魔法の杖 made of 西行妖   作:縁々

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 1234に分けた方が良かった、ってくらい長くなってしまった・・・・・。
 結局日曜には間に合いませんでしたね・・・・まあ、皆さん、予想はしていたでしょう。『こいつ、まぁた遅れるパターンだな』と。

 案の定ですよ。

 いや、本当に悪気があった訳じゃないんです。純粋に作者の力量不足が招いた悲劇なのです。
 そこだけは、わかっていただきたい。

 では、どうぞ。


魔法の入口(後)

 一先ず、表紙に書かれた文字は全て解読した仲良し二人組であった。

 いよいよ次は本文である。のだが───

 

「それで、どうやって読めば良いんですか?というか、ほんとに読み物ですか?これ。」

 

 解読に疲れるにつれて、段々ありがたみが薄れてきた魔導書の表紙を、欠片の遠慮も無くばんばん叩いて示す妖花。

 念のために確認しておくが、これは親友の物とはいえ、他人の物には違いがない。それを叩くのは、あまり誉められた行いとは言えぬであろう。

 とはいえ、当の持ち主と言えば、この本に手首切断未遂の恨みがある。むしろ推奨する勢いであった。現に、彼にしては珍しく、道具を手荒く扱う妖花を責めることはしなかった。

 そもそも、この紅い悪魔を道具にカテゴライズしていいのか、という根本的な疑問もあっての事ではあるのだが。

 

 妖花の質問に、持てる情報で答える。

 

「うーん。能力で見る限りだと、用途は『記録の蓄積、閲覧』で間違いないよ。」

───『けしかける』とか、変な用途もあったけど、黙っておこう。

「肝心の使い方は?」

「はっはっはっ。僕の能力で、判るわけがないだろう。」

 

 『道具の名前と用途が判るようになる程度の能力』に、使い方を判別する機能は搭載しておりません。ご了承ください。

 おどけるように言った霖之助に、妖花は溜め息を一つ。

 

「使えねー。」

 

 小馬鹿にしたような態度に少しカチンときた霖之助は、大人げなくも対抗した。

 

「そう言う妖花こそ、能力で使い方がわかったりしないのかい?常々、自分の能力がいかに素晴らしいか、僕に語ってくれてたじゃないか。」

「何言ってるんですか?霖之助の能力と、私の能力じゃ、畑が全然違うじゃないですか。常識で考えれば────」

「素直に出来ないって言えよ。」

 

 

 ここで一つ、幻想郷の社会で生き抜くに辺り押さえておくべき重要な知識を、読者の皆様にお教えしよう。

 

 人の能力を馬鹿にしてはいけない。

 

 能力というモノのおおよそは、その個人のアイデンティティが形となって現出したものと言って良い。その性質上、能力者になる者は総じてキャラが濃いが、そこはほら、ご愛嬌というものである。

 とにもかくにも、人の能力を馬鹿にしてはいけない。それは相手の個性を否定するに等しい行為なのだから。

 現に、ほら、気のおけない仲であるはずの二人は、戦争勃発も寸前になっているじゃないか。

 

 

 身長差を活かして見下ろしてくる霖之助。妖花はふわりと浮かび上がって見下ろし返す。負けじと霖之助も、覚束ない浮遊術で対抗した。

 上がる、上がる、上がる。

 上がりすぎて、二人仲良く天井に激突、落下した。

 

「「ごはっ!?」」

 二人仲良くばたんきゅー。

 

 馬鹿の所業であった。

 

 日本国憲法に照らして言えば、この二人はとっくに成人。霖之助に至っては、老衰を二桁の数経験していても、何ら不思議ではない(よわい)である。その事を念頭に置いて、もう一度この一連の流れを観察してみよう。

 

 何処からどう見ても、馬鹿の所業であった。

 

 質量の大きい霖之助の方が、妖花よりダメージが大きかったので、自然、拳を先に繰り出したのは妖花だった。無論、手加減はしている。本気で殴れば親友が肉塊に変わることくらい、妖花でなくとも推測することは容易いからだ。

 妖花にとってこの喧嘩は、ただのじゃれあい。お遊びであった。

 

 ()れど、霖之助にとっては軽く命の危機である。

 

 (かつ)て、霖之助は見た。素手で大木をへし折る童女の姿を。

 聞いた。親友に片手間で打ちのめされた小妖怪の、憐れな叫びを。

 感じた。今より幼かった頃の妖花のハグが、自身の内蔵を圧縮する感覚を。

 

 霖之助には、妖花の拳一つで昇天する自信があった。

 

 普段、居間風呂トイレ寝室の間を行き来する目的以外で滅多に動員しない筋肉たちに、問答無用で赤紙を叩きつけて、戦場へと強制徴兵する。

 妖花の鉄拳の回避に専念する。右右左、バックステップからのスライディングで妖花の後ろへ。

 妖花の攻撃の合間を縫って突進してくる半霊がうざったかったので、尻尾を掴んで振り回し、遠心力の働くままに遠くへ放り投げた。大丈夫だ。妖花の一部とはいえども、あれには痛覚が通っていないのだから、幼女を暴行したことにはならない。筈である。

 

「おのれ、猪口才な!」

 

 猪口才。小才があって、生意気なこと。今日日(きょうび)聞かない単語である。

 霖之助の長い人生の中で、この単語を使う人を見るのは、初めての経験だった。

 因みに、妖花に追い回されて命の危機に晒されるのは、何度も経験済みである。

 

 いよいよ部屋の角に追い詰められようという直前になって、霖之助は床に散乱する道具の中から、盾に使えそうな物を拾い上げた。

 一際大きく妖花が振りかぶるのを、霖之助の目は紅い盾に大部分を占められた視界の端で、捉えた。

 小さな拳が風を切って直進して盾に炸裂し、

 

「ぐえっ!?」

 

 と、大きな悲鳴を上げた。

 

「「ぐえ?」」

 

 二人は揃って首を傾げた。

 拳が悲鳴を上げた?いや、そんな筈はない。妖花の拳なら成人男性の百人や千人を殴り飛ばしても音を上げないだろうし、そもそも『◯◯が悲鳴を上げる』というのは比喩の話であって、本当に啼くのであれば、今頃霖之助の足は悲鳴の大コーラスであろう。

 では何が悲鳴を上げたのか。殴った拳でないのなら、殴られた盾に違いない。

 霖之助がいつの間にか閉じていた目を開けると、そろそろと盾から拳を引き剥がす妖花の姿が見えた。

 何やら見覚えのある、というか、二日に渡って嫌というほど見続けざるを得なかったお札が、数十枚と、宙を舞っていた。

 改めて、盾に意識を向けてみた。

 

 悪魔的な悪の魔導書だった。

 

 痛そうに呻いている。ごほごほと咳き込んで、紙屑なんかを撒き散らしていた。

 一歩間違えていたら自分がこうなっていたのだと思うと、霖之助は戦々恐々とした。何となく脱力してしまって、手から盾が滑り落ちた。

 

「ぐえっ」

 

 薄汚い床に這いつくばって痙攣するその様は、何だか哀愁を誘った。

 見るからに不幸な彼(?)に不幸の追い討ちをかけようとする影があった。妖花である。

 肺(有るのか定かでない)から押し出された空気を取り戻さんと、大きく開けられた本の口、というかページ?の上顎と下顎を掴み、力任せに引き離して固定した。

 180度に開かされた口。人間ならとうに顎が脱臼している頃合いであろうが、本だからそこのところは心配要らない。

 強引にこじ開けられた口の中には、当たり前といえば当たり前なのだが、ページがあった。

 

「捲ってください。」

 

 悪魔よりも悪魔らしい半人間が言った。

 霖之助は困惑した。

 

「は?」

「ページですよ。捲ってください。」

 

 この悪魔は、悪魔的な本の凶悪な口に手を突っ込めと、そう、霖之助に命令したのである。

 数瞬の間、霖之助は逡巡したが、なんとか覚悟を決めて、ページに手を伸ばした。救急箱をどこに仕舞ったか思い出しながら。

 

「離すなよ。絶っっ対離すなよな!」

「え?フリですか?それともほんとに言ってます?フリというなら、あなたの意思を尊重しましょう。友のためなら、手首をはねるに吝かではありませんよ。私は。」

「絶対離すなよ!」

「だからそれはどっちの意味で・・・。」

 

 昭和初期にダ◯ョウ倶◯部ネタは前衛的すぎた。霖之助に分かる筈がないし、そもそも彼は今緊張の極地に居て、妖花のボケを聞くどころではない。

 地雷を掘り起こすがごとき慎重さでもって、霖之助は扉のページを捲った。

 そうして現れたのは目次だった。膨大かつ多様な文字が二人を出迎えた。アルファベット。楔型文字。ルーン。漢字、ひらがな、カタカナも有った。

 妖花が読める範囲で音読した。

 

「『アーサー王物語』『吟遊詩人ビードルの物語』『学問のすゝめ』『古事記』『竹取り物語』『幻の動物とその生息地』『真説マホウトコロ』『我が闘争』『平家物語』『深い闇の秘術』『三國志』。何だか、ちょくちょく聞いたタイトルがありますね。」

「魔導書成分薄いな。」

 

 どうやら霖之助の言葉が気に触ったらしい。本がにわかに暴れだす。

 

「がふっ!げこきぎらだ!」

 

 正直、雄叫びがキモい。

 

 妖花は力こそ強いが、体重は華奢な少女のそれであるので、暴れ狂う本の動きを制限することが難しくなってきた。援護を頼もうと、霖之助の方を見やると、手首を噛み千切られまいと、とうに部屋の角に退避していた。

 このチキンめ。

 こうなれば、やる仕方なし。妖花は奥の手を使うことにした。即ち、片方の手を本から離し、握りしめ、本が閉じようとする前に振り降ろした。

 生々しい音を発てて、数本の牙が宙を待った。誰あろう、悪魔的な悪の魔導書の牙であった。

 

「あーあ。ページに血が付いちゃいました。だから、これはやりたくなかったのに。本さん本さん?次、暴れるようなら、その時は(ヤスリ)でご自慢の牙をごりごりしますからね。イッテルコトワカリマスヨネ?」

 

 本は沈黙をもって肯定した。

 

 この時、本と霖之助の心は一つだった。

 戦慄。

 ピクリとも眉を動かさずに牙をへし折った行動もそうだが、注目すべきは彼女の拳である。傷一つ無い白魚のような指が見える筈だ。驚くべきことに、鋭利な牙を殴り付けたのに、ノーダメージなのである。

 悪魔的な悪の魔導書は思った。前の主人の扱いも相当なものだったが、今回は尚更だ、と。

 霖之助は思った。妖花に喧嘩を売るのは、金輪際やめにしよう。死にかねない、と。

 二人は学んだ。妖花に逆らってはいけないと。

 

「霖之助。」

「はい?!何でしょうか!」

「ん?なにその口調。まあ、いいです。この本貰って宜しいですか?勿論お礼はしますよ。」

「勿論良いです!じゃなくて、良いよ。僕が持っていても、もて余すだけだろうからね。お礼はいらないよ。厄介払いができて、僕の方こそお礼がしたいくらいさ。それに、本も妖花に持っていてもらった方が、喜ぶんじゃないかな。」

 

 そんな筈はない。

 

「そうですか。じゃあ、お言葉に甘えますね。」

「うん。あっ、それと妖花。」

「何ですか?霖之助。」

 

 霖之助は妖花の右頬をを示した。

 妖花が頬を左の手の甲でぬぐうと、そこには赤色が。

 

「あ、血。私うっかりしてました。返り血を受けてしまうなんて、お父様の弟子失格ですね。鍛え直さないと。」

 

 それ以上どう強くなろうと言うのか。

 本としてはむしろ弱体化してほしいところである。己の平穏のために。

 霖之助も反応に困ったが、表面上は平然とすることを勤めて、提案した。

 

「洗面所を貸そうか?」

「いえ、お構い無く。私そろそろ帰りますね。もう外も暗くなってきました。お夕飯の準備をしないと。」

 

 妖花が僅かに妖気を動かすと、頬に付いていた血がすう、と空気に溶けた。ああ、そうだった、彼女には自慢の能力があったのだった。

 

 玄関まで妖花を見送る。ついでに憐れな魔導書も見送ってやらんでもない。

 妖花は自分の丸い下駄を履いてから、霖之助に向き直った。

 

「今日はありがとございました。楽しかったです。」

「こっちこそ、助かったよ。あー、それと、その本なんだけど──」余りに魔導書が落ち込んだ様子なので、あわれに思って、「──あまりいぢめないでやってくれよ?貴重な本に変わりはしないんだからね。」

 

 妖花は胸を張って。

 

「こいつの出方次第ですね!」

「はは、妖花らしいね。」

 

 扉を開ける。

 妖花は家を出て、最後によくわからない言葉を残した。

 

「あ、そうそう。そのまま人里なんかに行っちゃうのは可哀想なので、言いますけど、一度鏡を見た方が良いですよ。きっと笑っちゃいますから。ほんと、あと少しでお仕舞いだったのに、惜しいですね。それじゃあまた今度。」

 

 

 

 

 よくわからないまま、妖花の言葉に従って、洗面所まで足を運んだ霖之助である。

 洗面台の上、壁に固定された鏡の前に立って、我が目を疑った。

 

 カモメのような形になって繋がった、二本有ったはずの眉毛。額の中心で、存在感を主張する『肉』の一文字。目の下の隈は自前か。鼻の頭が何故か黒い。そして、豊かな髭が右側だけ穏やかな曲線を描いてカールしているのに対して、左は描きかけなのか、寂しいちょび髭である。

 

 カオスなまでに落書きされた自分の顔が、鏡に反射していた。

 

 あまりの衝撃に、霖之助は思い出した。それは今日の一度目の目覚めの記憶だった。

『「ちっ。起きてしまいましたか。」幼女こと妖花は手に持った棒状の何かをへし折りつつ「あと少しで仕舞いだったのに。」と、不穏なことを言う。』

『棒状の何かをへし折りつつ』

『棒状の何か』

『棒状』

 

『棒』

 

 あれ筆か!!!

 

 妖花が筆を持っていたと言うことは、つまり、

 

「ちょっっとおおおぉぉぉぉ!!??妖花、おま、なにしくさってんのおおおおぉぉぉぉぉ!!??道理で顔が痒いと思ったよ!というか、気付けよ僕!!!」

 

 霖之助の慟哭に答えるものはいなかった。

 

 

 さあ、霖之助の顔が大惨事だったことを踏まえて、もう一度最初から読んでみよう!

 

『森近霖之助より司令部へ!我、退避せり!退避せりぃ!』←変顔

 

『仕事だっっっ!!!』←変顔

 

『ふむ、名称『悪魔的な悪の魔導書』。』←変顔

 

『はは、妖花らしいね。』←変顔。

 

 きっと面白いよ!

 

 

 

 

◯◯◯◯◯◯◯日記→

 

 

 

 あーーーおもしろかっっった!!!

 

 霖之助のあの顔!

 笑いをこらえるのが大変でした。またいつかやりましょう。今度はお父様にでも。

 

 

 そうそう、今日手に入れた例の本ですけれど、とんでもない掘り出し物でした。

 

 あの本──悪魔的な悪の魔導書では長い上にダサいので、これからは『赤本』と呼ぶことにしましょう。

 

 霖之助は赤本の用途を『記録の蓄積、閲覧』と言っていましたけど、この『蓄積』が()るものでした。

 どうやらあの本『悪魔的』と銘打っていますが、実際は的もなにも、本当の悪魔だったようです。私は生憎(あいにく)西洋の怪物には明るくないのですが、どうもこの悪魔はバクのように知識を貪るタイプの怪異らしいのです。

 

 『書籍を食らう程度の能力』とでも言いましょうか。

 

 赤本の大きなお口に、父様秘蔵の春画をぶちこめば、あら不思議。目次に、読むも憚られる項目が一つ増えたではありませんか。

 そうです。赤本には食べた書籍の情報を記録する能力があったのです。正確には本と言わず、紙媒体ならなんでもござれの、ステキブックです。

 

 私、ちょー気に入っちゃいました。折れた歯を直してあげちゃった位には、気に入ってしまったのです。

 

 能力そのものは、河童の技術で再現可能な程度の物ですが、こちらは自由度が違いますよ。何て言ったって、思考機能付きですからね。

 牙と心を粉砕して屈服させた今の彼は、私にどこまでも従順。私のお願いはすぐに叶えてくれます。

 私が読みたいページを開いてくれます。外来語の書籍を日本語に訳してくれます。お父様の春画を食い漁ってきてくれます。

 便利です。

 どれだけ難解な本も、この子に食べさせれば、解説をつけたりしてくれるのです。栞も要りません。実は封印がない状態なら、浮遊できるので、持ち運びもらくちんです。

 本当に良いものを貰いました。お礼に、当分は霖之助で遊ぶことは控えてあげましょう。私って優しい。

 

 

 実は、この日記も、赤本に取り込ませたものの一つです。これで、お父様に盗み読みされても、平気ですね。赤本が、噛み千切ってくれるのですから。

 

 

 

 それでは、今日も楽しい一日を過ごせたことを、幽々子様に感謝して、筆を置くこととしましょう。

 

 我が一日に、一片の悔い無し!




2016/12/14 誤字修正しました。報告してくださった方はありがとうございました。

2018/4/2 誤字修正しました
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