今回は初月と提督の会話です。
「失礼する。提督、次回の作戦なんだが……」
凛とした口調で入室してきたのは最近着任したばかりの初月だ。
「ん。編成と出撃海域の申請か、分かった目を通しておこう」
「ありがとう提督」
「初月。お前さん最近働きすぎじゃないか?」
俺は初月の目にできているクマを見逃さなかった。
「そうか? 僕はあまり疲れていないが……」
そう言っても俺には分かる。昔から馬鹿みたいに頑張りすぎる奴等の相手をしてきた俺から見れば疲れ以外に答えはない。
「ッ……お前がそんなんじゃ心配する奴もいるんだ。お前さんももう少し周りを頼ってだな――」
「提督。気持ちはありがたいが僕にも貢献したいという気持ちがあるんだ」
初月ははっきりと自身の答えを伝える。
「分かってるよ。着任時とちっとも変わらないのも知ってる」
初月は妙なところで意地っ張りである。
「ならば僕の言いたいことも分かるはずだ、提督」
「……ほかにも事務作業を主にしている艦娘もいるんだ、そいつ等の仕事を奪うな」
俺は初月に説教をかましつつある書類を取り出して書き始める。
「仕事は奪ってない。誰も手のつけない仕事を進めてるだけさ」
「お前さんも口が悪いな……ほれ」
「っと」
俺は初月に先ほどまで書いていた書類を渡す。
「提督……これは?」
書類には『特例休暇申請書』と書かれていた。
「文字通り休暇の申請書だ。お前は働きすぎてるわけだからな」
「いや、僕は――」
「お前がそれでぶっ倒れたら過失は全部こっちに来るんだよ」
そして俺はもう一枚の休暇申請書類を書き終える。
「そういう訳だから……一緒に休むぞ」
「提督……」
◆
~列車内~
「提督、この列車は一体何処に向かっているんだい?」
初月は小動物のようにお菓子を食べながら質問する。
「ん……そうか、初月は知らないのか」
「?」
初月はさらに眉をしかめる。
「俺の先輩のところだ」
「先輩……ということは提督の昔のことを知っている人か……」
初月は少しだけ口元を緩める。
「会ってみたいな……」
「……俺も会いたいよ」
「?」
「何でもない、忘れてくれ」
俺はもう一度寝に入る。この調子ならあと二時間ぐらいで着くだろう。
◆
「提督、起きてくれ。もうすぐ目的地だ」
「んぁ……」
初月が優しくゆすって起こしてくれる。
「随分早いな」
「早くないよ。もう二時間も経った」
初月が時計を見せてくれる。その時刻は予定していた時刻丁度だった。
「眠れた気がしねぇ……」
最近の業務で激しく疲れているのか一周回って眠れていない。
「あれだけ爆睡していたじゃないか」
「ン……そうだっけ」
俺は眠気覚ましに軽く伸びをする。
「かくいう僕もちょっと寝てしまったが……」
初月は照れるように寝癖を直す。
「うお……すげぇ寝癖だなw」
「見るな! あと草を生やすな!」
「これだけすごけりゃ草も生えるだろ」
初月の寝癖はかなりすごい。瞬間移動でもできそうな髪型だ。
「気にしてるんだぞ……」
初月はせっせと残りの寝癖を直す。
「よし、降りるぞ」
俺と初月は手荷物をまとめ最寄り駅で降りる。
「まずは何をするんだ?」
「墓参りだ」
俺は色あせた古い写真を初月に見せる。
「これは……昔の提督かい?」
「そうだ。その隣にいるのが俺が海軍の新人だった頃の先輩だ」
俺は煙草に火をつけて、ため息を隠すように煙を吐く。
「とある作戦でな、重傷を負ったにもかかわらず指揮を取ってたんだ。その後死んじまったからな……」
「そうだったんだ……ごめんなさい」
初月は申し訳なさそうに俯いてしまう。
「お前が気に病むことは無い。俺自身が好き勝手話しただけだ」
時雨があの人の帽子と手紙を持ってくるまで俺は死亡報告を信じちゃいなかった。
「おし。着いたぞ」
「……ここが提督の先輩のお墓か」
初月は手に持っていた花を墓石の前に置く。
「先輩……あんたの大好きな銘柄の酒を持ってきた」
俺は酒瓶の蓋を開けて持ってきた白い杯に入れる。
「あんまり飲みすぎないでくれよ、後処理が大変なんだから。それに時雨も心配してるんだ。あの世で飲みすぎて先人たちに迷惑かけてないかってよ……」
あー、まずい……涙が出てきた。ここに来るといつもそうなんだよな。
「提督、泣いているのか?」
「いや……ちょっと花粉症らしくてな」
駄目だ。まともな嘘がつけない。
「そろそろ帰るぞ……」
「うん……」
俺と初月は墓に背を向ける。
『初月ちゃん……』
「?」
初月は声のした方を向く。
『うちの可愛い後輩をよろしくね……』
そこには長い黒髪が目立つ長身の女性が立っていた。
「あ、あなたは――」
『……』
彼女は初月の口に手を軽く当てる。
『時雨にもよろしくね』
「あの――」
初月が何かを言おうとすると彼女はすっと消えていった。
「何してる初月、宿に向かうぞ」
「あ、うん!」
初月は急いで提督のもとに戻る。
「なんか考え事か?」
「ううん。今日はありがとう、提督」
初月はやわらかい笑顔を向けてくる。
「提督の先輩、凄い人なんだね」
「ん、ああ。あの人はすげぇぞ」
僕はこの後の休暇を存分に楽しんだ。
でも、提督の先輩の笑顔が忘れられなかった。
提督には見えていなかったんだろうか。
「僕も頑張る。みんなと一緒に戦う」
「良い顔になったな。やっぱ疲れていたか」
「そんなところかな」
提督はその日だけ帽子をかぶっていた。
今回は初月のお話でした。何か提督に過去があるっぽいですね。
次回でこの提督では最終回です。