東方戦記録   作:戦車狙撃兵

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幻想郷での初任務2

 

人里、兵隊の詰所。そこの長である将校が詰所の一部屋で紙幣を数え、嬉々とした笑みを浮かべていた。

豪族から依頼された妖精狩りで得た賞金と、個人でやっている妖精や妖怪を裏で流した事で得た裏金だ。依頼された分は部下との山分けで何割か消えてしまうが後者は全て自分の懐に入る為、特に気にする事も無い。

今日も一匹、兵隊以外不可侵の領域で罠に掛かっていた妖怪を捕らえていた。しかも迷いの竹林に住む因幡の兎だ。薬草を採取している内に迷い混んだのだろう。人気が高い上にもしかしたら本命でる兎と取り引き出来るかもしれないと思うと気分が踊る。

一掴みした紙幣を懐に入れる。残りを金庫に保管すると将校は詰所を出た。明日から非番の将校は本日の収穫を祝して心行くまで飲むつもりだった。

店じまいを済ましていた酒屋の扉を叩き、迷惑そうな顔をする主人から上等な蒸留酒を数本買い付け、兎を監禁している小屋に向かう。怯える獲物を肴に一杯やるのが将校の楽しみであった。ちょうど狼女にも飽きた所だ。顧客に売り払う前に捕まえた兎で楽しむとしよう。幸い小屋の周りは空き家だらけでおまけに防音加工済み。いくら喚こうが人里の住人に聞こえはしない。第一聞こえた所で通報する者もいないのだ。

小屋に着き、鍵を開けた所で将校の首に何かが巻き付き、空を仰いだ。細い何かが首に食い込み声も出せず、数秒後には視界が暗転…目を覚ました時は見慣れた小屋の中で横に転がされていた。しかも下着姿…兎に取り付けていたはずの拘束具つきでだ。物音のする方を見ると震えながら一人の少女に抱き締められる兎と買ってきた蒸留酒を楽しむ少女と自分の衣服を検分しながらグラスを傾ける迷彩服を着た兵士。明かりが少ない為解りづらいがその兵士は自分が知っている者ではなかった。

 

「あ、起きたよ。」

 

酒を楽しんでいた少女が此方に気付き、兵士は検分していた衣服を置いた。

 

 

 

 

スネークが遊郭から帰ってきた次の日、狼女から得た情報から将校を探した。件の将校は直ぐに見付かる。顔を覚えているのと、軍刀を差している為に一般の兵隊より断然探しやすかった。時折、巡回に出る将校。大妖精とルーミアは捕まえるかと訪ねたがスネークはそれをせず、常に詰所を監視出来る位置に拠点にすると夜になるまでそこに待機していた。幸い詰所の周りは人里とは言え閑散とし、その為か兵隊達は将棋やトランプに興じリ辺りを警戒する者はいなかった。

やがて夜になると将校は一人で詰所を出た。三人はその後を付ける。将校が向かったのは空き家だらけの場所に建つ小屋だ。徐々に背後に接近、ドアノブに手を掛けようとした所に持っていた紐で首を括ると背負い投げの要領で背中に担ぎ、首を締める。もがいていた将校の腕が脱力する。

二人を呼び寄せたスネークは将校を小屋の中に入れる。入ると何者かの気配と引きずる音が聞こえた。拳銃とナイフを握り込み、その方向に忍び寄る。そこには手足を拘束され、猿轡をされた兎耳の女が怯えた様子で震えていた。

 

「妖怪だな?。こいつに捕まったのか?。」

 

答えない。スネークは拳銃を急所に指向しながら脅すように詰め寄ると女は慌てて頷く。

 

「今から拘束を外す。騒ぐなよ。」

 

女の了承を確認し、拘束を解いていく。小屋にある椅子に座らせる。震える兎耳妖怪の女を大妖精に任せ、ルーミアと二人で将校の衣服を剥ぐ。ルーミアは将校が持っていた蒸留酒に関心を示していた。

下着姿にした将校を拘束具に繋げると、素早く上着の検分をするスネーク。手帳、身分証や札束の他に物が無いのを確認。

その上着を女に着せてやる。

他にも机の上に将校の私物を並べる。明かりを小さく絞ったランタンに照らされ、手入れの行き届いてない軍刀を鞘に納めるとスネークは口を開く。

 

「話せるか?。」

 

スネークの声に怯える兎。蒸留酒を差し出したが受け取る事はなかった。

 

「キカ。少し抱き締めてやれ。頼むぞ。」

 

頷いた大妖精は兎に抱き付いた。体格差から大妖精が甘えてる様に見える。兎の震えが徐々に収まるのを見ると効果はあったようだ。

ワクワク顔でグラスを持つルーミアに蒸留酒を注いでやり、兎が受け取らなかった蒸留酒を飲む。上等な物なのだろう。香りが良い。妖精狩りで良いもの飲んでると心の中で舌打ちをした。

 

「あ、起きたよ。」

 

細部を検分していた衣服を置き、将校に尋問を始める。

 

「妖精狩りの指揮官だな?。」

 

スネークの問いに将校は答えず、横に転がされながらも 横柄な態度をとる。

 

「クソガキが…!。」

 

立場が解ってないのかと疑問に思っていると将校が悪態をつきはじめた。

 

「何処の人里のガキだ…!。」

 

幻想郷にはこの人里以外にも人が住んでる場所があるのか?。何にせよ、この将校は立場を理解していない。

 

「金欲しさか?。人外の女目当てか?。それとも妖怪に煽動された反乱か?。いずれにしろ、こんな事許されると思おぶぇ…!?。」

 

将校が喋っている途中でスネークは腹部に蹴りを入れた。突如始まったスネークの暴力に大妖精、ルーミア、兎が驚く。

 

「俺はあんたに、妖精狩りの指揮官だなと質問した。どうなんだ?。」

 

再び訪ねるスネーク。将校は咳き込みながらも、今なら許してやると宣う。

 

「…立場を理解していないな。」

 

スネークは机の上に置いた軍刀を手に取り、大妖精とルーミアに何故、戦うより潜入や擬装と言った訓練を行った理由を今から教えてやると言った。

将校の側で軍刀を抜いたスネーク。鞘を振り上げ、将校の脛目掛けて降り下ろした。脛と軍刀の鞘がぶつかる音の直後に将校の悲鳴が小屋に響いた。スネークは続けて太股の裏、背中、尻、肩、脇腹、顔面等を殺さない且つ最も苦痛を感じるやり方で殴り続けた。

将校は幾らでも被弾面積を小さくしようと身体を丸める。顔中は腫れ、近くには血と涎に混じって折れた歯が転がっていた。スネークが後ろ手に縛った指に手を掛けた。

 

「まっ、待て…!。喋る!。喋るから止めてくれ…!。誰か、誰かぁ!。」

 

自ら施した防音の小屋のお陰で外に声が届くはずもなく、ましてや小屋の周りは人が住んでいない空き家ばかり。それでも叫ばずにいられなかった。兎達の方向に救いを求める。冷ややかに見る金髪の娘。視線に怒りを込めた兎とそれを抱き締める少女。その少女に見覚えがあった。

 

「だ、大妖精…!?。ぎゃぁぁぁあぁあ!。」

 

枝を折るような音がした。スネークが将校の指を折ったのだ。

右手の指を全て折ったスネークは遠慮なく泣きわめく将校を背にグラスの蒸留酒を飲んだ。少し自分自身を落ち着かせる必要があったのだ。ルーミアがスネークのグラスに酒を注ぐ。お疲れ様と言うような表情だ。

 

「まだ終わりじゃないさ。…飲め、キカ。酷い顔だ。」

 

自分のグラスを怒りに歪んでいた大妖精に差し出す。はっとスネークの顔を見て表情が緩んだ。受け取ったグラスを半分程飲むと残ったのを兎に渡す。震えが収まっていた兎は残りを口に含み、口の中を潤す。

 

「もう一度聞く。妖精狩りの指揮官だな?。」

 

将校は頷いた。そこにスネークは腹部を蹴った。

 

「口は付いてる筈だ。まだ分からないか?。」

 

怯える将校。またスネークが暴力を加える挙動を見せる。

 

「確かに私が指揮官だ!。いえ、指揮官です!。」

 

「そうか…収容先の鉱山跡地にはトラック以外に行く方法は?。」

 

「基本的にはトラックで…逃げられない様に処置したあと、収容施設に送ります…。」

 

「ルートは?。」

 

「…詳しい道筋はトラックの中に地図が入ってます。車両は詰所側の車庫に…。」

 

「次はいつ行く予定だ?。」

 

「本日、22時から施設に物資を輸送する予定です…。」

 

 

「検問は?。施設に入るときに合言葉はあるか?。」

 

「いえ、ありません。施設も一度二人の警備兵が荷物を確認した後に通過します。」

 

ルートと潜入方法は確保。後は…。

 

「施設の設備、勢力はどれくらいだ?。装備は?。」

 

「凡そ二個小隊…装備は小銃に銃剣程度です…。施設内には対空砲座が…。」

 

「最後の質問だ。捕まえた妖精、妖怪が送られるのは鉱山、遊郭で間違いないな?。」

 

「はい、そうです。」

 

スネークは再び軍刀を抜き、剣先を将校の喉に向けた。

 

「なにを!。話しただろ!?。」

 

「お前はやはり立場を理解していない。」

 

狼狽える将校。

 

「人里の豪族家にも捕獲した妖精達を流してる。」

 

虚偽の発言をした将校の顔が更に青ざめる。隠しておきたい事なのだ。剣先が将校の喉に触れ、少しずつ力を込められる。

 

「待て、と、取り引きをしよう!。そこの豪族とは得意先だ…。便宜を計る…。やめて…!。」

 

「妖精を虐待する趣味は無い。そして許容出来ない。」

 

「私だけでは無い!。詰所のと基地の奴等も同じことをしている!。兵士だけでは無いぞ!。人里の人間も…あぁあ…よせ!。て、天、神の…!。」

 

将校の喉に軍刀を突き刺し、抜いた際に返り血を浴びないよう反対向きに転がした。

 

「撤収だ。速やかにずらかるぞ。」

 

遺体を残し、物資の回収、丁寧に鍵まで掛け小屋をあとにするスネーク達。

 

「あの、ありがとうございます…。お陰で永遠亭に薬草も無事届けられます。」

 

助けられた兎はスネークに礼を言う。

 

「ひょっとして、永琳先生のところか?。」

 

「ええ、そうですが…。」

 

「なら頼みがある。先生に明日から紅魔館に滞在するように伝えておしい。なるべく多くの薬とメディックを用意も一緒に…。依頼者の名が必要なら、こいつか鬼蛇からと言ってくれ。」

 

困惑しながらも了解した兎は飛び立つと夜の闇に消えていった。それを見送る事なく、スネークはメモ帳に何やら書き込んだ物をルーミアに渡した。

 

「ルーミア。これを紅魔館に届けてくれ。あの大きな館だ門番位いるはずだ。そいつにでも確実に渡せ。迎撃をうけたら戦おうとするな。そしたら直ちに拠点に待機。そのあと合流だ。合図は…ドアを五回ノックだ。良いな?。」

 

紅魔館を選んだのは妖精を一時的でも受け入れると判断したからだ。理由は湖の妖精達が晒されている場所付近にある墓だ。近くに紅魔館の他に人が住んでる様な場所は無い。ならあの墓はその館の誰かが立てた物だ。

 

「うん、これを紅魔館に届ける。そのあと拠点に戻る。ノック五回。」

 

メモ帳を受け取ったルーミアは力強く頷く。

 

「俺と大妖精はトラックを確保する。万が一異状が起きたら合流しようとするな。自分の安全を確保しろ。あとでな…。」

 

別行動になったルーミアは空に飛び立ち、一瞬夜空の空際線に浮かぶが直ぐに自分自身が夜空と同化するように闇を展開させた。スネークが教育したのだ。ルーミアも頭が良い方ではないが自分の能力や得意な事は飲み込みが早い。今では不自然に闇の球体が浮かんでる事は無くなった。

 

スネークと大妖精はトラックが納められている車庫に向かった。時間まで付近に隠れていたが22時になってもトラックを動かす気配が無い。ガセを捕まれたと思案していると詰所から人の気配。二人の兵隊が欠伸をしつつトラックに近付く。一人はエンジンをかけるために操縦席に乗り、一人は一服着けるために離れた場所にある喫煙所に向かう。煙草を吸う兵隊の視界に一人の子供が映る。なぜこんな時間にと首を傾げていると、その子供の姿が消えていた。寝惚けてたと納得する兵隊。眠気を醒まそうと首を回す。正面に向き直った時、子供が目の前に立っていた。先ほど見た場所から幾らか距離があった。気配も無しに現れた事ですっかり面食らった兵隊は背後から忍び寄るスネークに気付かず、首を締められた。

無力化した兵隊に目隠し、猿轡に手足の拘束を施し、近くの納屋に隠したスネークはエンジンの掛かったトラックに乗り込む。

 

「持っててくれ。今は絶対引き金を触ったり銃口を覗くなよ?。あと一応シートベルトを締めてくれ。」

 

助手席に乗った大妖精に先の兵隊から奪った二組の小銃と銃剣を預ける。

初めてトラックに乗る大妖精は物珍しげに見回していたが、すぐにシートにもたれ掛かる。

 

「上手く、出来ましたか?。」

 

いつもは寝てる時間だなと思っていると大妖精から話しかけてきた。

 

「ああ。いいセンスだ。使い方次第で更に良くなる。」

 

瞬間移動。大妖精の特技だ。と言ってもスネークが知ったのはつい先ほどだった。スネークはこれを有効に利用。煙草を吸っていた兵隊の注意を完璧に引き寄せたお陰で容易に無力化する事が出来たのだ。大妖精が要領よく段取りを踏んでくれるか心配だったが、上手くやってくれた。

 

「流石…妖精の頂点にいるだけあるな。」

 

え?っと大妖精がこちらを向いた。

 

「どうして捕まる?。簡単に逃げられただろ?。」

 

「自分にしか…使えませんから…。」

 

大妖精一人であれば容易に逃げる事が出来る。振り返って見れば大妖精が捕らえられた、負傷したのは妖精仲間絡みだ。

 

「スネークさん。これがあれば、弾幕無しで兵隊をやっつけられますか?。」

 

滷獲した小銃を見つめながら大妖精は呟く。

 

「もちろん。あとは大妖精次第だ。」

 

大事に小銃を抱え込む。運転しているスネークからは確認しづらいが表情が変わっていた。

拠点に着いたスネーク達は扉を五回ノックしてから中に入る。既にルーミアが待機していた。門番の迎撃を受けたがこれを回避。目敏い場所に手紙を置く事に成功したようだ。

 

(あとは、あの館の奴等がどう動くか…。)

 

スネークは二人に仮眠をとるよう指示する。その間に滷獲した銃のクリーニングを行う。

滷獲したのは三八式歩兵銃二挺。弾薬が五発クリップ×6が二個セット。それと銃剣が二本。金属部分に錆が残っている。予想はしていたが手入れが不十分だ。

 

(使用弾は6.5㎜だったな。)

 

分解、クリーニングをして結合する。過去に三八式を使用したので思いだしながらも手早くこなす。

ボルトを引き、戻す。セーフティー、撃発の順で確認。次に弾を装填、送弾、廃莢する。…撃つのには問題ないようだ。

 

「まだ寝てていいぞ。」

 

大妖精が起きて迷彩に着替えていた。

 

「すいません。行きたい場所があるんです。」

 

どうしても行きたいようだ。

 

「…ルーミアを起こせ。軽い食事、あと必ずトイレに行っておけ。これから用をたす暇もなくなる。」

 

大妖精の案内で目的の場所に向かう。その間に銃の扱いを教える。敵に命中させる事は求めない。いざと言うときに突く、殴る事が出来れば良しとした。…ただ、それすら出来るか分からない。

着いたのは洞窟。中は発光する光苔で薄く照らされている。奥には小さな銅像が鎮座されていた。

 

「私達、妖精のご先祖様です。雷、爆破、治癒術等かなり幅広い能力をもっていたみたいです。」

 

ショートヘアーで大小二対の羽。レオタードにレギンス姿の妖精。大妖精は銅像の足元にある台座の蓋を開け、三つの石を取りだしスネークに差し出した。

 

「これは?。」

 

大妖精の手のひらに乗る三つの石。見たことがある…。

 

「私達妖精とって大事な宝物です。」

 

思い出した。確か勾玉と呼ばれる物だ。傭兵達に日本土産物に買ったことがある。

 

「アンク、ミアズマ、ヒフミと名前があります。時間は掛かりますがお金は別に用意します。今は受け取って下さい。」

 

今でも動きそうな虫?見たいな形をした勾玉。それをポケットに入れ、洞窟を後にしてトラックに乗る。荷台に大妖精とルーミアを載せる。

暫く車を走らせるスネーク。整備された道が通る森を抜け、鉱山跡地が見える頃にはとっくに日付は変わっていた。

 

「よぅ。遅かったじゃないか。」

 

眠そうな顔をした警備兵が門を開ける片手間、眠気覚ましの為か独り言の様に語り掛ける。

 

「搬入先はいつも場所…奥行って左だ。」

 

鉱山跡地…収容所。宿舎区域をゆっくりと走り地形を記憶する。収容所の周りは動哨が複数名。櫓を三ヵ所ほど確認。

搬入先に着き、トラックから降りると荷物の確認に当番兵が来た。適度に受け答えをすると当番兵は荷台を見ようと背中をスネークに見せる。即座に締め落とし、荷台の二人に降りる様指示する。気絶した当番兵から無線機を拝借し、当番兵の体を影に隠す。

無線機の音量を最小限にし、二人を引き連れ搬入口を出る。

 

「大妖精は右方向、ルーミアは左方向を警戒しろ。どんな小さな事でも見たまま聞いたまま俺に言うんだ。俺は全周を警戒する。ああ、それと…。」

 

絶対守れと前置きした。

 

「弾幕は放つな。目立つ。隠密行動だ。戦闘は極力避けろ。避けられない時は銃剣で対処。」

 

「も、もし、失敗したり捕まったら?。」

 

緊張した声でルーミアが問う。

 

「逃げるさ。捕まったら助けは期待するな。」

 

成功させるしかない。二人の間により緊張感が増す。捕まった時の事はスネーク自身も例外にするつもりはなかった。

三人は陰を利用しつつ収容所を目指す。途中、動哨を一名地面に叩き付けて排除。無線機を滷獲し、大妖精に預ける。

宿舎と思われる建物を双眼鏡で観察。そこでは兵隊達が酒を酌み交わしていた。襲撃が長い事無いのでだらけきっているみたいだ。中々の広さをもつ鉱山なのに警備が少ない訳を理解した。

 

(こんなんでも襲撃が掛かれば動くんだろうな。)

 

油断するつもりはない。どんなに深酒をしても普段と変わらず戦場を駆け回る人間をスネークは知っている。

 

 

「彼処の櫓の歩哨が邪魔だな…。」

 

宿舎区域を抜け、柵で囲まれた収容所。対角に建てられた櫓の上には一名づつ歩哨が立っており、収容施設の警戒を行っていた。

 

「何かあったら無線機を使え。音量に注意しろ。」

 

ルーミアが周囲に合わせた闇を展開。スネークが見てもそれは背景に同調していた。

櫓に昇るスネーク。半分寝ている様な歩哨を気絶させると装備から三八の弾薬、銃剣を回収。銃本体の滷獲も考えたが狙撃銃と同じボルトアクションを二挺持ちは荷物にしかならないと判断した。

上から収容施設を見回す。収容所が五棟並んでおり、そのうちの四棟に明かりが着いている。真ん中の広場には何か立っている。漏れた明かりで薄く照らされて明確ではないが絞首台だ。別の場所を見ると対空砲座が二門据えられているのを発見。

 

(余程、空からの攻撃が嫌みたいだな。)

 

ここの警備兵は地上より対空警戒に重きを置いている様だ。櫓はもちろん、地上の歩哨も上を見ていた。

 

(妖怪達は地上から攻める事をしなかったのか?。)

 

降りようとしたとき、宿舎区域の方向から誰か来た。酔っ払いか?。と思いながら双眼鏡で覗く。

 

「二人共…今から来る奴に絶対見つかるな。」

 

近付いてくるのはスネークより2つ、3つ若そうな、一振りの刀を帯刀した少女だ。二人に警戒を促したのはその少女が人間では無いからだ。歩き方にも隙が無い。見つかれば確実に面倒な事になる。

 

(万事、上手くとは行かない。…か。)

 

スネークは双眼鏡を仕舞い歩哨の振りをした。人魂を周囲に漂わせている少女はスネークのいる方向を一瞥すると柵の門を開け収容区域に入り、明かりが消えている棟に入っていった。

櫓から降りたスネークは二人を連れて収容区域に入る。先程の少女が出てから行動を移したいがそうも言ってれない。救出してから脱出もしなければならない。夜が更けてしまえばそれが困難になる。

門から収容区域に浸入するスネーク達。拳銃とナイフを握り、手近な収容所の扉を開ける。中は数十人の妖精達が身を寄せあって扉から遠ざかっていた。怯えた表情でスネークを見上げる妖精。目を合わせようとしない妖精。疲労困憊で死んだ様に眠り続ける妖精と様々だ。共通なのは羽が千切られたり等、飛べない処置をされた状態や血が滲んだ不器用な包帯を巻いた姿だ。

 

「騒ぐな。」

 

スネークは妖精達を怯えさせない様に武器をしまう。

 

「ここから出してやる。」

 

妖精達が困惑する。

 

「う、嘘だ!。」

 

金髪に汚れきった赤いリボンを着けた妖精が言う。折れているのか右腕を肩で吊っていた。

 

「嘘じゃない。俺はお前らのボス、大妖精の依頼でここに来た。」

 

大妖精の名前を聞いて、少し表情が緩むが…。

 

 

「へ、兵隊の言う事なんか信じるもんか!。証拠はあるのか!。」

 

「ルーミアは引き続き警戒。大妖精。」

 

迷彩に身を包み、眼鏡を掛けた大妖精が妖精達の前に立つ。先程まで虚勢を張っていた妖精は疑うように目を凝らしていた。

 

「大ちゃん…?。」

 

「大妖精さまぁ…!。」

 

彼女の名を呼ぶ声が広がる。妖精達が大妖精に抱き着いたり、足元で啜り泣く。

大妖精は妖精達の無事を喜ぶとスネークの顔を見る。

 

「皆、よく聞いて。」

 

大妖精はスネークとルーミアと共に行動している事を説明する。そして、ここから脱出する為にスネークの言う事を聞く様にと指示した。

最初は疑い、嫌悪感剥き出しでスネークを見ていた妖精達だったが次第に見る目が変わってきた。

他の棟も回る。そこでも同じ様な説明をする。

 

「…チルノちゃんは!?。」

 

四つ目の収容所を回ったとき、大妖精は知り合いの妖精がどの収容所にも居ないことに気付く。

 

「チルノちゃんは多分…奥の建物に…。」

 

チルノと同じ棟にいた妖精が言う。二日前の夜、兵隊に反抗的な態度を取ったため兵隊に連れていかれたのを見たようだ。

 

「大妖精さま、行かないで!。」

 

チルノの救出に向かおうと外に出るときに一人の妖精が大妖精にすがり付いた。その声の大きさにスネークの肝が冷えた。その妖精をきっかけに次々と大妖精に妖精が群がり、身動きが取れなくなった。

 

「チルノちゃんを助けたらまた戻ってくるから…。」

 

そう言っても妖精達が囲みを解くことはなかった。 

 

「仕方ない。大妖精は妖精達に紛れ待機。周りはいつも通り過ごせ。チルノとの合言葉的なものはないか?。」

 

大妖精を連れてきたのは妖精達を素早く自分の掌握下に入れる為だ。自分達を捕まえたのと同じ人間であるスネークだけだった場合、短時間で妖精達を従わせる事は出来なかった。

 

「それじゃチルノを助けられないよ。チルノは大妖精から盗んだ私物に釣られて捕まったんだ。」

 

右腕を吊った妖精が言う。最初の棟から付いてきた妖精だ。

 

「変わりに私が行ってチルノを説得する。腕が折れて戦えないけど私の能力はきっと役に立つよ。」

 

「名前と能力を言え。」

 

「私はサニー。サニー・ミルク。能力は光を屈折させる程度の能力よ。」

 

 

 

スネークは妖精達が弾薬を作る作業をする現場に来ていた。中は作業台がずらりと並び、各所に弾薬を作るのに必要な道具と炸薬が置かれていた。

 

「録にご飯も食べる時間も無く、一日コップ3杯の水で朝から晩までこき使われる。。」

 

サニーが独り言の様に呟く。

 

「ショボいご飯でも食べられた子はまだまし。行動が遅い子は食べることすら出来ない。」

 

辛くて逃げ出す妖精は勿論いた。サニーもその一人だった。だが、逃げた後に待っていたのは折檻を受け、収容所の晒し台に吊るされた仲間の姿…。名前は無い妖精でサニーと一緒の日に捕まった妖精だった。能力が切れているのに気付かず、茫然と立ち尽くしている所を捕まり、折檻を受け日の指さない独房に入れられてからサニーは抵抗するのを諦めた。

ちらりと後ろを振り向くとサニーが悔しそうに作業台を見ている様に感じた。…と言うのも彼女の光を屈折させる程度の能力でスネーク達は周囲に同化しており、サニーの向こう側が多少歪んで見える程度にしか見えないのだ。

大妖精の変わりにサニー・ミルクを伴わせたスネークは明かりの無い棟に向かったがそこにはチルノの姿はなく、先程入っていった帯刀した少女の姿も無かった。変わりに合ったのは血の臭いが充満した部屋と雑毛布を掛けられた妖精の死体だった。毛布を剥ぎ、ルーミアとサニーに顔を確認させる。殴られ醜く腫れた顔と暗闇では人相は判別出来なかったが残っていた羽と髪の色が徹底的に違うとの事でチルノでは無いと判断した。そしたら以前自分が閉じ込められた独房にいるかもしれないと言うサニーの案内の元に此処に来たのだ。

 

「彼処だな。」

 

スネークの視線の先には二名の見張りが立つ鉄の扉。背中が二回叩かれる。あれで合っている様だ。

 

「ルーミア。」

 

サニーの護衛に付いていたルーミアがスネークの側に来る。スネークは滷獲した銃剣を抜き、ルーミアは銃剣付きの三八を兵隊に向けた。姿は見えていない。だが勘づかれる可能性を考慮し、気配を殺す。

スネークに近い兵隊が欠伸をした。その口の中に銃剣を突き刺す。手荒に兵隊を突き放すスネークの隣ではルーミアが倒れた兵隊に止めを刺していた。

死体を隠し、鉄の扉に手を掛ける。ドアノブは手袋越しに解るくらい熱を持っていた。中に入ると数個のドラム缶に火が焚かれていた。そのため独房の中は酷く暑かった。

奥には目隠しと拘束された青い髪の妖精が転がっていた。氷の羽は無惨に溶け、身体は痣と火傷だらけだ。

 

「止めて…!。」

 

扉を開ける音に気付いたのか妖精は身を竦めて懇願した。

 

「あたいが悪かったです!。もう暗いのと熱いのはやだ!。」

 

「チルノ!。」

 

サニーが名前を呼ぶ。スネークが目隠しを取ってやると何度か瞬きをしてルーミアとサニーの姿を確認した。

 

「ルーミア…サニー!。」

 

チルノが嬉しさの余り涙を流す。

 

「後ろの兵隊が助けてくれた。大妖精も来てる。」

 

「大ちゃんも?。兵隊?。」

 

「スネークだ。」

 

名前だけ告げると独房からチルノを連れ出し、応急処置を施し、水を飲ませる。あれだけ熱い独房にいながらチルノの身体は氷の様に冷たかった。元より彼女の身体は常に低く、下手に触れれば凍傷に陥ってしまうそうだ。スネークがチルノに触れる寸前にルーミアとサニーが注意したくらいだ。だが、スネークには言うほど冷たさを感じなかった。

全快とはいかないまでもチルノは自力で歩けるまで回復したようだ。

 

「ん?。」

 

スネークの目に汗が入った。腕に巻いていたハインの形見のバンダナを額に巻く。不思議と気持ちが引き締まる。

 

「そこまでです。」

 

戻ろうとしたとき、来た道からスネーク達の進路を塞ぐ様に立っている少女がいた。人魂と帯刀をしている。

 

「隠れてろ…!。」

 

言うと同時に銃剣を投げ付ける。迫る銃剣を半身で難なく避ける。

 

「いきなりですね…。でも、そんなんじゃ…ひっ!?。」

 

少女は不敵に笑って見せ付けようとした。しかし、ナイフを構えたスネークが接近してくるのを見て顔を青くする。

急所目掛けて降り抜かれるナイフ。少女はそれを追ってしまい、目線がスネークから離れてしまっている。隙だらけの足を払い、浮いた身体を地面に叩きつけ、追い打ちで顔を踏みつける。だがその前に少女の人魂がスネークに体当たり。まさか人魂が襲ってくるとは思いもしないスネークは地面に倒れた。

 

(くそ、今ので仕留めときたかった…!。)

 

スネークが体勢を整えた時には既に少女は刀を抜いて斬りかかっていた。間合いを詰めて腕を取り、がら空きの腹に膝蹴りを放つ。首筋にナイフを突き立てようとすると人魂が間に入り少女を庇った。落ちた人魂の後ろから横凪ぎに刀を振るう少女。後ろに飛び退いたスネークは形見の大型ナイフを抜いた。

サプレッサーがあればと悔やむ。少女は銃の類いは装備していないようだ。だがスネークは距離を取って戦おうとはしない。出来ない。銃の射撃音は以外と大きい。音を聞き付けられて一ヶ所しかない入口を塞がれたら終わりだ。

 

「ええい!。」

 

攻める少女。スネークは紙一重で避けていく。少女は間合いを詰められない様に警戒している。

背中に障害物。追い詰められた!。

 

「もらった!。」

 

袈裟懸けに降り下ろされる刀。その刀の中心部をナイフで受け止める。バキン!。と鉄をへし折る音が辺りに響く。

折れたのは少女の刀だった。茫然とする少女に回し蹴りを放つ。まともに食らった少女は手から武器を落とし、倒れた。

呻きながら立ち上がろうとするが脳震盪を起こし、立てない。スネークは倒れている少女に近付き、肩を抜いた。

 

「何のために妖精を救うんです?。」

 

反対側の肩を抜こうとしたとき脂汗を流す少女が言う。

 

「依頼だ。」

 

「依頼?。妖精を助けてなんの得に?。幻想郷の現状を理解していないんですか?。兵隊に逆らうとどうなるかあぁ!?。」

 

悶絶する少女。スネークがもう片方の肩を抜いたのだ。動かなくなった少女。両肩を抜かれたせいで激痛が走ってる筈だ。睨み返すだけ他の兵隊より素質がある。

 

「明かりの無い収容棟。妖精の遺体を処理したのはお前だろ?。」

 

「どこでそれを…妖精には見つかって…。」

 

まぁいい…。と少女の言葉を遮る。

 

「確かに…。お前の言う通り、得にもならない依頼、作戦だ。だが納得はしている。お前と違ってな。」

 

対峙していた時、この少女に覚悟と言うのが感じられなかった。現状に納得していない。だがどうする事も出来ない諦念感。

 

「遅かれ早かれ、そんなんじゃ死ぬぞ。」

 

スネークは折れた刀を少女の目の前に突き立てた。動揺した目が刀身に写っているはずだ。

ルーミア達に集合を掛け、この場を後にする。

 

「止めを刺せ…!。生きたまま、敵を逃したら……様が。」

 

少女はスネークの背中に言った。何かを訴える様にサニーとチルノがスネークを見ていたが当の本人は一瞥もくれない。人魂に刺さったナイフを抜き、鞘に納める。

 

「待て…後悔するぞ…!。私はお前を探し出す!。今の私は本気じゃない!。次合った時はこうはいかない!。」

 

人の気配がしなくなっても少女は言い続けた。聞こえてるか否かは関係無かった。両肩の激痛で意識を手放すまでそれは続いた。刀身に写っている泣いてる目にはと屈辱感と憎悪が入り雑じっていた。

 

 

スネーク達がチルノを救出した頃、大妖精が待機している収容所に一人の兵隊が来ていた。見回りでは無い。兵隊の足元は定まらず、負けちまったぁ…と呂律の回らない口でぼやいていた。

 

「見ちゃダメ。いつもああやって殴りにくるんだ…。」

 

大妖精にぴったりと引っ付く妖精が耳打ちする。周りは目を合わせず、小さくなっている。大妖精も目立たない様に小さくなる。三八式は自分の尻の辺りに置いてあり、すぐに使える様に右手を添えていた。やがて不幸な妖精が標的になる。胸ぐらを捕まれ引きずり出されると、罵られながらボールの如く足蹴される。周りの妖精は出来ることは無い。兵隊が去った後に少ない薬や布切れで仲間を治療してやるしかないのだ。

その中で大妖精だけが違う目でこの状況を見ていた。大妖精から見て兵隊は背中を向けていた。

 

(音を立てない…。躊躇しない…。銃はしっかりと保持する。)

 

ゆっくりと立ち上がる大妖精。彼女の異様な雰囲気に飲まれたのか妖精達は止める事が出来ない。

森での訓練。作戦前に習った事を反芻する。

気がすんで脱力する兵隊。大妖精はその背中…脇腹にあたる場所に銃剣を突き立てた。兵隊が叫びながら身をよじる。変な力が掛かったのか銃剣は根本から折れてしまう。

兵隊が振り向いたところに突撃。倒れた兵隊の胸に股がる様に膝で腕を保持。

 

「くそ妖精が…!。」

 

大妖精は振り上げた三八式の銃床を兵隊の鼻面に叩き付けた。

 

「がふっ…げぇ…!。や、やめ…!。」

 

ゴスッ…ゴスッ…っと鈍い音を発しながら叩き続ける。

兵隊は助けを求め、妖精達に視線を向けた。妖精達は怨念の籠った目で兵隊を見ている。当然助けはない。

 

「あの娘達の傷み…私達の傷みを思いしれ…!。」

 

呪詛を吐き。三八式を持つ手に力が入る。

 

「死ね…死ねぇ…!。私達の傷みを思いしれ…!。死ね…死ね…!。死んでしまえぇっ!。」

 

何度も…何度も大妖精は銃床を降り下ろす。助けを求める声は小さくなり、そのうち兵隊は喋らなくなる。

顔や床が返り血に染まった時、大妖精はようやく殴打するのを止めた。既に兵隊は事切れており、顔面は原形を留めていない。

銃床にこびりついた血と髪の毛を見詰める大妖精。その姿に息を飲む周りの妖精達…今は自分達の上位に立つ者の凶行を見ていた。

 

「なぁんだ…。」

 

ぼやく大妖精。自然と口角が上がる。

 

「こぉんな簡単にぃ…。」

 

身体が震え始める…恐怖や寒さとは違う…。興奮していた…。

 

「鏡…無いかぁ…アハ、あはは…。」

 

自分はきっと、酷い顔をしているだろう。きっと歪んだ笑顔の筈だ。

そう自覚した時、抑えが利かなくなり、突如大声で笑い出す。そんな時、チルノを救出したスネーク達が収容棟に戻ってきた。

 

 

 

チルノを連れて収容区域に戻ったスネーク達。大妖精が待機している収容棟から異変を感じたのはこの時だった。急いで収容棟に向かう途中、一人の兵隊を排除する。別の監視櫓にいた兵隊だ。無線機からは眠そうな声で此方を伺っていた。

 

「無線機の調子が悪いみたいだ。修理する。」

 

了解…と返信が来る。兵隊を隠し、無線機を滷獲。収容棟に入ると大妖精が笑っていた。彼女の足元には原形が無くなるまで殴打された兵隊の死体。そして、銃床に血と髪の毛がこびりつかせた三八式を手に歪んだ笑みを張り付かせた大妖精。

目を丸くするサニーとチルノは死体と大妖精を交互見る。ルーミアは部屋をざっと見回すと外の警戒を始める。元人喰い妖怪の為かそれほど抵抗は無いみたいだ。

 

「スネークさん、スネークさん。」

 

興奮状態の大妖精がスネークの側に歩み寄る。笑顔は以前、歪んだまま…いや…。

 

「脆いんですね。人間って。教えて貰った通りにやったら簡単に出来ました!。」

 

行儀の良い新兵が経過を報告するのと同様に大妖精は言った。

 

「大妖精がやったのか?。」

 

しゃがんで大妖精と目線を合わせ、歪んだ笑顔に付いてる返り血と、本人が自覚していないであろう涙を拭ってやる。

 

「人を殺すのは初めてか?。」

 

頷く大妖精。

 

「そうかそうか…。やれば出来るじゃないか。大妖精。」

 

頭を撫でてやる。スネークもまた、大妖精に負けない位の歪んだ笑みで言った。

 

「おめでとう。これで君は処女では無くなった…!。記念にキカとは別に名前を考えてやる。」

 

前半の意味は通じるかな?。まぁいい。自分も初めての殺人をしたときに同じ事を言われ、内容を理解したのは少し後になってからだ。

 

「よし。大妖精の友達も救出した。長居は無用だ。脱出するぞ。」

 

 

 

 

 

 

窓が少なく、舘全体が赤に包まれた紅魔館。門番である紅美鈴は今日も紅魔館の警備をしていた。

 

「隊長。申し送り異常ありません。」

 

部下が報告に来る。昨晩、何者かの襲撃の後に増員された門番妖精だ。

 

「はい。ご苦労様。」

 

館内に向かう守衛妖精達。入れ替わりに銀髪の女性、八意泳琳が隊長と呼ばれた美鈴の横に立った。

 

「八意先生、お疲れさまです。どうかなさいました?。」

 

「お疲れさま。どうもしないわ。ただ客間にいるのもメイド長に要らぬ気を使わせるからね。」

 

 

泳琳は今朝方、弟子達を連れて紅魔館を訪れた。昨夜の襲撃者が落としていった手紙にもその旨が書かれていた。

 

「貴女も休んだら?。襲撃があってから休んでないんでしょ?。」

 

「いえいえ、守衛隊長たるとも一晩の徹夜で休むわけにはいきません。それに、こういう時の為に普段から寝溜めしてるんです。」

 

「あら?。居眠りじゃなかったのね?。」

 

「あはは…やっぱ苦しいですか?。」

 

「有名だからね。」

 

 

二人が他愛の無いお喋りをしていると霧の湖の方が何やら騒がしい。

 

「襲撃の兆候アリ!。伝令はお嬢様とメイド長に報告!。守衛部隊は迎撃体制!。急いで!。」

 

美鈴は部下に素早く指示すると自身も守衛部隊の標準装備の一つである三八式歩兵銃に弾薬を装填。

 

「塹壕への配備は?。」

 

弓を構えた泳琳が言う。美鈴は視線を紅魔館前方に広がる塹壕に向けた。10年程前に掘られ、先の異変でも紅魔館を守備するのに大いに役に立った塹壕だ。

 

「…人数が足りません。塹壕に配置すると門の守りが薄くなります。二枚の薄い壁より一枚の分厚い壁です。いざとなれは私が突貫して格闘戦を仕掛けます。」

 

元より美鈴はそっちの方が得意だった。

 

「幸運ね。今なら怪我しほうだいよ。」

 

美鈴はさらに三八式に着剣し、湖の方向を見据える。

 

(里の兵隊?。だとしたらなぜ?。)

 

いや、理由ならいくらでもある。美鈴が湖に晒された妖精を弔っているのも良い口実だろう。過去も何かと文句を着けて紅魔館を潰そうとしているのだ。

だとしたら尚更、門を突破させる訳にはいかない。手に力が籠る。

 

「隊長!。第一監視所から伝令です!。ちょっと来てくださいとの事です!。」

 

「なんで…先生。少しお願いします!。」

 

伝令を置いて駆け出す美鈴。監視所は塀の角に設けられている。普通は館内から入るか後付けされた梯子を使うのだが美鈴の身体能力の駆使し、壁の出っ張りや欠けている所を使い垂直な壁をかけ登っていく。

 

「どうしたの?。」

 

監視所の中に入った美鈴。中には数人の妖精が任務に着いていた。カニの目を模したような眼鏡から目を外した妖精が落ち着かない様子で喋る。

 

「あっ、隊長!。その…ええと…。」

 

今一要領を得ない妖精。今に始まった事ではないがこんな時に勘弁してほしい。

 

「とっ、とにかく見てください!。」

 

美鈴はカニ眼鏡を覗き込む。霧のせいで視界は相変わらず悪い。見えるのは紅魔館に向かって何かが真っ直ぐ駆けて来ているのだ。

 

「ん?。真っ直ぐ?。」

 

自分の思考に違和感を感じた。紅魔館の正面は湖に阻まれており、湖の水面に乗らない限り真っ直ぐ駆けて来るのは不可能だ。カニ眼鏡を元の妖精に配置させ、美鈴は腰元の双眼鏡を取り出す。視界も広く、倍率も良い。カニ眼鏡より性能が高かった。

双眼鏡で捉えたのは先頭を走る兵隊。そして兵隊に背負われて進行方向に腕を指向し、氷の道を作り出すチルノ。

 

「ああ…そんな…!。」

 

美鈴は喜びに震えた。兵隊の後ろから大勢の妖精達が追従してくるのを確認したのだ。中にはかつて紅魔館に勤めていた妖精もいた。

 

「伝令!。」

 

彼女の元に伝令役の妖精が駆け寄る。

 

「お嬢様に報告!。帰ってきた…妖精達が!。」

 

頭の良くない妖精達もこれは理解出来た様だ。返事をすると勢いよく監視所を抜け出す。

 

「門を開放!。八意先生に伝達と塹壕の案内は私がやります!。」

 

美鈴は監視所を飛び出し、門の前に着くと開門の指示と泳琳への報告を告げると二名の護衛を連れて塹壕の向こうに飛んでいく。

湖の岸に着いたのと、チルノを背負った兵隊が上陸したのはほぼ同時だった。

一瞬身構えた兵隊は美鈴を認識すると力を使い果たしたチルノを背中から下ろし、隣の妖精に預ける。

美鈴はその兵隊を見つめていた。魔法の森であった時は暗くてよく解らなかったが、日のある今はその顔を良く確認出来る。

 

(また…会えるなんて…!。)

 

妖精の帰還とは別の思いで感極まる美鈴。一月程前に八雲紫が言った懐かしさを感じる人間…今、その意味を理解した気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

鉱山跡地を脱出したスネーク達。脱出して二時間が経っていた。

 

「少し休憩させる。」

 

先頭を歩いていたスネークが妖精達に休憩をさせた。凡そ三列縦隊に並んだ妖精達は腰を下ろした。中には横になるものいた。

スネークは自分のすぐ後方、縦隊の先頭を歩くサニーに前方の警戒を指示。疲れた表情をするも頷いたサニーは前方に目を光らせる。最初の方は一方的なお喋りに付き合っていたが疲労のせいか返事すら帰って来なくなった。

 

「後ろの様子を見てくる。何か感じたら些細な事でもすぐ知らせろ。」

 

内心で静かになって良いと思いつつ後方の列に歩きながら妖精達の様子を確認する。縦隊の中間には収容棟にいたルナチャイルドと呼ばれる妖精と彼女がスネークに気付くと顔を上げた。

 

「ルナ。調子はどうだ?。」

 

どこかミステリアスな雰囲気を醸し出すルナ。

 

「足下が暗いからよく転ぶ…。」

 

「そうか。能力の方はどうだ?。まだ使えるか?。」

 

ルナは首を横に振った。能力を付与する範囲が広すぎてこれ以上は体が持たないみたいだ。彼女の能力は周りの音を消す程度の能力。しかもその能力は特定の指定して消す事が出来る。スネークは当面の間、全体の足音と前進する際に生じる植物がすれる音を消させた。更にルナを縦隊の中間に置くことで効果を全体に付与する事ができ、これのお陰で鉱山跡地から脱出、今まで前進間で発生する物音を気にせず距離を取る事が出来たのだ。

 

「もうルナの能力では音は消せません。早く行きましょう。」

 

ルナの護衛兼中間からの妖精達の掌握を指示させた大妖精がスネークに具申した。そばで聞いていた数名の妖精が非難めいた視線を向けるが今の大妖精に何か言うことは無かった。もとい言えなかった。収容棟で初めて殺害を行った大妖精の目は異常な程ギラギラしていた。護衛と妖精達の掌握を指示していなければ倒すべき敵を見つけ次第駆け出してしまいそうな…一種の興奮状態にいた。

地図とコンパスを取りだし、現在地を確認した。暗さに馴れた目は微かに手製の地図を読み取っていた。

 

「いや、まだ出発しない。妖精達の疲労…特に怪我を負った妖精達の状態が酷い。」

 

そんな状態の大妖精を危ういなと思いながらスネークは彼女の具申を却下した。総勢80名…約二個小隊に相当する妖精の数だが自力で歩けない物が10名。それを補助するのに同等の人数が割かれており、まともに動けるのは実質60。だが追い付かれて戦闘になれば武器も無し、弾幕を撃てない妖精もいるのでこの人数は当てにならない。自力で歩けない物の中には先程暴行を受けた妖精、水分不足から再び体調を崩したチルノも含まれていた。

チルノの事を引き合いに出された大妖精はそれ以上何も言わない。

 

「大ちゃん。あなたは焦っちゃダメ。」

 

ルナが諭す様に言った。

 

「大妖精。しっかりと気を配らせるんだ。挫けそうになっている妖精がいたら励ましてやれ。」

 

「…はい。」

 

渋々納得した様子の大妖精。

後部の妖精達は比較的元気な者が多かった。後ろに集めたのは足の遅い妖精と行軍速度を合わせる為だ。

 

「スター。追っ手はあるか?。」

 

こちらも収容棟にいたスターサファイアと呼ばれる妖精だ。生き物の気配を探る程度の能力を持っているため後方の索敵を行わせていたのだ。

 

「ううん…。気配はないかな?。」

 

念じる様な仕草をして辺りを探る。時折、小動物等の気配を感じる事はあるぐらいらしい。人に限らず自分達に明確な意思、敵意をもった気配はすぐに分かるみたいだ。

 

「追っ手の気配を察知したら元気な妖精を前に走らせろ。前方と左右の警戒は俺と大妖精。ルナ、サニーで行う。スターは後方の索敵に集中しろ。近場の気配は無視していい。」

 

 

スターの能力は生き物の気配なら全て察知してしまう。それゆえ気配の波に溺れ、どれが何の気配なのか認識出来なくなるのだ。スネークは索敵を後方に集中させる事によりそれを克服しようとした。今のところ上手くいっている。

 

「休んで大丈夫なのかー?。」

 

護衛兼後方の妖精達の掌握をしているルーミアが言う。大妖精と同じ説明をする。

出来ることならまだ距離を稼ぎたい。自力で歩けない妖精を抱え、尚且つ妖精の歩幅での行軍速度は予測していたとはいえ遅かった。このとき、鉱山跡地ではスネークと対峙した少女が外された両腕をブラつかせながら酔い潰れた兵隊達の宿舎に怒鳴り込んでおり、二十名編成の追跡分隊を派遣していた。

当然スネークもそろそろ追跡部隊が編成され、自分達を追ってきている事は想定していた。しかし、妖精達の怪我、疲労状態は無視出来る物では無かった。

 

 

「ルーミアは落伍者…置いてけぼりが出ない様に気を配れ。あと索敵に夢中になるスターを置いていかないようにな。」

 

 

「分かったー。」

 

十五分の休憩を取り、行軍を再開する。

行軍を再開して一時間経った頃に問題は発生した。自力で歩けない妖精達が音をあげ始めた。彼女達は自分達が逃走の足を引っ張っているのを自覚していたのだ。さらにスターからの報告。追っ手がかなり近いところまで来ているのだ。

 

「みんな、そんな事言わないで!。」

 

大妖精が励ますが挫けた心は元に戻らない。それはたちまち妖精達に伝染していく。動揺する80人の妖精達…それでも縦隊を離れる、恐慌状態に陥る者はいなかった。妖精達の視線は先頭に立つスネークを見ていた。

 

 

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