優しい希望   作:すかーれっとしゅーと

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いつも読んでいただき、ありがとうございます。

本日はクリスマス・イヴ。
皆さま、今夜の予定はお決まりでしょうか。
ワタクシは、仕事。多分、何処かを車で走っています。

今回は、舞台から7か月後のある女性目線の話です。(つまり、今日この日の話)
Nは希、Aはあかり、では、Kは?


【番外編】ある特別な日の昼休み Side-K

「あー!なんで、今日みたいな日に、学校で勉強しなくちゃいけないのよ!」

 

 希が叫んでいる。私もそう思う。

けれど、ウチの高校の2年生は、この試練を越えないと、冬休みが来ない。

 

 ここ鈴峯女学園(すずがみねじょがくえん)では、21日から、冬期補習が始まっている。

来年、大学受験を控える2年生に、参加が義務づけられている、我が校伝統のイベントだ。

今日で最終日を迎えた。

一応、昨日は祭日なので、免除されては、いる。

しかし、今日は土曜とはいえ、平日なので、補習は続く。

そして、さらに、週が明けて26日から3日間、勉強合宿。

狙ったように勉強詰めだ。

我が校では、それを乗り越えて、ようやく冬休みとなる。

まあ、それは嵐の前の静けさで……。

冬休みが明けると、通称「3年生0学期」に突入する。

まだ今は、考えないようにしよう……。

 

 午前の部が終わり、昼休みの時間。

(のぞみ)小夜(小夜)と私の3人で、昼食を取っている。

希と私は小さい弁当箱、小夜は総菜パン2つを、机に広げていた。

 

「希様、あと2コマで終わりです。ガンバ!」

 

 小夜が両手を軽く握り、胸前に持っていくポーズをして、励ましている。

長いツインの髪が背中でヒョコヒョコしていて、微笑ましい。

そんな姿を見て、希は少し、げんなりしている。

それもそうだ。

 

これから2コマ140分……。

「コマ」とは、授業のことだが、通常1コマ50分のところを、補習では70分になっている。

気が滅入るのも、わからなくはない。正直、私も帰りたい。

この2人は、講習と合宿、受けなくてもいいのではないかと思うんだけど……。

希と小夜、今月中旬に行われた期末考査の成績は良かった。学年1位と3位。

それでも、受講している2人を見て、ため息をつく。

 

(かおり)、ため息をついてどうしたの?」

「かおりん、恋の悩みですか?」

 

 2人とも私を心配してか、声をかけてくる。

希は、普通に心配してくれているようだが、小夜、アンタは……。

私にイロコイの類が無いことを知っていて、そんなフリをするんだから……。

 

「いや、何でもないよー」

 

 そんな2人に苦笑しながら、軽く返事をする。

私の今の成績と、志望大学のレベルとの開きがね……。

これがため息の理由だったりする。

 

 希は……、父親が社長で、素敵な旦那様がいて、正直勉強しなくても、生活や進路に支障がない。

小夜も社長令嬢だけど……、話を聞くかぎりでは、すでに会社の社員を顎で使っているみたいだし……。

進学の道を選ばなくても、十分、社会的地位が保証されている。

 

それに加えて、2人とも特級の上位組なのだ。

 

 特級とは、成績上位の生徒だけを集めた、進学に特化したクラスのこと。

ちなみに私も特級の一員だが、中の下、なんとか授業についていってるレベル。

 

「今日はクリスマス・イヴだけど、2人の学校終わった後の予定は?」

 

 本日、世間では12月24日のクリスマス・イヴ。

しかも、今年は土曜日ということもあり、街全体で盛り上がっている。

23、24、25と、土曜を挟んだ3連休と見られていることも、拍車をかけていた。

大学受験まで約1年に迫った私たちにも、イヴについて、話をする権利くらいはあるはずだ。

まあ……、私には、一緒に過ごすような、彼なんていないけど。

 

「私は、ユウ兄と、ディナーに行く予定だよ」

 

 希は、非常に嬉しそうに、微笑んだ。

「ユウ兄」とは、彼女の許嫁(フィアンセ)のことだ。

彼女の苗字は「佐々木」。

これ、実は許嫁の苗字なのだそうだ。本当は「相田」らしい。

まだ、籍は入れていないらしい。

けれど、希は、学校では、結婚後に変わる、この苗字を名乗っている。

本人が言うには、早くユウ兄色に染まりたいから……って、ごちそうさま。

 

 この2人は、高2になった春に、東京の武蔵野女子(むさしのじょし)から編入してきた。

鈴峯(がみね)武蔵野(むさしの)は、成績優秀者の交換留学を行っている。

 

この2人は、その制度を使って、ウチに来た。

 

 希がウチに来た最大の理由は、許嫁と一緒に暮らすため、らしい。

そのために成績トップを目指し、実現させるのだから、呆れを通り越して、凄い。

小夜は、武蔵野時代からの親友らしいので、その理由を当然知っていたようだ。

なので、彼女自身もいつか、鈴峯に、という気持ちは持っていたようだ。

希と一緒に通学したいという理由で、成績上位をキープし続けるのだから……。

これもまた、凄いことだと思う。

 

私は、そこら辺りの事情を、小夜から聞いた。

 

 この、許嫁と同棲しているという事実も、一部の友人しか知らない。

本人は隠しているつもりはないようだけど、小夜がかなり頑張って、情報の漏洩を防いでいる。

私も協力を頼まれたけど、当事者が幸せであるなら、漏れてもいいと思うんだけどなぁ……。

小夜にとっては、そうでもないらしい。

まあ、希は社長令嬢だもの、何か理由があるのでしょう。

 

「佐々木ちゃん、彼とディナーに行くんだー」

「いいな、いいな、どこに行く予定なのー?」

 

 希の話を聞いて、陽菜(ひな)結衣(ゆい)が話に入ってくる。

さらに何人かの女の子たちが、集まってきた。

他人のコイバナは、私たちも含めた女子高生にとって、最大のスパイシーなのだ。

 

 女子高であるこの学校には、当然、同年代の異性はいない。

若い男の先生と、隠れて付き合ってる子を、何人か知っているけど、それはごく稀なこと。

ほとんどの子が、彼を作るには、外で確保する必要がある。

外で確保、いわゆる他校との合コンに参加して、そこで出会う方法だ。

 

 しかし、合コンなどで出会う高校生男子は、子供っぽくてつまらない。

なので、その上の年代、大学生を狙う子が多い。

その理由は、年上だと安心して甘えられるから。

そして、バイトして、お金を持っている。さらに1人暮らし、車持ちなら、夢が広がる。

同年代男子にはない、気持ちの余裕と経済力、そして、行動範囲の広さ。

さらに、未知へのトビラへと(いざな)ってくれそうな危機感。

(おお)にして、その危なさに惹かれていく友人たちは多い。

その結果、本当に身の危険を体験したひとも、多いようだ。

けれど、未知の誘惑には勝てなかったりするのだ。

 

 それに比べて、希の彼氏は、その遥か上を行く「社会人」で31歳。

私たち学生には手が届かない、気持ちの余裕と経済力、そして安心感を持っている。

知らないことを教えてくれつつ、未知のトビラも開いてくれる。

しかも、広島市有数の工場で働いているという、将来も安定性バッチリ。

私のパパと同じ工場で働いているということには、びっくりしたけど。

これは、私しか知らないことだけど、工場長のパパが知っていて、関連会社の部長らしい。

希の彼が優秀だということは、社会経験のない私でも、なんとなくわかった。

 

 そんな立場を持つ彼である。

親が決めた許嫁で、親族でもある希に対して、悲しませるようなことをするわけがない。

彼女への接し方が、お嬢様を扱うようでいて、粗雑な時は乱暴に。

その乱暴さ加減も、本当の危険とは、一線引いているのだ。

本当に彼女である希のことを想っていて、配慮しているように思う。

あくまでも、希本人から聞いた話からの推測でしかないが。

 

 そういうこともあり、30代の大人の彼と希が、どのように付き合っているのか、興味深々。

クラスの皆は、希の「のろけ話」を、毎回楽しみにしている。

恋愛に悩んでいたり、経験を知りたいと思っている少女たちには、憧れのように映っていた。

世の男性たちには、希の彼のような、配慮をしてほしいと、彼女たちは望んでいる。

 

 まあ、小夜によると、希フィルターで、事実に脚色が多いということだけど。

実際は、そんな良いもんではないですよ、と。

しかし、聞いている者にとって、そんなことは、関係なかった。

話している希自身が、本当に嬉しそうに話すので。

 

今日も、希の言葉に皆、喰いついてくる。

 

「ユウ兄は、『銀河(ぎんが)』とか言ってたような気がする……」

 

「『銀河』って何だろう?」

「……『銀河』!?」

「えっ!『銀河』って何かわかるの?」

 

「『銀河』って、船で行くディナーだよ、この前、テレビで紹介されてた」

「……それって、凄いの?」

「……ほら、これ見て」

 

「うわー、宮島の鳥居とか見るの?すごーい!」

「わーっ!これって、マリーナホップの観覧車だよね!きれい!」

 

 スマホで詳細を調べた子までいて、それを見て皆で盛り上がる。

話の中心になっている希は、皆の反応を見て、少し引いている。

 

 そんな彼女も「銀河」が何のことなのか、よくわかっていないようだ。

ただ、楽しみにしていたいようで、わざとスマホの画面を見ないようにしている。

皆の話を聞かないようにするため、両手で耳を塞いでるのがまた、健気だ。

 

「さすがに、今日は予約一杯だね」

「クリスマス仕様になっているようだから、当然だよね」

 

「いいなぁ、のぞみっち、さすが、大人の彼を持つと違うなぁ……」

「アンタは、幼馴染の彼がいるでしょうに」

「健太は、ここまでできないから。いいなあ」

 

 皆、口々に思い思いのことを言っている。

そんな彼女たちを、少し離れたところで、小夜と一緒に見守る。

 

「かおりん」

小夜が私のそばに寄り添って囁く。

 

「私も、『銀河』、予約しました」

小夜、アンタもか。

 

「いつ?」

「今日」

 

 まあ、クリスマスイヴにディナーを、誰かと取りたいと思うのは普通か……。

偶然、希と重なったのだろう。

ここで皆に言わず、私にだけこっそり教えてくる彼女が、可愛く見えてくる。

でも、今教えてくれるのは、なぜなのだろう……。

 

「えっ!小夜も誰かと……、あれっ?彼氏いたっけ?」

「……誰が男なんかとー」

 

 軽く返すと、睨んで歯ぎしりされた。

どれだけ男、嫌いなんだ、怖いです、小夜さん……。

……となると、誰と行くのだろうか。

 

「……1人で行くの?」

「……さすがに、1人で行くことは、しないです」

 

「……そうだよね」

「お姉ちゃんと、行きます」

 

 なるほどね。姉と行くのか。

小夜にしては珍しく、ふにゃーっていう音が似合いそうな顔をしている。

お姉さんと一緒に行くときのことを、思い浮かべているようだ。

 

「それは、よかったね」

「ハイ、これで余すことなく、観察できます」

 

「えっ?」

「……何でもありません」

 

 小夜は、微笑みを返してくる。

そんな会話を交わし終えた頃には、希が皆から解放される。

他の子たちは、籍に戻り、新たな話題で盛り上がっているようだ。

陽菜と結衣は、希の周囲に張り付いていた。

私と小夜は、再び彼女の元へ近づいていく。

 

「香と小夜ー、私をおいて逃げるの、ひどいよー」

「優様についての、のろけ話なんて、聞きたくありません」

「佐々木ちゃんの話は、楽しいからしゃあないなー」

「のぞみっちの話はためになるし」

 

 小夜の言いたいことは、わからなくはない。

私も彼女も、毎日、希から彼氏の話を聞いている。

彼とあれをやった、これをやった、してもらった、してあげた、等々。

たまに、夜の運動のことまで、赤裸々に話し出すこともあるので、困ったもの。

まあ、結衣は、幼馴染の彼がいるから、真面目に参考にしているようだが。

 

 希がそれで幸せなら、いいのだけど、こちらへの影響が半端ない。

こちらは、彼氏がいない独り身、当てられて、なんとかなってしまいそう。

希の彼氏のレベルが高すぎて、自分の彼氏に求める妥協点が、高くなっている気もしている。

今は募集中だけど、そんな彼なんて、早々見つかるわけがない。

 

「独り身の気持ちを考えて。ねえ、小夜」

「いえ、私も独り身の気持ちは、分からないですね」

「えっ!さよっちって、誰かいたっけ?」

 

小夜に同意を求めた私は、見事に裏切られた。

なんで?小夜の裏切り者ー!

 

「私はお姉ちゃんと一緒ですから、クリぼっちでは、ありませんし」

「ああ、さよっちは、女の子大好きだからいいんだね!」

 

結衣は何かに納得したようだ。

 

「……私は、クリぼっちだけど、人間観察が楽しいから気にしてないし」

 

陽菜は、別の楽しみ方を覚えたようだ。強いなぁ……。

 

クリぼっち……。

ウチだって、パパとママ、詩織姉にあかね姉と一緒に……。

ああ、でも、詩織姉もあかね姉もデートって言っていたかも……。

家族と一緒って感じだなぁ……ハァ、クリスマスデートかぁ……。

 

「今年は、もう間に合わないけど、来年こそはー!」

「うんうん、香なら、きっといい彼氏(ひと)、見つかるよ」

「まあ、がんばれ」

「かおりっちに幸あれ!」

「かおりん、来年は受験です、諦めなさい」

 

陽菜と結衣、希に応援され、小夜には、夢のないことを言われた。

……というか、小夜、そこに現実ぶっこんでくるんじゃない!

 

「まあ、昼からの補習、オワラセナイト」

「希ー、少し涙目になってる……?」

「……うん、今日、本当は昼からデートしたかったよう」

「のぞみっち、彼氏持ちの我々は、まだマシなのだよ、頑張ろう」

 

嘆く希の頭を撫でてあげる。

結衣が希を慰めているが、彼氏いない組~1名除く~は、若干のダメージ。

 

「希様、鈴峯(がみね)は、毎年イヴの日は、補習と分かっていたはずですが」

「私は、知らなかった!」

 

「相談してくださいましたら、提案しましたのに」

 

 小夜は何か案があったようだ。

でも私にはわかっている。この子は、多分事前に話しても、提案してこないだろう、と。

間違いなく、今の希の反応を見て、楽しんでいるはず。

 

「どんな提案?」

「優様との子供を作れば……妊娠休暇で今日、休みだったかと」

「山崎ちゃん、それ、シャレになんないよー」

 

 ああ、それは確かに、事前の準備がないと無理だね……。

私は、一瞬だけ感心した。希も「ああ、そうか」と、納得している。

 

「……でも、ユウ兄、エッチしてくれないし、それは無理……」

「なら、仕方ないですね、補習がんばるしかありません」

 

「……うん、わかったよ、私、がんばるよ……」

 

キーンコーンカーンコーン キーンコーンカーンコーン

 

 予鈴が鳴った。あと5分で、補習が再開する。

生徒たちの机の上に、教科書や筆記用具が現れ出す。

小夜や陽菜、結衣も自分の席に戻っていく。

先程までの、緩やかな空気が、緊迫感のある空気に変化していくことを感じた。

クリスマスイヴであっても、学生は勉強が性分なのは間違いない。

それは放課後の楽しみにして、私たち生徒は、補習に挑むしかないのだ。

 

 希も渋々、自分の席に帰っていく。

成績の良い彼女でも、勉強は嫌なものなのか。

そんな彼女をの様子を観察しながら、私は、人知れずにやけてしまうのであった。




優「2人で初めてのイヴだから。喜んでくれると嬉しい」
希「夜景がキレイ!料理も盛り付けがサイコー!ユウ兄、ありがとう、大好き!」

~少し離れた席~

小夜「ムッ、優様、希様の前でいい格好してから……ムカつく!」
あかり「小夜様、私たちは私たちで、お楽しみになられた方が、良いように存じます」
小夜「ムー、わかったよう、あかりお姉ちゃん……」
あかり「フフフ」

……小夜の希警護という名の趣味は、ここでも滞りなく……

……と、いうことで、春から希の友達になる予定の、渡辺 香目線の物語でした。
※香は、優の勤める工場の工場長・渡辺 直行の末娘です。

初めて、希の学生生活を書くことになりましたが、元になっている学校がまだ冬休みに入っていないようなので、このような話にしてみました。ただ、その学校の行事予定を検索できず、推測で書いています。
本当はどうなのか、わかりません。
と、同時に、小夜ちゃんの実態も今回初めて書いたわけですが、いかがだったでしょうか。

「銀河」とは、「広島ベイクルーズ銀河」のこと。
広島港を出発して、ひろしまベイブリッジ(海田大橋)下を通り折り返し、広島市南岸を通った後、厳島神社(宮島)大鳥居付近を折り返し、広島港に戻るコースを進む船の中で食事(ランチ/ディナー)を楽しみます。
瀬戸内海の海鮮や牡蠣などを使ったフレンチを、生演奏を楽しみながら食す、という豪華クルージングです。

まあ、ワタクシは連れて行ったことはないです。ハイ。
1食に1人15000円かけようというひとの気持ちがわからないです。
だから、庶民なんですなー
凄いなぁ、優。

とりあえず、皆さま幸福でありますように。メリークリスマス!
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