない。警戒を続けたまま神社に向かう。
(人か?。)
森なかに明かりが幾つも見える。もしかして先程の四人の捜索か?。
「外来人は見付かったか!。」
スネークは舌打ちをした。いつ知られたか知らないが間違いなく自分を探している。鉢合わせにならないよう迂回をする。暫く進むとスネークの前に一人の人間が立ちはだかった。
「誰ですか?。自警団の人…ではなさそうですね?。」
声色から女性だと分かる。よく見れば中華の武道服を纏っていた。
「争う気は無い。貴女に敵意はない。博霊神社という場所に行きたい。」
銃を下ろす。だがナイフだけはすぐ使える状態にしておき、女性を刺激しないよう万が一に備える。
「もしかして、貴方が?。」
「門番。そっちはどうだ!?。」
飛び付きそうになるスネーク。
「こっちは異状ありません…博霊神社はこの…コンパスかなにか…。」
「大丈夫だ。方角は分かる。」
「そうですか。森を抜ければ早いのですが、人間の里は迂回して下さい。出来れば送って行きたいのですが…。」
「いや、ありがとう。」
スネークは礼を言うと彼女脇を通り抜ける。
「待って下さい。」
振り向き様に彼女の手が顔に伸びる。反射的に手を掴み地面に引き倒し、拳銃を取り、額に銃口を向ける。
「…落ち着いて下さい。私も貴方に敵意はありません。」
構わずスネークの顔に手を伸ばす。
「身体がかなり疲労しています。怪我もあります。」
触れられた場所から暖かな感触…同時にスネークの身体が少し楽になる。
「気を送りました。今はこれくらいしか出来ません。…動きませんから。」
スネークは彼女から離れる。
「博霊神社に着いて、落ち着いたら紅魔館に来て下さい。」
背中を向けたスネークに彼女は言った。
「名前…聞いとけば良かったかな?。」
埃を払いながら一人愚痴た。
スネークは森の中を駆ける。不思議なことに彼女の接触してから幾らか身体が楽になっていた。人を避け、大きく迂回したために博霊神社に続く道にたどり着いた時には夜が明け、日が高くなり始めていた。
スネークは時折周囲を警戒しながら路外を進んでいた。
(この階段の上か…?。)
石畳の階段を登る。そこには目を奪われる様な美しい桜が咲き誇っていた。しばし見とれたあと、スネークは人がいないかと見回す。…誰もいない。
(賽銭箱はあれか…?。)
疲弊した身体を動かし、賽銭箱の前に立つ。バックパックを探ると偶然財布が出てきた。その中から、日本に旅行のさい換金し忘れた、濡れた一万円札を入れた。
(日本円でいいのか?。)
疑問に思いつつも来た道を引き返そうとする。誰も居なければ、次いでは紅魔館に向かうしか…。
「あら、あなたが外来人ね?。」
上空から女の声。
(単独で空を?。)
スネークが見たのは空を飛び、いま着陸しようとしていた少女だ。
「初めまして。ここは博霊神社よ。」
紅白の巫女衣装に身を包んだ少女はある程度スネークに近付き、
「素敵な賽銭箱はこちらです。」
賽銭箱の方向を指す。
(やっと着いた。ハイン、任務、完了しました…。)
「な、ちょっと!?。」
慌てる少女の声を耳に、スネークの視界は暗転、崩れる様に倒れ、意識を手放した。
ある戦場の一角。一人の少年兵が物陰に潜んで反撃の機会を窺っていた。あちこちには自分と同年代の少年兵の死体が転がっていた。彼が指揮していた仲間達だ。敵の背後を伏撃する為の作戦は上手くいっていた。しかし、敵が側面に位置した時、一人の少年兵が恐怖を抑えきれず射撃を開始、それに釣られ皆が射撃するまでは…。
作戦は失敗。部隊を展開した敵は素早くこちらを射撃してきた。たった数名の敵を射殺した代償は少年兵達の全滅であった。たまたま近くにいた仲間と撤退したがそれも死んだ。残弾も無い、支援も無い。
(来た…。)
敵兵が近付いてきた。足音を殺し、ナイフで斬りかかるが、寸での回避され、左の瞼付近に切り傷を入れただけであった。
銃床で叩き付けられ、気を失う。不思議なことに、目覚めたときは野戦病院の中、横には左目付近に治療したあとのある女性兵士がいた。
「ん…んぁ…。」
景色が切り替わった。視界には木造造りの天井。久々に嗅ぐ井草の臭い。起き上がると和風の部屋が広がる。
「治療してある…。」
身体には包帯、ガーゼが貼られていた。
(懐かしい…。)
夢を見ていた。それも10年も昔の夢、ハインと初めて出会ったときのだ。
「恐らく再思の道から歩いて来ただろうから、不用と思うけど松葉杖を置いてくわ。」
「ありがとう。」
物思いに更けてると話し声が聞こえた。耳を澄ませる。
「お薬は前日同様、日に三度。包帯もその時に替える。彼自体かなり鍛えてるのと、的確な応急処置のお陰で回復は早いと思うわ。じゃ、来週また来るから。お大事に。」
引き戸の音に次いで、人の気配が近付いて来ると襖が開かれると少女と目が合う。
「あら、気が付いたのね。」
頭に大きな紅いリボン、紅色を基調とした巫女服を着た少女が彼の横に座る。
(巫女服ってスカートだったか?。それに脇の露出はわざと?。)
「具合はどう?。」
「問題ない。」
「全身打撲、腕と足に穴を開けて、丸一日寝ていたのに良くそんな事言えるわね。」
少女はスネークに湯気の立つ椀を差し出した。
「葛根湯よ。衣服と荷物が濡れてたから風邪を拗らせるわよ。」
「これは、風邪をひいたときに飲むものじゃないか?。」
「予防よ。飲みなさい。」
スネークは少し口に葛根湯を含んだ。
「俺の荷物は?。」
「衣類は外に干してあるわ。あの訳の解らない草付きの服もね。」
「他のは?。」
「鉄砲の事?。あれは隣の部屋よ。動かない。丈夫なのは良いけど今日は安静にしてなさい。」
立ち上がろうとするスネークを制する。渋々従う。
「冷めるわよ。」
少し無言が続いた後、僅かに口を付けただけの葛根湯を指す。
毒味をした結果、混ぜ物は無いのは確認した。一気に飲み干し、椀を少女に返した。
(感じ悪…。)
「食事は運んでくるから。大人しくしなさいよ。厠は奥いって左よ。」
「ありがとう。」
早速横になるスネーク。布団に入るなんて随分懐かしく感じた。
彼のいる部屋を出た少女は椀を洗い。お茶を入れる。
「あ、名前…。」
居間で一息付いたとき、今更ながら思い出す。
「…寝てるだろうし、夜でいいわね。」
少女もうとうとし始める。看病のため寝付けずにいたのだ。
「Zzz…。」
ちゃぶ台に突っ伏して寝入ってしまう。
「ん…ふぁ…。」
夜…尿意をもようし、起き上がるスネーク。足の怪我を考慮してゆっくりと歩いてみる。銃創のわりには思ったより痛みは感じ無い。厠から戻ると少女とすれ違う。
「歩けるみたいね。夕飯置いといたから。」
部屋に戻れば味噌玉が乗っかったお粥に漬物があった。味噌を溶かしてお粥を掻き込む。生姜とニンニクが練り込まれており食が進んだ。
食事が終わるとスネークは厠のついでに濡らしてきたタオルで身体を拭いた。それが終わると包帯の交換を行う。
「すごい…綺麗に縫ってある。」
被弾箇所を確認すると傷口が綺麗に縫合されていた。糸がなければ傷口さえ解らない。処置を施した医者は余程優秀なのだろう。包帯を交換をしていてると少女が入ってきた。
「器用な物ね。」
スネークの利き手ではない方の包帯の巻き具合を確認して感心する。訓練や戦場で慣れてるだけあって簡単なものだった。
「起きてても大丈夫なら少し居間で話しでもしない?。」
今の現状を知る必要がある。スネークには断る理由が無い。少女に付いていく。彼を気遣ってか歩みはゆっくりとしたものだ。
居間には彼の荷物が置いてあった。ちゃぶ台に向かい合って座り緑茶が出される。
「貴方、名前は?。」
「オーガ・スネーク。」
「…日本人よね?。ふざけてるの?。厨二病?。こっちに来る前は何をしていたの?。」
「俺は尋問を受けてるのか?。」
少女が怒った様子で言う。しかしスネークは本名を明かす事は無かった。
「話が進まないわ…良いわ、スネーク。私は博麗霊夢。この神社の巫女をやっているわ。」
「博麗さん?。」
「霊夢で良いわ。」
「Ok霊夢。…此処は幻想郷って所なのか?。」
荷物を確認しながら一番疑問に思っていた事を質問した。
「そうよ。此処は幻想郷。幻想となったものが集う、外界から隔離された世界よ。」
「…幻想となった?。」
「そう。外界では減少した動植物、消えつつある道具が現れたりするわ。鴇は知ってるわね?。」
日本の国鳥だ。実際見たことは無いが絶滅しかかってた筈だ。
霊夢がイタズラ気に言う。
「あと妖怪に幽霊。妖精とか。」
「そりゃ凄い場所に来てしまったものだ。」
(あれは、本物の妖精だったんだ。)
「驚かないのね。」
つまらなそうな霊夢。
「色々ありすぎて頭が追い付かないだけだ。」
携帯電話を手に取る。画面をチェックするとやはり電波無い。
「耳に当てないのね。幻想郷入りした外来人は皆それをしてガッカリと落ち込むわ。」
携帯電話を鞄に放り込むスネークを見て言う。
「…予感はしていた。それに繋がったとこで…。」
途中で言葉をのんだ。もう電話を掛ける人達はこの世にいない。
「ねぇ、それも音楽が聴けたり写真が撮れたりするの?。」
「ああ、聴けるしカメラもって…それも?。」
スネークが霊夢を見る。彼女はヤベッと顔を背けた。荷物から彼の娯楽品の一つであるMP3プレーヤーが消えていた。森に入る前に防水されていた状態で荷物に入っていたのは確認済みだ。
近くの棚からプレーヤーを取り出す。
「返せ。」
「貸しててよ。全部聴いてないのよ。減るものじゃ無いから良いでしょ?。」
「勝手な意見だ…。」
それ以上追及しないのを了承としたのか、霊夢はプレーヤーを元の場所にしまう。
次に武器類を点検した。
「何かいじったか?。」
「使い方が解らないわ。」
分解して汚れや故障箇所を確認。特に細工はされていない。
「落ち着いた?。」
作業を眺めていた霊夢が言う。彼の作業が終わるのを待っていたのだ。
「何処から来たの?。」
「地名が解らない。」
それもそうね、と霊夢は地図を拡げた。
(幻想郷ってとこで間違いない。日本でこの場所は見たこと無い。)
「ここに来たとき、お墓が建ってなかった?。」
「ああ、あった。」
「本当に再思の道から歩いて来たのね…。」
霊夢が指差したとこからスネークは走破した経路を示す。
「誰にも襲われたりしなかった?。」
スネークは首を横に振る。妖精、焼却した男たち、中華人の女性と接触した事は伏せておいた。
(紅魔館は…これか。)
大まかな地名を説明されるなか、森の妖精から得た情報を地図を一致させる。湖の側にある建物。ふと、視線を感じて顔を上げると霊夢と目が合う。
「なんか顔に付いてたか?。」
「あ、いや…細かい傷が沢山あるなって…。」
取って付けた様な言い方だ。気にさわった訳でも無いので流したスネーク。少しでも地形を頭に入れようと地図を眺める。
「外界では何をやっていたの?。」
長い沈黙のあと、霊夢が言う。スネークは視線を挙げずに答える。
「傭兵だ。」
「日本でも戦争してるの?。」
「加入していたのは諸外国の内乱等だ。そもそも日本に住んで無かったから細部は知らん。ただ間違いないのは戦争、内乱は無かった。」
「家族は?。」
「覚えていない。」
「はぁ?。」
怪訝な声色だ。
「六歳以前の記憶が無いんだ。俺を拾った傭兵から聞いた話じゃ名前以外のことは…。」
突然口を閉ざしたスネーク。その時の嫌な記憶、銃を突き付けられている光景を思い出した。
「スネーク?。」
「いや…それからはずっと傭兵稼業だ。ともかく俺は運がよかったのさ。」
スネークは口を閉ざし、地図に集中した。
(年齢は私と変わり無さそうなのに…。)
霊夢は彼の過去をこれ以上詮索するのを止めた。とりあえず大まかに何者かというのは解った。
「バンダナとナイフと鉄砲は元からスネークの?。」
「俺の上官から貰ったものだ。」
「その人は!?。」
霊夢の表情が輝くが…。
「死んだよ。」
「そう…。」
明らかに落ち込んだ。
「これからどうするの?。元の世界に帰してあげる事も可能よ。」
スネークは答えなかった。
「傷も癒えてないのに酷だったわね。追々決めれば良いわ。幻想郷は全てを受け入れる。例えそれが神であろうが、悪魔であろうが。」
この時、柱時計が時刻を知らせる。鐘の音を数えると結構話し込んでいた様だ。
「今日はここまでね。」
霊夢の一言でこの場はお開きになる。
(ハインもここに来たのかな?。)
布団の中で思案に更けるスネーク。彼女は幻想郷に来てどのように過ごしたのだろう。ここは楽園と言ってたハイン。なのになぜ元の世界に帰って来たのだろうか?。
(あ、眠い…。)
丸一日寝ていても眠気は問題なくやって来た。あの戦争の疲れは一日の休養では癒しきれなかった。
(まぁ、元の世界に戻ってもろくなことしか無さそうだ。)
一方、白い寝間着に着替え、霊夢も床に付いていた。
「う…ひっく…。」
霊夢は布団の中で泣いていた。
「待ってたのに…また来るって…言ったのに…!。」
彼女はスネークの恩師の死を悼んでいた。彼の荷物にあったバンダナ、ナイフ、リボルバーは見覚えがある。その中でバンダナは霊夢と生前の先代巫女…霊夢の母と共に作って渡したものだ。
「なんで…なんであの人じゃ…。」
眠りにつくまで彼女の啜り泣く声は続いた。
翌朝…スネークは神社の敷地内で頭を洗っていた。先程、霊夢に泣き明かした様な目を指摘したら…。
「なんでもないわよ!。いいからその汚れた頭でも洗いなさい!。」
そう言われて手縫いとシャンプーを投げつけられたのだ。
泡を流すために桶に張った水を被る。その冷たさに身体が震えた。
「熱いシャワーが浴びたい…贅沢言えば風呂、温泉…。」
とは言え、現在機嫌が悪そうな霊夢に朝っぱらに風呂を使わしてくれと言うのは火に油の様な気がしてならない。
水気を取りながら居間に向かう。二人分の朝食が用意されており、昨晩と同じ場所に霊夢が座って待っていた。目元は化粧で隠してあった。
「あ…その…ご飯普通ので構わないわね?。」
「ああ…気にしなくていいぞ。無粋な事を聞いた。」
手を合わして朝食にありつく。
麦が目立つ主食。豆腐と油揚げの味噌汁…以上。どちらも嫌いではないが質素…というか貧相だ。
「ちょっと待っててくれ。」
スネークは寝床に置いていたバッグから軍用糧食《レーション》を取り出す。
(いつまでも持ってる物じゃないしな。)
それを持って居間に戻る。なにそれ?。と霊夢が食い付いた。
「レーション…保存の利く弁当だと思ってくれれば良い。食べるか?。」
「食べる!。」
かなり食い付きが良い。丸ごと渡す。
「良いの?。」
「嫌いな物があったら寄越せ。」
嫌いな物はありませーん、と包装を破り中身を食べ始める。
(主食にクラッカー、チキンの野菜煮。あとチョコレートか…。)
じゃがいもを茹でたのよりましな程度の味のはずだが、珍しさも相まってか霊夢は美味しい、美味しいと言いながら食事を進め、チョコレートまで平らげてしまう。
「ふぅ~、お肉なんて久々だったわ。」
スネークが淹れた緑茶で一息つける。
(案外食い意地がはってるな。)
細身な外見からは想像から少食だと思っていただけあって驚いていた。
「思い返せば大して美味しく無かったかも。」
「空腹は最高の調味料か。普段はなにを?。」
「…お茶菓子。因みにお茶菓子はもうありません。かれこれ一週間、麦飯と味噌汁しか食べてないわ。」
「この神社…人滅多に来ないだろ?。」
痛いとこを突かれたのか?。霊夢が渋い顔をする。
「悔しいけど御名答よ。人外が沢山来るお蔭で普通の人間がなかなか参拝に来やしない。賽銭箱は常に空っぽ。これは異変よ。スネーク。久々に神社に来たならお参りしない?。素敵な賽銭箱に案内するわよ?。」
(食い意地に守銭奴ときたか。逞しい。)
「…なにか失礼な事考えてるでしょ?。」
「気のせいだ。お賽銭なら入れたぞ。」
「本当!?。」
返答をまたず居間を飛び出し、本堂にある賽銭箱の元に向かう。暫くすると嬉々とした様子で霊夢がお札を手にしてスネークに詰め寄る。
「これ!?。一万円も入れてくれたの!?。いいのね!?。間違ったとしても返さないわよ!?。」
大分興奮している。
「間違って一万円入れると思うか?。」
そう言うと霊夢は一万円、買い物、食糧と嬉しそうに跳ねる。
「久々にまともな食事が出来るわ。早速買い出しに行くわよ!。」
「え…俺も?。」
「一人で荷物持つのは大変なの。」
「着るものが無い。街中で迷彩は目立つ。」
それに自警団も気になる。遺体も既に発見されているはずだ。ほとぼりが冷めるまで外出は控えたい…。
「それなら大丈夫。大して珍しい物じゃないし。どちらにせよ新参者は目立つわ。ほらほら、リハビリも兼ねて。」
霊夢は買い物が楽しみでしょうがない様だ。
「分かったよ。」
準備するため一旦自分の寝ていた部屋に向かう。
「アイロンが掛かってる。」
スネークの迷彩服はアイロンがあてられており、袖とズボンには見事な線が入ってる。
感謝しつつ、バッグから自前のナイフ、形見のナイフを腰ベルトと左胸に装着した。次いでガバメントとリボルバーをてにするが…。
(銃は不味いか…。)
だが着けていないと落ち着かない。
結局、使用しているホルスターと使い慣れてるせいもあってガバメントを選んだ。二挺持ちは後で考えよう。バンダナはハインと同じように額に巻いた。
玄関には既に準備が整っていた霊夢が待っていた。
「それは目立つわよ。」
額のバンダナを指して言う。形見だから着けていたいと言うが、それだけは止めろと霊夢が聞かない。スネークは妥協案としてアシンメトリーの女性の部隊章の上に結びつけた。
「行くわよ~。」
「待てよ。」
当たり前の様に空を飛ぼうとする霊夢に言う。
「俺は翔べない。」
「なんでよ?。」
「流石に人が単独で飛行するってのは常識は無い。」
仕方なくスネークの隣をお祓い棒(大幣)に腰掛ける様な格好で飛行する。
「スネークは空を飛びたいと思う?。」
「高い所は苦手だ。高所恐怖症までとはいかないがな。」
高々度での空挺降下を経験するまでは航空機に乗る度に震え、ハインや近くの仲間の裾を握り締めていたものだ。それからは特に会話もなく黙々と獣道を下る。
獣道もある程度進むと人里が見えてくる。
(賑やかなものだな。)
古風な家屋や商店が並ぶ。一昔まえの日本の風景を想像した。ただ…。
(軍服が多いな。)
人里ですれ違う人達の中に軍服を着用している者が多数あった。それどころか、小銃を装備、あるいは腰に刀を提げている者もいた。
「大丈夫って言ったでしょ。」
辺りをみていると地上に降りた霊夢が言う。
「どこ行こうか?。」
「任せるよ。てか案内してくれるんじゃないのか?。」
そうだったわねと先に歩き始める。スネークはその後ろを着いていく。
二人は商店街を物色する。行く行く人は霊夢に気さくに挨拶する。同時にスネークに目を向ける。会釈程度は返していたが中には嫌悪感を含んだ目をする者もいたので最後の方は無視を決め込んだ。軍服を来た者も同様だっだ。霊夢に敬礼をし、後ろを歩くスネークにも敬礼する者、敬礼してから彼の階級章をみて憮然な態度をとる者もいた。
「こんなものかしらね。あとは…。」
5㎏程の米俵を中心に食糧を買い込み、本日の買い物は終了、背負子に載せた米俵を背負うスネークは何か買うものがあったか聞いた。
「知り合いの店よ。休憩がてらスネークの服を調達するわ。軍服しか無いんでしょ?。」
「ああ、すまないな。」
引続き霊夢のあとを着いていく。
「こんにちは。」
とある店に入る。上にある看板をみると《霧雨店》と書いてある。
「んぁ~い。」
間延びした返事がすると隅から金髪に黒白の服を着た少女が起き上がり、欠伸をしながら背伸びをする。恐らく昼寝でもしていたのだろう。
「お、霊夢~。宴会の誘いか?。」
「違うわよ。てか、魔理沙帰ってきてたのね。」
「うん。最近魔法の森で自警団員の焼死体が見つかってさ。変に疑われるのも困るから実家に帰ってきたんだ。親父とは相変わらずだけどな…宴会じゃ無きゃ買い物か?。」
「霧之助さんの服ってこっちに無いかしら?。」
なるほど。只で済まそうってわけか。
「何に使うんだ?。」
「彼が使うのよ。」
霊夢がスネークを指す。魔理沙と呼ばれた少女はそこで初めてスネークに視線を向ける。それには怪訝な物も含まれていた。
「なんだよ霊夢。あんなに嫌がってたのに自警団入りかよ。」
同様に霊夢にもその視線が向く。
「誤解しないで。彼は最近幻想入りした外来人。あっちでは傭兵をやっていたみたいよ。軍服しかないからこうして安く済ませる為に霧之助さんの服を借りに来たの。」
「ああ…だから軍服なのか。落ち着いて見れば装備と装着位置が違うな。」
魔理沙は改めてスネークに向き直り。
「悪かったな。改めて、私は霧雨魔理沙。魔理沙って呼んでくれ。宜しくだぜ。」
男勝りな口調の魔理沙はそう言って右手を差し出す。
「スネークだ。」
霊夢にしたように彼はここでも本名を明かさなかった。
「スネーク?。見た目日本人なのに変わってるな。」
深く追及はしなかった。
「誤解が解けたならお茶の一杯でも貰えない?。ついでにお昼御飯も。」
ちゃっかりと昼食の催促もする霊夢。
「あいよ。奥に上がってくれ。昼飯は奢るが手伝ってくれよな。ああ、スネークはいいぜ。さっきの侘びって訳じゃないが、居間にいるか商品でも眺めてくれよ。」
霊夢と魔理沙は台所。残されたスネークは暇潰しに店内をみて回った。大手の道具店だけあって品揃えも良い。
「いらっしゃい。初めて見る顔だね。」
奥から中年の男が来てスネークに声を掛け、カウンターを一見した。
「店番が居なかったかね?。」
霊夢と一緒に食事の準備に行ったと伝える。
そうか…と呟くとカウンターの椅子に腰を掛ける。スネークも椅子を勧められたが座らず、気になっていた携帯性の優れた砥石を手に取る。そこでふと外に目を向けると軍服姿の人が行き来していた。刀を差した人には必ず1人以上の付き人がいた。
(そんなに地位を見せ付けたいものかな…。)
内心でアホ臭いと呟く。
「伍長殿。君がもしや噂の外来人かね?。」
「分かりますか?。」
「自警隊の人にはご贔屓してもらってるからね。顔は大抵覚えているよ。それに君は自警隊の人とは何か雰囲気が違うからね。それ、気に入ったかな?。」
砥石を指す。
「幾らだ?。」
「まけとくよ。今後ともご贔屓に。それと、娘と仲良くやってくれ。」
(魔理沙のことかな?。)
「おーいスネーク。悪いが手伝ってくれ~。」
呼ばれたスネークは魔理沙の父?に会釈し、居間に上がる。
「じゃあ、スネークの話しじゃ、あの人は死んだのか?。」
「…そうなるわね。…もぐ。」
「ああ!。唐揚げがまた減ってる!。無くなるから止めろよ!。」
「…火が通ってるか味見…。」
「それでも四個目!。」
食べ過ぎと言う魔理沙に霊夢も反論した。
「…使ったら片付けられないの?。」
「…食器洗うときで…。」
「物を出しすぎ!。」
魔理沙が使った調理具や材料を指す。使ったら使い…もとい散乱していた。
「整理整頓が苦手なんだぜ!。」
「開き直るな!。わぁ、お味噌汁がぁ!。」
吹き零れていた。
「…並べましょう。鍋しきを置くついでにスネークを呼んで。」
鍋しきを手にスネークを呼ぶ。誰かと話していた。
(親父か…。)
父親に会釈したスネークは居間に上がってきた。。
(あれ?。こいつの顔付きどこかで?。)
「魔理沙、顔に何か着いてるか?。」
声を掛けられるまでジッとスネークの顔を見つめていた事に気付いていなかった。
「あ、えぇと…そうだ。運ぶのと並べるのを手伝ってくれ。早くしないと霊夢に全部摘まみ食いされるんだぜ。」
「摘まみ食いの域を越えてるな。」
三人揃ってちゃぶ台を囲む。
「へぇ~再思の道から歩いていて…よく妖怪や獣に襲われずにすんだな。」
霊夢が三杯目の味噌汁を啜ってるころ、スネークと魔理沙は洗い物をしていた。
「そんなに危険なのか?。」
皿を拭きながらスネークが訊ねる。会った事が無いため実感が湧かないのだ。
「ああ。中には人なんて平気で食う奴もいるしな。」
「へぇ…幻想郷じゃ軍人は嫌われてるのか?。」
「さっきのは悪かったよ…。」
「違う。他の店であったからだ。酷いとこだど舌打ちまでしたぞ。」
「それか…たぶん自警隊だとおもったんだぜ。私もそう思ったし。」
「外を歩いてる奴等か?。」
「うん…評判が良い連中じゃないんだ。良し、霊夢のは自分で片付けさせて、一服しようぜ。紅茶でいいか?。」
居間で一服入れる。
「淹れ方上手いな。」
自ら紅茶を淹れるスネーク。その手際をみて魔理沙が感心していた。
「良い匂いね。そして美味しいわ。」
普段、緑茶を飲んでる霊夢もこれはお気に入りの部類ようだ。
(貴女の紅茶はどこでも人気だな。)
三分の一ほど飲んだ紅茶に砂糖を少量足す。ハインが好んだ紅茶の楽しみかただった。
「ジャムもあればなぁ…自宅なら買い置きがあるんだけど…。」
「パンに付ける物じゃないの?。」
(弾詰まりを意味するからって皆好んで無かったな。)
「スネーク、スネーク。」
返事が遅れたスネーク。
「私達さ…小さい頃に会った事ないか?。」
魔理沙がスネークの顔をみて言う。幻想郷に初めて来たスネークは過去に魔理沙を友達にもった事はない。だとしたら…。
「安いナンパね魔理沙。気を付けなさいスネーク。たぶん鉄炮か私物を狙ってるわよ。」
「そんなんじゃねぇよ。それはまた次の機会に…。」
霊夢の言う通り、これは気を付けた方が良いみたいだ。そこからはなんて事のないお喋りをして霊夢とスネークは帰路についた。
「スネークは元の世界に帰るのか?。」
夜、神社の縁側で霧雨道具店で手にいれた砥石を使いナイフを研いでいたスネークは帰り際に魔理沙とした会話を思い出していた。
元の世界に未練は無い。生活の目処が経つまでは博麗神社、霊夢の所でやっかいになろうと思っている事を答えた。
「んじゃ暫く霊夢のとこで世話になるんだな。あいつの好みの酒はスッキリとした辛口の冷酒。食べ物の好き嫌いは無し。小さい時から他人や妖怪にも興味が無いからさ、友達が非常に少ない。あとここからは一番大事だ…。」
研ぎ終えたナイフを月明かりに照らす。研ぎ澄まされた刀身はスネークの顔を写し出していた。あとは刀身の艶を消し、光りが反射しないよう加工すれば手入れ終了だ。そこに風呂からあがり、寝間着姿の霊夢が通りかかる。
「起きてたのね。居間の明りが消えてたから寝たものと思っていたわ。」
霊夢はスネークからいくらか距離を空けた位置に腰を下ろした。
「酒、飲まないのか?。」
ナイフを鞘にしまいながらスネークが聞いた。
「怪我人を横目に美味しく飲めないわ。」
「気にしなくてもいい。俺も飲めば良い話だ。日本酒の辛口は俺も好きだからな。」
「馬鹿言ってんじゃないわよ。魔理沙から聞いたでしょ?。」
さぁな、とわざとらしく誤魔化す。
「具合はどうなの?。」
「痛み止が効いてるお陰か、時々鈍い痛みが走る位だ。案外、あれくらい軽傷の部類なんだぜ?。」
「外から来た兵隊って皆おかしいのね。」
何と言われようが、実際にそうなのだから仕方ない。
「まっ、診てくれた医者が相当優秀なんだろうけど。」
「適切な応急処置がされていたみたいよ。確かに永遠亭の先生の腕とお薬は優秀だけどね。」
たわいない話しを続ける。
「なぁ霊夢。前に元の世界に帰るかどうかって聞いたよな?。」
霊夢はスネークの方を見る。
「幻想郷に住もうと思う。職や住居等の生活の目処がたつまでの間、ここでやっかいになっても良いか?。」
「別に良いわよ。ともかく、怪我を早く治しなさい。」
一度大きな欠伸をして霊夢は寝るために部屋に向かう。僅かに微笑んだ様に見えたのは気のせいだろうか?。
「数少ない興味をもった人間…お前の師匠が元の世界に帰ってからは少し寂しがりやの気が出てきたみたいなんだ。だからやっかいになってる間は家族として接してやってくれ。」
「悪いが俺はハインじゃない。」
そう言うと魔理沙はばつの悪い表情をしていた。そんなつもりで言ったのでは無いみたいだ。だが、彼女達がハインの弟子、またはその関係者としてしか認識していない。霊夢の他人に興味が無いというのも肯定出来る。スネーク自身も似たような考えだからだ。
彼も部屋に戻り、眠りについた。
博麗神社に続く獣道。擬装服に身を包み周囲に溶け込んだスネークは手製のハンティングボウを構えていた。目線の先には野生の雉。神社に居候して一週間が経ち、リハビリがてら裏山に狩猟を行っていたのだ。
ゆっくり…ゆっくりとスネークは弓の弦を引いた。一杯に引き絞った頃、雉がけたたましく鳴いた。同時に矢を放つと矢は雉の急所を貫く。近くに隠れていたもう一羽が逃れようと飛び立とうとする。素早く矢をつがえ雉に狙いを定めて矢を放つ。
スネークは狩猟した二羽の雉を小川で血抜きや羽根むしり、解体、羽毛の選別等の処理を行い、危険部位は地面に埋めて処分した。調子良く成果を挙げる事が出来たのと、今日は医者がスネークの診察に来るので早々と狩猟を切り上げて神社に戻る。
「あ、帰ってきた。」
神社に着くと縁側に霊夢と赤と青に分離された奇妙な服を着た銀髪の女性がお茶を飲んでいた。
「どうも。八意泳琳です。貴方にとっては初めましてね。」
一週間前に聞いた声色だ。
「お陰さまで。」
簡単に挨拶をすませると泳琳は早速スネークの診察を始める。
「打撲の症状はないわね。手と足の銃貫創は…塞がってる…ちょっと押すわね。」
泳琳は受傷した部位を圧迫してスネークの反応を見る。
「痛みはありません。」
「凄い回復力ね。ふむ…。」
カルテを書き込む。その間にシャツを着る。
(若干16歳…若いわりに良く鍛えてある。流石は傭兵ってとこね。良い体つきね。)
作業をしながらスネークの体を観察する。無駄が無く良くしまっている。幻想郷にいる自警隊も見習って欲しいものだ。
(これは胸に閉まっておくべきね。)
「雉射ちをするくらいだから異状はないわね。」
スネークは仕留めた雉を泳琳に渡した。すると霊夢が何か雉を包む袋を持ってくると奥に入った。
スネークと二人になった泳琳。横に座る彼の横顔を眺め、段々と下に視線を移した。呆けてるような目。しかし、泳琳にはそれが全体を見渡すような、その若さでは不釣り合いな隙の無い目付に思えた。迷彩服にコンバットブーツ。雰囲気からはかつて幻想入りし、外界に帰っていったある少女に似ていた。
「何か着いてますか?。」
前を向いたままスネークは言った。感情を含まない、冷たい声だ。
「いいえ。階級章を確認しただけよ。伍長殿。…その弓は手作りかしら?。」
泳琳は立て掛けてあるハンティングボウに興味を示した。
「弓術に心得があってね。ちょっと良いかしら?。」
ハンティングボウを受け取り、目標物を探す。古い畳みに人型を描いた物があった。構えて、矢を放つ。急所を見事に貫く。
「半弓にしては引きが強いわね。どう?。」
弓を渡されたスネークは弓を構えて放つ。矢は泳琳が放った矢にかする様に命中した。
「良い腕をしてるわね。」
スネークの後ろから拍手を贈る。大した感動は無かった。ゲリラ時代から銃のほかにハンターボウを使用して戦争や狩りを行っていたのだ。弓の腕前ならハインにも勝てる自信があった。
彼に興味を持ったのか、霊夢が来るまでの間に色々話をした。
「ハイン?。ああ、あの娘ね。霊夢は何も言わなかった?。」
ここに住んでいた事、霊夢の母である先代巫女の娘…霊夢の姉等家同様に暮らしていた事位だ。
何か考える素振りをする泳琳。
「大変ね…もし辛くなったら永遠亭に来なさい。」
苦笑した泳琳。ハインと重ね合わせられているスネークを哀れんでいた。そこに雉を包んだ霊夢が来た。
「ゆっくり出来ないの?。」
「最近、魔法の森での焼死体の検死を報告しなきゃいけないのよ。」
一瞬スネークを見るがすぐ霊夢に向き直る。用事があるなら仕方ないと霊夢は引き止める事はしなかった。
「雉、有り難く頂くわ。」
「先生。」
「泳琳で良いわよ。鬼蛇君。」
スネークは自分の目前に近付く。
「泳琳。俺はハインは誰よりも尊敬している。だけど…。」
目の前にいた泳琳がやっと聞き取れる声量だ。
「なんて言ったのよ?。」
霊夢が飛び立つ泳琳を見送りながら会話の内容を聞いた。
「綺麗な人だったからさ。今夜付き合わないか聞いた。…袖にされたがな。」
「変態。大年増。」
泳琳が永遠を生きる蓬莱人。そして御歳億歳なのをそこで知った。
(自分は自分か…。)
人里の近くに降りた泳琳はその足で里の中を歩いた。朝も良い時間なので人々の活気で賑わっていた。
里を進んで行くと高い柵に囲まれ、軍服をきた二人の門番が立つ施設が見えた。
「止まれ。誰何?。」
門番の一人、上等兵が銃を突き付けて聞いた。
ここは軍服を着た、もとい自警隊の兵達などが勤務する基地だ。
「八意泳琳です。先日の検死の結果を報告に参りました。」
「身分証は?。」
「忘れたわ。話しは司令官にいってるわ。通りますね。」
「動くな!!。」
門番二人に銃を向けられた。
「そんな物で…私を殺せると思って?。」
「知ってるぞ?。お前らは能力を制限されて本来の力を発揮できない。」
勝ち誇った様な笑みを見せる。もう一人の門番も同じだ。
「そう。“呪い”のせいで強さは人間とほぼ同様。けどね?。」
泳琳はニヤリと笑う。凍り付くようなそれに二人の上等兵はワナワナと突如震えだした。
「格の違いの解らない…くそ生意気な上等兵をばらす事くらい…わけないのよ?。」
一歩前に進む。上等兵達は一歩下がる。
「どきなさい。この兵卒ども…長生き…したいでしょ?。暴れるわよ?。」
震えは一層強くなり、ろくに銃を構えてられなかった。
泳琳は歩みを進める。上等兵は立ち塞がる事はしなかった…出来なかった。
広い施設。敷地内は軍服を着た人間が軍事教練、別のところでは妖怪達が外界から幻想入り、または取り寄せたであろう車両の整備を行っていた。
泳琳は数匹の妖怪と妖精達とすれ違う。名もない、種族で一括りにされる小物達だ。
「…………。」
彼らは疲れた表情で泳琳を見る。それだけだった。足を止める事なく重たい部品と整備道具を担いで去っていく。それをじっと見ていると少尉の階級を付けた青年が泳琳に声を掛ける。先程の門番から連絡を受け、迎えに来たみたいだ。
「余計なことはしないで下さい。」
「…早く案内してくれない?。少しでも居たくないの。」
少尉のあとに続いて施設内のある部屋の前に案内される。荷物を少尉に預け、ノックをした。
「衛生中尉、八意泳琳。魔法の森にて発見された三名の焼死体の検死結果についてご報告に参りました。」
「入れ。」
泳琳は部屋に入る。中では椅子に深く腰を掛けた大将の階級章を付けた肥満体の男と二人の副官だ。一人は里の人間。もう一人は緑色の髪をもつ知り合いの少女だ。
泳琳は敬礼を捧げると近付いてきた副官に報告書を提出した。
「…軍医。私も馬鹿では無いのだよ。」
パラパラと報告書を読む大将はそれを乱雑に机の上に放った。
「解ったのは、この日帰還してくる三人だったのは確かになっただけであって、これでは以前の報告書と変わらんではないか。」
直立不動のまま泳琳は答えた。
「はい将軍。これで自警隊のご家族に納めることが出来ます。」
「そんなのはどうでも良いのだよ!。」
指先で何度も報告書を叩く。
「何者がやったか、確証を掴める結果はなかったのか!。」
「はい将軍。しかし、遺体の常態が余りにも酷く以前、将軍が仰られた確証は…。」
「ああ、もう良い…!。月の賢者もこの程度か。」
止めに机を一撃叩く。
「もう一度あの蓬莱人の取り調べを行え!。」
「…将軍。よろしいですか?。」
発言の許可を求める泳琳。中尉の階級を与えられている彼女は上官の許可無しに発言することが出来ないのだ。
「なんだ?。中尉?。」
「はい将軍。彼女は当日、人里の焼鳥屋に出勤していました。店の主人、客から証言も得て…。」
「なら焚き火を囲んでる時に三人とも火が燃え移って死んだともいうのか!。」
怒鳴りながらさらに机を叩き、椅子から立ち上がる。
「もういい。帰っていいぞ。おい、中尉がお帰りだ。」
外に控えていた少尉が扉を開けた。
「はっ、失礼します。」
敬礼をして、大将に背を向けた。
「ああ、ちょっと待て中尉。」
扉を閉じかけた時に呼び止められた。
「考えてくれたかな?。我が自警隊に加わるというのは?。」
「失礼します。…見送りはいらないわ。」
それには答えることなく、少尉から預けた荷物を取った泳琳はその場を去った。
「将軍。紫様から外来人の報告書は御覧になられましたか?。」
緑色の髪の少女が進言した。
「ん?、ああ。既に目を通してある。話からすると日本人の15、6のガキだそうだ。」
夜遅くに報告に来られたので良く覚えたていた。今頃、外来人の住む区画に住み着き、どこぞの下っぱ作業でも割り当てられてるかと思っていた。
「先日、人里で博麗の巫女と行動を供にし、そのまま神社に帰ったそうです。」
「外来人を居候させているのか?。無気力巫女が珍しい事だな。それが?。」
「里で見掛けた自警隊員の話では軍服を着ていたそうです。それも妙に様になっていたと。」
「マニアやオタクの類いではないのか?。日本人であれば尚更だ。」
最も最近に幻想入りした日本人の話では戦争とはほぼ無縁のはずだ。
「それでも巫女の軍、自警隊嫌いは余程のものです。なのにそれに類似する外来人を居候させるのはなにか理由があります。これまで通り一度調べるべきです。」
ガキにそこまで…と考えていたが次の副官の言葉でそれを撤回する。
「10年前の記録に同じ位の歳の傭兵がいたのをお忘れですか?。外来人なのに幻想縁記に記載された…。」
「…そうだな。近々調べるとしよう。」
大将は過去を思い出す。副官が言う傭兵には酷い辛酸を舐めさせられているのだ。
(あの小娘がいなければ…あの事が無ければもっと早く…この椅子に座れたのだ!。)
大佐の視線は壁にナイフで貼り付けられた写真を睨む。そこには伏せて狙撃銃を構えるバンダナを額に巻いた少女が写し出されていた。
入ってきた門から出ようとした泳琳は途中で方向を変えた。あの上等兵達と顔を合わせたく無いのだ。
「おや、これは軍医殿。回診ですか?。」
別の門で泳琳は一等軍曹に声を掛けられる。歳はは30位、見た目は若く見えた。
「お疲れ様。いいえ、この前の検死結果の報告よ。」
彼女は気前良く挨拶をする。
「行方不明になった三人が確定しただけね。」
「あいつらですか?。こりゃ良い。愉快な話しですな。」
門の柱の蔭からなんとも不謹慎な内容と共に二十代後半の青年が顔を覗かせる。
「三等軍曹。」
軍曹が睨みを効かせるが、兵長は門は異常有りませんと誤魔化す様に言うとさっと身を隠した。
スミマセン…と謝る軍曹。とは言っても内心ではそう怒っていないようだ。
「フヒヒw w。幼女でござるww。軽迫とRPGの手入れは終わったでござるな?。車両の整備はすぐ終わるから拙者がやるおww。だからみんなと一緒に小屋に行くお。早くしないとモフモフするお。」
変な口調が聞こえた方をみると小太りの上等兵の男とここに来たときにすれ違った妖怪と妖精達。男は車両のボルトを締めながら小屋を指してやる。
戸惑う妖怪、妖精達。そこに小屋から幸の薄そうな上等兵の男が来た。
「お菓子が余って困ってる。片付けが面倒だ。おめぇらで片付けしてくれ。あとは終日ベッド掃除だ。17時になったら点検する。」
復唱しろ!。と妖怪、妖精達をけしかける。戸惑いながら復唱、小屋に駆け込む。小太りの男が笑い、幸の薄そうな男はめんどくさいと言いたげに髪を掻いた。ここで二人の上等兵は初めて泳琳に気付く。軽く会釈し作業に戻った。
「ベッドの掃除に終日まで掛かるかしら?。それに、車の整備は他にもあって?。」
「ふむ。あいつらはそれが妥当と判断したんでしょう。私から言うことはありません。」
そう、と泳琳は関心した様に溜め息を吐いた。
(鬼蛇君にこの人達を紹介したら、もしかしたら…。)
「中尉殿?。」
「なんでも、これで失礼します。」
去る泳琳に一等軍曹と三等軍曹は敬礼を送った。
自宅兼診療所。基地から戻った泳琳は人払いをして研究室に籠っていた。読んでいた資料を元の場所に戻し二重、三重と封印を掛けて背もたれつきの椅子に体を預け、すっかり冷めてしまった緑茶に手を伸ばし一気に煽った。そんな時、泳琳の後方で空間が裂けた。
「能力は…制限されて限りがあるんじゃないの?。紫?。」
振り向きもせず、空間の隙間から来た来客に言う。
「帰るだけの余力はあるわ。ダルくなったら泊めて貰えるし。」
「私が了解するって前提なのね。緑茶?。それとも少し強いのが良いかしら?。」
「強いのを頂戴。良いお摘まみがあるの。」
よいしょ、っと隙間から這い出ると手頃な場所に座る紫。泳琳は棚から水晶椀を2つと酒瓶を取り出した。互いに酌を交わし…。
「何に乾杯?。」
「素敵な幻想郷に。」
「"元"…素敵な幻想郷に。」
一瞬、紫の顔が曇る。ともあれ水晶椀を打ち鳴らす。チン、と小気味良い音が研究室に響く。
二人とも半分ほど飲み干すと紫が持ってきた摘まみ、肉の腸詰めを乾燥させた物を口にする。噛むとパリッと音が弾ける。咀嚼すると脂身が口のなかで溶け、粗びきされた胡椒が良いアクセントとなる。十分に味わい呑み込む。酒を飲むを一瞬躊躇う。口に残る旨味を流し込むのが惜しく感じてしまったのだ。もう少し味わいたいのだが泳琳には少々味が濃かった為椀をに口に付ける。
「日が高いうちに飲む酒は格別ね。」
紫が酒瓶を差し出し酌をする。泳琳は紫に返杯する。
世間話や他愛ない会話で酒を飲む二人。
「どうするの?。」
四本ほど酒瓶を空けたころ、泳琳は本題に入る。
「何のことかしら~?。」
胡散臭い笑みを浮かべる紫。
「惚けないで。傭兵の外来人のことよ。紫でしょ、連れてきたのは。」
「ああ、その子ね。」
水晶椀に注ぐのも面倒になったか、紫は酒瓶から直接飲んでいた。
「どうして連れて来たの?。」
「過去に友人に渡した笛の音に従ったまでよ。川で溺れて沈む手を掴んですぐに幻想郷に飛んだからね。良く見てなかったのよ。友人だと思ってたら全く違う子。期待外れね。だから規定通り、それ以上関わらず無縁塚に棄てて来たわ。でも、無事霊夢のとこにたどり着いたのね。」
「彼女に何を期待していたのかしら?。人側が起こした幻想郷に対する"異変”を打開出来るとも?。」
泳琳は酒瓶を煽った。
「三年前…実質、幻想郷で最強である霊夢が負けてるのよ?。普通の人間である彼女がどうにか出来ると?。」
「彼女がいたからこそ、霊夢の敗北が三年前に成ったのよ。知ってるかしら?。あの娘の率いた決して強力とは言えない部隊があげた成果。あの娘が放った銃弾が勝敗を決したのを。」
「けれど、それが彼女を外界に帰る結果になった。…ねぇ、紫。貴女は彼に何を望むの?。」
この問に紫はいつも通り胡散臭い笑みを浮かべながら…。
「言ったでしょ?。期待外れだと。」
言い終わると中身を干すかのように酒瓶を煽る。
「それにしては何か嬉しそうよね?。」
摘まみを口に放り込み、咀嚼。
「私が?。まさかあんな小僧一人…でも、藍や橙に言ったら大喜び。妹紅と美鈴にはそれとなく言ったわ。ああ、花妖怪に知れたら大変ね…。」
「うちの弟子もね。」
咀嚼していた物を呑み込む。
「境界が効いてるせいか、彼を見ても霊夢は相変わらずね。」
「境界が効いてるのは彼も同様よ。」
「でも、やっぱ紫が一番喜んでいる様に思うわ。だって彼は…。」
ゴトリ、と紫の手から酒瓶が床に転がった。見れば紫は背もたれに体を預け眠りに入っていた。
「今年も冬眠が十分で無かったのね。」
普段これしきの量で酔い潰れるはずないのだ。それとも、今日の酒は余程気分が良かったのか?。10年程前も似たような事があったがあの時の紫は笑みを浮かべる事はなかった。
椅子の中で、何かを抱き締める様にもがく彼女に毛布を被せる。
「今まで違った道を示してあげるのもいいかもね。」
泳琳は残った酒を飲み干すと瓶を床に転がし、自分も椅子に体を預け眠る体勢に入った。
(私の営業はもうおしまい。)
よっぽどの事がなければ弟子のみで対処出来る。そう思い込み、泳琳も眠りに落ちた。
紫はスネークを幻想郷に連れてきた時の夢を見ていた。無縁塚で気を失っているスネークを服が濡れるのを躊躇わず、力強く愛しいそうに胸の中に抱き締めていた。