「司令官。今日は何処に行くんだい?」
響は小さいながらも提督に何とか歩幅を合わせながら問う。
「響。これはあくまでも交流会であってな……」
「そんな話は聞いていない。仕事を放りだすのだから、それなりの理由なのだろう?」
「うぐ……」
響は第三、第四艦隊の指揮艦を務めている。その仕事ぶりは周りから『鬼』の愛称で親しまれている。
「口を濁らすとはね。時雨に報告しておくよ」
響は自前のメモ帳に何かを書き記す。」
「待った! 待つんだ、響」
「ん? 辞世の句なら後で聞くよ」
「頼む、時雨には言わないでくれ!」
時雨に報告が行くと彼女の権限で鎮守府内武装可能の状態にされてしまう。
「ふむ――本当のことを言ってくれれば考えよう」
「……実はな古い友人の飲み屋に行こうかなと」
「それならそう言ってくれればいいのに」
響はメモ帳をしまって一息をつく。
「時雨には軽い報告だけしておくよ」
どうやら無罪放免という訳にはいかないようだ。
◆
「うーす。来たぞ」
赤い提灯が目立つ年季の入った建物の引き戸を開ける。
「あら、いらっしゃい」
「鳳翔さん、ども」
「こんばんは」
カウンターの向こうには割烹着姿の鳳翔さんだ。
「響。鳳翔さん向こう側のエースだ、第一戦からは退いているけどな。ものすごく強いぞ」
「もう、おだててもサービスしませんよ」
鳳翔さんは少しだけ頬を赤らめてそわそわする。
「鳳翔さん。腰越は?」
「腰越さんならついさっき――」
「速水ー! ここにいたのか」
鳳翔さんが言いかけたところで一見中年にも見える無精ひげを生やした男が入口から入ってきた。
「おっす。どうしたんだ腰越」
「どうやら入れ違いだったようですね」
鳳翔さんはマイペースにお酒を入れながら答える。
「速水さんが遅かったので探しに行ったんですよ」
「お、そこのお嬢さんは?」
「響だ」
お酒を飲みながら強気に答える響。
「俺は腰越、よろしく」
「よろしく」
互いに握手をする。奇妙な友情が生まれたようだ。
◆
「ところで一つお願いしたいことがあるんだ」
「ん、どうした? 速水らしくない」
俺は酒をちびちびと飲みながら。喋っていく。
「次の大型作戦……もしもの時があったら頼みたいんだ……」
「――」
腰越の飲む手が止まる。
「お前、まさか……」
「上のお達しだ。最前線の指揮だってよ」
幸いこの話を聞いているのは鳳翔さんと腰越だけ。響は眠っている。
「うちの艦隊自体は近海警備だが、俺は最前線の指揮官になっちまったんだ」
「それじゃあ何時爆撃されてもおかしくないじゃないか!」
腰越のグラスの持つ手に力が入る。
「お前、まさかだけど玉砕覚悟で行くつもりじゃないだろうな?」
鳳翔さんと腰越の顔が険しくなる。
「たくっ……上の人間は何を考えているんだか……」
「とにかくお前にしか頼めな――」
「断る」
腰越はグラスを勢いよく飲み干しテーブルに置く。
「お前はお前だろ。仲間に頼みを乞う奴と友人になった覚えはない」
「少し言い過ぎでは?」
鳳翔さんが慌てて止めに入るが腰越が手で遮る。
「俺はお前が生きて帰るようになら支援をするが、自暴自棄になって突っ込むんだったら殴ってでも止めるぞ」
「…………」
俺は何も言い返せなかった。
「……怒鳴るように言って悪かった」
「いや、いいんだ。俺がどうかしてるだけだ」
俺達は空気を戻すために酒を飲む。
「ところで速水は帽子をかぶらないのか?」
「そういうお前はずっとジャケットじゃないか」
「こっちの方が楽なんだよ」
腰越はひらひらとジャケットを見せびらかす。
「頑張れよ。俺も手伝う」
「……ありがとう」
互いにグラスを軽くぶつける。
◆
「む……ここは?」
「お、ようやくか。弱いんだな」
「違う。誰かさんが仕事溜めたせいで寝不足なだけだよ」
今、響は俺に背負われている。軽いからどうってことはない。
「それは悪かった……」
「ん、なら少しこのまま寝かしてくれ」
「了解しましたっと」
俺はこのまま鎮守府の入り口へと近づく。裏口からいけば良かったと思うのはこの後である。
「ん?」
鎮守府の正面入り口に人影があった。自分よりかは背が低いとわかる。大方、心配してくれている軽巡の娘あたりだろう。
「遅かったじゃないか。仕事をほっぽり出して4時間34分21秒……記録更新だね」
この独特な言い回し。この状況で一番会いたくない艦娘と出会ってしまった。
「し、時雨……」
「ごほん。さて提督、響を連れて……何をしていたのかな?」
「え、あ……それはだな」
彼女はフル装備だ。軽い言い訳では消し炭にされてもおかしくはない。
「これは響が説明してくれる! な、響――」
「ん、司令官――激しい(揺れが)、もう少しゆっくりに……」
「響!?」
響のとんでもない寝言が辺りを静かにさせた。
「…………」
「いや、時雨、これは違う!」
「…………」
時雨は三本に立った指を俺に見せてくる。
「30秒……30秒だけ時間をあげよう。響をおろして、上着を着せてあげて。そして……」
「し、時雨?」
時雨の目が冷たい。
「辞世の句を発表してくれ」
その後は何が起きたかは分からなかった。でもこれだけは分かる、『生きている』と。
俺は今後仕事を溜めないようにしようと決めた。
グダグダしながらもこの提督の話も最終回となりました。
次回は未定ですが創造力が溢れだしたらやります。