東方戦記録   作:戦車狙撃兵

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「みんなを…お願いします…。」

自ら顎の下に銃口を突き付けた妖精は目の前の蛇に願いを託し、引き金を引いた。

「ねぇ、着いていって駄目?。」

何かを見出だした宵闇の妖怪は蛇に誓いを建てた。

「確かに…お前の言う通り、得にならない依頼、作戦だ。だが納得はしている。お前と違ってな。」

作戦地域で敵対した刀を振るう少女に蛇は言った。


幻想郷での初任務

神社や山々の桜の花が散り、すっかりと新緑に染まった幻想郷。スネークが幻想入りしてから1ヶ月が経とうとしていた。

 

「…少し狩猟が長引いた。」

 

そのスネークは神社の庭で正座をしていた。傍らには狩猟に使う手製のコンパウドボウ、人里で手に入れた状態の良い軍用背嚢。その中には燻製にした猪の肉、牙、毛皮、山菜等が詰まっている。大きな獲物だった。二日間の追跡の末、ようやく仕留めたのだ。戦果も上々で神社に帰宅すると石階段の頂上で霊夢の仁王立ち。そこから今の現状だ。

 

「ふーん…。で?。」

 

霊夢は縁側にスネークを見下ろす様に座り、何杯目になるか分からないお茶を飲み干した。スカートから伸びる脚は苛つきを表す様にプラプラさせている。帰ってくるや否や霊夢は大層ご立腹の様だ。スネークは狩猟服の上に着たギリースーツを脱ぐこと、フェイスペイントを施した顔を洗う事も許されず正座していた。

 

(で?って言われてもなぁ。)

 

スネークは何故正座させられているか分からない。魚や大豆の他に貴重なタンパク原である獣肉を確保したのだ。怒られる理由は無いと思う。

 

「何か一言あって良かったんじゃないの?。」

 

理由を模索していると黙っているスネークに耐えかねたのか霊夢が口を開いた。

 

「ああ、それか。」

 

狩猟に行く日の早朝…霊夢はまだ就寝中だった為、何も言わずそっと神社を出た。だがそれは霊夢を起こさない様に気を使った行為。そして、狩猟に行く事、朝が早い事は前もって報告した。その事を言うと霊夢は少しの間を置いて、あっと顔をしかめた。忘れていた様だ。

 

「か、書き置き位しときなさい。」

 

「理不尽だ…。」

 

「何か言った?。」

 

「はいはい…すみませんでした。」

 

 

これ以上反論したら面倒臭そうになりそうだ。立ち上がったスネークは部屋に戻る前に井戸に向かい水浴びをした。酷いとまでは言わないが四日間、狩猟を続けた体は汚れていたのだ。狩猟している最中は風呂は勿論、水浴びすらしていなかった。スネーク自身はそれほど大した事では無かったが霊夢はどうか分からない。家に上がる前に体を手入れしといた方が正解だろう。臭いと言われるのも癪だ。外界で言えば5月位の時期とは言え、井戸水はまだ冷たい。今はそれがかえって気持ち良かった。手拭いでフェイスペイントを落とし、もう一度頭から水を被る。頭を軽く振って水気を飛ばす。

 

「毎日いるな…。」

 

体に着いた水気を拭きながらスネークは空を見上げた。今日も羽の生えた人らしき飛行体が神社の上空を旋回していた。毎日監視をしているみたいだ。大体日が暮れてくると撤退していく。本質は鳥に近い為だろう。推測に過ぎないが夜は視力が著しく落ちるのかもしれない。

 

「所詮鳥なのか?。ふぁ~ぁ…。」

 

さっぱりしたら睡魔が襲ってきた。追跡の間まともに寝て無かったのだ。成果の詰まった背嚢を見つめる。燻製は台所の冷暗所に納め、山菜は灰汁抜きをしなければならない。牙や毛皮は人里に売りに行こうかと思っていた。

 

「面倒だなぁ…。」

 

霊夢に任せて仮眠を取るか迷った。幾分か悩んだ結果、結局自分でやる為、台所に向かった。

 

「あ、スネーク…。」

 

燻製肉を冷暗所に格納し、床板を閉じた処で霊夢が来た。

 

「何か手伝う?。」

 

気まずそうに尋ねた。さっきの事を引きずってるようだ。

 

「いいですよ…少…。」

 

少尉殿と言おうとした処で言葉を飲み込む。少尉の単語を思い出すと部隊を死に追いやった原因のあの少尉を思い浮かべてしまう。霊夢からは見えていないがスネークは今、睡魔もあってか酷く不機嫌な顔をしていた。

 

「んじゃ、頼んでいいか?。背嚢に入っている山菜の灰汁抜きをしてくれ。」

 

山菜等の下処理は霊夢の方が上手いだろう。

 

「休んでて良いわよ?。あとはやっとくから。」

 

霊夢は背嚢から取り出した山菜を水に着ける。

 

「助かる。肉は好き使うと良い。暫くは持つ。それじゃ、休ませて貰うよ。」

 

自室に入るとスネークは大の字に寝転がる。今日はこのまま寝てしまおう。人里へ売り出しに行くのは明日でもいい。眠りに落ちる前にふと、幻想郷に来た時に魔法の森で接触した武道服の女性を思い出す。あの状況で良く確認してはいないが、かなり美人な人だった。確か宜しければ紅魔館へって言ってたな…。

 

(稗田当主からの紹介状もあるし…。)

 

その紹介状は部屋にある引き出しに入っている。この機会だ。近々言ってみよう。道中、妖怪に襲われた時の為に銃は携行するべきか?。それと紅魔館の主は人間嫌い…。訪れるならそれなりの礼は必要か?。

 

(まるで…遠足だな。)

 

危険な場所なのに心が湧くのは何故だろう。危険だからか?。それとも自分は大丈夫という自意識過剰からか?。まともな精神では無いかも知れない。

遠足と言う気分が抜けたのは霧の湖と名無しの大妖精の事が頭に浮かんでからだ。経路によるかもしれないが必然的に曝されてる死体を見る。それと、あの大妖精は無事でいるだろうか?。たまに買い出しで人里に行くが手配書の人相書きは塗り潰されて無かった。

 

(ねむ…。)

 

考えるのを止め、眠りに着くことに集中する。数分後には寝息をかいていた。

 

とある広々とした丘…一人の子どもがそこに呆然と立っていた。

 

「こんな所にいたのね?。」

 

背後からの声に振り向くと空間の裂け目から一人の女性が這い出てきた。日傘を手に持った女性は子どもの前に立つ。

 

「突然フラっと何処かに行く…ほんと、その部分はあの人そっくり。」

 

手の掛かる子ねぇ…とぼやきながらも表情は笑っていた。女性は子どもの手を取ると現れた時と同じ空間に裂け目を作る。

 

「そんなに遠くないから歩きましょう。皆、待ってるみたいだけど。」

 

裂け目を閉じると子どもと手を繋ぎながら歩き出した。片手にある日傘を上機嫌にプラプラさせている。

子どもが女性を見上げてると、視線に気付いたのか子どもの方を向く女性。その口がゆっくりと言葉を紡ぐ。

 

「何しに来たのよ!。」

 

急に世界が切り替わる共に意識が覚醒するスネーク。部屋は暗くなっており、夜の時間帯であることを示していた。今まで見ていたのは夢だと理解するまでに時間は掛からなかった。

 

「なんなんだ?。」

 

夢の内容が気になりつつも枕元に常備している拳銃とナイフを握り込む。訓練の賜物だ。スネークの拳銃は左手に逆手持ちのナイフはグリップにフィットするように改造されていた。

声は縁側から聞こえた。声の主は霊夢だ。外から縁側の方に回り込む為、部屋に置いてある予備のブーツを履いて窓から外にでる。警戒しながら縁側に向かう。この間にも霊夢が声が響いてた。

 

「何度も言ってるでしょ!?。スネークなんて人ここにいないわ!。帰って!。」

 

「そんな筈ありません!。お願いです!。スネークさんと話しをさせて下さい!。」

 

騒ぎの場所に着くと霊夢に負けじと地面に手を付いて声を張り上げる少女がいる…大妖精だ。

 

「す、スネーク…。」

 

気付いた霊夢が驚いた様にこちらを向く。

 

「スネークさん…!。」

 

大妖精が足下にすがり着いた。彼女の姿は衣服がボロボロ、片側の羽が無く、部屋から漏れる明かりで見える顔は痣等の殴打の痕跡が確認出来た。そしてスネークの嗅覚では大妖精から血の匂いを感じ取った。見れば左肩を撃ち抜かれていて出血したあとがある。スネークにすがり着く左腕からは全く力が感じられなかった。聞けばまた仲間が妖精狩りにあったようだ。それを救出しようとしたが失敗。救出に加わった仲間は逆に捕まってしまい、大妖精も捕まり暴行を受けたが羽を犠牲にする事で逃げる事に成功…肩の銃創はその時に撃たれたものらしい。

 

「そのまま逃げてきたのか?。」

 

だとしたら追撃部隊が来る可能性がある…!。

大妖精は首を横に振る。逃げ切ったは良かったが羽を千切った痛みと肩の痛みで気を失ってしまったみたいだ。

 

「皆を助けるために…必死に考えました…。けど駄目だったんです…お願いします…力を貸してください…。」

 

大妖精がスネークを見上げる。人里で会ったときより更にやつれていた。目には正気が籠ってない…壊れてしまいそうな感じだ。

 

「駄目よスネーク。力を貸すことは出来ないし…貸す気もないわ。」

 

「博麗の巫女には頼んでいません!。」

 

協力は出来ないと言う霊夢に大妖精は言った。あまりの迫力に圧されてしまった。

 

 

「お願いします…。」

 

大妖精は額を地面に着けて懇願した。スネークは霊夢に視線を送る。彼女は黙って首を横に振る。

 

(新たな人生を選ぶなら、この問題に首を突っ込まない事だ。)

 

協力する気はない…。人里でも大妖精にこう断言した。なのにスネークの内側では良くわからない感情が渦巻いていた。ここで大妖精への協力を拒んだら酷く後悔してしまう気がしてならなかった。

 

(なんだ?。このムカつきは?。)

 

スネークは自身の心臓の辺り掴んだ。なんでそうしたかは分からない。ただ、こうしなければ内側で渦巻く何かが暴れだしそうな気がしたのだ。

 

「スネーク…!。」

 

霊夢が焦れたように言った。それを意図的に無視した。

 

「私に出来ることなら何でもします…。だから…。」

 

「…何でもするって言ったな?。」

 

スネークは土下座する大妖精に向かって言う。

 

「!?。はい!。」

 

大妖精の目に一瞬光が戻った。だが、それもスネークの次の要求で絶望に染まる。

 

「なら、残った羽を俺に寄越せ。」

 

残忍に笑って見せた。

 

「妖精の羽は良い金になるからな。」

 

(まぁ、追い返すなら良い案ね…。)

 

羽は妖精の体の一部。人間で言えば手足を自分で潰せと言うのと同様だ。いくら再生すると言えどそんな要求のみはしないだろう。

しかし、霊夢の思惑は見事に外れる事になる。なんと、大妖精が残っていた羽を引き千切りはじめた。苦痛を上げながらも自らの羽を千切る事を止めない。

 

「うぐ…うわぁぁぁ…!!。」

 

半分まで千切れたところで一息に引き千切る。大妖精は血が根元に生々しく残る羽を差し出した。

大妖精の前に拳銃が差し出される。もともと頭の良くない大妖精は何の事か分からずスネークの顔を見上げる。

 

「次は君の命だ。なに、痛いのは一瞬だ。」

 

「そ、そんな…。」

 

大妖精が再び絶望する。後ろで霊夢が軽蔑を込めた目で見ているのが分かった。

 

「羽を千切ったのが意外なのね。意味無いわよ。羽は再生するし、妖精はまた生き返るわ。妖精にとっては死ぬのは双六で言う一回休みと同じよ。」

 

双六と言うものをスネークはやったことがないが大体理解出来た。ゲームで言う残機が減るのと同じだろう。しかし、スネークはそう思わなかった。そしてそのやり方も知っている。

前では大妖精が震える手で拳銃を受け取り、スネークが撃ち方を教えた。

大妖精は顎の下に銃口を当てる。血の気が引いて、自分の顔が青くなっていくのが分かる。

銃口を一旦外す大妖精。

 

「早く引き金を引け。それとも、君の覚悟はその程度か?。」

 

「やれば…皆を助けてくれますか?。」

 

「さぁな?。君の死に様次第だ。だが、やらなきゃ協力しないのは確かだ。」

 

大妖精はここで死ねば何となく生き返らないと自覚していた。…もう、生きていくのが嫌になってきていた。このままただ虐げられるだけの幻想郷なら、生き返らない方が楽であった。

嗚咽を上げながら大妖精は泣いていた。スネークはそれを見下ろしていた。

 

「趣味が悪いわよ…!。羽も手に入ったんでしょ?。叩き出せば良い話しじゃない!?。」

 

堪らなくなった霊夢が目を背けながら言う。

 

「皆を…よろしくお願いします。」

 

泣きながら大妖精が再び銃口を顎の下に当てた。

 

「約束を守るとは限らないぞ?。」

 

「良いんです…こんな世界にいるなら…先に行った皆と一緒にこれから来る仲間を待ちます…。」

 

しゃくりをしつつ拳銃を保持する大妖精。ふと股間に暖かさを感じる。失禁してしまったのだ。顔を上げると星が綺麗に輝いていた。

 

(あ、綺麗なお星様…。)

 

ここ暫く、星なんて眺めて無い。星空を眺めているうちに大妖精は引き金を引く指に力を込めた。

夜の博麗神社の庭に銃声が鳴り響いた。

 

「どういうわけ?。」

 

霊夢は気絶した大妖精を抱き抱えるスネークに言う。大妖精は彼の腕の中で小さく息をしていた。生きている。

顎の下に当てていた銃口を引き金を引ききる寸前でスネークが横に払いのけたのだ。髪が幾らか銃弾に持っていかれたが大妖精自身には傷は付いていない。

 

「仲間を救う為何でもすると言った。本当かどうか確かめる必要があった。」

 

「協力する気?。」

 

「そういう事だ。」

 

まずは大妖精の怪我の手当てだ。傷の洗浄の為、井戸の付近まで運ぼうとするスネークの腕を霊夢が掴んだ。

 

「止めときなさい。」

 

スネークは霊夢に向き直り彼女の目を見て続きを促す。

 

「人里での出来事は覚えてるでしょ?。」

 

仲間を取り戻そうと行動を起こした妖怪と妖精の事を言ってるのだろう。

 

「ハインはこんな時どうしてた?。」

 

 

「お姉さんはもっと上手くやってたわ。脅したり、羽をもがせるような酷い事はしなかったわ。」

 

たぶん、そういう所を見せなかっただけだ。

 

「もう一度言うわ。妖精は自然の権現。例えば木っ端微塵なっても再生するわ。」

 

「それが幻想郷の常識か?。」

 

頷く霊夢。

 

「そうよ。それに、仲間も無しに…一人で何が出来るのよ。」

 

「確かに仲間はいない。ただ最も信頼する物がある。」

 

スネークの指先がゆっくりと腰元の拳銃を指した。

 

「この幻想郷と言う異世界で何よりも信頼出来るのは…ハイン、霊夢の言うお姉さんに教えられた戦闘技術と知識、あとはこれだ。」

 

暗に言えば、今日まで一緒に過ごした霊夢を信頼していないと言うことだ。現にスネークはハインを背後に見る霊夢と魔理沙に気を許したつもりは一度も無かった。

 

「霊夢の常識が非常識までとは言わないが、いつか足元掬われるぞ。」

 

「ちっ…!。…勝手にすれば。」

 

母屋に上がる霊夢。姿が見えなくなるまで見送ったスネークは大妖精を井戸の近くまで運び、ゆっくりと地面に横にする。医療キットとライトを取りに一旦自室に戻る。

 

「あの時…キュアに貰った物がこんな所で役にたつなんてな…。」

 

取ってきた医療キットを使い、左肩の傷の具合を見る為に袖を捲る。綺麗に銃弾が貫通しており、体内に弾が残ってる可能性は低そうだ。傷口の消毒、縫合をしていると大妖精がうめき声を出しながら意識を取り戻した。

 

「スネークさん?。あれ、私…?。」

 

「君は運が良いよ。あんな距離から外すんだ。」

 

実際はスネークが反らしたのだが。混乱している様子の大妖精。正直、そのまま気絶していて貰った方が治療が楽であったが。

 

「服を脱いでうつ伏せになれ。一人で脱げるか?。」

 

起きたなら治療の為に協力して貰おう。スネークは大妖精にその指示をしてから背を向けた。後ろでは大妖精自身が衣服を脱ぐ音が聞こえる。

 

「お、お願いします。」

 

振り向き、背中の羽の付け根に当たる部分の治療をする。消毒の為に水を流したり、軟膏を塗る。その度に傷が滲みる大妖精は苦痛の声を上げる。

背中の傷に止血帯を付けようとしたところで気付く。

 

「体を洗っとけ。残念だが風呂は我慢してくれ。」

 

漏らしたままじゃ気持ち悪いだろう。風呂は用意出来ない事は無いが傷が熱を持つと良くない。大妖精が体を洗ってる間に暖めた手拭いを用意する。台所に行くために茶の間の近くを通るが明かりは落とされている。霊夢はあの後自室に籠ってしまったみたいだ。夕食を作っている途中だったのか?。鍋の中にある湯はまだ暖かいままだった。その湯に二枚の手拭いを浸し、絞る。それを持って井戸に向かうと大妖精が衣服を洗っていた。時折、鼻を近付けては臭いを確認していた。

 

「洗い終わったか?。」

 

驚いた大妖精は衣服で前を隠した。その気は無いのだが…。

手拭いを渡し、別の方向を向く。大妖精が体を拭き終わるのを待って、背中に止血帯、包帯を巻く。その際に脇を開ける様指示したが恥ずかしそうであった。それが終わると自室に連れていき、先月、霧雨店で譲って貰った服を着せる。サイズは勿論合わないがゆったりして傷に触らなくて良いだろう。

 

「あ、あの…どうして?。」

 

着替えた大妖精が口を開く。

 

「覚悟は見せて貰った。あそこまでやらせて無下には出来ない。」

 

嘘だ。大妖精に課した行為は言わば協力するスネーク自身の理由付けだ。あの時、胸中に渦巻く何かがなければ羽を千切らせる事も拳銃を貸す事もなく追い返していた。最悪、スネークが止めを刺していた。

 

「何でもすると言ったからには大妖精…君にも協力して貰う。俺の指示には必ず従ってくれ。それと、俺は傭兵だ。あれとは別に報酬は頂く。良いな?。」

 

確認ではなく決定事項だ。大妖精ははいと返事をする。

 

「理解したなら寝ろ。明日は早い。布団は一つしかないから使ってくれて構わない。」

 

スネークにはまだやることがあった。

 

「あの…スネークさん。」

 

「まだなんかあるのか?。」

 

こうして何時までも終わらない会話をしているとゲリラ兵時代を思い出す。不安で落ち着かない少年兵が誰か捕まえて駄弁る時があったのだ。

 

「ありがとうございます…お休みなさい。」

 

うつ伏せになって布団に潜る大妖精。様々な事があった為か規則的な寝息が聞こえるまで幾らも掛からなかった。

スネークは押し入れを開け、無断で改造した隠しスペースから狙撃銃の入ったガンケースを取り出した。中身を開け、銃を分解して手入れを始めた。

 

「異常無し…。」

 

銃腔を通し、結合して居銃する。彼の愛銃であるM700カスタムは異常なく作動していた。ガバメントは先程撃って動作は確認するまでもない。リボルバーは弾が無いので置いていこうとしたが、これから兵隊を相手にする中で手に入る可能性がある。サイドアームの予備として携行して行く。

 

「ありがとう、か…。」

 

ナイフに砥石を当てて鞘に戻すとき、ふと大妖精の言葉を口にする。お礼を言われる事はしていないつもりだ。

 

(今度は人が相手か。)

 

命のやり取り…久々の感覚だった。最近、生活に物足りなさを感じてしまっている。青春を知らず、幼い時から戦争に身を投じたせいか?。

 

(後悔はしていない。)

 

スネークはその時代を悔やんではいなかった。ゲリラ時代ではそれしか生き残る術は無かった。ハインと出会ってからは兵士として人間らしい生き方を学んだ。

 

(俺には…この生き方しか…)

 

スネークは頭を振った。まだ答えを出すには早い。今回、傭兵としての依頼は偶々だ。毎回来るもんじゃない。

スネークは背嚢から防水ポンチョを引っ張りだすとそれを掛けて眠りに落ちた。明日からやることが沢山ある…感覚が兵士の物に戻りつつあった。

 

 

 

「ほぉ~…これは上物だねぇ…。」

 

 

「雉射ちをしている時に見付けた。妖精の羽は良い薬になるだろ?。」

 

幻想郷の普段着に身を包んだスネークは人里が賑わい始めた頃、大妖精の羽を薬剤師の所に持ち込んでいた。妖精の羽が良薬になるというのは外界でやっていたゲームで得た知識だ。

 

「正確には羽から出る燐粉が薬になるんでさ…。羽自体からも作れない事は無いんじゃが、他の用途に使われるのぉ…。」

 

薬剤師によれば妖精の羽が出回るのはそれほど珍しい事ではないらしい。妖精の縄張りの近くでは良く抜け落ちた羽が有るみたいだ。ただ、拾いに行く人間が稀だそうだ。薬剤師は手にしている羽に感心している。仕切りに良い品だと呟いている。

 

(まぁ、新鮮って言えば、新鮮だな。)

 

何せ千切り立て、そして妖精の中で一番力のある大妖精の羽だ。

 

「丸ごと買ってくれるか?。」

 

スネークの提案に薬剤師は首を振る。一番欲しいのは燐粉。羽自体は仕立屋か装飾品屋。又は羽自体からも効能の高い薬を精製可能な永琳に売った方が金になると言う。

スネークは燐粉を払い落とした羽と料金を受け取り、その金で在庫処分になりそうな塗り薬や解毒剤を安く買い上げた。羽は次に寄った仕立屋兼、被服を販売している店に売る。ここでも高い値で買い取って貰った。

永琳に売れば更に高く売れただろうが彼女の所在を知らなかった。

 

「すみません。これは?。」

 

スネークは陳列されている被服に訊ねた。

 

「ああ、それは外界から流れ着いた服だよ。そこに並べてあるのはえっと…じーんず?だったかな?。これなんて兵隊が着ているのと同じ服だよ。」

 

幻想郷で一般的に使用する被服の中に外界で見た服が混じっている。外界での移り変わりの激しい流行の中で廃れたしまったデザインの服が流れ着いたのだろう。需要はあるのかと聞くと里の若者や外来人等がたまに買ってくそうだ。

二、三組の被服とブーツを取って会計を済ませる。スネークは壁に掛けてある特価品に目が行った。

 

「良かったらオマケするよ。ただし返品はご勘弁してください…。正直、処分に困ってるんだ…。」

 

 

 

 

 

スネークはとある森の中にある妖精の住処に向かっていた。着いたのは草や蔓が複雑に絡まりドーム状になった家だ。スネークが通るには些か小さいが扉まで付いている。家と言うより少し立派な秘密基地といった感じだ。

 

 

「お帰りなさい。」

 

中に入ると大妖精が出迎える。内装は人間が住む所とほぼ変わらない。ただ物が妖精使用に小さい事を除けばガラクタが隅に溜まってる位だ。スネークが生活するとしたらやはり狭い。元は大妖精の家では無く、過去に兵隊に捕まった彼女の友人である妖精の家だと言う。大妖精の家はここより大きく、最初はそこに案内されそうになったがスネークがそれを拒んだ。大妖精を捕らえようとする兵隊や小遣い稼ぎが待ち構えてるかも知れないからだ。逆を言えば捕まえた妖精の家などは興味が向かなくなる。

 

「薬を塗り直すぞ。」

 

そう言うと大妖精は恥ずかしながら衣服を脱いだ。肩、背中と手際良く処置していく。種族が違うせいか回復が早い。浅い傷口等はもう塞がってしまっている。包帯を巻き終える大妖精は着ていた衣服を着ようとするが…。

 

「まて。新しい着替えだ。こっちを着ろ。」

 

衣服は昨日、神社で着せたサイズの違う物のままだ。家の主の服を着ようとしたら今度は大妖精には小さい。特に胸元が少しキツイみたいだ。彼女の本来の服は部屋の中に渡した紐に引っ掛けて乾燥中だ。

 

「一人で着替えられるか?。」

 

肩と背中の傷の具合から一応聞いてみる。大妖精は大丈夫ですと答える。

大妖精を待つ間、スネークは切り株の椅子に座りながらこれからの行動について思案を巡らせた。引き受けてすぐ妖精を救おう、なんて事は出来ない。まず捕まった妖精達が何処に収容されているかすら分からないのでは行動しようがないのだ。そして、例え助けたとしてもその後、妖精達はどうするのか?。スネークが助けて、はい終わり。では今後ずっと同じ事の繰返し。一時的には良くても再び妖精狩りが再開されてしまう。これでは後味が悪すぎる。

 

(先ずは情報収集だな。)

 

何よりもそれが重要だ。足りない情報は集めれば良い。背後では大妖精が着替える音がする。彼女は傷の状態を除けばそれほど悪くなっていない。明朝に神社を出て、ここまで歩いて来た。ただ飛びなれていたた為か途中何度も転んでいた。

 

「あ、あんまり見ないで下さい…。」

 

思案に耽ってる内に乾かしている大妖精の服を注視していた様だ。

 

「ん…すまない。お、調度良いな。」

 

着替え終わった大妖精を見ると見事人里の娘姿になっていた。目計で選んできたがサイズが調度良かった。

 

「これは?。私、目は悪くないですよ?。」

 

大妖精が指したのはノーフレームの眼鏡。仕立屋が処分に困ってオマケしてくれた物だ。眼鏡自体は幻想郷でも十分需要がありそうだが…。試しに掛けてみた大妖精は首をかしげて、目をパチパチと瞬く。想像していた視界のボヤけが無いのだ。

 

「案の定だな。」

 

この眼鏡は度が入っていない。いわゆる伊達眼鏡だ。この世界では度の入っていない眼鏡を掛けるというファッションは流行っていないみたいだ。

 

「そうだ…大妖精。この家に挟みは無いか?。」

 

言われて探す大妖精だが自分の家で無いので探し出す事は出来なかった。スネークはメディカルキットからメディカルシザーは取り出す。

 

「大妖精。今から君の髪を切る。」

 

両手で頭を覆う大妖精。過去に酷い髪型にされたのか?。変装の為と説明してやっと納得して貰った。

切った髪が服に付かないようポンチョを被せる。黄色のリボンを外して、挟みを入れる。肩位に掛かってた髪を首の中頃辺りまでバッサリと切る。切る量に驚いたのか大妖精がびくっとしたが、直ぐ収まる。

 

(髪を切るのに、この挟みを使ったらキュアにブッ飛ばされるな…。)

 

そうこうしている内に大妖精の髪型が整った。仕上げに手櫛で余計な髪を払ってやる。

 

「出来上がりだ。」

 

ポンチョを外し、スネークはそのまま床の掃除をする。ずっと鏡を見せられないまま散髪された大妖精は恐る恐ると言った感じで水瓶を覗く。

 

「わぁ…!。」

 

水面に映る自分の顔に感心の声をあげる大妖精。肩まで伸びていた髪は今やさっぱりとしたショートボブに整えられていた。

 

(喜んでるみたいだな。)

 

髪型に満足すると大妖精は今まで付けていたリボンをどうするか迷っていた。スネークが取り敢えず仕舞っておけと言うと、リボンを折り畳んでポケットに入れた。

家の中にあった干した木の実で軽く食事を済ませる。

 

「大妖精。捕まった妖精達は何処に連れてかれる?。」

 

余程気に入ったのか、食事中にも度々水瓶を覗きに立っていた大妖精が急に申し訳無さそうな顔をする…。

 

「鉱山跡地に向かうのを見たことがあります…。すみません、それくらいしか…。」

 

以前、最初こそ戦ってはいたが仲間が捕まり、その遺体を晒し者にされてからは逃げる、隠れる事を主な行動としていると聞いていた。

 

(妖精は元々、頭良くないって言ってたしな…。)

 

その為、大妖精から得られる情報は少ないと推測していたので落胆することは無かった。

 

「他に協力者は居なかったのか?。先月の妖怪二人組みたいな奴等は?。」

 

「あの時捕まった仲間達が手伝ってくれる方を見つけたみたいです。すみません…直接関わった訳ではないので…。」

 

どうやら妖精達は完全に孤立している訳では無さそうだ。

 

(その妖怪なら何か知ってるかもな。)

 

確実ではないが心当たりはあった。

 

「あの、どうして神社からここに?。」

 

「当初の行動範囲が人里が主だからだ。神社からは些か遠いからな。」

 

それが本音でもあるが、何物かの監視から離れるのと、霊夢から遠ざかる為だ。あのまま神社を拠点にすれば何かとハインとスネークを比べようとする霊夢の目の届く所では仕事がしづらいのだ。明朝前に霊夢に黙って出たのもこの為だ。

 

「大妖精。君にも動いて貰う。」

 

そのために変装させたのだ。髪を切ったのと伊達眼鏡と相まって手配書…本来の大妖精から大きく印象を変える事が出来た。なにより妖精の大きな特徴である羽が今の大妖精には欠けている。

大妖精が大きく唾を飲み込んだ。緊張しているようだ。

 

「今日1日は大事を取って休んで貰う。それと今より君は猟師見習いで俺の所に押し掛け修業に来た里の娘と言うことにする。人前では俺の事は…うん、師匠と呼べ。大妖精の事はキカと呼ぶ。下っ端と同じ意味だ。間違っても…特に人里で本来の名を口にするな。良いな?。キカ?。」

 

「はい!。ス…師匠さん!。」

 

「聞き分けの良い娘は好きだぞ。…余程の事が無い限りは家で休養してろ。明日からは嫌と言うほど歩くかもしれない。」

 

スネークは幾らか大妖精に言付けをし、普段着から迷彩服に着替えると拠点を出た。

 

(夜や人里の外が危険と言う意味が良く分かる…。)

 

拠点を出たスネークは現在、魔法の森の茂みにしゃがんで前方を警戒していた。そこには口が縦に裂け、長い舌をだらりと垂らした異形の者が歩いていた。

 

(ここらは危険地帯なんだな。)

 

思えば人里で見た男女の妖怪以外にこれ程まで分かりやすい形の妖怪を見たのは初めてであった。今まで神社周平の山で狩猟をしていて何度かそれらしい者と遭遇はしたがどれも小物と言った感じで、スネークの姿を見ると自ら逃げ出す者が殆どだった。

妖精や先月の妖怪の男女の様に言葉が通じるかと考えたが直ぐ否定する。あの姿で言葉が通じるとは思えなかった。

異形の妖怪から距離を取る。幸い、相手がスネークの気配を察知するには遠すぎる距離にいるため容易に離れる事が出来た。

周囲の安全を確保したスネークはコンパスと地図を拡げ、向かうべく方向の確認を含め休憩を取ることにした。地図はなんとも大雑把な作りで、迷わないよう小まめに方向を確認する必要があった。

方向は正しかった。コンパスと地図をしまい、木に背中を預けゆっくり深呼吸をする。以前、霊夢に魔法の森は人間には居心地の良い場所ではないと言われたがスネークはそう感じなかった。森の中にいると少年兵時代やハイン達ノーホルスの傭兵達と訓練、戦闘した情景が思い出されていた。自分に害する存在さえ気を配ればかえって居心地が良い…。

 

パキッ!。

 

物音がして身構えるスネーク。さっきの妖怪が発した音かと思ったがそれとは別の方向、そして距離が違った。

魔法の森に入ってから…いや、幻想郷に来てからスネークの視力や聴力と言った感覚が鋭敏になっていた。もともと、スカウト能力を体得しているスネークは様々な場面で気配を消す、察知する能力。森等の不正地で物音を経てずに移動すると言った能力は高かったが本来より更に向上していた。先程の妖怪も外界にいた時にはもっと近付かなければ捉えられる距離では無かったのだ。そして、あの時の中国の武道着を女性。彼女に触れられてからは体が疲れにくくなっていた。不思議な事が起こってはいるが、害は無い。むしろ自分の能力が向上するのは良いことだ。

 

「お兄さん。そんなに地図を見なくてもこっちで合ってるよ…。」

 

スネークから数メートル程離れた正面の位置に白のシャツと黒いベストとスカートを纏った少女が抗議の声をあげる。彼女は名前はルーミア。ここまで来る途中に出会った人喰い妖怪だ。

その出合いは穏やかなものでは無かった。スネークが森を進んでいると突如、元々薄暗い森が一気に夜と同様の暗さに変化したのだ。

 

「お兄さんは…食べて良い兵隊さんだよね?。」

 

そんな言葉と自分に向けられる殺気。それと同時に側の木に身を隠したスネーク。さっきまで自分のいた所に何物かの気配がする。自ら放ったこの闇に彼女の目は順応していないのか?。キョロキョロと辺りを見回していた。

闇を造り出した本人より先に順応したスネークは背後に回り込み、その背に銃を突き付けた。

 

「お、お腹が空いてて…。」

 

降伏した妖怪は空腹に耐えかねてスネークを襲ったという。

 

「俺は里の兵隊じゃないぞ。」

 

「そーなのか?。じゃ、食べて良い人間?。」

 

何でそういう事になる…と頭を抱えながらスネークはこの辺りを詳しくないかと訊ねた。すると元々はここら辺に住処を構えてたらしいので命を助けるのを交換条件に案内を任せたのだ。

今は猪の薫製肉を口に含み、中で転がしている。あまりにも空腹が酷く、腹の音が凄まじい為にスネークが与えたのだ。彼女からしてみれば長い間、木の実や山菜で飢えを凌ぎ、久々に迷い混んだご馳走から手酷いお預けを食らったのだ。スネークから見れば身を守った当然の行動だが…。

 

「嘗めるとお肉の味が沢山楽しめる~。」

 

「そーなのか…。」

 

ルーミアを先頭に歩かせ、行動を再開する。音がした方向はスネークの進路上に同じ。近くまで行って、妖怪等の兆候があったら迂回する方針で足を進る。近付くたび警戒を強め、拳銃とナイフを構える。

 

「お兄さん。人形が落ちてるよ。」

 

物音の発生位置に着くとそこには一体の西洋人形が落ちていた。

 

「拾うな!。」

 

人形を拾おうとするルーミアを制止する。人形を拾った途端に爆弾が爆発するブービートラップを警戒したのだ。内乱が勃発している地域に良くある罠だ。

ルーミアは人形が惜しいのかじっと人形を見つめている。溜め息をついたスネークは木の蔓を適当な長さに切り人形の足に結び付けた。木の影に隠れ蔓を引っ張り人形を引き摺る。人形の体内も確認しようとしたが構造的に爆弾は仕掛けられてなさそうだ。

人形を拾い上げるルーミア。それを抱きしめるのをみてスネークは思わず距離を取った。訓練や経験で培った癖は抜けないものだ。

 

「汚れてるし、服も破けてる…。」

 

確かに決して綺麗とは言えない状態だ。

 

「この先で洗ってやると良い。」

 

スネークはルーミアを先に促す。目的地に近付くと霧が段々と濃くなってくる。

 

(ここが霧の湖か…。)

 

濃い霧の為に視認距離は僅かしかない。今やルーミアはスネークの二歩先を歩いていた。

湖の傍まで行くと人形を洗うためルーミアは岸辺にしゃがむ。

 

「紅魔館はどの方向だ?。」

 

ルーミアがある方向を指差す。その方向を双眼鏡で確認するが当然のこと霧で概要を観る事は叶わない。

双眼鏡をしまうと人形を洗っているルーミアに声を掛けて歩き出す。進むにつれ、この1ヶ月嗅ぐことの無かった臭いがスネークの鼻に着く。ルーミアの足が止まった。それを追い越し、ルーミアが足を止めた原因の物を見上げる。

 

(なるほど。これは妖精でなくとも怖じ気つく。)

 

スネークが見上げた物は簡単な絞首台だった。そこには5人の妖精だった物が後ろ手に縛られ、羽をむしり取られているか、羽を閉じる様に縫い付けられている状態でぶら下がっていた。臭いを放つ原因はそれだけではなかった。別の場所では逆さ釣りの物、服を剥ぎ取られ暴行を受けた物、身体が欠損している物が無造作に積み重なっている物もあった。

 

「肉が一杯あるぞ?。」

 

「…友達は食べない。」

 

スネークの軽口に明らかに怒った様子で答えるルーミア。散策していると均等な間隔で土盛りが出来上がっている場所があった。簡易的な墓だ。墓標代わりの太めの棒には名前が刻んであったり、なかったりと疎らだが、どれも丁寧に造ってあった。中には作業途中なのか掘り掛けの物もある。

 

「…誰か来た。行くぞ。」

 

何者かの気配がしたのでスネークとルーミアはこの場を離れる。

二人が離れた後に現れた武道着を着た女性は辺りに人の気配が無いのを確認すると晒されてる妖精達を回収。作り掛けの墓を掘ると一体ずつ埋葬していった。

 

「ねぇお兄さん…。付いていって駄目?。」

 

来た道とは別のルートを通るスネーク。後ろを歩くルーミアがそんな事を言ってきた。ルーミアも数年前の異変の際に保守派に所属。保守派が破れてからは迫害染みた生活を強いられているみたいだ。転々としていた自分の住処も最近兵隊に見付かり、潰されてしまったようだ。

 

「いつ喰われるか分からんしなぁ…。」

 

「3年間人は食べてないよ!。あの時は…長い間食べてなかったから…。それに、お兄さんは食べないよ!。」

 

スネークの裾を掴んで懇願するルーミア。

 

「どうしてそこまで俺に付いてこようとする?。このまま兵隊につき出す事も出来るんだぞ?。」

 

ルーミアも大妖精もそうだ。何故、会って間もない外来人なんかを信用しようとするのか?。

これを聞くとルーミアは困った様に目を背けた。確信は彼女にも分からないらしい。

 

「俺は大妖精の依頼で妖精達を救出しなくちゃいけない。付いてくれば当然それを手伝って貰う。」

 

「大妖精…勿論手伝う!。」

 

「なら誓え。ルーミア。これより人喰い妖怪の本分を破棄し、俺が生きてる限り命令無く人を食らうことを禁止する。これを破ったとき、俺は即座にお前を殺す。」

 

ちょっとばかし臭いがこんな感じで良いだろう。

 

 

「うん、約束する…!。」

 

「…この誓いは言った通り、俺が生きてる限りだ。俺が息絶えた時は真っ先に俺の遺体を処理しろ。」

 

「…その時は食べて良いって事?。」

 

「我慢した褒美と思えば良い。まぁ、例え禁を破る様な事があれば…。」

 

静かにルーミアを見下ろすスネーク。その冷酷な表情は人喰い、そして宵闇の妖怪ルーミアを存分に震え上がらせたいた。

 

 

 

 

夕暮れ時、妖精の住処に帰還したスネークとルーミア。待っていた大妖精は一緒にいたルーミアに驚くが事情を話すと喜んで受け入れた。そもそも以前より友人同士で仲も良かったみたいだ。あの時、晒された妖精や大妖精の事に反応したのが納得出来た。

 

「そーなのかー。」

 

「そーなのだー。」

 

髪を切って印象の変わった大妖精に驚くルーミア。さらには一時的ではあるが彼女にキカという名前を与えられたのも教え、暫くその名で呼ぶことも徹底した。

 

「キカちゃん、キカちゃん!。」

 

ルーミアに呼ばれる度、嬉しそうに表情を崩す大妖精。その光景を見ていたスネークは元は下っ端と同意議な名前なだけにもう少し考えるべきだったと後悔する。

日がすっかりと落ち、うつ伏せに寝る大妖精に引っ付く様にルーミアが眠っていた。あれから少しお喋りしたのち、ルーミアが寝てしまったのだ。まるで安心しきった様子だ。長い間、兵隊に怯えて夜に熟睡する事が出来なかったみたいだ。スネークは外に明かりが漏れない様にライトの明かりを絞って拾った人形の修繕作業をしていた。霧の湖で洗ったと言うが汚れがまだまだ目立つ。精巧な作りの人形にこれはと思ってしまったのだ。

湿らせた布で土や泥を拭き取り、破れた衣服の部分を縫っていく。

 

「本当に生きているみたいだ…。」

 

修繕が終わり、人形を眺めるスネークが思わず呟く。人形の趣味や知識はないがこれを作った人形技師は間違いなく一流の腕の持ち主だ。

 

「額の傷はどうにもならないな。」

 

目立つ傷が出来ている。専用の道具が無ければ修繕出来ない。スネークは部屋を漁ると布の切れ端を見付ける。それを人形の額に巻いて傷を隠す。自分のバンダナとお揃いだと少し微笑んだのは秘密だ。寝ている大妖精とルーミアの間に置き、スネークも寝るために小さ目のソファーに横になった。

 

翌日、情報収集の為に人里で行動をするスネーク達。猟師姿のスネークは人里の人間と世間話を装い、情報を集めていた。

 

「鉱山跡地?。」

 

目の前の…炭坑夫の男が眉をしかめる。偶然、猟師の姿をしているスネークに声を掛け、これ幸いにと猟の成果等を話すうちに大妖精から得た鉱山跡地の事に付いて探りをいれたのだ。

 

「ええ、鉱山跡地と言うよりその大分手前側を最近狩場にしているんですよ。猟師が少なく、尚且つ近付く人がいないので良い穴場になってます。」

 

「そこの小さい嬢ちゃんを連れてか?。」

 

炭坑夫が指したのはスネークの背後に立っている偽名、キカこと大妖精だ。

 

「危険なのは承知の上です。まぁ、獲物の皮剥ぎ、血抜きは仕込みましたし…何時までも兎撃ちばかりさせられないですから。」

 

淀み無く答え、大妖精の頭を撫でるスネーク。以前から決めていた口上だ。

 

「そうか…良い師を持ったな。嬢ちゃん。だが間違っても鉱山跡地に近付こうとするなよ。」

 

「…やっぱり、例の兵隊と妖精の絡みですかね?。」

 

スネークが言うと炭坑夫が辺りを警戒した。

 

「あんたら、兵隊の回し者じゃ無いよな?。」

 

「当然。」

 

囁く声で言う炭坑夫。

 

「あくまでも噂なんだけどな…捕まえた妖精を乗せたトラックが向かう先が鉱山跡地なんだと…。仲間がその跡地から帰ってきたトラックの荷台を見る機会があったんだが中身は空なってたって話だ。」

 

炭坑夫との話が終わった二人はルーミアと指定した待ち合わせ場所に向かう。そこにはルーミアが里の喫茶店の前で待っていた。服装は里の娘服で顔は大妖精と同じように伊達眼鏡で特徴を誤魔化していた。

三人は喫茶店に入り、店内全体を眺められる場所に席を取る。混雑時で無いためか、客は疎らであった。それぞれお茶や珈琲、三人で摘まめる物を注文する。

 

「ルミ。宿題は終わったか?。」

 

ルーミアの偽名だ。彼女は一枚の紙をスネークに提出する。それには人里の簡単な平面図、常駐する兵隊の人数、詰所の位置やそこまでのルートが書かれていた。平面図はスネークが書いたもの、人数とルートは尾行ルーミアが書いたものだ。

 

(二名バディが二組…それが人里の要所を途中で鉢会う様に巡回…詰所の規模にもよるが巡回、休憩、待機の三交代制としても最低10人…か。)

 

詰所の規模にもよるが無理なく順番を回すのならそれくらいの人数が必要だ。巡回は人里を一週、一時間半から二時間かけて実施するようだ。

 

「あと装備は鉄砲にナイフが着いたやつだったよ。」

 

自慢気に言うルーミア。もともとスネークが命じた収集内容だった為、それは軽く応じただけだ。

 

「銃剣付きか…。」

 

「お師匠さん…。」

 

大妖精の視線の先を見ると今話していた兵隊が喫茶店に入ってくる。階級は上等兵と一等兵だ。抜き身の銃剣が付いた小銃を無造作にテーブルの上に置いて注文をする。その際に銃口があっちこっちに向くのを見て内心舌打ちをするスネーク。

 

「はい。お待ちどうさま。お茶と珈琲二つ。ワラビ餅ね。」

 

銃口の先から逃れる様に座る位置を変えてる所に注文の品が来る。スネークがお茶。珈琲が大妖精とルーミアだ。

大妖精が珈琲にミルクを加える横でルーミアがブラックの珈琲を飲む。大妖精の方が大人びた感じなだけに意外な光景だ。

 

「お師匠さん。ルミちゃんの顔は…その、大丈夫ですか?。」

 

「問題ない。二人共可愛いよ。」

 

「そうではなくて…。」

 

彼女が心配しているのはルーミアの手配書の事だろう。既に確認済みだ。ただ…。

 

(名前は同じだが…ありゃ別人だな。)

 

ルーミアの手配書は存在していた。それも危険度高で顔写真と身体的特徴も含めてだ。だがスネークが確認した手配書には髪が長く、顔付きも凛々しい「大人」っと言った表現が正しいルーミアだ。しかも手配書は10年前の物…例え人と成長速度が違う妖怪でも若くなるのは可能なのか?。

 

(手配書のルーミアと…目の前で珈琲を楽しむルーミアは全くの別人と言っていい。だったらなんでルーミアは住処を潰され、兵隊から逃げてる?。)

 

人違いなら逃げる必要性は無い筈だ。それとも同じ名前故に勘違いされているのか?。それとも、何か隠し事?。

考え事をしているうちに兵隊達が帰って行く。テーブルにはお銚子が転がっている。勤務中に酒とはいい身分の上等兵達だ。それに、銃の扱いが雑だ。もしかして奴等は…。

片付けに来た従業員がため息を付き…。

 

「お勤め中に…まったく。」

 

同じ事を思っているようだ。兵隊達は一部の人里の住人からやはり評判が悪いみたいだ。スネークも迷彩服を着用していた時も同じ扱いを受けた覚えがある。

 

「これからはどうするの?。」

 

カップを置いたルーミアが訊ねた。いつの間にか一個だけになっていたワラビ餅を口に放り込んで…。

 

「一度拠点に帰ろう。そして事後は…。」

 

 

 

 

時は夕暮れ…拠点の側に広がる森の中でスネークは繁みの中で潜伏し、周囲を警戒していた。やがてスネークの五メートル横でガサガサと木々が揺れる。ゆっくりとその方向を見るとルーミアが中腰の姿勢でスネークの横を通り過ぎようとしている。繁みの揺れを極力抑え、彼女の動きに合わせる。この時、周囲を警戒しながら行動をしていたルーミアだったが近くにいたスネークを発見出来ず、そして背後に回られて事に気付いていなかったのだ。スネークはルーミアの口を塞ぎ首筋をナイフで撫でる。

 

「本来なら首を切られて死ぬぞ。」

 

耳元で囁き、ルーミアを解放する。彼女は撫でられた首筋に触れる。薄く切られて血が滲んでいた。

 

「美味しい。」

 

「舐めるな。今日はここまでだ。」

 

スネークは石を拾うとある方向に投げた。するとイタっと悲鳴が聞こえた。

 

「帰るぞ。大妖精。」

 

茂みを揺らしながら頭を押さえた大妖精が出てきた。

 

「二人とも午後から今の時間までに何回殺された?。」

 

フェイスペイントを施した大妖精とルーミアがショボくれる。

スネークは人里から戻ると二人にスカウト技術を訓練した。…とは言っても森の中に隠れるスネークの背後を取るといった簡単な内容だ。だが、それは二人にとって容易な物ではなかった。妖精と妖怪の二人は完璧なカモフラージュをした能力で劣る人間のスネークを発見する事が出来ず、逆に返り討ちにあっていた。

人里で購入した迷彩服が泥と汗で汚れ、顔も疲れが出ていた。

 

(まぁ…及第点かな?。)

 

付け焼き刃だが敵に見付からない、隠れるといった最低限の行動はこれから必要であった。スネーク自身、一人で妖精達を救出するなら、こんな回りくどい事をしなくてすむのだが、それなりに問題があるのだ。

 

(大妖精は流石妖精って事かな。)

 

自然の具現化である妖精。その中で最も魔力のある大妖精。最初こそ話に成らない状態であったが捕まる度、逆襲受ける事に見付かる回数が減っていた。特に周囲に擬態する技術の成長が著しい。

 

「ルーミアはどこかで習ったのか?。」

 

てっきり、闇を体に纏って突っ込んで来るかと思ったが、訓練当初から意外な事に姿勢を低く保ち、物音を極力抑えて策敵していた。それでも大妖精より見付かった回数が多いのは堪え性が無いためか?。

 

「んーとね、わかんない。」

 

聞いてもこれだ…。追及する事を止めた。

 

(ルーミアの闇は使い道があるな。)

 

「拠点まで駆け足。森を一気に走り抜けるぞ。」

 

来るときも同じ事をしたがやはり、二人は人間よりも体力はある。飛び慣れている為か爪付いて転ぶことが多いのは玉に傷だが…。

拠点に着くと大妖精とルーミアが揃って船を漕ぎ出した。洗濯や行水等は明日に回し、昼に作り置きした食事を早々と口に詰め込むとベッドに潜り込んだ。それを見ていたスネークは少年兵時代を思い出す。訓練や任務のあとはこうやって泥の様に眠る。そして次の日には銃を撃ち、人を殺す。なかには大人達の盾となって死んでいく仲間もいた。

一通り昔を懐かしむとソファーに横になって仮眠を取る。寝ている二人を見ると深い寝息を立てていた。ちょっとした物音では起きそうにない。

 

「これから行くところは、流石に連れていけないからな…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼間は買い物客で賑わう人里から夜間定期的に出る往復馬車に揺られる程、30分程度…木製の柵に囲まれた一角の集落についた。

 

「いらっしゃいませ!。皆々様、今宵も良い女、良い男と夜を御過ごし下さいませ!。」

 

馬車から降りると入口にいた門番が出迎える。共に乗り合わさせていた客と一緒に門をくぐる。

集落は外灯の柔らかい光りに照らされ、店の前では呼び込みが道行く男女を我の店はどうかと呼び止め、集落は昼間の人里とは違った賑わいを見せていた。

ここは幻想郷一番の遊郭。霧雨店で貰った普段着に差し色に赤い首かけをしたスネークが集落を歩く。籠の中では遊女達が明るい笑顔で客を引き寄せ、男達が品定めをする。男娼を扱ってると思われる店では逆に女達が精悍な男達にワイワイと騒いでいた。

 

「お兄さぁん。今日はお一人?。」

 

籠の中で一人優雅に煙管を吹かして周囲に流し目を贈る遊女を見ているスネークに女が刷り寄る。どうやら客引きのようだ。

 

「うちで遊んで行きません?。精一杯ご奉仕しますよ?。」

 

スネークは先ず酒が飲みたいのと、既に行く店は決まってると言う。客引きの女は少し食い下がるが諦めると、気が変わったら是非うちにと気持ち良くスネークを離す。

遊郭の雰囲気を楽しみながら一軒の立ち飲み屋を見付ける。狭くて客も少ないが案内所を兼ねており、情報を聞いた客は景気付けや勢いを付けるのに一杯やるみたいだ。

 

「最近新しく来た遊女がいる店?。兄ちゃん。もしかして人間以外の遊女目的かい?。」

 

注文しつつ情報を聞く。店主は若いのに物好きだねぇと厭らしく笑う。これも遊郭とは関係なく外界の色町や娼婦街でも良くあった下世話なやり取りだ。

 

「はいよ。まぁ、最近入ったのだと人里で騒ぎを起こしたのが一匹『好色』って所かな。ここを出て左、青い提灯に店の名前があるからすぐ分かる。評判は…行ってみればわかるさ。」

 

店主は言葉を濁す。紹介先の店を悪く言わないのは義理だろう。出された酒を一気に煽る。酒代の他に少しの心付けを払い、案内所を出る。目的の店はすぐ見付かった。中に入ると受付の女がスネークを出迎える。

 

「おすすめは出来ませんよ?。愛想は悪いですし、普通に抱くのであれば他の子を紹介しますが…。」

 

目当ての遊女を指名すると受付の女は渋い顔をする。過去に指名した客からクレームを受け、割安で別の遊女を紹介したり料金を踏み倒されたりしたそうだ。他に流そうにも兵隊から懲罰して来たためにそれもしずらいみたいだ。

スネークは前以て料金を支払うのと受付の女個人に幾らか握らせて、人が近付かない様に言い付けた。

奥の部屋ですと案内されたスネーク。途中の廊下では薄明かりで障子が透けて部屋の中が影絵状態で浮かびあがる部屋もある。なかには鞭の音が響く部屋もあったが趣味では無いスネークは足早に過ぎ去る。

指定された部屋には茶器類や水桶、薄い布団が敷いており、その上に姿勢を崩した状態で座っている遊女…一月程前に人里で妖精の救出に失敗した女妖怪がいた。女妖怪の見た目は二十代前半と言った所だ。

 

「ふん、今日は随分と若いのを寄越したじゃない。好き者将校はついに不能になったのかい?。」

 

挑む様な目で部屋に入ったスネークを見る。なるほど、終始この状態じゃ愛想なんて無いだろう。

 

「んで、若いのは何をご所望だい?。首輪付けて罵るかい?。それとも犬の如く後ろから犯す?。」

 

「ウェアウルフ…狼男ならぬ狼女か。」

 

女妖怪もとい狼女は尻尾をぱたりと揺らし、目を細めた。

 

「そう言ってくれる兵隊もいるもんだね。」

 

「俺はあんたが言う兵隊ではないよ。…一月程前、妖精を助けようとした妖怪で間違いないな?。」

 

「ああ、そうだよ。天に唾吐く哀れな妖怪さ。」

 

女妖怪は手水に手縫いを浸し、それを搾るとスネークに投げ渡し、布団の上に体を投げ出した。

 

「やるんだろ?。早く済ましておくれ。」

 

「妖精狩りについて知ってる情報が欲しい。。」

 

起き上がった狼女は耳や尻尾を逆立てたがすぐに治まる。

 

「あんた、兵隊の回し者かい?。だったら残念だ。話すことはないよ。」

 

ここでもそうだ。妖精狩りについて聞こうとすると誰もが兵隊の回し者かと警戒する。

 

 

「俺は先月、ここに幻想入りした外来人だ。ある人物から依頼を受けてな。」

 

スネークは警戒する狼女にある物を投げ渡す。

受け取った狼女は検分してスネークを見る。次いでその物に鼻を寄せると…。

 

「これは…!。」

 

渡したのは大妖精が身に付けていた黄色のリボン。住処を出る前に持ち出したのだ。それでも疑うよな視線を投げ掛ける。

 

「今はルーミアと言う妖怪と一緒に保護している。この場ではキカとルミとして行動しているがな。」

 

狼女の元に届く程度の声量で喋る。

 

「あの…宵闇の妖怪が…。わかった。若いのを信用しようじゃないか。」

 

狼女はスネークに刷り寄ると壁に背中を預けて座る彼の対面する形で股がる。

 

「こうしたほうが、都合が良いだろ?。」

 

端からみれば情事の最中に囁きあってる様にしか見えない。スネークも組んでいた腕を彼女の身体に添える。それらしくなってきた。

 

「捕獲された妖精は鉱山跡地に輸送される。間違いないな?。」

 

「全員って訳じゃないがその通り。そこで鉱石の発掘や武器の製造、言ってしまえば強制労働さ。」

 

「鉱石がまだ出るのか?。それに武器の製造?。」

 

「五十年以上前に閉鎖した鉱山さ。鉱石なんかほとんど出ないよ。一部の妖精達を使って搾り粕の採掘さ。武器は…手を掛けてるのは妖精、大した物は作っちゃいないだろうけど人間にやらせるよりは金が掛からないだろ。」

 

「まんま奴隷だな。」

 

「効率なんか関係なしに使い潰してるのさ。兵隊にとって妖精は今や物同然。死んだら別のをさらうだけ。」

 

ユラユラと揺れる尻尾を撫でると狼女は心地良さそうにスネークに体を寄せる。

 

「鉱山はどんな造りになっている?。」

 

「採掘に向かうための縦穴、作業場、妖精達が寝泊まりする小屋が幾つか…そこには物見櫓や哨戒の兵隊がいるはずだが、何せ私が見たのは二年前だ。今はどうなっているか…。」

 

「二年前?。理由があるのか?。」

 

「最初助けに行ったときは仲間が沢山いた。でも兵隊側についた妖怪と空でぶつかってるうちに地上からの鉄砲の射撃で一編に死んじまってね…。妖力が封印されてる上に余りの防御に皆、及び腰になってね。そうしてる内に仲間が一人一人狩られて…あの時、ここまで引っ張った仲間も、遊郭に付いた途端、首を落とされ、頭を砕かれて死んだ。」

 

「妖怪も死ぬんだな。」

 

「そりゃ首を落とされたり、胴を断たれれば流石に妖怪死ぬ。」

 

スネークが知っている創作の妖怪は壁に挟まれて伸し烏賊状態で食われても復活していた。

 

「妖怪も妖精も案外脆いもんだよ。もしかして気づいてるんじゃないか?。」

 

「妖精は自然の具現化。体が壊されて復活するなら、様々な拷問や絶望を与え、心を壊して妖精自身が死を望む様にすれば良い。妖怪の方はまだな。…さっきの言い方じゃ、妖精全員が強制労働している訳じゃないみたいだが?。」

 

「正解。一部は人里から離れた豪族の屋敷に連れてかれるのさ。そいつが妖精狩りの元締めだね。」

 

眉を寄せるスネーク。

 

「兵隊がやってるんじゃ無いのか?。」

 

「その豪族が依頼を出し、兵隊を派遣して小遣い稼ぎさ。なんでも素行も悪い奴等ばかりで編成されてるみたいだ。」

 

「豪族の屋敷では何が行われている?。」

 

「ある意味、鉱山送りにされた子達の方が幸せかもね…。」

 

幻想郷でも変態志向の人妖がいる。その屋敷では捕らえた妖精の一部をもって、その様な志向をもった者達へ提供している様だ。また、妖精達だけでなく、種族は違うが狼女と同じ妖怪も囚われているみたいだ。

 

(兵隊…軍が直接動いている訳じゃないのか…。)

 

「私達を捕らえた将校が派遣された兵隊の長さ。積極的に妖精狩りをするために人里の詰所に勤務しているはずさ。今、言えるのはこれ位かね。ほんとはここから出て共に行きたいけど…。足の腱をやられてね…。」

 

スネークが狼女の足に触れると足首には痛々しい傷痕があった。

 

「もし、迷いの竹林に行く機会があったら、今泉影狼様を訪ねておくれ。そして決して後悔はしておりませんと伝えて欲しい。」

 

「…解った。伝えておく。」

 

狼女から離れたスネークは帰り支度をする。折角遊郭に来たなら一戦交えるかと言われたが楽しむ気には馴れなかった。決して狼女が不美人だった訳ではないが。

 

「若いの…そういや幾つだい?。」

 

「たぶん16だ。」

 

「たぶん?。ま、何にせよ若いんだね。それじゃ、歳上を抱く気にはなれないね。」

 

「そうでもない。俺の恋人だった人は一回り位歳上だからな。」

 

「人間のその歳だろ?。まだまだお嬢ちゃんだね。」

 

笑う狼女。

 

「あんた、25、6じゃないのか?。」

 

「大妖精もルーミアもあんたより大分歳上さ。幻想郷の住人は見た目で歳は判断出来ないよ?。これから幻想郷で暮らすなら覚えときな。」

 

最後にケラケラと笑われながら部屋を後にする。

入り口まで来ると受け付けの女が苦笑混じりで、どうでしたとたずねた。

 

「最高だ。また来る。」

 

遊郭を出たスネークは帰りの馬車に乗り、大妖精とルーミアが眠る拠点に戻った。

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