コンビニへ突っ込んだ自動車を運転していたのは人間ではなくヒューマノイドだった。その内部情報を解析した結果、持ち主が判明し逮捕に至る。
ヒューマノイドは自動車を運転することができない。だがアクセルを踏ませてコンビニへ突っ込ませることはできる。そこから攻め込み持ち主から動機を引き出せば、簡単に連続強盗事件へと繋がった。
持ち主こそが連続強盗事件の主犯で、運転していたヒューマノイドは犯人のひとりである。そして自宅近くで捜査していた捜査員を目障りに思い犯行に至ったらしい。
あまりにあっけない終わりと犯人の凶行に捜査本部はざわつく。しかしそんな彼らをいつも労い叱咤していた課長は不在のままだった。
怪我の治療のため病院で年を越した一課長は一月頭に職場復帰を果たした。するとすぐに上層部に呼ばれてマスコミの話を持ちかけられる。
あの事故でのM001の活躍は事故当日中にマスコミまで届いていた。あの激しい事故の中でM001が少女を守り無傷で助け出す。それは美談として複数のマスコミに持ち上げられていた。
それだけなら関係ない話だが、事の発端となったM001は警視庁所属である。あげくSPとして今まで多くの要人を守ってきた。そのためマスコミはさらに盛り上がり今までは映画化の話まで出ている。
警視庁のSPで、さらに最新鋭Mシリーズのヒューマノイド。市販のヒューマノイドの持たない戦闘モードを持ち、それを使い人を守る。それが特に若い女性に気に入られ、話題は何ヵ月も絶えることがなかった。
だが事故の当事者である捜査一課長はそれらの話題に背を向け沈黙を貫いていた。上層部の質問や広報の要請にも応じず、何もなかったように仕事に専念する。
そして半年が経った夏のある日、捜査一課に金髪の外国人風な若者が現れた。
「やあ、真珠!」
半年間まったく姿を現さなかったレオーネは気安い態度で課長のデスクへ近づく。書類に目を通していた魚住はレオーネを見ることなく口を開いた。
「随分と久しぶりだな」
「寂しがらせてゴメンよ、真珠。起動したのが昨日なんだよ。思ったより多くの箇所を破損してたらしくてね」
半年間眠り続けたというレオーネの言葉に、魚住は素直に驚き相手を見上げた。するとレオーネは半年前と変わらない穏やかな笑顔を見せる。
「僕たちMシリーズは特注品だからね。新しいパーツを用意するにも時間がかかるんだよ。特に背骨や腰回りは特殊合金でできてるから」
「そうか」
「それで、3号君は元気?」
不意の問いかけに魚住は目を丸めた。心が闇に沈みゆくように視線も落としていく。
そして知らないのかとつぶやいた。
「即死だったらしい。修理不可能だと聞いた」
「そんなはずはないよ。僕は彼に助けられたんだから。……真琴は?」
「事故後は見てねぇよ。連中と会う理由もない」
話が違うと言いたいらしいレオーネとの会話を切り上げるべく書類を手に取る。するとレオーネは腕を組み人間のようにため息を吐き出した。
「真珠、今朝のニュース見たかい?」
「何のニュースだ」
今度は雑談に付き合わされるのか。そう思いながら魚住の目は書類の内容にだけ向けられる。
「Mシリーズの最新機体が警視庁に入ったんだよ。だから僕は捜査一課に移動できそうだ」
「……なんで移動しようとしてんだよ」
「君を守れと言われたからだよ」
誰にと問いかけるための言葉は喉を通らず飲み込まれる。
そんなことをレオーネに頼むのはこの世にひとりしかいない。けれどもうこの世のどこにもいなかった。