本日はクリスマス・イヴ。
皆さま、今夜の予定はお決まりでしょうか。
ワタクシは、仕事。多分、何処かを車で走っています。
今回は、舞台から7か月後のある女性目線の話です。(つまり、今日この日の話)
Nは希、Aはあかり、では、Kは?
「あー!なんで、今日みたいな日に、学校で勉強しなくちゃいけないのよ!」
希が叫んでいる。私もそう思う。
けれど、ウチの高校の2年生は、この試練を越えないと、冬休みが来ない。
ここ
来年、大学受験を控える2年生に、参加が義務づけられている、我が校伝統のイベントだ。
今日で最終日を迎えた。
一応、昨日は祭日なので、免除されては、いる。
しかし、今日は土曜とはいえ、平日なので、補習は続く。
そして、さらに、週が明けて26日から3日間、勉強合宿。
狙ったように勉強詰めだ。
我が校では、それを乗り越えて、ようやく冬休みとなる。
まあ、それは嵐の前の静けさで……。
冬休みが明けると、通称「3年生0学期」に突入する。
まだ今は、考えないようにしよう……。
午前の部が終わり、昼休みの時間。
希と私は小さい弁当箱、小夜は総菜パン2つを、机に広げていた。
「希様、あと2コマで終わりです。ガンバ!」
小夜が両手を軽く握り、胸前に持っていくポーズをして、励ましている。
長いツインの髪が背中でヒョコヒョコしていて、微笑ましい。
そんな姿を見て、希は少し、げんなりしている。
それもそうだ。
これから2コマ140分……。
「コマ」とは、授業のことだが、通常1コマ50分のところを、補習では70分になっている。
気が滅入るのも、わからなくはない。正直、私も帰りたい。
この2人は、講習と合宿、受けなくてもいいのではないかと思うんだけど……。
希と小夜、今月中旬に行われた期末考査の成績は良かった。学年1位と3位。
それでも、受講している2人を見て、ため息をつく。
「
「かおりん、恋の悩みですか?」
2人とも私を心配してか、声をかけてくる。
希は、普通に心配してくれているようだが、小夜、アンタは……。
私にイロコイの類が無いことを知っていて、そんなフリをするんだから……。
「いや、何でもないよー」
そんな2人に苦笑しながら、軽く返事をする。
私の今の成績と、志望大学のレベルとの開きがね……。
これがため息の理由だったりする。
希は……、父親が社長で、素敵な旦那様がいて、正直勉強しなくても、生活や進路に支障がない。
小夜も社長令嬢だけど……、話を聞くかぎりでは、すでに会社の社員を顎で使っているみたいだし……。
進学の道を選ばなくても、十分、社会的地位が保証されている。
それに加えて、2人とも特級の上位組なのだ。
特級とは、成績上位の生徒だけを集めた、進学に特化したクラスのこと。
ちなみに私も特級の一員だが、中の下、なんとか授業についていってるレベル。
「今日はクリスマス・イヴだけど、2人の学校終わった後の予定は?」
本日、世間では12月24日のクリスマス・イヴ。
しかも、今年は土曜日ということもあり、街全体で盛り上がっている。
23、24、25と、土曜を挟んだ3連休と見られていることも、拍車をかけていた。
大学受験まで約1年に迫った私たちにも、イヴについて、話をする権利くらいはあるはずだ。
まあ……、私には、一緒に過ごすような、彼なんていないけど。
「私は、ユウ兄と、ディナーに行く予定だよ」
希は、非常に嬉しそうに、微笑んだ。
「ユウ兄」とは、彼女の
彼女の苗字は「佐々木」。
これ、実は許嫁の苗字なのだそうだ。本当は「相田」らしい。
まだ、籍は入れていないらしい。
けれど、希は、学校では、結婚後に変わる、この苗字を名乗っている。
本人が言うには、早くユウ兄色に染まりたいから……って、ごちそうさま。
この2人は、高2になった春に、東京の
この2人は、その制度を使って、ウチに来た。
希がウチに来た最大の理由は、許嫁と一緒に暮らすため、らしい。
そのために成績トップを目指し、実現させるのだから、呆れを通り越して、凄い。
小夜は、武蔵野時代からの親友らしいので、その理由を当然知っていたようだ。
なので、彼女自身もいつか、鈴峯に、という気持ちは持っていたようだ。
希と一緒に通学したいという理由で、成績上位をキープし続けるのだから……。
これもまた、凄いことだと思う。
私は、そこら辺りの事情を、小夜から聞いた。
この、許嫁と同棲しているという事実も、一部の友人しか知らない。
本人は隠しているつもりはないようだけど、小夜がかなり頑張って、情報の漏洩を防いでいる。
私も協力を頼まれたけど、当事者が幸せであるなら、漏れてもいいと思うんだけどなぁ……。
小夜にとっては、そうでもないらしい。
まあ、希は社長令嬢だもの、何か理由があるのでしょう。
「佐々木ちゃん、彼とディナーに行くんだー」
「いいな、いいな、どこに行く予定なのー?」
希の話を聞いて、
さらに何人かの女の子たちが、集まってきた。
他人のコイバナは、私たちも含めた女子高生にとって、最大のスパイシーなのだ。
女子高であるこの学校には、当然、同年代の異性はいない。
若い男の先生と、隠れて付き合ってる子を、何人か知っているけど、それはごく稀なこと。
ほとんどの子が、彼を作るには、外で確保する必要がある。
外で確保、いわゆる他校との合コンに参加して、そこで出会う方法だ。
しかし、合コンなどで出会う高校生男子は、子供っぽくてつまらない。
なので、その上の年代、大学生を狙う子が多い。
その理由は、年上だと安心して甘えられるから。
そして、バイトして、お金を持っている。さらに1人暮らし、車持ちなら、夢が広がる。
同年代男子にはない、気持ちの余裕と経済力、そして、行動範囲の広さ。
さらに、未知へのトビラへと
その結果、本当に身の危険を体験したひとも、多いようだ。
けれど、未知の誘惑には勝てなかったりするのだ。
それに比べて、希の彼氏は、その遥か上を行く「社会人」で31歳。
私たち学生には手が届かない、気持ちの余裕と経済力、そして安心感を持っている。
知らないことを教えてくれつつ、未知のトビラも開いてくれる。
しかも、広島市有数の工場で働いているという、将来も安定性バッチリ。
私のパパと同じ工場で働いているということには、びっくりしたけど。
これは、私しか知らないことだけど、工場長のパパが知っていて、関連会社の部長らしい。
希の彼が優秀だということは、社会経験のない私でも、なんとなくわかった。
そんな立場を持つ彼である。
親が決めた許嫁で、親族でもある希に対して、悲しませるようなことをするわけがない。
彼女への接し方が、お嬢様を扱うようでいて、粗雑な時は乱暴に。
その乱暴さ加減も、本当の危険とは、一線引いているのだ。
本当に彼女である希のことを想っていて、配慮しているように思う。
あくまでも、希本人から聞いた話からの推測でしかないが。
そういうこともあり、30代の大人の彼と希が、どのように付き合っているのか、興味深々。
クラスの皆は、希の「のろけ話」を、毎回楽しみにしている。
恋愛に悩んでいたり、経験を知りたいと思っている少女たちには、憧れのように映っていた。
世の男性たちには、希の彼のような、配慮をしてほしいと、彼女たちは望んでいる。
まあ、小夜によると、希フィルターで、事実に脚色が多いということだけど。
実際は、そんな良いもんではないですよ、と。
しかし、聞いている者にとって、そんなことは、関係なかった。
話している希自身が、本当に嬉しそうに話すので。
今日も、希の言葉に皆、喰いついてくる。
「ユウ兄は、『
「『銀河』って何だろう?」
「……『銀河』!?」
「えっ!『銀河』って何かわかるの?」
「『銀河』って、船で行くディナーだよ、この前、テレビで紹介されてた」
「……それって、凄いの?」
「……ほら、これ見て」
「うわー、宮島の鳥居とか見るの?すごーい!」
「わーっ!これって、マリーナホップの観覧車だよね!きれい!」
スマホで詳細を調べた子までいて、それを見て皆で盛り上がる。
話の中心になっている希は、皆の反応を見て、少し引いている。
そんな彼女も「銀河」が何のことなのか、よくわかっていないようだ。
ただ、楽しみにしていたいようで、わざとスマホの画面を見ないようにしている。
皆の話を聞かないようにするため、両手で耳を塞いでるのがまた、健気だ。
「さすがに、今日は予約一杯だね」
「クリスマス仕様になっているようだから、当然だよね」
「いいなぁ、のぞみっち、さすが、大人の彼を持つと違うなぁ……」
「アンタは、幼馴染の彼がいるでしょうに」
「健太は、ここまでできないから。いいなあ」
皆、口々に思い思いのことを言っている。
そんな彼女たちを、少し離れたところで、小夜と一緒に見守る。
「かおりん」
小夜が私のそばに寄り添って囁く。
「私も、『銀河』、予約しました」
小夜、アンタもか。
「いつ?」
「今日」
まあ、クリスマスイヴにディナーを、誰かと取りたいと思うのは普通か……。
偶然、希と重なったのだろう。
ここで皆に言わず、私にだけこっそり教えてくる彼女が、可愛く見えてくる。
でも、今教えてくれるのは、なぜなのだろう……。
「えっ!小夜も誰かと……、あれっ?彼氏いたっけ?」
「……誰が男なんかとー」
軽く返すと、睨んで歯ぎしりされた。
どれだけ男、嫌いなんだ、怖いです、小夜さん……。
……となると、誰と行くのだろうか。
「……1人で行くの?」
「……さすがに、1人で行くことは、しないです」
「……そうだよね」
「お姉ちゃんと、行きます」
なるほどね。姉と行くのか。
小夜にしては珍しく、ふにゃーっていう音が似合いそうな顔をしている。
お姉さんと一緒に行くときのことを、思い浮かべているようだ。
「それは、よかったね」
「ハイ、これで余すことなく、観察できます」
「えっ?」
「……何でもありません」
小夜は、微笑みを返してくる。
そんな会話を交わし終えた頃には、希が皆から解放される。
他の子たちは、籍に戻り、新たな話題で盛り上がっているようだ。
陽菜と結衣は、希の周囲に張り付いていた。
私と小夜は、再び彼女の元へ近づいていく。
「香と小夜ー、私をおいて逃げるの、ひどいよー」
「優様についての、のろけ話なんて、聞きたくありません」
「佐々木ちゃんの話は、楽しいからしゃあないなー」
「のぞみっちの話はためになるし」
小夜の言いたいことは、わからなくはない。
私も彼女も、毎日、希から彼氏の話を聞いている。
彼とあれをやった、これをやった、してもらった、してあげた、等々。
たまに、夜の運動のことまで、赤裸々に話し出すこともあるので、困ったもの。
まあ、結衣は、幼馴染の彼がいるから、真面目に参考にしているようだが。
希がそれで幸せなら、いいのだけど、こちらへの影響が半端ない。
こちらは、彼氏がいない独り身、当てられて、なんとかなってしまいそう。
希の彼氏のレベルが高すぎて、自分の彼氏に求める妥協点が、高くなっている気もしている。
今は募集中だけど、そんな彼なんて、早々見つかるわけがない。
「独り身の気持ちを考えて。ねえ、小夜」
「いえ、私も独り身の気持ちは、分からないですね」
「えっ!さよっちって、誰かいたっけ?」
小夜に同意を求めた私は、見事に裏切られた。
なんで?小夜の裏切り者ー!
「私はお姉ちゃんと一緒ですから、クリぼっちでは、ありませんし」
「ああ、さよっちは、女の子大好きだからいいんだね!」
結衣は何かに納得したようだ。
「……私は、クリぼっちだけど、人間観察が楽しいから気にしてないし」
陽菜は、別の楽しみ方を覚えたようだ。強いなぁ……。
クリぼっち……。
ウチだって、パパとママ、詩織姉にあかね姉と一緒に……。
ああ、でも、詩織姉もあかね姉もデートって言っていたかも……。
家族と一緒って感じだなぁ……ハァ、クリスマスデートかぁ……。
「今年は、もう間に合わないけど、来年こそはー!」
「うんうん、香なら、きっといい
「まあ、がんばれ」
「かおりっちに幸あれ!」
「かおりん、来年は受験です、諦めなさい」
陽菜と結衣、希に応援され、小夜には、夢のないことを言われた。
……というか、小夜、そこに現実ぶっこんでくるんじゃない!
「まあ、昼からの補習、オワラセナイト」
「希ー、少し涙目になってる……?」
「……うん、今日、本当は昼からデートしたかったよう」
「のぞみっち、彼氏持ちの我々は、まだマシなのだよ、頑張ろう」
嘆く希の頭を撫でてあげる。
結衣が希を慰めているが、彼氏いない組~1名除く~は、若干のダメージ。
「希様、
「私は、知らなかった!」
「相談してくださいましたら、提案しましたのに」
小夜は何か案があったようだ。
でも私にはわかっている。この子は、多分事前に話しても、提案してこないだろう、と。
間違いなく、今の希の反応を見て、楽しんでいるはず。
「どんな提案?」
「優様との子供を作れば……妊娠休暇で今日、休みだったかと」
「山崎ちゃん、それ、シャレになんないよー」
ああ、それは確かに、事前の準備がないと無理だね……。
私は、一瞬だけ感心した。希も「ああ、そうか」と、納得している。
「……でも、ユウ兄、エッチしてくれないし、それは無理……」
「なら、仕方ないですね、補習がんばるしかありません」
「……うん、わかったよ、私、がんばるよ……」
キーンコーンカーンコーン キーンコーンカーンコーン
予鈴が鳴った。あと5分で、補習が再開する。
生徒たちの机の上に、教科書や筆記用具が現れ出す。
小夜や陽菜、結衣も自分の席に戻っていく。
先程までの、緩やかな空気が、緊迫感のある空気に変化していくことを感じた。
クリスマスイヴであっても、学生は勉強が性分なのは間違いない。
それは放課後の楽しみにして、私たち生徒は、補習に挑むしかないのだ。
希も渋々、自分の席に帰っていく。
成績の良い彼女でも、勉強は嫌なものなのか。
そんな彼女をの様子を観察しながら、私は、人知れずにやけてしまうのであった。
優「2人で初めてのイヴだから。喜んでくれると嬉しい」
希「夜景がキレイ!料理も盛り付けがサイコー!ユウ兄、ありがとう、大好き!」
~少し離れた席~
小夜「ムッ、優様、希様の前でいい格好してから……ムカつく!」
あかり「小夜様、私たちは私たちで、お楽しみになられた方が、良いように存じます」
小夜「ムー、わかったよう、あかりお姉ちゃん……」
あかり「フフフ」
……小夜の希警護という名の趣味は、ここでも滞りなく……
……と、いうことで、春から希の友達になる予定の、渡辺 香目線の物語でした。
※香は、優の勤める工場の工場長・渡辺 直行の末娘です。
初めて、希の学生生活を書くことになりましたが、元になっている学校がまだ冬休みに入っていないようなので、このような話にしてみました。ただ、その学校の行事予定を検索できず、推測で書いています。
本当はどうなのか、わかりません。
と、同時に、小夜ちゃんの実態も今回初めて書いたわけですが、いかがだったでしょうか。
「銀河」とは、「広島ベイクルーズ銀河」のこと。
広島港を出発して、ひろしまベイブリッジ(海田大橋)下を通り折り返し、広島市南岸を通った後、厳島神社(宮島)大鳥居付近を折り返し、広島港に戻るコースを進む船の中で食事(ランチ/ディナー)を楽しみます。
瀬戸内海の海鮮や牡蠣などを使ったフレンチを、生演奏を楽しみながら食す、という豪華クルージングです。
まあ、ワタクシは連れて行ったことはないです。ハイ。
1食に1人15000円かけようというひとの気持ちがわからないです。
だから、庶民なんですなー
凄いなぁ、優。
とりあえず、皆さま幸福でありますように。メリークリスマス!