Fate Zero After ##   作:焼肉大将軍

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プロローグ
終わりの景色


 

 見よ、蒼ざめたる馬あり。これに乘る者の名を死と言ひ、陰府、これに隨ふ。

 かの者、疫病と野獣を率い、地上に死を落とす。人々、これにあらがう術なくて皆死ぬべし。

 

 

 聖杯だったモノより洩れ出でた炎が空間を蹂躙していく。

 その足元の血溜りから這出た闇よりも猶暗い亡者の軍勢が炎に巻かれ、焼かれながら隊列を成す。血溜りが一際大きくボコリと膨らみ、白い物が見えた。

 それは骨だ。動物の頭骨である。それに絡み付いた炎がその鬣となり、血がその肉となる。その青白き馬は主を背に乗せ起き上がった。

 血溜りは一層黒々と深まり、大きく拡がっていく。周囲には死の臭いが満ち、腐肉と炎で出来た亡者の軍勢は見る間にその数を増していく。次第に産み出されるのは亡者だけではなく、獣や蟲、悪霊や魍魎が混ざり始め、悍ましき瘴気を辺りにばら撒き始めた。

 一呼吸で臓腑を爛れさせ、ありあらゆる生命の存在を許さぬ魔風である。

 その姿は正に黙示録の再現であった。

 亡者の主が笑う。人の形をした炎が笑っていた。

 

「クク、ここに我が悲願は成就せし。全ては決し、受肉は成した。下らぬ結末など、何度でも引っくり返してやるさ。今、これより、この地より、侵略を開始する。今度はこの天地の果てまで全てを塗り潰してくれよう。貴様もその礎と為れ、ライダー」

 

 死を駆る炎に対するは、有角の霊獣を駆る赤銅の英霊とそのマスター。

 炎は笑ったが、彼等は笑わなかった。

 

「させると思うか、アヴェンジャー」

「これで終わりだ。アンタはここで止める」

 

 星の名を持つ霊馬に跨ったライダーとマスターたる魔術師が口々に言った。

 対峙した彼等は各々の腰の武器に手を掛け、暫し睨み合う。

 炎が世界を焼く音だけが周囲に響く。死がアヴェンジャーの放つ熱波に乗って周囲に拡がり、その足元から滾々と湧き出る亡者の数は今もって増すばかりである。時間と共にアヴェンジャーの優位は確固たる物に成ろうとしていた。

 

「この瘴気、坊主、大事無いか?」

「心配するな。こちとら水銀使いだ。毒の扱いは手馴れている。今度は降りないぞ、僕は」

 

 真っ直ぐに敵を見据えるマスターにライダーは満足そうに笑った。そして、

 

「ふん、そんな事、分かっておるさ。ハッ、では征くぞッ!!」

 

 咆哮と共に、ライダーが仕掛ける。霊馬が主の意思に従い地を蹴り駆けた。と同時に、アヴェンジャーの放った五つの矢が空を切って飛来する。アヴェンジャーの息をも吐かせぬ五連射撃だ。音速を超過した火矢は炎の軌跡を空に残して、ライダー達へと迫った。

 その様、その威力は正に流星の如し。しかし、対するライダーの一刀は、稲妻の如き鋭さで迫り来る火矢を打ち払う。

 初矢をライダーが切り払うと同時に、霊馬がその駆ける軌跡を変え、続く二矢を掻い潜る。ライダーの外套を貫いた次の一矢がそのままビル壁を貫いて夜の闇に消え、最後の一矢をライダーは返す刀で切り払う。

 そこで、アヴェンジャーがその笑みを一層深くした。

 その笑みの意味に気付く間があったかどうか。切り払った矢と全く同じ弾道、その影に隠れる形で撃ち出されていた不可視の六射目が彼等へと迫っていたのである。矢は吸い込まれる様にライダー、そしてその前に跨る彼のマスターへと向かう。一刀を振るった直後の隙を射抜く神業を前にしては、さしものライダーも回避は不可能であった。

 しかし、その絶死の瞬間を前に、彼等に一切の動揺は無い。

 既に、魔術師ウェイバー・ベルベットの詠唱は完了している。

 

「Fervor,mei Sanguis ――滾れ、我が血潮」

 

 突如彼等の前に出現した鈍色の盾に弾かれ、流星はその軌道を逸らした。それはウェイバーの魔術に拠って圧縮された呪操水銀の盾である。同時に、

 

「今度はこちらから征くぞッ!!『■■■■■■』」

 

 ライダーが吼えると同時にその手の剣を一閃し、その剣の延長線上の全てを両断する。真名解放された宝具による斬撃である。ウェイバーの呪操水銀の盾で出来た死角から、それは亡者の軍勢を両断しながらアヴェンジャーへと迫った。

 

「クク、クハハッ!! 良いぞ、抗って見せろ。俺はその全てを踏み潰してやろう」

 

 アヴェンジャーの駆る冥馬は戦慄くと、迫り来る斬撃が彼等を両断せんとする刹那、地を蹴って跳躍する。結果斬撃が薙ぎ払ったのは亡者共と跳躍した冥馬のその影のみ。

 着地と同時に体勢を建て直し、即座にアヴェンジャーは弓を掲げて反撃に出る。否、出ようとした。しかし、その時にはライダーは接近を終えていた。彼の駆る霊馬ブケファラスの踏み込みは正に神速。

 着地でアヴェンジャーの体勢が崩れた瞬間、横合いを駆け抜けつつ、交叉と同時に繰り出される一刀は最早回避も防御も不可能である。しかし、その刃が届く事は無い。

 ライダーが決着の刃を振るわんとした時、空中より四つの影が落ちた。

 空中より落下した一騎の英霊がその勢いのままに振るう戦斧の一撃に、咄嗟に主を護るべく逆袈裟の斬撃をライダーが合わせて止める。しかし、拮抗は一瞬。戦斧の主ごと敵を屠らんと空中から矢の雨が降り注いだ。

 

「Fervor,mei Sanguis ――脈動せよ、我が臓腑」

 

 詠唱と同時にウェイバーは腕を掲げる。その鈍色に輝く腕が空中より飛来する二十余の矢の雨を映すと、同時にその袖口から空中に二十余の銀光が奔った。それは中天を逆様に、地より立ち上る矢の雨を描き出す。

 降り注いだ矢は人間の動体視力を遥か凌駕する速度であった。しかし、ウェイバーが繰り出したのは、水銀鏡を利用し、その鏡面に映した物を呪操水銀にて自動的に再現する迎撃魔術である。

 問題は、その威力。矢の雨は水銀で出来た模造品を易々と貫いて獲物へと迫った。英霊による攻撃である。ただの魔術師であるウェイバーに凌げる道理は無い。

 しかし、水銀の矢を貫いた事で一瞬、その速度が僅かに落ちた。その一瞬に、霊馬ブケファラスの神速は矢の雨を置き去りに駆け抜ける。霊馬の影を追って、矢の雨が一帯を蹂躙し、その矢に貫かれ蜂の巣となったトラックが大きく跳ねて炎上し、砕かれたアスファルトの破片が宙を舞う。

 英霊同士の全力全開。出し惜しみ無しの最終決戦。

 その何と凄まじき事か。周囲の被害とは裏腹に、彼等は未だ互いに無傷なのである。

 ライダーとアヴェンジャーは再び距離を取って向かい合った。

 

「やはり、貴様は余の全力を以って打ち砕かねばならん様だな」

「それはこちらの台詞だ、征服王。来るが良い。奪い尽くして、殺してやる」

 

 彼等は互いに獰猛に笑い合い、互いの宝具を解放する。

 

「集え、我が同胞!! 余と轡を並べし勇者達よ!! これぞ征服王イスカンダルたる余が誇る最強宝具『王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)』なり!!」

 

 ライダーが天に吼える。同時に世界が熱砂の大平原へと変質し、そこに立ち並ぶは荘厳なる無双の軍勢。英霊と成って魂を世界に召し上げられて猶、ライダー、征服王イスカンダルに忠義を尽くす伝説の勇者達。時空を超えて彼の召喚に応じる、永遠の盟友達。

 これぞ英霊の大軍勢を召喚するライダーの最強宝具『王の軍勢』である。

 その彼等の心象風景たる熱砂の大平原の中に唯一つ変わらずある異物。

 世界すら焼く醜悪なる炎。

 

「殺し尽くせ、壊し尽くせ、奪い尽くせ、我が走狗よ。この世の地獄を、この世全てを焼き尽くせ『■■■■■■■』!!」

 

 アヴェンジャーが手の中の血塊を握り潰す。そこから溢れた血が濁流と成り、亡者の軍勢へと変質する。爆発的に増殖する亡者の軍勢。血溜りより生まれ出でた悪霊魍魎が跋扈し、魔蟲、魔獣が隊列を成す。そして、この世全ての不吉を孕んだこの魔の軍勢は、真っ向からライダーの召喚した無双の軍勢と相対したのである。

 ライダーとアヴェンジャー。

 向かい合う二騎の英霊。その背後に背負うモノの何と対照的な事か。

 それは共に人のまま人の臨界を超えた彼等の歩み、その生そのものの差異なのだ。

 互いに恐るべき軍勢召喚宝具を持つ彼等の、鬨の声が重なる。

 

「「蹂躙せよ!!」」

 

 ここに、この偽典の聖杯戦争の雌雄を決する決戦の幕が開く。

 

 

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