一年ぶりの月城国際ヒューマノイド研究所は外観こそ同じだったが雰囲気が変わっていた。聞けば一年前は新人の雑用担当扱いだった徳川も開発に参加しているらしい。
そして談話室に現れた石黒も一年前と少し変わっていた。
「お久しぶりです。魚住さん」
「顔がこけてない。肌つやもいい。恋人でもできたか?」
「保護者のような人間ならいますが何か?」
挨拶代わりのような指摘に石黒は露骨に顔をしかめてそっぽを向いた。そんなふたりの脇で徳川がにこやかな顔を見せる。
「食事を抜くと慶次に叱られるもんな」
「うるさいですよ。こんな話題を続けるなら俺は戻ります」
「わかった。話題を変える。ここの雰囲気が変わったようだが何かあったのか?」
機嫌を損ねてしまった石黒に、魚住は話題を変えるべく質問を向ける。すると石黒は眼鏡をはずしハンカチでふきながら「簡単なことです」と言い出す。
「開発責任者が変わったんですよ。研究者の実力を正当に評価する人間に」
「前の管理職は徳川を評価していなかったよな」
「ええ、交代が決まったときは揉めたようですが、才能の差がありましたからね。今の開発責任者は国内有数の頭脳と言われる男です。彼のおかげでM001の修理も半年でできましたし、M006もあの通りです」
そう告げた石黒はふき終えた眼鏡をかけた。そんな彼はやはりヒューマノイドをヒューマノイドとしか見ていないタイプの人間らしい。光秀に戻すという目的を持つ徳川と違い、006の状態に満足しているようだった。
だがやはり徳川は、そんな石黒の発言が気に入らないのか眉を寄せる。
「あれはまだ完成とは言わない」
「しかし彼は自己の判断で活動できてますよ」
「だが元に戻ってない」
だからまだ何も完成していないと徳川は真剣な瞳で告げる。そんな徳川を見下ろしていた石黒はややあってその目を魚住に向けた。
「魚住さんは、なぜここに来たんですか?」
一年前と変わらない挑発めいた問いかけに魚住は笑みを浮かべた。
「感情プログラムを完成させるには人と直接関わる必要がある。そしてそれは研究者にはできない事だと、前に言ったよな」
「今の006に必要なのは落ち着ける環境と肯定ですよ」
一年前に石黒から告げられた言葉を出したところで、石黒から逆に返される。それはまさしく一年前に魚住自身が発言したものだった。
本当にこの研究員は一筋縄ではいかないと思いながら魚住は腕を組んだ。
「石黒は、あいつを俺に預けるのに反対ってことか?」
「事故後のあなたなら反対したかもしれませんが、今のあなたなら構いませんよ」
「どういうことだ?」
「001がいなければ立っていられないような男に彼を預けたくないだけです」
いちいち発言が挑発的なのだが、言葉そのものは間違っていない。この半年間、レオーネはいつも魚住を気遣い続けていた。もちろん今もこれからもレオーネは変わらないだろう。だがそれに頼り続けていては誰かを守ることなどできない。
「006は003とほぼ同じ機体ですが、思考速度や学習能力は飛躍的に上がっています。しかしそれは設定上の話です。現在の006は何も学習しようとしません。開発者である徳川の声は聞きますが、それ以外の研究員の指示は聞きません」
「学習しないっつっても、車にぶつかるな程度の躾はできてるんだろ?」
「その程度のことなら」
「なら同じだろ」
出会った頃の光秀は字も読めず何も知らなかった。その状態から言葉を交わし共に生活をして、光秀は様々なことを学んでいる。だから今回も同じ事をすればいい。そう思うままに告げた魚住は、機能が停止したように動かない006を見た。