ヒューマノイドと警察官 四章   作:とましの

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44話 おまけ2

破損した003を見たあの日、強制的に電源を落とされた彼は眠っている間に修理を受けた。

国内有数の天才と呼ばれる緋田信長の事を彼は知らない。001の開発に参加したとは聞いている。けれど彼が生まれた時、緋田は研究所を去っていた。

 

 

眠りから覚めた彼はここ数日体内を蝕んでいた熱が消えていることに気づく。

「気分はどうだい?」

「問題ない」

黄緑色の瞳にのぞき込まれた彼は反射的に返していた。すると相手は緋色の髪を揺らしてそれは良かったと微笑んでくれる。

「ところで真琴はどうしてここに?」

優しげな眼差しを向けたまま、緋田はそばの椅子に腰かけた。状態を見ながら起き上がった彼はゆっくりと緋田に目を向ける。

「生まれ変わったら、生んでくれた人たちに恩返ししようと思ったんだ」

質問の答えがおかしかったのか、緋田はなぜか大きく目を見開いた。驚いた様子でこちらを見ていた緋田はややあって視線をわずかに落とす。

「君は米国で破損して廃棄処分になったよね。その時の記憶もすべて消されてる?」

「彼らはバックアップされた物にまで手を出さなかった。だから記憶はある。だけどもう002になりたくない」

「どうしてだい? 当時の君は研究所の最高傑作と言われていたそうじゃないか」

「ここではそうかもしれないが向こうではそれほどでもない。米国はここと同じように機械工学が進んでいて、俺のようなのはいくらでもいる。ただ向こうのヒューマノイドは戦闘に特化した物ばかりだから……」

開発者の質問に答えるのは行動プログラムにのっとった行動だ。しかしそれでも言いたくない気持ちが勝り彼は口を閉ざした。

そんな彼を見つめていた緋田はひとつ嘆息を漏らす。

「もしかして君、セクサロイドとして使われた?」

不意打ちのような質問に彼は驚き緋田を見やった。紫色の瞳を見開かせたまま思い出したくない過去に顔を歪ませる。

「この研究所に君がヒューマノイドだと知る人間はいなかった。003のことがなければ三成たちに知られることもなかっただろう。だけど本来君は彼らにシステムチェックを受ける側なんだよ。だけどそれを受けずに来たということは……」

人間に触れられたくないということではないか。その指摘が届く前に、彼は耳を手でふさぎ首を横に振った。

「君は人間を心の底から拒絶したんだね」

「していない。そんなことは」

「行動プログラムはそうだろうけど、感情プログラムは拒絶した。その矛盾が君の思考回路ごとシステムを破壊したんだね」

「ちが……」

「だけどね。真琴」

否定しようとした彼の手をそっとつかんだ緋田は寝台に腰かけて間近に彼を見つめた。

「君のそれは正しいことなんだよ。そして今の君も正しいことをしてくれた。僕の開発した003を助けようとしてくれてありがとう」

緋田から向けられた肯定と感謝に、彼は涙がこぼれるのもそのままに視線をあげる。するとそこには緋田の穏やかな表情があった。

「ねぇ、真琴。僕はこれから001の修理と006の開発をしなきゃならないんだ。だから君の力を貸してくれないか。少なくとも君は僕よりも端末の扱いが速いからね」

彼は端末に触れるだけでその端末のシステムを操作できる。これはキーボードを打ち込まなければ端末に入力できない人間と比べれば早いだろう。

だが自分のような存在にヒューマノイドの開発ができるのかと、彼は強い不安を抱いた。

しかし緋田はそんな彼の手をぎゅっと握り大丈夫だと声をかけてくれる。

「君の優秀さは僕が保証する。だから自信を持ちなよ」

緋田から向けられた優しい言葉に、彼は肩の力が抜けるような錯覚を覚えた。

 

 


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