ヒューマノイドと警察官 四章   作:とましの

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35話

一年前、街で出会った光秀は最初こそ無表情だった。

自分を廃棄処理するのだと語る時も感情が出ておらず不信感と違和感を抱いた。少なくとも市販され街を歩くヒューマノイドには表情や感情が存在している。それを考えれば出会った時の光秀が開発途中だと言うのもうなずけた。

しかし魚住が持ち主になる旨を告げて、光秀が網膜認証を終えた瞬間から変わった。そこで初めて笑った光秀は開発途中とは思えないほど感情豊かな顔を見せる。

そして光秀は様々な表情を見せ、そんな光秀に魚住は何度も救われ癒されていた。

 

 

紫色の瞳のそれは無表情のまま魚住やレオーネには顔も向けなかった。何事もないような態度で片手に持っていた眼鏡をかけている。しかし相変わらずその瞳は紫色のままだ。

「真琴、はじめて僕の名前を呼んでくれたのは嬉しいと思うよ。だけど僕が目覚めてから半年間、彼を隠し続けていたのは悲しいな」

呆然とそれを見つめる魚住のそばでレオーネは悲しげな顔を見せていた。すると徳川は神妙な顔でレオーネを見上げる。

「すまない、隠すつもりはなかった」

「少なくとも修理可能ならそう言って欲しかったよ」

「いや……修理は、できなかった。腰部分の損傷が酷すぎて媒体もほぼ使えなかった。差し込み口も潰れていたから、データも取り出せなかったくらいだ」

「それならアレは新型? だとしたら開発期間の短い新型だね。005たちだって開発から世に出すまで四年かかったらしいのに」

隠し事をされた事が気に入らないのか、レオーネの口調はいつもより厳しい。そして徳川はそんなレオーネを前に悲しげな顔を見せた。

「機体そのものは、元々信長の手元にあったんだ。教授が彼の後継機として開発していたから。それと……」

言葉途中で徳川は魚住に視線を移した。視線に気付いた魚住はゆっくりと徳川に顔を向ける。

「信長が魚住さんの家に行った時のことを覚えてますか」

「忘れようとしてんだけどな」

「あの時に003から記憶と感情プログラムをコピーしていたそうです。事故がなくてもあの時点で……その、壊れることはわかっていたので」

壊れるという言葉を口にした瞬間、徳川は苦しげな顔で胸をつかんでいた。そのしぐさも今の彼の表情も、一年前には見られないほど人間らしい。

「つまり壊れる前に記憶と感情を取り出していて……今の彼に入れた? もし前の彼から引き継いでいるのなら、あんな態度はないと思うけど」

「記憶回路も感情プログラムも問題ない。行動プログラムも信長が組み上げて俺が演算処理と再構築したものが搭載されている。だけど動かないんだ。元に戻らない」

徳川の苦しげな表情は、あれが思った通りに動いていないためのものなのだろう。そんなことを魚住は他人事のように考える。

そうして再び『それ』に目を向けるが、やはり周囲を眺めているだけでこちらを見なかった。いくら外見が同じでもこちらを見なければ意味がない。そう思いながらも、魚住は徳川に問いかけていた。

「持ち主は決まっているのか?」

「いえそれは……ですが彼を欲しがっている人間は多いです。なので強制的に網膜を認証されないよう眼鏡をかけさせています」

まだ持ち主はいないが、持ち主になりたい人間は多いらしい。思わぬ言葉に眉を浮かせた魚住はちらりとそれを見る。

それは徳川に背を向けて通りの向こうを眺めていた。おそらく先程逃げた連中が戻ることを危惧しているのだろう。そんなところも光秀と似ているように思える。

「なぜ欲しがるんだ? ヒューマノイドが欲しいのなら買えばいいだろう」

自分は光秀以外のヒューマノイドを欲しいと思わない。しかし単純にヒューマノイドを欲しいと思うなら店へ行けば良い。最近は専門の店へ行けば自分好みの外見をオーダーすることも可能と聞く。そう指摘した魚住の目の前で徳川が驚いた顔を見せた。そしてレオーネも「君らしいね」と笑って見せる。

 

 

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