主人公の名前も同じですけど、名前だけの別キャラです。
白玉楼の日常的騒動
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この日記は魂魄妖花の日記です。
幽々子様と閻魔様以外が覗き読みしていたら、全力で首を刈りに行くので、悪しからず。
特にお父様は念入りに獲りに行くので、ご注意を。
始めに、この日記を見ているかもしれない幽々子様のために自己紹介します。
私の名前は魂魄妖花です。この名前は両親から一文字ずつ貰って着けてもらいました。『妖』が妖忌お父様。『花』が謳花お母様です。
正直『妖』の字は要りません。
行く行くは武勲を立てて、幽々子様から一文字頂いて『幽花』に改名したいです。フラワーマスターとか呼ばれて粋がっているオバさんと被るようですので、何時か消します。
私のご主人様はそのお名前を西行寺幽々子様とおっしゃいます。
素晴らしいご主人様です。いずれは幽々子様のご尊名が三千世界にあまねく轟くことになるでしょう。そうなればあらゆる人間妖怪神悪魔が幽々子様に膝を突き、至上の統治者の元で真の平和が訪れるのです。
藍様も紫色のオバさんより幽々子様の方が自分の主に頂くに相応しいお方だと気が付き、鞍替えしてくださるに違いありません。
藍様は私の妖術のお師匠様です。
素晴らしい尻尾です。
私には夢があります。沢山あります。
先ず一番に、強くなりたいです。そして、『西行寺幽々子四天王』の最弱ポジションから脱却するのです。「奴は我等の中では最弱・・・。幽々子様の顔に泥を塗った塵よ。」と言われる側から、言う側に成り上がるのです。
そして、良いお嫁さんに成りたいです。相手が幽々子様なら最高ですけど、女同士じゃ子供が作れないので、正室は無理。となると、妾か愛人が限界でしょう。ですけれど、愛があるなら問題ありません。大丈夫です。
最期は幽々子様の腕の中で迎えたいです。敵の凶刃から幽々子様を庇い、ご主人様に抱かれながら忠臣としてその生涯に幕を引くのです。
若しくは幽々子様の大きなおっぱいで窒息死するのも一向に構いません。むしろそっちが良いです。幽々子様の胸、もとい手に掛かるなら、いつでもウェルカムです。半人半霊の身の上ですので、一時間は酸欠を耐えて、おっぱいを堪能できる自信があります。
そもそも、半人半霊が死んで何になると言う話ではあるのですがね。肉がなくなるだけでしょう。不便ではありますが幽々子様とお揃いの亡霊になるのも、光栄なことです。
私の白玉楼(幽々子様のお屋敷です)での役職は掃除婦です。
なかなか落ちない油汚れから、不届き千万な侵入者まで何でもござれです。綺麗に片付けてご覧に入れます。
勿論、幽々子様の口の周りについた食べかすを優しく取り除くのも、私の役目です。使命です。至上命題です。
私の役職を持ってすれば、幽々子様の部屋に立ち入っても誰にも文句を言われません。
もし幽々子様の布団で眠ってしまっても、「幽々子様のために暖めていました」と秀吉のように惚ければ、誉めてもらえます。さらに、二回に一回は湯たんぽ代わりに使って頂けることもあります。掃除婦から湯たんぽに転職することを本気で検討する今日この頃です。
ちなみに、両親の寝室に侵入してタンスの裏側を探り、見つけ出したお父様の春画を、その日の風呂を沸かす火にくべても、どこからも文句は出ません。出るのはお父様の涙と、とても優しいお母様からのお小遣いだけです。勿論、お父様にはお母様のビンタが出ます。
私にはお姉様が居ます。居ました。居ましたけれど、人里なんぞに嫁に行ってしまって、魂魄さん家の子ではなくなってしまいました。駆け落ちしたのです。
お陰で誉れ高き西行寺幽々子四天王に欠員が出てしまいました。現在藍様募集中です。
最後にちょろっと今日の出来事を書いて、筆をおくことにします。
○○○○○○○○○○○三人称視点→
魂魄妖忌には二人の娘があった。謳忌と妖花である。
妖忌は次女である妖花の教育に苦心していた。これと言うのも、妖花と妖忌の間に横たわる価値観の相違故である。
彼我には覆しようもない違いがあった。
かつて妖忌とその妻は、金払いの良い歌人に門番として仕えていた。一人のかわいい娘にも恵まれ、順風満帆に暮らしていた。
しかし、悲劇は起こった。桜の下で主人が自刃したのである。歌人は多くの弟子を抱えていて、人望も厚かったので、多くの者が嘆き悲しんだ。やがて彼を追って桜の下で自殺するものまで出始める事態に、近隣は騒然となった。
いよいよ新しい主人を探さねばなるまいと妖忌が考え始めた頃のことである。桜が人々を魅せ始めたのは。
───美しい桜の下には死体が埋まっている。
真実その通りになった西行寺の桜は、それはそれは美しい華を咲かせて人々を惑わした。惑った者達は喜んで己の首や腹を掻き斬り、桜に更なる養分を与え続けた。
その血で桜の華はさらに艶やかさを増し、新たに人を惑わせる。
歌人を魅了し、弟子を引き込み、使用人を狂わせ、厨房番を虜にした西行寺の妖怪桜───西行妖は、この段に至って門番とその娘を自害せしめた。
歌人の娘が身を捧げたその日まで──。
人々の魂は西行妖の封印以後もその幹に縛られ続けた。妖忌は稀薄な意識の中で事の推移を見守り続けた。
亡霊へと変じた少女。彼女を助ける紫色の妖怪。館は冥い国に移され、名を白玉楼へと改められた。
ある日の事である。歌人の娘が気まぐれでも起こしたのか、西行妖から三つの魂を掬い上げた。
夫と妻と娘。門番と童女。無力な三人の人間達。
奇しくもそれは、妖忌とその家族だった。
不得手ながらも、生命を意のままにするその能力でもって、不完全ながらも妖忌達三人を甦生してみせた歌人の娘───否、西行寺幽々子に三人は感謝し永遠の忠誠を誓ったのであった。
話が長くなった。重要なことは唯一つだ。
三人の半人半霊はかつて人間だった。対して末娘は生まれながらして半分の死を背負った、正真正銘の妖怪なのである。
死したが救われ、半分の生を賜った三人。生まれた時から半分殺された一人。
結果は同じように見えて、この差はあまりに大きいのだ。
差違は当人達も知らぬ間に、隔意を産み出す。そんなものが育児に良い方へ作用する筈など、無いのである。
そうして、自らと違う家族に囲まれて育った少女はというと──────
今日も元気です(笑)。
庭を楽しそうに駆け回る、見た目年齢八歳くらいの少女。その手には春画。清らかな乙女がしなやかな裸体をさらして、北欧の伝承に登場しそうな巨大ダコの触手に絡め取られる、という現実でお目にかかるのはまず不可能だと思われるシチュエーションを描いた、何ともアレなヤツである。
彼女を追いかけるのは父の妖忌だ。そこに「父娘で鬼ごっこだよ♪るん♪るん♪るん♪」みたいな和やかな雰囲気は欠片もない。
妖忌の目は血走っていて、控えめに言ってもヤバイ人である。控えなくて良いなら、彼の走り行く先は処刑台にちがいない、と思わせるくらいに鬼気迫った表情だった。ラストスパートをかけているメロスでもまだましな顔をしているだろう。
繰り返す。妖花は今日も元気です。
というか、生まれてこの方元気でなかった日はない。
ぶっちゃけ、
えっ?他との違い?そんなんあって当たり前じゃないですか。みんな違ってみんな良いんですよ、そんなことも知らないんですか。ちょっと器が足りないんじゃあ、ありません?即刻隠居して家督を私に譲ることをおすすめしますよぉ。お・と・う・さ・ま☆ってなもんである。
知らぬは父ばかり。
妖忌だけは未だに娘がぴゅあぴゅあな純心乙女だと信じているのだ。
お前の秘蔵の春画をさんざん盗み見た娘が、初心なまま育つ分けねーだろ。ボケ。
つーか、幻想郷で差違を感じない場面など無い。
「妖花あぁぁ!それだめだから!ほんっっとうおおぉぉぉにぃ!駄目なやつだからぁぁぁぁ!返してプリィィッズ!!」
「駄目なのはお父様ですよばーか。嗜好も表情もダメダメです。さて、今日の捕り物を幽々子様に献上せねば。」
「それはマジでやめて給料に響くー!」
走る娘。走る父。
娘の尻を追いかけるのも良いが、妖忌よ、君はそろそろ妻の冷たい視線に気づくべきだ。ほら、今にも去勢されそうだよ君。
汗と涙で滲む視界に、妖忌は思った。
やはり、妖花と自分の価値観には大いなる隔たりがあるのだと。
女に、男のロマンは解らないのだと。
わかってたまるかボケ。
○○○○○○○○○○日記→
────斯くして幽々子様にお父様秘蔵の一品を献上した私は、頭を撫でて頂いて、お父様の給料から差し引いた一貫文をお小遣いにいただいたのでした。
ちゃんちゃん。