【これまでのあらすじ】
優の家に希が訪れたよ。家に招き入れる。
俺の住んでいるアパート。
中国地方有数の大都市・広島市、その繁華街に近いところに位置している。
路面電車やバスでの移動で、JRへのアクセスも便利である。
そんなアパートの部屋割りは1DK。
玄関から入ると、左側に浴室とトイレがある。
少し進むと、キッチンを含めた6畳間の部屋が広がる。
引き戸の奥には、6畳の洋室がある。
玄関から見ると、奥にキッチンの部屋、さらに奥に洋室。
一番奥の窓を開ければ、ベランダにつながる。
洋室には、収納が2つ。
引き出しのある、クローゼットを兼ねたものと、布団などが入るようなもの。
そのおかげで、俺の家には洋服ダンスが必要なかった。
収納の引き出しに服や下着を入れて、ホームセンターで購入したカラーボックスで物を整理している。
ベッドを置いていないため、そこまでコチャゴチャしていないように見える。
★★★
希さんを部屋に招き入れる。
大きなキャリーバッグは、キッチン付近に置く。
洋室に入らず、彼女が佇んでいる。
「あ、ごめん。布団を片付けるよ」
彼女を待たせて、布団や枕を収納に片付ける。
収納を閉めて、彼女の方向に向き直る。
彼女は、手に何かを持って、神妙な顔つきで見つめている。
ああ、俺が先程まで読んでいた、手紙と婚姻届だろうか。
そういえば、床に放置したままだった。気づいて拾い上げたのだろう。
確かめる手間が、省けたかもしれない。聞きづらかったんだよな。
「とりあえず、座って」
俺が声をかけると、彼女は、手紙から目を離さず、その場に座る。
読み終わるまで、待つことにしよう。
その間にテーブルを組み立てて、冷蔵庫から麦茶を取り出し、グラスを用意する。
グラスに麦茶を注ぎ、テーブルを挟んだ彼女の真向かいに座る。
まだ、手紙を読んでいるようだ。
そんな彼女を観察する。
肩口よりも長い黒い髪。
顔は美人に見える中にも、年齢さながらの可愛さが隠れているように感じられる。
なで肩で、身長も低いので、座った姿は、チョコンという擬音で表したい気分になる。
長袖のカーディガンの袖から出ている指は細く、爪も綺麗だ。
胸は……。
言わない方が親切なのかもしれない。
彼女をじっくりと観察していると、視線に気づいた。
手紙を読み終わったらしい。
「ユウ兄様って、おっぱい大きい方が好きなひと、なのでしょうか?」
そんな一言を発してくる。
いやー確かに胸を見ていたけどさ、いきなりそこですか。
「い、いやーそんなことは……」
「あのう、エロそうな目線が気になりました」
「そ、そんなことは、ないよ」
久しぶりの会話らしい会話がこれなのか。ため息が出る。
「まあ、いいですわ。ユウ兄様に大きくしてもらいますから」
「そ、それは不味くないかい」
「えーっ!ですが、私とユウ兄様って、結婚しますし、私は構いません」
「いや、俺が構うよ」
……というか、ここで「結婚」発言かよ。びっくりだわ。
それよりも、なんてマセタ16歳なんだ。
揉んでもらって、胸が大きくなるという説を知ってらっしゃる。
それとも、最近の高校生は進んでいるのか。うーむ。話を変えよう。
「ところで、東京はいつ出たの」
「はい、今朝出ました。新幹線であっという間でした」
「こっちの高校に行くと、手紙にあったけど」
「はい、来月6日が編入式になっていますね」
「編入式?入学式ではないの?」
「はい、ウチの学園との交換留学生として、
彼女からの説明をまとめると、こうなる。
彼女の通う
お互いの各学年の成績優秀者のうちの希望者は、交換留学生として選ばれるのだそうだ。
交換留学生は、基本的に全寮制。
さらに両学校の生徒の模範として、生徒会に所属することになる。
「そうか、では、今日から鈴峯の寮に入るってことか」
あんな大きなキャリーバッグにも納得できる。
「いいえ、寮には入りません」
「えっ!じゃあ、どうするつもりなんだ?」
俺がそう返すと、彼女はにこやかな笑顔をしてこう言い放った。
「ここにお世話になるつもりですわ。よろしくお願いします、ユウ兄様」
おいおい、それはどうなんだ。まだ未成年だし、親の許可は……。
「お父様の許可も取れてますし、学校にも許可をもらいました」
そう言って彼女は、どや顔をした。かわいい。それは今はどうでもいい。
「いや、未婚の未成年の女の子と、成年男性が一緒に住むのは、いろいろ不味いだろう」
そうだ、世間的にも、俺の耐久値的にも、いろいろ不味い。
希さんのことは、別に嫌いではない。むしろ好きな部類に入る。
8年前からよくぞ、こんな美人に育ったと、心の中でガッツポーズをしている俺がいる。
こんな彼女が、彼女さえいいと言ってくれれば、結婚することにも迷いはない。
ただ、久しぶりに会ったばかりで、上手く行くのかが不透明。
「問題ないでしょう。夫婦になりますから」
希さんは、そう言いながら婚姻届を見せる。
「えっ!希さんは了承済だったの?」
「はい、ここの私の名前の箇所、私が書きました」
彼女はニコニコしている。堂々としすぎて困る。マジなのか。
俺の背中がぞくぞくしてきた。冷や汗ってこんな場面でも、かくものなのだろうか。
「……結婚相手が、俺でいいの?」
相手が「夫婦になる」と言っているのに、この質問である。我ながら情けない。
「私は、ユウ兄様が、良いのです。8年間、頑張りました」
「頑張る?何を?」
「花嫁修業。ユウ兄様のお嫁さんになるために」
そう言うと、彼女はそっぽを向いた。照れているらしい。
確かに高校生にもなって、「お嫁さん」という言葉は、恥ずかしかったようだ。
あー、これはこれは。8年前の約束がそのまま生きている。
いろいろ理由をつけて断るのも、格好悪いかもしれない。
「そうか、わかったよ、ウチに住んでもいいよ」
何回目かのため息を吐く。仕事は休みなのに、一気に疲れが出た。
「フフフ。ありがとうございます」
「だけど!結婚は、しない!」
そうだ。久しぶりに会ったので、お互いのことをよくわかっていないはずなのだ。
8年の歳月が流れていることもあるし、一緒にいたのは、あの1週間だけ。
性格の不一致とか、お互い譲れない部分があると思うのだが。
「ユウ兄様、私のこと、嫌いになったのですか?」
急転直下に表情が暗くなっている。極端だろう。
「いや、嫌いだったら、一緒には住まないと思うけど」
「でも、結婚はしないって……」
「まだ、な。まだ」
「まだ、ですか。では、いつになったら結婚してくれますか?」
「ま……、機を見て……」
「機を見てって、いつになるのでしょうか?」
ねえ、ねえと、俺の目の前に近寄って、目を合わせようとしてくる彼女。
俺は一生懸命、目を合わせないように、逃げる。逃げる。逃げる。
「ふーんだ。いつか、ぜーーーったいに、認めてもらいますから」
ほっぺを膨らませて、思い切り抗議の姿勢を見せている彼女。
俺は、その様子を見て、笑い出してしまった。
「・・・笑うことないでしょう?ユウ兄様なんて、きらーい」
「嫌いなんだー」
「いいえ、ユウ兄様は大好きですわ。でも、嫌いですわ」
意味が分からない。でも、とても楽しい。
自分を好いてくれる女性といると、こんなに楽しいものなのか。
久しく忘れていた感情だった。
高校生の彼女。いや、そんなことを飛び越した同棲生活になるんだろうな。
もしかしたら、高校生の嫁になるのか。少なくとも彼女はその気だろう。
しかも、親公認の許嫁。俺の気分次第でどうにでも進んでしまう、この危うさ。
果たして、俺自身を律することができるだろうか。
目の前の彼女は、俺の葛藤を知ってか知らずか、無防備な姿を晒している。
ここに住めるのかどうかという、最大の案件が解決したからだろうか。
安心して寝転がっている。くつろいでくれるのは、嬉しいけれども。
いや、だからー、スカートの裾から、血色のいい膝が顔を出しているのですが、目の毒です。
「スカートの裾、見えてるぞ」
そう言って、スカートの裾を引っ張る。
「欲情しましたー?」
寝転がったまま、こちらを向いて、ニヤリとしている。
かわいい。今すぐ飛びつきたい。でも、それは許されない。
「するかー!」
「残念ですわ」
彼女の方を見ると、スカートの裾を波打つように動かしている。挑発なのか、それは。
ちらちらと、膝のその先の「スカートの中身」が見えそうで、……見えない。
目の保養にはなるので、眺めてはいた。それくらいは許されると、俺は信じている。
★★★
苦悩な日々が始まってしまったらしい。
決して、女性経験がないわけではない。
希さんが16歳でなければ、高校生でなければ、未成年でなければ、そこまで悩まないだろう。
俺は、この青い果実を前に、どれだけ我慢できるのだろうか。
彼女の挑発が続いている。この無邪気さは、高校生で16歳だからなのかもしれない。
それを他所に、2人で過ごすためには、足りないものがある。
買い物に行く必要があることに気づき、俺は、財布を覗き込み、考え込んでいた。
次の話は、明日15時に投稿します。
【イソトマ】
キキョウ科イソトマ属のイソトマ(学名:Isotoma axillaris)は、別名をローレンティア と呼ばれている。
小さな星形の花を、株いっぱいに咲かせる。
ギザギザの葉は、夏にすがすがしい印象を残すが、その茎葉から出る白い液体には、アルカロイド系の毒が含まれ、目に入ると失明の恐れもあるほど強力。
本来は多年草だが、耐寒性がさほど強くないので、日本では冬に枯れる一年草扱い。
開花時期は5月~7月
花色は、白、ピンク、紫、青
原産地:地中海沿岸、アフリカ、オーストラリア、アメリカ