名前を呼ばれた瞬間から、今まで停止していたプログラムが起動を始める。それは行動プログラムと合致して思考回路と演算処理能力を飛躍的にアップさせた。
そうして導き出された結論に従い、彼は上に覆い被さる男を蹴り上げる。さらにそのままの体勢から腕力を使い飛び上がるような形で立ち上がった。
その上で彼は紫色の瞳で魚住の無事を確認し、残りふたりに視点を定める。
「俺の魚住に軽々しく触ってんじゃねぇぞ」
注意の意図を持って声をかけると男ふたりが顔をしかめて振り向いた。そのためさらにこちらに意識を向けさせるため、近くの壁を殴り付ける。コンクリートでできたビルの壁はそれだけで小さな亀裂を走らせた。
さらに彼は地面に落ちた眼鏡を踏み潰しながらゆっくりと歩を進める。すると男ふたりは色を失い魚住から離れるとそのまま逃げ出してしまう。
そのため男たちを拘束すべく歩を進めていると魚住に手を捕まれる。魚住に目を向けると路地の奥に倒れている男を見ていた。
「あれを拘束すりゃいいのか」
「ふたりを追うより、あの男を逮捕して口を割らせたほうがいい」
「口を割る? わかんねぇけどハンカチで拘束しとくわ」
魚住の指示にうなずき彼はハンカチを取り出した。それを使い男の親指を固定し手を縛り付ける。その間に魚住は携帯で電話をかけ応援を呼んでいた。
五分程度で駆けつけたパトカーに男が乗せられるのを確認して魚住は彼に目を向けた。すると腕を組みパトカーを眺めていた彼が視線に気付いてやってくる。
「光秀だよな?」
やってきた彼に問いかけると、一瞬驚いたような顔を見せる。だがすぐに紫色の目を細めて笑みを浮かべた。
「他の誰に見えるんだよ」
「他……の誰にも見えない」
「だろ? こんなハイスペック他にいねぇし。あ、001がいるか」
あいつもそこそこ使えるヤツだからなと、彼は余裕を含んだ顔でつぶやく。その姿が不意に歪んで見えて、魚住は強く歯を噛み締めた。彼がただの006だった間は耐えてこられたが、今回はもう無理らしい。
こぼれる涙もそのままに魚住は光秀を引き寄せ強く抱き締めた。泣き顔を隠すように光秀の肩に頭を落とす。すると光秀は、どこで学んだのか魚住の背中を撫でてくれた。
そんなふたりのそばに捜査員たちの間を抜けて有栖川がやってくる。
「お疲れ様です。魚住さん大変で……光秀君?」
「なんで疑問系なんだよ」
「いえ……えっと、往来で抱き合うのはどうかと思うよ」
「魚住、犯人に追い詰められてたからな。すげぇ怖かったんじゃね?」
「そうなんですか?」
光秀の説明を聞いた有栖川は泣くほど怖かったのかと驚きの目で魚住を見た。そのため魚住はそのままでいられず光秀から離れる。
「そんなわけあるか」
「ですよね」
犯人を恐れるなどありえない。そう主張すれば有栖川も笑顔でうなずいてくれる。しかし有栖川はその笑顔のまま白いハンカチを差し出してきた。
「後は我々に任せて魚住さんは休日を続けてください」
優秀な部下は何かを察したのだろうがあえて指摘することもしない。そんな有栖川の言葉に甘えることにして魚住は現場を離れた。