挫けた妖精を大妖精が必死に励ます。中にはその姿に心を揺るがせる妖精もいたが効果は薄い。
挫けた心は如何なる指揮官をもってしても建て直すのは容易ではない。生きることを諦めているのだから当然だ。
(どうする?。)
見捨てる事も出来た。挫けた妖精を餌に時間を稼ぎ、動ける者だけで前進する事も考えた。しかし、その結論には至らない。
(まだ…どうにか出来ると思っているほど自惚れているのか?。)
このとき、スネークはポケットに違和感を感じた。
最初は名の無い妖精がズボンを引っ張っているかと思っていたがスネークの隣には誰もいない。中身を取り出すと鉱山跡地の前に大妖精から譲り受けたアンク、ヒフミ、ワダヅミのマガタマが激しく蠢いていた。
『混沌ノコヨ…ウケイレロ…ワレラヲ…』
頭の中に声が響く…。何かと理解する前に体が動く。上空を見上げて口を開き、蠢く三つのマガタマを呑み込む。マガタマは違和感を感じさせずスネークの体に取り込まれていった。
「うぉ…。」
内側から不思議な命脈。頭や心に様々な情報や思念が流れると共に目眩に似た感覚がスネークを襲い。
(サァ…唱エヨ混沌ノコヨ。)
悪魔の様な囁き声…。スネークは本能のまま妖精達に手をかざし、頭に浮かんだままの言葉の発した。
「メ…ディア…。」
薄い衣が妖精達とスネーク自らの体を包む。するとどうだろう。たちまち妖精達の傷が塞がる。
「あれ?。痛くない?。」
次々と声が上がる。完全とはいかないまでも妖精達の傷が治癒されたみたいだ。
(今のは?。いや、今はそんな事後回しだ。)
「よし。皆行けるな。追跡が来ている。ここからは走って貰う。」
走れば明け方には紅魔館に着くはずだ。
スネークは今だぐったりしているチルノを背負う。あの部屋の監禁は女にとっては苛烈な拷問だったみたいだ。
自力で歩けなかった妖精も他の妖精達の支えで前進速度を上げる事が出来る様になった様だ。
一気に森を駆け抜けるスネーク達。紅魔館が近付くたびに霧が濃くなる。
森を抜け、目の前に霧の湖が広がる。妖精達は生きてまた湖がみれて感動する者もいたがまだ安心するなとスネークが一喝する。
「チルノ。湖を凍らせることは出来るか?。」
迂回する手間を惜しんだスネークは背中のチルノに提案する。
「全部はアタイでも無理だよ…。」
「全部じゃなくて良い。この列が通れて、走れる程度の強度があれば良い。」
「うん…。」
チルノは手を湖に向け、凍気を射出。スネークは出来た氷の上に乗り、強度と幅を確認。
「上出来だ。このまま力をだし続けろ。紅魔館に着くまで背負ってやる。いくぞ!。」
次々出来上がる氷の橋を駆け抜ける。それが対岸まで伸びるとスネークの顔の横で放たれていた凍気が消えた。チルノが力を使い果たしたのだ。
「良くやった。寝てて良いぞ。」
スネークが岸に着くと同時に正面から来た者に対して一瞬身構える。だがそれも直ぐに解いた。幻想入りしたその日にスネークと接触した武道服を着た女性だ。
「紅魔館の者か?。」
チルノを隣にの妖精に預ける。やけに感激している女性は頷く。
「なんとか走っては来たが元々重傷なのが10名程いる。早急に永琳先生の所に案内してくれ。」
「はい!。案内します!。皆、もう大丈夫だよ…!。」
泣きすがる妖精達を宥めると武道服の女性を先頭に塹壕を進んでいく。ここまで来れば急ぐ必要は無い。大妖精とルーミアを残し、全員が渡りきるのを確認するとスネークは二人に氷の橋を破壊する様に指示する。二人の弾幕で橋はあっという間に崩れ落ちるのを見ると三人は紅魔館に向かう。門をくぐると三人を待ってたかの様に閉じられた。
「お腹すいたぁ…。」
緊張が抜けましたと言わんばかりにルーミアの腹の虫が鳴る。
「手紙には食事も用意するように手配している。だから血は舐めるなよ。」
手の甲に出来ていた傷口を見つめるルーミア。用意されるのは消化に良い病人食のはずだが疲れてる体には調度良い。
「守衛部隊は引続き警戒を厳にせよ!。」
先程の女性が門の守りに着いている妖精に指示を飛ばす。僅かにスネークと目が合い、何か言い掛けるがその前に守衛妖精が彼女に指示を求めた。
任せて大丈夫と判断したスネークは妖精達が収容されている広間に向かう。そこはブレザーを着た兎耳の女性達が怪我の治療にあたっており、さながら野戦病院といった感じになっていた。
大妖精は妖精達に声を掛け一人づつ無事を確認。ルーミアは食事の受け取りにいった。
スネークはというと忙しく動き回る兎耳の衛生の邪魔をしない場所に移動する。場合によっては手伝おうとしたがその必要は無いみたいだ。
「お疲れ様。」
隅に移動したスネークに声を掛ける薬師、八意永琳。
「あの鉱山跡地にいた妖精は…これで全てかしら?。」
スネークは怪訝な目で永琳を見る。鉱山跡地から救出した事を知っているのは自分と大妖精、ルーミアだけの筈だ。彼女に送った手紙には何処に行くといった内容は書いていない。治療した妖精から聞いたのか?。
「人里の基地に行った時にちょっとね…そう睨まないで。基地の医療班で手に終えない時に医者として要請される事があるの。奴等の仲間ではなければ言い触らす事もしないわ。それで?。」
「…俺達が行った時に生きていた分だけだ。」
衛生兎に混じってメイド服を着た妖精が食事を配っている。
「彼女達の様態は?。」
それを眺めながらスネークが尋ねた。
「重傷者10名は別室で治療を受けているわ。気絶しているチルノは体を冷やしつつ、脱水の症状があったから点滴の処置をしたわ。ここにいるのは比較的元気のある妖精達よ。」
「飛べるのか?。」
永琳の顔が一瞬曇る。
「…羽を縫い付けられたり根元から千切られてたりしてるけど、時間は掛かるけど問題ないわ。ただ中には傷口に焼きごてを押し付けられた痕のある妖精がいたわ。残念だけど…。」
「大妖精は?。」
見回せば大妖精がいない。
「それなら弟子が治療にあたっているわ。背中に血が滲んでたみたい。気弱な所があるけど腕は確かだから安心して。…ところで、2つ程聞いて良いかしら?。」
スネークが頷く。
「どうして妖精達を助けたのかしら?。あなたが元とはいえ兵士、傭兵で有ることは承知よ。充分な報酬が得られるとは思えないわ。」
「どうしてと言われれば依頼を受けたからだ。」
協力する気なかった。それは確かだ。だがあの時、大妖精の願いを拒んだら激しく後悔しそうな気がしたのだ。理由は今でも分かっていない。
「言うなれば俺の中の信念?。まぁ、納得はしてる。」
結局、そんな事しか言えない。永琳も取り合えずそれで良しとしていた。
「あと1つ。チルノと重傷者以外の妖精から外傷がほとんど見られないのよ。」
血が滲んだ粗末な包帯や衣服の下、明らかに虐待を受けた状態であるのにそれらしい傷が少ないという報告が衛生兎から永琳にあがっていた。最近、兵隊に腕を折られたと言っていたサニーは現在、両手に水と粥状態で食事をかっ込み、ゆっくり食えと注意を受けていた。
「妖精の話からは貴方が何かしたみたいだけど?。」
「なんだったんだろうな?。幻想郷ではよくあるんじゃないか?。不思議な事なんて。」
「大妖精からこんな物を貰わなかったかしら?。」
永琳の手には森でスネークが呑み込んだマガタマがあった。
「お土産のマガタマ。」
面倒な事になりそうと惚けるスネーク。永琳は疑う様な視線をするが追求はしなかった。
「"魔人"って言葉に心当たりは?。」
「質問が三つになったぞ。」
取り合わないスネーク。永琳は溜め息を着いた。
「大妖精の治療が終わったら俺の所に寄越してくれ。あとは…。」
一枚の紙を渡す。
「注文が多いわね。2つ目は医者として賛成出来ないし、三つ目は見合う資金が必要よ。弟子を救ってくれたお礼の意味も込めて、最大限考慮するわ。」
「最後の仕上げだ。金は用意する。今回の功労者だ。」
言うだけ言うとスネークはこの部屋を出る。その時に一人の衛生兎とすれ違う。
「あ、あの…。」
「すまないが後にしてくれ。」
呼び止められそうになったが応じはしなかった。その衛生兎が悲しそうな顔をしたのも気付く筈が無い。
「気のせい…だったのかな?。」
その光景を見て永琳は弟子を哀れに思う。
「紫はあの子に何を期待しているのかしら?。」
去っていくスネークを見ながら妖怪の賢者である友人を思い、永琳はまた溜め息を着いた。
人里から離れた所に佇む一軒の屋敷。幻想郷で有力な権力を持つ豪族の屋敷。
ある一室で寝苦しさを感じた当主は呻きをあげながらベッドから起き上がった。部屋は古風な屋敷の外見とは異なり内装は洋風の感じに纏められており、香が焚かれているため部屋の中を上質な香りが広がっていた。
そんな香りのなか、異質な匂いが鼻に着いた。
「ふん。獸臭い。」
そちらに目を向けると拘束された妖怪の女と妖精が抱き合って部屋の隅に震えていた。妖怪の女は烏天狗だった。数日前、携帯に撮った写真を片手に連れ込んだ妖精達を解放しろと乗り込んで来たのだ。写真は当主や兵隊達に取って偶々都合の悪い物であった。
要求を呑む振りをして烏天狗を屋敷に入れ、油断したところを捕縛したのだ。
本来、翼や羽を持つ者はそれに何らかの処置をして飛べなくするが烏天狗達や妖怪の山に住む者は兵隊達や主たる御方との条約があった。なので処置をせず殴打等の仕置きで済ましてある。
烏天狗は当主を射殺す様な目で見ていた。当主はそれを鼻で笑う。散々妖精を犯してる姿を見せ付け、その目が無力さを悔やむ表情になるときが楽しみで仕方ないのだ。
風に当たろうと酒と葉巻を片手に廊下に出て窓を開ける。五月中頃とは言え夜は冷える事がある。寝汗を冷ますのに充分であった。
「適当に罪をでっち上げて遊郭に…いや、妖怪の山の連中に身代金を要求するか。奴等は仲間意識が高いからな。」
人里にいる将校との商売も上手くいっている。古くから有力な権力を保持していたが人と人外が均等していた時はこうもいかなかった。
酒の入ったグラスに口を付ける。旨いが緩くなっていた。…確か冷えているのがあった筈だ。
「おーい!。誰かいないか!。」
当主は近く控えてる使用人を呼びつける。だが誰も来る気配が無い。行為に及ぶのに人払いはさせていたが声の届く範囲に控えている筈だ。
「誰かいないか!。」
更に叫ぶと一人のお付きの兵隊が駆け寄る。
「遅いぞ。冷えた酒を持ってこい。儂は部屋にいる。」
兵隊を一瞥して振り返る。
「残念だが、戻る部屋はそっちじゃないぞ。元締めさん。」
背中に硬い突起物を突き付けられていた。当主は物陰から出てきた妖精に銃を向けられ、言われるがままに歩く。
スネークは屋敷内の広場に着くと当主蹴飛ばす。そこには豪族当主に仕える使用人。派遣された人里の兵隊が壁際に追い込まれ怯えた様子で周りを囲んでいる妖精達を見ていた。
「よくこんな所見付けたな。」
スネークがある一点を見上げながら言った。
「なんかムカついたので。」
大妖精が銃口を当主に向けたままスネークと同じ場所を見た。そこにはとある胸像が埋め込まれていた。
「あれ、凄く嫌いだ。」
サニーが呟く。彼女の手には紅魔館から拝借した軽機関銃、トンプソンマシンガンが握られていた。他にもルーミア、ルナや他の妖精達も同じ銃を構えていた。違うのは大妖精一人。紅魔館を出るときに大妖精にもマシンガンが付与されたが頑なに拒み、三八式を持っていた。本来彼女が使う筈の銃はスネークが使用している。
「気が合うな。俺もムカつく。」
神々しい存在感を醸し出す胸像。囲まれた屋敷の者達には喚きながら祈る者もいたりしたが、スネークにはイライラを助長させる物でしかなかった。
「貴様…!。こんな事をしてただで済むと思う…ぎゃぁ!。」
スネークが当主の手に向けて銃を撃っていた。
「まて…取引だ…。妖精から少ない金で雇われたなら…今からでも乗り換えないか?。なんなら主にも拝謁出来る様に便宜を…。」
さっきとは逆の態度で交渉に持ち掛ける当主。
スネークはマシンガンを胸像に向け、引き金を引く。マガジン一本分の銃弾は胸像を破壊。破片と土埃は当主と使用人達に降り注ぎ、悲痛な悲鳴が響いた。
「頼む!。待ってくれ!。屋敷には隠し部屋がある!。そこには…。」
「監禁した妖精と妖怪。それの取引先の顧客名簿。薬物。金。拷問器具。死体。随分趣味が良いな。」
既に把握されているのに絶望する当主。屋敷全体は使用人を黙らせてすぐスターに探知させていた。監禁されていた妖精と妖怪は別のチームに保護しており、金や顧客名簿は既に運び出していた。
「大妖精殿!。この度はすまなかった!。妖怪は勿論、妖精達も丁重に弔う!。兵隊には今後お前らの生活を脅かさないと約束する!。」
スネークと交渉出来ないと分かると大妖精に救いを求める。
死体と聞いて妖精達は怒気を強めていた。中でも大妖精の怒りは計り知れない。
「殺せ。大妖精。こいつらは今日まで妖怪やお前の同族を犯し、殺害した。追い詰められて降服しただけで助かると思ったら大間違いだ。」
大妖精は右手を高く掲げる。当主と使用人達はこれから起こる事に狂乱。口々に許しを乞い、すまなかった!。止めてくれと叫ぶ。
「連れ去られた娘…死体になった娘達は止めて、助けてと言った筈です。あなた達はそれを助けましたか?。」
大妖精は振り上げた腕を降ろそうとして一瞬迷う。だがイタズラに殺された仲間達の顔が浮かんだ途端、右手を前に振り下ろし、命令した。
「撃てぇぇ!。」
十挺の銃から放たれる約200発の銃弾。それは屋敷の人間達の体を容赦なく貫く。
血塗れになった死体。その中でまだ息のある者がいた。当主だ。助けてくれ…と細い声で懇願する。そんな当主に大妖精は三八式を向け、引き金を引いた。
「30分後に屋敷を焼く。汚物は消毒だ。」
スネークは隠し部屋の遺品の回収として死体から妖精なら羽。妖怪からは尻尾や髪の毛と簡単に綴った特徴を書いたメモ用紙に挟んだ。死体の運搬は腐敗が進行している物もあり、すべて回収するのは不可能であった。
30分後…。屋敷は大きな炎に包まれていた。
「仇はとれたか?。」
スネークは離れた所から屋敷を見つめる大妖精に話し掛ける。手にはマッチ箱が握られている。
「…はい。」
後始末の為に油を撒き終えたスネーク。いざ火を放つ時に大妖精が志願したのだ。
「大ちゃん。あれ…。」
ルナが燃え盛る屋敷の上方を指差す。全員が視線を向けると炎とは別の物が漂っていた。光の玉だ。1つ、2つ、3つと次第に増えていくと一斉に此方に向かってくると大妖精の周りを漂い始めた。
「みんな…!。」
1つの光の玉に触れる。死んだ妖精達の霊体と解ったのだ。
「怖かったよね…痛かったよね…。」
涙ぐむ大妖精に漂っていた全ての光の玉が彼女を包み、宙に持ち上げた。
光の玉から解放された大妖精は背中に慣れ親しんだ感覚に気付いた。羽が生えていた。しかも以前と違い二対に増えている。体の中にも変化が起きていた。ハッキリ感じられる位に魔力が増えている。
次にスネークの周りを光の玉が漂い始めた。彼にも礼を言いたい様だ。
玉の1つが目の前に止まる。手を添えると一個のマガタマに変わり、スネークの手に落ちた。
(ワレ…カムド、ナリ。)
蠢くマガタマをポケットにしまう。そうしている内に光の玉は上空に消えた。
「スネークさん。本当にありがとうございました。あの娘達、喜んでいました。」
大妖精はスネークの隣に降り立つと深々と頭を下げた。
「キカ…いや、大妖精。約束だったな。新しい名前をやろう。」
サニー、ルナ、スターを始め妖精達がそれを見守る。今や大妖精は彼女達とは比べ物に成らない位に魔力を保有している。自然の分身として生きる彼女達は語るまでもなく、大妖精を上位の存在として受け入れた。
その思いはスネークにも注がれていた。恩人とは別の…内側に秘める説明の付かない何かを…。ルーミアの調子は変わらず、この中でも人質の一人と何やら交渉していた。
(ピクシーは安直過ぎか…。)
何やら携帯電話で一心不乱に写真を撮っていた。あれは確か顧客名簿だ。自分も撮られるかと案じたがそこはルーミアが気を使い、スネークの周辺を闇で囲った。
「王…女王。妖精の女王。なら、そうだな。大妖精。本日より…。」