不可思議な立方体世界 -cube world- 作:風庭 雪衣
「ふう、疲れたな。ちょっと休むか」
俺は開拓したとある村を広げる為に新しく木のフェンスで土地を囲い湧き潰しをし、新しい家を建てているところだった。
宙に浮きながら、右手を空にあげて目を閉じ
「……ティーキースタートアップ。ゲームモード、ゼロ。……ラン」
俺がそう呟くと浮いていた体は飛行能力を失い、地面へと引き寄せられ
ぐきっ。
「──っ!もうちょい低いところで変えた方が良かったか……」
叩きつけられ足を挫く。少々体力が削れたが、すぐに元に戻る。
俺はすぐそこに一つだけ置いてある階段ブロックに腰掛けるとストレージから地図を出して、息を吐く。
この村は結構特殊だ。まず、立地。ここの辺りは平原バイオームと氷原バイオームが隣接している地帯で、畑一つと家二つ、そして村人二人しかいなかったのだが、俺の建築ラッシュで氷原の方に村を広げ、今では村人十六人という結構大きい村になっていた。
そして、今作っているのは村長の家だ。この村を管理する人が住むところなので他の家と差別化するため結構大きく作る。そして、村中を見渡せるように見張り台も隣接。
目線を上げ、建設途中の村長の家を見る。
材料が、足りない。
氷原バイオームはわずかに松の木が生えているだけ。……なんで村長の家の材料を松の木にしたんだ……俺。
そうして俯き、ため息を吐く。
どうやって松の木を入手しようか考えていると俺の顔を子供が覗き込んできた。
「ねえおじさん。雪降らせてー」
そう話しかけてきた。結構疲れていて拒否したくなるが、それだと可哀想なので一応話を聞く。
「おう。そうか。で、なぜ雪を降らせて欲しいんだ?」
子供は目を輝かせて答える。
「雪合戦してたら雪が無くなったんだ。だから降らせてー」
この村は俺が急成長させた所為で子供が多い。子供が遊ぶ場所が必要だろうと公園を作ったのだが、殺風景だと子供が遊びたがらないので、俺も昔友達とよくやっていたものを作った。それは、秘密基地ごっこだ。
小さな家を三軒ほど建てたのだが、遊んでいるのを見ると不満足感が凄かったので、木を建てたり、ベンチを作ったり池を作ったりしてなんとかなった。
……池はすぐ凍って子供達はスケートリンクの様に滑っていたけれど。
そして、俺は気づいた。秘密基地は秘密だから面白いし、楽しいのだと。基地に執着する俺もしつこいが、この際どうでもいい。それに気づいた俺はすぐに作業を開始した。
レッドストーン回路を駆使し地下に空間を作り、アイテム判別機能、ホッパーを使って特定の場所にアイテムを置くとアイテムがホッパーによって回収され、ピストンが作動。
木の陰に出入り口が出現する仕組みだ。そして、入れるアイテムも特別に時計にした。
そして、前日から予告して子供達を公園に集め、じゃんけんで勝ち残った子に時計をあげた。
都合よくその子はみんなのリーダー的な存在の子で、時計を受け取って説明を受けて理解すると早速みんなを巻き込んで遊び始めた。
平和な光景に結構驚いた。秘密基地というのは他の人が知らず自分達しか入れないというのが鉄則だと思うのだが。
まあ、そこも常識が違うということで納得した。楽しく遊べていればよし。そういうことにした。
今のこの世界は俺が設定を変えた所為でお腹が減らず体力もすぐに回復しモンスターは一切出ないようになっている。
だから、子供達は楽しく遊びまわる。話がズレたが、まあそういうことだ。
子供が多くて、みんな一緒になって遊ぶからすぐに雪が無くなった。ということ。
俺はすぐに理解して立ち上がる。
「ああ、分かった。あと、俺はまだおじさんなんて年じゃねえ。まだ二十歳だぞ。メラク」
俺はメラクのおでこに軽くデコピンする。
「むー。倫太郎には冗談が通じないんだね」
メラクは無愛想にそう言い、続ける。
「でも、いいなー。この世界の創造龍を倒してなんでもできるんだよね」
「なんでも、ってことでは無いけどな」
「あれ、そうなの?まあでも天気とか変えられるしやっぱり凄いよ」
「そりゃどうも」
「……さっ、じゃあ公園まで早く行こ!【英雄さん】」
「……はいはい」
そうしてメラクは走り出す。やっぱり子供は元気だ。俺はメラクを追って公園に向かう。
公園に着いた。地面に積もっているはずの雪は綺麗さっぱり無くなっていた。
この世界では雪を回収して雪玉にして投げると砕け散って消える。しかも一定量以上は降っていても積もらない。除雪作業が要らないというところではとても便利だ。
「あっ、メラクがきた!」
その子供の一言で俺の目の前に子供がすぐに集まる。そして、雪の催促が始まる。そこまで雪合戦したいのか、お前らは。
「さっ倫太郎! ちゃちゃっと雪降らせちゃって!」
「偉そうだな。はいはい、分かったよ」
俺はポケットに入れていた右手を高々と空に向けて上げる。右手と同時に目線も上がる。そして、呟く。
「ティーキースタートアップ」
子供が一斉に黙り、そして目線が俺に集中する。
「ウェザー、レイン。……ラン」
言い終わると、右手を下ろす。それと同時に目線も下りる。みるみるうちに空が薄暗くなり、そして雪が降り始めた。
* * *
「ハァ……ハァ……ハァ……」
つらい。とてもつらい。
この立方体で構成された世界には斜面という物が段差で表現されている。目測で80cmほどある段差は、ハードルを連続して飛び越える様なものだ。
短距離走ならどうってことないが、長く続くととてもキツい。夜になるとこの世界は平和から一変する。
ゾンビやスケルトン、緑色のなんか変な奴に加えて大きな蜘蛛が襲いかかってくる。
しかも、蜘蛛以外は地面から湧き上がってくるのだ。
どのくらい走っただろうか。やっと夜が明けそうだ。月が沈み、明るい太陽が出始めている。
地面からはモンスターの湧きは止まり、蜘蛛は襲いかかって来なくなり、ゾンビとスケルトンは太陽に焼かれ始めていた。
しかし、緑色の奴は違う。
太陽が出ても焼かれないし、夜と同じく俺を追いかけてくる。そして、近づくと爆発。でも、太陽が昇ると湧くことは無くなる。
「ハァ……ハァ……ハァ……やっと……逃げ切った」
周りにはモンスターは見当たらず、いるのは豚や羊などの動物。そして、目の前には建物があった。何軒も。
建物と建物とは草が生えていない道で繋がっていた。
……村?人は、いるのか?
いつの間にか村の近くまで来ていた俺はその疑問を抱きながら、村へと歩いていく。
村の中に入ると、小さい家から、大きな家、更に畑まであった。起伏は少なく、建物が多い。結構大きそうな村だ。
周りを見ながら歩いていると、目の前の建物から人が出てきた。
その人は大きく深呼吸をして欠伸をし、周りを見渡す。その時、その人の視線が俺に突き刺さる。
その人は俺を見て表情を変え、こちらに近づいてくる。そしてその人はこう言った。
「な、なあお前。この村の奴じゃねえよな?」
もちろん、この村の人ではない。
「ああ、そうだが」
俺がそう言い放つと、その人は質問をぶつけてくる。
「な、なあ。ブロック、壊せたか?」
ブロック?
「ブロック、なんなんだ? それ」
「ブロックはそれだ」
その人が指差したのは、畑の枠に使われている原木だった。もちろん、壊せて回収もできた。
「それをブロックというのか。ああ。壊せた。なんだ? これがなにか重要なのか? あんたらも壊せるんじゃねえのか?」
「ブロック壊せるんだな。じゃあ、ついてきてくれ」
質問は呆気なく弾かれ、その人はスタスタと歩き始めたので仕方なく付いていくことにした。
村の中を歩いて30秒。恐らく村の中で一番大きい建物に着いた。その人は建物に入って行くので、俺も着いて行く。中に入ると、目の前には簡素な椅子に座った老人がいた。
「紹介しよう。この方はこの村の村長だ」
「は、はあ。こんちは」
いきなり紹介されたので、いつものノリで返した。
「其方、名はなんと申す?」
「俺か、俺は【水無月 倫太郎】だ」
「倫太郎、か。其方はこの村、いやこの世界の救世主じゃ」
「はぁ?」
理解できなかった。なぜ俺が救世主?
「なんで俺が救世主? 俺以外にも人はいるだろ?」
「そうじゃった。まだ話しておらなかったな。この世界のことを」
「おう。それについては俺も気になっていたところだ」
「じゃあ、話すとしよう。この世界は、【ディメンション】というもので構成されている。ディメンションは三つあってな。一つは今わしらがいる此処。ここは【オーバーワールド】という。オーバーワールドは、【バイオーム】というもので区切られている。凍結河川、氷原、樹氷、タイガ、森林、砂漠、平原などなど。バイオームによって、このオーバーワールドの地形は作られている。そして、【チャンク】この世界全体を等しく区切っているものじゃ。1ブロックを1として、16×16、これが1チャンクじゃ。これは他のディメンションにも適応されておる。二つ目のディメンションは、【ネザー】じゃ。これはHellバイオームが全体に広がっている地獄の様な場所じゃ。ネザーはオーバーワールドとリンクしており、ネザーで1ブロック進むのは、オーバーワールドで8つ進むのと同じじゃ。ネザーにはネザー砦というものがあり、そこにはブレイズというモンスターが潜んでいる。そして3つ目。それは【ジ・エンド】じゃ。空中に浮かぶ島で、黒い柱が立ち世界の壁がなくそして【エンダードラゴン】が潜んでいる」
喋っていることが一向に分からなかった俺は、話の中で気になった言葉を質問する。
「エンダー、ドラゴン?」
「そうじゃ。巨大な黒い龍で全てのブロックを破壊し襲いかかるものを吹き飛ばし、クリスタルで体力を回復するのじゃ。エンダードラゴンを倒すと、最上級のOP権限が与えられるのじゃ」
「OP権限?なんだよそれは」
「OP権限というものは、この世界にどれだけ干渉できるかのレベルじゃ。一番低いと、この世界に存在するだけ。何もする事が出来ない。1つ上がると、小麦などを壊し、クラフトができる様になる。これがわしらじゃ。そして、もう1つ上がるとブロックを壊し、思い通りにクラフトする事が出来る様になる。それが、其方じゃ。モンスターを倒すに応じてレベルが上がる。クリーパーを倒すと、爆発を操り、エンダーマンを倒すとテレポートを備え、エンダードラゴンを倒すと、この世界の全てに干渉できる様になる。やり方によっては、世界を消し去り新しく造ることも可能じゃ。……頼む! エンダードラゴンを討伐しておくれ!」
「はい? どうゆう事?」
「この世界を造ったのはエンダードラゴンじゃ。動物と同時にモンスターを生み出した。わしらはモンスターに干渉する権限を持っておらん。故に一方的に攻撃されるのじゃ。頼む! エンダードラゴンを倒し、モンスターをこの世界から消し去ってくれ!」
村長が言った言葉に、俺の厨二心が擽られ
「なんか、面白そうだな。よし。引き受けよう」
あっさり引き受けてしまった。
「ああ、有り難い……!そうじゃ、其方はまだクラフトを知らないな。このわしが直々に教えてやろうではないか」
「クラフト?」
「そうじゃ。OP権限が無いとクラフトもできないのじゃ。我々はクラフトができる者のことをクラフターと呼ぶ。其方、木材は持っておるな?」
「あ、ああ。持ってるぞ」
「では、木材を四つ、握ってみるのじゃ」
俺は村長に言われた通り、ポケットから木材を取り出すと四つ一気に握る。
ぽこっ
「ほれ。それでクラフト完了じゃ」
「これのことをクラフトと言うのか。面白え」
手を開くと、一つのブロックがそこにあった。上面に3×3のマス目が書かれ、側面にのこぎりやとんかちなどがある。
「それはクラフティングテーブル、いわゆる作業台じゃ。ほれ、そこにおいてみい」
俺は言われるがまま村長の目の前にブロックを叩きつける。ブロックは床に触れると一瞬で周りのブロックと同じ大きさになった。
「この作業台は上面に書かれている3×3のマス目にアイテムを正しく置くと、新しいアイテムができるのじゃ。アイテムとは、ブロックを含める手に持てる物を言うぞ」
「なるほどな。で、何が作れるんだ?」
「そうじゃのう……一先ず【木の斧】でもつくってみるかの。必要なアイテムは、木材三つと棒二本じゃ」
俺は村長に言われた通り、木材三つと棒二本をポケットから取り出す。
「そうそれじゃ。それをここに置くのじゃ。こことこことここ」
俺は言われた通りにアイテムを置いていく。左上と上と左中に木材、真ん中と下に棒を置く。
すると、並べたアイテムがゆっくり中心に集まっていき……カッという音を立て一つのアイテムとなった。俺はそれを手に取る。目の前には【木の斧】と文字が表示された。
「成功じゃ。どうじゃ?クラフトは」
「面白いな。こんなのは初めてだ」
俺がそういうと村長は満足した顔で
「そうじゃろうそうじゃろう。わしも昔はバリバリのクラフターだったからのう」
と言って頰を上げた。