お久しぶりの逢瀬シリーズ。
拙作『魔導王陛下、御嫡子誕生物語~『術師』の復活~』にて、妹たちが次々婚姻していった「後」のお話です。
そのため拙作の設定は、作者の想像が含まれている可能性が大いにあります。ご注意ください。
では、最後に一言。
ユリ姉、きゃわたん。
バー・ナザリック。
ナザリック地下大墳墓・第九階層“ロイヤルスイート”に点在する、至高の御方々専用に創設された娯楽施設の一つ。
本来であれば、この第九階層はほとんどすべてのNPCの出入りが制限される聖域であり、そこに存在するすべての施設――大浴場、ラウンジ、雑貨店、ブティック、ネイルアートショップなど――は、ナザリック地下大墳墓を統べる至高の四十一人にしか使うことを許されないものであるはずなのだが、異世界に転移してからというもの、至高の御方のまとめ役にして、この地に最後まで残られた慈悲深きアインズ・ウール・ゴウンその人の鶴の一声により、この第九階層は数多くのシモベたちが憩い集う一大テーマパークの様相を呈するようになった。
これは、第九階層の警護を行う選抜されたシモベからはじまり、階層守護者の方々から戦闘・一般メイドまで、最終的には幅広い層に利用されるようになるまで、そう多くの時を費やさなかった。
至高の御方々を
それをシモベの身分であるNPCたちが利用し甘受できるように取り計らってくれたアインズの
さて。
そんな至高の娯楽の一つに列挙される、このバー・ナザリックは、他のロイヤルスイートの施設に比べて些か以上にこぢんまりとした規模しかない施設ではあるが、有名どころではコキュートスやデミウルゴス、一時期はシャルティアなど、
そして今夜、バーは次なる来客を迎え入れた。
「……マスター、生ジョッキ四つ。あとジャック枝豆」
大至急と促す声が後に続く。
玲瓏かつ冷厳な女性の声が、楽師たちの奏でるグランドピアノやバイオリンの調べに満ちた清澄な空間を満たしていく。注文された内容は、このバーの雰囲気と、一人の淑女然とした女性にはそぐわないものではあったが。
バーのマスターを務めるマイコニド。彼はこのバーを経営するマスターの立場であると同時に、ナザリックで消費される大量の食事を供給できる数少ない料理人職を保有する副料理長を務める男だ。
彼は些少ながら、自分の営むバーのイメージに沿わないオーダーに不服そうな逡巡を見せたが、すぐさま一礼と共に、ショリショリに冷えたジョッキを四つ、冷凍庫から取り出してみせる。
「あなたがこちらにいらっしゃるのは珍しいですね」
「何か、問題でも?」
普段の彼女らしからぬ言動であったが、副料理長は特に応えた様子もなく黄金色の液体をジョッキになみなみと注いでいく。琥珀麦《こはくむぎ》のラガービールは、彼が手ずから醸造したアルコールのひとつである。ドリンクの製作製造について、彼の右に出るものは、このナザリックには存在しない。
「珍しい」などと副料理長は言っていたが、実は彼女、近頃このバーの常連になりつつあることは秘密である。客のプライベートを保護するのも、バーのマスターの義務なのだ。
「前、いらっしゃったのはいつ頃でしたか?」
「……二週間前です」
これは失礼と営業トークに花を咲かせるキノコ頭は、汗など微塵も流れない顔に冷や汗が浮かぶ思いを抱く。
今日はだいぶ、いや、かなり、機嫌が悪い。
原因については判り切っているので、あえて追及などしない。
女は無駄話が多すぎるから嫌いな副料理長は、そそくさと己の業務を完遂する。
「どうぞ、ごゆっくり」
マスターは生ジョッキ四つとテニスボール大の枝豆を盛った皿――ドリンクの提供しかできないマスターであるが、魔法で保存された調理済みの食材を提供することは可能――を女性の前に並べ、
女性もまた、その様子に気を悪くした風は見せない。どうせ、ここへは独り言を言いに来ただけのようなものだ。
冷気の雫を滴らせるジョッキの表面を見つめる。
そこに僅か映っていたのは、普段は夜会巻きに纏めた黒髪を肩にすべて流す、白皙の面貌。眼鏡の奥には黒い瞳。青く輝くチョーカーが、頭と体を固定する拘束具の役目を果たしている。タイトでミニなスーツに身を包んだ姿からは、普段着こなしているメイド装束とは違うタイプの、扇情的な色香を存分に
この女性こそ、
ユリはちらりと自分の手首に巻き付けられたアイテムを、普段は創造主より与えられた棘付きガントレットに覆われているはずの真っ白な手首のあたりを、確かめる。
「……いただきます」
憮然としながらも、礼儀正しく食事を始める。
最初に口をつけるのは勿論、金色に煌く液体だ。唇にピリリと冷気が走るが構うことはない。良く冷えた喉越しが、分離している頭と体の境界を通って喉を滑り落ちる。チョーカーの巻き付いた首回りが凍える感覚が素晴らしい。もともと体温などない身体だが、この瞬間だけは体の底が熱く滾る。
ユリは飲食のできない種族・
しかし、ナザリックのとあるモンスターを装備することで、飲食が不可能なシモベでも、飲食を愉しむことが近年可能になっていた。
それは、
この蟲モンスターは、装備者の口や喉に装備すると声を変えることができるモンスターであるはずなのだが、この異世界に転移してから数年が経ち、至高の御身が戯れの実験に装備中の蟲に食事をさせたところ、意外なことに装備者に食したものへ味覚を共有するという素晴らしい性能があることが判明したのだ。無論、食事そのものをするのは口唇蟲であるため、蟲の許容量を超えての飲食は不可能な点は覆らないのがネックだ。
ユリがこの口唇蟲(人間の声帯を貪っていない若い個体な為、ユリの声を変えることはできない)を得たのは、
「ぷはぁあ!」
一口でジョッキ一杯を空にすると、枝豆にしては巨大な緑色のボールを掴んで乱暴に噛み砕く。青臭い野菜の香りがラガーに合う。酒の
続けて二杯目に手を伸ばす。
これもすぐに空となると、アンデッドには本来発生しないバッドステータス……毒の効果が顕著に現れ出す。
上気する頬、微睡むように浮薄する視界、アルコール摂取による「酔い」が、女性の状態を著しく変容させていく。
ユリの種族は
毒を無効化してしまうアンデッドの一種に数えられる。
そんな彼女は毒扱いされるアルコールをいくら飲み下したところで、まったく完全に意味をなさない。口唇蟲にしても、たかだかアルコール分数%程度の酒精を毒と認識するほど脆弱なモンスターではない。
――はずなのだが。
「う~……ひっく」
いつもの清廉潔白、公正明大、己に与えられた責務と使命に熱く焦がれながらも、金属か機械のように冷酷な信徒であることを心掛ける
「ううぅ~、どうして……と゛う゛し゛て゛ぇぇぇぇぇ……」
今現在、完全なる「酩酊」状態に陥っていた。
実のところユリは、このバーに来るにあたり、とあるアイテムを腕にぶら下げて来ていた。
〈
このマジックアイテムの効果――状態異常無効を“無効”にする――によって、今のユリは普通にアルコールを毒として摂取することが可能になっている。何故、そのようなアイテムが存在しているのかというと、かつてユグドラシルというゲームには、ある種の状態異常状態に陥らなければ扱えない
それにしても――と、副料理長は存在しない眉間に皺を寄せる。
早すぎる。
早すぎるだろう、コイツ。
彼女の酔い潰れる速度は常軌を逸している。
いくら状態異常無効化を無効にしているとしても、ここまで早く酔いが回るものだろうか?
注文したジョッキ四つは、そこまで巨大というわけではない。彼がバーで提供しているジョッキは五段階の大きさで等級分けしているが、その中でも一番小さなもの――これは外の世界で一般流通している木製のそれと遜色ない容量、はっきり言えば人間サイズ――だ。毒無効のアイテムを外したデミウルゴスやコキュートスでも、一番巨大な酒樽サイズのものを飲み干しても涼しい顔をしていたのに。
どうにもユリ・アルファは、酒精にはめっぽう弱い女性なのだろう。
だというのに、どうしてこんなところに通うのか?
女だったら、この第九階層には他の魅力がたくさん存在している。ショッピングモールで買い物を楽しむことは勿論、雑貨店やブティックで私物を買い集めたり、ネイルアートやエステサロンに通っている方が、はるかに似合っている。無論、これは女性蔑視というわけではなく、単純にナザリックの女性たちの大半は、そういう方にこそ関心を向けるものが大勢を占めているという統計的な思考に過ぎない。
にも関わらず、ユリ・アルファはたった一人で、このバー・ナザリックに入り浸っている。
「うぅ~、なんでぇ~、どうしでぇ~!」
意味不明な泣言――というより
女を口説くことを得意とするキザな楽師たちですら、そんな女性の狂態には一歩ひいた感じを受けている。何より、自分たちの演奏に耳を傾けてくれないのだから、それだけで印象としては最悪な部類に入るだろう。マスターの副料理長も、こういう客に関しては彼らに全面的に同意するしかない。
そんなことなどまるで意に介さない様子で、ユリはさらに三杯目のジョッキを口につけ、その半分を飲み干した。
「うぇ~ん!」
カウンターに突っ伏すように背中を丸める客に、マスターは何も言えない。
言ったところで意味もないし、絡み酒なんてされては自分の仕事に差し支える。否、今でも十分差し支えがある。
ユリ・アルファがこうなった原因については、ここを訪問した初日の段階で知悉していた。
彼女の同輩にして、姉妹という役を与えられた、美しき戦乙女達。
ルプスレギナ・ベータ。
ナーベラル・ガンマ。
シズ・デルタ。
ソリュシャン・イプシロン。
エントマ・ヴァシリッサ・ゼータ。
次々と男を捕まえ幸せになっていく、
彼女らの婚姻に際し、副リーダーにして長姉たるユリは、妹たちの婚姻届の証人欄に名を連ね、その前途を祝福した。
しかし、
ユリの内実としては。
「う~、私の可愛い妹たちがとられてく~! やだ~、お姉ちゃんをおいてかないで~!」
このように、わりと複雑な心境を抱いてしまって仕方がなかったわけだ。
至高の御身が新たに制定し、ナザリック内に敷かれた新秩序・婚姻制度の導入は、御身の唱える軍拡にとって必要な措置である上に、ナザリック内に住まう同胞たちを、その自由恋愛を公的に広く認めることを布達する事業に他ならない。それはユリも理解している。
理解していて、ユリは時折、酒精に頼る形で、妹たちとの心理的な別離を、先を越された事実を、こうして吐き出すことが、最近では多くなっていってしまっていた。
アインズは、結婚しないもの、子を生そうとしないものたちを不忠だなどとは思っていない。それもまた、ナザリックのシモベたちの在り様の一つだと認め受け入れていることは、疑いようがない真実。であるならば、ユリが『行き遅れ』ていること自体に罪咎のあるはずもない。
それでも、ユリはさらに酔うペースを加速させていく。
ぐび、ぐび、げふー。
豪快に酒精を仰ぐ様子は、在りし日の第一・第二・第三階層守護者を、副料理長の脳裏に過ぎらせた。
否、あれは雰囲気だけで酔っていたから、まだ――比較的――マシだった。
この女は完全に出来上がっているから、どうしようもない。
無論、悪い意味で。
「ルプ~、ナーベ~、シズ~、ソリュ~、エントマ~……ううぅ、グスン」
しゃくりあげる様は、もはや大きな子供である。
マナーもへったくれもありはしない。このバーに一番そぐわない「酔い潰れ泣き叫ぶ客」の様に、マスターは苛立ちを募らせてしまいそうになるが、客商売というものは得てして、こういう事態も甘受せねばならない。それは解っているのだが……
ふと、演奏中の楽師たちに目を配ると、彼らはそそくさと
無論、他の客にこちらから頼むなど、言語道断な暴挙である。
援護など期待できない。彼らは自分に与えられた仕事や余暇に忠実でありたいと望んでいる以上、この酔漢……失礼、酔いどれる
生物らしい呼吸とは無縁のはずのキノコモンスターが、溜息と共に肩を落とそうした瞬間、
「やぁ、久方ぶりだね、副料理長……失礼、マスターと呼ぶべきだったか」
新たな客が到来したことで、束の間だが安堵の吐息に取って変わった。
「ああ、構いませんよ。どちらも私の称号。問題ありません」
「ふむ……ところで、彼女はどうしたのかな?」
しめた。なんて思ってしまうのはかなり礼を失するので、マスターは粛然とした語調で、淡々と、あっという間に酔いのまわったユリの状況を説明する。
しかしながら、
「なるほど。では、彼女の相手は私がしておこう」
彼からの申し出は、意外といえば意外であった。
「え……よろしいのですか?」
「君は君の職務を果たすべきだ。何、心配はいらん。同じナザリックの同胞なのだから」
その一言で、マスターは素晴らしい救い主が現れてくれたことに、御方々への感謝を募らせる。
「では、……お言葉に甘えさせていただきます。何かありましたら、お呼びください」
そそくさとユリと彼を置き去りにして、マスターは自分のたまった仕事を片付けにかかる。
バー・ナザリックは千客万来。カウンター席はユリと彼以外に客はいないが、テーブル席には他の客を待たせている。オーダーの受注や、ドリンクの提供。勘定や後片付けまでマスター一人で切り盛りしている。ナザリックの最高支配者であられる御方に相談して、メイドを一人くらい、
マスターは己に課せられた使命に準じるべく、作業に、与えられた役目に邁進した。
一方で、
「う~……だぁれぇ~?」
置き去りにされたユリは、隣の席から自分を覗き込む者に、焦点の定まらない、だが厳しい視線を投げていく。
「君らしくもない姿だな、ユリ・アルファ?」
ユリは、そこに佇む白い異形を、ただ睨む。
翌朝。
「う~……うん?」
ユリは見知った天蓋を眺め、自分のベッドの上で、目を覚ます。
咄嗟に、ここが自分の部屋の中で、自分のベッドの上であることを把握する。
とんでもない倦怠感と頭の痛みに襲われた。久しく感じたことのないバッドステータスの感覚に辟易しながら、彼女はシーツの上から身を起こす。今日が休暇で本当によかった。こんな状態に陥ること自体は、特に問題ではない。毒消し用のポーションなどを摂取すれば事なきを得られる。だが仮にも、ナザリックの戦闘メイドを率いる副リーダーの立場にある自分が、酒を呷って泥酔するなどという失態をさらすなど。いくらアイテムで状態異常を無効および回復できるといっても、あんな風にへべれけになるまで酔っぱらって、本当に情けない。完全に悪い酒の飲み方になった。
マスター……副料理長には悪いことをした。
今度、何か気の利いた土産でも持って行くべきだろう。
同時に、もう一人。あの場に誰かがいたような気がするのだが……
そんな風に考えながら、彼女は体を覆うシーツをめくりあげて、
固まった。
「……はぃ?」
変な気の抜けた声が漏れてしまう。
普段は夜会巻きにまとめられた黒髪は垂れ流され、きめ細かい白磁のごとき肌の上を滑り落ちる。豊かに膨れた胸の双丘は最高級の果実のように艶が良く、そして姉妹たちの誰よりも大きい。理知的かつ怜悧に過ぎる眼差しを覆う眼鏡をかけるまでもなく(というか、ユリの眼鏡には度が入っていない。伊達眼鏡だ)、至高の存在の手により創造された肉体美は、今日も輝かんばかりの魅力と蠱惑的雰囲気を内包しているようだ。
つまり、一言でいえば、全裸である。
「え……えっ……?」
当然のことだが、ユリは寝る時に全裸でなければ眠れないという癖……設定などは組み込まれていない。
初めての事態に直面し、必死に昨夜の自分の記憶を掘り起こそうとした瞬間、
「ああ、起きたのか」
ありえない声がシャワールームの扉を開けて現れた。
「おはよう、ユリ・アルファ」
「おはようございま……す?」
繰り返す。ここはユリの私室である。
繰り返す。ここは、ユリの、私室である。
「昨夜は随分と羽目を外しすぎたようだな? いくら休暇とは言え、あの君がこんなにも寝過ごしてしまうとは。ああ、あとシャワーを先に使わせてもらってすまない。私はこれから図書館で仕事なのだ」
ありえざる声は、はっきりと。
動く骸骨の姿は、くっきりと。
ユリの双眸は完璧に、彼の姿を見止め、そして、
「はぁああああああああああああああああああああああああああああっ!!??」
絶叫した。
「な、なん、なんで、な……なに何が? あの、え、え、ええっ?」
「まず、落ち着くこと。それから、服を着ること。私から言えるのは、この二つだな」
とんでもなく冷静に返されたユリは、シーツを胸元に手繰り寄せつつ、自分の衣服を探す。
ベッドの上には見当たらない。昨夜は確か、バーを訪れるのに私服を着用していたはず。
「ああ、君の私服のスーツなら、そこだ」
指差され、言われるがまま視線をクローゼットの扉に移すと、ピシッとハンガーにかけられた衣服が確認できた。おまけとばかりに、近くのソファには薄桃色のレース地の下着も、几帳面に畳まれ安置されていた。あれらは創造主のやまいこから与えられた至宝とも言うべき一品。さすがにそれだけのものを辺りに脱ぎ散らかすような真似を、酔った自分はしてくれなかったと安堵する。
彼が脱ぎ散らかされたソレを拾って、ハンガーにかけたりした可能性もなくはないが。
というか、ええと……ユリは下着をあのような場所にあのようなやり方で折り畳むことはないはずだが?
「あ、あの……そのっ……」
胸の奥が早鐘を打つ。
なんてことは、アンデッド種族のユリにはありえない現象だ。
それでも、ユリはそれに近いぐらいの衝撃を、精神的ダメージとして負ったような気を錯覚していた。
「ふむ。どうやら覚えていないようだな」
ユリは、見る。
自分と同じアンデッド種族の中でも、
白い
だが、
身長は150センチ程度の見た目だが、彼は戦闘系に特化するのではなく、製作系に重きを置いたレベルを与えられ、至高の存在に創造された
図書館司書長、ティトゥス・アンナエウス・セグンドゥス。
そんな彼が、裸でベッドの中にいるメイド、ユリ・アルファの目の前に、いた。
「っと、時間がない……悪いが、朝食や珈琲を用意することはできない身の上でな。早く作り、食べて、休暇を楽しまれることをお勧めしておこう。まぁ、本来飲食不要のアンデッドには、
では。
そう言い残し、彼はユリの部屋を後にした。
パタリと閉じた扉を、ユリは呆けた瞳で見る。
ユリは考える。考えないわけにはいかなかった。
何が何で何をどうしてどうなっているのか理解できない。
残されたユリは、全裸のままシーツの中に顔を埋め、もう一度だけ、絶叫した。
いつもの陽気な朝を迎えたナザリック地下大墳墓・第九階層の廊下で、彼女たちは珍しい人物と邂逅していた。
「あ、司書長様。おはようございます!」
「おはよう。メイド諸君」
使用人室エリアの一角から姿を現した異形種は、ナザリック第十階層――第九階層よりもさらに深淵に位置する巨大図書館に詰めているはずのアンデッド。
彼は朗らかな挨拶を一般メイドらに送ると、すれ違うように第十階層に続く大階段に、悠々とした足取りで歩を進めていった。
見送ったメイドたちは、彼が歩み出てきた扉に視線を注ぐ。
注がないわけにはいかなかった。
「……なんで、司書長様が、アルファ様の部屋から?」
メイドたちの一人――シクススの呟いた問いに、フォアイル、リュミエールは共に首をひねるしかなかった。
クリスマスに忘年会シーズン――飲みすぎには、御注意を!