東方戦記録   作:戦車狙撃兵

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人里

朝霧が立ち込める神社に続く獣道。一本の大木の根元、そこでスネークは目を覚ます。怪我の完治を泳琳に言い渡されてからスネークは狩場の拠点に中心を置き、動物相手に索敵訓練を行っていた。今は訓練を終えてこうやって休憩と仮眠をしていたのだ。この数日で獲物の休憩地点や兎の巣穴を発見。成果は上々。身体の後遺症も無く、あの時の戦争の疲れも今までの休養で取り去ることも出来た。むしろ外界にいたときより調子が良い。

 

(今日もいるな。)

 

上空に目を向けると何者かが空を飛び回っている。双眼鏡を最高倍率にして捉えた姿は黒い羽を生やした人だった。最初はその姿を疑ったが外界の常識は通用しないのを再度自覚(霊夢の様に羽なぞ無くても飛行してる者もいる。)したいまは空飛ぶ人位では驚く事は無かった。

 

(斥候か何か?。)

 

最近になって博麗神社の上空を飛び回っていた。何かを監視しているようだ。

スネークは双眼鏡から目を外す。監視されていたとしても良い気分ではないが危害を加えられない限り無視することにした。奴らの視力がどれ程か知れないが例え自分が監視対象だとしても完璧に偽装を施したスネークを見付けるのは特殊訓練を受けた兵士でも難しい。ましてやあんな上空からでは尚更だ。逆に奴らの規模、監視態勢を掌握されているのを知らないのでは?。

 

(さて…そろそろ来るかな。)

 

前の茂みがガサガサと動く。その中から一匹の黒猫が這い出て来てスネークの側に歩み寄ってきた。胡座をかくスネークの足の上に乗り、頭を腹部に擦り合わせてミャーと機嫌良さげに鳴く。ポーチから紙にくるんだ昨晩の残り物の小魚の甘露煮を取り出す。匂いで気付いた猫は寄越せとばかりに鳴いた。元よりその為に用意した物だ。猫の口元まで持ってくとそれにかぶり付いた。

 

「美味いか?。」

 

そうだと言わんばかりに鳴くと食事に没頭する。こうしてみると普通の猫だ。違うのは身体に巻いた包帯とユラユラと揺れる二本の尻尾だ。

巻いてる包帯は索敵訓練の初日に怪我をして弱っていた猫に手当てを施した際の物だ。恐らく二本の尻尾という奇形で仲間や敵にやられたのだろう。異端の扱いは人間も動物も変わんない。妖怪の猫又かと思ったがそれなら、そこらの動物に負ける事は無いはずだ。食べ終えた頃合いに水筒の水を手に貯めて差し出す。猫はそれで喉を潤す。水分補給が終わり、スネークは包帯を外し、傷の具合を確認…よし、塞がってる。回復が速い。人間用の薬も十分効いたようだ。念のため再度包帯を巻き直す。されるがままの猫は治療が終わるとスネークに甘えだした。その背や顎を撫でたり、掻いてやったりすると喉をゴロゴロと鳴らし、手を舐めたり、器用にスネークの腕に二本の尻尾を巻き付けた。

 

「お前、この山が拠点じゃないだろ?。」

 

ミャーと黒猫。

 

「もしかして飼い猫か?。んで言葉が分かるのか?。」

 

またミャーと鳴く。どういった意味かは知らないが理解出来るみたいだ。

猫の脇を持ち、目線を合わせる。

 

「だったら今日にでも人里に送ってやる。」

 

途端に不満げな目付きをした。

 

「そんな目するな。飼い主…家族は大事にしろ。俺にはそんなの無いからな…。それに居候に無職だ。お前を連れてったら霊夢に何されるか分からん。」

 

以前猫を見た時に猫ラーメンとか三味線とか言ってた。三味線は分かるが外界ではブラックジョークに成ってる物もここでは有名な様だ。

猫がもがいた。

 

「ああ、雌だったか。悪かった。」

 

降ろすと同時に立ち上がる。そろそろ戻って朝食の準備をしないといけない。

 

「着いてきても良いが、近くに隠れてろよ。」

 

歩き出すと猫も後ろを着いてくる。

神社に戻ったスネークは素早く着替えると朝食を作り始める。日々霊夢と交代でやっていたが最近では居候の身分であるスネークが専ら食事作りを担当していた。…別に嫌いで無いので問題はなかった。

昨日寝る前に磨いだ麦入りの白米を火に掛ける。遠征先で白米が手に入った時は必ず飯盒炊飯を行っていた。失敗は無いだろう。主食が炊き上がる間に味噌汁を作る。煮干しで出汁を採った湯に短冊形に切った油揚げを入れる。味噌を入れて一煮立ちしたところで火から離す。さらに一匙の味噌を加えて味噌汁が完成。スネークの好みで具は油揚げだけだ。丁度主食も良い頃だ。多少焦げの匂いが漂ったところで火から離して蒸らして完成だ。

卓の上に朝食を並べる。おかずはスネークが仕留めた雉と人参の煮物。小魚の甘露煮。どちらも昨晩の残り物を温め直したやつだ。小鉢に青菜のお浸しを並べて準備完了だ。

 

 

「ふぁ~…おはよう。うん、良い匂い。」

 

いつも並べ終わる頃に霊夢は起きてくる。

 

「ああ、おはよう。」

 

ご飯をよそって渡す。さて、今日は来るかな?。

 

「よぉ~スネーク。朝飯をご馳走になるぜ。」

 

挨拶もそこそこ魔理沙が卓に着く。

 

「まず家主にことわりをいれなさい。」

 

「んなこと言ったって…食糧の調達から調理までスネークがしたんだろ?。」

 

魔理沙の言った殆どがスネークが買い揃えた物だ。買い出しに行く前は食糧は勿論、味噌以外の調味料すらろくに無かったのだ。

 

「ろはで居候させてあげてるんだからそれ位当然よ。」

 

「ぶれないなぁ…。まぁ良いや。美味いもん食えりゃそれで。スネーク、大盛で頼むぜ♪。」

 

希望通り大盛によそる。予め三人分より多く炊いてあるのだ。(余れば昼に廻される。)

 

「「「いただきます。」」」

 

三人揃って楽しい朝食だ。

スネークは油揚げの味噌汁を啜る。うん、我ながら上出来だ。雉と人参の煮物は味が染みてご飯と良く合う。

霊夢と魔理沙は最後の鶏肉を箸で取り合っている。行儀は間違いなく悪いだろうが意図的に思考から外し、甘露煮を口に運ぶ。

 

「今日の朝飯、霊夢の好みに合わせたのか?。お代わり。」

 

聞きながら勝ち取った鶏肉を咀嚼する魔理沙。

 

「いや、自分の好きな物で固めたつもりだ。」

 

「スネークの好きな食べ物って何よ?。私にも。」

 

負けた霊夢は茶碗に甘露煮と人参を取り分け、スネークに差し出した。

 

「そうだな…卵焼き、油揚げ、魚の甘露煮、焼鳥、炒飯に人参。それとクリームスープ。」

 

「どこぞの人妖が寄ってきそうね。」

 

「焼鳥屋なら人里に美味い場所があるぜ。なんなら今夜行こうか?。」

 

「残念ながらそんな余裕ありません。」

 

スネークの口を出す前に話しが終わってしまう。何て勝手な人たちだ。

 

「そういや霊夢は普段どうやって収入を得ているんだ?。」

 

幻想郷…博麗神社に来て10日程経つが参拝客が訪れる姿と巫女らしい仕事をしている霊夢を見たことが無い。今日までの霊夢の日常を見ると庭掃除に家事一般。それが終わると縁側でお茶を飲んで時折昼寝。家事や庭掃除等をスネークがやる日は何もしていない事もある。一体何で収入を得てるのだろう?。

 

「妖怪退治や護符の販売よ。護符は間違い無くご利益が有るわよ。あとは前に言ったけど外来人を送り返す時に貰えるお布施。」

 

「まぁ幻想郷に住み着くなら妖怪退治も外来人を送り返すのもいずれは見れるぜ。」

 

話してるうちに食事が終わる。後片付けを霊夢と魔理沙に任せスネークは人里に向かう準備をする。いつも通りナイフと拳銃を所定の位置に装備。更にベルトの後ろにサブとして形見のハインのナイフを付ける。

 

「…よし。」

 

付け具合と脱落具合をチェック。人里に向かうだけなのに物々しいと思ったが着けてないと落ち着かないのだ。

バンダナを部隊章の上に巻き付けて荷物を持つ。

玄関を出て石階段の所まで来るとあの黒猫が足元に寄ってきた。

とことこ歩く猫を先頭に獣道を進む。

 

「おーい、スネーク!。」

 

獣道を抜ける頃、頭上からの声に視線を向けると箒に乗った魔理沙が横に並んだ。その魔理沙の声に驚いたのか猫が茂みに隠れた。

 

「人里に行くのか?。」

 

「ああ。物を売るのと職と住まい探し。今帰りか?。」

 

「うん。またご馳走になるぜ。」

 

猫の事は伏せた。明らかに魔理沙の事を警戒した。猫なりに理由があるのだろう。

 

「あのさ…焦らなくても良いんだぜ?。霊夢は突然出てけとは言わないぜ?。」

 

「何時までも、居候の職無しは嫌だからな。ヒモみたいで。」

 

「ヒモ…ではないと思うぞ?。」

 

確かに、ヒモとは状況が違うかもしれない。

 

「それに俺はハインの代用品じゃ無いからな。」

 

ばつの悪そうな顔をする魔理沙。事実、霊夢と魔理沙。特に霊夢はスネークの背後にハインを見ている。別に俺を見ろとは思ってないが面白くはない。

 

「スネークの師匠はさ…幻想郷では英雄なんだよ。カリスマ性は間違い無く高かったし…。霊夢にとっては英雄以上に姉の様な存在だし…。」

 

(俺はハインの様なカリスマは無い。一緒にされるとハインに申し訳ないんだよ…。)

 

自分を庇って死んだ恋人を思う。魔理沙が困った表情をしている。

 

「霊夢と魔理沙を責めてる訳じゃないさ。どうであれ普段幻想入りした人間以上に身元不詳の奴を看病してくれて、居候させても貰ってる。感謝はしてるよ。」

 

魔理沙は安堵したように笑った。スネークは後ろを確認する。あの黒猫は一定の距離を保って着いてくる。

 

 

「帰るんじゃ無かったのか?。」

 

スネークの背の高さ位に横に並ぶ様に飛ぶ魔理沙に言う。

 

「物を売りに行くんだろ?。顔が利く店があるから案内してやるよ。」

 

「…奢らないぞ。」

 

気の良い様に聞こえるが過去同じようにエッジとキュアに町案内をしてもらった際に案内料として好きに飲み食いされた事を思い出す。その時の給料と賞金が高過ぎる授業料になった。

 

「ちぇ~…しっかりしてるな。」

 

…釘を刺して正解だったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「んじゃなぁ~霊夢。」

 

洗い物が終わると魔理沙が帰宅する。

 

(庭掃除でもしようかしら…。)

 

霊夢は居間の戸棚からスネークのMP3を取り出す。外来の音楽を聴きながら庭掃除をするのが最近の彼女の日課なのだ。…スネークに返さなくてはならないが、言われた時で良いだろう。また借りればいいし。

イヤホンを着けてお気に入りの曲を選択する。曲が流れてくるのを確認すると物置に向かい、箒を手にしようとするがその隣にある一組のバドミントンのラケットに目がいった。

 

(怪我も完治したし。良いわよね♪?。)

 

予定を変更。霊夢はバドミントンを一式を手にまた家に入ってスネークを探す。

 

「スネーク?。」

 

居間、縁側と足を運ぶがスネークの姿は無い。

 

(部屋かな?。)

 

彼の部屋に向かう。襖に手を掛けた時に霊夢の動きが止まる。そういえばこの部屋に来るのはスネークを案内した時以来だ。自分の家なのに異性の部屋に入るは一瞬気が引けてしまったのだ。

 

(変ね…今までこんな事無かったのに。)

 

「暇でしょう?。バドミントンでもしない?。」

 

襖は開けず、声だけ掛けてみるが返事が無い。…寝てるのか?。

彼が朝は早く起きて、夜遅くまで起きているのは今日までの生活で分かっていた。朝食も食べ終わって二度寝でもしてるのかもしれない。

起こすのを止めようかな?。と思ったが折角ラケットを見付けたのだ。ここから庭掃除する気も起きない。

 

「スネーク…入るわよ。」

 

音を立てずに襖を開ける。これで熟睡してる様ならまた後日にしようと思ったのだ。だが部屋には彼の姿は無く、案内した日とさほど変わらない風景が広がっていた。

 

(整頓され…てか何も無い。)

 

何も無い…スネークがいた痕跡すらも。押し入れを開ける。布団が仕舞ってあるだけで彼の私物類は一切見当たらない。言い様の無い不安が霊夢の心に渦巻く。

 

「スネーク…スネーク!?。」

 

部屋を出て彼の名前を呼ぶ。勿論返事等あるはずが無い。玄関に向かい彼のブーツを探すが…無い。

 

(まさか紫が…でも気配は無かったし…。)

 

渦巻く不安が過去の思い出を呼び起こす。自分が幼い時、母を亡くしたのとスネークの師匠の帰還…。

 

「もしかして人里?。」

 

そうだ…スネークは幻想郷に住むと言ってた。けれど…。

いても立ってもいられずに靴を履くと同時に人里向かって飛び立つ。人里の近くに降り立つ。こんな時に彼奴らが定めた決まり事が煩わしい。だが今の霊夢の立場上従わない訳にはいかないのだ。

里の中を走る。何人かの兵士の呼び止められそうになったが…。

 

「邪魔よ!。」

 

一喝して道を開けさせる。

 

(いた…。)

 

ある装飾屋から魔理沙と共に店から出てきたスネークを見付ける。二人の前で止まると膝に手を着き息が整うのを待つ。まったく…あんなに走ったのはいつ以来だろうか?。飛ぶ事に慣れてしまった体を忌々しく思う。

息が整うと顔を上げる。スネークと目が合うと顔が綻びそうになる。

 

「魔理沙…帰ったんじゃないの?。」

 

誤魔化そうと隣にいた魔理沙に当たってしまう。

 

違う…こんな事が言いたいんじゃないのに…。

 

 

 

装飾屋の主人から料金を受け取り、店を出たスネークと魔理沙。雉の羽で作った羽飾り等の工芸品は幻想郷では見掛けないデザインという訳で主人の受けが良く、仕入値以上に売れると見込まれたお陰で報酬に色が着いた。

外界の羽飾りを模しただけなのに重くなった財布に内心ウキウキしてると霊夢が此方に向かって走ってくる。自分と魔理沙の前に止まると膝に手を着き、荒くなった息を整えていた。やがて息が整うと顔を上げる。スネークを見て一瞬顔が綻んだと思ったが…。

 

「魔理沙…帰ったんじゃないの?。」

 

すぐ目を逸らすと隣に立つ魔理沙に言う。声色には若干震えていた。

 

「スネークが工芸品売るって言うから店を紹介してやったんだよ。お礼に甘味処でぜんざい奢ってくれるって条件でな。」

 

(てめぇ…。)

 

横目で魔理沙を睨むが彼女は手を頭の後に組んで明後日の方を見ていた。案内されたのは事実だが勝手に誘導したたけ。頼んだ覚えも無いし、奢らないと釘も刺しといたのだが…。

 

「…この際だ。霊夢も一緒にどうだ?。」

 

霊夢の視線がスネークに行く。矛先が自分に変わったと判断し魔理沙の誤魔化しに乗っかった。…羽飾りが高く売れたのも霧雨道具店の娘の顔効きがあったからだ。

 

「そうね。奢って貰えるなら一緒に行かなきゃ損ね。」

 

三人は甘味処に向かう。スネークは途中から人里に入る前に着いて来なくなった黒猫を按じたが、飼い主の元に無事に帰ってると勝手に納得した。

 

 

 

 

 

 

今から数日前…人里から遥か遠く離れた大きな民家。常人では決してたどり着けないその民家には幻想郷最古参の妖怪の一人である八雲紫の他二人の妖怪が住んでいる。この日、紫は昼間から一献やりながら外の風景を眺めていた。

 

 

「何回言っても駄目だ。今は昔の幻想郷と違うんだ。」

 

庭から何やら話し声。一人の女性が洗濯物を干しながら側にいる少女に言い聞かせる様に言った。

 

「や~だ~!。連れてってよ~!。」

 

その少女は泣きながら聞かない子供の如く地団駄を踏んでいた。いや、実際その容姿は子供そのものだ。洗濯物を干す女性の背丈の半分程しかない。違うのは二人とも妖怪と言うこと。地団駄を踏む少女は猫耳に二股の尻尾。困った様な…それとも呆れた様な表情をする女性には狐耳に九つの尾を備えていた。

 

「言いかい橙?。何度も言うように、昔の幻想郷じゃ無いんだ。今、霊夢の処に行って…人間に…兵隊に組してる奴等に文句を付けられたら橙も私も殺されるかもしれないんだ。」

 

「霊夢なんかじゃなくてあの子に会いに行くんだから良いでしょ~。紫しゃまだけ狡い~!。」

 

「あのな橙。あいつに限らず、外来人と最初に関わるのは紫様で、それを大将殿に報告するのが任務なんだ。」

 

「どうして紫しゃまは家に連れてきてくれなかったの…。家族なんだよ?。」

 

橙と呼ばれる少女は耳も尻尾もシュン…となって俯く。その姿に思わず心が揺らぎそうになるが…。

 

「紫様が判断したんだろう…。私達はそれに従う。」

 

「橙も会いたいよ~!。藍しゃま~!。」

 

「いい加減にしないか!。聞き分けが無さすぎるぞ!。」

 

藍と呼ばれた女性は遂に大声を出し、金色の瞳を見開き橙を睨み付けた。この話しは終わりとばかりに洗濯物を干すのを再開した。

怒鳴られた橙は怯んでしまう。妖怪でなくとも藍にはそれほどの眼力があった。

 

「だったら橙一人で行く!。紫しゃまも藍しゃまも…あの子の事なんてどうでもいいんだ!。」

 

藍が再び橙を見た時はその場に居なかった。飛翔韋駄天でここから消えてしまった。

 

「珍しいんじゃない?。藍?。橙に怒鳴るなんて。」

 

橙の飛び去った方向を見ながら紫が藍の隣に立つ。

 

「今日だけじゃないんですよ。紫さまがあの子と接触した日から毎日…。」

 

溜め息を着く藍。九つの尻尾がシュン…となり、耳もペタンと折り畳まれた。

 

「なんで橙にバレる様な状態で帰って来たんですか?。」

 

その姿を可愛いなぁと眺めていたら藍に非難の籠った目で見ていた。スネークを無縁塚に送り、人里の基地に報告を済ませた日に橙に勘づかれてしまったのだ。寄りによって服に染み着いていた僅かな匂いで。完璧に紫の失態だった。橙の嗅覚を舐めていた。

 

「あら、藍も橙と同じ様に手放しで喜んでたじゃない?。」

 

矛先が向いては堪らない。

 

「それはそうですけど…。」

 

紫も良く覚えている。久しぶりに心の底から笑う彼女達の姿を…。

 

「会いに行っても、私達の事は思い出さない。そう言ってはいたんですけどね…。家族と思っている者に、初めましてと言われた時の橙を考えると…。」

 

ただでさえ、あの日一番大泣きしていたのに…とぼやいた藍。

 

(一番泣いていた?。)

 

この一言に紫の表情に影が掛かる。違う…あの日一番に泣き叫びたかったのは先代巫女…いや最も身を引き裂かれる思いもしていたのは…!。

 

「し、失礼しました。」

 

紫の異変に気付いたのか、藍は頭を下げていた。

 

(私、今怖い顔してるわね…。)

 

「いいわ。藍。それより、追わなくていいの?。」

 

意識して笑顔を作る。藍は安心した様だ。

 

「はい。実は会いたいって駄々をこねた日から勝手に行かない様に少し式を落としたんですよ。韋駄天を使ってはいましたが普段より遠くには行けません。多分今頃地上に落ちて徒歩で引き返してますよ。」

 

「藍にしては厳しいわね。あんな溺愛してたのに?。」

 

「まぁ、でもここら辺ならまだ紫様と私の息が掛かってますし。それにやっぱり、聞き分けが有りませんでしたし…。」

 

藍はあはは、と笑ってはいるが語尾は弱まっていた。

 

「らしく無いわね。少し飲んで頭でも冷やしてらっしゃい。ああ、洗濯物は私がやるから。」

 

ほらほら、と藍の背中を押す紫。

 

「…でも、どうして博霊神社…。」

 

「藍…迂闊。本当にらしくないわよ?。」

 

言葉尻強くたしなめる紫。藍はすみませんと今度こそ家に入った。

皺を伸ばした洗濯物を干す紫。

 

「橙はともかく、藍まで…困った子達ね。」

 

ぼやくと紫の手が止まった。困った子達…そう言ったが自分はどうだ?。

 

「他の娘達はどうなるかしら?。」

 

あの兵士が幻想入りした日に何となく触れ回った人妖達を思い浮かべる。皆、訳解らないって顔してた。

 

「止め止め。」

 

わざと濁した理由は紫の中ではっきり理解していた。

それほど多くない洗濯物は直ぐに干し終えると紫も家に戻る。油揚げを炙る匂いがした。きっと藍が酒の摘まみとして用意してるのだ。直接居間には向かわず、自分の部屋で座り込んでスキマを開く。中からは幻想入りした兵士を抱き締めた時に着ていた服だ。

 

「一番最初に会えた優越感…それと独占欲かしら?。妖怪の賢者と言われる私が…これじゃ二人の事なにも言えないじゃない。でも…」

 

紫は彼を抱き締めた際に触れていた部分に顔を埋めた。薄まってはいるが自分の香水の匂いがする。しかし、紫はその奥にある、戦と血の匂い混じった彼の匂いを感じ取ろうと必死に呼吸を繰り返す。

 

「ごめんなさい。藍、橙。…ちょっとだけ、独り占めさせて…。」

 

藍が呼びに来るまでこの行為は繰り返された。

 

 

 

 

 

黒猫こと橙は博霊神社に続く獣道を進んでいた。

橙の主人である藍はこうなるのを予想していたのだろう。八雲家を飛んでから暫くすると自分の式が落ちていくと共に高度が下がり、遂には墜落してしまったのだ。飛ぶことは出来ないが、この時に引き返せば夕飯迄に帰ることが可能だった。しかし、ここまでされて橙も意地を張った。絶対に会いに行く。そして帰りの道は家族と一緒に歩く。

道中、木の実や茸で飢えを凌ぎつつ進んでいる内に式が切れてしまい人の姿を保つことが出来ず妖描の姿に落ちてしまう。これでは人語が話せないばかりか妖術が使えず、妖怪や野犬に襲われればやられてしまう。

橙は妖怪の活動が活発になる時間は息を潜み、野犬の縄張りを迂回し続けた。その為この獣道に来るまで思ったより日数を要してしまった。

 

(あとちょっとだ…。)

 

だがここまで来れば神社は目と鼻の先。橙は休憩もそこそこに歩き始めた。

 

(そう言えば怪我してるんだっけ?。)

 

会いに行くのを断られた要因の一つだった。お姉さんらしい処を見せようと橙は薬草を探すのに獣道の脇の森に入った。鼻が利く為、薬草は直ぐに見付かった。

 

「グルルゥゥ…!。」

 

背後からの唸り声に振り返ると野犬が歯を剥き出しに構えていた。浮かれていた為に野犬の縄張りに侵入したのに気付いて無かったのだ。

 

(ご…ごめんなさい…。)

 

橙は食わえていた薬草を地面に置き、敵意は無いと姿勢を低くした。しかし縄張りに入った侵入者を許す程、野犬は甘くなかった。爪は引き裂こうと、牙は食らいつこうと橙に襲い掛かる。何とか野犬から逃げ出した橙。無傷と言う訳にもいかず、影で傷口を舐めていた。

 

(ゥゥ…痛いよ…。)

 

橙は声にならない声を挙げる。言葉にならず弱々しいミャー…という鳴き声が響いただけだった。

足音を殺しながら近付いて来る気配があった。野犬と思ったが疲れと怪我で弱っている橙は動けないでいた。

来たのは森に溶け込む様な奇妙な擬装服を着た人間。同じ様に擬装した銃を持っていた。橙が擬装服と銃が分かったのは過去に似た格好をしていた人間がいたからだ。

 

「猫?。怪我してるな…。」

 

顔を露にした人間はしゃがみ込むと傷の具合を確認した。

 

「出血はないな。よし、暴れるなよ。」

 

人間は橙の傷口を洗い、消毒をすると薬を塗り込み包帯を巻いた。

 

「とりあえず、怪我が治るまで面倒みてやるか。」

 

人間は橙を抱き抱えて歩き出す。橙は安心して身を任せる事が出来た。

 

(やった…やっと会えた…。)

 

変な格好をして、声も変わっていて、顔も汚れているが顔付きと、何より匂いで分かった。

彼ことスネークは朝、昼、夕と橙の元に来ると食事、傷の手当てを施した。そのあとは橙を膝の上に乗せて可愛がるか、そのまま仮眠を取ったりしていた。茂みから這い出すといつもの大木の根元にスネークがいた。橙は膝の上に乗ると自分の身体を擦り付ける。スネークは荷物から橙の食事を取り出す。昨晩と同じ小魚の甘露煮だ。

 

「美味いか?。」

 

(うん!。)

 

小魚の甘露煮は橙の好物だった。美味しく食べてるとスネークが僅かに微笑んでる。食事が終われば怪我の手当てをして膝の上に乗る。頭や喉を撫でられると無意識にゴロゴロと喉が鳴る。二股の尻尾は腕に巻き付けた。

 

「お前、この山が拠点じゃないだろ?。」

 

(うん、違うよ。)

 

「もしかして飼い猫か?。んで言葉が分かるのか?。」

 

(分かるよ!。それに、飼い主じゃなくて家族!。)

 

肯定と不満を漏らすが悲しきことにスネークにはミャーっと言う猫らしい鳴き声にしか聞こえない。橙の体が持ち上げられる。

 

「だったら今日にでも人里に送ってやる。」

 

(一緒に帰ろうよ…。)

 

不満気な視線を送る。

 

「そんな目するな。飼い主…家族は大事にしろ。俺にはそんなの無いからな…。それに居候に無職だ。お前を連れてったら霊夢に何されるか分からん。」

 

そんなの無い…この言葉に橙はますます不満気な視線を送る。記憶が無いとは聞いたがここまでとは…同時にスネークの表情に何か浮かんだ。それがどのような思いなのか橙に感じ取る事は出来なかった。

 

「ああ、雌だったか。悪かった。」

 

機嫌が悪いのを腹部晒されてるせいと思ったのか橙を降ろす。

帰るスネークの後を追う。霊夢に見つかりたく無いので言われた通りにする。スネークと霊夢、それと魔理沙を加えた朝食風景を覗き見る。

暫く待っていると玄関からスネークが出てくる。橙を探しているのか辺りを見回しているので物陰から出る。

橙が先頭を歩き、スネークが後ろを付いていく。

 

(そうだ。このままマヨヒガまで…。)

 

人間がたどり着けるかと考えていない橙。この時は良い考えと思っていた。しかし、上から人の声。反射的に茂み隠れてしまう。飛んできたのは魔理沙だ。幾らか話し込むと揃って歩き出す。スネークは時折、後ろを向いては橙を確認する。何を思ったが橙の事は伏せたようだ。

 

(巫女も魔法使いも、二人して英雄、英雄って…誰もあの子を見てない…!。)

 

先程の二人の会話を聞いて橙は憤っていた。

 

(博霊神社にいたら、あの子は一人ぼっちになっちゃう。橙はあの子のお姉さんだから何とかしないと!。)

 

魔理沙を威嚇する様に睨む。今、ただの猫又である橙ではそれしか出来ないのだ。

人里の近くまで着く。スネークの隣にはまだ魔理沙がいた。一定の距離を歩く橙の体が浮いた。突然の事に暴れる橙。だが、それが何かと分かった途端申し訳無い気持ちになる。森に入り、橙を抱き止める主人…藍の腕の中で橙は式を与えられ、人の姿に戻ってゆく。

顔を上げると藍の瞳孔が縦に細まっている。よっぽど怒っているようだ。振り上げられた手に身を竦める。

 

「ちぇぇぇん…なんで戻って来なかったんだよぉ…!。」

 

頬を張るかと思われた手は橙を強く抱き締めた。

 

「ごめんなさい、藍しゃま…。」

 

心配させてしまった事を詫びる。

 

「薬の匂いがする。怪我したのか!。」

 

「うん。来るときに野犬に襲われて…。けど、あの子に治して貰ったんだ。」

 

「そうか、やっぱり魔理沙の隣を歩いていたのがあの子だったか…。それじゃ、会えたんだな?。」

 

「うん。…藍しゃまに言われた通り、私達の事は記憶に無かったけど…でも優しい所は変わってなかったよ。」

 

良かったなと藍に頭を撫でられる。気持ちよくはにかんでると、不意に涙が溢れてきた。藍の胸に顔を埋める。

 

「どうした、怖かったか?。」

 

「ううん…あの子が可哀想で…。」

 

「可哀想?。」

 

「だって、霊夢も魔理沙も…あの子の師匠、師匠って…!。誰もあの子を見てないんだよ…一人ぼっちのままなんて可哀想だよ…おかしいよ!。」

 

藍は正直驚いていた。自分の式がこんな考えを持つなんて…。

 

(私だって、本当は…。)

 

「今は待とう。紫さまに何か考えがあるのさ。さぁ、帰ろう。紫さまも心配してるぞ。」

 

本音とは違う言葉。

 

(紫さまは、どう思ってるんだ?。)

 

橙が落ち着くのを待って二人は自分の家に帰っていく。

 

 

「すいませーん。三人で。」

 

霊夢と魔理沙にぜんざいを奢る事になってしまったスネークは人里で有名な甘味処に来ていた。テーブル席に案内され、お品書きを眺める。

 

「ぜんざい三つ。栗入りで。」

 

「絶品なんだぜ。ここのぜんざい。」

 

「ほぅ…。」

 

お品書きを見ると確かに当店お勧めと書いてある。…栗入りは別途料金だ。品物が来るまでの間、スネークは店の外を眺めていた。人々が忙しく行き交う中、銀髪のメイドが目が行った。

 

(メイドがいるって事は、執事も雇う場所があるなかな?。)

 

「どうしたの?。スネーク?。」

 

「霊夢ってさ、頭にくると短絡的になるだろ?。」

 

まさか少女二人と甘味処にいてメイドを見ていたとは言えず、今日まで分析した霊夢の性格を言う。

 

「なっ、なんですって!。」

 

「あははは!。適格だなスネーク!。」

 

適当にはぐらかしたつもりだったが、的を得ていたのか魔理沙が笑い、霊夢はスネークに詰め寄る。そもそも、今日まで一緒に過ごして霊夢の喜怒哀楽が豊かなのは掴んだつもりだ。

 

「はいはい。お待ちどうさま。ぜんざい三人前です。」

 

店員がぜんざいをテーブルの上に置く。

 

「餡蜜もちょうだい!。」

 

「お、私にも。」

 

料金を支払うスネークの了承も得ず追加する霊夢と便乗する魔理沙。ホントに仲が良いなあ…。

 

 

「はい。兵隊さんは?。」

 

気の毒そうに店員が尋ねる。お茶のお代わりを頼み、ぜんざいを食べる。オススメと言うだけあって確かに美味い。粗悪なチョコレートバーに慣れたスネークにはこの甘さがとても上品に思えた。

 

「美味いな。」

 

思わず出た言葉。絶品と言うだけあってその味は確かな物であった。

 

「へへ、だろ?。」

 

餡を絡んだ白玉を咀嚼しながら魔理沙が言う。霊夢は笑顔でぜんざいを食べていた。それを見たスネークは金の払いがいがあると感じた。

 

「はい。追加の餡蜜です。」

 

テーブルに並べられる二つの餡蜜とお代わりのお茶。美味しそうに平らげる二人を見ながら自分も頼んだ方が良かったかなと思っていた。

 

「懐かしいなぁ…。霊夢は何か覚えて無いのか?。」

 

「無いって言ったでしょ?。スネークは外来人。私達は初対面。」

 

魔理沙の一言にスネークの脳内に何かがフラッシュバックした。突然浮かんだ光景。幼い自分と同年代の子供。時折映像が変わり、その都度前や隣にいる人物が変わる。二人の時もあれば、家族の様に親しく…。いずれも何故懐かしいと感じた?。なんで?。幻想郷と混同するような過去があったのか?。記憶を失う以前?。思い出そうと記憶を探るが出てこない。フラッシュバックが収まると懐かしい感覚まで感じなくなってきた。

 

「スネーク?。どうしたの?。」

 

霊夢が言うのと同時にフラッシュバックは消えて言った。

 

「いや、別に…。そういや霊夢。なんでわざわざ走って来たんだ?。空を飛んだ方が早かったろ?。」

 

会話を変えようとするスネーク。霊夢と魔理沙は困った様に顔を見合わせる。

 

「魔理沙。私から言うから良いわ。スネーク。理由はあるの。けどここじゃなんだから帰ってから話すわ。」

 

そう言って食を進めた。

会計を済ませ店を出る。次に向かったのは本来の目的である職探しだ。

 

「色々あるな。」

 

二人の案内でスネークは紹介所に掲示されている求人を見る。畑仕事や土地の開拓。屋根の修繕、大工見習い。熊撃ちに猪狩りの狩猟など様々な仕事がある。中には外来人歓迎と念を押されている物もある。

 

(普通の仕事ばかり…ハハ、当たり前か。)

 

歪んでるなぁと自嘲気味に笑う。

 

「外来人歓迎ってなんだ?。」

 

隣で掲示物を眺めている霊夢に聞いた。

 

「霖之助さんのとこね。おそらく幻想入りした道具の使い方を解明して欲しいのよ。スネーク達が当たり前に使っている物でも、幻想郷の住人にとっては未知の物が多いから。」

 

まっ、人里の人間すら好き好んで行こうとは思わないかけどね、と締める。

 

「なんでだ?。」

 

「魔法の森の中にあるの。霖之助さん家。禍々しい気に囲まれてね。普通の人間にはあまり良いとこじゃないの。先生に感謝しなさい。」

 

幻想入りした日の事を言ったのだろう。確かに魔法の森を経由して来た。

 

(なんとも無かったがな。)

 

逆に心地良く感じた。何故だろう?。 

別の求人に目を向ける。その中で気になる求人を見つけた。

 

(妖精狩り?。)

 

手に取って内容をみる。捕獲対象である妖精を捕まえたら懸賞金が出るみたいだ。下部の方には特に重要指名手配となっている5人の妖精達の写真と名前が貼られていた。その内の4人は既に捕獲済みなのか黒く×印が塗られて輪郭位しか確認出来ない。この一人にスネークは見覚えがあった。…幻想入りした日に暴漢に捕まっていた妖精だ。懸賞金の額は他の妖精より多く設定されていた。

 

「趣味が悪いわよ。」

 

横から剣呑な声。霊夢が睨んでいた。スネークは無造作に手にしていた掲示物をポケットに捩じ込んだ。別に受けようと思ってない。だが張り直しはしない。あとで破棄する。

 

「なぁ霊夢。ここで探すより慧音先生のとこに行った方が良くね?。」

 

空気を読んでか、魔理沙が提案を持ち掛けた。

 

「そうね。ここの紹介だと外来人は良いように使われるだけだし。」

 

二人共スネークの身を案じてくれているらしい。事実、外来人に回される仕事は危険を伴う物が殆どだ。実入りは良いが当然、代償はある。それで生計を経てる外来人もいるが道中で妖怪に喰われて、身体の一部が発見されたり、行方不明となっている者もいる。だが人里ではそれが日常。あの外来人の彼、彼女は好い人だった。惜しい人を亡くした。はい、終わり。

 

「どんな奴等がやるんだ?。」

 

慧音と言う人がいる寺子屋に向かう途中で妖精狩りの件を聞いた。

 

「…あんな奴等よ。」

 

振り返る霊夢。今来た道から埃を立てながら一両のトラックが走って来る。型は古いが軍用トラックだ。脇に避けてすれ違うのを待つ三人。幌のない剥き出しの荷台には二人の兵士と木で組んだ檻。

 

(あの檻に妖精がいるのか?。)

 

荷台の兵士が霊夢と魔理沙の二人を見付けると明らかな侮蔑の笑みを浮かべていた。

 

 

「博霊の巫女様…なんで兵隊さんと一緒なのかしら?。」

 

「霧雨さんとこの不良娘もよ…。中立って言ってるけど、やっぱり?。」

 

「いや、従兵じゃないか?。階級も…伍長じゃし?。」

 

周りから二人を非難するような声が聞こえる。気付かれない様にスネークは二人から離れた。余所見をしていたらはぐれてしまった。口実はこれで良い。隠す気は無い。

折角だから、美味い焼き鳥屋でも探してみる事にした。今後の為にも行き付けに店はあった方が良いだろう。

 

「さっきのトラック?。」

 

暫く散策していると先程の軍用トラックが立ち往生していた。道の真ん中で荷車と作物が転がっていた。それを一組の男女が拾い集めている。遅々として進まない作業に時折クラクションを鳴らす操縦手。やがて、操縦席の二人が降りて作物を拾い上げるのを手伝う。小銃を携行していたが落ちてる量が多い為にトラックに立て掛けて作業を始めた。その時、民衆の中から幾つかの投げ縄が荷台の兵士達に投げられ、そこにいた二人は地面に引き落とされ、その拍子に小銃を手放した。人混みの中から四人の羽根の生えた子供、妖精達が現れ、二人が小銃を遠くに離し、残りが檻を壊しに掛かる。

 

「貴様ら!おわっ!。」

 

男女が作物を拾っていた兵士を突飛ばし、立て掛けあった小銃を手に取り…。

 

「動くな!。」

 

男が隊長各の兵士に足を乗せ、銃口を突き付けた。女も油断なく銃を構えていた。

 

(羽根が生えている。妖精か…。)

 

仲間を救いに来たのだろう。檻を破るのに時間がかかっている。

 

 

「あんた達!。なにやってのよ!。」

 

民衆の頭上を飛び越えて霊夢と魔理沙が男女の前に現れる。

 

「ちっ、博霊の巫女と魔法使い…!。」

 

男は唸るような声を出すと、身体付きがみるみる変わる。筋肉隆々、犬歯を剥き出しにまるで狼男みたいに変化した。女の身体も変化し、腰元から尻尾が生えていた。

 

「妖怪だな。お前ら…何をしてるか分かってるのか?。」

 

魔理沙が箒と八角型の道具を構えながら言う。

 

「答える義務なんてないわ。」

 

女妖怪は唾を吐きながら言った。

 

「その物騒な物を置いて、足元の人間を解放しなさい。そうすれば…。」

 

 

大幣と紅白の陰陽玉を手にした霊夢が言う。

 

「この…!。この…!。」

 

 

銃を放った妖精が倒れている兵士を踏みつける。

 

「馬鹿!。早くつれてきなさい!。」

 

女妖怪が怒鳴る。妖精達は檻を壊そうとしているが頑丈に作られていて上手くいかない。

男妖怪は兵士の背中を踏みつけ体重を掛け、銃口を二人に向ける。その顔からは焦りが出ていた。スネークは知らないが霊夢と魔理沙はこの幻想郷で名を連ねる実力者なのだ。

解錠を諦めた妖精達が檻の四隅を持って飛び立つ。

 

「動くな!。人間が死ぬぞ?。」

 

銃口が二人を牽制する。目線は妖精達を追っていた。

霊夢の口元が僅かに動き、魔理沙が頷いた。その時、数発の銃声が響くと飛んでいた妖精が落ちた。同時に里の人間が銃撃に巻き込まれまいと瞬く間に散り、その様を見て二人から目を離してしまった男女の妖怪。

霊夢が放った陰陽玉が女妖怪を…魔理沙の持つ八角型の道具から発射された極細のレーザーが射出され男妖怪の持っていた小銃を弾き飛ばした。

 

「喰らえ!。」

 

妖怪の手から大量の光弾が放たれる。だが霊夢が大幣を振るうとそれらは見えない結界に吸収され消滅した。

 

(終わったな…。)

 

そこからは酷いものだった。トラックの人員に加え、到着した5、6人の増援に取り押さえられ、男妖怪は殴る蹴る等の暴行に加え、身体に10発の銃弾を受けた。

 

「あ、うがぁ…。」

 

呻く妖怪…人間であれば確実な致死てきなダメージだが不幸にしてまだ息があった。

 

「雌妖怪はどうします?。」

 

後ろ手に縄を縛り、なにやら首飾りの様な物を掛けた兵士は駆け付けた将校に指示を仰いだ。

 

「遊郭に流しとけ。」

 

女妖怪が将校の顔に唾を吐いた。すかさず将校は女妖怪の腹部に手加減の無い蹴りを放つ。後ろ手に縛られ、ろくに受け身を取れず地面に転がる。

 

「気の強い奴だ。自分たちの行為が天に唾を吐くことだと何故解らない。」

 

顔に着いた唾を拭き取る。ちょうどそこに檻に入った妖精とそれを救いに来た妖精達を捕らえた兵士達と合流…四人の妖精達は暴行を受けたのか傷だらけで、一人は自力で歩く事が出来ず両脇で抱えられていた。そしていずれも片方の羽根を根本から引きちぎられていた。

 

「ほら、さっさと乗れ!。」

 

兵士に乱暴に促され荷台に乗る。自力で乗れない妖精に兵士は荷物を放り込む様に荷台に乗せた。

 

「助けて、助けてよ…。」

 

妖精の救いを求める声は霊夢と魔理沙に向けられていた。二人は視線を下に落とした。

 

「ご協力ありがとうございます。巫女殿。魔理沙殿。」

 

将校は二人の前に立ち、簡単に礼を述べた。

 

「ですが…能力を使うのは頂けませんな。一度、二人共ご同行願います。」

 

手を伸ばす将校だが…。

 

「触らないで!。」

 

霊夢が叫ぶと将校の手が弾かれた。兵士達が囲んで銃を構えるが…。

 

「それだけの霊力…力を持っておきながら!。そいつらに与するのか!。」

 

倒れていた男妖怪が喚いた。兵士達が妖怪に注目したお陰で二人から銃口が外れた。

 

「おやおや可笑しな事を…。彼女達は幻想郷の"平和"の為に私達に助力したまでだが?。」

 

「人間以外を排除し、最終的には人間のみの幻想郷を望むのが何が平和だ!。お前らも所詮人間だな!。」

 

「違っ…。」

 

「私達は…。」

 

否定しようとするが男妖怪に遮られる。

 

「幻想郷の裏切り者…この

売国奴ぎゃぁぁぁぁ!。」

 

途中で将校に傷口を踏みつけられ悶絶する。

 

「この愚か者…女妖怪に遊郭まで牽かせろ。」

 

兵士達が男妖怪の両手足を縛り、首に掛けた縄の末端を持たせた。

 

「行け!。」

 

トラックが走り出し、監視に囲まれた妖怪達は遊郭に向け歩く。

 

(引き回しか…。)

 

女妖怪が縄を引きながら一歩づつ進み、引き摺られる側は首が絞まらないよう、引く方に負担が掛からないよう縛られた身体を尺取り虫の如く地を這った。その姿が不様、哀れであった。哀れに見る者。指差して笑う者。民衆がそれを雄弁に語っていた。中には石を投げる者もいた。そんな中、カシャッ!という音がスネークの耳に入る。気付いた民衆は殆どいないがツインテールに紫のリボンをした女が路地裏に消えてくのが見えた。

特段気にも止めないスネーク。ある程度兵士が離れていくと人里は元の日常に戻っていく。その場に残るは霊夢と魔理沙…あとスネーク。

 

(掛ける言葉は無いな…。)

 

自分なりに気を使い彼女達から離れた。

 

「魔理沙…今日は付き合ってよ。」

 

 

 

 

 

 

 

時間潰しの為、スネークはフラフラと人里を歩いていた。霊夢から話しを聞くために一緒に帰っても良かったのだが、少し時間を置いた方が良いと判断したのだ。先程の騒動のせいで人里のスネークを見る目が痛い。厳密に言えばスネークは無関係なのだが迷彩服を着ていれば皆同じなのだろ。嫌悪感のこもった視線を受けるのは初めてでは無い。さっきも同年代と思われるグループから睨まれた。直接危害を加えられる事は無かったので、なにガンくれてる!。とはならなかった。

立ち寄った駄菓子屋で鈴カステラ、チョコケーキ、麩菓子、ラムネ数本を買い込みまた歩き出す。路地を右、左と曲がっていくと抜けた先に角材置場があった。作業員等の姿は無く、ここにいた跡も無い。休みかな?。

スネークは手頃な角材に腰掛け…。

 

「一緒にどうだ?。」

 

抜けた路地の影に向かって言う。返事は無いが何者かの影が動いた。

 

「甘味処から着けて来たな?。」

 

観念したのか影から籠を背負い、農作業の格好をした子供が現れた。目深に被った笠を外す…。手配書に載っていた妖精だ。

 

「10日ぶりかな?」

 

その妖精はスネークが魔法の森で助けた娘だった。彼女は小さく頭を下げた。

 

(やつれてるな…。)

 

目の下に出来た隈…その顔からは濃い疲れの色が見てとれた。

 

「座りなよ」

 

 

 

立ったままでいる妖精に促す。幾らか間を空けてスネークの隣に腰を掛けた。その間に駄菓子を広げると妖精の興味がそちらに向けられる。

 

「食べていいぞ。」

 

「え、そんな…悪いです…。」

 

駄菓子から目を反らす。少し経つと妖精の方から、くぅ~…っと腹の音が鳴った。

 

「妖精でも腹は減るんだな?。」

 

腹部を押さえて顔を赤くする妖精の姿をからかうスネーク。麩菓子を割り妖精に差し出す。大きいの選ぼうとしてか目が左右に動く。大きい麩菓子を取り、スネークを見上げる。

 

「君が気にする様な物は入ってない。

 

妖精は消え入りそうな声で、すみませんと呟き、小さな口で麩菓子をかじる。そこから妖精の食欲は旺盛となった。麩菓子を食べ終えるとチョコケーキに食らい付く。連れて行かれた妖精に比べて大人びた雰囲気持っていたが見た目相応のようだ。

 

「ごふっ!?。」

 

スネークが鈴カステラの安っぽいながらも懐かしさを思い出させる様な味を感じていると妖精が勢いよく噎せた。栓の空いたラムネを差し出す。妖精はそれを数回に分けて飲み干すと、ふぅ…と息を付いた。

 

「落ち着いたか?。」

 

もう一本のラムネを渡しながら尋ねる。

 

受け取りビー玉を押し込む。スネークも詮を空けてラムネを口にする。うん。爽快で美味い。

 

「んで、なんで着いてきた?。」

 

落ち着きを取り戻したのを確認し着けてきた訳を聞いた。口ごもりながらも妖精は答えていく。

 

「えっと…森で助けてくれた人かなぁって…でも、あの時、夜で…顔も、あとなんかモジャモシャで…。」

 

確かにあの時はフェイスペイントを塗り、ギリースーツを着ていた。むしろ覚えていられた方が狙撃兵として問題ありだ。

 

「博麗神社に着いたんですね。」

 

「ああ、今は博麗神社に居候。住む所と資金を得るために職探し中だ。ところで、なんで人里に来た?。」

 

スネークは皺の付いた手配書を見せる。

 

「チルノちゃん達…なんて書いてあるんですか?。」

 

「読めなくても現状は解るだろ?。」

 

幻想郷に来て僅かしか経ってないが、妖怪や妖精と言った存在が良い扱いを受けていないのは今日の一件で解る事が出来た。それは自分より幻想郷に住んでいる妖精の方が理解出来てるはずだ。

 

「みんなを止めに来たんです…。」

 

「さっきの妖精達か?。」

 

「はい。今までは兵隊が来たら見付からないよう、ひたすら逃げる。隠れていました。捕まったとしても、助ける事はしなかったんです。その…私達妖精は…頭があんまり良くなくて…。」

 

話し合いはするが意見が纏まらず、結局お流れなるようだ。また、頭が良くないを利用され、言葉巧みに騙された所を妖精狩に集まった所を一網打尽にされた者もいるようだ。

 

「捕まったのは運が悪いと思って諦める。」

 

スネークの言葉に頷く。

 

「最初は戦いました。私達は死んでも生き返る種族ですから。けど…。」

 

生き返ると言う言葉に引っ掛かったが、今は妖精に話させる。

 

「ある日、兵隊達が捕まった仲間を霧の湖に置いて行きました…。」

 

ラムネを持っておきながら手が震えていた。

 

「呼び掛けても反応の無い娘…目がどこを向いてるか解らない娘…皆羽根をもぎ取られてたり縫い付けられてたりしていました…。息を…していない娘もいました。」

 

震えは大きくなっていく。

 

「私達は息をしていない娘の再生を待ちました。けど何日経っても再生しない…逆に変な臭いがしてきて…最後は烏と妖怪が…。」

 

スネークはその妖精の末路が容易に想像出来た。戦場では良く目にする光景だったので特別不快に感じる事は無かった。

 

「それから…何日かして霧の湖に通じる道に…同じ様な仲間の姿が…吊るされたり…傷だらけで…皆、それを見て心が折れちゃって…。」

 

見せしめだ。手軽で頭の弱い妖精達には効果は絶大だったみたいだ。そこからは先程聞いた行動らしい。

 

「逃げて、隠れるって皆で決めたのに…戦おうとしようとしました…仲間が捕まる度助けようとしました…。けど、捕まった時の事を考えると足がすくんで…。」

 

「もういいよ。」

 

これ以上喋らせたらこの妖精がどうにかなってしまいそうだ。

 

「仲間は大勢いたのか?。」

 

流れていた涙を拭い、頷く。

 

「大勢いる仲間…なんでこの五人…特にお前が最重要指名手配になっている?。」

 

掲示板の手配書にはこの五人の懸賞金が多く上乗せされており、特に今スネークが話している妖精には他のに比べて倍の懸賞金が掛けられている。

 

「それは私が大妖精と言われてるからです。…他の娘よりちょっと魔力が多いだけなのに…。」

 

「妖精の隊長…一番偉いのか?。」

 

「偉いか解りませんが…。」

 

なるほど、と勝手に納得した。それなら倍の懸賞金を掛けられていてもおかしくない。

 

「あの、お名前は?。」

 

駄菓子が無くなった時、妖精が聞いてきた。

 

「オーガ・スネークだ。」

 

いつもどうり暗号名を答える。

 

「オーガ・スネーク?。スネークさんですね。」

 

「君は?。」

 

「大妖精です。」

 

「いや、位階を聞いてるんじゃ…。」

 

大妖精は悲しそうに…。

 

「すみません…私、名前が無いんです…。昔から大妖精ってだけ呼ばれてて…。名前ばっかりの…こんな名前…皆を助ける知恵も無い…。」

 

俯いた大妖精。隣からは伺えないがきっと酷い表情をしているだろう。

 

「ナナシか…。」

 

静かに呟く。スネークは外界に居たときの事を思い出す。かつての自分の忌み名。出生不明から付けられた名無し伍長。

 

「ナナシって言わないで下さい…。あっ、でも大妖精って言われる資格も…。」

 

顔上げた大妖精。誰が見ても解る様な空元気の笑顔だ。

 

「…スネークさんって、強いですよね?。」

 

少し沈黙が続くと大妖精が言う。

 

「断る。」

 

「まだ何も…。」

 

「協力する気はない。霊夢とかの然るべき人間に依頼しろ。」

 

突き放す言葉に大妖精は目を伏せた。

 

「博麗の巫女じゃ駄目なんです…!。」

 

大妖精は地面に膝と手を付いた。知恵が足りないとは言っていたが、こういうのは心得てる様だ。(以前人間がやっていたのを真似たのだ。)

 

「妖精の長なんだろ?。誇りはないのか?。自分の力でどうにかしろ。」

 

「私だけの力じゃ…お願いです…少しだけでも…。」

 

「羽根と顔を隠せ。」

 

顔を上げ一瞬、大妖精の表情が明るくなったが…。

 

「里の外れまで送る。早くしないと兵隊に突き出す。」

 

大妖精の手が砂を握る。やがて諦めた様に笠と籠を背負い始める。

 

「ありゃ、良いのかなぁ兵隊さん。妖精なんかと逢い引きして?。」

 

路地から四人の少年が棒切れ等の得物を持って現れた。先程スネークにガンを付けていたグループの一部だ。あの時は6人いたが、恐らく入り口で見張りに立っているのだろう。

 

「おい。そいつ手配書に書いてあったぞ。」

 

「しかも一番懸賞金が高い大妖精だ。良い小遣い稼ぎになるぞ。」

 

そう言いながらスネークと大妖精を囲む。どうやら妖精狩りを行っているのは兵隊ばかりでは無いようだ。

 

「なんで兵隊さんが逆賊と逢い引きしてるか解らんが、まぁ黙ってほしけりゃ、そこの妖精とお前の財布を置いてけ。」

 

置いてけと言われて大妖精の足が震える。それを少年達は見下す様に笑った。

 

(カツアゲされてるのか?。俺?。)

 

それに対しスネークはさほど危機感を抱いて無かった。

 

「何か言えよ。」

 

目の前に立っていた少年が言う。囲まれても余裕さをかもし出すスネークに苛立ったのだ。

 

「おい!。1人じゃ何も出来ないのかよ!。腰抜け兵隊が!。」

 

少年がスネークの胸ぐらを掴もうと手を伸ばした。

 

「おぉ?!。」

 

スネークはその手を取ると自分に引き寄せ、手首を返して叩き付けると同時に少年の体に鈍い感触が伝わり…。

 

「ぎぁぁぁぁ!?!?。」

 

絶叫、折られた手首を押さえてのたうち回る。

 

「伏せてろ。」

 

「え、え?。わぁ!。」

 

その光景にあたふたする大妖精をスネークは地面に突き倒した。

 

「この野郎!。」

 

棒切れを振りかざす少年。スネークは足下の砂を一掴みすると顔面に投げ付けた。

目潰しされ、怯んだ少年の腹部に蹴りを加える。苦しそうにうずくまった。その無防備な側頭部に蹴りを放つと気を失ってしまう。

二人並んで呆然としていた一人に間合いを詰め寄り、首を返し、倒れる勢いを利用して地面に叩きつけた。

 

「ひぃっ…!。」

 

スネークが残りの少年に向き直るとその少年ら怯えて腰を抜かした。

 

「なんなんだよ、お前は?!。」

 

一方的…あまりにも一方的過ぎた。見張りの二人も連れて来れば…いや、素手相手に四人係りでこの結果だ。対して状況は変わらなかっただろう。

一歩、スネークが詰め寄る。

 

「じょ、冗談だったんだよ…。」

 

見下ろすスネークに言う少年。

 

「何、マジになってんだよ…。遊びだったんだ。本気で妖精を捕まえたり兵隊さんをカツアゲする気は無かったんだ…。な?。見たとこ俺らと歳は同じだろ?。そういうの解るだろ?。だから!。」

 

言い逃れようと必死になる少年の顔面を踏みつける。顔を押さえながら転がる少年の首を掴むと頸動脈を締め付ける。

 

「がっ、た、助けて…。」

 

「遊ぶ相手が悪かったな。それと、お前らと一緒にするな。」

 

首が力なく傾く。締め落とされたのだ。

 

(す、凄い…。)

 

伏せながらもスネークの動作を見ていた大妖精はその強さに感嘆した。やっぱり、この人なら…。

 

(あれ?。)

 

スネークの格闘術、立ち振舞いに以前の記憶が蘇る。過去にも同じ様な物を見たきが…それに、落ち着いてスネークの顔を見ると何だか見覚えが…。

 

「ちっ!。」

 

スネークが舌打ちをして路地を見る。耳を立てると複数の足音がこちらに向かってくる。

 

「早く笠をかぶれ。もしかしたら兵隊かもしれない!。」

 

大妖精を急かすスネーク。兵隊と聞いて震える大妖精。素早く笠と籠を取り路地を走っていった。

彼女の姿がすっかり路地の闇に消えると同時に白髪に青い帽子を被った女性とその後ろに二人の少年の仲間が現れた。手首を押さえて叫ぶ仲間を見てギョッとしていた。

 

(綺麗な人だな。同時に面倒な事に…。)

 

「お前…!。私の教え子に何をしてくれたんだ…!?。」

 

スネークの内心で思っていた通り、女性は怒気で三白眼気味になった瞳でスネークを睨んでいた。

 

「…何か言ったらどうだ?。」

 

静かに問う女性。

 

「言っとくが最初にふっかけたのはこいつらだ。財布を置いてけとな。」

 

後ろに立つ二人の少年を見て言う。

 

「本当か?。二人供?。」

 

女性が振り返ると明らかに動揺した様子を見せる少年達だが…。

 

「ち、違うよ!。先生!。」

 

「俺らは…広場で妖精を連れて行った兵隊にムカついて…それで少しでも仇を討とうと…。」

 

「良くそんな嘘が言えるな。妖精狩りさんよ?。」

 

この言葉に顔を青くする少年達。

 

「どういう事だ?。」

 

怪訝な表情をする女性。

 

「聞いてみると良い。」

 

スネークは周りに倒れている少年達を指した。

 

「双方に意見が食い違ってるな…。」

 

慧音は少年達とスネークを交互に見比べる。

 

「いてぇ…いてぇよ、先生…。」

 

手首を折られた少年が慧音に助けを求めた。

 

「二人供こいつらを運んでやれ。話しはそれからだ。…逃げるなよ?。」

 

「「はいぃ?!。」」

 

二人は気を失っている仲間を表通りに運んで行った。

 

「待て。」

 

女性は別の道から出ようとするスネークを呼び止めた。

 

「お前も来い。寺子屋で話しを聞かないとな?。」

 

「さっき言った通りだ。カツアゲしてきたのを追っ払っただけだ。」

 

「過剰防衛じゃないか?。」

 

手首を折った事を言ってるのだろう。

 

「全員得物を持っていた。俺に非はない。じゃ、俺はこれで…。」

 

「待て。話しは終わってないぞ?。」

 

なおもひき止める女性だがスネークは無視して歩き出した。彼にはこの女性と話す理由はないのだ。

 

「お前…兵隊じゃないのか?。」

 

探る様な言い方だ。

 

「違う。こんな成りはしてるがな。」

 

歩みを進めるスネーク。今度は呼び止められる事は無かった。

博麗神社に戻ったスネーク。廊下を歩きながらふと自分の手を見る。少年の手首を折った時の感触を思い出していた。それだけではない。兵隊が妖怪に銃を撃った際の音や硝煙の匂い…それらはスネークに戦場の光景を思い出させていた。

 

「ははっ…。」

 

自然と笑みを浮かべていた。あの時、少しばかり気分が高揚しているのを自覚していた。

 

「ん?。茶の間が騒がしいな。」

 

茶の間の方から賑やかな声…と言っても声色は二つ。1人は霊夢。もう片方は魔理沙か。

 

「ほんと、どたまにくるなぁ!。あいつら!。」

 

「そーよそーよ…。ちょっと階級が高いからって偉そうに…。」

 

2人は何やらくだを巻いていた。

 

「ぃよう!。邪魔してるぜ伍長殿!。」

 

スネークに気付いた魔理沙が指を伸ばした右手をこめかみの辺りに持っていき、砕けた感じの敬礼をした。

 

「お帰り~。スネーク…。」

 

霊夢はチラッとスネークを見ただけで、すぐに徳利から酒を注ぐことに集中した。

 

「出来上がってるな…。」

 

畳の上を転がる徳利の数々…お摘みとして消えた朝食の残り物…。その他乱雑に置かれた物…誰が片付けるんだろう?。

 

「むぅ…もう空ね…。」

 

徳利を振る霊夢。酔いの回った足で立ち上がり棚の一升瓶を取り徳利に継ぎ足す。

 

「貧乏臭いことしないで直で注ごうぜ♪。」

 

魔理沙は別の一升瓶から二つの杯に並々と酒を注いだ。元の場所に座った霊夢は魔理沙と共に酒の注がれた杯を手にすると一気に煽り、ふぅ…と息を着いた。

甘味処での話しはまた今度にした方が良さそうだ。スネークはこの場から退出しようと襖を閉めるが、途中で引っ掛かってしまう。立て付けが悪いのかな?。あとで直さないと…。

 

(んな訳ないか…。)

 

襖は魔理沙が伸ばした箒の柄でガッチリ押さえられていた。

 

「話すことが幾つかあったわね。」

 

指で霊夢が対面を指す。そこに座ると猪口を渡される。先程継ぎ足された徳利で猪口を満たす。スネークは初めて、霊夢と魔理沙は二度目の乾杯をする。

ゆっくりと酒を飲む。

 

「辛口か。美味いじゃないか。」

 

「でしょ?。天狗達の酒造で作られた銘酒、風切りよ。」

 

思わず感嘆の声をあげるスネークに霊夢は言った。良く冷えた日本酒だ。外界にいたときには味わった事の無い物だった。それを霊夢と魔理沙一気に飲み干して空の椀をスネークに差し出した。勿体無い飲み方だと思いながらも交互に酌をする。スネークが徳利一本を空けた時、霊夢がおもむろに喋り始めた。

 

「なんで、飛んでこなかっただっけ?。」

 

スネークは手にしていた猪口を卓の上に置いた。

 

「飛んで来ないじゃなくて…飛んではいけないのよ。軍服を着た奴等が決めた規定…。」

 

なんでも、スネーク達が先程行っていた人里には軍事施設があるみたいだ。

 

「あいつらが決めた規定でね…人里の周辺、特に軍事施設があるとこでは制空権が儲けられ、その半径は飛行禁止されているのよ。」

 

「なんで飛ぶことを禁じられてる?。空を飛ぶなんて人間なら誰でも憧れで、しかも便利じゃないか?。」

 

少なくともスネークのいた外界では誰でも一度は夢みる事だった。もっとも、スネーク自身は空を飛びたいと思った事は無い。

 

「…幻想郷では空を飛ぶ事が出来るのは沢山いるわ。そんな特別の事じゃないのよ。そうね…。」

 

霊夢が空の杯を差し出す。スネークはそれに酒を注いでやる。喉を鳴らしてそれを飲み干す。

 

「ふぅ…痛い目にあったからでしょ?。空からあんなに攻撃されちゃ…。」

 

「痛い目?。」

 

いまいち要領を得ない喋りをする霊夢。

 

「昔ね…と言っても5年も経ってないんだけど、この幻想郷で異変が起きたのよ。私が体験した中でも一番大きな…。」

 

「異変?。…あぁ、ありがとう。」

 

横から魔理沙が酒を注いでくれた。異変…一度霊夢が言った単語だ。

 

「内乱みたいなものか?。」

 

「うーん…まぁ、スネークは異変と言うよりそっちの方が伝わり安いかな?。お、サンキュー。」

 

魔理沙の杯に返杯する。

 

「その異変はね…人間以外を排除し、人間の手により幻想郷を築いて行こうとする者達が起こした物…あれ?。なんだっけ?。何とか至上主義みたいな…。」

 

「人間至上主義か?。」

 

「そう!それ!。」

 

つまみを口に放り込み、咀嚼。

 

「その人間至上主義者達とそれに反する者達の異変。人間至上…面倒だから兵隊で良いわ。奴等は何の能力を持たない者達が大半だったから…空からの弾幕攻撃が厄介だったのよ。」

 

「航空攻撃か…。」

 

まだ記憶に新しい苦い思い出がスネークの中に渦巻く。

 

「兵隊達改革派…元来の幻想郷を維持する保守派の戦い…。鉄砲だなんだを持っていてもただの人間…勝負は目に見えていた筈だった…。」

 

酒を次ぐが杯とは検討違いの処に注ぎ、卓が酒で濡れた。だいぶ酔っ払ってる。魔理沙に止めるべきか目線を送った。彼女の杯はさっきから酒の量は減ってなかった。

スネークの目線に気付いた魔理沙は僅かに首を横に降った。スネークは溢しながら酒を注ぐ霊夢に徳利を差し出す。魔理沙が少し笑うと、私もと空にした杯を差し出す。スネークの対応は間違って無いようだ。

 

「最初は保守派が優勢だった。圧倒的にね…。当然よ…何かしの能力者や妖怪達を相手にしてるんだから。」

 

「そんな奴等がなんで負けた?。」

 

「覚えてる限りで強いて理由を上げるなら、三つ。」

 

そう言うと霊夢は3本の指を立て順に折っていく。

 

「一つは保守派の弱点を突いた兵隊達による各個撃破。二つは妖力を封じられたこと。三つは…。」

 

指を折った事で出来た拳が震えた。

 

「保守派の一部の裏切り。これが決定的ね。元々、結束力が今一の保守派は裏切りから瞬く間に壊滅。敢えなく降伏したって訳よ。そのお陰で能力者は呪術で力を制限…人間が住みやすい幻想郷創りに邁進って訳よ。」

 

人間の部分を強目に言う。

 

「妖怪や能力者は昔ほどの畏敬や畏怖を失い…。寝返った保守派以外は、今や兵隊…人間以下とされてるわ。」

 

「妖精の扱いは何故あそこまで酷い?。」

 

「話し疲れたろ?。それは私が答えるぜ。」

 

魔理沙が喋る。霊夢を気遣ったのか?。それともずっと黙ってるのが嫌だったのか?。

 

「妖精の扱いってのは昔から底辺の位置にあるんだ。まぁ、それだけでなく…兵隊達は妖精相手に酷く手を焼いたみたいなんだ。あいつら木端微塵になっても生き返るし、何より団結力が他の所より強かったからな。」

 

「生き返る?。」

 

大妖精が言っていた事だ。生き返ると言う事に疑問を感じてるのを察してか魔理沙が説明した。

 

「妖精ってのは…まぁ自然が具現化した姿って言えば分かり安いかな?。花には花の妖精。氷には氷の妖精がいるようにだ。」

 

「最近、霧の湖にいったか?。」

 

「!?。あんな所に用があるのかだぜ?。」

 

魔理沙はなんでこの会話に霧の湖がと言った表情だが、霊夢が何かに感ずいた様だ。

 

「霧の湖に行ったのね!?。」

 

「そんな暇なかったろ?。」

 

大妖精と接触したとは思われていない。

 

 

「…どこで聞いたか分からないけど、近づくのは止めときなさい。第一、招待状が無いと行けないわよ。あそこの吸血鬼は今は人間嫌い。人里の人間と分かったら殺されるわよ?。まっ、私と魔理沙は近づくのを禁じられてるから関係無いけどね。」

 

デリケートな内容みたいだ。魔理沙も同様の表情を取ってる。

 

「分かった。気を付ける。もう二つ。人里で妖怪?が放った光弾はなんだ?。あとそれを吸収した霊夢の…。」

 

「弾幕と結界のことね。」

 

うつらうつらしながら答える霊夢。

 

「弾幕はね、妖怪と人間の力量差を埋めるために考案した、スペルカードルールに基づいた決闘よ。最初に手の内を明かしあい、わざと避けられる様に隙間が作られているのよ。本来は命懸けである妖怪退治を擬似的に再現した…。」

 

(避けられる様に隙間?。擬似的?。)

 

違和感を覚えたスネーク。しかし、良い感じに酔っていたせいかその違和感を見出だせずにいた。

 

「聞いてる?。」

 

「聞いてるよ。弾幕については理解出来た。結界は?。」

 

「私の能力…とだけ言っとくわ。」

 

自信に満ちた表情だ。なんだか多少イラっと来るのは何故だ?。

 

「跳ね返すでは無く、吸収で無効かか。相当訓練したんだな。」

 

「…霊夢は修行なんかしてないぜ。」

 

魔理沙が言った。その言葉に刺が含まれているのをスネークは感じた。

 

「努力なんて報われない物よ。」

 

「…天才の戯れ言だぜ。」

 

この魔理沙の言葉は霊夢には届いて無かった。ただスネークは敏感に感じ取った。その言葉に、嫉妬と羨望が多分に含まれていたのを…。

スネークの快気祝いも含めて、突然に始まった昼間からの酒盛りは空が夕焼けに染まる頃まで続いた。

 

「よい…しょっと。」

 

スネークはすっかり酔い潰れた霊夢を敷いた布団の上に寝かせ、枕元に水差し、念のために桶を置いておく。隣の布団に目をやる。今日泊まる事になった魔理沙が寝る場所だ。彼女は今、茶の間の片付けをしている。

 

「ぅん…。」

 

小さく悶える霊夢。少しの間様子をみる為に傍らで留まる。心配無いと判断したスネークは後の世話は戻ってくる魔理沙に任せ自室の戻った。

自室に戻ったスネーク。それほど酔っていない為、窓際に座って本を開いた。外界から持ち込んだ、一冊で完結する、緑衣の勇者の物語だ。

 

「入るぜ~。」

 

魔理沙だ。片付けが終わって寝るものと思っていたが…。

 

「もうちょっと飲もうぜ?。スネークも酔ってないだろ?。」

 

どかっとスネークの隣に座る魔理沙。

 

「一緒にするな。自分の足元見てから言え。」

 

向けていた目線を本に戻すスネーク。魔理沙は座るまでの間、足が多少ふらついていたのを見ていたのだ。

 

「まぁまぁ…細かい事は良いんだぜ?。」

 

酒で満たされた杯を差し出される。開いたばかりの本を閉じ、それを受け取って乾杯を交わす。

 

「外界の本か?。」

 

二杯目を飲みきった魔理沙はスネークの傍らに置いてある本に目が行った。

 

「続きがあって、最新のやつか?。だったら幻想入りするまで時間が掛かるぜ?。」

 

からかう様に言った。

 

「この巻で完結だ。」

 

スネークはこういった一冊で完結する小説を好んで読む。傭兵稼業な為に行く先々で続巻が手に入るとは考えてないからだ。

 

「読むか?。」

 

「…いいのか?。まだ読み終わってないぜ?。」

 

本を魔理沙に手渡す。何回も読んでいるため途中で貸しても問題無かった。

喜んで本を受け取る魔理沙。早速物語の冒頭部分を読み始める。

 

「魔理沙。あの妖精達二人に助けを求めて…。」

 

「スネーク。」

 

途中で言葉を遮られるスネーク。

 

「頼む…それは聞かないでくれ。勿論霊夢にもだ…。」

 

目線を本に落としたまま言う魔理沙。

 

「なぁ…スネーク。努力って本当に報われないのか?。」

 

栞を挟んだ本を傍らに置いた魔理沙は普段とは違う神妙な声色で尋ねた。

 

「何をもって報われたとするかだ。結局、自己満足だと思う。」

 

「なんだそれ。」

 

期待していた答えとは違う様だ。

 

「スネークはどんな時にそう感じるんだ?。」

 

この問いに言葉を選びながら答える。

 

「他人より早く銃を照準したとき。その日を生き延びたとき。少年兵の時は毎日こんな感じだ。」

 

敵と殺害の事は濁した。たぶん、魔理沙達には伝わり難いと感じたためだ。

 

「お前、凄いんだな!。」

 

思いあたる部分があったのか、魔理沙は笑顔で言った。

 

「よぉし…酒も無くなったし寝るかな!。」

 

そう言うと衣服を緩め、魔理沙は押し入れからスネークの布団を引っ張り出してそれにくるまった。

 

「魔理沙の寝床は霊夢と同じ部屋だろ?。」

 

「堅いこと言うなよ…昔は霊夢と三人一緒に寝た事もあるだろ?。」

 

「それは…。」

 

「分かってるよ。ただ、そんな気がする。それだけたぜ。霊夢もああ言ってるし、間違いないんだ…。」

 

 

(霊夢も時々、こっちの顔を見てるときがあったな…。)

 

まるで何かを思い出す様に…暫く見たあとに頭を抱えていた。一度聞いた事があったが無理に思い出そうとすると頭痛がするようだ。

 

「スネーク…。これは寝言だ。今日行った人里…稗田屋敷がある…そこの阿求を訪ねれば…。異変の事が…。」

 

少し経つと寝息が聞こえた。本当に寝たようだ。

スネークは物音を発てぬように部屋を出て茶の間に向かう。

 

「魔理沙は掃除とか片付けが苦手だな…絶対。」

 

そこは片付けと言うより物を隅に寄せて歩くスペースを作っただけの状態だった。まさかと思い台所も確認してみると流しに洗い物が突っ込んであるだけ…。

 

「やっぱ俺が片付けるのか…。」

 

茶の間にはスネークの溜め息が虚しく響いた。

 

 

 

翌日、日の入りが始まったばかりの人里…とある一角佇むに大きな屋敷。

 

「ここが稗田屋敷か。」

 

大きな門に塀に囲まれた如何にも日本の屋敷だ。スネークは門を叩く。今日は霊夢も魔理沙もいない。大量の酒が入った二人は朝早く目覚める筈が無かった。また、昨日の出来事もあるので一人の方が都合が良かった。

 

「…はい。」

 

程なくして門が開かれ、10歳辺りの少女が顔を出した。起きたばかりなのか眠たそうに目を擦っていた。

 

「朝早くにすまない。稗田阿求殿にお願いがあって来た。」

 

「霖之助さん?。」

 

「違う。これは貰い物だ。」

 

寝ぼけ眼でスネークを見つめる少女。今日のスネークの服装は以前、霧雨道具店で修行をしていた霖之助と呼ばれる人の服を着ていた。青を基調としている服はそれなりに目立つが迷彩服で訪れるよりはましと判断したのだ。

 

「失礼しました。どうぞ御上がり下さい。」

 

客間に通されたスネーク。使用人と思われる人が…霊夢が淹れるより大分濃いお茶を飲みながら阿求と言う人を待つ。

 

「どうもお待たせしました。」

 

門でスネークを迎えた少女が向かいに座った。…阿求はまだかな?。

 

「お兄さん。外来から来た人ですね?。」

 

表には出さなかったが少し心拍数が上がってしまった。疑問系にはなっているが確信を着いてる様子だ。事実、僅かに顔をしかめてしまっていた。

 

「面白いことを言う子だ。何を根拠に?。」

 

「私の能力は一度見た物を忘れない程度の能力。人里の人の事は全て記憶しています。。」

 

「君にとって初見の人間は皆外来人か…。」

 

「それに…申し遅れましたが私が稗田家当主、稗田阿求です。」

 

会釈をする阿求。スネークはそれに答礼した。成る程、人里でこの少女を知らない人はいない。その本人に阿求を訪ねたのだ。…スネークが外来人と推測される要素はあった。

 

「今はどちらにお住まいで?。」

 

「今は博麗神社に居候させてもらっている。」

 

「博麗の巫女さんが…。」

 

「珍しいのか?。」

 

「はい…最近では…。霊夢さんの出すお茶、薄くはありませんか?。」

 

確かに、久々にまともな濃度のお茶を飲んだ。

 

「朝早くからどんな要件で?。あ、もしかして住まいと職の紹介をして欲しいとか?。」

 

阿求は朝早く訪れたのも関わらず嫌な顔をせず要件を尋ねてくれた。昨日断念してしまった職と住居を紹介してくれると言うのだ。願ったり叶ったりだが今日は目的が違う。

 

「幻想郷…ここ五年以内の異変について記してある書物を閲覧したい。」

 

はっきりと阿求が困った様な顔をした。

 

「…すみません。それについては閲覧させる事が出来ません。」

 

「何故?。ここでなら、詳しく知ること出来ると聞いたが…。」

 

「はい。その通りです。多分、お兄さんが知りたいのは人間至上主義者、兵隊さんと幻想郷保守派の異変でしょう。ただ…資料がここには無いのです…。その、兵隊さんが異変に関する資料に制限を掛け、さらに根こそぎ接収してしまいました。」

 

目を伏せる阿求。想像の中で溜め息を着くスネーク。

 

「すみません…。写本はあるにはあるんですが…。」

 

「ここには無い…か。いや、これから住む世界の事を知っとこうと思っただけだ。気に病まないでくれ。」

 

無駄足になってしまったスネーク。

 

「これからは?。」

 

「ん、いや帰ろうかと…。」

 

目的が果たせないなら早く帰った方がこの家の為だろう。これから使用人達が忙しく動き回る。部外者のスネークはその人達にとって邪魔でしかない。

 

「あの、宜しければ蔵所を見ていきませんか?。」

 

「うん。折角だから是非。」

 

スネークは稗田家の蔵所に案内された。錠を開けた蔵所には膨大な量の書物が詰め込まれていた。

 

「検閲は済ませてあります。この中には閲覧して罪の問われる書物はありません。では暫くしたら来ますので…。」

 

換気の為か蔵所の入り口を開いたまま阿求は母屋に戻っていった。スネークは沢山の書物の中から目的に近い物、興味を惹いた物を手に取り、阿求の仕事場と思われる座敷に上がり、書物を読む。中には字が古い等読みづらいのもあった。

 

「大尉達に感謝だな。」

 

日本人とのハーフであるハインはスネークを拾った日から国籍不明の彼を日本人と定め、暇を見ては日本語を教えてくれた。そこから読み書きが出来た喜びからノー・ホルスに所属する各国籍の傭兵達にイギリス、中国、ロシア語と様々な国の語学を学びに行った。お陰で各国に潜入した際に言葉に困る事が無かった。

 

「ん?。なんだ?。」

 

幻想郷の気象を示した書物を流し読みし、次の書物を取るとそこには折り畳まれた一枚の紙を見つけた。開いて中を確認。青で色付けされた凸マークが横一列になって陣形を成していた。

 

「これは…作戦…図?。」

 

スネークが外界で良く見ていた物より時代かかってはいたが、それは立派な作戦図だった。障害構築位置や砲弾の火力集中地点と思われる記号が書き込まれていた。

 

「なんだか簡易的だな…。」

 

作戦図を読み込んで感じた感想だ。規模の割には平押しの様な動きが多い。人数と物量で力押し。何かの拍子に形勢が逆転しそうな、危うい作戦行動だ。

自分ならどう部隊を動かし、狙撃兵、諜報員としてどのように潜入するかと考察していると人の気配を察知。その方向を見ていると阿求がお盆を持ってやって来た。

 

「こちらに居ましたか。朝御飯、宜しければご一緒にどうですか?。」

 

盆の上には握りたてであろうおにぎりと湯気を立てた味噌汁が載っけられていた。

スネークは読んでいた書物を整頓。阿求と共に朝食を採った。

味噌汁を啜る。最早当たり前の行動となった毒味も忘れない。

 

「これ、異変の時の物か?。」

 

食事が終わるとスネークは先程の作戦図を阿求に見せた。

 

「…はい。約三年前に起きた異変の際、観戦将校として私が記した物です。」

 

「話して貰う事は出来ないか?。」

 

「すいません。異変の事については兵隊さんから箝口令が…。多くは…。」

 

阿求はすまなそうに下を向いた。

 

「わかった。当たり障りの無いと判断したら答えてくれ。この作戦を考えた奴は素人か?」

 

「違います。妖怪の賢者…確かな実力者がこの作戦の指揮を採りました。その人はこの陣形をとらざるを得なかったんです。」

 

「何故?。」

 

「この幻想郷には名だたる実力者が沢山います。その実力者達がこの異変を期に自分達を使い潰そうと指揮官が画策してると噂が流れたんです。」

 

信頼を得られなかった指揮官は綿密な作戦計画を経てる事が出来ず、お互いの状況が掴みやすい単純な陣形をとるしか無かったみたいだ。

 

「まぁ、その指揮官も普段は胡散臭さ満載でしたから…。」

 

「霊夢と魔理沙はどこまで関わってる。」

 

「…二人は各小隊の少尉として指揮、陣頭に立っていました。特に霊夢さんは重要な位置にいました。」

 

スネークを諭す様に阿求は顔を横に反らし、これ以上の会話を拒否した。

心付けとしてスネークは彼女に甘味処で食事が出来る程度の小遣いを渡した。驚いた阿求は返そうとしたが…。

 

「子どもが遠慮するな。一人で多いと思うなら友達と行け。お邪魔した。」

 

「ああ、待ってください!。」

 

阿求はスネークを呼び止めると紙に筆を走らせる。墨が乾くとそれを封書に入れて、稗田家の印璽を入れるとスネークに手渡した。

 

「紹介状です。紅魔館の大図書館に写本があります。…兵隊さんも知らないのでご閲覧したことはご内密に…紹介状は処分するようお願いします。」

 

「…ありがとう。気が向いたら行ってみるよ。」

 

スネークが去ってから阿求は暫く、昔の記憶を思い出していた。それは先代の稗田家当主、阿礼の記憶…妖怪と蓬莱人に囲まれ幸せそうに笑う男の子。

 

「何かの縁でしょうか?。まさか、また…。」

 

幻想郷の歴史を頭の中に巡らせる。何代前の稗田当主だろうか?。幻想郷の境界がまだ外界と繋がっていたころ…妖怪の賢者、当時の博麗の巫女。そして…。

 

「記録に残さず、口外せず。」

 

それは幻想郷でも極限られた者しか知らない歴史。

阿求はスネークに渡された小遣いを握り締めた。

 

 

 

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