帰宅した魚住はまずキッチンに入り買った食材を冷蔵庫にしまい込んだ。すると光秀がキッチンにやってきて鋼色の瞳で魚住を見つめてくる。
そんな光秀の行動に魚住は冷蔵庫を閉めながら問いかけた。
「どうした?」
「俺の型式が変わってる」
「ああ、M006だな」
「ってことは、修理したんじゃないんだな」
「修理不可能だったらしい」
魚住が質問に答えてやると光秀はそっかとつぶやきながら顔を背けた。その様子を眺めていた魚住は自然と光秀の頬に手を伸ばす。
「事故の瞬間、俺をかばっておまえも逃げられたんじゃないのか?」
頬をそっと撫でながら問いかけると、光秀は首を傾けた。
「俺が障壁になって車の勢い弱めねぇと店内の連中がヤバかったろ。それにどうせ壊れて動かなくなるなら、誰かを守って壊れたほうがマシだと思った」
「だとしてももっと他に」
「魚住が無事ならそれで良かったんだ。あの時はな」
自分は壊れかけていたからと、光秀は満足げな顔で言う。しかし魚住はそんな光秀の言葉が納得できず顔をしかめた。すると光秀は今までなら見せなかっただろう、苦笑いを見せる。
「もうあんなことはしねぇよ」
「絶対だぞ」
魚住の態度を観察した光秀は、これは拗ねているというやつかと認識した。その上で魚住の胸ぐらをつかみ引き寄せると顔を近づける。
「とりあえずその前にすることがあるわ」
鼻先が触れるほど顔を近づけた光秀は不意にその瞳を紫に変えた。魚住は突然の変化に驚きながらも光秀を凝視する。ここで目を背けたら負けるような気がするが、そもそもそんなことで戦うのも意味がない。
そうして目をそらしかけた時、触れるだけのキスをされた。
「光秀、まだ掃除が……」
今日の大掃除は魚住の中でかなり重要な位置を占めている。だからここで光秀と遊んでいるわけにはいかない。そう考えた魚住は心を鬼にして光秀から離れようとした。
しかし光秀はそんな魚住の胸ぐらをつかみ冷蔵庫に背中を押し付ける。そうして逃げ場を無くさせると再び顔を近づけた。
「離れんな。まだ網膜認証の途中だ」
魚住の目を見つめたまま告げた光秀は再び顔を近づけていく。今度は深く口付けられ魚住は眉間にしわ寄せた。しかも光秀は目を閉じることもせず、まっすぐにこちらを見続けている。
そのため魚住も目を閉ざすことができなかった。
あまりに長すぎるキスに魚住は酸欠になりかけながら光秀の肩を殴り付けた。思い切り殴ってもびくともしない光秀は不思議そうな顔で魚住から離れる。
「網膜認証、できねぇんだけど……」
「は……余計なこと、してっ…からだろ……」
魚住は酸素不足でふらつく身体を冷蔵庫にもたれながら恨みを含んで返す。すると光秀はそんなわけがないと笑った。
「魚住の網膜は見えてたし。つーか、おまえこの一年で弱くなったか?」
「テメェは少し…ガサツが過ぎるだろ。行動プログラム変えたせいか」
「おー、そうかもな。それで網膜認証ミスるんだ」
魚住の言いたい部分を無視して嬉しそうに納得する。そんな無邪気過ぎる笑顔を前にした魚住は怒りが消えていくのを感じていた。
「けどまぁ、いいか。おまえは持ち主っつーか魚住だもんな」
嬉しそうに笑う光秀の瞳が鋼色に戻る。機体が新しくなっても光秀はマイペースな性格のままらしい。
そんな光秀を見つめながら魚住も表情を緩める。
「おまえもヒューマノイドと言うより光秀だな」