不可思議な立方体世界 -cube world- 作:風庭 雪衣
「ふあぁぁ…」
ふと目が覚める。大きな欠伸をし、腕を真上に伸ばす。
普通だったらこのまま二度寝してしまうのだが昨日は早く寝たのでそんなに眠気もない。
……何だろう。暖かい。まるで日向ぼっこしているような感覚。体に程よい熱が伝わる。凄く気持ちが良い。
真上に伸ばしていた手を下ろす。……なんか手がチクチクする。まるで芝生に手を置いているような。
……ん? 日向ぼっこに芝生? ……⁉︎
俺は異変に気付き、目を開けて飛び起きた。
一瞬、目を疑った。目の前に広がっている景色が嘘みたいだからだ。俺は昨日、確かにタオルケット一枚を掛けてベッドで寝たはずだ。
……だったら何なんだ。この、草原は。
目の前に広がる草原。周りに生える草木と花。周りを見渡しても、建物、いや、人工物も見当たらない。
目を擦り、あくびをしながら立ち上がる。草むらが広がり、遠くの方に森が見える。ふと真上を見ると、太陽が一番高いところにある。
……もう昼か。どれだけ寝ていたんだよ。というか、ここどこよ。誰かが俺を運んできたのか? いや、聞いたことがある。もしかして【異世界転移】ってやつか? ひとまず人を探さないと……
俺は歩き出す。
行くあてがないので、ひとまず森の方へ。
……何なんだこれ。
俺の目の前には、驚くほどカクカクとした木が存在していた。幹は四角の柱で出来ており、葉は立方体が何個かくっついた感じだ。
葉が立方体ということは、幹も立方体か?
あり得ない。が、ここに来るまでに何個か不自然な段差があった。
体の半分程あって、ジャンプで階段みたいに乗り越えたが、もしかしたら……ここは俺がいた世界と違う世界? 嘘だろ? まじかよ……
ということは俺がいた世界みたいな技術はない可能性があるな。辛いな…ということはサバイバル生活か? サバイバル……まずは【木】だよな。
心機一転、俺は目の前の立方体で形成された木をまじまじと見つめ、後ろに何歩か下がり、身構える。
そして、思いっきり幹を蹴った。
ズドッ!
蹴りと同時に小さく葉が揺れる。
くっ……足痛ぇ……素足で蹴るんじゃなかった……
でもこれで少しひびが入ったな。手のほうが効率が良いか?
と、手で幹を叩き始める。
どんどんひびが入っていき、遂には──
ぽこっ
……は?
俺は目の前で起こった事が理解できなかった。
木の幹が叩くだけでひびが入っていき、ぽこっという音とともに一つの小さな手のひら大の立方体になった。
いやこれの方が持ち運びやすいけどさ。どうやって元の状態に戻すんだよ⁉︎ ひとまず地面に置いてみる?
それを地面に置くと、小さな立方体は空中にふよふよと浮きながらゆっくり回る。
……この際、浮いていることは放っておこう。勢いが足りないのか?
俺はそう思うと小さな立方体をまた手に持ち、今度は勢いよく地面に向かって叩きつける。
小さな立方体が地面に触れた瞬間、元の大きさに戻った。
なるほどな。元に戻す時は叩きつければいいのか。なんだよこの世界。
元に戻った立方体をまた回収する。すると、目の前に小さく文字が浮かび上がる。
何だこれ【樫の原木】? これの名前か、なるほど。
俺は振り返ると、幹の一部が欠損した木の幹を全て叩いて回収する。
回収すると、葉だけが残るという異様な光景が出来上がった。
もうこの世界について考えるのは止める事にした。不可思議が多すぎる。元いた世界とは常識が違いすぎる。常識なんて捨てよう。うん。
小さくなった樫の原木を回収していると、上から何かが落ちてきて音もなく地面に浮く。
何だこれ?
手に持つと、【樫の苗木】と表示された。
苗木か。これ、植えて何年したら育つんだよ。というか、上から降ってきた?
見上げると、葉が一つ一つ消えていき、低確率でモノになっている。そして、葉が全部消えると、地面には苗木が三つにりんごが一つ落ちていた。
もちろん、それも回収し、ジャージのポケットに入れる。
俺は歩き始める。誰かを探して。
もしかしたら集落、村の様なものがあるのかもしれない。
ポケットから原木を一つ出すと、それをギュッと握りしめた。
これは俺がこの世界から元いた世界に帰ることを決心した決意の表れなのかもしれない。
ぽここっ
……また何かの音がした。モノが出現した時に出る音だ。
その音と同時に、握りしめた原木が数倍に大きさが膨れ上がる。
俺は原木を握りしめていた右手を開く。と、そこには原木ではなく、四つの立方体があった。
それを一つだけ残し、全てポケットに入れると立方体を持ち直す。すると、【樫の木材】と表示された。
なるほど。面白い。原木を握るとモノが変化するのか。
それに気づいた俺は歩きながら木材を握る。何の変化も起きない。
一つでダメなら二つでどうだ?
二つの木材を握りしめる。
すると、茶色くて細長いモノが出来た。目の前には【棒】と表示される。
棒か。面白い。モノの組み合わせで何かを作れるってことか。
ふと、手に持っている棒から目線を外す。
夢中になっていたせいで気づかなかったせいか、周りは既に暗い夜だった。月はまだ低い、夜に入ったばっかりだ。
……は?さっきまで昼だったよな? まだ6分半くらいしか経ってないよな?
何だよこの世界。昼夜サイクルが異常に早いぞ。というかおまけに月も四角いし。
やっばすっごい暗い。どこかに灯りは……
グアアァァ
なっ、なんだ今の呻き声!?
勢いよく振り返るとそこには緑色の皮膚、空っぽの眼窩、青いズボンに黄緑色のシャツ。どこからどう見ても【ゾンビ】という名称しか思い浮かばない物がそこにいた。
俺はゾンビから距離を取り、棒を武器に身構える。
おもしれぇ。やってやろうじゃねえか。興味本意で鍛えた俺のCQCを舐めるなよ!
俺はゾンビへ向かって走り出し、ゾンビの攻撃をしゃがんで避け腹部に打撃を与える。ゾンビが数歩下がったのを確認すると、棒で思いっきり頭を叩く。
ゾンビは地面に倒れ体を赤く光らせ黄色く光る玉とモノを落として消えた。
消えたのを確認すると、モノを回収する。黄色く光る玉は近づくと何故か消えてしまった。モノは【腐った肉】だった。明らかに持っていたくはないが、何かに役立つだろうとポケットに入れる。
その瞬間、周りから何個もの音が聞こえた。
グアアァァ
シャァァッ
カランカラン
シュウゥゥ
最後の音だけ聞いたことがある。なにか、火花が散って火が導火線を進む音に限りなく──
俺は勢いよく立ち上がると行くあてもなく走り出す。後ろで爆発音が聞こえた。得体の知れない音も聞こえる。
ヤバい、まじヤバい。
俺は走る。走り続ける。モンスターから逃げるために。