誤字を訂正しました。(2/12)
【ここまでのあらすじ】
キャリーバッグの中身を確認して、同棲生活の準備が終わったよ。
ノゾミと一緒に住むための、本や衣類の移動や整理。
ついでに簡単な拭き掃除などもやっていたため、思った以上に時間が経過したらしい。
ベランダから覗く外の風景は、すっかり夜の帳が下りていた。
「ノゾミ」
彼女の声をかける。その問いかけに、顔をこちらに向けてくれている。
「夕飯、どうする?外にでも、食べに行くか?」
作業をしていた疲れで、これから支度をしようという気になれない。
外食を提案する。
「ごはんなら、作りますわ」
笑顔でそう答えてくる。彼女の手元には、いつの間にかエプロンがある。
「冷蔵庫を確認してもいいでしょうか?」
作る気満々らしい。
俺が頷くと、キッチンに移動し、冷蔵庫を開ける音がした。
俺も一応、自炊はしている。ただ、1人暮らしであるため、使うアイテムは少ない。
調味料は最低限、揃えている。卵や豚肉は残っていた気がする。
キャベツやニンジンなどの野菜は、余ってないかもしれない。
そう思いながら、俺もキッチンに移動する。
冷蔵庫を開けて、中身を確認している彼女が目に映る。
「あと、こんなものもあるが、どう?」
俺はそう言いながら、冷蔵庫近くの棚にある、パスタや袋ラーメン、缶詰などを指さす。
その方向には、炊飯器や電子レンジもあった。
彼女はチラッと指をさした方向を見てから、冷凍庫を開ける。
中には、豚肉や鶏肉、ミンチなどが入っている。
「……ない、ですわ……」
そう呟いている。彼女は何を作るつもりでいるのだろうか。
「……冷凍食品が……ない、ですわ……」
ん?冷凍食品?確かにないな。買ったことすらない。
「冷凍食品。電子レンジで温めるだけで、鍋に入れて茹でるだけの便利なものが……」
後ろから、見ていてもわかるくらいの落ち込み具合だ。
「冷凍食品がないなんて、私のできることがないですわ」
何を言ってるんだ、この
冷凍食品がないと料理ができない。意味がわからない。
いくつか確認のために質問を投げてみる。
「料理の経験はあるよな?」
「はい、ありますわ」
先程の哀愁を持った表情を変えて、自信もって答えてくる。
「どんなものを作ろうと思ったんだ?」
「コロッケや春巻き、唐揚げ、シュウマイ、グリンピースとかミックスベジタブル、ですわ」
ああ、ダメかもしれない。
グリンピースやミックスベジタブルとか、料理ではない。
他のものは、作れると素晴らしいのだが、間違いなく温めるだけのものを言っているのだろう。
狼狽しそうになる。料理は期待できそうにない。
そう思いながらも、質問を続ける。
「家では、料理を作ったことはある?」
「はい、大谷さんの隣で手伝いしましたわ」
「大谷さん?」
「お父様とお母様が仕事で家にいないので、代わりに家事をやってくれていた方、ですわ」
「手伝いって何をしていたんだ?」
「グリンピースを取り出したり、いんげんを出したり、鍋に入れてましたわ」
うーん、頭が痛くなってきた。もう少し聞いてみるか。
「ちなみに、学校で家庭科とかあるよな?」
「ありますわ。
「
「私の同級生ですわ。彼女が料理を作って、私が盛り付けをしますわ」
盛り付けですか。それは料理じゃないよ、大切だけど。
「小夜や皆さまから『希様の盛り付けは、ホレボレします』と、褒めていただいてますわ」
「希様」と来ましたか。普通に考えても、同級生からの呼称としておかしい。
もしかしてと思い、俺は、キッチンの下部分にある、収納のドアを開ける。
一般的に万能包丁と呼ばれているものを取り出す。
「これを使ったことはある?」
「それくらいありますわ、バカにしないで欲しいですわ」
「そうか」
そう言って俺は、冷蔵庫近くにあった袋から、玉ねぎを取り出す。
「ノゾミ。これをみじん切りにしてもらえるか」
「みじん切り?」
「ああ、よろしく頼む」
そう言って俺は、洋室に戻る。
キッチンの反対方向を向いて座り込んで、ため息をつく。
今までの受け答えを聞いた限りでは、ノゾミの料理は期待できそうにない。
ただ、包丁は使ったことがあると言うので、やらせてはみたが、期待薄だろうな。
俺はスマホを取り出した。実家に電話する。
「はい、佐々木ですが」
「優だけど」
「優。元気しとる?」
程なくして、電話はつながった。母親が出た。
「うん。……親父、いるか?」
しばらくして、親父が出て来る。
「おお、優。電話遅かったのう」
遅かった、ということはどういうことなのだそうか。
「手紙と希ちゃんが来て、びっくりしたんじゃないのか」
そう続けながら、電話の向こうで笑い声がする。
一発目で怒ろうかとは思っていたものの、笑い声を聞いたせいか、気を削がれる。
「いやー親父。笑いごとじゃないって。驚いたんだからよ」
「ハハハ。まあ、そこまでびっくりしてくれたんじゃあ、日付を合わせた甲斐があったわ」
「手紙を読み終わってからすぐ、ノゾミが訪ねてきたんだぜ。びっくりもするわ」
「おおう、儂の予想をはるかに超える奇跡的な出来事だな」
親父にとっても、予想外の出来事だったらしい。
許嫁の計画は、
ノゾミを含めた相田家が乗り気だったこと、親父も母さんも、特には反対意見がなかったこと、それに加えて、俺から女の姿が見えないこともあり、機会を伺っていたとのこと。
そして、ノゾミが16歳になり、広島の学校へ編入することが決まったということで、実行に移された。
親父は、ノゾミが
それを受けて、宅配サービスで、手紙をその日付の朝一番に届くように画策したとのことである。
手紙を読んですぐ、諸々の事情を聞くために、俺から電話がかかってくるものだと思っていたみたいだ。
それが、夕方になっても、電話がかかってこない。
無事に手紙を読んでくれているのか、ノゾミと会うことができているのか、とても心配していたんだと、責めるような言葉が聞こえる。
そんなこと言われても困る、本当に。俺自身には知らされていなかったのだから。
俺が用事で、1日家を空けていた場合はどうするつもりだったのだ、と聞いてみると、宅配サービスの受取メールが来ない場合のみ、
家族みんなグルだったのか。
そう聞いてみれば、予想した通り、妹の
うん、この計画においては、正解だったかもしれない。海は猛反対しただろうからな。
「で、どうだった、希ちゃんは」
「……どうって」
「結婚するんだろう。お前の給料だと、ひと1人、養えるだろうが」
間違ってはいない。
今の会社に勤続年数5年。
全国、いや世界有数企業の下請け企業において、それなりの地位には、いる。
俺の下には、100人近くの部下がいる。当分、物作りの作業には入っていない。
主にデスクワーク、トラブルの対策や他下請け企業や全体との緩衝役。
日々、そんな仕事をしている。
最近だって、海外から来たゲストを相手に、工場内を案内して回った。
「結婚はまだ、しない」
親父は無言だ。次の言葉を待っているようだ。
「とりあえず、一緒に暮らすことにはした」
「そうか」
親父は一言だけ漏らすと、無音になった。こちらの言葉を待っているのか。
「親父、質問していいか?」
「ああ」
「ノゾミや徹叔父さんたち相田家って、
「何者と、なぜ、思う」
「
沈黙が続く。俺も相手の出方を見るために黙る。
親父が諭すような言葉で、沈黙を破る。
「優。アイダコーポレイションという会社は、知っているか?」
聞いたことが有るような、無いような。わからない。
「儂も何を扱っているかは知らないが、東証1部に上場している企業だ」
「相田」を冠している企業名。唾を飲み込む。
「その会社の社長が徹だ」
東証1部に上場。有名企業の仲間入りをすでにしているということだよな。
徹叔父さんがそこの社長。ということは、ノゾミって社長令嬢!
頭が冷える。
そんな俺の様子に構わず、親父はさらに冷却する燃料をくべてくれた。
「希ちゃんは、その徹の1人娘。徹がこの婚姻を推すということは、……お前も、わかるじゃろう」
★★★
一言二言話をして、通話を終える。
「がっつくなよ」
そう言われたが、そんな気は削がれている。
キッチンの方へ振り向く。
玉ねぎの皮むきに悪戦苦闘をしている、社長令嬢が見える。
この
すなわち、アイダコーポレイションの次期社長になるということ。
俺自身だけでは抱えきれない、すさまじい将来。そして決断。
心底、16歳の若妻の魅力に結婚を即決しなくてよかったと、胸を撫で下ろすのであった。
次の話は、明日15時に投稿します。
【ダイヤモンドリリー(ネリネ)】
ヒガンバナ科ネリネ属のダイヤモンドリリー(学名:Nerine sarniensis)は、日本ではネリネと呼んだ方が一般的。
従来、花姿がヒガンバナに似ていることもあり、日本では人気がなかった。
が、欧米では、宝石のようにキラキラ輝く花姿から「ダイヤモンドリリー」として親しまれていることもあり、最近は日本でも、切り花や鉢植えとして注目されるようになった。
開花期間が長く、1ヶ月くらい花を楽しむことができ、切り花やアレンジメントとしても花もちが良く、重宝されている。
開花時期:10月~12月。
花色:白色、オレンジ色、ピンク色、赤色。
原産地:北アフリカ